1.玄関先の攻防
「おかえりなさい、比企谷くん。早速だけれどこのカメラはなにかしら」
仕事を終えて帰宅してきた彼を玄関で迎える。結婚して2年と少々、いつもの少し気だるげな声のただいまにそう返した。ドアを閉めようと背中を向けていた彼の肩がビクッと震え上がった。打ち上げられた魚の様相である。
「実は同僚に誘われてだn『嘘ね』いやあのね」
「あなたを誘う同僚がいるわけがないじゃない。新歓すら直帰してやったと威張っていたのはあなたでしょう」
「……」
勝った。しかし妻ながら夫が仕事場でしっかりコミュニケーションを取れているのか未だに疑問である。というかそれで仕事ができるのかしら。いやそうではなくて。
「一眼レフはかなり値が張るはずなのだけれど。相談、あったかしらね」
そういってカメラを持ち上げながら綺麗な笑顔を向ける。惚れた女の笑顔なのだからさぞ罪悪感に苛まれることでしょうね。
……ちょっと、怖ってなによ。
「で、本当はなんで買ったのかしら」
「いや男のロマンといいますか物を揃えたくなってしまう男ごk 『本当は?』最後までしゃべらせてくれよぉ!」
なんとも活きが良いことである。やはり魚ね。あと玄関先でうるさい。
「というか男のロマンでしかねぇよ。親父が持ってるからちょっと憧れてたんだよ悪いか」
「そうかしら?あなた、そんなにお義父さんと仲が良かったのね。」
「おい、否定はしないがおい」
「それにムシ谷くんはいつもコソコソとしているけれど、こっそり買うものは引き出しの奥にある本ぐらいじゃない。どうしたの?顔が青いわよ。……ちゃんとカメラの説明なさい、もしかしたら許しが出るかもしれないわよ」
「えっ、ちょっと待ってまず俺は虫じゃないから。てかなんで本のことまで知ってるの」
「そんなことはいいから、はやく」
「いや、子供産まれるだろ。だから……」
そう顔を赤らめて彼は言う。
やっぱり、こういうところが一色さんの言う彼のあざといところなのかしらね。わざとじゃないところが憎たらしい。嬉しく思ってしまうにも少し腹が立つ。
だからちょっと仕返し。
「そう、あなたのそのやり方、嫌いだわ。だから今度からはちゃんと相談することね」
「ぐっ、悪い」
そう言ってそっぽを向く彼、頬が赤くなっているのを隠せていない。それもそうだろう、これはいつかの焼き増しだ。
「ところで、──」
「ん?」
「改めてこの本なのだけれど」
「いや良い話で終わりそうだったじゃん。やめろよ」
そういって決まりが悪そうに弁明を始める彼。
まだまだ私たちの玄関先の攻防は終わりそうにない。
2.おまけ
『就職』それは労働者が働き口を得て社畜になることである。労働者達は各々の時間を対価に給料を求めて働き続ける。そしていつのまにかサービス残業をさせられているのだ。働きたくねぇ……
大学の卒業まであと僅かといった頃、就職もなんとか果たし、残りのモラトリアムを家でぐだぐだしていたのが懐かしい。といっても卒業直前は雪ノ下によって矯正されていたが。なんで部屋の合鍵持ってるんだアイツ。あれか、小町か、小町なのか。まぁそんなこんなでこれが常態化していき、いつのまにか同棲状態になっていたのだが。あれ?雪ノ下の適応力、高すぎ…?
こんな回想をしているがそろそろ現実を見なければ
「あら、まだ家を出ていなかったの?今日は入社式じゃなかった?」
ほらね(涙)
「今日からここの部署に配属になった。比企谷だ。色々教えてやれよー」
『『はーい』』
えっあなた案内役じゃないの?話しかけなきゃいけないの?やはりぼっちに働くのは無理だったか。
「キョロキョロしてどうしたん?あ!仕事がわからないんだろーこっちこいよ」
「グエ」
「なにその声」
いや急に後ろから捕まれたらそうなるでしょ。オレワルクナイ。
────
「じゃあこれはこうすればいいんですか?」
「おー、そうそう!飲み込み早えー」
「うっす」
この先輩、ノリは軽いが面倒身がいい。てかもう戸部だろ。
「おーい、もう今日は終わりだぞ。そうだ、お前らも新歓いくか?」
「もうそんな時間なん?新歓とかいくしかないしょ!比企谷くるー?」
「いえ、遠慮します」
「えーそんな冷たいこと言わないで行こーよー」
「出来ませんよ」
──家で彼女が待ってるので
3000文字書く方ってスゴいなという話
誤字脱字は友達です
指摘いただければ