▼「カルデア職員墨村利守(20代後半)と、新入り一ちゃん」(https://syosetu.org/novel/240055/1.html)(ぐだぐだ邪馬台国を1.5部時空と決めつけた前提)と地続きというか同設定の話 リアルプレイでやっと1.5部を終わらせて2部1章に入ったところなんですけど、既に最新までプレイし終わった姉に「パツシィくんイケケモじゃん! どうして誰もあんなイケメンいるって教えてくれなかったの?!」と言ったところ「お前なんで初っ端から地雷踏んでんの?」って言われました なにか……なにかあるの……? これから何が起きるの……?(怯える子ウサギの絵文字)
pixivより転載
本当の終わりは、突然やってきた。
ダ・ヴィンチと共に呼び出されて12時間。より正確に言えば、先に呼び出されたダ・ヴィンチが僕を呼び出して11時間30分。査問会と聴いていたが、実態はAチームの解凍オペレーションのためだった。僕はダ・ヴィンチの助手として呼ばれたのだ。いくら彼女が有能とは言え、動かせる手足は欲しいということらしい。ようやくそれも終わろうとしていた。ふぅ、と思わず溜息を吐いた。隣のダ・ヴィンチはサーヴァントのためか平然としているが、こちとら人間だ。その上魔術師として生きるにはまだ一般人としての常識が捨てられないから薬物にも手を出せない。だから純粋な体力勝負と、あと長時間労働への慣れが僕をこの12時間動かしていた。あぁ、また隈が貼り付いたんだろうな……そう思いながら「コフィン解放まであと3分です」というアナウンスを聞き流す。ゴルドルフが高笑いしてダ・ヴィンチを褒め称えていた。助手の存在は忘れているらしい。新スタッフからもらった水を呷っていると、「ふん。そうか、可愛げのない!」と拗ねたような声がした。
「そうそう、君だ君」
肩を叩かれ振り返る。そこにゴルドルフがいた。「はい?」と目を瞬いていると、彼は言った。
「確かスミムラとか言ったな? 報告書に何度も君の名前が挙がっていた」
「はぁ……」
名前が挙がったのは致し方ないことだった。立香を守るために立香の戦績は極力隠蔽する形で報告書を上げなければならなかった。しかしそうなるとなら人理の修復に貢献した者が必要になってくる。そう、庇う者が――結果としてドクターやダ・ヴィンチの補佐役として走り回っていた僕の名が挙げられるようになったらしい。詳しいことは知らない。その辺の書類作成はダ・ヴィンチ他スタッフに任せていたので。そんなことを思い返していると、ゴルドルフは僕の肩に手を置いた。
「君は非常に優秀な人材のようだ。このキャスターは断ってきたが、次善の策として君を私のカルデアに残したい。何せ彼女のオペに付き合える技量を持っているし、人理焼却後からのカルデアを纏めていたんだろう?」
「いや、終局まで纏めていたのはドクター・ロマンで――」
「何にせよ頼られている人材なのはわかる。どうだ、君、残らないか」
そう言われて、しばらく沈黙する。しかしそれは10秒ほどのことだ。
「そうですね、残ります」
「え、本当かい!? まぁ、君なら意外ではないが……」
ダ・ヴィンチが声を上げる。その彼女の言葉に、僕は苦笑した。
「ダ・ヴィンチちゃん、僕のことよくわかってますね。僕はそもそもこれからの魔術師の発展にカルデアが寄与すると見て、一旗揚げる為にカルデアに来た。だから正直追い出されるのは困る。だから、残れって言うなら残りますよ」
そう言って肩の骨を鳴らす。「そうか! 残ってくれるか!」と存外素直な反応が返されて、僕は苦笑した。そろそろコフィンが開く。さて、Aチームのあの濃い面子と顔を合わせることになるのか――
異常事態は、その直後発生した。
そして僕は、直感した。あぁ、カルデアが終わるのだと。まだ人は残っていたのに、それでも僕の勘はそう告げていた。
というのが、主観的に1週間ほど前のことだ。襲撃を受けたカルデアから奇跡の大脱出。一応ダ・ヴィンチと共に所長代理のようなことをしていた僕ですら知らなかった大改造。おいこんなの聴いてないぞ、と思いつつも、僕が受けた衝撃はどちらかというと「彼女」にあった。
「レオナルド・ダ・ヴィンチ」と名乗る人工サーヴァントのことだ。
ダ・ヴィンチ(オリジナル)は1度は僕と一緒に管制室から工房へ避難し、助けに来てくれた立香やマシュと共に地下に避難したものの、ゴルドルフの悲痛な悲鳴を受けて立香とマシュ、それにダ・ヴィンチが救出に向かった。
帰ってきたのはゴルドルフと立香、マシュだった。
その直後に彼女の記憶と容姿をほぼ受け継いだ彼女が現れたから堪らない。僕たちは混乱したものの、混乱も落ち着かないまま殺戮猟兵に追い詰められ虚数空間へ脱出。さて、それから主観的に1週間が経った。
