前世も今世もマッドサイエンティスト ーヴェルデだから仕方がないー   作:ポロンクセマ

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 ★『ルパン三世VS名探偵コナン』に沿った話です。

 ★ストーリーや時系列の変更、捏造があります。ご注意ください。

 ★時期的には、17話から少し経過したくらい。

 ★コナン君の周辺の人たちとは顔合わせは済んでいるという流れでいきます。

 ★いつも以上にハッスル。



番外編
ヴェルデin『ルパン三世VS名探偵コナン』


 

『ヴェスパニア王国で痛ましい事故が起こりました。亡くなったのは────』

 

 もうすぐ夕方に差し掛かろうとする時間帯。

 コーヒーを飲もうと豆をミルで挽いていたら、ラジオからある王国の悲報が流れてきた。

 なんでもキツネ狩りの最中に、ヴェスパニア王国の女王と王子が猟銃事故で亡くなったらしい。

 

「んー……暴発、不備、利権、陰謀、お家騒動。……暗殺」

 

 死亡に繋がりそうな背景が口からつらつらと漏れ出る。

 裏社会につかりすぎた弊害かな。

 ラジオでは詳しい内容に触れていなかったから、ついつい悪い方に想像力を傾けてしまう。

 

「でもあそこはそんな血なまぐさい話が出る国ではないか。なぁ、ケイマン」

 

 足元にいる相棒は返事をせず、興味がなさそうに大きなあくびを一つ。

 

 ヴェスパニア王国といえば、緑に囲まれた自然豊かな国だったと記憶している。

 観光大国とまではいかないが、料理がおいしく治安もよく旅行客も広く受け入れているため、それなりに人気があった。

 親日国の一つでもあるはずだ。

 女王は動物や平和を愛する穏健な性格だと言われているし、後を継ぐ王子も温厚で勤勉な人柄が国民に愛され、人気が高い。

 内乱の雰囲気もなさそうだし、周辺諸国と摩擦が起こっているという話も聞こえてこない。

 

 なら今回はただの事故と考えるのが妥当かな、と私の中で結論が出る。

 まぁ事故だろうか事件だろうが、私には関係のない話ではあるが。

 

「……さて、続きといくか。行くぞ、ゴーラ・モスカJr.」

 

 コーヒーをぐいと飲み干して、私は休憩中の頭を研究用の頭に切り替えた。

 

 

 

 

 それからしばらく経ち──ヴェスパニアの事故のことなどさっぱり忘れた頃合いに、私の研究所に一人の女性が訪ねてきた。

 

 

 

 

「あらぁ……稀代の科学者と噂されるグリューン博士が、まさかこんなに小さな女の子だったなんて……。大誤算だわ」

 

 目を丸くさせてよくくびれた腰に手を充てる、妙齢の女性。

 ライダースーツに身を包んだ女性はこちらにゆっくりと近づいてくると、私の緑の髪を少量すくい、「これ、天然なのね。とてもきれいな色だわ」と楽しげな声を出した。

 その不躾な態度にケイマンがわずかに反応を示すが、彼女は特に気にした様子もなく双眸を細める。

 ふむ。なかなか胆力のある女性のようだ。

 

「ねぇ、博士…………このペット襲ってこないわよね?」

 

 前言撤回。やはりそれなりに怖いらしい。私は軽く手を振った。

 

「ケイマンはペットではなく、相棒だ。基本的に私に危害を加えなければ、自分から攻撃はしない。そこにいるロボットたちもな」

「そう。それを聞いて安心したわ。じゃ、博士。お客様にお茶とお菓子は出して下さらないの?」

「誰が客だ。“私に益のある話がある”と言うから中へ通したんだぞ。用件を言え。さもなくばとっととおかえり願おうか。私は暇じゃないんだ」

「ま、せっかちねぇ。んー、男だったら初心な少年だろうが枯れたおじい様だろうが、確実に落とす自信があったのに……女の子じゃぁね。……残念」

 

 残念と言う言葉とは裏腹に、焦げ茶色の髪を持つ美女は悪戯を思いついた子供のように口角を上げ、

 

「なら正攻法でいこうかしら。ふふ、グリューン博士。実は私、あなたをお誘いに来たの。お姉さんとイケない事、してみない?」

 

 ぱちりと女優顔負けの綺麗なウインクをしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の“お誘い”という言葉に引っかかりを覚えた私は、一応の対面の場を整えることにした。

 

 コーヒーとシュネーバルをテーブルに並べると、機嫌を良くした彼女は自身の胸に手を充て、"峰不二子”と名乗った。「苗字は寂しいから不二子って呼んで」と語尾にハートマーク付きで。

 かの有名な大泥棒、ルパン三世の一味に確かそんな名前の女性がいたな、と口に出せばご本人様だと言う。

 まさかこんなところで邂逅するとは思いもよらなかった。

 

「ねぇ、博士。ほんの少し前にヴェスパニアという国で、女王と王子が亡くなったのをご存じ?」

「ああ。ネットやテレビで騒がれていたからな」

 

