リアルが忙しく、体調不良が続きまして…。
世界屈指の科学者が集まるI・アイランドの警備はほぼ自動化されており、セキュリティルームなど一部を除いてシステムや機械によって守られる事になっていて、特に非常時には避難誘導から警備・捕縛といったものは警備用のロボットが対処する手筈になっている。
全高一メートルほどの円柱をメインの多脚式のロボット。
如何にもといったごつくて強そうな感じではなく、寧ろ小さくて丸っこいシンプルなロボットなれど、多脚はローラーとモーターによる機動力を持ち、ボディには様々な耐性が付与されているので、文字通り火の中だろうと水の中だろうと問題なく行動が可能。
さらに強度の高い捕縛用コードを射出して危険人物を取り押さえるのもお手の物。
しかしながらI・アイランド全域に配備するとなればコスト面を考慮しなければならず、完全といった防御力と防御態勢は勝ち得なかった為、一定以上の状況下や限度を越した物理攻撃を受けると破損・行動不能に陥る可能性は持ち合わせている。
現在セキュリティルームをヴィランが占拠したがゆえに、本来ならばI・アイランドを守護するのがヴィランの手下となって動いている。
非常階段は隔壁で塞がれた以上仕方が無かったが、峰田が通路への扉を開いたことでセキュリティルームにドアの開閉を知らせる表示が成され、ヴィラン達が把握していない存在がいる事を示唆し、轟に爆豪と切島の三名がヴィランと交戦状態に入っている事から素性は知られた事だろう。
なにせヴィランはセキュリティルームを押えたからには、I・アイランドのシステムにアクセスし放題であり、出入りの際には空港で身元を登録しているのだから、カメラからの映像と照合すれば身元は簡単に判明する。
後は登録されている関係項目を検索すればだいたいの目星はつく。
例えば“雄英高校生徒”など……。
「雄英生か、厄介だな」
セントラルタワーを占拠したヴィランのリーダー“ウォルフラム”は、セキュリティルームに配置した部下より報告を受けて険しい表情を浮かべる。
言わずも知れた名門中の名門ヒーロー校。
学生と言えども狭く門を突破しただけに強個性揃いのヒーローの卵。
事実、戦闘能力の高い部下が三対二と数で負けていたとは言え敗北を決し、起動させた80階の警備ロボットの
その三人もだが他にも上へと向かっている連中も気掛かりである。
向かっている先は当然セキュリティルームであろう事は明白。
ただカメラにちらっと映っただけで、即座にカメラを破壊されたので人数は不明。
全ての階層の隔壁を降ろすと言う手段もあるが確実性に欠ける上に、最悪取り逃がした場合は足元をすくわれかねない。
「100階から130階までの隔壁を開けろ」
『はっ?しかしそれでは……』
「良いからいう通りにしろ」
ヴィラン集団を纏め上げるには力は不可欠ながら、それだけならばセントラルタワーを制圧する事など叶わなかっただろう。
先の不安を残すまいと不確実な手立てを弾いて確実性を選ぶばかりか、すでに脳内では最悪の状況まで思案し始めていた。
セキュリティルームを掌握=I・アイランドを支配したも同然であるが、調子に乗って王様を気取るほどに馬鹿ではない。
警備ロボットという兵力と一般人を人質にしているとは言え、これが絶対的な身の安全を計れる道理がある筈もなく、アメリカで名を馳せるトップヒーローが解決に出向いた日には呆気なく敗れるのは目に見えている。
指示を出したウォルフラムは椅子代わりにラフに腰を下ろしていた壇上から、身長二メートルほどの巨体を起こして立ち上がると周囲に強い存在感と威圧感を無意識にも振り撒く。
顔の大半を鉄仮面で覆っているとは言え、覗く瞳と口元が不穏で怪し気な笑みを浮かべた事で、捕縛されて動けぬが警戒だけは怠っていないヒーロー達は一層強め、来賓の方々は強張った顔を浮かべる。
