こんな亀更新の作品を待ち望んでいる読者の人達には感謝です。
五条がメグミとユウジに魔法の修業をつけて数日が経った。
あれから基礎的な内容をマスターした2人は無詠唱による魔法の発動に加えて、五条が最も習得して欲しかった身体能力の強化をある程度の合格基準に達する程度まで出来るようになった。
「さぁて、2人共随分と魔力の制御が上手になってきたし、そろそろ次の段階に進めるかどうかの昇格試験でもやってみようか♪」
「「昇格試験?」」
身体強化した状態で大岩を背負っての腕立て伏せ中に告げられた昇格試験というのに疑問を零すメグミとユウジ。
「簡単に言えば俺との組み手で勝利するのが昇格試験の内容だね♪」
「「じゃあ無理じゃん!」」
まさに無理難題というべき内容にメグミとユウジは口を揃えて不可能だと口にする。
「即答かよ♪ まあ、安心しなよ。別にハンデをつけないとは言ってないだろ? とはいえ、俺がお遊び程度の力でも2人じゃ天地がひっくり返っても俺を倒すのは不可能だしな……」
「「…………」」
確かに、ベヒモスを相手にしても無傷で何度も勝利したし、ここ数日間で迷宮の魔物相手の立ち回りなんかを見ても、2人同時で本気で戦いを挑んでも遊び気分で翻弄される未来しか観えないが、こうも遠慮とか無しに言われるとちょっと傷つくし、何よりも腹が立つ。
っが、正論なので何も言えずにただ黙って目で訴えかける。
「ん? おいおい、どうしたの? そんなブッサイクな顔して、スマイルスマイル♪」
「「誰のせいだと思ってんだよ!!?」」
口を指で広げて笑えとバカにしたように言ってくる五条に、メグミとユウジもプツン! ときて怒鳴り声をあげるが、当の本人ははてぇ? と真面目に分からないような顔して首を傾げる。
「まあ、そう怒らない。よし! ハンデの内容を思いついた。俺は片手で、それも1%以下の力で魔法も使用不可にして組み手することにしよう!」
それはあまりにもデカすぎるハンデだった。大人と子供でも、ステータスの差はほとんどの場合10倍も違わない。
それを1%以下で、それも片手で魔法も使用せずに戦うことが何を意味しているのか。
そして、それが相手をどう評価しているのか分からないメグミとユウジではなかった。
「……それはちょっと俺たちのこと舐めすぎなんじゃないのか?」
「そうだぜ五条さん! 俺も兄ちゃんもメッチャ強くなってるし、そんなんじゃ余裕……は多分無理だけど、絶対に勝ってみせるって!」
「へぇ~、卵から孵化したてのヒヨッコ共がピーピー! と吼えるじゃない。いいよ、かかってきないさい」
「……いくぞユウジ」
「OK兄ちゃん!」
右手を後ろに隠し、クイクイっと挑発を仕掛ける。
それを受けて、メグミとユウジが背負っていた大岩を放り捨てて、腕立て伏せの状態から即座に五条へ襲い掛かる。
今の2人のステータスは身体強化状態でメグミは平均200オーバー、ユウジは平均150オーバーに対し、五条は言葉通りに1%以下に落としている為、ぶっ飛んでいる耐性や魔耐を除けば全て100以下のステータスでしかない。
本来ならば、自身のステータスの2倍もある敵2人を相手に戦うことなど不可能に近いものだが、五条は片手でメグミとユウジの攻撃を見事に捌きながら足を使って2人を翻弄する。
「クソ! 速度じゃ俺らが勝ってる筈だってのに、まともに掠りすらしねぇ」
「速いっていうよりも早いって感じだな。それに攻撃の避け方が凄い上手いぜ兄ちゃん!!」
目線や姿勢から2人がどのタイミングでどこに攻撃を仕掛けてくるか把握出来ている五条は余裕の表情でアドバイスを送る。
「ふふ、2人共まだまだ動きが直線的過ぎるね。フェイントも織り交ぜて戦わないと効果的な一撃は入れられないよ。例えば、ここに焼撃を望む──」
「ちょっ、はぁ? 魔法は使用しないって言ったのは五条さんだろ!」
