FGOの絶対魔獣戦線バビロニアとのクロスではなく、石川賢大先生の魔獣戦線とのクロスオーバーです。
2021/05/01 誤字の訂正
赤眼の獣がいた。
後天的に刻まれた呪いを使い、悪魔の如き力でバケモノを抹殺する。
仲間の生死なんでお構い無し。いつだって自らの目的のために力を振るう。
そんなことから『死神』『疫病神』『戦場で髑髏を拾う者』『地獄への水先案内人』などあげたらキリがない程の悪名を持っている。
───これはそんな獣の一
里見蓮太郎は鬱々とした表情で行列にいた。
目前に広がる商店街はいつもより活気づいているが、蓮太郎の心情はブルーだった。
それもそのはず。世間では七夕祭りが2日間にわたって催されているというのに、蓮太郎はただひたすら行列に並んでいたのである。
辺りには屋台が設営され、七夕になぞらえた様々な商品が並べられている。材料費を抑えるために今日くらいはいいだろう、という半ば主夫のような思考回路で列に並んだものの、かれこれ数十分近く列が動いていない。流石の蓮太郎もこれには気分も悪くなる。
気を取り直すように息を吐き、顔を持ち上げたその時だった。
───蓮太郎の視界に「黒」があった。
商店街の大通りの中央部。
そこに、黒いロングコートに身を包んだ少女が立っていたのである。
顔を覆うように目深に被っているフードに、そこから覗く黒く長い髪と白い肌。フードによって見えづらくなっているものの、その下から覗く吸い込まれるような瞳を有していた。
ここ数年間で、嫌という程見てきた真っ赤な瞳を。
「……呪われた、子供?」
思わず目を擦る。そんなこと、あるはずがない。
呪われた子供たちは確かに目の色は赤いが、あの場所にいた少女は自分が知る少女たちよりもずっと歳上だった。恐らく、蓮太郎と同じか一つ下くらいだろう。
数回瞬きをしてから、再び大通りの方に視線を向ける。
するとそこにはもう、少女の姿はなくなっていた。
「……なんだ、気の所為かよ」
「───悪いけど、気の所為じゃないよ」
「うおっ!?」
安堵の息を吐こうとした瞬間、不意に真後ろから響いた声に、蓮太郎は肩を震わせた。
恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはつい先程まで通りに立っていた少女がいた。
少女は赤い瞳を何度も瞬かせながら蓮太郎を見上げていた。
「私になんか用でも?」
「な、なんかってお前……どうしてあんなとこに」
少女はポケットに手を突っ込んだまま蓮太郎を睨めつける。
「どこに居ようと私の自由じゃない」
「そりゃそうだが……」
「……なに、ナンパでもしようとした?」
「そんなわけねえだろッ!」
ジトッとした視線を向けられて、堪らず蓮太郎が声を荒らげると、列に並んでいた別の客に睨まれる。
居辛くなった蓮太郎はどうしたものかと悩んでいると、突然少女が蓮太郎の腕を掴んだ。
「あ……?」
少女はそのまま真っ赤な瞳を細めて言った。
「……ふーん、あんた面白い匂いしてるじゃん。どこの誰だか知らないけど、今から私に付き合ってよ」
蓮太郎は顔を掌で覆うと小声で呟いた。クソッ、変なのに関わっちまった。
7月6日。
二つの黒が出会った。
少女の願いを断ってもよかったのだが、断ったら声あげるからと脅迫されたため、泣く泣く少女のうしろを着いていた蓮太郎は、そのまま少女の後ろを歩き続けていた。
「なあ、おい。お前はどこに向かってるんだよ」
そして歩き始めてからどれくらい経った頃だろうか。蓮太郎は何とはなしに少女に訊ねた。
少女は足を止めて蓮太郎を睨めつけたが、やがて諦めたように息を吐くと目を閉じた。
「お前じゃない」
「じゃあなんなんだよ」
「アスカ。
「里見蓮太郎だ。よろしくな、海上」
「アスカで。海上呼びは好きじゃない」
「なら俺も蓮太郎でいい」
「わかった。それと、場所はそのうちわかるから」
少女───アスカはそのままゆっくりと歩き出すと、蓮太郎の前方を歩く。