「アレさえ手に入れば問題はない」
物事には優先順位が存在する。
余裕があれば項目が増える事はあれど、余程の事が無ければ入れ替わる事はない。
そして今回の作戦においては優先順位第一位は変更される事はなく、寧ろソレさえ確保出来れば他がどうなろうが知った事ではない。
例え自身の部下であろうとも……。
セントラルタワーを占拠した人数はそれほど多くないどころか少ない。
元々セキュリティシステムを利用する手筈で作戦を練っていれば、招かれた来賓とプロヒーローが集まるレセプションパーティ会場とセキュリティルームを押えるだけで頭数は事足りるし、警備システムを手中にすればそれそのものが大きな戦力となる。
80階で遭遇したヴィランは戦闘慣れしてはいたが、あの時のヴィラン側に求められていたのは索敵及び80階の再制圧。
一つの階層とは言え広い面積に個性の影響を観ていた植物が多数置かれ、潜むには事欠かないエリアを捜索するには少なく時間が掛かり過ぎて非効率的。
過小評価していたにしても轟達と交戦状態に入るも増援の気配はなかった。
決着がつくまで居た訳ではないが、上へと繋がる道を探して進むまでの数十分はその場に居り、エレベーターの
この事から占拠したヴィラン側に余剰戦力はほとんどなく、万が一の事を考えてプロヒーローがいるパーティ会場から大幅に人員を割く訳にもいかず、陣形確保ややむを得ない場合を除いてこの状況下では戦力の逐次投入は悪手。
セキュリティルームから無理に人員を割く事は出来るだろうけど、セキュリティルームに向かっている事は上階へ移動しているなどから想定は容易く、下手に捜索に出すよりは待ち構えていた方が効率が良い。
―――セキュリティルームに近い階層に入るまではヴィランとの遭遇はないだろう。
むーくんはそれらからそう推測して口にしたが、決して“それまでは戦闘が無い”とか“安心して進める”などの気休めや安堵させる為ではなく、寧ろこれから向こうが執るだろう行動を伝える為の前置き。
目的地が解っているならなるべく相手に不利な場所での待ち伏せ。
戦力は本来ならセントラルタワーを護る筈の警備ロボット。
すでにセントラルタワーは隔壁やシャッターで内外を遮っており、そもそもセントラルタワー以外には占拠の件は知られておらず、内部のプロヒーローは動けない事から投入し放題。
それも200階という膨大な階層と面積を警備・カバーするのもあるだろうが、I・アイランドの警備システムを有するセキュリティルームがある事から相当数が配備されているのは確か。
―――なによりいくら使い潰したところでヴィランの懐が痛む事は無いからな。
冗談交じりに言っていたが誰一人として笑えなかった。
都合が良いとは思っていながらも今日だけはその予想は外れて欲しかったと思う緑谷だったが、130階の実験室に辿り着いたことろでやはり予想は正しかった事を目の当たりにしてしまう。
実験室と言っても実験を行う為の広い部屋が広がっている訳ではなく、実験が行われるだろう場所は眼下に広がっていて、扉の先には他の通路を繋いで上から見下ろす為の三つ又の通路が伸び、その先へ進まねば上階に進む事は出来やしない。
通路の幅は五人から六人は並べるぐらいに広く作られていたが、大半がヴィランの支配下にある警備ロボットがすでに占めていた。
「バレずに通るのは無理そうだね」
「突破するしか方法はないが数が多いな」
「しかも通路では行動や移動が制限される恐れも……」
姿をあまり見せないように注意しながらドア上部のガラスより覗き、周囲を警戒する警備ロボットの群れを視認したのと同時に、耳郎のイヤホンジャックによる収音能力で大まかな位置を把握。
より詳細な個数と位置の情報を手に入れるも戦闘を避けて抜ける道や無し。