「バカ! 文句言ってる暇あんなら止めろ! あの人ならやりかねないし、あの人の魔法が桁外れなのは知ってるだろ!」
魔法の詠唱を始めた五条に焦って中断させようと雑な攻撃を仕掛けるが、それら全てを五条は軽く捌くと、捌いた攻撃の隙間を狙ってメグミの首に手刀、ユウジの鳩尾に蹴りを叩き込む。
「「ぐはっ!?」」
人体の弱い急所である箇所に鋭い一撃を喰らわされて2人共気を失ってしまった。
白目を向いて地面にぶつかる寸前にキャッチしてゆっくり地面に仰向けに寝かせる。
「あらら、キレイに決まったね。そんじゃおねんねしてるとこ悪いけど、さっさと起きようか」
無詠唱で水球を発動し、それを2人の顔にぶっかける。
「「ぶっはぁ!!!」」
突然の冷水に呼吸も妨害されて、2人共が文字通り飛び起きた。
何が起こったのか理解できていない2人はキョロキョロと周りを確認しながら自分たちに何が起きたのか思い出す。
「ええっと……あっ、そういえば五条さんが魔法使ったからこの試験って俺たちの「負けだな」……えっ?」
「そうだね。メグミの言う通り2人の負けだ」
気絶する前のことを思い出したユウジが五条が出したハンデの魔法を使わないという条件を破ったことで自分たちの勝利だと言おうとした時、隣にいるメグミが負けだと口にした。
そのことに疑問の声を上げようとしたら、五条もメグミの言葉を肯定する。
「え~、なんでだよ? だって五条さん魔法を使おうとしてたじゃん!」
「そうだな。あの人は
「えっと……、どういうこと?」
「つまり、俺は魔法の使用を禁止したけど、詠唱まで禁止した覚えはないよ」
「あっ、そういうことか!」
そこでようやく自分の勘違いに気が付いたユウジ。
そう、五条は魔法の詠唱をしたことによって魔法を使用しようとしているのだと2人に誤解させたのだ。
その為、焦って無理に攻めに行った結果、ステータスが倍以上も離れているというのに急所を狙われて倒されてしまった。
「これが対人戦において重要なフェイントの1つだよ。相手がこれは防がなければ危険だと強く思わせられるほど効果的だよ♪」
「確かに、さっきのは効いた。あれがフェイントってやつか……」
「でもズリィよあんなの! 卑怯だし全然正々堂々じゃねぇ!!」
「おいおい、正々堂々なんてそんなの戦場では通用しないぞユウジ。決闘とか見世物なら正々堂々は美徳だけど、生死を賭けた戦場じゃどんな手段を使おうが勝った方が正義なんて言葉もあるほどだ」
「ああ……それもそっか……」
ユウジは五条を指差して卑怯なんて口にするが、それを五条は間違った価値観だと説明する。
幸いなことに、ユウジはどこぞの勇者君よりかは現実を見えてるようで、ちゃんと複雑な顔をしながらも納得してくれた。
「さて、ハンデ特盛状態の俺に負けた気分ってどんな感じ? ねぇねぇ、どんな感じ?」
「……腹減ったしさっさと迷宮出てギルドに行くか」
「そうだね。ノバラも待ってるだろうし、あんま待たせたらあいつ鬼のように怒るもんな」
「あっれぇ、ナチュラルに無視は傷つくぞ! もっとお前らにハンデアリで勝った俺を敬えよ~」
後ろでギャースカ! と騒ぐ五条を無視して、メグミとユウジはさっさとギルドに戻ろうとする。
その道中ずっと五条は騒ぎ立てていたが、その騒ぎに引き寄せられて迫ってくる魔物の大群を退治するのに手一杯なメグミとユウジは相手する余裕はなく、ようやく魔物を楽に倒せる階層まで登って余裕が出てきたメグミとユウジは後ろをチラリと振り返ると、いつの間にか従わせていた4体のロックマウントに神輿のようなものを担がせて、その上に某南斗の帝王の如くふんぞり返りムスッとした表情をしながら五条が座っていた。
「……おい、お前が話しかけろよ」
「いやだよあんなの!? 兄ちゃんが話しかけてくれよ!」
どっちが話しかけるかモメていると、迷宮の出口が目に入る。
