それはスピードの中で進化したデュエル
そこに誇りと魂を賭ける者たちのことを──人々はウマ娘と呼んだ…
(※呼びません)
まさか信じて遊戯王復帰した人間がウマ娘にドハマりして呆然自失顔ダブル天井した所為で遊戯王の新弾買う資金を失くすだなんて…
某月某日、都内のレース場。
快晴の空の下、レース場には熱気が渦巻いていた。
15万超もの観客が見守る先には2つの影。
両者は1周2,400mはあるコースを自らの足で走り、自動車と何ら変わりない速度で駆け抜けていく。
それはさながら超高速の陸上のように思えるが、決定的に異なる点が1つ──
「バトル! ワタシは≪ヴァレルロード・ドラゴン≫で攻撃デース! そして攻撃宣言時に効果発動! 自分場の≪マグナヴァレット・ドラゴン≫を対象に攻守を500ダウンさせマスが──ここで≪マグナ≫の効果発動デース! リンクモンスターの効果対象になった時、場のモンスター1体──≪真六武衆-シエン≫を墓地に送りマース!」
「くっ、≪六武衆の御霊代≫で身代わりにできるのは破壊される時だけ──墓地送りには耐性が…!」
「≪マグナ≫は自身の効果で破壊されマスが──これでグラスの場に壁となるモンスターはいまセン! そのままダイレクトアタックデース!!」
──両者は走りながらのデュエル。
所謂『ランニングデュエル』を行っているのだ。
何故、と思うなかれ。
デュエルモンスターズの歴史は古く、古代では石版に封じられた魔物を召喚し競わせ。
異なる世界線では馬に乗ったままデュエル。
時代が進めばバイクに乗ったままデュエル。
さらに進めばモンスターに乗ってデュエル。
そんな世界に比べれば走ったままデュエルという行為は何ら不思議ではない。
閑話休題。
デュエルは丁度クライマックス。
某世界線で『よき力だ…!』と発言した青年の幼少期の声色で、マスクを付けた少女が自身の相棒に攻撃・効果の宣言で状況は一変。
相手のミスターブシドー系女子に強烈な一撃を与え、ライフポイントが0を告げる。
それと同時にマスクを付けた少女は丁度ゴール板を通過。
デュエルでもレースでも完璧な勝利を収めたところで、観客席からワァっと地が震えるほどの大歓声が沸く。
『ワァオ! エルの勝ちデース!』、『誇ってくれ……それが手向けだ』など、彼女らのトレーナーも某インダストリアルでイリュージョンな会長や
〈流石はエルコンドルパサー!! グラスワンダーのエースである≪シエン≫の魔法・罠カウンターをモンスター効果だけで追い上げ、見事に差し切りましたッ!!〉
〈グラスワンダーの敷いた布陣も悪くありませんでしたが、ラストで巻き返したエルコンドルパサーが1枚
その歓声に紛れるよう実況と解説の声がレース場に淡々と流れる。
観客達の耳にも届いてはいるのだが、それよりも眼前でエンターテイィ↑メントなデュエルを繰り広げた2人のウマ娘──エルコンドルパサーとグラスワンダーに、感動と感謝の声援を上げることに夢中だ。
そんな観客に応えるようにエルコンドルパサーは両手を大きく振りながら観客席前のコースをゆったりと走り、負けはしたが応援してくれた人のためにとグラスワンダーも柔和な笑みを浮かべてエルコンドルパサーに続く。
両者共にデュエルでもレースでも熱く滾るものを魅せ、観客達は一際大きな声援がワっと上がる。
2人はその声援をしみじみと感じ入ると、エルコンドルパサーは満面の笑みと大きく掲げた腕で応え。
グラスワンダーは大和撫子九州男児誉至上主義武士が如く見事な一礼で返す。
そして互いに向き合い、グッとウマ娘特有の剛力で堅い握手。
「おめでとうエル。でも次は負けませんよ」
「ワタシこそ負けるつもりはありまセン! 返り討ちにしてみせマース!」
共に笑みを浮かべた後、2人は再度観客席へ向けて一礼。
本日のメインイベントの
〈エルコンドルパサーとグラスワンダー、両者共に素晴らしかったですね〉
〈えぇ。一時は共に中盤で激しく競り合い、グラスワンダーが≪シエン≫を立てつつ破壊耐性まで持たせる盤石な布陣を敷きましたが、≪ヴァレルロード≫で差し切ったエルコンドルパサーの勝負強さが光りましたね。今後のランニングデュエルにも期待です〉
