ミレニア城塞、その最深部たるオルレアンの聖女から『万全』と称された、大聖杯が格納されている地下格納場。
ダーニック・ユグドミレニアは、そこで格納された奇跡である大聖杯を見上げながら、これまでの軌跡を懐古する。
『八枚舌』と揶揄される政治能力と、君主達に比肩する魔術の腕を持つユグドミレニアの長。
そんな自分への、根も葉もない噂によって時計塔で零落する嵌めになった一族。
呪いの如きその衰退っぷりは、正攻法での根源への到達を諦めざるを得なくなるほど。
その起死回生として、極東の儀式───聖杯戦争に縋った。
第三次聖杯戦争にて、ドイツ軍と共謀し発見した大聖杯を奪取。
その最中ドイツ軍を裏切り、六十年間大聖杯の秘匿に成功。
埋伏の時間を稼ぐため、赤子の魂を喰らいダーニックという人格を失いながらも延命し。
ただ只管に『ユグドミレニアの長』として立ち続けた。
そして今、無謀ともいえる大戦を興し時計塔そのものに戦いを挑んでいる。
剰え、十分な勝機さえ存在していた。
全ては大戦に勝利し黒のマスターで再度聖杯戦争を行い、その勝利者を黄金千界樹の新たな長とする。
かつて誹謗中傷で未来を閉ざされていた頃に比べ、なんと明るい未来か。
「使い方を間違えるな、か」
ダーニックは、己に刻まれた令呪を見据える。
この大戦に出現したイレギュラー。
裁定者の英霊、そのマスターの忠告を彼は決して聞き逃すことは無かった。
そんな思案に耽る彼に、念話による通信が入る。
『ダーニック』
「キャスターか。……来たか。しかし、随分大層なものだ」
その念話と共に、ダーニックは配置している使い魔の視覚を同調。
空から迫る要塞の如き庭園を、視界に納めていた。語るまでもなく、赤のサーヴァント達の侵攻である。
「アレが我が城壁を貫く秘策か」
『あぁ。────「デミ・アダム」は何時投入する?』
「彼方の目的はこの大聖杯だ。ならば、この城を何らかの方法で破壊し回収しなければならない。それこそ、自らその腸を見せ付けながら」
『成程』
大聖杯、それを奪取する以上相応の
そして空中庭園こそが、その荷台であり破城鎚である。
無論他の赤のサーヴァントの数名は、魔術で塗りたくられたミレニア城塞を突破可能だろう。
それをさせない為の、黒のサーヴァント達だ。
だがもし、それらを突破し大聖杯を回収するのならばその瞬間こそ。
赤の陣営が最も油断する瞬間なのだから。
「さぁ、我々の大戦の火花を散らそう。我ら黄金千界樹を輝かせる為に」
赤のアサシンの空中庭園から、竜の牙が撒き散らされる。
地上にて独りでに組上がった竜牙兵は、待ち構えるホムンクルスの兵達と激突する。
黒い骨は振るわれる魔術や武器に砕かれ、人形と見紛う美男美女が骨に貫かれ血溜まりに沈む。
しかし、そんな争いを小競り合いとするのが英雄英傑。
空中庭園から、二本の矢文が天に打ち上げられた。
「我が弓と矢を以って、
その訴えに対し、二柱の兄妹神は「敵方への災厄」という形で彼女に加護を与える。
無論権能行使のソレに及ぶべくもないが、理論としては
弓や矢が宝具なのではなく、それらを触媒とした『弓に矢を番え、放つという術理』そのものが具現化したもの。
「この災厄を捧げん──────『
静謐に呟かれた真名と共に、天を覆い尽くさん矢の豪雨が戦場を席巻した。
キュガッ、と最早矢の空気を切り裂く音とは思えぬ、光矢の豪雨。
アタランテによる射撃では無いが故に精密性は落ちるものの、宝具による面攻撃という点では赤のサーヴァントで
陣取られた軍勢への方策としては、対軍宝具の種別に相応しい効果を発揮するだろう。
『今だ、バーサーカー!』
「ナァアアアアッッ!!」
そんな赤の第一撃に対して行なわれたのは、
『
ホムンクルスの軍勢を大半射抜いた後となる筈だった宝具の豪雨は、聳え立つ大樹の如き雷霆に防がれた。
本来その出力を引き出すには、その身を犠牲にしなければならないものの。
それを補ったのは、他ならぬ彼女のマスターの手腕。
本来黒のマスターの中で最も劣っている筈の、カウレス・フォルヴェッジ。
