小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
八千字が消えた。泣きそうだった。
絶望からエタろうかなと思ったけど頑張った。
コンコンと寝室のドアをノックする。
「入りなさい」
フレイヤ様の寝室に入る。
凄い豪華だ。天幕付きのベッドなんて初めて見たぞ。その近くにはワインが幾つか入っていて、何というか女王様って感じがする。
「こんばんは、フレイヤ様」
「ええ、ヘルンに洗ってもらったの?」
「めっちゃテクニシャンだった。凄いねフレイヤ様の
「ふふふ。それは良かった」
私の格好はヘルンさんが用意した寝巻きだ。
蒼いシルク素材の寝巻きで着心地はいいんだけど、怖いくらいにサイズピッタリなんだけど。いつ測られた?
「寝室に呼ばれたけど、私は何を?」
「なんて事はないわ。そうね、寝る前に貴女の話を聞かせてくれないかしら」
「それくらいなら」
アラビアンナイトだっけ、千夜一夜の物語。
今日は私の身の上話になりそうだが、私の憧れの人の話をした。私が英雄を目指すきっかけとなった、あの灰色の女帝さんの話を。
★★★★★
「はあ!?エレシュキガル様、それ本当なんですか!?」
「事実なのだわ」
「それ、いつなんですか?」
「二週間後には『
リースは顔が引き攣る。
よりにもよって一番苛烈な所で特訓している。最強のファミリアの獰猛さだけならリースだって知っているが女神至上主義のあのファミリアに鍛えてもらえる経緯を知りたいくらいだ。
「それで、私の工房で何を?」
「依頼をするのだわ。最高の一振りを造る為、鍛治士とそして鍛冶場が必要なの」
「えっ、エレシュキガル様は鍛つ事が出来るんですか?」
「鍛つ事は出来ない。素材の加工は鍛治士の領分、私にはその力が無い」
冥界で用意出来る檻などは神の力を使っていたから下界で用意する事は困難だ。だが、似たようなものを劣化版として生み出す事なら出来るはずだ。
「私が創って欲しいのはそれを生み出すだけのパーツ」
「因みに何を造ろうとするんですか?」
「魔槍よ」
「!」
エレシュキガル自身、伝授する事がないと思っていた冥界の槍。
「正確には冥界の武具のコピー。『
「冥界の武具、ですか?」
「冥界ではありふれていた防護機構の一つなのだけど。地上で神の力を使えない。だからパーツが必要なの」
冥界の赤雷は雷とは訳が違う。
相手を焼き滅ぼす程に強力な雷は地上で使えない。劣化版でさえ、その強力さ故にエレシュキガルでさえ、下界で生涯伝授する日は来ないだろうと思っていた。
赤雷の魔槍は細かいパーツやそれに見合った魔力の配分など様々な力をパズルのピースのように組み立てなければならない。難易度だけなら第一級特殊武器の更に上だ。
「だけど、作って欲しいのはあくまで剣」
いきなりルージュが槍を使う事は流石に難しい。
だから、既存の方法では駄目だ。その知識を糧に槍ではなく、新しい剣をエレシュキガルは望む。
「依頼は私が教えた製造法を基に新たな剣の製造」
未知の領域の挑戦。
エレシュキガルがリースに依頼するのは、この武器はリースにしか造り出せないと思っているからだ。鍛冶神ヘファイストスやゴブニュでも椿ですらなく、リースにしか出来ない技術。
「そっか、回路」
「そう。【神秘】の力を持つ貴女しかそれは生み出せない」
ヘファイストスやゴブニュ、椿でさえそれが出来ない。
