夏の風物詩である怪談大会が学園で開かれ、ハルウララもそれに出ると聞いたキングヘイロー。
しかしキングがウララの用意したという怪談を聞いてみると、怪談でも何でもない話だった。
ウララからキングの知る怖い話はないか、と聞かれたキングは、自分が昔漫画で読んだホラー話を提供するが──

※pixiv様にも投稿しております

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ウララが怪談大会に参加すると聞いたキングがウララに怖い話を提供した結果、ウマ娘たちを恐怖のどん底に叩き落とす話

「怪談話大会? ……そういえば、そんな時期ね」

「うん! 来週みんなでやるんだって! 色んなお話聞けるといいなー!」

 

 トレセン学園──熱いレースを繰り広げるウマ娘たちが集う学園の寮の部屋にて、二人のウマ娘が話していた。一流を自負するお嬢様ウマ娘、キングヘイローと、学園のムードメーカーと囁かれるウマ娘、ハルウララである。

 

「来週だと私は参加できそうもないわね。このキング、来週は全日程をトレーニングに当てる予定なの」

「そうなんだー。キングちゃんはいつも頑張ってるねぇ!」

「このぐらい普通よ、そう、一流ならばね」

 

 素直に感心するウララの言葉に髪をかきあげて返答するキング。そう、キングはトレーニングに集中する為に残念ながら怪談大会に参加できないのである。断じて怪談にビビっているからではないのだ。そう、断じて。

 

「それよりウララさん、怪談って、あなたも話すのかしら?」

「うん! 頑張って怖い話探して来たんだー!」

 

 そう張り切るウララだが、いかんせん普段のウララのイメージからして、キングはいまいち彼女が上手く怪談話をするビジョンが見えなかった。そもそも本人の雰囲気からしてどうにも怖い話が似合う方ではないのだが、大丈夫なのだろうか。

 

「ちょっとその怖い話とやらを私に聞かせて下さる?」

 

 とはいえ、実はウララが超一流のホラーの語り部という可能性もあるので、キングはとりあえず彼女が用意したという怖い話を聞いてみることにした。直後、本当に一流の語り部だったらどうしようとちょっと後悔した。

 

「えーっとね、あるところににんじん農家をやってるお爺さんがいたの。そのお爺さんが畑を見に行ったある日……」

「ある日?」

「畑に入ってきてたうさぎさん一家ににんじんが全部食べられちゃってたの! 怖いよねー!?」

 

 そのホラーでもなんでもない内容にキングは思わず盛大にズッコケた。それはもう某新喜劇並みの勢いでズッコケた。どうやら一流のウマ娘はリアクション芸も一流らしい。

 

「それのどこが怖い話なの!?」

「えー、自分のにんじんが全部食べられちゃったんだよ? 怖くない?」

「そりゃまぁ、そのご老人は怖かったでしょうけど」

 

 主に明日からの飯の種をどうするかという意味で。そういう意味では農家の人間にとっては割りと洒落になっていない怖い話ではあるし、農業に通じているスペシャルウィークあたりには刺さるかもしれないが、少なくともホラーでは断じてない。

 

「いっぱいあるにんじんが急に全部無くなっちゃったら怖いなーって思ったんだけどなー」

「あぁ、そういう」

 

 キングの知る限りウララのにんじん好きはかなりのものだし、自分に置き換えてこの話を怖いと思ったのだろう。自分が怖いと思った話をチョイスするという視点は悪くない。この話にホラー要素が全くないことを除けばだが。

 

(怪談の語り手としての資質自体はあると思うのよね……)

 

 先ほどキングが感じたように、ウララには怖い話が似合う印象が全くない。いかんせん本人が明るく能天気な楽天家であり、場にいるだけで周囲を和ませるような人物だからだ。しかし、である。それでは怖い話を語るのに向いていないのかと言われれば、否。

 

(『ギャップ萌え』という言葉があるように、ギャップが恐怖を生むことだってあるはずなのよね)

 

 例えばこのウララがいきなり淡々とした口調で静かに怪談を語り始めたらどうだろうか。普段の彼女を慣れ親しんでいる周囲からすればかなり怖いのではないだろうか? 少なくともキングは怖い。