〈解説ありがとうございます。では次のランニングデュエルですが──〉
「待たせたわねっ!!」
先ほどのランニングデュエルを振り返り、最高のエンターテイィ↑ンメントを魅せた2人の今後に期待。
さて次は、と実況者が声を上げようとしたところで、声が響く。
〈──おっとこれは待ちきれなくてゲートに入ってしまっていますね、彼女〉
〈ちょっとかかっているかもしれませんね〉
緑の勝負服を身に纏い、耳心地が良い高笑いをしながら(既に)ゲートインしているウマ娘が1人。
彼女は幾度も練習した高笑いと、トレーナーから何度もダメ出しを受けたポーズ──ゲートの中で右腕を大きく頭上に掲げ、自分こそが唯一抜きん出た者と言わんばかりに人差し指を天に向ける。
「キングは1人──このキングヘイローよっ!!」
彼女こそ(ジュニア時代無敗の)キング・オブ・キング──キングヘイロー。
名前から既に''王''の称号を持っている、本ランニングデュエル唯一のウマ娘である。
〈外枠ゲートに既に入ってしまっているキングヘイロー。大丈夫なのでしょうか?〉
〈多少かかっているかもしれませんが、まぁ彼女のトレーナーのことも考えたら平常運転ですから問題ないでしょう〉
〈なるほど、ありがとうございます。さて、既に外枠ゲートインしていますが、ただ今パドックから内枠のウマ娘が登場です〉
「キングヘイローさん待ってー!!」
紫と白の勝負服に多少着せられた感があるものの、人懐っこそうな顔は観客席にデュエルで笑顔を……与えてくれる確信があるウマ娘。
地方では育ての親とトレーナーから独自の指導で中央まで来た期待の新星──
〈さぁ続きまして内枠にスペシャルウィークがゲートインです〉
〈おっと、キングヘイローにつられて彼女もかかっているかもしれませんね〉
──スペシャルウィーク。
だが評価は手厳しい。
キングヘイローにつられ慌てふためく姿を愛らしいと捉えるか、大丈夫なのかあのウマ娘と捉えるかで観客席は二分。
現に解説も多少不安な気持ちに駆られるが、当人達はそんな周囲の心配は目に入っていない。
「フフフ、キングとは座して待つ者。スペシャルウィークさんが多少遅れようと、私は一向に構わないわ」
「えっと、キングヘイローさんが待ち切れずに先に行っちゃったと思うんですけど……」
「さぁ私の準備はいつでもできているわ! レース開始の宣言をしなさい係員!!」
「えっ、もう始まっちゃうんですか!?」
〈あぁ、これは両者共にかかっていますね〉
〈こ れ は 酷 い。キングヘイローのペースにスペシャルウィークがつられて、抑えが効かなくなっています。これは荒れますよ〉
あちゃーという声が聞こえそうな観客席と実況・解説席。
突然名指しされたキングヘイローの近くに居た係員は『えっ、オレ?』と困惑した顔になり視線をスタート担当に向ける。
するとキングヘイローの行動に慣れているのか諦めているのか、スタート担当はそっと瞼を閉じ、静かにスタートの準備に取り掛かる。
ダバダバ~と平成初期のギャグ漫画的なダッシュでゲート係員達が一斉に退避すると、準備は完了。
ゲートの中の2人はそれぞれデュエルディスクを起動し、勢いよくブッピガァン! とデッキをセット。
スタートの合図を今か今かと待ち──
──ガコン、とゲートが開く。
「「デュエルっ!!」
そして掛け声と同時に2人は揃って走り出す。
〈さぁ不安が残ったまま始まってしまいましたランニングデュエル!!〉
〈第一コーナーを取った方が先攻です。体力を使ってでも先攻を取るか、それとも後半のスパートに向けて体力を温存して後攻を取るか、駆け引きは既に始まっていますよ〉
解説の言葉にならってか、先行はキングヘイロー。
先のやりとりでスタートこそ失敗しなかったが、未だ慌てふためくスペシャルウィークを尻目に、悠々と先角に向かって走り出す。
(うっ…! 今の私の手札だと後攻を取っても攻められない。後攻で様子見していたらキングさんに攻められちゃう──ここはキングさんと競り合ってでもっ…!!)