発展アビリティである【神秘】を利用し、剣に回路を埋め込み、魔力を効率良く逃し自壊させない剣。それが一番上手く出来るのはリースなのだ。
だが、槍ではなく剣の挑戦。
冥槍ならまだしも、剣を造れるのかエレシュキガルでさえ全く予想がつかない。
「……分かりました。依頼は引き受けますが、材料は?」
「ヘルメスに頼んで調達してもらったのだわ。値段は結構したけど払えない額では無かったし」
元々、フェルズの依頼の時から貯金はしていた。
負ければ全て失うなら出来る事はやっておいた方がいい。その為なら貯金を惜しまない。材料費だけで貯金の五割は切ったが、他の装備とかを考えるなら嵩張らない為に用意するのは一振りだけだ。
「因みに、戦争遊戯では何を賭けたのですか」
「私と、ルージュの全てなのだわ」
「っ––––!」
予想以上に重い要求だった。
負ければ全部失うと同義だ。だからルージュを勝たせるだけの剣を依頼しているのだ。何があったのかは問わない。鉄を怒りや邪な気持ちで鍛つ事をすれば、武器もそれに伴うようになる。
「分かりました。依頼、任せてください」
「お願いするのだわ」
炉に熱が篭る。
【鍛冶】の発展アビリティを手に入れ、新しい剣の二代目を終えた次は全く新しい剣を鍛つとはリースと思わなかったが、聖剣を超える剣を鍛つ事を目標とした以上、滾らない筈がない。
今出来る全力を、エレシュキガルと共に造り始めた。
★★★★★
早朝、フレイヤ様の顔が目の前にあって驚いた。
話している途中で寝落ちして、フレイヤ様に抱き締められて眠っていた。これ後で幹部に殺されるんじゃ……怖いから考えるのを止めた。
あと、めちゃくちゃ柔らかくて包容力が凄い。女として自信を無くしそうだ。比べるものではないけど。
朝食を軽く済ませて、エレ様が訪ねてきてステイタスの更新をすると直ぐに出ていった。リースに用事があるらしく、武器の依頼でもするのかなと思いながら装備を整えつつ、エレ様が更新してくれたステイタスを見る。
【フレイヤ・ファミリア】で泊まっているけど、不自由さはない。戦いの苛烈さだけはかなりあるけど。
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ルージュ・フラロウワ
Lv.3
力:I0 → G261
耐久:I0 → E402
器用:I0 → G299
敏捷:I0 → F351
魔力:I0 → G298
神聖:B
耐異常:I
《魔法》
【ソニック・レイド】
・加速魔法
・詠唱『駆け上がれ蒼き流星』
【フロート・エクリエクス】
・全癒範囲魔法
・任意で『魔防』『対呪』の付与
・付与時、精神消費増加。
・詠唱『紡がれし命をここに、永遠に輝く
【スター・エクステッド】
・連結詠唱
・魔法、及び発動中スキルの収束実行権
・収束範囲に停滞属性を付与
・停滞維持にて精神力消費
・願いの丈により効果増幅
・詠唱『集え小さな星々の願い』
・【
《スキル》
【
・早熟する
・対抗意識、宿敵意識を持つほど効果向上
・逆境時に全能力に対して
【
・
・精神力消費
・歌唱時、自身を中心に『聖域』を構築
・【
【
・
・
・
・
・発動中、精神力及び体力大幅消費
・精神力超消費にて精霊魔法行使権
・発展アビリティ【魔導】【共鳴】【祝福】の発現
・現在同化中【トワ】
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「……凄いな」
一日で上がる中では一番じゃないか?
