碇シンジは夢を見る   作:ゼガちゃん

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お久しぶりです。
気付けば前回の投稿から丸2年……やらかしました。

色々と変化があったので投稿が遅れてしまって申し訳無いです。
前回の続きからになってますので、忘れてる方は是非前々回から読んで頂けると幸いです。


碇シンジの現実⑤

サンダルフォンを撃破した日のこと。

使徒殲滅の報酬として、修学旅行にあぶれたシンジ達はミサトの計らいで近くの温泉旅館へ来ていた。

 

一生に一度しか訪れない学生の思い出の中で修学旅行へ行けない事に不満はあった。

しかしながら、こうして配慮をしてくれたのは実に有り難い。

 

そうして夜は更けていき、就寝の時間が訪れた訳だ。

 

「なるほど、『平行世界』の事を知る人が現れた、と」

 

「はい」

 

寝静まった夜。

旅館で用意してくれた寝巻きを着てシンジは旅館にある大きなスペースでリツコに会っていた。

シンジは男子陣と、リツコは女子陣とそれぞれ部屋を用意されている。

他の面々に『平行世界』の話を耳にされるのも避けたかった。

 

今回、真希波マリの登場で発覚したシンジ以外に『平行世界』の存在を知る者。

その存在が果たして肯定的か、はたまた否定的な意味を持つのかの判断が付かないからだ。

 

考えたくはないが、内部にスパイが居ないとも限らない。

あえて旅館で集まっても不自然ではないスペースを選ぶ。

誰かが来ても分かるように端のスペースを陣取る。

 

ここを選んだのはリツコで、先に来て盗聴等の心配も無いのを確認してくれていた。

彼女には頭が上がらない。

 

「仮設伍号機と、そう言っていたのね?」

 

「はい。僕らのとは違う部分はありますが間違いなくエヴァでした」

 

人型ではなく、戦車に近いだろうか。

上部は人体を模していたのでケンタウロスを彷彿とさせる出来合いであった。

 

仮説伍号機を思い浮かべながら他に伝達すべき事柄は何かと思案し、マリの口から語られた理念を伝える。

 

「使徒の手で人類が滅びるのを防ぎたい――――そうは言っていました」

 

「使徒への対抗策を持っていて、その理念だけで済むのなら大したものだけれどね」

 

シンジからの伝言ゲームの内容をリツコは素直には受け取らなかった。

NERVの人間として、警戒心が強いのは悪い事ではない。

 

NERVの内部でリツコは技術的側面、特にエヴァの存続に大きく関与している。

土台を作ったゲンドウ、冬月、パイロットであるシンジ達も確かに重要である。

それでも屋台骨は間違いなくリツコだ。

 

エヴァの建設に関わっている彼女が居なくてはNERVの存続は厳しいものがある。

赤木リツコ無くしてNERVは成り立たない。

何せエヴァ関連の事柄に関して、彼女が居なければ成り立たない事は多いからだ。

そう考える程に彼女の存在は大き過ぎる。

 

本人も自分の重要性を理解している。

部下にも自分の知識を惜しみなく与えてはいるが、やはり自分にはまだ届かない。

 

何かを取り込み、自分を失う事はNERVの――――ひいては人類の敗北と言って良いかもしれない。

ただし、NERVの事を知っているのならばリツコの有用性は知っている筈なので、彼女へ危害を加えるだなんて真似はしまい。

 

問題となってくるのは相手が時田シロウのように考えが甘い場合だ。

使徒の事を正確に把握していないのに、自分達でどうにか出来ると過信している者達が厄介だ。

 

そんな人達がNERVを目の上のタンコブと思うだけならまだ良い。

取って代ろうとして、全員を追い出し、技術も失って機能不全に陥らせられたら終了だ。

 

最悪の想定をリツコはしている訳だ。

 

―――リツコさんが居なかったら、とっくにNERVは終わってたんじゃ?

