仮面を脱ぎ捨てて   作:どうして

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対戦よろしくお願いします


3人で行く先

「勝負服にランドセルを搭載しようと思うんです」

 

「バカかお前は」

 

 

 さる1月、うちのペルちゃんは若駒ステークスに出走(代走:俺)し、見事勝利を収めた。今回は後方からの追込ではなく、あえて逃げを打っての完勝である。

 ……やっぱつえぇわペルちゃん。これ割とまじでいいとこ狙えるのでは?

 

 メイクデビュー中距離→若駒ステークス出走ということで、ファンのお歴々も「ウィルペルソナはクラシックに行く」と認識したことだろう。いや、そもそも若駒出るまで存在を認識してなかったかもしれんな。未勝利脱出したウマ娘を全員追っている、というくらい熱心なのは根っからのファンやコア層かアグネスデジタルくらいのものだろう。

 

 勝利し、ウィニングライブはなんとかペルちゃんに(前回よりもやや多めの頻度で意識を飛ばしながら)ライブパフォーマンスを行ってもらって後。

 行くぞクラシック!目指せ三冠!をトレーナーと再度共有し、京都レース場からの帰り道で禁忌を犯してしまったのである。

 

 

 そう。エゴサーチ、いわゆるエゴサだ。

 

 

 ざっくり言えば「自分の名前をネットで検索して結果を閲覧する」というものなのだが、匿名のネット社会において有名人というのは得てして言いたい放題言われるものである。

 なんならアイドルと同じカテゴリのウマ娘も、面と向かってセクハラとかはないだろう(そもそも蹴っ飛ばされて返り討ちだろうし)が、SNSやら掲示板では下世話な話に巻き込まれたり「そういう」対象にされてたりするのは容易に想像できる。

 

 だから、基本的に「ネットで何かを言われる立場」の人たちは、精神衛生上エゴサをしないというのが推奨されているのだが。今回あえて手を出してみた。

 

 理由としては要は情報収集のためなのだが、レース運びについて好き勝手言われていれば儲けもの。

 レースの参考になるような意見は練習に反映すればいいし、対抗バのレースを見るときにも有力バにある程度目星をつけて効率的に選ぶことができるようになるだろう。

 内容をペルちゃんに教えなければ教育にも悪くないだろうし。

 

 なんだかんだ時間は有限である。使えるものは使うべきだし、玉石混交の情報源とはいえ、昔とった杵柄というか、ある程度取捨選択ができるようになっていればその情報の真偽もある程度は見分けられるもので。

 

 しかも仮に悪口を言われていたとしても、「なんか言ってるけど画面の向こうのこいつ俺より足遅いしな……」の大人げないマウントでダメージを最小化できるのである。

 コスパがよかった。どんなパワハラ上司でも鉄アレイで殴れば死ぬ理論である。

 

 

 そこで、見つけてしまったのだ。割りと最低な単語を。

 

 

 

 ランドセル世代。

 

 

 

「勝負服にランドセルを搭載しようと思うんです」

 

「もう一度言われたからもう一度言うぞ。バカかお前は」

 

 

 俺は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の変態どもを除かなければならぬと決意した。俺には性癖ががわか……る。気持ちはわかるだが激怒した。

 ……いやそんなに怒ってはないのだが、この手の発言共通の問題として、「配慮」が足りていなかった。

 

 ペルちゃんに、ではない。「去年中学1年生でなかった同期のウマ娘たち」に対してである。

 

 ランドセル世代。デビュー前まで小学生だったウマ娘たちが中心である、ということを指しての言葉だろうが、「同じ時期にデビューしたウマ娘が同じ年とは限らない」理論で行けば、あたかもペルちゃんたち三人が世代の中心かと思われるかもしれない。

 が、クラシック戦線における有力候補はペルちゃんも含めた群雄割拠と言ってもいい現状だった。

 

 その状況でランドセル世代と呼ばれてしまえば、2年前ランドセルを背負っていた世代に含まれる我々はともかく、そうでない娘たちは甚だ遺憾であろう。

 年齢だけで有力バから除かれているのである。たまったものではないはずだ。

 

 

 そこで発想の転換である。

 

 ペルちゃんがランドセルを背負った状態で三冠を取ってしまうのだ。

 

 そうすれば!