流石に街中に魔物を4体も連れて歩くほど五条も非常識ではない為に、神輿を下ろさせるとそのままロックマウントを迷宮の奥へと帰してやった。
「さて、修業終わりに飯にでも……と言いたいところだったけど、どうやらお客さんのようだね」
「え? お客さんって……、あっ! 受付のお姉ちゃんじゃん!!」
「あの人がわざわざ迷宮の前で俺らを待ってるってことは……」
「つまりはそういうことなんだろうね」
迷宮を出てギルドに戻ろうとした際、五条は少し遠くの方でこちらに近づいてくる受付嬢の姿を捉える。
それの意味することは1つ。ようやく自分たちがこの街にずっと滞在させられていた原因である帝国の使者がやって来たということなのだろう。
案の定、受付嬢から五条に告げられたのは王城にもうすぐ帝国の使者がやって来るという内容のものだった。
城からも五条用に馬車も用意させており、直ぐにでも城へ向けて出立して欲しいとの伝言も言い渡された。
それに対しての五条の返答は──―
「嫌だ!」
「そ、そこをなんとか……」
「嫌なものは嫌だ!!」
ギルドに戻った五条は、早急に馬車に乗って城へ来てくれと言ってきた兵士に向かって嫌だと拒絶の言葉を吐く。
兵士も相手は勇者と共に召喚されたエヒト様の使者という立場に加えて、あの伝説の魔物ベヒモスを倒した史上最速の金級冒険者である五条に強くでることは出来ず、下っ端サラリーマンが取引相手に精一杯の礼儀を尽くすかのようにペコペコと頭を下げてお願いする。
五条が何を嫌がっているのかと言うと、帝国の使者に会うことではなく、わざわざトロいスピードの馬車に乗って王城へ行くことを嫌っているのだ。
確かに五条ならばこの街から王城までは一瞬で移動できるだろうが、王から直々に五条を迎えるようにと王室御用達の最高級馬車を預かった兵士にとっては国のメンツもあって聞けぬ言葉であった。
「はぁー、五条は一度言った言葉は相当な無理をしなければ取り消さない男です。ここは少し譲歩して……」
「ふざけるな! 王からの好意で用意された馬車なのだぞ、それを無下にするつもりか!」
五条たちと一緒に同席していた支部長が横から五条と兵士の間に割り込んで意見を申せば、
支部長の言うことはあまり間違ってはいないのだが、王家から任された任務を子供の駄々が原因で失敗したなんて報告できる筈もなく、その怒りを八つ当たり気味に支部長へぶつけているだけだ。
その最中、ギルドの扉が開いて中に入ってくる人物が1人やって来た。
「おい、五条! 旅に出るだなんて、なんでそんな大事なことを黙ってたんだよ!!」
「あれ? 言ってなかったっけ。ごめんごめん♪」
五条の前に現れたのは最近めっきりメグミばかり登場していたために出番が減っていたマルクであった。
最近まるで出会ってなかった五条に怒っているのは、家にいるノバラが近々旅に出ると話したからだ。
それを聞いたマルクがタイミング良くギルドにやって来たのだ。
軽い感じで謝る五条にはぁ~と溜息をついて怒る気力を失ったマルクが隣りの席に座って今後の事を話そうとすると、それに待ったをかける者がいた。
「おい貴様何者だ? 今は私が話ているのだ。関係のない奴は出ていけ!」
国の王から連れてこいと頼まれた自分よりも、見知らぬ平凡そうなただの男が自分よりも優先されているという状況に腹を立てた兵士がマルクに食って掛かる。
突然見知らぬ、それも国の兵士の格好をしている男から急に怒鳴られて萎縮してしまうマルクは、どういうこと? っと目で五条に訴える。
いい加減にうるさい兵士にもうんざりしていた五条は、見向きもしていなかった兵士にサングラス越しに目を合わせると、次の瞬間に行動に出た。
「そいつは俺の友達だ、余計な首は突っ込むな!」
「……っ!」
兵士の顎に五条の鋭い拳が綺麗に決まり、殴られた兵士は脳みそをシェイクされて泥のように夢の世界へと旅立った。
