新約、そして流動源力完結です。
ローファーで歩く音が、廊下に響き渡る。
歩いているのは、特徴のないオーソドックスなセーラー服に身を包んだ一人の少女だ。
長い黒髪を猫耳ヘアに整えた彼女の名前は朝槻真守。学園都市の頂点である
真守が歩く廊下があるのはとあるビル。
学園都市を運営する統括理事会のメンバーが定期的に使用する会議場がある施設だ。
真守の少し後ろには、垣根帝督と
一方通行の後ろにはクリファパズル545が、そして垣根帝督の後ろにはエルダー=マクレーンがリリスを連れて歩いていた。
真守を頂とするように、彼らは真守に続いて歩く。
廊下には、突き当たりの部屋がある。
その前には、車椅子に座った八乙女緋鷹がいた。
第二学区にある真守の神殿として造られた『
真守のことを神として掲げる『
彼女は誇らしげに真守を見つめて、そして扉を開けた。
「集まってるようだな」
真守は会議室を見渡して、柔らかく微笑む。
その会議室には統括理事会のメンバーが集まっていた。
渋い顔をしている人間も、険しい顔をしている人間も。柔らかい笑みを浮かべている人間も、真剣な表情をしている者たちもいる。
「学園都市の機能を回復させ、お前たちを集めたのは私だ。ちなみに、街を管理していたコードリストは私が握っているぞ。お前たちを集めたのは宣言することがあるからだ」
真守は垣根たちを引きつれて、一番豪華な椅子へと座る。
統括理事長として、用意された椅子へ。
そこに座って、真守は統括理事会の面々を見つめた。
「これから学園都市はこの私、朝槻真守が管理することになる。私が新しい統括理事長となる」
真守は宣言すると、いたずらっぽく笑う。
「ちなみに統括理事長の座は簒奪したワケじゃないぞ? 私がアレイスターから、正式に引き継いだ。後継者として指名されたんだ」
統括理事会のメンバーは、旧統括理事長であるアレイスターから一通のメールを受け取っていた。
それは自分が統括理事長の座を降りて、朝槻真守を自分の代わりに学園都市の新統括理事長として就任させるという内容だ。
アレイスターはイギリスの後処理を何も行わずに
真守はふふっと笑いながら、統括理事長のメンバーに笑いかける。
「新統括理事長の私に逆らうも服従するも結構。だが自分の地位や守りたいものがあるなら大人しくしているのをお勧めする。私は一度、表の学園都市を手中に収めた身だ。大熱波の時に自分の身を守るだけで手いっぱいだったお前たちとは違う」
真守は柔らかく微笑んで、統括理事会の面々を見つめる。
親船最中は笑っている。真守の学校の先輩をブレインとしている貝積継俊は妥当だろうという表情をしていた。
「私は学園都市を変える。悲劇を温床にして繁栄することは許さない。誰も彼もが努力すれば全てを手に入れられる学生の街にする」
悲劇によって造られた学園都市は必要ない。
たった一人の少年を輝かせるために造り上げた実験場に、もう意味はない。
「私が考える学園都市は悪いものじゃない。人間一人一人が目を覚まし、何物にも縛られることなく生きる。──そして、誰もが神さまにもなることが許される世界を造る。誰も彼もがなりたい自分へとなることが許される学生の街。それが私の理想とする学園都市だ」
統括理事会の面々は真守の理想を聞いて眉をひそめた。
自分がなりたい、本当に望むべく姿。
誰もがどこかで諦めた、本当に自分がなりたかった姿。
それが実現できる世界。そんな世界は夢物語だ。
だが何故か。この少女ならば実現できると、何故か統括理事会の面々はそう感じてしまった。
「お前たちをないがしろにはしない。大人だって変われる。だから一緒に変わって行こう」
にこっと微笑む真守。そんな真守を見て、垣根と
この少女は私腹を肥やす統括理事会の面々だって変わらせてしまうだろう。
それが安易に想像できて。垣根と一方通行は笑ったのだ。
「罪は償わせる。色んな形でな。それでみんなで幸せになるんだ。──必ずな」
真守は微笑む。そして宣言した。
「私が新しい学園都市を造る統括理事長だ。新しい学園都市は、
ここに、新しい学園都市を造るための体制が整った。
真守は渋い表情や笑みを浮かべる統括理事会を睥睨して、にっこり微笑んだ。
──────…………。