 ラジオのニュースから数時間後。

 ネットニュースはすぐに彼らの話題で埋め尽くされた。

 普通とはかけ離れた異質な死に方をしたからだろう。王室ということもあり、テレビのワイドショーも彼らを大きく取り上げていた。

 

「キツネ狩りをしていた王子がキツネの傍にいた女王を誤って射殺。それにひどく取り乱した王子が女王の亡骸の傍で自殺……だろう?」

「そうそう。そのため遺った19歳のミラ王女が王位を継承する流れになったけど、今、国内は荒れに荒れちゃって大変みたい。なんでも即位に反対する国民のデモが始まったんですって。『ミラ王女、次期国王に反対』、『19歳の小娘に何ができる』、『小娘に国を任せるくらいなら王政を廃止しろ』とか他にも色々。攻撃的で、いやね」

「それはまた……」

 

 家族を突然亡くした年若い娘に対し、ずいぶんと心無いことを言う輩がいるものだ。

 しかも相手は仮にも自国の王女だろう。

 不二子が言うには、反王女グループなるものも存在し、中にはテロをも辞さない危険分子もいるようで。ご苦労なことである。

 

「王女も王女で『女王になんかならない。なりたくない』って即位を拒んでいるみたいよ」

「母親と兄を前触れもなく一度に失ったんだ。頭では理解できても、感情が追い付かないんだろう。感傷的になって拒絶したくなるのも無理はない。まだ子供だしな」

「博士……あなたおいくつ?」

「見た通りの年齢だよ」

 

 不二子の質問に正確には答えないで、しれっとした視線で続きを促す。

 彼女は怪訝な顔をしながらも、「それでね」とソファーの背もたれから体を前に傾ける。

 

「実は私、王女の側近のキース伯爵から彼女のリフレッシュを依頼されているの」

「リフレッシュ?」

「近々、王女は日本を訪問する予定があってね。その際、『一日だけでも王女という身分を忘れて、普通の女の子として自由な時間を与えてあげてほしい』って。愛よね~」

「つまり王女が日本に行くことによって、国民にも彼女にも冷却期間を設けようというわけか。悪くないな」

「まぁ、目的はそれだけじゃないんだけどね。で、その機に乗じて……うちのルパンは王家に伝わる、あるお宝を狙うみたいなの」

 

 ここでルパン三世の登場か。

 泣きっ面に蜂とはまさにこのこと。

 まったく知らない王女様だが、ルパンに狙われるとはさすがに同情する。

 

「でもすっごく警備が厳重なんですって。だから少しでもお宝ゲットの確率をあげるために、グリューン博士、あなたの力を借りられればなぁって思ったのよ」

「ふぅん。でも私は金銀財宝やお宝等に興味はないし、堅固なセキュリティを破ることに楽しみを見出す性格でもない。私に犯罪の片棒をかつげと言うのなら、それなりの旨みがないとな。君たちに協力したとして、私が一体何を得る?」

 

 ひじ掛けに頬杖をついて挑発するように不二子を見れば、彼女は意味深な笑みを浮かべて小さく口を開いた。

 

「“究極のステルス”」

 

 

「──────────────は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 私の元にミステリアスな美女が突撃してきた翌日。

 

 ドイツの研究所から連れ出された私は、スイスのとある山小屋に来ていた。

 外観は古びた山小屋だが、通された室内はコンクリートの壁で固められており、耐久性も防音効果も高そうだ。揃えられた家具も一級品だと分かる。

 アジトの一つなのだろう。

 何やら怪しい機器や武器が所々に散乱している。

 

「ヴェルデ、ふらふらしてると危ないわよ。足元、気を付けて」

 

 きょろきょろとあたりを見回していると不二子に腕をひかれる。

 そして新たな男性三人と対面した。

 

「えーっと、なんで不二子ちゃんがここに……」

「もう! 私を仲間はずれにするなんてひどいじゃないの、ルパン。なんで呼んでくれないのよ」

「い、いや~、これからお知らせしようと……思ってましたよ、ハイ……」

「あら、やっぱり? よかったわ。そう思ったから……心強い助っ人を連れて来てあげたのよ。うふふ、感謝して」

「助っ人ぉ? ……まさかこの子のことだったりしないよねぇ、ふ~じこちゃん」

 

 間延びした声で、首を傾げる一人の男。奇抜な赤のジャケットに長いもみあげが目を引く。

 なるほど彼がルパン三世か。世界をまたにかける神出鬼没の大泥棒。

 なら後ろのソファーに腰掛けている二人は次元大介と石川五ェ門かな。

 特徴的な顎ひげを生やしてソフト帽を目深に被った男が次元大介で、鍔のない刀を所持した着物の男が石川五右ェ門。

 

 どちらも調べてきた通りの容姿だ。

 

「で、不二子。この子はどこの子なのよ。まさか子守りのバイトを始めたわけじゃないでしょーに。……お嬢ちゃん、いくつ? 10歳くらい? 飴ちゃんいる?」

 

 私を上から下まで眺めたルパンがどこから出したのか、ロリポップキャンディーをこちらに差し出す。

 そのキャンディーをなぜだか不二子が受け取り、そのまま私の肩にするりと手を回した。

 