それを見ていたマルクと支部長があちゃ~っと顔に手を当てて五条のやらかしにこいつやっぱりやりやがったと頭の中で叫ぶ。
そんな2人を無視して、五条は倒れた兵士を放置して席を立ちギルドから去ろうとする。
「おい待て五条! こいつはどうすんだ!? このままじゃまた俺が怒鳴られっちまうぞ!」
「ああ? ……んじゃ、そいつが起きたら倒れた原因は怒り過ぎて脳みその血管が切れたからって言っといて。んで、俺は自分の足で城に行ったともついでに伝えといてね」
バイビーっと後処理を全て支部長に丸投げした五条はスタコラサッサと逃げていった。その後をマルクも急いで追いかけ、残された支部長は気絶した兵士の足を持って引きずりながら奥の部屋へと連れていく。
なお、この時の支部長は面倒な相手がぶっ倒れてスカッとした顔と胃を痛めた苦痛の2つの顔をしていたという。
◆
遂に王城に帝国の使者が訪れた。
現在の謁見の間にはは光輝達勇者パーティーを筆頭に、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そして教皇率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままハイリヒ国王と向かい合っていた。
「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」
「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」
「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」
「はい」
王に呼ばれた光輝が一切の緊張もなく自信に溢れた顔つきで前に出る。
その姿はまさに勇者と呼んで然るべき堂々さであった。
あの日、落ちこぼれだと心の中で思っていた南雲が自分の落ち度で死んだと理解してから、より勇者らしく今度こそは皆を守り抜くと決意し、辛く厳しい鍛錬と戦術のイロハをメルド団長から教わったことが自らの自信に繋がっているのだ。
「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。……それにしても、今日はあのベヒモスを倒したと言われている神の使徒がいると聞いたのですが?」
使者は光輝の顔を見てその若さに驚いたような顔をするが、すぐに落ち着いてキョロキョロと部屋中を見渡してもう1人話題になっている人物がこの場にいないという疑問を口に出す。
「…………っ、彼ならば」
国王が五条がこの場にいない言い訳を口にしようとしたその時だった。
バン!
「皆お久しぶりっこ♪」
「「「…………」」」
謁見の間の豪勢で巨大な扉を遠慮容赦なく蹴り開けて、陽気な声で笑みを浮かべる五条の様は、まるで友達の家にお邪魔する子供のようであった。
突然の出来事に大きな室内は沈黙が支配し、静寂が音として聞こえてくるぐらいだ。
そんな静寂を破ったのは問題の原因となった当人である五条だった。
「あっれぇ? どうしたの皆して黙っちゃって。もしかして、俺のド派手な登場にビックリして心臓止まっちゃった系かな?」
「ふむ、噂通り破天荒な性格の持ち主ですな」
「いやはや、面目ない」
使者は国王に対して笑みを浮かべながら五条のことを破天荒という言い方で表現するが、あの男がそんな言葉で収まる人物ではないことを既に知っている国王としては内心ヒヤヒヤで面目ないと言葉を返す。
「ふ~ん、お前が帝国の使者って奴ね。俺を随分と待たせた癖して出会い頭の挨拶もないわけ?」
国王と帝国の使者との間に割り込んだ五条は使者の顔を覗き込んで嫌味を口にする。
「それは申し訳ございません。この度は私しどもの為に貴方様の御時間を奪わせてしまったことをここに謝罪致します」