だが自分の手札を一瞥したスペシャルウィークは顔を歪ませる。
後攻で一気に攻めるキングヘイロー相手に先行しての先攻は悪手だと思っていたが、キングヘイローの迷いなく先行する様子を見て焦燥。
さらに自分の初手も後攻には向かないこともあり、序盤は抑えようと思っていた脚を爆発させる。
「うおおおおおぉぉっ!!」
「──っ!?」
〈おっとここでスペシャルウィーク上がってきた!〉
〈何が何でも先攻が欲しいという気概が見られます。これは期待できますよ〉
スペシャルウィークの追い上げにキングヘイローも自身のギアを上げ、抜かされないようにとピタリと前に付く。
内に行こうとすれば、半バ身ほど内へ。
外に出ようとしても、背中に目があるのかと思えるほど巧みなブロックで塞ぐキングヘイロー。
「だったらぁあああああぁっ!!」
(──っ、フフフ……)
ならば、ブロックが通じない大外に出るまで、とスペシャルウィークは一度左足を大きく踏み込み、一瞬にして2バ身近く外側へ。
それを一瞥したキングヘイローは僅かに驚いた表情を見せるが、慌てることなく自身のペースを守る。
「うぁああああああぁぁっ!!」
1バ身あった差が4分の1、半バ身と縮んでいき、先頭コーナー入口へ。
そこでスペシャルウィークはさらに加速し怒涛の勢いでキングヘイローに並ばんと迫る。
このスペシャルウィークの猛追に対し──キングヘイローは減速。
「──えっ?」
突然の減速で呆気に取られた刹那、先頭コーナーを最初に駆け抜けていたのはスペシャルウィークだった。
「おーっほっほっほ! 先攻が欲しければ譲ってあげるわスペシャルウィークさん! 何もそんなに必死にならずとも言えば譲りましたのに」
(──っ! やられたッ!!)
しまった、と思った時には後の祭り。
先攻手と思われていたキングヘイローのバクシンスタートも、執拗なブロックも全てブラフ。
目的はスタミナを奪うことだったのかと、スペシャルウィークは僅かに顔を歪ませる。
「わっ、私のターンっ! モンスターをセット! リバースカードをセットしてターンエンドです!」
だが、過ぎたことは仕方ない、とスペシャルウィークは思考を切り替え、先攻王道手を打つ。
様子見として安定のT字配置──つまりはモンスターと魔法・罠カードの1枚ずつのセット。
〈さぁ静かな立ち上がりのスペシャルウィーク〉
〈ゲートではかかり気味でしたが、落ち着きを取り戻しましたね。ここからの好走・好デュエルに期待です〉
定石とも言える初手に実況・解説もまずまずの評価。
焦ってミスをするよりかは、正攻法で落ち着ける方が重要だからこその理解──
「私のターン、ドロー! ≪ツイン・ブレイカー≫を召喚! そしてすぐにバトルよ! セットモンスターに攻撃ッ!!」
──無論、それはキングヘイローも同様。
スペシャルウィークに心理フェイズで優位に立つため、間髪入れずにアクションを起こす。
両腕に刃を装着した黒衣の戦士が、その刃をセットモンスターへ向ける。
セットモンスターが表側になり、ソリッドビジョンとして実体化。
翼竜を想起させる淡緑色のモンスターがその刃に対し、羽根を前面に構えて防御姿勢を取っている。
「セットモンスターは≪シールド・ウィング≫です! この子は1ターンに2回まで戦闘では破壊されません!」
「甘いわ! ≪ツイン・ブレイカー≫は守備表示相手でも貫通効果により戦闘ダメージを与えられるのよ!」
「なら罠カード≪ガード・ブロック≫です! 戦闘ダメージを0にし、1枚ドローします!」
「あら」
モンスター効果とセットカードでの攻防。
破壊されないと思わせ、ダメージを与えようとし、最終的には1枚のドロー。
序盤の競り合いとしては中々激しいあたりで、観客席からは熱の入った声が沸く。
〈両者、共にトバしています〉
〈互いに見事な攻防ですね。モンスター召喚からすぐにバトルに入ったキングヘイロー、焦り過ぎたか?〉
「キングである私が焦り? フフ、とんだロマンチストね! キングとは常に相手の1歩先を行くものよ! ≪ツイン・ブレイカー≫は守備モンスターを攻撃した時、もう1度攻撃できるわ!」