声は凛としていて聞き心地がいいのだが、言葉の一つ一つの負の感情が込められていてあまりいい気分とは言えない。
それが、蓮太郎が海上アスカという人間に抱いた第一印象だった。
自己紹介からさらに数分だった頃だろうか。アスカは唐突に足を止めて、前方の建物を指さした。
「あれ」
「あれって……お前」
蓮太郎は堪らず冷や汗を垂らした。外装が剥がれ、草木がまとわりつきとてもじゃないが七夕に似合った建物とは思えない。お化け屋敷とかの方が通用するだろう。
しかし、よく目を凝らせば文字は掠れているものの、高等学校と確かに記載されていた。
「高校か……?」
「そんなの見ればわかるでしょ」
「……なんでこんなところに来たかったんだよ」
一々無駄な言葉が多い奴だな、と言いたくなる衝動を抑えながら蓮太郎はアスカに訊ねた。
「中に入ればわかる。あんたも着いてきなさい、蓮太郎」
「おい、待てよ───」
少女の肩を掴む前に、少女はそのまま建物の中へと消えていく。
このまま帰ってしまっても良かったのだが、どうもその気になれず蓮太郎は頭を搔くと少女の後に続いて建物の中へと入った。
「……」
蓮太郎は無言で前方を歩くアスカを見つめた。
彼女の意図が全く分からない。油断させて蓮太郎を殺すつもりなのか。しかしそれならこんな場所に連れて来ずともいいだろうし、私に付き合ってとも言わないはずだ。ならば、一体なんのために。
「ねえ、蓮太郎」
「なんだよ」
「あんた民警?」
「……ッ!?」
唐突な質問に蓮太郎は警戒心を底上げする。
やはり、この少女に着いてくるべきではなかったか──―。アスカはそんな蓮太郎の様子を見て小さく頸を傾げた。
「なに鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔して」
「一度も俺が民警だってこと言ってねえだろ」
「面白い匂いしてたから。普通の人間の匂いかと思ったら、火薬と血の匂いもかすかに混じってる。少年兵ではないみたいだから消去法で」
「……匂い?」
「そう。まあ、今日会った人間のことなんて信用ならないだろうから、今の言葉は忘れてい───」
瞬間、アスカの体が真横に吹き飛ばされた。
咄嗟のことで反応が遅れたが、直ぐに後方に跳躍。ホルスターからXD拳銃を抜くと構えた。
「おい、アスカッ。大丈夫か!」
蓮太郎の叫び声に返答はなかったものの、苦悶の声が聞こえるので命に別状はないということだろう。
蓮太郎はゆっくりと前に進みながらアスカはを吹き飛ばしたそれを睨みつけた。
牛のような体躯に、鷲のような鋭い眼光。体には体毛ではなく無数の白い羽毛を生やし、大きさは羆ほど。そして、特徴的な赤い眼を爛々と輝かせていた。
見ればわかる、これはガストレアだ。そのはずだ。
しかし───
「……なんの、ガストレアだ」
こんなガストレア、見たことも聞いたこともなかった。
牛のような顔立ちはしているものの、所々に鷲の要素を取り入れている。
どうやってこいつと戦えばいい。そう思っていた時、瓦礫を蹴飛ばしてアスカが起き上がった。
思いっきり吹き飛ばされたというのに、体には目立った傷は無く、その代わりに目を引くものがあった。
アスカのコートの下、白のワイシャツに黒いスカート、黒いアーミーブーツと何とも味気のない格好をしていたがそこではない。
剥き出しになっ肌の部分──その部分に人間はないものがあった。
ボディペイントでも、砂が張り付いてそのように見える訳でもない。正真正銘、わずかな光を反射して虹色の輝きを放つ本物の鱗。わずかにその部分が傷ついていることから、あのガストレアの攻撃はアスカの鱗の部分に当たったということになる。
「……流石によくやるよ、アルタイル。私と同じ奴らにはここまでされたことはなかったよ」
「アルタイル?」
「このガストレアの名前。彦星の牛と鷲からその名前がついたとか。詳しいことは知らないけど」
アスカは歩きながら、蓮太郎の横に立つ。
「アルタイルを殺す。手伝って?」
「手伝ってってお前……」
