憑依したらクレイマンだった件 (転スラネタバレ注意) 作:謎のコーラX
「さて、てなわけでだ。貴方達には外交官として他国に行ってもらいます」
今回は玉座の間ではなく、円卓のある客間で外交について、アニスは話していた。
円卓は邪魔なので端に退けてもらい、これから外交官として旅立つ三人に、念入りに注意事項を伝えているところだ。
別に厳しい内容ではない。下手に喧嘩をふっかけないこと。失礼な言動や態度を取らないことなど、社会人としては極めて常識的なことばかりである。
その三人というのが、名付けによってドラゴニュートへと超進化したアイン、ツヴァイ、ドライだ。
彼らは
そこでアニスは、前世のビジネス経験を活かした「外交官の相互派遣」のファーストランナーとして、この三人を指名したのである。
「外交官ですか。ではアタシは天翼国に行きたいですね。国の大半を翼で移動していくという文化が、同じ翼を持つ身として非常に気になります」
ツヴァイは三人の中でも特に礼儀正しく、言葉遣いも丁寧だ。
彼女が女性であることも踏まえると、女王フレイが統べる天翼国フルブローシア以外に適任はいないだろう。
「それは良かった。私もツヴァイを天翼国に行かせたいと思っていたのでね。では、残りの二人はどちらにしますか?」
末っ子のドライが少し緊張した面持ちで悩んでいると、先に長男格のアインが元気よく手を挙げた。
「オレは『忘れられし竜の都』っていうのに行きたいぜ! あのミリム・ナーヴァの民ってやつらに、一回たた――いや、会ってみたくてな!」
(今、一回叩きのめしてみたいって言おうとしたな、こいつ……)
アニスは内心で冷や汗を流しつつも、視線をドライへと向ける。
「じゃ、じゃあ……ジブンが獣王国に行くことになりそうですね。ま、まぁ、あそこは果物とかがすごく美味しいって聞きますし、ジブンはそれでいいんですけどね」
アインがミリムの領地、ツヴァイがフレイの領地、ドライがカリオンの領地へと赴くことが決まった。
アインの戦闘狂っぷりに一抹の不安はあるが、アニスはとりあえず彼らを信じて送り出そうと決めた。どうせ、同行させる他の部下が持つ『映像伝達の水晶』を通じて、向こうでの様子は一部始終こちらから確認できるのだから。
「さて、次に我が国が他国からの外交官を迎えるにあたって、誰をこちらの接待役にしようか。ミュウランやアイリーンが妥当か?」
アニスが顎に手を当てて呟いた、その時だった。
「では、このビオーラにどうかそのニンをおアタえください」
客間の影から、スッと滑らかに現れたのはビオーラだった。
元はクレイマンの最高傑作の
彼女はアニスの目の前で、6本の腕を綺麗に折り畳んで恭しく跪いた。
「貴方が? ふーむ、接待のやり方とか分かります?」
「はい。ホンでミて、ダイタイはラーニングしております」
少し不安は残るものの、我が国は先ほど『人形国家』と名乗ったばかりだ。ならば、他国からの使者を「人形で応対する」というのも、国家の特色をアピールできてアリだろう。
そう考えたアニスは、快く承諾することにした。
「良いだろう。期待しているよ」
「ギョイ。このビオーラ、ゼンシンゼンレイであたらせてもらいます」
こうして、メインの外交官四人の任命が済んだ。
獣王国へ向かうドライが少々不安の対象だが、とりあえず当日の日までどう応対するかを、アニスは前世の記憶を頼りにじっくりと練るのだった。
○
数日後。各国へと散った外交官たちの様子が、アニスの手元の水晶へと映し出されていた。
まず画面に映ったのは、天翼国フルブローシアへと赴いたツヴァイだ。
長テーブルを挟んでフカフカのソファーに座り、マナーに沿った洗練された動作で、ツヴァイは紅茶を嗜んでいた。対面に座る女王フレイも、その所作の美しさに感心したように目を細めている。