「紹介するわ、ルパン。私の最も信頼における長年のお友達、グリューン博士改め、ヴェルデちゃんよ。こう見えてとーっても優秀な科学者なの」

「初めましては昨日だが?」

 

 息を吐くように嘘をつく女である。

 私が間髪をいれずに否定すれば、「あん、いじわる」と唇を尖らせた。

 そのわざとらしい仕草でもルパンは「かわい~い~」と頬を緩め、次元が大きなため息を付き、石川が面倒くさそうに首を振る。

 

 たったこれだけでも、彼らの普段の関係性や力関係が垣間見えた。

 

「さてと、メンバーはそろったことだし、そろそろ本題に入りましょ」

「子供の前で堂々と悪だくみができるか、教育に悪い。拙者は帰らせてもらう」

「待て待て、五ェ門。今回はお前の協力が必要不可欠なんだって。おい、ルパン。とっとと話を進めようぜ」

「んー、いや、でもよぉ……不二子の紹介でもこんなちびっ子を巻き込むのはさすがになぁ……」

 

 悪友同士が集まったかのような緩い空気を放っていた彼らだったが、ルパンの一言で再び私に注目が集まる。

 好奇心の目。戸惑いの目。心配そうな目。楽しそうな目。

 

 三者三用の視線を受けながら私は空いている椅子に座り、足を組んだ。

 

「私の事なら気を使ってもらわなくて結構。概要はすでに不二子から聞いているからな。誘拐されたわけでも、理解ができていないわけでもない。これから何が始まり何を目的として動くのか承知した上で、ここにいる。究極のステルス……“ヴェスパニア鉱石”か。実に興味深い。心が躍るよ」

 

 やっとまともに口を開けた私に対し、きゅっと口を真一文字に結ぶ男ども。

 すぐさま聞く姿勢が整えられるのは大変すばらしい。

 

「ああ、そうか自己紹介がまだだったな。これは失礼。私の名はヴェルデ。科学者だ。ドイツでの偽名はグリューン。一応専門は機械工学だが、電子工学、物理学、生物学、薬学等もかじっている。そして今回私が得るものは軍事利用はせず、させず、私の趣味の範囲内で使うことを約束するよ。もし万が一にでも情報や研究内容が漏洩などしたら、責任をもって、“全て”焼き払おう。ルパン一味、今回は完全なギブ&テイクでやらせてもらおうじゃないか」

 

 彼らの目が段々とうつろになっていった気もするが、最後に「清聴ありがとう」で締める。

 

「………………。この子、見た目と中身のギャップヤバない?」

 

 どこぞの国の中高生のような言葉を使うルパンに、「そこがいいのよ」と不二子がにっこりと笑った。

 

 

 

 今回のルパン一味のお目当ては、ヴェスパニア王に代々受け継がれる至宝、“クイーンクラウン”。

 

 

 

 数多くの宝石か散りばめられた、歴史的にもたいへん価値がある貴重な王冠だ。

 そんなクイーンクラウンは戴冠式の時にだけお披露目され、普段は厳重な警備の中で守られている。

 保管庫に一歩でも足を踏み入れればセキュリティがたちまち作動し、一瞬で閉じ込められてしまうとのこと。

 だがそのセキュリティを突破するための『キーアイテム』というものが存在するらしい。

 それがルパン一味が手に入れた、国家を揺るがす機密情報。

 

 半年前にヴェスパニア鉱山で偶然にも採掘された未知の石。────名を、“ヴェスパニア鉱石”。

 

 その性質を調べてみると、モホロビチッチ不連続面で生成された鉱石の一種であることが判明。その正体は、究極のステルスだった。

 

 ステルスとは“隠密”の意味を持つ。

 

 つまりヴェスパニア鉱石はあらゆる電波や電磁波を吸収し、対レーダー技術をパーフェクトに実現可能とする、まさに奇跡のような特質を持っていた。

 もしミサイルに応用すれば、どこから打ち込まれたものかも分からず、いや、打ち込まれたことすら分からなくなる。

 

 世に発表されれば今までの常識をひっくり返す。

 

 まさに世界中の国が、軍事産業が、科学者が、技術者が、いくらつぎ込んでも惜しくはない、喉から手が出るほど欲する代物だ。

 軍事に組み込めば多額の富を生み、戦争を優位な立場で進め、そしてコントロールすることももはや夢ではない。「ステルス技術」と呼ばれる分野に革命を起こすだろう。

 

 今回私がルパン一味と組むのは、そのヴェスパニア鉱石を確実に手に入れるためである。

 

 もちろん軍事目的や金目的ではない。趣味の範囲内で使うことを前提とする。

 私がしているのは光学迷彩の研究だが、ステルスはステルスで興味があった。

 採掘場もクイーンクラウンほどとまではいかないが警備が厳しく、私では侵入不可だが、ルパン三世ならば隙をついて滑り込める。

 

 彼らが持ち帰ったヴェスパニア鉱石を私が加工し、機械に埋め込み、究極の電波吸収装置を完成させ、クイーンクラウンを奪取するという流れだ。

 