外典の物語ではその後日談に行なわれる筈だった、
即ち原始電池への適性と、科学と魔術の混合たる『コードキャスト』の雛形。
つまり『
「よかった、上手く行った……」
自らの工房となった自室で、カウレスは映像越しに自身の策が機能したことへの安堵を漏らす。
入念に行なわれた『磔刑の雷樹』の性能測定とリスク調査に加え、イデアル草原各所に敷設されたゴーレム型の原始電池の配置。通電ラインを用いて、擬似的な結界を形成した。
これにより戦場であるイデアル平原に限り、黒のバーサーカーはノーリスクで宝具の最大出力に比する威力を引き出すに至った。
「ほう、まさか完全に防ぎ切られるとは。雷樹に隠れるように瞬いた雷光は、よもや結界か? 流石、あの方に目を掛けられている者のサーヴァントだ。先の戦いの評価を覆さねばならんな。───済まぬライダー。露払いとはいかなかったが、行けるか? ペレウスの息子」
「ハハッ! 何、寧ろ血湧き肉躍るというもの! それでは────一番槍は頂くぞッ!!」
宝具の相殺による魔力の残留物を切り拓くように、一筋の流星が煌めいた。
空をも駆ける
その流星を見据えるのは、彼の師である
それに続くように、赤のサーヴァントが次々に平原に侵入する。
斯くして、幾つもの小競り合いを乗り越えて漸く──────。
聖杯大戦に於ける、赤と黒の全面激突が始まった。
◇
アタランテの初撃の後、
ホムンクルスの兵やゴーレムでは障害になどならず、故に『俊足』を抑えるには搦め手しか無い。
如何に
では、かの俊足のアキレウスは戦車を止めれば攻略可能か?
アキレウス最大の好敵手、
『そんなんで仕留められたら、オジサンはタイマンに乗らないって』
止まった戦車に空かさず襲い掛かったホムンクルス兵達に、まるで舞いの様に身体を回転させたアキレウスの槍閃が燦めく。
父から託された名槍は、彼らを瞬く間に血のシャワーと化した。
「黒のアーチャーは何処か! 預けた勝負、取り戻しに来たぞ! 今宵は心行くまで殺し合おう!!」
『貴方が思っているより、ずっと近くですよ』
「!」
間髪入れずに介入した、唯一彼の不死身を突破出来る黒のアーチャーの射撃に、露骨な後退を行うゴーレム兵の誘い。
これに背を向けるは、英雄に非ず。
アキレウスは戦車と違って空を駆けることは出来ないが、その脚力は音速を超える。
そうして戦場の中心から離れた森林に誘導された最速の英雄は、父母に並ぶ最大の恩師たる
────ここまでは、編纂された外典通り。
しかし、この
そう、
後に邪竜と成り果てる運命を持つホムンクルスに、己の心臓を託す事で、大戦最初の脱落者となる筈だった。
しかし抑止力の介入か、あるいは邪竜に成り果てるヒトは
更なる追加として重ねられたイレギュラーによって、彼は大戦から離脱。
患者である彼を戦場に戻す選択肢が
必然、
両者の特性から千日手な拮抗を見せる上、両者の戦いに割って入れる戦力など赤の陣営ではアキレウスのみ。
つまり、本来カルナが対峙する筈の黒側の大戦力がフリーとなってしまった。
戦場全域が宝具のレンジ内の
「皆、よくやってくれた」
ミレニア城から目前、戦場の後方からゴーレムの騎馬に乗る槍兵がその戦いを讃える。
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を『自らの領土』とするEXランクのスキル『護国の鬼将』。
加えてルーマニアの最高峰の知名度補正により、彼は超級サーヴァントに追い縋れるステータス補正を得た。
禁断の第二宝具を除く以上、今の黒のランサーこそ通常霊基の『ヴラド三世』の理論値である。
「我が生前に無き得難き勇者達よ、敵を恐れるな。この地の王として、あらゆる非道を為してでも我が領土を護らん」
『───ッ!?』
劣勢だった、拮抗していた、優勢だった戦場全てに杭が穿たれる。
彼の第一宝具『
そしてその宝具は、上空にも適用された。
そんな彼が、空中庭園さえあればトップサーヴァントにさえ比肩する女帝の神代の魔術には及ぶべくも無く。
