十刃になりたかったお姉ちゃん   作:バラフバフ

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第4話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

愛しい家族があった。

 

多くの友も持った。

 

いつしか将来の夢すら抱いていた。

 

そして、それらを失った。

 

しかし、その全てが自分の妄想に沿うよう誂えられたものだったなら

 

 

こんなに馬鹿馬鹿しいことはない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「暑ィ…」

 

7月17日、浅野啓吾は姉のみづ穂に付き合わされ、炎天下の中、長い坂道を歩いていた。

 

「…ウルッサイ!!あんたが暑い暑い言うたびに体感温度が2度上がってんのよ!!黙って歩け!」

 

前を歩くみづ穂から怒鳴られ、押し黙る。

 

今年の6月17日、即ちみづ穂の友人である黒崎美柑の命日は平日であったため、墓参りに行くことは適わなかったこともあり、月命日でかつ休日の今日訪れることにしたのだ。

 

みづ穂は今年受験生で、入試の結果次第では実家に気軽に帰省することも難しくなるため、一度地元を離れる前に訪れておきたかったという事情もある。

 

ふと、みづ穂が前を歩く人物に気づく。

 

「あれ?先客かな」

 

姉の言葉を受けて、啓吾もそちらに目を向ける。

 

「ん?んんー……何か…見覚えがあるような…」

 

メガネをかけた白髪の男性で見るからに上等そうな白のスーツに身を包んでいた。どこか既視感を覚えるも、断定はできず啓吾は首をひねった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

虚夜宮(ラスノーチェス)、現虚圏の実質的支配者である藍染惣右介の居城にて

 

「済まないね、もう少し早く君を同胞に紹介しておきたかったんだが……」

 

「いえ、私も少しやることがあったので寧ろ丁度良かったです」

 

その廊下を和やかに語り合いながら歩く二組の影。

 

一人は城主たる藍染惣右介。

 

一人は新参者である黒崎美柑。

 

やがて二者は一つの部屋の前へとたどり着く。

 

荘厳な扉の前で藍染が美柑へと語り掛ける。

 

「……さ、この先だ。……ところで、君は何番を望む?」

 

「ああ…5番を」

 

「…そうか、君が勝ち取れることを祈っているよ」

 

扉が開かれた先には

 

10体の破面。

 

「待たせて済まない、十刃諸君。今回集まってもらったのは他でもない……新たな同胞を紹介したくてね」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「へー、真咲さんのご友人の方でしたか」

 

浅野姉弟が墓地へと向かう中、前を歩いていた人物と全く同じ方向に向かっていたため、まさかとは思ったが案の定、同じ墓に用があった。

 

何も声を掛けないのも何なので、みづ穂が話しかけると、黒崎美柑の母である黒崎真咲の友人であった。

 

「ええ、毎年この時期に来るようにしているんです……お二人は?」

 

「ああ……えっと、私は美柑ちゃんの友人で…こっちは付き添いの弟です。私が高3で今年受験なんで、来れるうちに来ておきたくて…」

 

「そうですか…受験、頑張ってください」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

みづ穂が彼と話す中、啓吾は未だに既視感の正体を掴みかねていた。

 

(何だ?……やっぱり、どっかで…白スーツか?いや、違うなあ………)

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

虚圏の一角、虚夜宮から少し離れた場所で二体の破面が相対していた。

 

一人は黒崎美柑。

 

そしてもう一人は

 

「……チッ、ナメやがって…」

 

第5(クイント)十刃(エスパーダ)、ノイトラ・ジルガである。

 

藍染から招集を受けた彼、紹介された新参者は見るからに弱そうな子供の破面だった。

 

それだけならば、単にどうでもいいというだけで終わっていたが、

 

「ノイトラ、彼女と数字をかけて戦ってくれないかい?」

 

「は?」

 

藍染から名指しで新参者と殺し合えとの命を受けた。

 

(虚夜宮の外でとの指定があった…ってことはコイツは最上級虚か?………イヤ、コイツからはそれ程の霊圧は感じられねェ…王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)の使用を想定してってトコか)

 

「…こんなガキ相手に本気を出せってのか?

