『開始、一分前でーす』
姉妹校交流会一日目。団体戦。
ミーティングを終えた両校の生徒が開始位置につくと、各所に設置されたスピーカーから五条の気の抜けた声が発せられた。
『ではここで、歌姫先生にありがたーい激励の言葉を頂きます』
『はあ!?え……えーっと』
その流れで話を振られた歌姫が驚きを露にし、数秒ほど言葉に迷う素振りを見せるが、曲がりなりにもそこは教師。ごほんと咳払いをすると話し始める。
『あー……ある程度の怪我は仕方ないですが……そのぉ……時々は助け合い的なアレが──』
『時間でーす』
『ちょ!?五条!!アンタねぇ』
『それでは姉妹校交流会、スタートォ!!!!』
『先輩を敬え!!』
「相変わらず仲がいいやら悪いやら……」
スピーカー越しに聞こえる東京校と京都校の教師陣のやり取りに貴丈が溜め息を吐き、走り出す。
伏黒の術式──『十種影法術』により生まれた式神、玉犬を先頭に真希ら他の友人達と固まって動き、二分もしないうちに敷地内の森林地帯へと突入し、木々の隙間を縫って疾走する。
「とりあえず作戦通りか?」
「ああ。とりあえず、ボス呪霊がいるとすれば両校の中間地点だろうが……」
「まあ、じっとはしてないわな」
貴丈の問いかけに真希が頷き、パンダが補足を加えた。
五条から虎杖暗殺阻止を頼まれた貴丈にとって、この競技の短期決着は何よりも望ましい。明日の個人戦になれば、審判役だなんだと理由をつけて五条が側に着いてくれるだろう。
自分はその明日までに、より正確には競技終了まで虎杖の無事を確保できればそれでいい。時間的に言えばほんの数時間。気楽なものだ。
「例のタイミングで索敵に長けたパンダ班、恵班に分かれる。そしたら、悠二。後は頼んだぞ」
「オッス!」
やれやれとため息混じりに肩を竦める貴丈を他所に、真希が友人と後輩らに指示を飛ばし、最後に虎杖に向けて指示を残す。
虎杖が走りながらもビシッ!と敬礼して応じたその瞬間、先頭を走っていた玉犬が吠えた。
その声に反応し、玉犬が示す方へと目を向ければ蜘蛛に似た呪霊が枝にぶら下がっていた。
あちらも貴丈達に気づき、戦闘態勢へと移行するが、
「どう見ても雑魚だな」
「それでも一応点にはなるし」
纏う呪力からして三級未満の雑魚呪霊。目的のボス呪霊ではないと判断。
真希が薙刀を、貴丈は手元に生み出した煙から太めの刀身が漫画のコマ割りのように四つに区切られた歪な刀を取り出した。
二人は同時に駆け出し、すれ違いざまに雑魚呪霊を切り裂く。
「これで一点目」
ブン!と刀を振って血払いをくれる貴丈。
真希が「カッコつけんな」と石突で彼の頭を小突くと、玉犬が再び吠えた。
「危ない!」
玉犬の意図を察した伏黒が叫んだその瞬間、二人の真隣の大木が爆砕され、大量の破片を伴いながら上半身裸の巨漢が姿を現した。
「待たせたな、
「東堂先輩!」
獰猛な笑みを浮かべ、貴丈のみを視界に捉えて吼える東堂。
貴丈もまたおそらく京都校で自分を脅かせる唯一の相手の登場に、思わずといった形で好戦的な笑みを浮かべた。
東堂と本気でやり合える。そんな貴重な機会を前に心の奥底に秘められた闘争心に火がつくが、
「また明日!」
それを封じ込め、しゅ!と右手で敬礼のような仕草をしてみせた。
その行動に東堂が疑問符を浮かべた瞬間、彼の横面に膝蹴りが叩きつけられた。
「ぬぅ!?」
凄まじい衝撃と激痛。一切の容赦なく頬骨を砕きにくる相手の思い切りの良さに、東堂を唸りながら相手を睨みつける。
対する虎杖もまた同じ。確かな手応えを感じながら、それでも体を仰け反らせるばかりで倒れる気配がない東堂に驚愕する。
「よし、散開!」
貴丈の号令に東京校の面々が散開する。
真希、伏黒、貴丈。釘崎、パンダ、狗巻。