天を駆ける翼持つ幻馬と共に、地に墜ちた筈だった。
「あっぶな! 何この杭、って王様の!? 助かったけど!」
「チッ。鬱陶しい針鼠が、不敬にも天にすら突き立てるか。まぁ、どうでもいい。
……何処に居る、裁定者のマスター」
戦場でその状況を覆し得る女帝は、しかし赤の陣営の要でありながら他の一切をマトモに相手にしておらず。
ただ、この戦場に現れるであろう裁定者の主のみを探し続ける。
必然、その公王を止める者は存在しない。
「さぁ黒の同胞達よ。共に侵略者の骸、その悉くを蹂躙しようぞ」
結果として戦況は、なんと黒の陣営が優勢だった。
◆
「拙いですね」
「いやぁ~劣勢劣勢。されど“
片手間にアストルフォを蹴散らしながら、ヴラド三世の援護により仕留めきれていないセミラミス。
彼女の宝具である庭園内で、戦場を俯瞰する二人の主従が笑顔でそれぞれ感想を溢していた。
片や、つい先日赤のアサシンのマスターと名乗った、聖杯大戦の監督役。
しかし自身と獅子劫界離以外の赤のマスター全員に毒を盛り、事実上『赤の陣営』を支配下に置いたシロウ・コトミネ。
そして先日
四大悲劇作が余りに有名な劇作家、この大戦一のエンジョイ勢ことウィリアム・シェイクスピアである。
「まさか
「そして恐らくはアーチャー。姿も森の中では、正体の看破など程遠いでしょうな!」
シロウ神父は、
だが、そもそも姿を見せなければ看破も糞もない。
「セミラミスも、少しはやる気を出してくれればまだしも……アッシリアの女帝はかの御人に夢中とは。英霊とは斯くも伝説に縛られる」
「それが、彼があり得ざるルーラーのマスターに選ばれた理由なのでしょう」
あり得ざる、聖杯戦争の裁定者のマスター。
そもそも裁定者のサーヴァント自体、イレギュラーの緊急措置。
世界を変える願いは、必然世界に阻まれる道理なのだから。
「……」
単純に相手の土俵で戦っているというのもある。
厄介なのは、ほぼ戦場全域に影響を与えられるサーヴァントが敵に二騎も居るということ。
イデアル草原全域には、予めカウレスの備えで黒のバーサーカーの雷撃による援護が。
本体の戦闘能力が霊格相応なので、アタランテに排除を当たらせたのは良いが、令呪か魔術か即座に撤退。
しかし雷撃の援護は継続している。
そして上空にさえ届くヴラド三世の杭は、その特性故に下手をすればアキレウスの踵を穿ちかねない。
まぁアキレウスは己の不死性を喪ってからが本番とかいう、敵に回せばそんなクソ展開カマして来るクソエネミーなのだが。
「劣勢というか、単純に数の差ですな。赤のセイバーも戦場に向かっている様ですが、素直にヴラド公に向かってくれるものか」
「おや。スパルタクスをけしかけ、黒のアサシンの事実上脱落という数的有利を覆した張本人とは思えませんね」
「おっと、是はしたり!」
そんな劣勢を作り出した張本人が、おめおめと解説している。
控えめに言って戦犯であり、
というか赤の幕下にモードレッドが居れば、普通に斬り捨てられていたかもしれない。
「「あっ」」
おや? そんな話をしていれば、丁度ミレニア城から先日突撃し囚われていた筈のスパルタクスが出撃し、ヴラド三世に牽制していたアタランテに襲い掛かったではないか。
成程。権力者という意味では、極論地元で特別圧制もしていないユグドミレニアの黒。
世界的に魔術的な霊地を抑え、勝手に魔術師達の君主を名乗り、挙句に醜い権力闘争を繰り返している時計塔陣営の赤。
スパルタクスが討ち倒すべき権力者度合いの高さでは、ぶっちゃけ冷静に比較してみれば一目瞭然。
恐らく要石としてのマスター契約も引き剥がされ、黒側が担っているのなら選択の余地もない。
あら不思議、赤のバーサーカーの裏切りとさえ言えない離反が行なわれた。
赤のキャスターのやらかし、その二である。
「キャスター?」
「“
まぁ正直言いますと、赤のマスター全員から令呪を奪おうとしているマスターを、あの叛逆の権化が直感的に『討ち倒すべき権力者』と看破しかねないと。ええ」
何故あんなサーヴァントを召喚したので?