 

「おーーーい」

 

ノイトラの苛立つ思考は目の前から響いた間の抜けた声に打ち切られた。

 

「ああ?」

 

「もう、始めていい?」

 

緊張感の欠片もないその声に、ノイトラは益々怒りを募らせる。

 

「……勝てると思ってんのか、ガキ」

 

「え?勿論だけど?……何か変なこと言った?」

 

結局戦端を開いたのはノイトラだった。

 

「殺す!!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

久しぶりだね、美柑。

 

私はもう高3になってしまったよ。

 

受験勉強ってのは……辛いね。

 

そして未だに理想のボウズには出会えていないよ。

 

……まあ、大学行ったら出会いもあるか。

 

あんたも生きてたら、今頃受験勉強にひいこら言ってたんだろうね。

 

そういえば、私生徒会長なんだけど、あんたが生きていたら副会長ぐらいになってたかな。

 

……あんたが生きていたなら………あれ?

 

何故かあんたがグレて不良になる未来が浮かんできたぞ……。

 

あんたって天才肌であんまり努力とかしないタイプだったから………どっかでドロップアウトしそうだなあ…。

 

まあ、こっちは元気でやってるからさ、心配しないで……

 

 

 

「…長ぇ」

 

啓吾にとって黒崎美柑は憧れの人物でこそあったが、姉ほど親しくもなかったため、何となく居心地が悪かった。

 

姉が長い間手を合わせて目を閉じたままで動かないのを尻目に啓吾は改めて件の人物を見ていた。

 

(白髪?いや、違う……)

 

「……何か?」

 

あまりにまじまじと見つめていたために不審がられてしまったらしい。

 

「い、いえ、すみません」

 

慌てて目を逸らす。

 

しかし、既視感の正体にあと一歩でたどり着ける気もしていた。そして

 

(白髪じゃないな……うーんメガネ?メガネ……ん?…んんん!!?)

 

「ああああ!!!」

 

やっと正体に思い至り、思わず声を上げてしまった。そのままの勢いで件の人物に問いかける

 

 

「あの、もしかして息子さ…「うるっせえ!!!墓地では静かにしやがれェ!!!!」ゴフッ」

 

姉の膝蹴りを受けて、最後まで言うことは適わなかった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

戦いは一方的なものだった。

 

「ハアッ……ハアッ……クソッなんだありゃ!」

 

ノイトラの劣勢という形で。

 

荒い呼吸を繰り返すノイトラの背後の空間に黒い穴が開く。

 

「!くっ」

 

すぐさま回避行動をとる。一拍遅れ、その穴から霊力によって編まれた閃光が放たれ、先ほどまでノイトラが居た場所を消し飛ばす。

 

「ハアッ…ハアッ…」

 

間一髪避け切ったノイトラの背後から間延びした声が響く。

 

「凄ーい!今の完全に隙をついたつもりだったんだけど」

 

「……クソが」

 

ノイトラが先ほどの攻撃を放った相手、美柑を睨みつけるも、彼女は全く意に介さず、自分の能力に関して自慢げに語りだす。

 

「ふふーん、不思議かな?この能力。でも、実は割と単純なんだよねー。黒腔(ガルガンタ)の応用でさ、私のは現世と虚圏じゃなくて現世と現世、虚圏と虚圏を繋ぐわけよ。だからこーやって……」

 

言葉と共に美柑の手元に黒腔が開く。それと同時にノイトラの頭上にも黒腔が展開される。

 

美柑の手元に霊力が集中し、やがて閃光を成す。

 

虚閃(セロ)

 

黒腔を通し、ノイトラの頭上から閃光が放たれるも、再び間一髪回避する。

 

「フフッ、名付けて暁腔(ガルガンタ・デ・オロ)!!カッコいいでしょ!」

 