「うぬ、その謝罪に免じて許してしんぜよう。我が寛大な心に感謝せよ!」
本当に申し訳なさそうにペコリと頭を下げる使者に尊大な態度で許しを与える五条にメルド団長をはじめとする全員が頭が痛そうに目頭を押さえる。
「ええ、貴方様の寛大なお心に感謝します。ならばこそ、その寛大さに免じて1つだけお願いしたきことがございます。よろしいでしょうか?」
「……ふむ、それは俺と戦いたいってことかな? そこの君」
「…………っ! バレましたか」
帝国の使者からの願いを先読みした五条に虚を突かれて驚く護衛は一瞬で冷静に戻り、自身の心の内を見抜かれたかと悟って前に出る。
「当然、そんなギラギラした目で凝視されちゃ──―
その瞬間、広い謁見の間が凍土に変わったのかと思うぐらい冷たい殺気が部屋全体を支配した。
本来ならば兵は剣を抜いて守るべき対象を背に庇わなければならないのだが、目の前に急に殺気立ったドラゴンの群れが現れたならば守るどころか剣を抜く発想すら浮かばないだろう。
そんな時、只人に出来ることは祈ることか思考を放棄することのみで、彼らを攻めることはできない。
「…………な~んちゃって♪ ビビった? ビビっちゃたかな~? まさか初対面の人を本気で殺すわけないじゃん。今のは俺に分不相応に喧嘩を売ったらどうなるかっていうのを教えてやっただけだよ」
「…………っ、なるほど、大変勉強になりました」
先程とはまるで別人のように態度が変わった五条に驚きながらも、龍の──―それも特別危険な奴の尻を蹴飛ばすところだったと護衛の騎士は内心冷や汗を流しながら頭を下げて感謝の言葉を口にする。
「うんうん、間違えを認めることはいいことだよ。それに、せっかく遠路はるばるこんな所まで来たんだ。俺と戦うには実力が違いすぎるし、ここはこの国を救う予定のある勇者光輝との模擬戦闘はどう?」
「えっ、俺が……?」
今の今まで蚊帳の外だった自分に声がかかってビックリした光輝は戸惑いながら護衛の騎士と国王に目線を送る。
だが、護衛の騎士も国王も五条よりかはと考えてあっさりと模擬戦闘の許可を出す。
「こちらとしても、本来ならば勇者様の実力を確かめにきましたので、戦えるとなれば断る理由もなし」
「私も構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ。おい! ただちに決闘の舞台を用意しろ!!」
「はっ!」
国王の命令ですぐさま決闘の舞台は用意され、ここに急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。
光輝は対戦相手である護衛の騎士を見る。
それはあまりにも平凡で身長も体系もごく一般的で、失礼な言い方をすれば何故こんな男が帝国の使者の護衛をしているのか理解できなかった。
だが、光輝はそう思ってはいなかった。
先程の五条の殺気は心の弱いクラスメイトや王国の騎士なんかは膝をついて怯えていたのに対して、彼は怯えてはいたものの膝を折ることなく真っ直ぐ立っていた。
それだけで、彼が油断ならない戦士だということを光輝は認めていたのだ。
模擬刀を手に持ち、両者が立ち位置に着くと審判役の兵士が開始の合図を出す。
「それでは、両者共に準備はよろしいですか?」
「ええ、こっちは問題ないです」
「こっちもだ。いつでも始めてくれて構わん」
「そうですか。では両者始めぇ!!!」
その声と同時に光輝が駆けだした。縮地によって豪風のように踏み込むその速度は並みの兵士では視認することすら困難なのだが、護衛の騎士はあっさりと光輝の剣を見事に受け流し蹴りを放つ。
「なっ!?」
自身の剣技を簡単に受け流され、加えて蹴りの一撃をしてきたことに驚きの声をあげるが、辛い修業を乗り越えメルド団長からの実戦形式による立ち合いを何度か経験した光輝は咄嗟に片腕を盾にして相手の蹴りを受け止める。