突破する他ない訳だがその方法をどうするかだ。
「飯田が俺を放り投げてさ。放電で一気に決着!――とかどうかな?」
「悪くはないんだが耐電性能とかあるか解かるか?」
「解らない。あるかも知れないし、ないかも知れない」
「一体捕獲して解析してみます?」
「時間も無いし下手な危険は冒せない。物は試しと上鳴を囚われの身にする訳にもいかんしな」
「アンタ、また人質になったら扇動に撃たれるんじゃないの」
「俺が捕まる=撃つって構図を定着させんの酷くね?」
「安心しろ。前回と状況が異なって相手がロボットなだけに同じ手は通じないだろう。次の機会があれば驚かせないように合図成りなんなり決めておくとしよう」
「撃つの前提なのかよ扇動!?」
不安定要素から否決されて「良い案だと思ったのに」と軽く不貞腐れるも、雄英襲撃事件での事を思い出した耳郎の一言にツッコみを入れていたらそんな気分も吹き飛んだ。
それだけではなくクスリとだが笑えるだけ緊張が解れる。
ガチガチに緊張や不安を感じているばかりでは行動に移ったところで良い結果が出るとは限らず、解れたのは丁度良いと言えば良いのだけれども作戦そのものが決まってはいない。
「別に制限されているのは俺達だけではない。向こうも一緒さ」
「どういう事?」かと多くが疑問の視線を向ける中、緑谷と八百万だけは再び警備ロボットへと視線を向けた。
答えを聞くよりはまず考えようと思考を巡らし、観察したところである一点に思い至る。
「数が多さを活かせない?」
「ですけど、その分だけ
「包囲殲滅されるよりはマシだろ?なにより一方方向に並んでくれてんだ。イズク、ボーリングした事あんだろ?」
「あるけど……ってそう言う事!?」
「戦いってのは力でねじ伏せるか策を用いるか二択なのさ」
「で、どうする?」とでも聞きた気な扇動の視線を向けられた緑谷はすでにやる気満々といった様子。
今すぐ跳び出しそうな緑谷を見た面々も即座に容易に入る。
扉をいつでも開けれるように手を掛ける麗日に、前に出たら邪魔になるので万が一に備えて即座に援護に入れるように構える飯田、八百万などは即座に創造して支援に入れるように扇動に降ろして貰う。
「ワン・フォー・オール―――フルカウル!!」
全身にワン・フォー・オールを巡らし、これから振るう右手首に触れる。
手首にはメリッサから頂いた腕輪が付いており、起動させると薄い板状に伸びて手の甲から肘辺りまでを巻いてガントレットに姿を変えた。
I・エキスポで解散してからセントラルタワーに入るまでの間に貰った為、メリッサと緑谷を除いて誰一人知らないアイテムに皆が驚く中、突入すべく緑谷は麗日に声を掛けた。
「お願い、麗日さん!」
「うん!せーのッ!」
ドアが開いた事で警備ロボットがカメラを向けるも、すでに跳び込んだ緑谷は先頭にまで迫っており、ガントレットの強度を計る為にもワン・フォー・オールを30%の出力を乗せて拳を振るう。
衝撃と風圧が加わった一撃は直撃した一体どころか周囲の数体を巻き込んで吹っ飛び、扇動が口にしたボーリングのピンをボールが吹っ飛ばす光景に似ていた。
吹っ飛んだ警備ロボットはダメージから通路上に転がるか、吹っ飛んだまま手摺を超えて下へと落ちて行った。
一撃で成功した結果もだが耐えて尚余裕のあるガントレットへの関心が高まるも、立ち止まる余裕が無い事を耳郎によって告げられる。
「左側から新手が来るよ!」
「良し、右の通路へ向かおう!」
一発で片付けた事で支援の準備から移動に切り替え、耳郎の索敵で警備ロボットの増援が向かっている事から飯田が誘導するように道を示し、急ぎながらも列を組んで走り抜ける。
先頭には誘導する飯田で最後尾には八百万を運ぶ扇動、中間は発目とメリッサを残りの面子で囲っている。
どちらかと言えば先頭よりに並んだ緑谷に麗日が驚き交じりに横に並ぶ。