耐久が抜きに出ているのはそういう事なのだろう。魔力も絶えず消費しながら集団で襲い掛かる戦士を相手にし、負ければ臨死から再挑戦。
うん、我ながらヤバいな。
勝つ事に執着してるだけで戦闘狂とかそんなタイプでは無い……と思いたい。
「エレ様、三日は来ないとか言ってたけど」
詳細はよく知らないが、リースに新しい武器の注文を依頼したらしい。それも冥界の女神エレシュキガルにしか造り方を知らない武器をリースに教える為に……
「……まあ、今は仕方ないのか」
エレ様も私の勝利の為に動いている。
変に気を遣って鍛錬が疎かになるのはエレ様も望む所では無いはずだ。
「よし、やるか」
とはいえ、地獄に足を踏み入れるのは想像以上の苦痛でもある。強くなりたいと言ったのは私だが、今日は何回死ぬのだろうか。
……考えたくないな。当たって砕けるしかない。
★★★★★
「がっ……!」
銀の槍が私の脇腹を抉る。
急所に近く、破壊されたらヤバい所だろうがお構いなしに目の前の
「オラ、さっさと回復しろ」
「クソッ……『
速過ぎて見えない。
心臓が貫かれてないだけマシと思えている時点で考えが麻痺してるのかもしれないが、修復して再び魔法を停滞。
「(スピードで確実に負けてる)」
初めての経験という訳ではないが、此処まで隔絶した差がある敵と戦うのは初かもしれない。特にあの槍捌きに加え、脚の速さ。都市最速の称号を持ち、敏捷に至っては【猛者】と引けを取らない。
「(瞬きしたら一瞬でやられる。だけど、攻めたらカウンターは余裕だろうし)」
受けか、攻めか。
どちらにしても殺される二択に涙が出そう。受け流してカウンターを狙うか?それとも強引に攻めて相手のペースを崩すか?
「迷い過ぎだクソチビ」
「っ」
手加減されているとは言え余力だけならLv.5クラスで迫られ、剣で槍を弾いた所で逸らす事さえ出来ず、肩を抉られる。激痛に涙が出そうだが、構えは崩さない。
クソったれ、どうやったらあの化け物から隙を作れるっていうんだ。動き回ろうが守りに徹しようが隔絶した速さに轢き殺される。
「んあ?チッ、時間だ」
「えっ?まだ昼じゃ」
「飯」
「あ、そっか」
銀槍を下ろして去っていく副団長さん。
昼飯の時間、少しとはいえ休憩が入る。肩を修復し、疲労のまま地面に座り込む。
「(どうやったら隙を作れる?)」
あの時と同じ感覚だ。
間合いに入れば負けると思わされる殺気と同じものを感じた。あの女剣士に勝てなかったのも、陣に踏み込めば負けると錯覚させるほどに死のイメージを感じてしまったからだ。
踏み込む時にあれこれ考えてはそれが隙になる。打開策を考えて頭を悩ませるが浮かばない。
「ん?どうしたのトワ」
フワリ、と前に現れるトワ。
魔力がいつもより消費されて出てきた。今気づいたけど、ちょっと大きくなった?
「て、だして」
「……えっ?––––っ!?喋った!?」
いつも念話で口には出さないトワが喋った。念話でも共通語は喋れず、エルフの言語でよく喋る事が多かった。私はエルフの言語は送られてくる歌で覚えていたから問題なかったけど。つーか、喋れたのか。よくよく考えたら精霊って喋れるだろうけど、トワはそんな様子はなかったし……
「らんくあっぷ、から…ちょっと、だけ」
「ランクアップ…器の昇華か!そっか、同化してるから」
トワと私は同化しているなら成長している。
器の昇華と共にトワも今まで以上に力を増している。今まで念話で考えそのものを伝えていたけど、
「ちせい、あがって…コイネー、ちょっと、いえる」
「精霊も成長出来るんだね。えっと、手?」
手を出すとトワが手を重なる。
ランクアップから少しデカくなった気がする。そんな事を考えていると頭の中に映像が流れる。
「かつての、えーゆうみたいなうごき」
「……なるほど」
イメージが流れてきた。
槍に対しての動き方、