「も、もう1回の攻撃!?」
「さぁ今度はダメージを受けなさい!」
2撃目。
再び刃が振り下ろされ≪シールド・ウィング≫は懸命に防御するも、貫通ダメージは免れない。
≪ツイン・ブレイカー≫の攻撃力1600に対し、≪シールド・ウィング≫の守備力は900。
よって超過した700ポイントのダメージがスペシャルウィークのライフポイントから引かれ、残りは3300。
「自分戦士族が相手の守備モンスターを戦闘破壊できなかった時、手札から≪ソード・マスター≫を特殊召喚!」
「えぇっ!? バトルフェイズ中に特殊召喚!?」
「おーっほっほっほ! 並のキングなら1歩先を行くでしょうけど、私のようなキングは2歩先を行くわ! さぁ、≪ソード・マスター≫で≪シールド・ウィング≫に攻撃! このカードも貫通効果を持っているわ!」
「そんな──アイタっ!」
再度の攻撃。
今度は二刀を持ったアラビアン戦士が颯爽と斬りかかり、≪シールド・ウィング≫は無残にも四散。
1200と攻撃力が低めだったことが幸いしてか、超過ダメージは300に留まり、スペシャルウィークの残りライフポイントは丁度3000。
後攻1ターン目にして早くも4分の1のライフを喪失してしまう。
〈キングヘイロー! 下級モンスターの攻撃とは思えないほどのフィールを繰り出す! スペシャルウィークは体勢が崩れてしまった!!〉
〈流石(ジュニア時代)無敗の王者。良いフィールですよ。さらに隙も見逃さず、レースでもキッチリ前へ出ました。王道と言える展開でしょう〉
実況・解説の言葉通り、スペシャルウィークは3回の攻撃によって発生したフィールでバランスを崩し、その間にキングヘイローが先行。
その様はさながら先陣を行く''王''そのもの。
「おーっほっほっほ! 先行は頂くわスペシャルウィークさん! さぁ、このキングの後塵を拝することね!」
「ケホっ! キングヘイローさんの巻き上げた土煙が喉にっ」
「本当に後塵を拝する必要はなくてよ!? あぁ、もう後でうがいしておきなさい!! 私はカードを2枚セットして、ターンエンドよ!」
最初の競り合いを制したのはキングヘイロー。
スペシャルウィークの手も決して悪いものではなかったが、王道を征くキングの前に王道は愚策。
向こう正面の叩き合いならむしろ望むところだったとも言える。
だが──
「私のターン、ドロー!」
──ここで躓くスペシャルウィークではない。
ドローカードを一瞥すると、『来たっ!!』と喜びを隠せずにニッコリと笑みを浮かべ、ドローカードを小指と薬指で器用に挟み、手札から人差し指と中指で挟んだ1枚のカードをデュエルディスクに挿し込む。
「手札から≪レベル・ウォリアー≫を特殊召喚! この子は相手にだけモンスターが居る時に特殊召喚でき、そのレベルは4になります!」
〈おっとスペシャルウィークここから反撃に出るか?〉
〈彼女の勝負根性は素晴らしいですよ〉
劣勢から追い込みを見せるかの如く加速するスペシャルウィーク。
それにつられるようにデュエルする手指の動きも滑らかで、先ほどドローしたカードを力強くデュエルディスクにセット。
「手札から、チューナーモンスター≪ジャンク・シンクロン≫を召喚!」
「──っ、ここでチューナー……っ?」
『ヤァッ!!』とスペシャルウィークの快活さに劣らない、元気の良い声を発しながら登場する≪ジャンク・シンクロン≫。
場に出るや否や手の平を地面に向け、そこから釣り上げるように手を上げると、地中から先ほど破壊された≪シールド・ウィング≫が出現する。
「≪ジャンク・シンクロン≫の効果! この子が召喚に成功した時、墓地のレベル2以下のモンスター1体を効果を無効にして守備表示で特殊召喚します! 墓地の≪シールド・ウィング≫を復活!」
〈場にはレベル3のチューナーと、非チューナーのレベルが4と2──その合計レベルは9ッ!!〉
〈(トリシューラが)来るぞ、実況ッ!!〉