「凄かったよデク君!」
「ありがと麗日さん。これもメリッサさんのおかげです」
「付けて来ていたのね!」
「外し方が解らなくて……」
褒められて嬉しかった半面、パーティに参加すべく準備していた際に外し方が一向に解らず、結局装着したままだった事を言う羽目になって少し恥ずかしそうに頬を赤らめる。
そんな様子―――ではなくてガントレットを扇動が凝視している事に一人を除いて気付いてはいなかった。
シュバっとメリッサの横を走っていた発目が目にも止まらぬ速度で急接近して、お姫様抱っこされていた事から目撃した八百万がその速度ではなく扇動に向けられる感情の読み取れない笑顔に対してびくりと肩を震わした。
「あのガントレットの技術を応用して、
「ナチュラルに心を読むな」
「確かに即時着用出来るでしょうし、
「理解はするが即時着用は憧れ―――コホン、実用的だろう」
「えっと、なんの話かしら?」
「イズクのガントレットの話なんだが……アレって全身を覆う事は出来るか?」
「出来るけど、欲しいの?」
「欲しい。イズクの分も合わせて二着。勿論代金は払う」
「と、とりあえずこの件が解決してからの話ね」
「凄い喰い付きだけどよ扇動。
緑谷も含めて興味津々といった扇動に物珍しさを感じていた矢先の、峰田の自慢げで誇らしげな言動に対して息を呑む。
鼻高々な峰田に対して扇動は否定する事無く「その通りだな」と肯定する。
事件解決を優先して自分は残って味方を先に進ませた轟 焦凍。
偶然ながら八十階で合流する事になった爆豪と切島も轟と共にヴィランへの迎撃。
移動中は音を拾って索敵に努める耳郎 響香。
先程のヴィランに操られし警備ロボットを排除した緑谷 出久。
ここまで上がるまでに誰が一番の功績を挙げているかと問われれば、扇動は間違いなく真っ先に峰田と答えるだろう。
轟の機転により上へと目指す道を探すも通路は隔壁で塞がれ行き止まり。
八方塞がりかと思われたところにメンテナンス用の蓋が天井にある事は発見した。
構造的に梯子を降ろせる筈なのだが問題としては外からではなく内部からしか降ろせないと言う点。
つまり上の階に向かう為には上の階からメンテナンス用の扉を開けて梯子を降ろさねばならないという矛盾。
それを解決したのが八百万の案で通風孔からセントラルタワーの外壁に出て、攀じ登って上階に移って梯子を降ろすと言うもの。
この案はとてつもないリスク背負う事になる。
なにせ80階の外壁を昇ると言う事は、命綱もない状態で手でも滑らせて落ちてしまえば即死。
上手く上階に移ったところでヴィランか警備ロボットを配置されていたら、単独で何とかしなければならない。
そして狭い通風孔を通れる小柄で外壁を攀じ登る事が出来る個性持ちとなれば、おのずと吸着力の高い“もぎもぎ”と一番小柄な峰田以外にいない。
勿論本人は嫌がったが周りからの説得を受けてヤケクソ気味に受諾し、見事その危険極まりない役割を熟したのだ。
峰田が居なければ80階から進む事は出来なかった。
その功績から峰田の発言は妥当で、何も活躍を見せていない自分が役立たずであると扇動もだが、この場の全員が同じ認識は抱いている。
だからと言ってここぞとばかりに言い切った峰田にある意味で感心してしまう。
そんなやり取りをしながらも隔壁による足止めや隔離もされないまま、138階のサーバールームに足を踏み入れたところで、反対側の扉よりぎっしりと警備ロボットが姿を現すばかりか、ルーム内の二階からも多数降って来た。
パッと見だけでも実験室で遭遇した数を優に超している。
「物量で押し潰す気か?正しい戦術だな」
「感心してる場合!?」
「なんとしてもここを突破しないと!」
「待って!サーバーに被害がでたらセキュリティシステムに問題がでるかも」
「そんな……」