かつての英雄は神々の恩恵を持たない古代の戦士。
神々が遊びに来る前、精霊と契約し超越した力を手にしていたが、それは神々の恩恵には劣る。誰もが英雄の資格を得られるだけの力を授かるからだ。
それでも尚、『大穴』の侵攻を止めた一騎当千の英雄。今じゃ考えられない程に泥臭くて、動きも遅いと感じるのに。
「凄いな」
目を惹かれる。
昼休憩が終わるまで、流れ込むイメージに目を瞑り、私は剣を振るってみた。
★★★★★
午後、再び戦いが始まる。
副団長アレンとルージュの一騎討ち。他の幹部や団員は外野から見ている。剣と槍が交差する。鍔迫り合いの中、加速していく戦闘に詠唱を紡ぐ。
「『駆け上がれ蒼き流星––––【ソニックレイド】!!」
一段階の加速、アレンに対抗するだけの速さはない。
だが、身体を更に早く動かせるだけでこの魔法に意味がある。銀の槍の突き、ルージュの反応速度では回避は不可能。
回避出来ないなら致命傷を避ければいい。
「!」
ルージュの籠手が銀の槍を滑らせ突きを逸らす。
肩を掠ったが、動きを封じる程のものではない。薙いでくる槍を手首の回転で軌道を逸らし、間合いを詰める。
「甘え」
「ぐっ……!」
ミキッ、と骨が軋む音が聞こえた。
だがそれと同時に胴体に入る蹴りがルージュの腕で防がれている。踏ん張り、ルージュは吹き飛ばされながら身体を回転、遠心力から『影淡』を投擲。しかし、それも反応され銀の槍に『影淡』は砕かれる。
『影淡』が砕かれた一瞬で再び間合いを詰める。
右手の『
「はああああああっ!!!」
「っ!」
押し負けるならその膂力さえ利用する。
左脚を軸に身体を回し、腰に据えた『緑刃』を左手で振るう。
その攻撃はアレンの胴体に吸い込まれるように捉え、あと一歩の所でアレンは後退し刃を躱していた。
「ハァ、ハァ……クソッ、惜しい!」
「マジか…」
アルフリッドは目を見開いていた。
他の幹部も驚愕の表情を浮かべている。攻撃は当たっていない。ルージュはダメージを与える事は出来ていない。
だが……
「アレンが、
攻撃する時はまだしも、ほぼ一歩も動かずに攻撃を捌く事しかしていなかったアレンが後退した。Lv.3とLv.6。隔絶とした差があるにも関わらず、ほんの僅かにルージュがアレンを押した。アレンに回避される選択を取らせただけでも驚愕ものだ。
「(出来た……けど難しいな)」
敵の力を利用する戦い方。
弾かれたのならそれを応用して身体を捻る力に変換。回避出来ないなら致命傷を避け、間合いを詰める戦い方。格上に対しても長く戦うために相手の隙を作る動きをやってみたが、まだ動きが雑、イメージとは離れている。
「ハァ……うわっ、『影淡』がポッキリ逝った」
砕けて修復が不可能なくらいに『影淡』は壊れていた。
『緑刃』もそうだが、予備はそろそろ今のルージュのレベルに合わなくなっている。ルージュのレベルでは使い潰すのが早過ぎてしまうだろう。籠手の『煉甲』も
「チッ、武器替えてこい」
「えっ、今から?」
「専属に依頼でもしやがれ。テメェは戦う時に素手で戦う気か間抜け」
「それもそっか」
『
戦う前にリースに預けないといけない。戦争前に摩耗して折れたらそれこそ一大事だ。ルージュは戦いを抜け出し、リースの鍛冶場に向かった。
アレンは戦いの中、僅かに動揺した。
ルージュの技は未完成、弱い上に遅い、経験が足りない。
「(未完成であのレベルなのかよ……クソが)」
それでもその成長曲線は自分より上。
その才能に苛立ちを覚えた。幾らなんでも速すぎる。文字通り進化しているようで、追いかけられているようなそんな感覚に内心舌打ちを溢す。圧倒的な差がある。時間と経験という絶対的な差が存在する。
それがあっという間に呑み込まれていく。
追いかけられて追い抜こうとしている存在が貪欲に喰らっていく。その才能を妬ましく思った。