 

 ”ランドセル(を背負ったウマ娘が三冠を取った)世代”に!

 

 ほら!

 

 

「ほら!じゃねえんだわ。何度でも言うぞ。バカかお前は」

 

「は??? バカじゃないんだが???」

 

「キレ方がバカなんだよいちいち。てかランドセル(を背負ったウマ娘が三冠を取った)世代の方が不名誉だろ。間違いなく」

 

 

 それはそう。加えて、それになあ、と割と真面目なトーンでトレーナーがこちらを嗜める。

 

 

「そもそも論、レースに出る特定のウマ娘を贔屓したり名誉毀損したりするような記事は、まともな業者なら書けないよ。“ウマ娘産業にかかわるものが一番勉強するのは思春期の乙女心”って言われるぐらい、奴さんたちはウマ娘に配慮してるんだぞ?」

 

「割とどうしようもない飛ばし記事書くところもあるんじゃないんです?」

 

「そういうとこはそもそもうちに直接取材できないようになってるのさ。事実に基づかない、あるいはインタビューされた内容と相反すると生徒から訴えられた記事を書いた人はレッドカード突きつけられるのよ。過激なことにURA(お上)が公表してるから、“その記事を書いた人は正規の取材手続きを踏んでいないから1から10までデマです”って言えるようになってんの」

 

「はえーすっごい……ん、書いた人?記事を発行した会社ではなく?」

 

「そうそう、発行した会社ではなく記事を書いた人、およびその関係者がブラックリストに入るんだ。ライスシャワーの一件からこの手のことには特に厳しくなった……」

 

 

 レースを主催する側(URA)見る側(観客)利用する側(ウマ娘産業に関わる企業)も、思春期の女の子に対するモラルが求められてるんだよ、とつまらなさそうにトレーナーはしめくくった。

 「トレーナー研修の最後には、ブラックリストに入っているやばい人らを人相込みで覚えるのもカリキュラムに含まれてるんだよ」というすごい大人な話も添えて。

 

 いかんいかん。脱線した。ライスシャワーの一件が、ってことは、2期アニメ菊花賞後のライブみたいなことがあったんだろうなあ、というのは類推できるし、なんならトレーナーが不機嫌なのはキングヘイローがメディアで批判されたりしてたんだろうっていうのはなんとなく察せられるけれど。

 今そういう世の中になっていない、というのであればそれでいい。閑話休題といこう。

 

 

「まあ勝負服については三割方冗談なんですが……真面目な話、クラシック三冠を狙うなら自然勝負服の話にはなるし、今日の面談もそれが目的なんじゃないです?」

 

 

 若駒ステークスのレース休みから数日後、レース疲れをゆっくり休んで回復し、練習に復帰する今日の最初の時間を割いてミーティングをしているのである。

 帰ってきてすぐ練習を再開してもよかったのだが、故障のリスクは低くても避けるべきだ。ウマ娘はまだマシとはいえやはり失敗率は0%でない限り怖い。

 パワプロとスパロボで確率を勉強した前世持ちに隙はないのだ。無事是名バ。今生においても援用できる便利な言葉を何よりも優先して、そしてペルちゃんにもよく言い聞かせてある。

 

 レッスン3。“よく休め”だ。

 

 

「……んまあ、そうだな。今日の面談はそのためだ。勝負服の話もしようと思ってたんだが……てかウィル、お前なんで入れ替わってんだ?」

 

「来る途中でゴルシに追われてですね」

 

「絡まれてよく五体満足で練習に間に合うな。才能あるわお前」

 