壁際に並ぶは人の身長を優に超す装甲の薄いサーバー群。
搬入なども考慮してある程度の広さがあるが、ワン・フォー・オールの出力を考えると力を振るうのは不味い。
されどこの数を相手に何もしない選択肢もなく、どうすると悩む緑谷に扇動は上鳴と八百万を降ろしながら前へ出た。
「個性を発揮し辛いだろイズク。メリッサさんを連れて別のルートを探せ。警備ロボットの足止めはしておく」
「ここは私達が食い止めますので」
「――ッ、案内をお願いしますメリッサさん」
「分かったわ。お茶子ちゃんも来てくれる?」
「え、でも」
「行ってくれ。ここは僕らで持たせるから」
「天哉、お前もだよ」
「なんだって扇動君!?君達だけで――」
「足止めの戦力は最低限で良いんだ。勝つことが目的ではなく時間稼ぎなんだからな。耳郎も連れてけ。悪いが峰田と上鳴は残って貰うがな。発目は―――好きにしろ」
「そうさせて頂きます!」
離れたところで観察するようにしている発目は眼をカッと見開き、事件解決よりも新コスチュームの実戦データの方が優先すべきだと判断したのだろう。
残れと言われた上鳴と峰田は「マジか!?」と驚愕しながらもやるしかないかと強がり、後ろ髪惹かれるように足を止めてしまう飯田と耳郎。
緑谷は一つ頷いて任せたとメリッサや麗日と共に別のルートへと向かう。
響く戦闘音に背中で受けるも振り向く事無く、仲間を信じて自分がやるべき事の為に先へ向かうのだ。
緑谷 出久が離れたサーバールームにて交戦状態に入るも、圧倒的なまでの数の差がある割には早々に決着は尽きそうになかった。
残留した面々が連携して対応しているのもだけど、アシスト機能を起動させた発目制作の新コスチュームは本領発揮した事が大きな要因であった。
振り被った拳の一撃を受けた警備ロボットは鈍い音を響かせながら吹っ飛び、死角を突くように側面に回り込んだモノは振り向きもされずに裏拳で小さな破片を撒き散らしながら転がった。
動きを封じようと捕縛用のテープが射出するも回避されて中々絡め捕るに至らない。
ただし、コスチュームが重いのもあって動きが鈍く、咄嗟にガードしようと出した右腕にテープがぐるぐると巻き付き、引き剥がそうとした左腕にも同様に巻き付かれてしまう。
ほんの僅かだが動きが止まるも完全に抑えるには一体二体程度では不足。
腕に巻き付いているテープを逆に掴むと圧倒するパワーを用いて、テープによって繋がっている警備ロボットを引っ張るだけでなく、振り回した遠心力を使って他の個体に勢いよくぶつけて纏めて破壊する。
数の差は相手が圧倒的でも性能差は、警備目的で量産コストを考慮しなければならない警備ロボットより発目の
さらに正面左右だけでなく後方からも攻めたい向こう側の行動は、峰田の“もぎもぎ”と八百万が創造したトリモチの
「そろそろ頼めるか上鳴」
「おうよ!任せろ!!」
最前線を一人で保っていた扇動と入れ替わった上鳴は、電圧を上げ過ぎないように注意しつつ放電を行う。
警備ロボットは脚部や頭部を胴体に仕舞い込む事で耐電防御を可能とするので、放電による範囲攻撃で一気に殲滅すると言う事は叶わないが、防御態勢に入る事で僅かにながら足は止まる。
そこで扇動は下がった位置より配置を確認して、最も集まっている所へ飛び込んで猛威を振るって纏まった数を減らすを繰り返していた。
数を減らしているが控えているのも含めれば些細な数。
寧ろ向こうは扇動のコスチュームの高い戦闘能力と連携を警戒して、持久戦に戦術を変えて小出しに攻めており、それこそが決着を遅らせる結果へと繋がっている。
扇動のコスチュームは装甲をエネルギータンクにして増強しているとは言え当然量には限度があり、射出機である大砲と弾であるトリモチを創造し続けている八百万も疲弊し、投げ過ぎた峰田は頭皮から血が流れ始め、すでに放電を何回か行った上鳴もダメージが溜まっていつショートしてもおかしくない状況。