 頭の隅の方で景光と降谷が「待て! それは犯罪だ!」と言っている気がする。が、無視する。

 研究欲 > 犯罪。科学者あるあるである。

 

「扱いも可能性も未知数の鉱石だ。もしかしたら加工は困難かもしれない。だが、科学者として絶対に使いこなしてみせると約束しよう」

「いいね、いいね、その自信。俺、そういう強気な子、だーいすき!」

 

 ルパンとがっちり握手を交わし、こうして取引は成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルパン一味との「初めまして~」が滞りなく終わり、それぞれが己の役割を果たすためスイスから散っていった。

 

 ルパンはヴェスパニアに入国し、アジトの確保と車やヘリの調達。

 次元はヴェスパニア王宮に王室のボディガード兼軍隊の教官として潜入。

 石川は時期が来るまで待機。その間、更に腕を磨くと言っていたが、はて。

 不二子は例の別件で早々に日本に旅立って行った。後で合流するらしい。

 

 私はというと、一度ドイツの研究所に戻り、ゴーラ・モスカJr.の調整を行う事にした。

 

「悪いな、ケイマン。君はお留守番だ。代わりにJr.をボディガードとして連れて行くから心配しないでくれ」

 

 Jr.は平時に連れまわす用に最近開発した新しい機体だ。

 

 まだ試運転段階ではあるものの、今回、導入しても問題はないだろう。

 ゴーラ・モスカやキング・モスカの体長は2メートル近くあるが、Jr.の体長はおよそ1メートル。

 火力は2機には劣るものの、腹部に圧縮粒子砲を搭載し、潜水や飛行も可能とした。

 電柱を折る腕力に、100キロの物を抱えても走れる脚力。

 左手にはマシンガン。右手には麻酔針と睡眠針、毒針を仕込んである。

 体積の関係上、ミサイルは収納できなかったが、今回は黒の組織に乗り込むわけでもないし、どこかのマフィアをせん滅するわけでもない。

 平和な国で平和的に稼働させるならこれくらいの武力で十分なはず。

 日本での保護者、降谷にゴーラ・モスカの量産を止められてしまったから、試運転がうまくいけば今度はJr.を量産することとしよう。

 

「よし、調整終わり。Jr.お前の活躍に期待する」

 

 将来像を練っていたらルパンから連絡がきた。

 どうやら準備がすべて整ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 何事もなくヴェスパニアに入国を果たした私は、待ち合わせ場所のオープンテラスカフェでルパンと次元に再会した。

 

「こっちだ、ヴェルデ。迷わなかったか?」

「大丈夫だよ。待たせてしまったかな」

「いや、時間通りだが……。お前さん、そいつはなんだ?」

 

 次元が首をかしげながら、私の後ろのJr.を指さす。

 他の客や通行人たちもJr.の存在が気にかかるのか、チラチラこちらを見ていた。

 遠巻きにはしているものの通報はされていないから、まぁ許容範囲なんだろう。

 ゴーラ・モスカ達とは違って、Jr.は体格面での威圧感はないしな。

 

 日本風で言うなればゆるキャラみたいなものだ。

 

「紹介しよう。こいつはボディガードとして連れてきた、ゴーラ・モスカJr.。性能も精度もいい優秀な奴さ」

「不二子ちゃんが言ってたロボットってそいつかぁ……。マシンガンがついてるってマジ?」

「マシンガンだけじゃなく、高速針もついているよ。背中にある噴射口を使って空も飛べるし、腕力と脚力も自信がある」

「ツヨソウダネ……」

「ふふふふ、強いぞ。戦車を一瞬で火だるまにするくらいはな」

「おい、ルパン。ヴェルデってかなり……いや、やっぱりなんでもねえ……」

 

 次元がソフト帽を深くかぶり直したタイミングでオレンジジュースが運ばれてきた。

 どうやらルパンが私のために頼んでおいてくれたみたいだ。

 そのスマートさにお礼を言って、私は席に着いた。

 

 ノートパソコンを開いて、早々に情報交換に入る。

 

「さっそくだが首尾はどんな感じなんだ?」

「潜入した次元が保管庫を調べてきてくれたんだが、思った以上に厳重だな」

 

 まずはルパンがフラットポイントを操作して、情報を次々に映し出していく。

 

「分厚い硬質な壁に、特殊合金で作られた扉。床に重量センサー。天井に赤外線センサー。んで、極めつけ、保管庫中に張り巡らされたサーモセンサー。侵入者を感知した瞬間に扉が閉まり、警報が鳴って軍部に連絡がいくって寸法よ」

「へぇ、さながらアルカトラズだな。侵入を防ぐことより逃がさないことに特化している」

「そうそう。もー、クラウンちゃんったら大事に大事に守られちゃって、過保護もいいところ。さすがのルパン三世も困っちゃう。なーんて」

「ふふ、君は面白いな。その目、困っているようには全然見えないよ」

「あ、やっぱり?」

 

 ルパンのおどけた雰囲気につられて、つい笑みが零れる。

 無謀ではない自信家は見ていて気持ちがいいな。

 