 

(惜しむらくは、本人がホラーを理解していないことね)

 

 考えてみれば、ウララは学園に幽霊が出ると聞いて「友達になりたい」などと言い出すような人物だ。いかんせん本人がポジティブ思考すぎて何がホラーなのかよくわかっていないのだろう。本人は怖がらせようとして参加しているはずだが、この調子では無理がありそうである。

 

「ねーねー、じゃあキングちゃんは怖い話知らない?」

「と、言われてもね」

 

 いくら一流を自負するキングとはいえ、他人に聞かせられるようなホラー話など……

 

(待って、そういえば昔……)

 

 キングはふと、幼い頃に漫画で読んだ話を思い出した。子供向けの漫画でありながら、大人でも吐き気を覚えるような恐ろしい話で──。

 

「……ウララさん、にんじんが無くなるのが怖いって言ったわよね」

「うん」

 

 ウララの返答にキングは我が意を得たりと頷いて。

 

「なら──『にんじんが食べられなくなるような話』は、もっと怖いと思わない?」

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 怪談大会当日。集ったウマ娘たちは思い思いの怖い話をし、中々の盛り上がりを見せていた。今のところ誰々の話が一番怖かっただの、自分はこっちの方が怖かっただのと駄弁りながら進行していく。

 

「じゃあ次は私が話すねー!」

 

 話を終えたウマ娘が多くなってきたところにウララが名乗りを上げる。「とびっきりのを頼むなー」など周囲が野次を飛ばす中ウララが話の姿勢に入る。

 

(ウララちゃんの語る怖い話ってどんなのだろう?)

 

 スペシャルウィークを筆頭に、多くのウマ娘がそう首を傾げた。ハルウララというウマ娘にホラーという要素が全く結びつかないからだ。

 

「じゃーいくよー『にんじん大好き!』」

 

 そのタイトルを聞いて周囲はウララらしいタイトルだな、と思ったが、しかし全然ホラーっぽくないな、とも思った。少なくともタイトルを聞いた限りでは全然怖い話には思えない。

 

「あるところに、うららちゃんという女の子がいました。うららちゃんはごはんに出てくるにんじんが大嫌いでした。今日もにんじんを残してお母さんに怒られてしまいます」

 

 女の子の名前を聞いて、自然と聞き手の皆は語り手であるウララの容姿を女の子に当て嵌めた。にんじん嫌いというのは真逆だが。

 

「『好きキライしてると大きくなれないわよ』そう言うお母さんですが嫌いなものは嫌いです。そこでうららちゃんは寝る前に神様にお願いしてみました。『神様、私がにんじんを好きになるようにしてください』」

 

(子供らしい発想だけど……これホラーよね)

 

 何人かが嫌な予感を覚えた。この手のホラーにおいて神様に願い事を叶えてもらった人物は大抵ロクな目に合わない。

 

「次の日の朝ごはん。テーブルの上にはどこを見てもにんじん。沢山のにんじんが生のままお皿に乗っていました」

「うえっ」

 

 誰かが思わず声を漏らした。朝食が全部嫌いな食べ物って何の罰ゲームだろうか。

 

「『どうしたの? 今日はうららちゃんの好きなハンバーグよ』お母さんはそう言いますがどう見ても大嫌いなにんじんでした」

「『ハンバーグ!? これが!? ママのいじわる、にんじんだらけじゃないっ』うららちゃんはそう思いますが、そのにんじんを食べたお父さんは『うん、今日のハンバーグはうまいな』などと言っています」

 

(もしかして、神様にお願いしたせい?)

