旧・兎は星乙女と共に   作:二ベル

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書いていた内容、だいたい忘れてます


輝ける星は今ここに①

 

 

 

風が、肌を撫でる。

急速に景色が変わっていく。

雲はなく、ただ黄金に輝く満月が空にはあった。

 

 

「そんなに経ってない筈だけど、オラリオはいつから・・・植物園になったんだろう?」

 

 

視認できたオラリオの景色はすこし違っていた。

蛇のような花のような怪物が、うねうねと蠢いていた。

力ある派閥であれば、無視するはずもないが目視しているうちに倒されることもないことから、既に力ある派閥は別の場所で戦っているのだろうと判断しベルを運ぶ石竜(ガーゴイル)のグロスに自分を都市中央に運ぶことを指示。

 

詠唱を開始する。

 

 

 

「【贖えぬ罪、あらゆる罪、我が義母の罪を、我は背負おう。】」

 

 

 

やがて、雪が都市に降り注ぐ。

 

 

 

×  ×  ×

ベルがオラリオに到着するよりも前。

人造迷宮、12層。

 

 

人造迷宮(クノッソス)に突入してた冒険者達はすでに、そこかしこで戦闘を繰り広げていた。

放たれる『魔法』を護符で払い、最終的には精霊の六円環たる6つの『穢れた精霊』を討伐する。

 

『穢れた精霊』、『赤い髪の怪人』、そして『仮面の人物』。

 

12層ではレフィーヤ、ベート、リューに輝夜達がもう『仮面の人物』と戦闘を開始していた。

『仮面の人物』という呼称は最早不要。

ベルだけが気付いていて、レフィーヤがヒントに気づくのが遅かっただけのこと。

ソレの名は、フィルヴィス・シャリア。

 

「「【終わる幻想、還る魂――引き裂けぬ貴方(きずな)】」」

 

 

27階層の悪夢で、ただの妖精ですらなくなった穢れた妖精。

少女の髪に巻かれていた蒼冠(サークル)は弾け、『分身』し裂かれていた『魔力』が還元された反動で肉体が活性し、特徴的な濡れ羽色の長髪が地面に届くほどに伸長していた。胸の谷間で露出している『魔石』が放つのは激しい極彩色の明滅。

 

「【エインセル】」

 

内側にとどめることのできない力の氾濫が、胸部を中心に薄紅色の『根』と言うべき器官を発生させる。葉脈、あるいは血管のように、少女の白肌を蹂躙していた。目元は落ち窪み、美しい赤緋色の瞳は淀んだ深碧の色に。白い肌も病的なまでに青白く変化していた。

そして、彼女の体は所々、()()()()()

 

 

「ッルォオオオオ!!」

 

疾走したベートが容赦なく己の拳を叩き込む。

それを難なく受け止め、掴んだまま床へと叩きつけた。

背骨に走る衝撃に言葉を発することもできないベートへとフィルヴィスはさらに体を回転させ強烈な蹴りを放つ。

 

「させるかぁ!」

 

「はぁあああ!」

 

そこに輝夜とリューが割って入り蹴りを撃ち返した。

さらにそこへ。

 

 

「【ウチデノコヅチ】――舞い踊れ!」

 

九尾を彷彿させる光の尾を生やした少女の『妖術』が、輝夜とリューに付与される。援軍としてやって来た狐人の少女に2人は目を見開いた。主神と一緒に待っているとばかり思っていたからだ。彼女だけではない。アイシャとアスフィも同じく援軍としてそこへやって来て戦闘に混ざり始めた。

階位昇華(レベルブースト)』。

春姫の持つ強力な『妖術』は、さらにベルの深層での一件以降、ただ待っていただけの自分を恥じそれを見かねた姉貴分(アイシャ)がベルの金で買った『魔導書』から発現した2つ目の魔法によって複数人に付与できるようになったのだ。

 

「―――【ウィーシェの名のもとに願い】!」

 

戦闘の最中にやってきた援軍に目を見張るも、レフィーヤはすぐに詠唱を始める。

 