「あんたはその銃で攻撃してくれればいい。前衛は私がやるから」
「おい待てって……クソッ、ガストレア・アルタイルを確認。これより交戦に入るッ!」
気迫と共に引き金を引く。アルタイルの前脚部分に弾が着弾するも、あまり利いているという感覚はない。
続けて発砲。肉体を突き破り、風穴を開けていくもひるんでいる様子は見受けられない。
急所に当たっていないからか、最期の一発をガストレアの頭部めがけて発砲するも、唐突な雄叫びによって軌道が大きくずれ、明後日の方向に射出されてしまう。
嫌な予感がする。
瞬間、アルタイルがものすごい速度で蓮太郎めがけて突進してきた。
真横に跳んで避けようとするも、反応がわずかに遅れる。
終わった。そう思った瞬間、目の前にアスカが現れ、蓮太郎を真横に蹴り跳ばした。
「アスカッ!?」
先ほど自分がいた位置には右腕が切れかかり、アルタイルに噛み付かれているアスカがいた。
自分の判断がもう少し早ければ───そう思ったそのときだった。
「……捕まえた」
アスカの右腕がアルタイルの頭部をつかんだ。
最期の抵抗で何かするのか?そう思った蓮太郎だったが、すぐにその異変に気づいた。
アスカの右腕が異様に隆起しているのだ。鍛え上げた男の筋肉とは違う、不自然なふくらみ。まるで、内側から何かがあらわれるような、そんな感覚。
「……出てこい、シルバーッ」
アスカの右腕を突き破って現れたのは狼の頭だった。
アスカと同じ真っ赤な目を歪ませ、涎を垂らすその姿は本当に生きているのではと思ってしまう。いや、もしかしたら本当に生きているのかもしれない。
「……行けッ!」
アスカが命令すると、狼は右腕から飛び出してガストレアに噛み付いた。
引きちぎれた肩から致死量の血液がこぼれ落ちるも、アスカは気にした様子も無く跳躍。
「……時間かけてごめん。遅くなった」
アスカは小さく呟くと、さらに左拳を振り下ろす。
風切り音と共に繰り出された拳はアルタイルの頭部に深々と突き刺さった。
「これでもう終わりだから……さよなら」
アルタイルは一瞬大きく暴れるも、頭部を突き破って現れた長い棒が頭を貫通。僅かな痙攣を見せてからアルタイルは完全に機能を停止した。
左拳を引き抜く。アスカの左拳が、イッカクの顔に変わっており、先ほどの棒の正体がイッカクが持つ角であったことを理解した。
徐々にイッカクの顔が元のアスカの左拳に戻り、今起きた現象が夢でないことを悟る。
「おい、大丈夫かよ」
蓮太郎の言葉を無視し、地面に落ちた右腕を拾い上げたアスカは切断部に腕を押し付けた。
一体何をしているのか理解できなかった。そんなことをしたって切断された腕は戻らないというのに。
しかし、異変は起きた。アスカの肩から牙のようなものが飛び出したかと思うと、それが右腕に噛み付く。そして、牙が完全に右腕に潜り込んだその時にはアスカの腕は元通りになっていた。
「心配しなくても大丈夫。ウイルスが体に回る前に腕にウイルスを集中させて切り落としたから。それに、あの子を介してアルタイルの中にウイルスを戻してきたからガストレア化の心配はない」
「お前、一体……」
「私の体は特別なんだよ。体の欠損程度じゃ死なないし、ウィルスでガストレア化することもない。正真正銘、本物のバケモノだよ」
アスカはアルタイルの亡骸に近づくと、角をへし折り、肉体に突き刺した。
アルタイルから流れる気色悪い色をした血液を手で掬うと、それを口に含んで一気に飲み干す。
すると、どうしたことだろうか。
アスカの体に刻まれていた無数の傷が一気に再生を初め、数秒と経たないうちに傷口を塞いでいた。アスカは小さく笑いながら言う。
「改めて名乗ろうか、蓮太郎。私は『新人類創造計画』の都市伝説を聞いて怒り狂った化学者によって生み出されたニューマン───『魔獣』海上アスカ」
アスカがそういうと同時に、生暖かい風が蓮太郎たちの間に吹いた。
廃校舎から出ると、日はすっかりと沈んでしまっていた。携帯には夥しい量の着信履歴が残っており、そのすべてが『藍原延珠』と書かれている。
