色々と、すれ違うものです。
男の子と女の子、天地ほど違う生き物ですから。
でもま、どうにかなるもんですよ。

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特に波乱のない、ごく普通の日々を。
ご想像通りの低カロリーです、スナック感覚でどうぞ。


アオくてすれ違う日々

 正直、どこかに恐れはあったと思う。何としてでも日本に残りたい、でももう鹿野家は海外移住の為に手放す契約になっていて。お母さんが英明学園にいたころのチームメイトで今でも年に何度か連絡を取る友達、という限りなく赤の他人としか思えない縁の人が私を預かってくれるのは、とっても有難いのだけれども。……一個下の男の子がいると聞いた時は、結構不安になった。……いやだって、男の子ですよ。私そりゃ色気もへったくれもないけど、男の子って……オトコノコだし。

 もしその家が猪股家でなかったら、その家の男の子が私の背中を押してくれた「いのまたたいき」くんじゃなかったら。私は結局、日本に残れなかっただろう。だから、感謝してる。大喜くんで、良かった。

 

 ……良かったんだけどねえ。うん。大喜くんは、どうも……鈍すぎやしないだろうか。幼馴染みだっていう蝶野さんが結構露骨に好き好きオーラ出してるのに、気付く気配が全くない。私だって憎からず思ってはいるし、なんなら好きな方だけど、どうもそれが伝わっている気配もない。ちょっとくらい勘違いするくらいがオトコノコっぽいのに。

 笠原くんと妙に仲良いし、そういう子なのかなーとも思ったけど。……でもたまーーーに、見てるんだよねぇ……私の胸元とか。興味は、あるんだろうな。それはまあお互い様だろう。私だって、オトコノコに興味がないとは言わないし。今はバスケ優先ってだけで、いつかそういう行為もするんだろうなーどんなかなーとかは思わない訳じゃない。

 まあ、安全な環境なのは、良いことだ。うん。きっと。

 ……と、思っていたのだけれども。

 

「えーと、ねえ……。うーん……」

 綺麗な土下座をした大喜くんと、それを見下ろす私。その間には、洗濯物から姿を消していた、水色のセットアップランジェリー。……………………うん。こういう事もあるかと思っていたけれども。

 さすがに猪股家のおばさまに汚れ物を預けるのも気が引けるから、私は自分の洗濯を全部自分でやっている。だから他と混ざって何処かへ入るなんて、まず有り得ない。消えた時点で大方の見当が付いたから、聞いてみたらこの通りだ。いやまあ、そんな高いものでなし。欲しかったらあげても良いんだけど。……良いんだけど、ね。

「あー……、オトコノコだもんね。でもね、こういうことはさ……」

「……先輩を、そういう目で見ちゃいけないのはわかってます。でも、我慢できませんでした」

 いやいや、ちょっと違う。私をどんな目で見ても良いけど、人のものは盗っちゃダメって話なんだけど。……どうも大喜くんは、一度方向が決まるとそっちしか見えなくなるらしい。弱った、どうしよう。下手に何か言っても言わなくても、勝手に話が拗れるやつだ。変に色々考えさせるより、スパッと終わらせるべき案件だ。

「大喜くん、私は怒らないし騒ぎにもしないよ。ただ、……しちゃう前に、話してほしかった。欲しいなら欲しい、見たいなら見たいって。したいことがあるなら、そう言えばいいよ。私はよっぽどの事じゃない限り、怒ったりしないからさ」

「先輩……」

 土下座したまま、大喜くんが嗚咽を上げ始めた。……やっぱり色々勘違いしてそうだけど、とりあえずここで終わらせよう。

「じゃあ、これでお仕舞い。ね、後はいつも通りに戻ろ?」

 そして土下座も早くやめてほしいのだけれど。もし誰かに見られたら、この絵面を上手く説明する自信がない。

 ……結局そこから数十分かけ、ようやく大喜くんは泣き止んで土下座をやめてくれた。オトコノコって、大変だ。心の底から、そう感じた。

 

 オトコノコは面倒だな、とやっぱり思う。色々と違いすぎる。身体も、心も。だからそう、余計な事を言うもんじゃないな、と私が改めて思ったのは、あれから少し後。大喜くんのインターハイ出場が決まる、その日の朝だった。

「先輩、お願いがあります」

 真っ直ぐな目で、大喜くんは言ったのだ。もし勝てたなら、インターハイに行けたなら、

「先輩と、キスしたいです」

 ……そう、淀みなく言いはなった。いやね、言いましたよ。確かに、したいならしたいって言えって。でも、このタイミングでそれを言うか。そこまで大したものでも無いだろうに、キスくらい。私だってしたことないし、価値は分からないけどさ。

「……うん、良いよ」

 それが大喜くんにとって奮起する理由になるなら、構わないだろう。

 ……とまぁ、思いはしたけれどもさ。

 

「あー……おめでとう」

 本当に勝って凱旋しくさったのを見届けると、祝いながらも呆れてきた。いや、他にも理由はいっぱいあるだろうけど。つい今朝あんな事を言うもんだから、キス目当てで勝ったようにしか見えない。

 でも、とにかく。約束は、約束だ。大喜くんの前に立ち、顎を両手で包み込む。ごつごつとした感触と、思ったより肌目の細かい肌。震える唇。……頑張った、大喜くんは頑張った。だから、約束通りに。

「んっ……」

 僅かに首を傾げ、唇を重ねる。甘く柔らかな、熱と吐息が混ざりあう。気持ちいい、粘膜の接触。身体の奥が、真っ赤に燃え上がっていく。これは、――不味いかな。大喜くんへの御褒美じゃなくて、私が一方的に、……欲しくなりそうだ。猪股家へ来てからは気になってあまりシてないし、ここはもういっそのこと――

 と覚悟を決めた矢先。

「先輩、ありがとうっ、ございます……っ」

 ……大喜くんは身体を離し、涙を浮かべて私に感謝した。

 え、いや。ちょっと待て。ここで終わるって何さ。いや大喜くん、良いよ!? 今私、このまま最後までイケる気分だよ!? チャンスだよ!?

 オトコノコって、オトコノコって! 本当に、分かんない……。

 

 それからも、日々は過ぎていった。相変わらず、大喜くんは分からない事だらけだ。変に頑固だったり、かと思えば欲望に一途だったり、勘違いで突っ走ってみたり。でも、それはそれで、楽しい。オトコノコというものも、少しずつわかってきた気もする。

 そうだ、今度は大喜くんにオンナノコってものを教えてあげるのも、悪くなさそうだ。どんな顔をするか、楽しみ。きっと、良い顔で困るんだろうな。

 さて、どうしようかな。




大喜くん可愛い、と思って書いてました。
それ以外何も無い気さえします。


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