それぞれが
その場に残される虎杖と東堂。
着地を決めて身構える虎杖に、東堂はペッ!と血を吐きながら拳を握った。
「いいスピードだ、一年。
「それは俺が一番思ってるよ」
高まっていく東堂の呪力に背筋を震わせながら笑う虎杖。
貴丈や五条ほどの呪力量ではない。だが剥き出しの戦意が込められた呪力に、実戦を前にしても怯まない虎杖が一瞬の恐怖を抱く。
「やる前に一つ。聞きたいことがある」
「……?」
突然待ったをかける東堂に疑問符を浮かべていると、東堂はやはりと言うべきか虎杖に問いかけた。
「どんな女が
「さて、いきなりで悪いんだけどさ」
「なんだ」
森を走りながら、並走している真希と伏黒に声をかける貴丈。
神妙な面持ちを自分に向ける貴丈に、こちらも真剣な面持ちとなる二人。
「ちょっと悠仁のところに戻っていい?」
「本当にいきなりですね。何かあったんですか」
「ああ。五条先生に頼まれてな」
いきなりの方針転換に怪訝な顔になる伏黒。
貴丈は苦笑混じりに五条の名前だけを出し、依頼の内容については教えない。
半目になってじとっと睨みつけてくる真希の批難の視線を受け流しながら、貴丈は刀のトリガーを四回弾いた。
「それじゃ。呪霊狩りは任せた!」
貴丈は一方的にそう告げると、刀から音声が鳴り響く。
『《隠れ身の術!ドロン!》』
刀から溢れ出した呪力が彼を包み込み、宣言通りに彼の姿を透明にしていく。
ひらひらと手を振りながら完全に透明になる貴丈。
輪郭も、影さえもなくなるが、臭いは消えないのか玉犬が不思議そうにしながら貴丈がいる場所をじっと見つめている。
「あ、おい待て!」と呼び止める真希の声を無視し、微かに聞こえる足音が遠ざかっていった。
「……悟から頼み事だぁ?あの事あるごとに青春青春喧しい悟が?」
真希は顎に手をやり、考える素振りを見せた。
五条は普段はふざけているが、生徒の送る『青春』というやつを割と重視している節がある。
少々やらかしても「若人から青春を取り上げるなんて」とかいって庇ってくれた記憶があるし、たまに本人の口から言われた事だってある。
その五条が姉妹校交流会という行事に参加している学生に頼み事だと?
「……」
同じように思慮していた伏黒が、ハッとして真希へと告げた。
「京都校の連中、虎杖を殺すつもりなんじゃ……?」
「……あり得るな」
そうしてようやく答えにたどり着く。
呪術総監部の影響力が強い京都校にとって、宿儺の器というのはそれだけで抹殺の対象になり得る。
短いとはいえ虎杖とやり取りし、なんなら貴丈が面倒を見ていたと聞かされた自分達は虎杖がそんな危険なものではないと判断できるが、向こうはそうはいかない。
いつ暴走するかもわからない宿儺の器。
暴れ始めたら止めようがないのなら、大人しいうちに殺してしまおうと判断するのは保守派の連中らしいといえばらしいが。
「だとしても、本当にやるんじゃねぇよ……!戻るぞ、恵!」
「はい!」
考えても仕方がないと虎杖と貴丈との合流を目指して走り出す真希と、彼女に続く伏黒。
貴丈としては二人には早急な呪霊討伐を果たして欲しかったのだが、急ぎすぎるあまり流石に言葉足らずが過ぎたというもの。
こういう状況において、二人が命優先で動くことを勘定に入れていなかったことも反省点ではあるだろう。
そんな彼らと時を同じくしてパンダ達も同じ結論に至っていた。
だが、行う行動は真逆。
「どうせ貴丈と真希が気づいて動いてるだろ。だったら俺達はあいつらが時間を稼いでいる内に団体戦を終わらせて、虎杖暗殺のチャンスを消す方に動いた方がいい」
貴丈が望んでいた行動を選ぶパンダ。
釘崎と狗巻が頷きあい、虎杖のことを貴丈らに任せて行動を開始する。
「虎杖は任せました、真希さん!伏黒も下手打つなよ!」