「私の方は軍の機密データファイルを少々、覗いてみた。なかなか熱心に研究を進めているみたいでな、ヴェスパニアの科学者は質がいい。おかげでより詳しい情報を収集することができたよ」

「ほー、お前さん、ハッキングまでできんのか。大したもんだ」

 

 次元が感心したように口笛を吹くと、ルパンが「頼りになる~」と大きく手を叩く。

 

「ではでは、そんなヴェルデちゃんにプレゼント」

 

 そう言ってルパンはジャケットの懐から手のひら大の石を取り出し、ウッドテーブルの上に静かに置いた。

 

「大変だったんだぜ。もー、命からがら。なんせ次元先生が兵たちの指導を頑張っちゃったおかげで、隠しておいた逃走用の車は爆破されるわ、チャーターしたヘリは爆破されるわ……逃げるための足がことごとく破壊されちゃったんだからよ。俺の愛しのSSKちゃんもご臨終しちゃって……」

「へーへー、悪かったって。もう、いいだろ。その話は……」

 

 ルパンが鉱山に侵入した苦労を切々と語っているが、私はそれを右から左に流し、石をまじまじと観察した。

 なるほど。これがヴェスパニア鉱石か。

 一見すると何の変哲もない、ただの石ころだ。

 その辺に転がっていても誰も気にせず、むしろ通行の邪魔だと除外される形状である。

 これが金よりもダイヤモンドよりも隕石よりもずっとずっと価値のある、世界をひっくり返す石であると、この場では私たちしか知らない。

 

「これが究極のステルス……」

 

 未知のものを前にした高揚感。可能性を広げる好奇心。そして腹の底から湧いてくる研究欲。それらが表情に出ていたのだろう。

 私の顔を見て、ルパンがにやりと口角を上げた。

 

「俺が作るならハンドボールくらいの大きさで効力範囲は半径5メートル、30秒稼働可能なものが精々だが……。ヴェルデなら?」

「まかせてくれ。今から言う機材を調達してくれるなら、私がもっと小型化させよう。突貫工事にはなるが、範囲は半径10メートル、稼働時間はそうだな……3分はもたせられるかな」

「グフフフフ、さすが専門家。科学者様、万歳!」

「はー、二人そろって悪そうな顔しやがって……。んじゃ、俺はそろそろ仕事に戻るぜ」

 

 王宮に戻る次元と別れてからアジトへと案内された。

 私のために一室を開けてもらい、さっそく設計図と機具を広げる。

 簡易研究所ともいえるような、そこそこの設備が用意されていたので、すぐに作業に取り掛かることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

「ま、こんなものかな」

 

 三日間ほど部屋にこもって完成したのは、テニスボールサイズの電波吸収装置二個。

 一個はルパンにあげて、もう一個は私のもの。

 思ったより時間がかかってしまったが、これで私の仕事は晴れて終了だ。

 達成感に満たされながら後片付けをしていれば、

 

「きゃー!!」

 

 突如、女性の悲鳴と共に、重いもの同士がぶつかったかのような鈍い音が隣の部屋から聞こえてきた。

 

「おい、ルパン、どうした。何かあったのか?」

 

 念のためJr.を戦闘形態に移行させてからドアを開ける。

 すると洗濯機と便器に押しつぶされたルパン+探偵少年経由で知り合った女子高生の姿が確認できた。

 シャワーでも浴びていたのだろう。彼女は全体的に濡れていた。

 

 すぐに合点がいった私は無残な状態のルパンの傍に膝をつく。

 

「なるほどなるほど。もしかしなくても覗きかな、大泥棒? 紳士的ではないな」

「不二子ちゃんが入ってると思ったんだよぉ~」

 

 欲望に忠実な男に軽口をたたいて、彼女を見上げた。

 当惑の色をのせた空色の瞳と視線がからむ。

 

「で、毛利蘭。君がどうしてここに? 旅行かな」

「!? お嬢ちゃん、あなた、蘭を知ってるの?」

「知ってるも何も、君はメガネをかけた探偵少年の保護者の一人だろう。なんだ、記憶喪失か?」

「あの坊やとも知り合い……。お嬢ちゃん、あなた一体何者……って、え? ちょっと待って。な、なに、その厳ついロボット……。きゃぁっ、こっち向いた!」

「……うん? よく似ていると思ったが、君は毛利蘭とは別人だな?」

 

「おーい、お嬢さん方ー、会話がまったく噛み合ってねぇぞ」

 

 容姿は江戸川コナンの居候先の少女、毛利蘭にそっくりだが、彼女に比べると全体的に色素が薄くて勝気な印象だ。声も違う。

 毛利蘭でないならば、この女性はどこの誰だ。

 

「あら、ヴェルデじゃない。そこにいたのね」

「久しぶりだな、不二子。で、こちらの女性は君の連れか?」

 

 アジトにいきなり現れた女性をまじまじと見つめていたら、寝室からひょこりと不二子が顔を出す。

 スタイルのよい裸体をバスタオル一枚だけで覆った彼女は、恥ずかしがるそぶりも見せず、

 私たちの戸惑いを他所に満足げな顔でほほ笑んだ。

 