「『タラリア』!」

 

レフィーヤの詠唱とほぼ同時、アスフィが両足に履いた魔道具(マジックアイテム)飛翔靴(タラリア)』を起動する。床を離れる僅かな浮遊感が発生したかと思えば、何の予備動作もなく突風の如く跳んだ。

 

「!」

 

対峙しているフィルヴィスの瞳に映ったのは、前進ではなく、横の動き。

空を飛ぶ者にしか許されない動きで真横へ跳び、彼女の視界外に高速でかき消える。輝夜達同様に階位昇華を経て疑似Lv.5に至ったアスフィの飛翔速度は尋常のそれではなく虚をつく動きは『奇襲』に近く、さらに【大和竜胆】と【疾風】の連携によって完全に【万能者】を見失った。

 

 

メタルグローブに叩きつけられた刀が甲高い音を立てて火花を散らす。

斬り落とせなかったことに輝夜が舌打ちし、床で転がっている狼人を蹴り飛ばして戦線を一時離脱させた。

 

「硬いな、リオン!」

 

「いえ、一度退くべきだ!」

 

「ぶぁあああかめ! ここは攻めて敵に攻撃する間を与えないのが定石だろう!」

 

「相手は硬い、無理に攻めれば武器がもたない!」

 

「気合でなんとかしろ!」

 

「気合でどうにかなるはずがない!」

 

「どうして喧嘩を始めるぅ!?―――っと、それ、いきますよ!」

 

フィルヴィスの硬さに輝夜はリオンと連携して責め立てレフィーヤの詠唱が完了するまで攻撃の隙を与えんとしていたが、リオンはそれはダメだと拒否する。互いに好敵手故に喧嘩腰になり、フィルヴィスの視界から消え失せていたアスフィが思わずツッコミを入れてしまう。けれどすぐさま彼女は行動を再開させた。

 

床すれすれを高速滑空し、地面に投げ出されていた冒険者の武器を拾い上げ空中へと飛翔。横から上、二次元から三次元へと発展させる機動でフィルヴィスの頭上を押さえ、両手に持つ武器を投擲する。頭上からの不意打ちに、フィルヴィスは舌を弾き輝夜とリューへの迎撃を中断し、回避を選択した。一瞬前までフィルヴィスがいた床に突き刺さる長剣と片刃刀(サーベル)。アスフィはそれを見届けず、先程と同じ要領で地に転がっている武器を掴み取り、再び頭上へと昇って投擲した。

 

武器を回収しては上昇、発射。

放たれた武器の射撃は正確とは言い難く、フィルヴィスは防御するでもなく全て回避した。執拗に接近戦を挑んでくる輝夜とリュー、そして突っ込んできたアイシャを剛腕の一振りであしらいながら、怪訝な色を顔に宿す。

 

 

「くそ、何のつもりだ? ・・・・いや、これは・・・・私を閉じ込める『檻』のつもりか!?」

 

第一級冒険者が3人と言ってもいいような攻防の間に、無数の武器がフィルヴィスを取り囲むようにおよそ半径10M、円を築くように、剣、槍、刀、薙刀、斧槍、様々な獲物が床に突き立っている。

 

直後、輝夜とリューが地を蹴った。

 

「ふッッ!」

 

2人の女冒険者が敵の不意を突く高速の斬撃を放つ。

斜め後方からXを描くように放たれる攻撃に対し、フィルヴィスは片腕を振り払った。

 

 

「っ!?」

 

 

振り下ろした、振り上げた剣身が粉砕される。

並みの冒険者では一太刀のもと斬り伏せられていた必殺の無効化、業物の武器が失われる。

 

だが、2人の冒険者には動揺も悲嘆もなかった。

 

「・・・・チッ」

 

いや、輝夜は飛び散る己の武器の破片を視界に入れて、舌打ちした。悲嘆していた。体の一部と言ってもいい刀を失ったのだ、そりゃ悲しい。けれどその悲しみを怒りに変え床に突き刺さっている剣を引き抜き、瞬く間に反転し、フィルヴィスへと斬りかかった。