 

 話の流れからしてそうだろう。にんじんを好きになるようにお願いしたのにこれは何か違う気がするが。

 

「うららちゃんはお母さんに訊ねます『ママ……これ、ほんとにハンバーグなの?』お母さんは事も無げに言います『見ればわかるでしょ?』」

「うららちゃんは恐る恐る、にんじんにしか見えないそれを食べてみることにしました」

「するとびっくり。『ハンバーグの味だ!』本当にそのにんじんは、味も食感もハンバーグそのものだったのです」

 

 驚く主人公の言葉の雰囲気は普段のウララと同じ調子で、完全に周囲の脳内イメージがウララで固まる。

 

「別のにんじんも食べてみました。『パンだ!』どうやら今のうららちゃんには食べ物が全部にんじんに見えているようでした。『こんなにんじんなら好きだな。神様がお願いを聞いてくれたんだ! 食べてみるまでなんなのかわかんないけど』」

 

「これってにんじん食えたことになってんのか? 実際に食ってんのはハンバーグとパンだよな?」

「そうね。全部にんじんに見えるってのもなんかね……」

 

 ウオッカとダイワスカーレットを始め聞き手のウマ娘たちが口々に感想を言い合う。まぁ、あまり主人公と同じ状況にはなりたくはないという意見が多かった。

 

「学校から帰ったうららちゃんは、お母さんに出されたにんじんを食べました。『わ、チョコレートケーキだ』食べ物がみんなにんじんに見えるのに色んな味がする。まるでゲームみたいで楽しいとうららちゃんは思いました」

 

 さすが子供、凄いポジティブ思考だ。勝手な脳内イメージであるウララのビジュアルとも相まってますますそれっぽかった。

 

「ある日、うららちゃんはいつものようににんじんを食べました。『今日はなにかなー?』とても甘くて美味しいそれは、しかし何かよくわかりません」

「するとお母さんが言いました。『あら、うららちゃん。にんじん食べてるじゃない、えらいわ』うららちゃんはとても驚きました」

「『じゃあこれ、ほんもののにんじん!? 私、にんじんが食べられるようになったんだ!』うららちゃんは神様にとても感謝しました」

 

 なるほど、確かに食べ物が全部にんじんに見えるなら、本物が出てきても気付かず食べるだろう。方法はともかく神様はちゃんと願いを叶えてくれたらしい。

 

「そんなある日。うららちゃんは世界のグルメ番組を観ていました」

「『これムカデじゃないですかー!?』『サソリもいるぅー!?』とタレントのお姉さんが騒いでいます。『いやいや、ちゃんとしたお料理なんですよ』と司会者が言いました」

 

 イナゴの佃煮とか蜂の子みたいなものだろうか。しかし流石にムカデはビジュアル的にきついな、と何人かは思った。

 

「『いやー、こうしてみると食べられない動物なんてないみたいですねー』

『そうです、偏見でものを言ってはいけないんですよ』うららちゃんはテレビを見ながら首を傾げます。『何言ってるんだろ? あんなに美味しそうなにんじんなのに』」

「えっ」

 

 主人公の言葉に聞き手のウマ娘たちがざわつき、背中にゾッとするものがこみ上げるのを感じた。

 

「願いは叶ったよね? 元に戻るんじゃないの……?」

「まさか、一生そのまま?」

 

 周囲の戦慄を尻目にウララの語りは続いていく。

 

 

「ある日の通学路。近所のおばさんがにんじんを散歩させています。塀の上では猫の鳴き声がするにんじんたちが喧嘩をし、木の上ではにんじんたちがさえずっていました」

 

 とうとう普通の生き物までにんじんに見えてきている。漂う不穏な空気にウマ娘たちが肩を震わせる。

 

「これって……」

「明らかにヤバいよね……」

 

「うららちゃんは寝る前に考えました。『あのにんじんはどんな味がするのかなぁ? もしかしたらハンバーグより美味しいのかも!』」

「ひぃ」

 

 誰かが思わず声を漏らし、主人公の言葉に震える。

 

「『………ちゃん、うららちゃん朝ごはんですよ』お母さんの声にうららちゃんが目を覚ますと。『ん……ごはん?』そこには、とても大きなにんじんがありました」

 

 何人かがひゅっと声にならない声を漏らし、顔を青ざめさせた。母の声で目を覚まして、目の前に巨大なにんじんがあったということは、それは。

 

「うららちゃんは目の前の大好きなにんじんにかぶりつきました」

「「うわああああぁ!?」」「「いやああああぁ!?」」 

「知ってるか? にんじんの漢字の由来は朝鮮人参は人型に近いほど上質になるかららしいぜ」

「ゴールドシップさんなぜ今それを言ったんですの!?」

 