 

彼女の警戒心の強さは正解だと思う。

相手は未知なる存在。

言葉でどんなに取り繕うとも、本当に味方かどうかは不明だから。

 

自分の存在価値をきちんと認識し、更には他所の警戒も怠らない。

彼女へ掛かる負担もまた大きい。

 

「ボーっとして、どうしたのシンジ君? 何か考え事かしら?」

 

「いえ、その…………リツコさんには頭が上がらないなと考えてました」

 

シンジが思考の海に潜っていると、リツコが意識をサルベージする一言をくれた。

危ない危ない、本筋から思考が脱線するところだった。

 

「そんな、大袈裟ね」

 

「いえいえ、こうして相談事が出来るのもありますけど、エヴァ関連はリツコさんが居ないと成り立ちませんから」

 

「………………本当、そう言ってくれるのは嬉しいわ」

 

リツコは言うと目頭を抑える。

彼女を慕うマヤを筆頭に、感謝をしている者が居るのは違いない。

ただ、多忙な彼女の事だ。

こうして面と言われる事に慣れていないのだろう。

言われたとしても右から左へ流していても不思議ない。

 

「話を戻しましょう。

 シンジ君以外にも『平行世界』を知る人が現れた事が気掛かりね」

 

感動もそこそこに、リツコは新たな議題を提示する。

件のマリの発言から『平行世界』への往来…………最低でも観測をする方法があるという事。

 

正直な話をすると『平行世界』との往来だけなら問題はない。

ただし、その人物が持つ情報が“大きく違わないのも問題であった。”

 

もっと深く告げるなら同一人物が別の世界で暮らしている。

境遇が違えばというIFの世界とでも言おうか。

それでも本質が変わらない者が多かった。

 

シンジが『平行世界』で出会った面々の内面は大きく違わなかった。

そこから対人関係等といった情報を入手する事も困難ではない。

 

無論、100%ではない。

現に『綾波レイ』より綾波レイの方が感情の起伏が薄いという相違点はあった。

 

「そもそもどうして僕は『平行世界』行けるんでしょうか?」

 

決まって『平行世界』の往来には睡眠が関与している。

それに毎回ではない。

何かしらの制約があると考えるのが妥当だろう。

 

「仮説があるわ」

 

「本当ですか!?」

 

シンジが食い付くのも無理はない。

これまで『平行世界』の手掛かりは見付からなかった為だ。

 

「あくまでシンジ君が『平行世界』へ行ける理由の予想でしかないのだけれど、構わないかしら?」

 

「それでも構いません」

 

ならば良いと、リツコは話を始める。

 

「睡眠よりも『夢』を見ているというのが重要なのだと考えているわ」

 

「『夢』ですか?」

 

リツコの言おうとしている事を理解する為に言葉を反芻する。

寝ている時に見る『夢』というのは話の流れで分かる。

しかしながら、それがどういう意味を持つのか?

シンジの疑問を知ってか知らずか、リツコは話を続ける。

 

「現代でこそ『夢』のメカニズムは解明されているわ」

 

「脳がその日にあった事を整理している、とかでしたっけ?

 あとは脳が働いているから深い睡眠をしている訳では無い、とか」

 

「その解釈で良いわ」

 

あれこれ説明すると長くなるし、今回の趣旨とは異なる。

『夢』を見る事がどういう事なのかを知っていれば、それで良い。

 

「重要なのは『夢』というものが大昔は“どのような考え方をされていたのか”」

 

科学の進んだ現代的な考えではなく、大昔ではスピリチュアルな考え方をされるのが自然だ。

勿体ぶっても時間の無駄なので、リツコはサクサク話を進める。

 

「ズバリ、『魂が抜けている状態』と考えられていたわ」

 

「想像豊かですね」

 

けれど、科学も何も持ち合わせていない時代ならだいそれた可能性を考慮しても不思議ないか。

さて、そんな大昔の『夢』の定義を聞かされたという事はそれこそがシンジが『平行世界』を往来する仮説として成り立つのだろう。

 

「僕が寝ている時にだけ魂が抜けて『平行世界』へ行っていると?」

 

「あくまで仮説だけれど」

 

どうしてそうなるのかと問われればリツコも答える事は出来るまい。

あくまでシンジに起きている摩訶不思議の仮説を発表しただけなのだ。

念の為に予想でしかない事を強調するリツコ。

 