「うふふ、その子は私が誘拐してきたヴェスパニアのミラ王女よ。でも明日、王宮に送り届ける予定なんだけどね」

「王女を誘拐だと? おい、リフレッシュ云々はどうした」

「ヴェルデも私の方についてくれば、女同士楽しく遊べたのにね。そうだ、王宮に戻る前に三人でショッピングでもしましょうか」

「…………なにやら厄介事の気配がするな。巻き込まれる前に逃げるか。ルパン、私は自分の研究所に帰ることにするよ。ほら、これが例のブツだ。使い方はこのボタンを押すだけでいい。もし何か分からない事があったら連絡をくれ。では、失礼する」

 

 挨拶もそこそこに、くるりと踵を返そうとすると、後ろから不二子に抱きしめられた。

 おい、せめて服を着てからにしてくれ。

 羽交い絞めではないものの、人体の構造をよく理解しているのか、身動きが取れない。

 

「せっかくだからヴェルデも王宮に行きましょうよ。王女様を送り届けたお礼で、ごちそうを出してくれるかもしれないわよ」

「こら、不二子! 離せ!」

 

 女性相手に強い抵抗は心情的にできないので、抗議の意味を込めて不二子の腕を軽めに叩く。

 なにより私が暴れたら彼女のタオルが落ちてしまう。

 私の気遣いを知ってか知らずか、不二子は私の耳元にそっと唇を寄せてきた。

 

 内緒話をするみたいに、最小限の声量で囁く。

 

「実はね、王女様、実の叔父に命を狙われているの」

「……お家騒動か。もしかして女王と王子の死にも関連が?」

「ん~、それはまだ何とも。でも限りなく黒に近そうよ」

「そうか、大変だな。だが私には何の関係もない」

「まー、冷たい子ね。ヴェスパニア鉱石を王家に内緒で持って帰っちゃうんだから、ちょっとくらい王女様を守ってくれてもいいんじゃない? 道すがら狙われる可能性もあるし、このロボット、とっても強いんでしょ」

「うぐっ」

「あなたの言う、ギブ&テイク。テイクしか役目を果たしてないわよ」

 

 そこをつつかれると弱い。

 確かに国の財産を勝手に頂戴するし、返す気もなければ、研究データを提供する気もサラサラない。ハッキングもしたしな。

 相手方が何も知らないとはいえ、こちらだけ一方的に利益を得るのは……不平等か。

 

 少しだけ悩んだ後、小さく頷けば「いい子ね」と後頭部に口づけが降ってきた。

 ルパンの「あー、ずるい!」という声をスルーして王女に向き直る。

 

「コホン、改めて…。初めまして、ミラ王女。私の名前はヴェルデ。科学者だ。こっちは私が作った戦闘用ロボット、ゴーラ・モスカJr.」

「せ、戦闘用ロボット……?」

「腹からは粒子砲。指からはマシンガンと高速針が飛び出す有能仕様だ。しばらく君のボディガードをすることになった。君を害するものはすべからく、私が焼き払、いや……薙ぎ払おう。安心してくれ」

「何なの、この物騒な子は……。安心どころか不安なんだけど」

 

 ひきつった表情を浮かべるミラ王女。

 一応、柔らかい言葉に言い直したんだが、どうやら失敗したようだ。

 

 多感な年頃の女性は難しい。

 

 

 

 

 

 ────次の日。

 

 ルパンの愛車でミラ王女を王宮まで送り届けることになり、みんなで車に乗り込んだ。

 運転席にルパン。助手席に私とJr.。後部座席にミラ王女と不二子。

 しかしJr.が乗っているせいなのか何なのか、車の進みが異常に遅い。

 このままでは歩行者にも負けそうだ。

 

「ルパーン、この車もっとスピード出ないの?」

「全力です、不二子ちゃん。あと定員オーバー」

「分かった。なら軽くしよう」

 

 仕方がないのでJr.を降ろして、走ってついてこさせることにする。

 脚を強化しておいてちょうどよかった。

 それに護衛をするなら車内より車外の方が視野を広く持てる。

 尾行や射撃にも対応しやすいだろう。

 

 この車を狙う敵を識別したら、容赦はしなくていいとJr.に言いつける。

 

「なんでロボットが車と並走できるのよ!」

「ロボットだって走るさ。あれは忍者走りというやつでな、普通の走り方よりもスピードが出る」

「そんなこと聞いてないんだけど!?」

 

 元気な王女様である。

 どうやら不二子流のリフレッシュはだいぶ効果があったようだ。

 センチメンタルからの脱却が成功したようで何より。

「よかったな」と後部座席を振り返れば、「何が!?」と強めに返された。

 

 うーん。やっぱり多感な年頃の女性の扱いは難しい。

 

 

 

 その後、特に襲撃や待ち伏せといった妨害を受けることなく、無事に王宮へと到着した。

 

 

 

 わざわざ不二子が警護を頼むくらいだから何かしら罠が仕掛けられていると思ったのに、拍子抜けだ。

 ミラ王女は不二子と共に別室に向かい、私とルパンは食堂に通された。

 掛け時計を見上げればちょうど昼時。食事をごちそうしてくれるという。

 