「しゃけ」
パンダに連れられて走り出す釘崎と狗巻。
途中叫んだその言葉が森に木魂するのだった。
「どんな女が
友人と先輩らがそれぞれの行動を開始する中、虎杖は東堂の問いかけに首を傾げた。
戦闘開始前の術式の開示というわけでもない、初対面にしては少々踏み込み過ぎにも見える取り止めのない会話。
「なんでそんなこと聞くんだよ」
だが何か意味はあるのだろうと思慮するが、やはり意図が読めない。
降参するように投げかけた問いかけに、東堂は小さく鼻を鳴らす。
「気にするな。ただの品定めだ」
「……強いて言うなら」
品定めという言葉が引っ掛かるが、それでも聞かれたのならと答えてやる。
「
その言葉に東堂に電流が走った。
貴丈ぶり二回目の、東堂とドンピシャの女の好み。
そして駆け抜ける
「俺、高田ちゃんに告る」
「また!?」
「いやいやいや!この間振られたばっかじゃねぇか!?」
府内の某中学校。
屋上のフェンスに寄りかかり、キザったらしく笑いながら行われた宣言に、貴丈と虎杖が難色を示す。
東堂は再び学校のアイドル、高田ちゃんに告白しようと言うのだ。つい半年前に振られたばかりだというのに。
「やめましょうって!この間なんて、復活すんのに一週間もかかったじゃないですか!?」
「俺だってまた慰めんの嫌だぞ!?」
「なんでフラれる前提なんだ」
「前科があるからですかね!」
二人に肩を掴まれ、考え直すように説得される東堂。
あまりにも
確かに、そうだがと唸る東堂だが、咳払いと共に二人を押し退けて歩き出す。
そして、やはりと言うべきか東堂は玉砕した。それはもう見事にフラれた。
屋上の片隅で小さくなる東堂の背中に二人は顔を見合わせ、溜め息を吐いた。
「ほら行きますよ。ラーメン奢りますから」
「餃子とチャーハンもつけっから」
二人に脇を抱えられ、足を引き摺りながら連れ去られる東堂。
そんな親友二人の気遣いに東堂は涙を流し、小さく感謝の言葉を告げるのだった。
「地元じゃ負け知らず、か」
「?」
突然天を仰ぎ、涙を流す東堂の姿に困惑する虎杖。
そんな彼に構わず、東堂は言う。
「どうやら彼達は、『親友』のようだな」
「名前知ったのに!?」
やはり東堂のことがわからないと困惑を強める虎杖。
貴丈からは『いい人だよ』と紹介されはしたが、いい人というかこれでは変人ではなかろうかと貴丈の感性を疑ってしまう。
なんだこれ、もう始めていいんだよなと拳を構えると、がさりと周囲の茂みが揺れた。
同時に姿を見せるのは、完全武装した京都校の面々。
上空には箒に乗った西宮。
樹上には弓を構える加茂。
その隣には腕を変形させ、戦闘体勢を取るメカ丸。
木陰からは刀を携えた三輪。
最後にやる気なさそうに木に寄りかかる真依。
正面の東堂含め、完全包囲される形となった虎杖はすぐに視線を走らせて逃走経路を探すが、それよりも早く加茂が矢を放った。
「ッ!」
弦が弾ける音と共に迫る一矢をギリギリで避けた虎杖は、その勢いのままに包囲を突破せんと走り出す。
正面には三輪。なんでこっち来んの!と言わんばかりに目を見開いた彼女だが、すぐに鯉口を切って抜刀の構えを取る。
同時に展開されるのは、『シン・陰流』の『簡易領域』。
本来は呪術の極地たる領域から身を守るための、一子相伝の技術。
彼女を中心に半径2.21mの範囲で展開されるそれは簡単な結界のようなものであり、それに踏み込んだ相手を
その際刀身を呪力で覆い、鞘の中で加速させて威力を倍増させる。
それこそがシン・陰流最速の技──『抜刀』。
それを知る由もない虎杖はなんの策もなく彼女の簡易領域へと踏み込み、一瞬遅れて放たれた抜刀一閃が彼の首を跳ねんと迫るが、
「ぶねっ!?」