 ウララの語りにウマ娘たちの絶叫が響き渡る。ついでにどこぞの雑学王が今は聞きたくなかったにんじんの雑学を投下する。

 

「『すっごく美味しい! こんなの初めて! こんなに美味しいものがあったんだ!』」

 

 普段のウララと変わらない声色で放たれたその言葉に周囲は阿鼻叫喚となった。口元を抑える者、血相を変えてトイレに走る者。それ以前に主人公がにんじんにかぶりついた時点で意識を飛ばしている者までいた。

 

 

「お腹いっぱいになったうららちゃんがリビングへ下りると、大きなにんじんが新聞を読んでいました」

「にんじんはお父さんの声で言いました。『おはよう、うらら。ママは?』」

「うららちゃんの部屋には、顔を抉られ、お腹を食い破られ、内臓を引きずり出された、変わり果てた姿のお母さんが横たわっていました──」

 

「「ひぎゃああああああぁ!?」」

 

 察していたとはいえ、やたら詳細に描写される母の末路に再び絶叫が響く。のほほんとしたウララの口から語られるにはあまりにも凄惨で恐ろしい話だった。

 

「これで私のお話は終わりだよー。どう、みんな? 怖かったー?」

「滅茶苦茶怖かったです!! ちょっと洒落にならないレベルで!!」

「わーい! 良かったー。頑張ってお話覚えたんだー!」

 

 キングの指導の下、この話の内容を苦労して頭に叩き込んだウララ。存分に怖がってもらえたようでご満悦であった。

 

「いっぱい話したらお腹すいてきちゃったー! スペちゃん、そこのお菓子取ってくれるー?」

「あ、はい。どれがいいですか?」

「そこのにんじんがいいなー」

「はい……って、え?」

 

 スペシャルウィークは言われるまま菓子の入った籠に手を伸ばそうとして、止めた。ウララが言うようなにんじんがどこにも見当たらなかったからだ。

 

「あの、ウララちゃん? にんじんがないみたいだけど……」

「えー? いっぱいあるよ? それとそれとそれと……」

 

 そう言ってウララが指を指すが、そのどれもにんじんとは全く関係ないお菓子である。まるで、にんじんでもないものがにんじんに見えているみたいな──

 

「え? ウララちゃん、まさか──」

「んー? このにんじん、おせんべいの味がするね。なんでだろー?」

 

 そう言って、煎餅をかじるウララの姿に。

 

「「うぎゃあああああああぁ!?」」

 

 ──この怪談大会で一番の絶叫が響き渡ったのだった。




【にんじん大好き】
松本洋子先生の著作であるホラー漫画。
にんじん嫌いな男の子が、神様ににんじんが好きになるようにお願いした結果食べ物が全てにんじんに見えるようになり……結末は作中でウララが語った通り。食い殺されたお母さんの死体の描写がやたらと鮮明で非常にグロい。
少女漫画『なかよし』に掲載され、当時の読者をにんじん恐怖症に陥らせた。

【キングヘイロー】
全ての元凶。気軽にウララにとんでもないホラー話を提供した。
ウララが話の内容を覚えられるまで指導した他、以下のアドバイスをした。

「主人公を女の子にして、名前をうららにしたら周りは勝手にウララさんを当て嵌めてくれるから面白いかもね」
「主人公の台詞も、ウララさんが普段会話するような感じで喋ると臨場感が出ると思うわ」
「最後、語り終えた後にお腹が空いたとでもいってお菓子を要求して、それがにんじんに見えているような振る舞いでもすればパーフェクトね!」

【ハルウララ】
語り部。キングに教えてもらった話を頑張って語った結果、ウマ娘たちを恐怖のどん底に叩き落とした。
普段のウララの明るい雰囲気とのギャップも相まって『にんじん大好き』以上に怖い話はなく、満場一致で怪談大会優勝者となった。
その後に食堂にて優勝賞金で大好きなにんじん料理をたくさん注文して食べていたらなぜか周りのみんなの顔が青ざめていた。なんでだろ?

その後しばらくの間、商店街のにんじんや学園のにんじん料理の売り上げが激減したらしい。

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