人か喰種か両方か   作:札幌ポテト

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終わりの異なる世界線


√E

保安官としての仕事は基本的には遺児の対処であるのが、やはり書類仕事も多い。クインケは補給がもう出来なくなったので管理体制が厳しくなった影響でそれに関する手続きが増えたり、グールとの協力という関係があるのでそれに合わせた作戦を新しく考えたりと、上に立つ者程以前より忙しくなった。

 

竜将の仕事も任せられている私の仕事量は副竜将なのに鈴屋くんの倍近くあり、就任して直ぐは寝る間も惜しむ程にめちゃくちゃに忙しかった。だがどんどん効率化してきたので今では定時を少し過ぎる程度に収まっている。

 

そして、逆にーー

 

「高槻先生の新作読んだか?」

 

「見たぞ『ビレイグの腹心』続編っていうかサイドストーリーみたいだったけどな」

 

「あぁ、でもまさか黒幕まで最後は口説き落とすとは思わなかったわ」

 

普通の保安官の仕事量は、多くはない。何故なら管理や運営は上官の仕事だからだ、その代わりに彼らには現場で頑張ってもらっている。少し程度の雑談は気にならない、むしろそれを許さない空気で仕事をする方が疲れそうだ。

 

「あ、成さんも知ってます?グール作家の高槻泉って人」

 

ただ珍しく、私にも話が振られてきた。

 

「知らないわけあるか【隻眼の梟】は有名人だしな」

 

高槻泉、彼女はTSCでもっとも知られているグールだ。それは小説家としてもだが、最恐のグール隻眼の梟という事が公言されているのも理由だ。SSSレートのグールはもはや伝説の存在なのだ、その中身が聡明な美人作家となればギャップもある。

 

「隻眼の梟としてグールの自由を勝ち取る為に戦ってきた、それは賛否両論ですけど……彼女が居るから今の時代があるのは事実ですもんね」

 

ただ彼女の存在は完全に許されたわけではない。恨みを持つ保安官や捜査官は多くいる、しかしグールに憎悪を抱かない人間そのものが少なかったのだから仕方のない事だ。

 

今はグールと人の間を取り持とうと活動を率先して行っている、たまにクインケを片手に突貫してくる相手も居るそうだが、それ受け止めて話し合って、わかり合う事を努力している。居合わせた場合は基本的に私がぶっ飛ばしてしまうが。

 

昔から彼女を知る者としては、世界を悲観せずに笑顔を見せるようになったのは良い事だと思う。

 

「隻眼の梟、副竜将も戦った事あります?やっぱり強かったんですか?」

 

「昔の私にそんな仕事が割り振られてたまるか、それと定時に帰りたいならそろそろ手を動かせ」

 

当時はほぼ二等捜査官だったし、でもこの世で1番殴り合ってはいる。今でもたまに殴られるぐらいだ、昔から尻に敷かれ続けているがこの立場もう死んでも変わらなさそうだ。

 

「う、すいません。がんばります」と言って皆手を動かし始める。しかし手を動かせと言っただけで口は閉じろとは言っていないので雑談は続いていく。

 

私としても仕事さえして貰えば飲み食いしようがどうでもいい、ただそろそろ話を切っておかないと嫌な予感がしたのだ。

 

「でも本当に美人だよな、あれで30代なんだろ?子供も可愛いし、羨ましいよなぁ……」

 

「前世でどんな徳積んだんだろうな……」

 

部下の2人が談笑する、話題もそろそろ切り替わりそうでホッとしていると、一つ気配が増える。

 

「ですよねー、高槻先生を奥さんにするなんて羨ましいですよねー?」

 

嫌な予感が現れた。

部下達が談笑していたら、いつの間にかその背後に死神がいた。

 

「げ、旧多監視対象官……どうしたんですか?」

 

部下達は旧多の事を基本的に不気味に思っている。昔にやらかした主犯格でTSCの死神であり親バカなのが今の彼だ、属性があり過ぎて戸惑うに決まっている。

 

「何、面白い話が聞こえてきたので。高槻先生の作品は僕も目を通してますよ?何度も赫子を交えましたし、久しぶりに会ってみるのも良いですね」

 

「そんな血生臭い関係は嫌なんですけど……」

 