何も伝えずこいつについて行くべきじゃなかったと後悔している蓮太郎に、アスカは蓮太郎を見上げながら呟いた。
「ありがとう、蓮太郎。これであの子もあの世に送るが出来た」
「俺は何もしてねえよ」
「形だけでも受け取っておきなさい、このおばか」
「……」
綺麗、と言いながら夜空を見上げているアスカの顔を見ながら、蓮太郎は訊ねた。
「……なあ、教えてくれないか。お前がアルタイルって呼んでいたあれはなんなんだ?」
アスカは答える必要ある?と言いたげな視線を蓮太郎に寄越したが、気分が変わったのか、溜め息を吐いてから話し始めた。
「あれは海上博士が作り出したガストレア。試作段階だし、普通のより脆かったから失敗作として研究所から追い出したんだと思う」
海上博士。名前だけなら蓮太郎も聞いたことがある。
有名な生物学者で、数々の実績を残した優秀な人材だったが、数年前から生物化学界の表舞台から姿を消している人物。
最近では死亡説まで流れているが、個々で彼の名前を聞くとは思いもしなかった。
そんなことよりも───
「……人が自ら作り出したガストレア、だと?」
「正確にはガストレアの遺伝子を弄ってるから、改造ガストレアの方が正解かも」
「……なんの、ために」
アスカの言葉に悪寒が走る。ガストレアは人類の敵。それは周知の事実であるはずだ。
そのガストレアを改造して何をするというのだろうか。
「来るべき神の復活にそなえるとか。その為にガストレアを改造し、自分たちの意のままに操れるように画策してる」
「来るべき神?」
「欠番扱いされてるステージV、巨蟹宮のガストレアのことみたい」
「それが現れるってのか?!」
「そんなこと、私が知るわけないでしょ」
ジト目で返され、何と言えない感情になる蓮太郎。
と、そこで蓮太郎はあることに気づいた。
アスカの苗字は海上。そして、あのガストレアを生み出したのは海上博士。
もしかして───
「あれを作ったのはお前の血縁なのか?」
「そう、私の父親。私の体を嬲りものにした人間でもある」
「実の、父親が?」
「神の復活の為なら何だってする。そのためなら自分の家族だって研究材料にするんだよ、あの男は」
そういうアスカの瞳には憎悪が宿っていた。
「だから私は探しているのさ。ある日、全てを知った私を殺そうとし、失敗に終わったと知ったら忽然と姿を消したあの男を……ッ!!」
この瞳はみたことがある。今ではほとんど見せなくなったが、天童木更が瞳の奥に宿しているあのどす黒い炎と同じ───。
蓮太郎は生唾を飲むとアスカに訊ねた。
「お前、これから先どうするんだよ」
アスカはすかさず答える。
「私をこの体にしたあの男たちを殺す。それが私が生きる意味だから」
「……それも終わったらどうするんだ」
「それからのことはその時の私に任せるよ……じゃあね、蓮太郎」
冷たいが突風が蓮太郎に襲いかかり、目を瞑る。
そして、次に目を開いた時にはもう彼女の姿はなかった。
後日。7月7日。何とはなしにまた商店街にやって来ていた蓮太郎は短冊を眺めていた。
願いなんてものは特にない。強いて言えば、藍原延珠や天童木更が幸せになれるようにだろうか。
呆然と眺めていると、一つだけやけにしわくちゃになった短冊があることに気づいた。
蓮太郎は訝しげな表情をしながらその短冊に近づいた。
あのガストレアに似ているが、明確な意思が存在する赤い瞳を有した少女の顔を思い出して、蓮太郎は青空を見上げて一息ついた。
───『それからのことはその時の私に任せるよ』
あの時、アスカが言い放ったときの顔がどうにも頭から離れない。
アスカのあの姿が天童木更と重なったからだ。
あの目は紛うことなき復讐者の目だった。あれは復讐に取り憑かれた者の目だった。もう海上アスカは取り返しのつかえないところまで来てしまっている。
ならばせめて、自分の近くにいる天童木更にはあの少女のような道は行かせないようにしなくては。蓮太郎は覚悟を決めると、ゆっくりと歩き始めた。
ネタが書けなかった。