「うるさいですね……」

 

 

 ちなみにランドセルが勝負服として申請通ったときはどんな服にするつもりだったんだ?と聞かれて、「スク水。旧式」と答えたら「業が深すぎる……」とドン引きされた。

 冗談ですやん。動きやすいことこの上ないとは思うが。

 

 

―――

 

――――――

 

―――――――――

 

 

「面談をする前に前提の共有だ。両者とも、クラシック三冠を狙う、という前提は共有できてるな?」

 

「問題ないと思うけど……これ相棒にも聞かせたほうがいいな。起きるまで待とうか?」

 

「いや、何も今日中に決めなきゃいけないという話でもない。今日は持ち帰ってもらって、後日返事を貰えればかまわないよ」

 

「お題は?」

 

「ステップレースを挟むか否か、だ」

 

 

 ははあ。なるほど。

 

 皐月賞のステップレースおよび優先出走権が獲得できる着順は、弥生賞の1~3着バ、若葉ステークス1・2着バ、スプリングステークスの1~3着バだ。指定のレースの指定の着順に入れば、皐月賞に優先して出走することができる。

 ぶっちゃけこれはある程度目安的なもので、ステップレースでの出走権を確保しなくても出走自体は可能だ。ただ、最大出走可能なウマ娘の数より出走予約が多すぎる場合、最悪クジとかになってしまうおそれがある。

 

 翻ってペルちゃんの現状を振り返ると……なんとなく微妙である。

 

 無敗とはいえまだ2戦2勝。ジュニア級で重賞に勝った娘、入着した娘、年が明けてからすぐのレースの勝ちウマ……ライバルは多い。

 ぶっちゃけ出走申し込みしても弾かれる可能性があるっちゃあある。ジュニア級の黄菊賞で勝っているトゥザスカイに若駒で勝ったから無体な評価はされていないと思うが……。

 

 クラシック有力バ特集!というネット上の記事にも、ビュティアイランド(ツンデレちゃん)オールオアゼム(クーデレちゃん)が名を連ねていた。

 前者は入学して後リギルに加入、後者は専属トレーナーと速攻で契約してトゥインクルシリーズを駆けている。

 レースの経験値という意味では間違いなく向こうの方が上だろう。入学してすぐのレースではこちらが勝ったが、今となってはどうなるかわからない。

 

 向こうがどの程度成長したか、ないしこちらがどれだけ成長できたか、そしてそれがどこまで通用するのか。加えて確実にG1に出走できるという担保。

 これらを確認するためにも、ステップレースは経験しといたほうがいんじゃね?と言うのが個人的な見解だ。

 

 

「その場合はどこに出た方がいいんでしょうね?」

 

「弥生賞かなと思う。若葉でもいいんだが……どうせなら重賞は経験しておきたい」

 

 

 ふむ。まあ特に異存はない。ペルちゃんは極論どこ出ても緊張はするだろうし……問題ないとは思うが相棒が起きたら聞いておく、ということで話を切り上げていそいそと練習の準備を始める。

 

 

 

 ウェアに着替えているときふと思う。

 ずいぶんとこの体を動かすのにも慣れてきた。

 昔違和感があった女性の身体も、見て動揺することがなくなるくらいにはウマ娘(ウィルペルソナ)であることに何も思わなくなっている。

 

 細身の身体を眺めて、はたと気づく。

 トレーナーさん、「俺がレースに出るのが前提でスケジュールを組み立てているんじゃないか」と。

 俺も、「自分が走る前提で話をしていたんじゃないか」と。

 ペルちゃんの意思は、どこに行ったんだろう、と。

 

 ……危ない危ない。忘れるな。この体はあくまでウィルペルソナというウマ娘のもの。あの娘が心の底から走るのを辞めたいと言えば辞めることになる。

 

 

 ……そう。俺の意思なぞ、欠片も価値がないのだ。弁えなければならない。




対戦ありがとうございました
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