刀使ノ武芸者ー修羅流転録   作:重曹とクェン酸

31 / 34
観覧して頂きありがとうございます。


29.蠍火極毒歩(かつびごくどくほ)

 

 

 小百合に掴まれた七支刀の刀身は白銅色からどす黒い漆黒を経て鮮血の赤色に染まりだす。

 それは発光する自身の左目やアンナの髪に比べても遜色のない――血の色に酷似していた。

 

 瞬く間に刀身が二相の変化を終えると刀使であり、武芸者でもあるどっちつかずのなり損ない(・・・・・)がゆっくりと立ち上がり――吐き出した冷気を霧散させ、赤色に発光し続ける左目とセピア色の右目で殺害対象を捉える。

 

 

「覚悟はいいわね……アンナ」

 

「覚悟ォ? 覚悟(ソレ)ってナニに対してかしら?」

 

 

 赤色に染まる右目と青の左目を相対する同類へ向け、口の端を吊り上げて嗤ってみせる。

 

 

 ――――ヤッッッバ! 流石にこれは想定外ね。ここいらでお開きにしないと。

 

 

 予想外の事態にコチラの動揺を悟られぬよう平静を装って忙しなく両目を動かす。

 罠の始動は可能か? 脱出ルートまでの距離は? いや、そもそもこの状況から逃げれるのか?

 

 小百合(リリィ)との間合いはコチラの方が有利。出入口は潰して閉ざされたまま。小百合の能力(チカラ)が分からない以上、後ろのガキ共とペットは無視をするに限る。

 

 

「そんなマジにならないでよ。その子らアンタのなんなの? ただの他人でしょ? アノ子ら(・・・・)じゃあるまいし」

 

「そうね……知り合って間もない子達よ。でもね……だからって……はいそうですかって、わかってて見捨てて傷付くのを黙って見過ごす程人でなしになるつもりなんて私には更々ないのよ」

 

「なによ善人ぶっちゃって そんなこと言って取り繕ったところで何もできずに見殺しにしてきたんじゃないの?」

 

 

 自問自答する中、相対するヨハンナの額や背中に脂汗が吹き出る。

 小百合に気取られぬようにヨハンナの呼吸は浅く吐いて心臓に送り込んでいくのを繰り返す。

 

 

 考えろ。考えろ。考えろ――ワタシの脳みそ。

 

 

 修羅場のなかで思考を止めるのは死にたがりかバカのすることだ。

 死中に活を求めるのであれば行動をしろ。

 

 人を使え。状況を使え。持てる全てを出し切れ。

 

 

「今回もあの時みたいに見捨てちゃいなさいよ」

 

 

 何が何でも言葉を捻り出して時間を稼げ。 

 

 

見捨てられないわよ…………

 

 

 地に伏せられたか細い声が小百合から漏れ出る。

 

 

「そんなこと、できるワケないじゃない。本当だったらあの子達(・・・・)だって今頃別の人生を歩んでいるかもしれないし、あの子(・・・)だって私が拒絶していれば死なずに済んだのよ? それがどうして見捨てられると思うの?」

 

 

 俯いた顔から吐き出した言葉とともに反響させる。他ならぬ自分に言い聞かせる為に。

 

 凍てつかせる。

 

 心も。

 

 身体も。

 

 目を覆った指には力が込められ爪先が肌に食い込むと流れ出る血液は床に伝う前に変質させられ小百合の身体には写シにも似た赤い霧が立ち込めていく。

 

 

「はぁ? アンタのその面の皮の厚さには反吐が出るわね。でもいいの? そう言ってゴチャゴチャ言葉を並べてるけれどこの『チカラ』を関係のないヤツに晒しちゃって。見せちゃったんだもの、結局は関わらせてるじゃない」

 

「そうね……この姿を二人に見せたんだもの…………だからアンナ、責任取って――――」

 

 

 状況わかってる? と言いたげにトントン――左下目瞼を軽く叩き今の小百合の状況を認識させる。イニシアチブはまだコチラにあるのだ。いくら脳筋思考とはいえ頭を冷やさせれば止まるハズなどと強きの姿勢を保って小百合の動向に全神経を注ぐ。

 技術(ワザ)を知り尽くした相手が未知の力をさらけ出す以上、僅かな異変を見逃せばそれは即ち――

 

 

「死んでちょうだい」

 

 

 顔を上げた死神がもたらすたった一つの死に直面する。

 

 

「〰〰〰〰〰〰〰!!」

 

 

 やってくれたわね、ノア~!!!