新しい統括理事長の就任と、その補佐の決定。
それにより、第二学区にある『
一時的なのは『窓のないビル』があった場所に、新たな統括理事長の住処を建築しているからだ。
第七学区を一望できる場所。そこに統括理事長はいるべきだからだ。
それに『施設』は元々真守の隠れ家。そして科学の徒の神殿であるべきだからだ。
その『
純白で彩られた部屋で、新統括理事長の鼻歌が響き渡る。
猫っ毛が目立つ黒髪を猫耳ヘアにして、無機質なエメラルドグリーンの瞳を輝かせる、あどけない顔つきの少女。
取り立てて特徴のないセーラー服に身を包んでいる、身長のわりにちんまりとした雰囲気をまとっているアイドル体型の黒猫系美少女。──朝槻真守。
真守は自分の身長よりも大きなクッションを床に敷き、その上に寝転がって雑誌を読んでいた。
ただ寝転がって遊んでいるわけではない。
真守の周りは、一〇台のパソコンと一つのスマートフォンが置かれていた。
それらはめまぐるしく動いており、数字と英語が書き込まれ高速でウィンドウが開いて閉じる。
時々学生らしき写真も次々と出てきたりと、その様子は本当に忙しない。
そんな真守へ、一人の少年が近付いてきた。
学園都市の五本指に入る学校の男子制服。
それを適度に着崩した少年──
「真守。飯だ」
「分かった」
真守は部屋に入ってきた垣根を見て、自然とさらっと雑誌を閉じる。
垣根は自分の能力である
そして食事の載ったトレイを置きながら、気になったことがあって真守を見た。
「雑誌で何を見てたんだ?」
「え。ええっと……クリスマスの特集……を、見てただけだ」
真守はちょっと雑誌を隠しながら、垣根の追及に答える。
垣根は少し動揺している真守を見て、にやっと笑う。
「ふーん。俺がいつもエスコートしてやってるから自分も頑張ろうって思ったのか?」
「うぐっ。……垣根は本当になんでもお見通しだな……」
真守は雑誌を手に取って顔をしかめる。
クリスマス特集にはデートスポットやプレゼントの選び方が載っていた。
季節はもうすぐクリスマスなのだ。クリスマスの本当の意味を考えると科学信仰を掲げる学園都市でクリスマスが行われる事は不思議な事だが、今更気にしてもしょうがない。
真守は雑誌を丸めながら、ぼそっと呟く。
「でもまあ、クリスマスを堪能してる場合じゃないんだけどな。統括理事長がそうポンポン外に出るのもあれだし……」
「別にいいじゃねえか」
垣根は身分を気にしている真守を見て、けろりと告げる。
「学園都市統括理事長が楽しく学園都市を練り歩いていても良いだろ。これまでの常識は通じねえし、俺はお前とクリスマスを楽しみたい」
垣根はいつもの調子で告げて、真守に近づく。
そして優しく抱きしめて、甘く囁いた。
「楽しい『性』なるクリスマスにしようぜ、真守」
「……『聖』なるクリスマスなら遊んでないで、お祈りでもしてた方が良いんじゃないのか?」
真守は自分のことを抱きしめて、にやーっと笑っている垣根を見て怪訝な表情をする。
垣根と一緒に来て、食事を運んできたカブトムシの相手をしていた
「オマエ、自分の女だからってセクハラは大概にしろよ」
「俺の女だから何言ったっていいんだよ、一方通行」
垣根は真守を抱きしめて、ご機嫌に目を細める。
真守は顔をしかめて、自分のことを抱きしめる垣根を見上げた。
「……もしかして、垣根。なんかよくないコト考えてたの……?」
「別に? 考えてねえけど?」
しらばっくれる垣根。真守はそんな垣根を見上げて、むーっと顔をしかめる。
せいなるクリスマス。『せい』なる。せい、せい……性。
「かきねのばかっ!」
真守は垣根が何を考えているか理解して、声を上げる。
垣根は自分の腕の中で暴れる真守を見て、にやーっと笑った。
「ナニ想像してんだ? 淫乱」
「なーっい、いいいんらんっ!? 私のコト、淫乱って!! っかきねのばかっばーかっ!」
真守が顔を真っ赤にして涙目になっていると、垣根はくつくつと笑う。
「オマエたちは本ッ当に飽きねェよなァ」
「
「別にいちゃいちゃしてたったいいだろ。ん」
「ちゅーしないでっ!!」
真守は頑張って逃げようとするが、垣根から逃れられない。
うわーんっと泣いていると、白いトンボとカブトムシが飛んできた。
トンボの方──帝察さんが一方通行に声をかける。