「さてと。ヴェルデ、こっからは別行動だ」

 

 ルパンはうまい具合に王宮に潜入できたので、このままクイーンクラウンを狙う方向で動くとのこと。

 

「一人で家まで帰れるか?」

「ああ、問題ないよ」

「ではでは、科学者先生。とぉーっても助かりました。また縁が会ったらお会いしましょ」

「こちらこそ。短い間だったが、君たちとの付き合いは楽しかったよ。成功を祈る」

 

 ルパンと簡単な別れをすませ、一人残った食堂で「これからどうしようかな」とミルクティーのカップを傾けたとき、

 

「緑ちゃん!?」

 

 聞き覚えのある高い声に名前を呼ばれた。

 扉の方に視線を向ければ、案の定。口をぽかんと開けた状態の江戸川が私を見つめていた。

 棒立ちになっている彼に向かって、手を左右に振る。

 

「奇遇だな、名探偵。妙なところで会うものだ」

「緑ちゃんがどうしてここに……」

「同じセリフをぜひ君にも返したいところだが、まぁいい。私は実験だよ。ゴーラ・モスカJr.の試運転を行っているときに、偶然こちらの国の王女様に出くわしてな。彼女が何者かに命を狙われているようだったから、王宮に戻るまでボディガードを務めたんだ。幸か不幸か出番はなかったがね」

「へー……試運転」

 

 嘘をつくときは少しだけ真実を混ぜればいい、とはよく言ったものである。

 江戸川は額面通りに受け取ったらしい。

 しかし、「王女が命を狙われている」という言葉をはっきりと出したのに、特に反応を示さなかった。

 

 つまり彼はすでにそれを把握しているというわけか。

 

「じゃぁ緑ちゃんの後ろにいるのが……」

「そう。こいつが試運転を行っていた、ゴーラ・モスカJr.。Jr.はゴーラ・モスカやキング・モスカに比べると火力は弱いが、小回りが利く良機体なんだよ」

「火力、弱いの?」

「比べるとどうしてもな。こいつは他の2機とは違って全身からミサイルは出せないし、目からレーザーも出せない。体積の問題だから仕方がないが…」

「う、うう~ん……」

「次はこちらが質問しよう。江戸川、なぜここに君がいる? 観光かな? ああ、でも君はパスポートを持ってないか。というか、パスポート自体取れるはずがな」

「わわわ、しーしー!!」

 

 江戸川が慌てた様子で私の口をふさぐ。

 工藤新一ならともかく、江戸川コナンではどうあがいたってパスポートは作れまい。

 なんせ戸籍がないのだから。

 

 彼のこの様子だと十中八九、密入国だな。どうやって日本まで帰る気なんだか。

 

「やれやれ。犯罪者を捕まえるはずの君がついに一線を越えてしまったか」

「しみじみと言わないでよ」

「せめて偽造パスポートを作ってから海を渡ればいいものを。値は張るが、いい業者を紹介してやろうか?」

「犯罪を普通に勧めないで!!」

「冗談だよ。それで?」

「…………。実は──―」

 

 深いため息をついて江戸川はこれまでの経緯を語り始める。

 

 ●全てはサクラ女王とジル王子が亡くなったことから始まったこと。

 ●二人の死に、ミラ王女の側近であるキース伯爵が疑問を抱いたこと。

 ●キース伯爵が女王の弟のジラード公爵を怪しんでいる事。

 ●王女の身を案じて、伯爵が彼女を日本に連れ出したこと。

 ●しかし日本で開かれたレセプション会場で、王女が命を狙われたこと。

 ●その直後、王女がホテルから逃げてしまったこと。

 ●ホテルの近くで偶然、王女が毛利蘭と出会ったこと。

 ●自分と容姿がそっくりだった事を逆手に取り、ドレスと制服を取り換えてしまったこと。

 

「僕は制服姿のミラ王女を追いかけたんだけど、思いもよらない妨害が入って」

「妨害?」

「ライダースーツを着たこげ茶色の髪の女性が、王女をバイクで攫ってっちゃったんだ」

 

 もしかしなくても不二子だろう。

 私が「あー……」と何とも言えない声を出すと、江戸川が「もしかしてあの人の事、何か知ってるの?」と過剰な反応を示す。

 どうやら逃がしてしまった事を随分と気にしているようだ。

 

 とりあえず話を最後まで聞かせてほしいと、続きを頼んだ。

 

 江戸川は後頭部をガシガシと掻いてから、言いにくそうに続きをぽつぽつと話し出す。

 

 ●行方知れずになった王女に代わり、毛利蘭が日本での身代わりを頼まれたこと。

 ●しかしそのまま王室専用機に乗せられて、ヴェスパニアへ連れていかれてしまったこと。

 ●それを知った江戸川が離陸ギリギリで飛行機に潜り込んだこと。

 

 そこまで聞いて、私の眉間に自然と眉が寄った。

 