困った顔で部下達が私を見る、なんとかしてくれと言うのだろう。ただそれがトリガーとなったようで旧多の矛先が私に向けられる。

 

「あ、成副竜将。高槻先生は元気ですか?」

 

「……元気だよ」

 

むしろ元気過ぎて息子に赫子の指南をしてるほどだ、もう良い年をしていると思うのだが。

 

「副竜将のお知り合いなんですか?」

 

別に隠してはいないのだが、もうこの後の結果が目に見えてくる。皆の仕事量が絶対に落ちるに違いないだろう。

 

「知り合いも何も、奥さんなんだから家族ですよ」

 

「え?は……えぇぇぇーーー!!?」

 

高槻泉、本名:芳村愛支(エト)は私の妻だ。なんでこうなったのか、正直私も分からない。ちなみに苗字はちゃんと成である、本当に何故結婚したのかと言われたら分からない。

 

そもそも彼女が私に対してそういう感情を抱いていたのがいつからかも分からないし教えてくれない。ただ思い返してみれば勝手に命を助けた辺りから様子は変わっていた気もする。

 

「副竜将、高槻先生が奥さんなんですか!?」

 

「……そうだな」

 

「確かに高槻先生も結婚相手は保安官って言ってたような……」

 

ちなみに結婚したのは竜の事件があって数ヶ月後、一緒に食事をし気づいたら朝になり隣に生まれた姿のエトがいた。酒の勢いで私が襲ったらしい、なので責任を取って今に至る。

 

ちなみに後で知ったが襲われたのは私の方だったらしい、ただ籍を入れた後で言われた。計画的犯行だった。

 

『こうでもしないと、君は踏ん切りがつかないだろ?それにー、子供には父親が必要だもんなー?』と彼女にお腹を押さえながら言われたのが今でも鮮明に思い出せる。とんでもない意趣返しだった。

 

そんな事が色々あって結婚した、ただ式はグール式でグールと一部の知り合いだけを呼んだ形にしたので実は私が結婚している事を知らない人もたまにいる。

 

「ど、どういうきっかけで?」

 

「……古い知人だよ」

 

昔は彼女を女性として意識したことはなかったのだが、今ではこの世で1番愛している。私はちょろいのかもしれない。

 

「いやー、困り顔の副竜将は面白いですね。じゃあ僕はこれで!」

 

そして旧多は去っていった、いつもあいつはこんな感じに悪戯をしてくる。後でめんどくさい仕事を絶対に押し付けてやろう。

 

 

「はっはっは、相変わらずだ。あいつは君を困らせて楽しんでるみたいだねー」

 

エトにこの事を話すととても笑われた。仕事のこともよく話すが、やはり旧多や竜将について話す時が1番多い。というかそれが1番悩みの種を産んでくれる。

 

「エトさんも似たようなものでしょ」

 

ただ属性的には、彼女も似たようなものだ。

 

「ビレイグの腹心、あれ知る人が見れば私って直ぐ気付きますよ。側から見るとあんな感じとは思わなかったですけど……」

 

本気でビビった、彼女の新作というのでワクワクして読んだがこれ元は実話を題材にしている事を忘れていた。そしてエトさん視点の私がとんでもないぐらい無茶をしていたのを見て「こんな人間いないだろ……」とか思っていた。

 

今思い返すだけで頭を抱えたくなる。

 

「ほら、着いたぞ。不甲斐ない顔はもうやめたまえ」

 

「いつもそうするのは貴方ですけどね」

 

「私はどんな君の表情(かお)でも好きだからね」

 

そして頭抱えながら移動していれば、目的地はあっさりと着いた。今は彼女と散歩をしているというわけではない、2人で仕事を終えたので我が子を迎えに行っているのだ。

 

「ほら貴生(きせい)、お父さんも珍しくお迎えにきたぞー」

 

場所は幼稚園、そこに私の面影を持ちながらエトさんの髪色をした子供がいる。私達の子だ、名は成貴生で有馬さんの名前を少し借りている。たまに片目が赤黒くなる半グールであり、もう赫子も出ている。少し気が弱いのは特徴的ではあるが本当にエトさんの息子かと思うほどに純粋な優しさに溢れている。

 

「ありゃ、今日も引っ付かれているな」

 

その息子なのだが、様子がおかしい。いつもならすぐに駆け寄ってくるのだが、背中に誰かが抱きついている。

 