「…ナメやがって」

 

連続して展開される黒腔から放たれる虚閃を避けつつ、ノイトラは考える。

 

(確かに能力自体は厄介だな……が、奴の霊圧からみても…)

 

「同時に複数展開することは出来ねえみてえだなあ!」

 

ノイトラは避けた同時に一気に相手へと距離を詰める。

 

(避けた瞬間が隙だ)

 

「うわっ!」

 

「終わりだァ!」

 

ノイトラの刃が美柑を捉える

 

が、

 

「なんちゃって」

 

「!?」

 

ノイトラの背後に黒腔が展開される。

 

しかも、先程の黒腔は開いたまま。

 

「ぐっ!」

 

完全に隙をつかれ、なすすべなくノイトラは土煙をたてながら地面を転がる。

 

「あれ?…流石硬いなぁ、一撃じゃ無理かー」

 

美柑は明るい調子を崩さず独り言ちる。

 

ふと、土煙の中から声が響く。

 

「………けんな」

 

「…ん?」

 

「ふざけんじゃねえぞ、クソガキがァ!!!?」

 

言葉と共にノイトラが自身の長大な斬魄刀を掲げる。

 

そして

 

(いの)れ 『聖哭蟷螂(サンタテレサ)』!!」

 

 

解号を唱えた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「はー、やっぱり石田のお父さんでしたか」

 

啓吾の既視感の正体は彼の同級生の石田雨竜に端を発するものであった。件の人物に訊いてみると案の定、彼は雨竜の父親であった。

 

しかしながら

 

「…ちょっと意外でした」

 

「何がですか?」

 

「いや、アイツ、金欠っぽかったんで……」

 

昼食を驕ると聞いて食いついてきた彼の様子から、啓吾はもっと庶民的な親を想像していた。

 

「ああ…………あの子は、今は実家から出て一人暮らしをしていますから」

 

「へ、へえ…」

 

あまり深く掘り下げるべきではないとその話題を打ち切る。

 

その後、何でも無いような会話を少ししてから石田父の方がこの後用事があるとのことで、その場を後にしていった。

 

「……世の中ってのは狭いなあ」

 

近頃しみじみとそう思う啓吾であった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「あー、参ったな」

 

美柑は少し困ったような声で呟いた。

 

黒腔、彼女の言うところの暁腔から虚閃を放つも帰刃(レスレクシオン)により力を増したノイトラには通用しない。

 

複数の腕を駆使し、様々な角度から飛び交う虚閃を弾いている。

 

先程の不意打ちによる虚閃で稼いだ距離も確実に詰められていた。

 

「どうしたものか……。!」

 

「また届いたなぁ、ガキ!!」

 

遂にノイトラの刃は再び美柑の喉元に迫っていた。

 

しかし、

 

「は?」

 

瞬間彼女の頭部が扁平に形を変え、ノイトラの刃から逃れた。

 

そして直後

 

「虚閃」

 

変形した頭部から閃光が放たれた。

 

突然のことにあっけにとられるも、即座に斬魄刀で虚閃を撃ち消さんと構える

 

が、

 

(……なんなんだコイツは…だが、コイツ程度の虚閃で帰刃後の俺…「ガハッ!!!?」

 

再びノイトラの身体は吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

しかも、今回は前回とは比にならないほどの勢いで。

 

「あちゃあー、手元が狂っちゃったな。手加減失敗」

 

美柑は変わらず呑気な調子を見せる。

 

「ゴフッ……な、何が………」

 

ノイトラが自身の身体を確認する。

 

と、

 

「な、何だこりゃあァ……!!?」

 

彼の右腕は根元から消失し、また右脚に至っては腰部ごと吹き飛んでいた。

 

「がっ…ぐああああああ!!!」

 

「ごめんねー…あ、そうだ、さっき形が変わったのはね、絞咽転調(カストラート)って能力で……」

 

得意げに能力に関して語りだした美柑にノイトラが問いかける。

 