「へぇ、今のをガードするとは……。なるほど、勇者というのは伊達ではないな」
「お褒めの言葉どうも。ですが、勝負はまだまだこれからです!」
「ふっ、そうこなくっちゃな!」
互いに実力の差を感じ取った2人は笑みを浮かべて剣を構えなおす。
光輝は相手との実戦による戦闘経験の差を、護衛の騎士は勇者とのステータスの差を感じて距離を測る。
「少々本気でいくぞ。気を抜いてうっかり俺に殺されるなよ」
「なっ、うぐっ!?」
先攻を取ったのは護衛の騎士の方だった。速度は光輝に比べるとゆっくりなのだが、そこは幾度も戦場を乗り越えた戦士の経験と技量故か、光輝にとって受けにくく避けにくい場所へ攻撃することで反撃を許さないでいた。
さらに、時折フェイントとして斬りかかるように見せかけて蹴りや体当たりなども使用してくる為に態勢を崩されて無防備になることもあるが、持ち前の高ステータスにモノ言わせたデタラメな動きで距離を取って事なきを得る。
「へぇ~、光輝の奴も結構善戦してんじゃん。あのおっさんそこそこ強そうだったし、前に会った光輝じゃボコボコだと思ったんだけど、あれ団長が手ほどきした結果?」
「ん? まあ、あいつもあの日の出来事を強く後悔していたからな。かくいう俺もあの日のことを後悔している。再びあんな思いなんぞしたくはないからこそ、俺の持てる技術と戦闘の全て……とまではいかないが、それなりのことを今日まで教えてきたからな」
「ふ~ん、おっ! そろそろ決着着くんじゃない?」
メルド団長と話している間に光輝と護衛の騎士が最後の攻撃に出る。
「穿て──〝風撃〟」
呟くような声で唱えられた詠唱は小さな風の礫を発生させ、光輝の剣の持ち手に当てて剣を落とさせた。
「なっ、噓だろ!?」
絶え間なく、それも自身よりも速いスピードで動く光輝の手に魔法を当てることがどれだけ困難なことか、恐らく自分の戦士として尊敬し師と仰いでいるメルド団長ですらこんな神業は出来ないであろう。
驚いて落とした剣を拾い上げようとした刹那、殺気の込められた剣が光輝の頭目掛けて振り下ろされそうになる。
その時になってようやく光輝は悟った。この男が自身に求めているのは強さの証明ではなく、殺し合いが出来るだけの度胸があるかどうかなのだと。
実際、護衛の騎士もこんな程度で死ぬような器ならばここで殺してしまってもいいと考えており、このことで聖教教会からどのような咎めが来ようとも、戦場で無能な味方に足を引っ張られるよりかはマシだとも考えていた。また、いざこれで人類が魔族に追い込まれようとも、あの五条という化け物がいる。
そこまで考えたうえで遠慮容赦ない殺す気の一撃を叩き込んだ。
「ぐえっ!?」
だが、結果は違った。攻撃を喰らったのは護衛の騎士の方だった。
剣を拾っていては間に合わないと判断した光輝が自身の切り札である限界突破のスキルを使用したのだ。
これにより、光輝のステータスは3倍に跳ね上がり、護衛の騎士の剣が当たるよりも速く避けて、そのまま鎧で守られていない顔に全力の一撃を叩き込んだ。
「ふぅ~、これで満足ですか?」
吹っ飛ばされて倒れた護衛の騎士に満足かと問うと、フラフラと立ち上がり殴られた箇所を押さえながら仲間に回復魔法をかけてもらった。
「──―っ、随分と効いたぜ。今のは俺じゃなけりゃ死んでたぞ」
「……あなたを信頼してたんです。きっとこれくらいじゃ死なないって」
そう、本来ならばただでさえステータス差が離れているのに、そこから更に3倍もの差をつけられた上で無防備な箇所を殴られたのだ。
普通ならば首の骨が折れるか顔が吹っ飛ぶかのどれかなのだが、護衛の騎士にとってはいくら速かろうが真っ正面からの攻撃ならば対処のやりようはいくらでもある。
攻撃を貰う瞬間に首を捻ってダメージを軽減した上で、自ら後ろに飛ぶことで自らが受けるダメージを最小限に抑えたのだ。