 

 

「なに!?」

 

新たな武器を再装備し、早すぎる次撃を敢行した2人の冒険者にフィルヴィスは驚愕を見せる。反射的に迎撃し再び剣を叩き折っても、2人の冒険者はためらいなく柄を捨て、次から次へと武器を手に取り速度を緩めず突っ込んでくる冒険者にフィルヴィスは対処が遅れる。纏っている紫紺のローブを、体ごと斬られる。

 

 

「私が築いたのは『檻』ではく『武器庫』といったところです」

 

2人の冒険者による怒涛の連続攻撃に晒されるフィルヴィスを宙より見下ろしながら、アスフィは指で眼鏡を押し上げる。【麗傑(アンティアネイラ)】アイシャ・ベルカ、【疾風】リュー・リオン、【大和竜胆】ゴジョウノ・輝夜という優秀な前衛を活かすためアスフィは環境を整えるべく『戦場』を作り上げたのだ。愛用の武器を失った2人は『武器庫』から何度も剣を抜き、存分に暴れまわった。神懸かり的な一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)がフィルヴィスに見舞われる。

 

「そら、私もいるよ!」

 

「ちッ―――!?」

 

一撃を見舞ったリューが離脱する間際、アイシャが別方向から襲い掛かる。

隙など一つも与えない。

1人が退けば、1人が突撃する。

そしてまた1人が退けば、また1人。

常に2人を、いや、上空にいるアスフィを入れれば3人をフィルヴィスは相手していることになる。

 

携えられたメタルグローブに巨大な大朴刀が衝突し、鮮烈な火花が散る。

その一撃の重みに、フィルヴィスの膝は僅かに、確かに沈んだ。

3人の強力な前衛が、互いを邪魔することなく縫うように攻撃を仕掛けてくる。そのせいで、フィルヴィスは反攻に乗り出せず一方的に攻められているほどだ。瞠目する怪人の頬を、腕を、腹を、最接近した3人の女冒険者の攻撃が削った。

 

 

「っっ―――舐めるな!」

 

 

激昂したフィルヴィスのもとから放たれる拳砲。

アイシャ、リュー、輝夜を同時に戦慄させる、常識を裏切る一撃。

体勢を崩されているにもかかわらず撃ち出されたそれは潜在能力(ポテンシャル)にものを言わせた一撃必殺だ。拳が向かう先は、輝夜。

 

「【集え、大地の息吹――我が名はアールヴ】!」

 

その必殺を、レフィーヤの『魔法』が阻んだ。

 

「【ヴェール・ブレス】!」

 

攻撃が炸裂する直前、アイシャ、リュー、輝夜、更にアスフィと自分自身を包み込む翡翠の光膜。瞠目する輝夜は、その光の鎧に促されるように防御態勢を敷いた。交差された両腕にフィルヴィスの拳がぶち当たり、凄まじい勢いで吹き飛び地面を転がるも――ややあって、立ち上がる。

 

 

「なっ・・・!?」

 

「・・・光の向こうで、ベルが手を振っていたのが見えたぞ」

 

骨に罅が入った腕をぶらりと垂らしながら、輝夜は憎たらしそうな笑みを浮かべた。

 

 

「あの子は死んでいない!! 勝手に殺すな輝夜!」

 

フィルヴィスの一驚は立ち上がった彼女から、視界の奥で杖を構えるレフィーヤに向けられた。

緑光の加護(ヴェール・ブレス)

リヴェリアが得意とする『防護魔法』だ。

効果は物理・魔法、両属性の攻撃に対する抵抗力の上昇。リヴェリア本人が使えば、砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の大火球から冒険者の身を守るほどだ。レフィーヤは長い詠唱を経て、強敵を相手取るには不可欠な上昇付与(バフ)を最優先で『召喚』したのだ。およそ後衛としての最適な判断。

 

「私達が気にかけてやるまでもなかったか、千の妖精(サウザンド)!」

 