 

 

「ゲェッ!?」

 

 

 恨み節で金髪鬼畜メガネの顔を思い浮かべていたのも束の間、二色の虹彩異色がすぐ目の前に差し迫る。迅移か、はたまた身体操作とも見て取れる迅さは背後にいる少女達を更に蚊帳の外へと追いやっていく。

 

 そして、異質な女の(つるぎ)刈り取るべき花(ヨハンナ)へと奔らせる。

 

 下段から、

 

 左切り上げ―― 右薙ぎ―― 袈裟切り―― 右切り上げ―― 唐竹――

 

 立て続ける小百合の斬撃。彼女の繰り出す剣技は基本的なものだが基本故にその描く剣筋は模範的でいて且つ綺麗でいた。例えそれがあの日まで信頼し背中を預けた者へ向けたものだとしても迷いのない剣筋はブレない。

 

 

「チョッ!? ヤメッ、危ッ!? ストッ――――」

 

 

 息つく暇など与えない。

 されど攻撃することを捨て回避に専念するヨハンナに刃はことごとく届かず。

 それでも且つて小百合が見せた仕事人としての顔で彼女に斬り込み続ける。

 

 六度、七度、八度……と太刀筋が軌道を描く中で小百合は顔色を変えず能面のような顔つきでヨハンナに迫り、今度は術技を交えた斬撃で小百合と七支刀はその速度を上げていった。

 

 

「きつそうね。そろそろ休んだら?」

 

「アンタがその身体を動かすのを止めてくれたらワタシも一緒に休んでアゲル」

 

「それは出来ない相談ね。仕事は完遂させないと、ね」

 

 

 動かす口と振るう剣は度重なり、次の瞬間にはヨハンナの視界に映る小百合の前腕が音を立て弾く。

 

 ――バチッ!

 

 左から右への横一閃――ヨハンナの顔面を紅蓮旋(ぐれんせん)が通り過ぎる。猛攻を凌ぎ、ここ一番での最大級の一撃を躱したお陰で体勢を崩した彼女は本の数瞬――床に背を預けると指を使う暇もなくバク転して立て直す。

 

 それがいけなかった。

 

 バク転の最中、正面にいるハズの小百合の姿が消えていたのだ。

 戦い慣れしない素人じゃあるまいし同じ攻撃モーションなどするハズもない。

 上空にいることを除外し直ぐに範囲を絞る。

 

 小百合は脳筋ではあるもののかといって基本の術技では他のヤツと比べても決定打に欠ける。が、五行その総てを会得し他者への伝承を可能とする彼女だからこそ彼女にしか使えない術技が存在しうる。

 

 一瞬見える躍動した漆黒の毛先と頭上に出来る影。

 任務中に一度だけ目撃したソレ(・・)が脳裏の奥底から引きずり出された。

 

 

 チョ、まッ! 待ッて!! マッテ!!! よりにもよってソレ(・・)が来るの!?

 

 

 なりふり構わず急ぎバックステップと十指で糸を操ろうとするが判断も行動も時すでに遅し。

 不意に両足が縺れ口と目が大きく見開く。

 目を向けるまでもない。その強度は自分が一番理解しているのだがら。回避は出来ないと悟り防御に集中すべく罠を始動させ、絡み付いた髪を切る。

 

 ネライは頭部か。それとも心臓か。どちらにしろ凌いで急所さえ外させればコチラの勝ちだ。

 ピクリとヨハンナの口角が微かに緩む。

 

 ソレを見逃さなかった小百合は床に沈んで這いつくばっていた足を上空へと打ち上げ、既に背中から抜刀していた短刀の落下する軌道に追いつく。

 切っ先はもう僅か、紙一重の位置でヨハンナの頭部に接触しようとしていた。

 

 

 ――――来るッ!

 

 

 そこから短刀による刺突が脳裏に過ぎったヨハンナは後ろに掛かる体重を真横へと急激に身体の重心を移動させた。被っていた頭巾(ウィンプル)が落ち、赤髪も乱れる。無理な動作に矮躯から悲鳴が上がるが激痛など糞食らえ。今度は技が終わるタイミングを見計らいその時まで息をひそめる。

 

 ヨハンナが下手なダンスを踊りこれで狙い通りの位置となり準備は整った。

 

 左目がより一層鮮やかに赤色に発光して右足のつま先から先端が鋭利な短剣(スティレット)が飛び出す。

 上空を蹴った足が加速しながら円錐の刃でヨハンナを捉える。

 

 ここで狙うのは――

 

 

 

  頭部 → 30.鋼鉄の処女(アイアンメイデン)

    → 31.赤星

 

 

 

 




公開情報

百合園 小百合
御刀:七支刀
 (つるぎ)……白銅色 ⇒ どす黒い漆黒を経て、赤い鮮血に変化する。
短刀……納刀場所:背中
短剣……右足のシューズに納められた先端が鋭利な短剣(スティレット)
    納刀場所:右足の靴



ヨハンナ・ピオニー・パイエオーン
目……左目は赤色
備考……頭巾(ウィンプル)を被っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。