とはいえ、それでも無視できないダメージを貰ってしまったが、無事に1人で立ち上がれたということは後遺症などはないのだろう。
「さて、勇者様の実力はどうでしたかな? ……ガハルド殿」
「……っち、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」
ガハルド殿と呼ばれた護衛の騎士が誰にも聞こえないような声量で悪態をつくと、右の耳につけていたイヤリングを外すと空気がぼやけて真の姿が現れる。
「ガ、ガハルド殿!?」
「皇帝陛下!?」
どうやら周りは一人も気づいていなかったようだ。
「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」
「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」
「もう良い……ならば、もう満足したということでよろしいか?」
「嗚呼、強さや戦闘技術は申し分なかった。だがな、それだけじゃダメだ。おい、オメェなんで最後に殴り飛ばした際に追撃を仕掛けてこなかった?」
「えっ、いやだってそれじゃ本当に殺してしまうじゃないですか」
光輝はガハルド皇帝が聞いてきたことが本気で分からないといった様子で答えを返す。
それに対してガハルド皇帝の反応は失望と落胆の眼差しだった。
その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたようだ。
♦
あの模擬戦闘が終わって皆が晩餐を始めている頃、五条はとある人物の元へと足を運んでいた。
「いや~、子供たちのお世話お疲れサマンサ♪」
「あっ、ようやく来た!」
訪ねた先にいたのはメグミとユウジとノバラの世話を頼んだ白崎だった。
五条は城に到着すると、面倒な大人共に自身が育てている子供の存在をあまり明るみにしたくないと考え、城へ連れてきた3人をどうしようかと悩んでいたところを白崎に見つかったのだ。
そして、南雲が生きているということを詳しく話せと詰め寄る白崎に、交換条件として少しの間だけ3人の面倒を見ろと押し付けたのだ。
「あれ? メグミたちはどこ行ったの?」
「あの子たちなら料理長さんに言って晩御飯を食べているよ」
「あっそ、なら俺も腹減ったし飯食いに行こっかな」
ナチュラルに自分を無視して食堂へ行こうとする五条の肩をガシッ! と掴む白崎の背後には般若が浮かび上がっていた。
「あれ? もしかして先祖に菅原道真がいて誰か呪ってる?」
「何を言ってるのかな? かな? それよりもこれ! ちゃんと説明してくれるよね?」
そう言って突き出してきたのは17話の『安価は絶対』で白崎の部屋に書き置きしていた手紙だった。
「ああそれね。なんか南雲の奴、今物凄く強くなっててさ。だから皆との話し合いの結果、迷宮に置いていくことに決定しました」
ドスッ!
「グフッ!?」
白崎の無言の腹パンが五条にクリーンヒットする。
「ねぇ、もしかしてふざけてる? 私これでも結構怒ってるんだよ」
ニッコリ♪ と笑っているのに笑っていないという非常に恐ろしい芸当をしてくる白崎に冷や汗を垂らす五条だが、それでも余裕の表情を貼り付けて笑みを浮かべる。
「いやいや、俺ってば本気で言ってるんだよ。今のあいつってばかなり強くなってるし、死ぬ心配もないからね」
「そんなの分かんないじゃない。もしかしたら今もハジメ君が窮地に陥ってるかもしれないじゃない!?」
「それはない。だって今南雲の奴、最下層で美少女と一緒にベッドインしてる……から……」
あの五条ですら尻すぼみしてしまうほどの強烈なプレッシャーが白崎から放たれる。
「ねぇ、それって勿論冗談だよね♪」
「ワァーオー! 俺以外で♪ 使う人間初めて見た」
ドスッ!
