暦は3月。俺は今、袖ケ浦のとある公園に居る。
雪乃との交際も順調に進み、大学卒業後は、陽乃さんの陰謀により雪ノ下建設に半ば強引に就職させられ、1年後には修行の為と袖ケ浦の営業所に飛ばされた。
遠距離とはいえ、千葉県内なので雪乃とは別れることもなく交際している。
大学を卒業後して3年袖ケ浦に来て2年、本社への栄転と共に雪乃と結婚することになった。
プロポーズ?…言ったよ、超言ったよ。雪乃には『陸橋での言葉の方がプロポーズらしかったわね』って…。だから、これは誰にも教えん、墓まで持っていく。
それで、なんで公園なんかに居るかというと、ここには俺のベストプレイスがあるのだ。休日の何もない時はそこで本を読んでいる。結婚を控えてるのに暇そうだと?仕方ないだろ、雪乃は今日、結婚前最後の女子会なんだから。しかも、この女子会のメンバーが凄い。由比ヶ浜と一色はもちろん、小町に川崎に三浦に海老名さん。それから本牧(旧姓·藤沢)。何故か折本までいる。本来ならさらに相模も居るんだが、欠席とのこと。どうやってこのメンバーと仲良くなったのか不思議だ。
まぁ、俺も葉山·戸部·大和·大岡、戸塚に本牧(旦那)に材木座にヘベレケにされた。悔しいから、葉山と戸部のツーショット写真を雪乃経由で海老名さんに送ってやった。ざまあみろ。
ここに来るのも、あと1回あるかないかだ。存分に読書をさせてもらおう。
じゃあな、読者諸君。
…
……
………
…ん、足元にゴム毬が転がってきた。拾いあげると小さな女の子がやってきた。
「はい、どうぞ」
その娘に渡すと嬉しそうに笑った。周りを見渡すとご両親らしき姿は見えない。
「お父さんお母さんはどこかな?」
クビを傾げている。カワイイ…。じゃなくて!
迷子か…。とりあえず公園の管理事務所に連れていくか。
「お兄ちゃんと公園事務所に行こうか。お父さんかお母さんを探せるかもしれないからな」
ニッコリと笑った女の子を連れて公園事務所に向かう。
ヤダ、通報されちゃう。…な~んてことはない。ここの公園に居る人たちとは顔見知りで、さっきも『娘が居たのかい?』『いいえ、迷子みたいなんで公園事務所に向かってます』なんて会話をした。コミュ力?おいおい、社会人舐めんなよ。
…ん?この娘、手を繋いてきた…だと…。俺と雪乃だって、手を繋ぐまでにそうとう時間かかったんだぞ。少し震えているみたいだ。不安なんだろうな。
「大丈夫、お兄ちゃんがお父さんお母さんに会わせてやるからな」
一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。この娘お持ち帰りしたい。…そんなことしたら、事案なのでやらないけどね。
そんなこんなで事務所に到着。
「すいません、この娘迷子みたいなんですけど」
「それはそれは。今のところ迷子探しとかの連絡は来てないな。よし、園内放送をしようか」
「お願いします」
管理事務所の人と話をしていたら扉が開いた。
「すいません!ここに3歳の娘の迷子は…」
「お母さん!!」
子供はお母さんと呼び、飛びついた。
「もう、勝手に居なくなって。心配したんだから。すいません、ご迷惑をおかけしました」
母親が管理事務所の人に頭をさげる。
「いやいや、この人が娘さんを連れてきてくれたんだよ」
「本当にありがとうございま…す…」
「いや、お礼を言われるほどでもないですよ」
すると、母親は口角上げてこう言った。
「奉仕部の活動の一環か、比企谷」
え?俺のことを知ってる…。こんな美人ママさん知らないよ。年齢を疑う同級生のママンは二人ほど知ってはいるが、この人は知らない…。
「久しぶりだな、比企谷。まだわからないって顔をしているな」
「はい、どこかでお会いしましたか?」
「まったく…。これならどうだ。『青春とは嘘であり悪である』って、書き出しの作文を提出した相手といえば?」
ま、まさか…。
「平塚…先生…」
「ああ、そうだ。今は平塚ではないがな。ど、どうした比企谷!」
自分でも涙が流れたのがわかった。そりゃ、先生も驚くよな。
「よかった…。先生、お元気だったんですね」
「ああ、元気だぞ。そうか、連絡がつかなくなっていたんだな、すまないな」
「陽乃さんとも連絡しなくなるなんて、どうしたんですか?」
「ここでは何だ、場所を変えよう」
管理事務所の方に挨拶をしてファミレスへ移動。
千葉県民なら…。そう、サイゼだね。
…何故か先生の娘が俺の隣に座った。
「短い時間で、随分と懐いてしまったな」
「えぇ。川崎の妹にも懐かれましたよ」
けーちゃんも大きくなったんだろうなぁ。
「それでだ、連絡がつかなくなった理由なんだがな…」
なんかタメを作ってるよ、この人。ゴクリ…、ヤバイ理由とかあったらどうしよう。
「移動のゴタゴタの時に壊してしまってな、連絡先も全部消えてしまったんだよ、はははっ!」
「あはは…」
こっちがどれだけ心配したか…。
「すまんな、比企谷。それで、雪ノ下や由比ヶ浜はどうしてる?」
…やっぱり、出席してほしいよな。
「先生、4月の第二の日曜は空いてますか?」
「特に予定はないがどうした?」
「千葉まで来ていただけませんか?俺、結婚するんです。是非披露宴に出席していただきたいんです」
「そ、それは…。うむ、喜んで出席させてもらおう」
一瞬、驚いていたが喜んでくれた。
「それで、相手は…」
「雪ノ下です」
「そうか…、そうか…」
先生は、薄っすらと涙を浮かべていた。
「改めて、招待状は送らせていただきます」
「うむ」
平塚先生と披露宴での再会の約束をして、家路につく。
途中で、雪乃に【披露宴の席を追加】とメッセージを送る。先生と娘さんと撮った写真を添付して。
さて、どんな返事が返ってくるかな。