唯一元気なのは砲手と務めている発目ぐらいだが、戦闘で使える技術も個性も持ち合わせていない。
向こうの策略に完全に嵌っている実情のままでは勝機は無い。
「扇動さん、このままでは限界点に達してしまいます!」
「永久機関でも無ければそうなるだろうな。向こうもそのつもりで消耗を強いる戦術を取っているし―――厳しいな」
「なら何か策を講じなければ!」
「向こうが集団で攻め込んで来るなら一気に片付けられんだが、こうも小出しにされると鬱陶しい!!」
ピンポイントで警備ロボットの頭部を蹴り壊すも、奥で待機している警備ロボットの数を見て絶望感が増す。
このままではと不味いと八百万は焦るも、すでに彼女自身が限界に達する手前。
身体も悲鳴を上げて疲労から倒れかけるのを、何とか両手をついて支えるのがやっと。
今一人でも欠ければ戦線が崩壊しかねないと踏ん張るも、視界の端で峰田が先に倒れ込んだ事で崩壊を悟った。
「弾がもう有りません!」
「創造の限界が……」
「お、オイラも無理……」
「ちっくしょう!!ここで終われるかよ!」
「無理はすんな上鳴」
「ここで無理しなきゃ男が廃るってもんよ!!」
ダウンした二人の下に警備ロボットを活かせる訳にはいかないと放電で足止めを行うも、疲弊していたのは上鳴も同じなためにそう長い時間発動も出来ずに
放電が止むと防御態勢を解いた警備ロボットが捕縛用のテープを射出して次々と捕縛して行く。
支援がなくなって前後左右より包囲された扇動は孤軍奮闘するも、次第にエネルギーが減少して最後は積み重なるように圧し掛かる警備ロボットに埋もれて行った。
「後は緑谷さん達に託しましょう」
テープを巻かれて動けない八百万はそう口にした。
すでに時間は十分に稼いだことから自分達は役目を果たしている。
捕縛されてヴィランに敗北を喫してしまった事は心の底から悔しいが、最早何も出来ない為に仲間を信じて待つしかない。
八百万の言葉に峰田も上鳴も悔しそうながらも頷くしかなかった……。
「―――キャスト、オフ」
諦めたその時に聞こえたのはそんな一言。
続いて金属同士がぶつかり合う衝突音と甲高い破砕音、そして鈍く落下音の数々。
何が起きたのかと視線を向ければ圧し掛かっていた警備ロボットを全て弾き飛ばし、仁王立ちしているカブト虫を連想させる仮面に真紅が目立つスマートなコスチュームを着た人物。
「扇動………さん?」
「チェンジ、ビートル―――ってな。出来れば機械音で発声させるところまで欲しかったが…」
先ほどの姿と変わり過ぎていた事に戸惑うが、吹っ飛んだ警備ロボットと共に転がっている白い装甲版を見て、エネルギーを追加しているタンク兼外装を破棄しただけで現在の姿こそ本来のコスチュームであり、動きが止まったのは予備エネルギーが尽きただけで本体は十分なエネルギーを有している事を理解した。
打って変るように素早い動きで纏まっていた警備ロボットを次々と破壊して回る様は彼の独壇場。
一気に潰して回るがヴィランも馬鹿ではない。
再び持久戦に持ち込むつもりか距離を取ろうとする。
「扇動さん!ベルトの横のボタンを!!」
「解っている――
言われるがままベルトの側面にあるボタンを叩くと、明らかに扇動の動きが加速した。
コスチューム“カブト”のモデルである“仮面ライダー カブト”は、人間を超越した速度で活動する事が可能な“クロックアップ”というものが可能。
本来なら世界がスローモーションに感じる中で、拘束での活動が可能であるがそこまでの再現は不可能である。
なので代わりに仕込まれたのが身体の動きと連動・予想させた行動支援システムで、搭載されたプログラムが当て嵌まる攻撃・行動パターンから推進剤による速度上昇を計るというもの。