「デジャビュ!?」
「ね~え~、ふざけてないでさ。もっとちゃんとお話ししようよ」
「いやホントマジでごめんなさい。えっと、恐らくなんだけど、南雲の奴が迷宮の奥底で封印されていた女の子をラノベ小説の主人公みたく救出してあっさりホの字的な展開してるかと……」
「ふ~ん、なるほどね。まさかちょっと目を離した隙に横から泥棒猫に横取りされるなんて」
非常に恐ろしい顔でブツブツと呟く白崎の目を盗んで、コッソリとメグミたちのいるであろう厨房へ退散する。
「お~い、皆いる?」
「あっ! やっと五条さん来た」
「ようやくか……」
「待ちくたびれたよ」
厨房には空になった食器と、満足そうに腹を撫でてる3人がいた。
どうやら、既に食事を済ましているようで俺のことを待っていてくれたようだ。
「いや~、ちょっとヤンデレ女子に捕まってしまってね。マジで怖かった……」
引きつった笑みで怖かったと呟く五条を見て、その実力を知る3人がマジかと驚いてヤンデレとは?と頭の中で架空の化け物を想像する。
「つうか俺も結構腹減ったしなんか飯とかない?」
ぐぅ~、と鳴る腹の音で空腹を訴える五条の目の前にそっと大きめのオムライスが乗った皿が差し出される。
「ん? これって……」
「……っ」
無言で頷く頷く料理長に五条の中の株価が急上昇する。
目の前に置かれた皿とスプーンを手に取ってそのまま一気にがっつく。その味は城の料理長を任されるだけあって大変に美味で次から次へと食えそうな味だった。
「ぷはー! 食った食った。やっぱり料理長の飯にハズレはねぇな」
満足そうに呟く五条は空になった皿を洗い場まで持っていき、そのまま3人を連れて厨房を出た。
「あっ、見~つけた~♪」
「げっ!?」
そこには目からハイライトが消えた白崎が立っていた。
「ねぇ、なんで私の前から消えちゃうのかな? ハジメ君も私の前から消えちゃったし、もしかして私って嫌われてるの? ねぇ、答えてよ五条君」
「うわ~、超メンドクサイ。ぶっちゃけると今の白崎は俺嫌いだな~」
「「「それは言っちゃダメなやつだろ!!」」」
メグミとユウジとノバラから総ツッコミが入る。
「まったく、晩餐会に姿を見せないと思ったら、こんな所で何をモメてるのよ」
今にも包丁を持って襲い掛かりそうな雰囲気の白崎の後ろに八重樫が立っていた。
どうやら、いつまで経っても晩餐会に現れない俺を(何かやらかしていないかと)心配して探しに来たようだ。
「ちょうど良かったわ。そいつのこと頼むわ。俺らもちょうど出て行こうかと思ってたしな」
「フシュー、フシュー」
謎の呼吸音? を吐き出す白崎の面倒を自分に丸投げする五条に苦笑いしながら、暴走しそうな白崎を後ろから羽交い締めする八重樫。
「ちょうどいいって、あんたね……。ってか、その子たちは一体誰なの? それに出ていくって、まだ帝国の人達もいるってのにもうホルアドに帰るわけ」
「いんや、もうあそこの迷宮にも飽きたし、そろそろ別の場所に遊びに行こうかなって思ってさ」
「別の場所にって、そんなことしたらまた愛子ちゃんが心配して泣き出すじゃない!」
確かに、このクラスの中で……いや、全世界で唯一と言っていいほど純粋に五条の心配をしてくれるであろう愛子先生の泣きわめく姿が楽に想像できる。
「まあそこは雫に任せるよ」
「はぁ~、だと思ったわ。もうあんたについて悩んだりするのがアホらしいわね。けど、せめて目的地ぐらいは話してくれる?」
手の付けられない駄々っ子の育児に疲れた母親のストレスのようなものが八重樫を襲うが、委員長気質な八重樫はせめて行き先だけは聞いておこうと五条に尋ねた。
「う~ん、そうだな。とりあえずは、フューレンって街に行く予定さ」
次なる騒動の予感がフューレンに迫る。次回フリートホーフ死す!デュエルスタート!!
次回からようやく別の街に行きます。
本来ならば最下層のボスを倒して次に行きたかったのですが、それは後々のお楽しみということにします。
それと、この作品のファンの皆様には申し訳ないのですが、私のもう一つ別の作品である短編小説の『回復系聖女に憧れた子がバーン様みたいになっちゃった件について』を本格的に書き上げたく、現在はそれに本腰を入れようと思いまして、しばらくの間はこの小説は凍結扱いになります。
もしかしたら、息抜きや面白い展開がパッ!と思いついたら1話投稿するかもしれませんが、『回聖』が完結するまで首を長くしてお待ちください。
次のIFで五条が飛び込む世界
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