「スーパーマンか? 下手したら死ぬぞ」

「うっ……」

「君、いくら運動神経に自信があると言ってもな、案外簡単に人間は死ぬんだぞ。もっと常識を持ったほうがいい」

「ははは、緑ちゃんに“常識”とか絶対に言われたくない言葉だな。で、なんだかんだあって、キース伯爵から『女王と王子の死の真相とミラ王女を狙う犯人を突き止めてほしい』と依頼されたんだよ」

「君が?」

「僕とパパが」

「パパ?」

「そう、パパ。あと、後日入国した小五郎のおじさんもだね」

「ふぅん、そうだったのか……」

 

 パパとは一体……。

 一瞬、工藤の父親である工藤優作の姿が思い浮かぶが、たぶんこの言い方は違うな。

 もしかしたら“パパ”という名前の人間がこの国にいるのかもしれない。

 

 特に興味を覚えなかったので追及はしなかった。

 

 それにしてもこの子はいつも事件の渦中にいる。

 事件が探偵を呼ぶのか、探偵が事件を呼ぶのか。

 はたしてどちらだろうな。

 

「それでは名探偵。君もキース伯爵と同じく、ジラード公爵が犯人だと睨んでいるのか?」

「まだ証拠がそろってないから言い切ることはできないけど、たぶん。少なくともサクラ女王とジル王子の死に、第三者が関わっているのは確実だよ」

「まぁ、女王、王子、そして王女がいなくなって誰が得をするのかと考えれば、自明の理か……。うん、よし」

 

 江戸川の話を全て聞き終えた私は、意識を切り替えるように一度目を瞑る。

 少しだけ思案してから椅子を降りた。

 

「事情はおおむね理解した。ここまできたら乗りかかった船だ。私も犯人捜しに協力しよう。この国のために一肌脱ぐよ」

 

 結局、ボディガードとしての役目は果たせなかったから、ヴェスパニア鉱石の分の借りをこの件で返すことにしよう。

 

 私がにやりと笑えば、江戸川が目を真ん丸に見開く。

 意外だ、とその表情が語っている。

 

 失礼だな。これでも私は義理堅いんだぞ。

 

「緑ちゃんも捜査の手伝いをしてくれるの?」

「ああ。Jr.の指には麻酔針を仕込んであるから、ちょうどいいだろうし」

「? ちょうどいいって何が……」

「公爵の意識を少しだけ混濁させて、思考回路に揺さぶりをかけてみようと思う。うまくいけば犯行を自供するかもしれない」

「は!?」

「心配しなくていい。後遺症や副反応が出ない、安全性が高い薬だ。体内に吸収されて証拠が残らない優れモノだから、あとから検出される恐れもないよ。じゃぁ、まずは公爵を捕獲するか。行くぞ、Jr.。江戸川は空き部屋を確保しておいてくれ」

「待って待って待って!」

「ああ、そこを通るメイドさん。聞きたいことがある。公爵はいまどこに、」

「~~~~~~っ、緑ちゃんはここで大人しくしてくれればそれでいいかな! ここで座ってお茶を飲んでいてくれるのが一番の手伝いだよ!!」

 

 どういう意味だ、名探偵。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 結局、私が食堂で優雅にお茶をしている間に事件は解決した。

 

 私は捜査に関しては完全な素人のため、数々の難事件を解き明かしてきた名探偵に「お願いだから食堂にいて! 大人しくしてて! 事件解決のためにも!!」と強く言われてしまえば、聞かざるを得ない。

 

 途中、目力が強い、トレンチコートを着た男性が食堂に入ってきたので一緒にお茶を楽しんだ。

 なんでも彼は大犯罪人を追って世界中を飛び回っているらしい。

 正義感が強い男のようだ。

 その上、熱血漢らしくメラメラ燃えていたので「君の活躍を陰ながら応援してるよ」と言えば、「感謝する」と私に向かって敬礼をして「ルパーン、逮捕だー!!」と叫びながら食堂を飛び出していった。

 

 ……あれ? 

 

 後から江戸川に聞いた話によると、なぜかルパンが思いもがけない形で推理に協力し、事件解決に一役買ってくれたという。

 その際、テニスボール大の機械が大活躍して大勢の命が救われたと聞いたので、国への借りはここで返したと勝手に自己完結させる。

 これ以上、私にできることもないしな。

 

 クイーンクラウンも無事(?)強奪されたらしく、ルパンたちは王宮から姿を消した。

 

 私はというと、夕食までしっかりと頂いてから王宮を後にした。

 いつの間にか柔らかい雰囲気にイメージチェンジしていたミラ王女の厚意で、空港までリムジンで送ってもらえたので万々歳である。

 

 

 

 ドイツの研究所に戻ってきて、迎えてくれたケイマンを抱きしめる。

 ケイマンの皮膚の冷たさを堪能しながら、

 

「そういえば結局Jr.は車道を走っただけだったな」

 

 ぽつりとそんな一言を零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日知ったのだが、密入国した江戸川は“パパ”が日本まで送ってくれたそうだ。

 

 正規ルートでは絶対に帰国できない彼を送り届けられるということは、“パパ”はきっと裏社会に通じているに違いない。

 

 もし気のいい奴なら、今度江戸川に紹介してもらうことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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