「私は、レベル2の≪シールド・ウィング≫にレベル3の≪ジャンク・シンクロン≫をチューニング! シンクロ召喚! レベル5! ≪アクセル・シンクロン≫!!」
〈来ませんでしたね〉
解説の期待を裏切って現れたのは真っ赤なバイク系トランスフォーマー。
登場時は人型だったが、すぐにバイクへ変形しスペシャルウィークと並走する。
時速60キロは伊達ではない。
「≪アクセル・シンクロン≫のモンスター効果! デッキから【シンクロン】モンスターを墓地に送り、そのモンスターのレベル分だけ自身のレベルを上下します! 私はデッキからレベル1の≪ジェット・シンクロン≫を墓地に送り、≪アクセル・シンクロン≫のレベルを5から4に下げます!」
「レベル4のモンスターが2体──来るのねっ!」
「私は、レベル4になっている≪レベル・ウォリアー≫に、レベル4になった≪アクセル・シンクロン≫をチューニング! 集いし願いが、新たに輝く星となる! 光差す道となれ!」
2体のモンスターの内1体が4つの緑輪に、もう1体が4つ白星へ転じる。
不規則な軌道を描いて中空を舞い、コンマ1秒にも満たない時間でピタリと1列に並ぶ。
瞬間、激しい閃光がレース場を包む。
対戦相手であるキングヘイローはもちろん。
観客も。
実況も。
解説も。
中継で観戦していた人々が全員、その眩さに瞼を閉じる。
光が段々と弱くなっていくと同時に、バサリ、と雄々しくも煌びやかな羽音がレース場に響く。
開けた視界に入ってきた光景は──星。
星々の輝きとしか形容できない、目を奪われる情景がそこにあった。
闇夜に輝く白星が如く体躯。
宇宙に輝く星々が如く羽翼。
大空を征く翠風が如く光鱗。
「シンクロ召喚ッ!! 飛翔せよ──≪スターダスト・ドラゴン≫ッ!!」
星屑──否。
その名の通り、箒星を彷彿とさせる、流麗にして煌びやかなドラゴン。
≪スターダスト・ドラゴン≫。
スペシャルウィーク──ひいては、彼女のトレーナーを象徴する、不動のエースがレース場に降臨した。
白銀に煌めく翼を広げ、レース場を飛翔する姿はまさしく箒星。
観衆はおろか、実況・解説すらも思わず息を飲み、閉口するほど。
「──
対戦相手であるキングヘイローでさえその雄姿を見るなり、思わず感嘆してしまう。
青空と芝生の境界とも言える空間に、白銀の流星が飛んでいるのだ。
これを美しいと言わずして何と言うのか。
「バトルです! ≪スターダスト≫で≪ツイン・ブレイカー≫に攻撃します!」
ほとんどの者が≪スターダスト≫の美しさに呆けている中、スペシャルウィークは己の足に力を込め、加速。
同時に≪スターダスト≫が彼女の直上を並走するかの如く飛翔。
ハッとキングヘイローが気づいた時には並ぶ間もなく追い抜かれ、そこでスペシャルウィークはそこでバックターン。
現在の速度を保ちつつ、バック走の状態のまま右手を≪ツイン・ブレイカー≫に向け、攻撃令を下す。
≪スターダスト≫は一度高く上昇し、大きく身体をのけ反らせるも、視線は≪ツイン・ブレイカー≫を真っ直ぐ見据えている。
「シューティング・ソニックっ!!」
攻撃名の宣言から間髪入れず、≪スターダスト≫が流星が如く咆哮を放つ。
瞬く間に≪ツイン・ブレイカー≫の全身は白銀の奔流に飲み込まれ、次の瞬間には鮮やかに爆発四散。
「くぅっ…!」
その衝撃──フィールに耐えようとキングヘイローが僅かに身構えている間に、スペシャルウィークはバック走から通常走行に移行。
キングヘイローとの距離をさらに広げていき、デュエルだけではなくレースでも優位に立つ。
〈こ、これは見事な返しだスペシャルウィーク!!〉
〈前のターンでモンスターを失いダメージも受けていましたが、レベル8シンクロモンスターの召喚成功、さらに厄介な2回攻撃モンスターを倒す活躍。お見事です〉
〈さぁ逆に一気に劣勢となってしまったキングヘイロー! 爆煙でよく見えないが、スペシャルウィークとの差がどんどん開いていくぞ!〉
〈相手に最上級モンスターの召喚を許しましたからね、これは厳しいで──〉