緑光の加護(ヴェール・ブレス)の副次効果で骨の罅が癒える輝夜が、笑みを浮かべて戦場へ舞い戻る。それを見届けるレフィーヤは間髪入れず次弾の装填に移った。

 

 

×  ×  ×

人造迷宮、十一層。

 

 

「走れ、走れぇえええええええええ!!」

 

急流のように駆け抜ける『第二侵攻』の予備隊。

【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】そして【アストレア・ファミリア】の混合からなる冒険者達を、ラウルとアリーゼが大声を放ちながら導く。

 

「動くのは敵が混乱している今しかないわ! 急いで! 超凡夫(ハイノービス)、道は合ってる!?」

 

上部階層に力を割いたことで、迷路は大量の植物が腐り落ちたかのような悪路と化している。嫌悪感を振り切りながら進み続けるアリーゼ達はひとつの目標に向かって突き進んでいた。『人造迷宮の設計図』を持つ地図作成者(マッパー)のラクタ、更に頼りに鼻と耳を鳴らす獣人達の指示にアリーゼの問いにラウルは大きく返事する。

 

そして突き当りの壁に寄生した緑肉を除去し『隠し扉』の仕掛けを突き止め、分厚い石扉を開口させた。

 

 

「いた、いました!」

 

 

開かれた扉の先にいたのは、力尽きたように倒れている複数の男女だった。

ラウルはその内の1人を抱き上げ、脈を確かめる。まるで干乾びた木乃伊のように潤いをなくした体は、微かに過ぎずとも命の音を繋いでいた。

 

勇者(ブレイバー)、生存者―――『人質』は無事よ!」

 

 

『人質』の救出作戦は早い段階から決められていた。

ディオニュソスの正体とデメテルの現状をロキが解き明かした瞬間より、フィンが自ら『第二侵攻』の作戦の中に組み込んだのだ。【デメテル・ファミリア】の人命救出はもとより、間違っても『人質』を用いた『外道』の戦法など黒幕に取らせないためである。

 

 

「早く【デメテル・ファミリア】を運び出して! 応急処置のみ、回復は後! イスカ、マリューお願い!」

 

「「了解!」」

 

通信越しにも他の場所に『人質』報告の報せが届いてくる。

しかし、恐らくは彼等彼女等の状態はよろしくはないだろう。

体はガリガリに痩せていて、うっすらと開かれる瞳は劣悪な環境を物語るように充血していた。さらに唇は罅割れ不死者のような掠れた呻き声、光のない暗闇に居続けて精神が耐えられなかったのか、壁を何度も削った爪は痛々しいほどにボロボロ。手足に巻きつけられている鎖は、物々しい。

 

救助が来たことに気が付いたのか、それでもなお女神の安否を確かめるように瞳にみるみるうちに涙を溜め、嗄れきった声で必死に「デメテル」の名を呼び続けている。

 

 

紅の正花(スカーレットハーネル)、敵が来てる!」

 

「わかった、超凡夫(ハイノービス)、私はモンスターを相手するから後よろしく!」

 

「了解っす!」

 

アリーゼは救助隊を護衛するために、『第二侵攻』の中に組み込まれていた。

部隊の人間のほとんどが満足に動けない人質を抱えている。そのような状態で、食人花などが襲ってきようものなら対処できるわけがないからだ。

炎の付与魔法(エンチャント)を纏い、激しい破鐘の吼声とともに迫りくるモンスターに向けて疾走し、『一閃』する。

 

先頭の食人花を炎が斬断。

一瞬の硬直に襲われるモンスターを置き去りにし回転、刻まれた紅の斬閃から立て続けに銀の円弧を描き、付近にいた眼黽3体をまとめて焼き払う。地面を爆砕するほどの加速で前方にいた個体を屠り、八つ裂きにし、ようやく迎撃を行おうとする食人花の懐に難なく侵入して、その長軀に鏡のような刀身のナイフを突き刺した。

 

そして――全開炎力(アルヴァーナ)と。

景色を赤く染めるほどの火力で、敵の体内を爆砕した。

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