「お前、ぐっ…何なんだ……明らかにお前の霊圧と出力に差がありすぎる!!どんなからくりだ、テメエ!」

 

それに対し、美柑は何かを思い出したように手を叩き、笑顔を浮かべながら言った。

 

「ああ、ごめんごめん、対等な戦いを演出してあげようと思ってさ、ちょっと霊圧を誤魔化してたんだ」

 

「誤魔……化す?…演出、だと?」

 

「そ、さっき説明した絞咽転調の応用でさ、見かけ上の霊圧も好きにコントロールできるんだ。

 

じゃ、解除するね」

 

瞬間、戦場に死が充満する。

 

霊力の量もさることながら、その質が明らかに違った。

 

酷く重く、濃い、死そのものを表すかのような霊圧。

 

知らず、ノイトラは震えていた。

 

「あー、でももう、それだけボロボロだと、手加減する意味もないか……よしっ、ちゃっちゃと終わらせちゃおう!」

 

「……ふざけるなよ………ふざけてんじゃねえぞ!!ガキ!!!」

 

気炎を吐き、最後の力を振り絞り、ノイトラは駆ける。

 

そんな彼に対し、美柑は()()()斬魄刀を構えた。

 

 

(いと)え  『噤昧緞帳(オスクリダード)』」

 

 

瞬間、ノイトラの視界が黒く染まった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

こんなガキに

 

ノイトラはそう思わずにはいられなかった。

 

しかし、その酷く冷たい瞳を見て、納得した。

 

ああ、コイツは俺と同じだ。

 

コイツは世界のすべてに絶望している。

 

虚の救いようのなさを知っている。

 

自然と口角が上がる。

 

良かった。

 

虚というものの救いのなさを確信して、

 

死はやはり救いだと思い知って、

 

そして目の前の相手を

 

嘲って死ねるのだから。

 

精々生き足掻け。

 

その虚ろな魂に救いがあらんことを。

 

蟷螂は、祈った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「次来れるのはいつになるかなあ」

 

日が傾き始めた道を姉弟は歩く。

 

帰りは行きと打って変わり、多少涼しかった。

 

「あんた、今年も友達とどっか行くの?」

 

「…それがさあ、全員用事があるとかで断られちまったよ」

 

「……ふーーん…勉強でもしたら?受験なんてあっという間よ?」

 

「…ブルーな気分に追い打ちをかけてくんなよ」

 

ふと、啓吾はこんな会話を、ここに初恋の人も加えた三人でよくしていたと思い出した。

 

 

いつも姉が自分を脅しつけるようなことを言って、そうしたらあの人が姉を窘めて………。

 

ああ、だから好きだったのか。

 

 

特別でもなんでもない思い出だ。

 

しかし少し寂しい気持ちになった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

藍染が徐に口を開く。

 

「おめでとう、黒崎美柑。今より君が第5十刃だ」

 

祝福の言葉を受けるも、少女は

 

「……あの、申し訳ないのですが……その名ではあまり呼んで欲しくなくて………」

 

と、少し言い淀みながら伝えた。

 

「そうかい……では、どう呼ぶべきかな?」

 

すると少女は恥ずかしそうにしながら

 

「あの……ソロミア……

 

ソロミア・テリンガーテル…と、お呼び…ください……」

 

そう、申し出た。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「名前はソロミア・テリンガーテル!でな、能力には暁腔と絞咽転調ってのがあってだな!どっちもToLOVEるの金色の闇を意識している能力なんだが……」

 

あの時、自慢気に語っていた能力設定。

 

その全てが完全に揃っていた。

 

なら、演じよう。

 

妄想の通りに、望んだ通りに。

 

 

 

 

だから、何でもないんだ。

 

初めからこう望んでいたのだから。

 

だから、何でもないんだ。

 

未来が閉ざされたことも、母を手にかけたことも、友を食らったことも。

 

だから、何でもないんだ。

 

私は初めから、ソロミア・テリンガーテルであったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

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