虎杖はそれすらも飛び越える跳躍によって回避。
虎杖抹殺への迷いが躊躇となり、それが初動の遅れとなった。
それを自覚し、それでも当たると確信を持って放った『抜刀』を避けられ、驚愕を露わにする三輪。
だが、虎杖は無防備な空中に放り出されたのも事実。
この隙を逃すまいと加茂が弓を、メカ丸が砲口を覗かせる左手を彼へと向けた。
虎杖は全身の筋肉を引き締め、さらに練り上げた呪力で全身を覆うことで防御を固める。
そして二人の攻撃が始まろうとしたその瞬間、
『《分身の術!》』
突如として鳴り響いた陽気な声に京都校の面々と虎杖が驚愕したその瞬間、加茂の真横に虚空から歪な刀を構えた貴丈が現れた。
横一文字に振るわれる刀を弓で受け止め、そのまま粉砕されながら弾き飛ばされる加茂。
メカ丸は彼を無視して虎杖を打とうとするが、やはり虚空から現れた貴丈によって乗っていた枝を切り落とされ、体勢を崩した瞬間に枝ごと蹴り飛ばされる。
突然の襲撃に再び簡易領域を展開する三輪。その瞬間、不可視のなにが領域に接触し、自動で迎撃。
ガキン!と甲高い金属音を響かせながら、貴丈と三輪刀が噛み合った。
真依はやれやれと首を左右に振ると、真横に現れた貴丈に形だけホークガトリンガーを向けた。
「は……?」
西宮が困惑の声を漏らす。
上空から見ているからこそ、真っ先に気づく異変。
下の四人に
呪力も感じられない不可視の状態から、
「なんで増えてんのよ……!」
そして絞り出した言葉こそが、下の四人の胸中の代弁だった。
貴丈の術式とその多岐に渡る手札の多さは既に知っている。
だが、こんなことまでできるとは知りもしなかった。分身している挙句にさっきまで消えていなかったか。
大きな二つの疑問が湧き、その答えが返ってくるわけがないと自分で思考しようとした直後、西宮を影が覆った。
目を見開き、弾かれるように上を見る西宮。
「企業秘密ってやつだ。歯ぁ食い縛れ!」
そこには刀を大上段に構えた貴丈が会心の笑みを浮かべていた。
「五人目!?」
西宮は咄嗟に身を捩り、箒を盾に彼の一閃を受け止めるが、
(重ッ……!)
刀に込められた呪力。貴丈自身の呪力。
それらが乗算されて放たれる一撃は、手加減されていたとしてもあまりにも重い。
トラックにでも轢かれたような凄まじい衝撃に西宮の小柄な体は容易く跳ね飛ばされ、流星のごとく一直線に森へと墜落していった。
「まず一人」
刀でトントンと肩を叩きながら笑みをこぼした貴丈が、その言葉と共にその姿を霧散させた。
「桃!?」
吹っ飛ばされていった西宮の姿に悲痛な声をあげる真依。
「死にはしないよ」と申し訳なさそうにしながらも油断なくこちらを見つめる貴丈の言葉に、無言で彼を睨みつける。
「な、何が何やら」
貴丈の援護で無事に着地した虎杖が周囲を見渡しながら乾いた声を漏らす。
術式が絡んでいるのか、空中で複雑に軌道を変える加茂の矢を掻い潜る貴丈。
メカ丸に攻撃の隙を与えまいとひたすらに攻め立てる貴丈。
三輪の簡易領域も、展開させなければ意味はないと言わんばかりに間合いを詰め続ける貴丈。
戦闘を始める素振りはないが、なんか重々しい空気を漂わせる貴丈と真依。
そして、なんか空中に出てきてそのまま消えた貴丈。
何が起きて、何がどうなってんだと唸る虎杖の肩にぽんと手が置かれた。
「考えるのを止めるのは駄目。ちゃんと考えて」
「そうだぞ、
弾かれるように振り向き、身構えてみれば、そこには他の貴丈同様に変な形の刀を手にした貴丈と、そんな彼の隣でうんうんと頷いている東堂の姿が視界に入る。
二人は仲良いんだっけかと構えを解く虎杖。
貴丈はそんな後輩の姿に「怖がらせちゃったか?」と苦笑し、刀を肩に担ぐ。
(多分だけど、あの刀……刀?のせいだよな?)