判断するには材料が足りないと暗に告げている。

それもそうだ。

 

あくまでシンジから話を聞いているだけでリツコは実体験した訳では無い。

仮に実体験したとして、それが本当に『平行世界』なのかどうかも疑わしい。

気が付いた時には布団の上なのだから。

 

むしろ、一方的な話を信じてくれているリツコの方が人間が出来ている。

一応、『平行世界』とも通じる共通のネタを提示したが故のものでもあるが、それでも信じるには難しかっただろう。

最も、様々な状況証拠を(それこそシンジの自爆もあるが)用意したのも理由としては強いだろうか。

 

「けれど、シンジ君の身に起きている事はそういう不可思議現象が理由ではないかと考えられるわ」

 

「そこは、確かに」

 

正直、『この世界』の基準まとエヴァンゲリオンや使徒、四季が消滅して夏しか存在せず、殆どが海に覆われた地球だと考えると一概に「不可思議」とは思えないのだが。

 

―――それは『平行世界』に染まりすぎたのかな。

 

最近の知識や体験の大元となる『平行世界』は平和そのものだ。

エヴァンゲリオンやら使徒やらは存在しないし、四季はきちんと存在する。

 

比較するのは失礼かもしれないが、羅列するだけでもこれだけの差が存在している。

 

「何が起きても不思議に思えないんですよね」

 

『この世界』の常識は『平行世界』のものとは懸け離れている。

逆もまた然り。

 

そして、エヴァンゲリオンや使徒といった存在も殆どの人間が知らない情報だ。

突然の出現の折には「非常識なもの」と認知されていた。

しかしながら二度、三度と使徒の出現とエヴァンゲリオンの出撃が繰り返された結果、その「非常識」は「常識」へと書き換えられた。

 

在住している第三新東京市では「常識」となってしまった。

だが、感覚が麻痺しているだけでエヴァンゲリオンと使徒は外から見たら「非常識」の存在なのだ。

 

「僕達の『常識』の中に『非常識』が組み込まれてるんですよね。

 そう考えると本来なら『あり得ない』と一蹴できるものも“できなくなった”」

 

「ええ、その通りよ」

 

シンジの話を信じる根拠として、リツコが常に『非常識』の隣で生活してきたのも1つ。

エヴァンゲリオン、使徒――――慣れ親しんでしまったワードだが、再三の発言の通りに『非常識』の存在ばかり。 

シンジの発言を頭から否定するのにはそれだけの根拠を必要とする。

それはかなり柔軟な発想ではあるが。

 

「科学者がこんな非科学的な事を考えるのはどうかと思うけど。こういうのはミサトの役割な筈だけど」

 

論理的な考察こそリツコの本分。

こういった感覚的な考察はミサトの方が適任ではある。

 

「良い意味でミサトさんの影響を受けているんですよ」

 

「確かに、そうね」

 

ミサトとの付き合いの長さによる影響なのだと自分へ言い聞かせる。

時折、科学的なアプローチでは限界がある時には助けられている。

シンジに指摘され、改めて思考の柔軟さを思い知る。

恐らく今頃就寝しているだろう友人に心の中で感謝をする。

 

「ごめんねシンジ君。力になってあげたいのだけれど、あまりにも情報が少なすぎて推論の域を出ないのよ」

 

「いいえ。こうして相談に乗ってくれるだけでも有難いです」

 

相手は聡明なリツコだ。

シンジにとってこの上ない相談相手である。

 

「自分から持ち掛けておいて申し訳無いのですが、無理だけはしないで下さいね」

 

屋台骨の彼女がダウンしてしまってはNERVは瓦解してしまう。

エヴァ関連のみならず、様々な面で負担を掛けているのだ。

無茶だけはさせたくない。

 

「心配してくれてありがとう。だけど、平気よ。

 こうしてチルドレンのメンタルケアをするのも仕事のうちだから」

 

「…………ありがとうございます」

 

それはリツコの負担になるのではと先程から再三告げているのだが。

承知の上なのだろう。

 