『
「だとォ? ……またあのガキ来たのかァ?」
一方通行はチッと舌打ちをする。
するとにゅるっと悪魔っ娘が一方通行の後ろから飛び出してきた。
『そうはいってもご主人様フリークの私からしたら、とっても嬉しそうですけふぉっう!? しっぽ! しっぽはダメですってばぁあああ』
クリファパズル545は思い切り尻尾を引っ張られて絶叫する。
「面倒くせェから別室に案内しろォ」
『分かりました』
あんまり放っておくと悪さをし出す。その前に別室に案内して行動を制限させるに越した事はない。
「ちょっと行ってくる」
「真守、源白がサンドイッチ作ってくれたんだ。食え」
真守は自分が持ってきたご飯に真守の目を向けさせる。
「あんまり根詰めるんじゃねえぞ」
「心配しないで、垣根。
真守は微笑むと、垣根と共にテーブルに付く。
そしてお手拭きで手を拭くと、深城が用意したサンドイッチを手に取る。
ぱくっと一口。真守はいつも通り美味しいサンドイッチに表情をとろけさせる。
「おいしいっ」
幸せそうに頬張る真守。
そんな真守が愛おしくて、垣根はふっと笑った。
真守はもぐもぐ食べながら、情熱を秘めた目をする。
「これから学園都市は変わる」
真守はここ数日何度も宣言している言葉を口にする。
「悲劇の土台を失くして、誰もが幸せになれる街にする。努力すれば誰でも力を得ることができる、みんなが自分のやりたいことをできる街にする」
真守は深城の作ってくれたサンドイッチをちまっと口にする。
「それが私の造りたい街なんだ。神さまになることでさえ許される街。みんなが互いを思いやって、誰も悲劇に遭遇しない街。悲劇に遭遇したとしても、救いの手がある街。人を想う心。それによって『奇蹟』で満たされるセカイにしたいんだ」
垣根は自分の理想を口にする真守を見て、ふっと笑う。
「遠いところまで来たもんだな、俺たち」
「うん、そうだな」
真守は垣根の言葉に頷く。それは一方通行も同意だ。
「でもどこへ行ったってずぅっと一緒だ。誰もが笑って暮らせるようにするんだ。誰も悲しまない街で、私たちはいつまでも暮らすんだ」
真守はにへらっと笑う。
本当に色んなことがった。七月初旬から。様々なことがあった。
それでもここまで来られたことが、何よりも誇らしい。
笑っている真守が愛おしくて、垣根は真守の事を抱きしめる。
「愛してる、真守」
「ありがとう、垣根。私も垣根のコトがだいすきだぞ」
真守はにこにこと笑っていたが、垣根の胸から逃れようとする。
「垣根、深城のサンドイッチ食べたい」
「……別に俺に抱きしめられたままでも食べられるだろうが」
むっとする垣根。真守はそんな垣根をじとーっと見上げた。
「垣根。ご飯食べてるんだからぎゅーってしないで。お行儀悪い」
「別に行儀悪くねえよ。つーかその常識は俺には通じない」
「まったくもーこの男。相変わらず自分ルール爆発してる……ッ」
真守は顔をしかめたまま、垣根に抱きしめられたままもぐもぐサンドイッチを食べる。
「そういや真守。体の方は用意できたぜ」
垣根は真守のことを自分の膝の上に乗せて愛でながら、軽い世間話をする。
真守は不服な顔をしていたが、垣根に声を掛けられて不満げながらも礼を告げる。
「それに関してはありがとう、垣根。でも離してほしい」
「嫌だ」
「まったくもう、この男は……」
真守はぶつぶつと呟きながら、サンドイッチを食べる。
垣根と真守が会話しているのは、朝槻真守を神として必要としている『彼ら』の事だ。
人造の樹に『彼ら』を組み込む際、真守はそれ相応に『彼ら』の魂を整えた。
まだ魂は『あちら』にある。それでも魂を形にしたため、体が複数体必要となったのだ。
真守は不服そうな顔をしていたが、いつまでも不機嫌になっていてもしょうがない。
どうせ自分の我を通すこの男には、勝てないのだ。
そのためため息を吐いてから、垣根を見上げて微笑んだ。
「垣根や
「……身を切らなくていいモンな」
垣根はじろっと真守を睨みながら、その薄い腹に手を伸ばす。
真守は垣根帝督やアレイスターの人造細胞技術が無ければ、自分の胎で『彼ら』を産む筈だった。
真守はお腹を触られた事でビクッと震えるが、垣根の機嫌の悪さを感じて眉をひそめる。