そう解説が言葉を紡ごうとした刹那。
爆煙を撫で切るように疾走する影が2つ──否、3つ。
1つは深緑の絢爛な勝負服に身を包んだキングヘイロー。
1つは攻撃対象に選択されなかった≪ソード・マスター≫。
そして最後の1つは──
「──っ、何で≪ツイン・ブレイカー≫がまだ……!?」
──先ほど破壊されたハズの≪ツイン・ブレイカー≫。
攻撃時に罠を発動された様子はなく、攻撃力の差分900のダメージもキングヘイローは受けている。
間違いなく爆☆殺したハズだとスペシャルウィークが動揺していると、キングヘイローはふふぅんと、自慢げに胸を張って高笑い。
「おーっほっほっほっ!! 残念ですわねスペシャルウィークさん! 私は≪ツイン・ブレイカー≫が破壊された直後、永続罠≪強化蘇生≫を発動していたのよ! これで墓地のレベル4以下のモンスター、つまり≪ツイン・ブレイカー≫を蘇生させ、その攻守を100アップし、レベルが1つ上がっているわ!!」
「うっ──でも、キングさんにダメージは与えましたし、私の場には≪スターダスト≫が居ます!! そう簡単に突破はできませんよ!」
キングヘイローの高笑いに圧されるも、スペシャルウィークの優位は変わらない。
レースでも先頭なのだから、このままのペースを守ることができれば勝てる──
「甘いっ! なら、しかとその目に焼き付けなさい! これがキング・オブ・キングであるこの私の、3歩先を行くデュエルを!!」
──そう思っていた矢先、キングヘイローが急加速。
驚異的とも言える脚で広がっていた差が一瞬にして縮まり、スペシャルウィークと並ぶ。
「罠カード≪緊急同調≫を発動ッ!! バトルフェイズ中にシンクロ召喚を行うわ! 私はレベル5になった≪ツイン・ブレイカー≫にレベル3の≪ソード・マスター≫をチューニング! 王者の鼓動、今ここに列を成す! 天地鳴動の力に括目なさい!!」
先のスペシャルウィークのシンクロ召喚と同様、キングヘイローも同じ手を打つ。
5つの白星、3つの緑輪が複雑に飛び跳ね、それらが一列になったところで、閃光。
≪スターダスト≫の時と勝るとも劣らない光量がレース場を包む。
閃光が収まる間もなく、レース場に次いで出現したのは焔。
深紅とも、紅蓮とも言える、透き通った色ではなく、確かに力強く色が付いた赤色のそれ。
デュエル、レースの熱に感化されたか、激しい熱量を持った猛火がキングヘイローの直上に現れ、彼女と並走している。
紅蓮の焔は次第に形を成していき、それは≪スターダスト≫と似て非なる姿。
地獄の烈火炎が如き焔。
地獄の悪魔が如き体躯。
地獄の魔王が如く重圧。
「シンクロ召喚ッ!! 不屈の魂──≪レッド・デーモンズ・ドラゴン≫ッ!!」
地獄──否。
その名の通り、紅蓮の焔と悪魔を彷彿とさせる、強靭にして精悍なドラゴン。
≪レッド・デーモンズ・ドラゴン≫。
キングヘイロー、ひいては彼女のトレーナーの魂とも言える、キング・オブ・キングの降臨。
悪魔的とも言える豪腕を震わせ、口内には真っ赤な炎が溢れ出している。
まるで早くこの熱く滾る闘争心をぶつけさせろ、と言わんばかりだ。
先のスペシャルウィークの≪スターダスト≫召喚と同じ──否。
沈黙といった意味では同義だが、見た目の美しさに惹かれてのそれとは異なる。
力。暴力。パワー。バイオレンス。
≪レッド・デーモンズ≫の姿はそういった純粋かつ絶対的な強さをを身に纏っているかの如く、言葉を失うほどの存在感を誇っているのだ。
力の象徴、魂の象徴とも言える≪レッド・デーモンズ≫を前に、スペシャルウィークは息を飲む。
頬を伝う汗はレースの発汗か、またはこの紅蓮の焔による熱量か。
もしくは──紅蓮魔竜に対する恐怖か。
そんなスペシャルウィークの様子を知ってか知らずか、キングヘイローは再びふふぅんと、胸を揺らして得意げな表情を見せる。
「おーっほっほっほ!! 覚悟なさいスペシャルウィークさんッ!! ここからが本当の勝負よッ!!」
私のところにスペちゃん居ません(半ギレ)