まだ年端もいかない少年少女を危機に晒している負い目もあるだろう。

シンジは感謝の言葉へ変える。

 

リツコは大人として出来る事を精一杯やってくれている。

ミサトやオペレーターの面々も、だ。

父のゲンドウや冬月もNERVのトップという立場を考えれば仕事は大いにあるだろう。

 

ここで「心配している」と伝えても良い。

リツコと話していて“そういう事ではない”のだと確信した。

 

各々が成すべき事を成している。

それだけの話だ。

 

もし、逆にシンジが言われたなら気にする必要など無いと返答する。

だって、彼は成すべき事を成しているだけなのだから。

 

お互い様というのがしっくり来る。

だから、心配するのは心の中で留めておく。

 

だから、感謝の言葉で締める。

 

「…………いえ、どういたしまして」

 

リツコも言葉を発するのに少しばかり間が出来てしまった。

シンジの内情を読み取れてしまったからだろう。

お互いに気持ちを尊重し、それ以上は言わない。

 

「何かあったら、その時に」

 

踏み込むのは今ではない。

今後、何かあればズカズカと入っていく宣言する。

 

「そうね、その時はお願いするわ。いざとなったらミサトにも頼るようにするわ」

 

そんな時が来ないように手を打つつもりだが――――と、リツコは密かに決意した。

しかし、ミサトを頼ると口にしたのは本音だろう。

その事にシンジは少しばかりホッとしている。

心労の絶えない仕事なので頼る相手の存在は大きいので安心した。

 

「さて、そろそろ話もお開きにしましょうか」

 

人目を忍んで深夜に合流したが、もう日付も超えている。

NERVの配慮で修学旅行代わりに温泉に来ているだけ。

あとは帰宅するだけとは言え、その為に運転をする人物が必要な訳だ。

 

「今頃ミサトは酒盛りしてるでしょうから」

 

「ご迷惑お掛けします」

 

まるで預かっている者と保護者のやり取りだ。

この様子をミサトに聞かれていたら何を言われるか。

 

 

 

 

 

「こ〜んなところで〜、何をしてんのよぉ〜〜〜」

 

 

 

 

 

噂をすれば何とやら。

ミサトがベロンベロンに酔って登場した。

 

ここは旅館。

かろうじて浴衣を着衣しているのが幸いか。

 

「うぇ〜い、シンちゃぁ〜〜〜ん!! 何をしてるのかなぁ〜〜〜?」

 

「うわっ、ミサトさん!! 酒臭!? しかも酒缶を袋いっぱい入れて飲むつもりですか!!」

 

座るシンジへ近寄ると、肩を組んでくる。

絡み酒かつ、手には酒缶が大量に入った袋。

おまけに酒缶は片手に持っているのだ。

 

「堅いこと言いなさんなぁ〜。これは〜、勝利の美酒ってやつよぉ〜〜〜」

 

「いつも家で同じ台詞を吐いてますよね?」

 

「はぁ、そんな気はしてたわ」

 

ミサト宅にて彼女は勝利の度に酒を飲んでいる。

その事は内密にしていたが、つい口走ってしまい、リツコに知られる事に。

付き合いの長いリツコは「やっぱり」と呟いたので、知られたのが彼女で良かった。

 

「ほらミサト、部屋に戻るわよ」

 

「は~~~い。部屋に戻って飲みま~す」

 

「僕も手伝います」

 

シンジとリツコが酒に溺れた大人に肩を貸して部屋へ向かう。

 

送り届けた際、彼女は腹に入れていたものをトイレにリバースしてしまった。

 

「…………ミサトには頼らないようにするわ」

 

人知れず評価されていたのにも関わらず、知らぬ間に大きく評価を落とされる呑兵衛(ミサト)なのであった。




如何でしたでしょうか?

今回は『平行世界』に関する内容をピックアップしました。
深堀りとまでは言えませんが。

殆ど会話劇ばかりなので、本編はあまり進みませんでしたが次回は……進められると良いなと思いながら。

なかなか執筆が進まないですが、忘れた頃にこっそりと上げていきます。
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