「夫婦揃っては珍しいですね」

 

仲の良い友達かな?とも考えていると、後ろから声がかかる。よく仕事場で聞いているのもあり、それが誰かはすぐに分かる。

 

「おやハイルか、相変わらず凄まじい気配だね。こりゃ今の遼太郎でも手を焼きそうだ」

 

伊丙入、私の上司であり最強の保安官だ。ちなみにその実力は6年前よりも赫子やクインケ操術を高めている事もあり、今ではアラタも使えば旧多以上の力を持っている。

彼女が戦場に出れば殆ど見てるだけで済むぐらいに助かっている。

 

「ハイルは別の意味で手を焼いてるんですけどね……」

 

一方で彼女は書類仕事なんかを全然しないのだ、宇井さんに任されている手前無碍にも出来ず、なんやかんや私の方で処理している。こんな形で真戸さんや黒磐特等、宇井さんの元で雑用をしていた経験が生きるとは思わなかった。

 

「大丈夫よ、遼太郎はあれだけやっても平然としてるし。これからも頼むわ」

 

ちなみに彼女がここに来ている理由だが、簡単だ。彼女も子供を迎えに来たのだ、ちなみに相手は宇井さんで今は保安官アカデミーの教頭をしている。普段は宇井さんの方がお迎えに来ているのでエトさんはそっちとも私関係の話で花を咲かせているらしい。

 

ただその子供についてはまだ会ったこともない。

 

(あかり)、帰るわよ」

 

名前だけは知っている。ちなみに彼女の苗字は宇井になっており宇井竜将とよく呼ばれており、私は宇井さんと混同するので今は彼女を下の名前で呼んでいる。

 

「……あ、ママ!」

 

すると、私達の息子の背後から元気な声が聞こえてきた。どうやら抱きついているのが彼女の娘らしい。そして貴生の手を引いてやってくる、仲が良いのは良い事だなぁと思いながら見ていると、ハイルの前までやってきた灯ちゃんは息子を抱き寄せる。

 

「ママ、これ欲しい!」

 

そして、息子が奪われそうになっていた。最近の幼稚園児は進み過ぎているのか、もう彼女を作ったのかと息子を見てみればすごく困惑している。どうやら本意でないらしいし、グイグイ来られているようだ。

 

ただハイルに聞いているあたりまだ良し悪しの区別をする途中のようだ、ここは母親としての彼女を見てみようと顔を見ると。

 

「良いですよ」

 

「いや良くないが」

 

思わず突っ込んだ。流石に息子が不憫過ぎる、何となくではあるが彼女の娘からは昔の彼女の雰囲気を感じるのだ、息子の受難が容易に想像出来てしまう。宇井さんの要素が今のところ髪色しかない。

 

「欲しいものは早めに目印をつけときなさいさ。じゃないと泥棒に横取りされるかもしれないのよ」

 

「おやおや、早い者勝ちだろう?」

 

「約束したその日にあんな形で仕掛けてくるとは思いませんでしたけどね」

 

そう言ってエトの方を見る、なんだろう。この2人の間でそんな事があったのだろうか、まぁ私には関係ないだろう。

 

「わかった、しるしつけるとく」

 

そう灯ちゃんは言うと息子の首に吸い付いた。え、この歳で印付けるって名前を書くとかじゃないのか。キスマーク付けるのは初めて見たんだけど、こういう大人がやりそうなマーキングを幼稚園児がするのか……?これが普通なのかとエトさんの方を見る。

 

「ハイル、孫ができた時の初宮参りだが」

 

「そうですね、個人的には大きい所が良いです」

 

全然こっちを見ていなかった、というか何を話しているのかも分からない。ただ何となくではあるのだが、息子とこの子は長い付き合いになりそうだなと思ってしまう。

 

「……貴生、強く生きような」

 

涙目で抱きつかれている息子、ただ残念ながらその子が息子を手放す事はないだろう。ハイルの血を引いているなら、その執念強さは間違いない。

 

私は心の中で息子の肩を叩く事しか出来なかった。

 

ただこの時の私は2人が保安官となり結婚するとは、知る由もなかったのである。





望まれている方も多かったので書きました、√Aとは別の世界線ですがもしかしたらもう一個増えるかもしれません。
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