一応の言い訳を語るこの男、人類史上屈指の作家野郎である。
美辞麗句。飾詞美言。我田引水はお手の物であった。
シロウ神父にしても、赤の陣営への裏切りが原因と言われれば否定しづらいのである。
というか、既にシロウ神父の事を自身のマスターの様に振る舞うのだから、語るに落ちるというもの。
「まぁそんな訳で、爆破させるにも少しでもアチラ側が良いと苦慮しまして。英断と褒め称えてもいいのですぞ?」
「はぁ……人選に間違いが無いと確信出来てしまうのも、考えものですね」
「“
今は眼の前の試練を乗り切りましょう。ただでさえ不穏分子は多いのですから」
一応、赤の劣勢を覆す方法は存在している。
一つは、今もアサシンの使い魔で監視し、戦場に向かっている赤の剣士とそのマスター。
法定速度という概念を知らないのか、運転席に居る赤のセイバーは車を使い潰しながら突き進んでいる。
あの勢いなら、間もなく戦場に到着するだろう。
「せめて黒のバーサーカーの位置を把握できれば、赤のセイバーを誘導……いえ、
「おや? その身を戦地に晒すと?」
複数のサーヴァントが戦い、そして二騎のサーヴァントが戦場全域に宝具を放ち続ける戦域。
そこにマスターが身を投じるなど、自殺願望を疑われるだろう。
しかしそれを許容できるマスターが、この聖杯大戦には二人も居るのだが。
「えぇ。これを越えられなければ、そもそも私の行いは主に許されなかったということでしょう。速やかに、罰を受けるまでです」
「神明裁判的ではありますが、マスターの道行き。しかと見届けさせて戴きましょう」
「作品の資料には有用ですか?」
「勿論!」
ロクデナシ多き作家系サーヴァント、その中でも最も困った性質を有するバッドエンド厨。
正しき外典と異なり、その神父の最も親しい相方は彼であった。
そしてきっと、最期まで。
という訳で、原作との差異を出しつつ原作通りの処は積極的にカットしていきまする。
ぶっちゃけ筋書きは少々変わりつつも、あんまり原作と本筋は変わらなかったり(大胆なネタバレ)
正直「それ原作とあんまり変わって無くね」と内心思い続けてしまう、二次創作描いてる者の苦悩と云うか何というか。
他の作品が原作と話を変えまくってる作品だったりが多いので、殊更に。
赤の陣営はトップ鯖が二騎も居るから圧倒的優勢という意見が多い中、そんな赤を劣勢にしていくスタイル。
ぶっちゃけジークフリートが存命し、カウレスが大戦前に二世に師事したらコレぐらいしてくれるんじゃないか。という期待込みです。
カルナの相手をヴラド三世がする必要がなく、電気という魔術的にも科学的にも応用が効き過ぎるもののフランが、電池としての役割に徹すればこうなるかと。
ぶっちゃけフランの真価って戦闘能力じゃなくて、第二種永久機関な処じゃないかと考察した結果でもあります。
先ず、一年以上経過の体たらくに謝罪をば。
腰がブッ壊れ、三十分座り続ければギックリ腰になるザマになり、仕事も辞め執筆もモチベが完全に死んでいました。
その他諸々も落ち着いたので、リハビリとして投稿やら更新やらしていくつもりです。
いつも誤字脱字報告ニキネキには、最大の感謝を。修正箇所は随時修正していきます。
もし継続してこの作品を楽しんでくれている方々には、深く謝罪を申し上げます。
上記の通り、私生活でも問題が出ていますので仕事を辞めても執筆速度が早まる事はありません。
それでも無廖の慰めとなってくれたのなら、幸いです。