「垣根がいるから私が自分を使うことはありえないって言ってるだろ。まったくもう。過ぎた話をそう何度も掘り返すな」
「前に言っただろ。そんな可能性があっただけで許せねえって。それと俺にとっちゃまだ過ぎた話じゃねえからな」
垣根はじとっと真守を睨む。
真守はいつもの調子の垣根を見上げて、くすっと笑った。
「垣根は本当に器が小さいなあ。これでもでっかくなった方だけどな」
真守はくすくすと笑って、垣根の頬へと手を伸ばす。
「成長しようとしなくても、私は垣根のことがだいすきだぞ。垣根が優しいのは変わらないし、私のことを一心に想ってくれるのも変わらないからな」
真守は自分の事を腕の中に閉じ込める垣根へと頬をすり寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
「垣根に会って、私も色々変わったよ。本当に、色々変わった」
「……そうだな」
垣根は目を伏せて、自分の腕の中にいる温かい命の事を感じる。
真守はふふっと笑って、幸せを感じながら遠いところを見る。
「私が男の子と恋愛なんてするとは思ってなかった。……とても素敵な男の子に好きになってもらえて、とても嬉しい」
「地位も名誉も金も力も持ってるからな。お前のこと大事にするし、俺以上に良い男なんてこの世にいねえよ」
「ふふ。自信過剰」
真守は幸せを感じて微笑むと、垣根の頬へと手を伸ばした。
そしてぴとっと添えると、垣根は目元を柔らかく細めた。
「これからも、私たちはこの学園都市で生きていく。色々大変な事があって、そして楽しい日常を歩み続ける。レールが敷かれていない世界で。大切な人が見守る世界で。まだまだやる事はたくさんあるし、未知の出会いも待っている。楽しんでいこうな、垣根」
「……ああ、もちろんだ」
この少女とならば、どこへだって行ける。なんだってできる。
かつて、垣根帝督は大切な存在を守れなかった。
手の平から零れ落ちていく命を止められなかった。
垣根帝督はその事を覚えている。忘れるはずがない。
自分に起こった悲劇。その悲劇をこれ以上引き起こさないために、この学園都市を変える。
この少女と共に。そして気に入らないながらも、なんだかんだ言って認めている
「深城が作ってくれたサンドイッチ、垣根も食べよう」
真守は垣根へとサンドイッチを差し出す。
林檎と『スクール』の少年少女と共に、深城も今は第二学区にあるこの『
だがすぐに
誰も彼もが幸せを享受できる。それでも過去の罪を忘れずに、罪を償っていく。
そして誰も彼もが納得して自由に生きられる街。
そんな街で、真守も垣根も生きていく。
永遠に。それこそ、世界が存続していく限り。いつまでも。
垣根はふっと笑うと、真守が差し出してくれたサンドイッチを口にする。
「美味い」
「深城のご飯は美味しいからな。当然だ」
真守はふにゃっと笑うと、垣根にサンドイッチを食べさせながら笑う。
「ご飯食べたらもうひと仕事だ。頑張ろう、垣根」
「ああ。やろうぜ、真守」
学園都市に振り回されていた少年少女は、もういない。
学園都市は生まれ変わる。
実験動物であった自分たちが、世界を変えるのだ。
真守は垣根の光に満ちた言葉に頷いた。
そして、ふにゃっと笑った。
本当に心を許した人々に見せる笑み。垣根帝督が好きな笑い方。
それを真守が見せてくれることが嬉しくて。
垣根帝督も、優しく微笑んだ。
流動源力、完結です!!
二〇二一年から旧約を始めたので、約3年間。お付き合いいただきありがとうございました。
一〇〇万文字書いたくらいから、『ここまで来たら最後まで終わらせたい!』という思いで執筆と更新を続けてまいりました。
最初は完全に自己満足で投稿したのですが、ここまで続けられたのは読んでくださる方々がいらっしゃったからです。本当にありがとうございました。
更新日中に活動報告を上げようと思いますので、もしよければそちらもご覧ください。活動報告を投稿したら、旧Twitterの方でお知らせさせていただきます。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました! 完結しても流動源力はちょこちょこ更新していこうと思いますので、これからもよろしくお願いします。