自分たちが虚数空間から脱出するには、地上への縁が必要だ。そして自分たちにある唯一の縁は殺戮猟兵。それにダ・ヴィンチ曰く「今しかないね」ということで、虚数の海の「潮流」に乗り脱出を図った――結果、機体を1部損傷しつつも脱出に成功した。
そこまではまぁよかった。
アナウンスと共に、ホームズと共に「ぶっつけ本番でよくここまでやれましたね」などという話をしていた。
そんなとき、カルデアスタッフのひとりが駆けだした。コクピットの非常口へ。
「やった、地上だ! 外だ! やっと新鮮な空気が吸えるぞ!」
「うんうん、外はどうなってるのかしらね! 車は揺れていないから海上ではないと思うけど!」
「押すな、気持ちは分かるが落ち着け、押すな! ロックが外れないだろう!」
「えーと、まずはこのボルトをはずして、と……」
この状況でもカルデア職員は元気だ。自分もカルデア職員のはずだが、あそこまで元気にはなれない。ホームズが言う。
「……いやはや。まあそうだろうとも。誰だって地上の様子が知りたいんだ。なにしろ自分の家であり、守るべき世界だ。前人未踏の航海から生還した奇跡なんて二の次だろう。――うん。それでこそカルデアのスタッフだ。私にはいささか眩しすぎるがね」
「僕にも眩しいですよ……あれが若さか……」
「君も充分若いはずだが」
やれやれと自分の肩を叩く僕に、ホームズがまるで労うように言ってくる。それに目を剥いていると、マシュが立香に「みなさん、コクピットの非常口に殺到していますね。先輩はいいんですか?」と声をかけている。立香はそれに元気良く応えて駆けだした。それを、ムニエルが悔しそうに見ている。
「立香もかよ! くそ、俺だって見たいんだけどなあ! ホームズ、トシモリ、モニターから離れていいか!? 俺も肉眼で確かめたいんですけどぉ!」
「すまない、自重してくれMr.ムニエル。キミがモニターから目を離すと――」
「行っても良いよムニエル。僕が見てるから」
そう言って僕はモニターの前に陣取る。それにムニエルもホームズもきょとんとした顔だ。
「なんで? お前は見に行きたくないのか? 新鮮な空気だぞ?」
「それは魅力的だけどね。でもさ、考えてもみてよ。僕らは殺戮猟兵――オプリチニキを縁として虚数空間から脱出してきた。そこまではわかるね」
「そりゃわかるけど」
「……あぁ、Mr.スミムラの言いたいことがわかってきた」
ホームズの言葉に構わず、僕は言う。
「オプリチニキはロシア語、ついでにイヴァン雷帝の親衛隊が元になってる……宝具かスキルかわからないけどとにかくそんなの。で、僕らはそんな彼らないし彼女らを縁に頼ってきた。つまり、ロシアないしロシアに近い場所に来た可能性がある。だから」
「さむ―――――い!?」
「――畢竟、メチャクチャ寒いだろうってことは推察できた。そして当たったようだね」
僕の言葉ののち、ドタバタと非常口を閉めたスタッフたちが駆け戻ってくる。がたがたと震えている。それだけ寒いのだろう。ひと息吐いている彼らの元に、彼女がやってきた。
ダ・ヴィンチだ。そう名乗る人工サーヴァントだ。
「いやー、どうなる事かと思った。咄嗟に空調をあげておいて良かったよ。もー、みんな無事かい? 私が止める間もなくドアを開けてしまうんだから。でもいい教訓にはなったかな? これからは外の調査が終わる前に外に出るのはNGだ。命に関わるからね――しかし、トシモリくん。キミはさすがだね」
「はい?」
モニターを見ていた僕は首を傾げる。褒められるようなことはしただろうか。それに彼女は笑った。
「その冷静な判断力は、人理が焼却されたときから、今世界が白紙化したあとも大切なものだ。ずっと保ってて欲しいな、それは。頼りにしているよ」
「――」
そう言われて、心のどこかにずん、と重いものがのし掛かる。
それはプレッシャーではない。ストレスでもない。それは、「悲哀」と呼ばれるものだった。
なぜか、その言葉を聞いて。僕は思い知ったのだ。
あぁ、この子は、この少女は、あのレオナルド・ダ・ヴィンチではない。記憶は持っていても、彼女は別人だ。それが、「頼りにしているよ」、そのひと言でありありとわかってしまった。
それでも彼女はダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれと言う。彼女のように振る舞う。だから、それを尊重すべきなのだろう。何もかもが絶望に近しい今、意志だけは何が何でも尊重すべきものだと思ったから。
だから、僕は微笑んだ。
「……有り難う御座います。精進します」
そして僕は、あのレオナルド・ダ・ヴィンチにはもう永遠に逢えないことを悟ったのだった。
End.