当然自身が予期していない加速がつく為、負荷も相当の物で耐えれる程に肉体を鍛えてなければ使えない品物だ。
早いと言っても機動力特化の飯田と違って、移動では負けるが行動と小回りの速さは凄まじい性能を発揮する。
眼で追うのがやっとの速度で相手の指示が舞い合わない速度で警備ロボットを狩って行き、包囲して集結していた事から力を余すことなく発揮して周囲を残骸の山に化してしまった。
形成を逆転した事実に驚嘆しながらも八百万は不可解な点に気付いていた。
動きが扇動らしくなかったのだ。
勿論推進剤による加速によっていつも以上の行動をしている事もあるだろうが、それでなくて動きが不自然で可笑しかったのだ。
まるで無理にマリオネットを操っているかのような……。
その抱いた疑問は正しく、発目の問いによって解消する事になる。
「どうですか?使えそうですか?」
「完成したらマシだろうがデータ不足だ。想定と違う動きもするし、反動で手足が千切れそうだ!!」
「改善の余地がありそうですね!」
「エネルギーも装甲タンクで補強するのではなく、もっと簡単に交換できる機構が欲しいところだ」
全員の巻かれた捕縛テープを千切って行く扇動を観察してみると、普段通りに歩いている様で若干片足を庇っているのが解り、誤魔化すように平常を装っているのは体育祭と変わってない。
呆れ交じりにため息を漏らしながら捕縛用テープから解放された八百万は、問答無用で支えると動きから困惑が感じ取れたが有無を言わす気はさらさらない。
「倒したと言っても援軍があるかも知れません。こうするのが効率的だと判断しました」
「あー、敗けたよ。甘えさせて貰おう」
「勝ち負けではありません。先ほどのお返しです」
「お姫様抱っこは勘弁だからな。ともあれなんとかなったな」
「う、うぇ~い……」
「上鳴はこれ以上の戦闘参加は無理そうだな」
「おい扇動!そんなのがあるなら早く使えよ!」
「……ふむ、予備戦力ってのを知ってっか?状況に応じて戦線の維持や補強、時には切り札に成りえる戦力でな。状況判断と投入するタイミングってのがあんだよ」
解かったようで解ってないような反応を示す峰田達であったが、八百万だけは何を言わんとしているのかを理解するも、内心に留めて口にするつもりはなかった。
用は扇動は使用するタイミングを計っていたのだ。
あれだけの行動をするには相当のエネルギーを消費するのは必定で、明らかに短期決着用のシステムだろう。
相手が戦力を小出しにして持久戦を徹底していれば意味はなく、望ましいのは警備ロボットが一塊に近い状態に集結している時だ。
つまり扇動は相手が殺害を含んだ排除ではなく捕縛を目的に行動していると判断し、少しでも不安定要素を排除しようとギリギリまで数を減らしながらも、限界に達して捕縛されれば指示を出していたヴィランは油断を晒して、捕縛・連行の為に警備ロボットが集結する事を織り込んで、外装のエネルギーが尽きた先程のタイミングで発動したという事。
合理的ではあるのかも知れないが友人を、クラスメイトを、仲間を、自分自身すらも囮に織り込んで行った行動に何も想わないなんて事は出来ない。
「扇動さん、この件が終わったらお話があります」
「心して伺うよ」
「合理性や選択の有無を問うたりはしないのですね?」
「俺に非が無いなどと口が裂けても言えないし、叱責を受けるだけの選択を選んだからな。それに効率と正論だけで人間関係は成り立たんのは
「オーベル…どなたですか?」
知識を総動員しても思い当たる人物の分からず首を傾げるも、「さぁな」と答えを示さずに笑うばかり。
この状況下では講義も問うだけ時間の無駄。
先ほどの想いと共に心中に留めて、警戒しつつゆっくりながら先へと進む。
階下から徐々に近づいて来る爆音と冷気を感じながら。