虎杖が警戒しながらも貴丈の刀に目を向け怪訝な顔を浮かべていると、貴丈が柄のトリガーを引いた。
その瞬間、京都校を襲っていた分身達が一斉に霧散。
ついでに虎杖の横にいた貴丈も姿を消した。
「うぇ!?」
本物じゃねぇの!?と間の抜けた声を漏らす虎杖は、ただ一人残った貴丈に、相変わらず真依にホークガトリンガーを向けられ、手を挙げている先輩へと目を向けた。
「あんたが本体だったの?」
真依自身も意外だったのか、彼に問いを投げかける。
もちろんと頷いた貴丈は笑みと共に彼女に言う。
「真依なら俺も悠仁も撃たないだろ。信じてたからな」
「あっそう」
にこにこと微笑みながら、ある意味で眼中にないとでも言いたげな言葉に真依は不機嫌さを隠そうともせずに語気が強くなる。
彼に信じてもらえたという事実はまあ嬉しいので素直に受け取るとして、大切な先輩をぶった斬ってくれたのもまた事実。
「じゃ。これは桃の分ね」
真依はひたすらに機械的に、ホークガトリンガーの引鉄を弾いた。
瞬間的に吐き出される十数の呪力弾が貴丈へと迫る。
対する貴丈は多少の驚きを露わにするが、刀のトリガーを三度弾いた。
『《風遁の術!竜巻斬り!》』
瞬間、鳴り響く音声と共に刀が風を纏い、それを一閃。
森を駆け抜けた猛烈な風が呪力弾を絡め取り、全てを明々後日の方向へと弾いた。
遠くから聞こえる着弾の轟音と振動を感じながら、貴丈は頬に冷や汗を垂らす。
「本当に撃ちやがったな!?殺す気か!?」
「あんたならどうにかするでしょ?まったく、嫌になるわね」
割と本気で殺しにかかってきた真依の行動を非難する貴丈。
彼女は欠片も聞く素振りも見せずに肩を竦め、胡乱な視線を向けてくる。
「酷ぇ!この、あー、と……悪魔!」と真依に悪態を吐く貴丈だが、彼女はどこ吹く風といった様子だ。
やれやれと肩を落とす貴丈だが、すぐに気を取り直して京都校の面々へと目を向けた。
「悪いけど、悠仁は
殺意さえも込めた宣言と共に、再び刀のトリガーを二度弾く。
『《火遁の術!火炎斬り!》』
音声と共に刀が炎を帯び、ブン!と空を切って炎で弧を描く。
分身。炎。風。そして透明化。
四つの能力を時には別々に、時には同時に行使する貴丈特製の刀型呪具──『4コマ忍法刀』。
他にも能力はあるのだが、たった一振りに搭載するにはあまりにも過剰な能力を前に、敵対者達は踏み込めない。
途端に戦意を無くしていく彼らを横目に、東堂へと目を向けた。
「それはそれとして、殺す気で指導をお願いします。先輩」
「言われなくともだ、
「え!?なんかまた殺されそうになってない!?てか弟分ってなに!?」
勝手に話を進める二人に困惑の声をあげる虎杖。
加茂の合図で京都校の生徒達が退いていく中、貴丈は真依を呼び止めた。
「真依」
「なによ」
「いや。あんまり無理すんなよ」
今は敵同士ではあるが、相手は呪霊と東京校の術師だ。
今後の活動に支障が出るほどの怪我を心配する素直な気遣いではあるのだが、
「余計なお世話よ」
ひらひらと手を振りながら茂みの向こうへと行ってしまう。
「まったく。素直になればいいものを」
東堂は嘆くようにそう言うと、虎杖へと目線を向けた。
「さて。邪魔が入ったが、続けるぞ
「そのぶらざー?ってのに興味はねぇけど……」
東堂の言葉に相変わらず困惑を浮かべるが、虎杖は構えを取った。
「やるからには、勝つよ」
「そうかなくてはな」
「ふふ。じゃ、俺は呪霊探しをするか」
やる気満々の二人を横目に、邪魔をしないようにその場を立ち去る貴丈。
直後、凄まじい打撃音が森に轟くのだった。
感想等ありましたら、よろしくお願いします。