「ふむ、非常に美味しい紅茶ですね。これはこの国の物でしょうか?」
「そうよ。例えば――この茶葉は我が国の高地でしか採れない特別なものでね。他国へは滅多に輸出していないのだけれど、アニスが気に入ってくれるなら、今後の交易の目玉にしてもいいわ」
「それは素晴らしい提案です。アニス様もきっとお喜びになります。……では、先ほどお渡しした『人事交流および内政の相互査察』に関する書状ですが、目を通していただけましたでしょうか?」
ツヴァイが手際よく本題を切り出すと、フレイは感心したように深く頷いた。
「ええ、読ませてもらったわ。部外者の客観的な視点で我が国の防衛の死角を洗い出す……本当にアニスは面白いことを考えるわね。貴方のような聡明な外交官なら、いつでも大歓迎よ」
「恐れ入ります、フレイ様。アタシもこの国の素晴らしい飛行文化と内政を学び、我が国に持ち帰る所存です」
お姉さん風の余裕を崩さず、完璧に外交をこなすツヴァイ。
アニスは手元の水晶を見ながら、「よしよし、ツヴァイは完璧だな」と胸を撫でおろした。
○
次に水晶に映し出されたのは、獣王国ユーラザニア。
そこでは、末っ子格のドライが、目の前に山積みにされた瑞々しい果物を前に、全身をガチガチに硬直させていた。
対面に座るのは、獣王カリオン。そしてその背後には、三獣士の面々が腕を組んで威圧的に立っている。
「おいおい、そんなに緊張すんなって! ほれ、この魔王領特産の果物でも食えよ。美味いぞ?」
「ハ、ハイッ! ジ、ジブンはアニス様の外交官として参りましたドライと申します! こ、この度は我が国との……!」
あまりの緊張に、ドライのハッキリとした声音が少し上ずっている。
だが、彼は震える手で、アニスから託された外交書類を真っ直ぐにカリオンへと差し出した。
「これ、は……アニス様が考案された『相互査察』による、インフラ設備の過不足を洗い出すための共同プロジェクトの提案書、です……!」
たどたどしいながらも、アニスの名に泥を塗るまいと、一生懸命に芯のある声で想いを伝えるドライ。
その健気で誠実な姿をじっと見ていたカリオンは、しばらくの沈黙の後――ガハハ!と豪快に笑い声を上げた。
「クレイマンの配下っていうからどんな奴が来るかと思えば、随分と骨のある真面目なガキじゃねぇか! 気に入ったぜ! おいお前ら、このドライって奴に我が国のインフラを案内してやれ! あとで美味い酒と飯も用意しろ!」
「ジ、ジブン、精一杯頑張ります……!」
気弱ながらも、その誠実さでカリオンたちの心を掴んだドライ。
アニスは「生きた心地がしなかっただろうけど、よくやった!」と画面の向こうのドライを激賞した。
○
問題は三人目。忘れられし竜の都へ向かった、長男格のアインだ。
アニスが最もハラハラしながら水晶を覗き込むと、案の定、そこには一触即発の空気が漂っていた。
「おいおい、お前が人形聖王の使者か? ずいぶんと威勢がいいじゃないか」
アインの前に立ちはだかっていたのは、ミリムの崇拝者たちのトップ、神官長であるミッドレイだった。
アインはルビーのような紅の一本角を尖らせ、獅子のような髪を揺らしながら、ミッドレイを獰猛な目で見据えている。
「へっ、そっちこそ。ミリム様の民ってからにゃあ、どれほど強ぇのかと思って来てみれば、随分と固そうなオッサンが出てきたもんだぜ!」
(ア、アインのバカ者ーー! 喧嘩売るなって言っただろ!!)
画面の前のあわや大惨事という光景に、アニスは頭を抱えた。
しかし、アインの脳裏に、出発前のアニスの顔が思い浮かぶ。
『下手に喧嘩をふっかけないこと。これは絶対だぞ?』
「……チッ。いや、悪かったなオッサン。オレはアニス様から『絶対に下手に喧嘩を売るな』ってキツく言われてるんだ。ここで拳を交えたら、アニス様の顔に泥を塗っちまうからな。……今の言葉は忘れてくれだぜ」
アインは悔しそうに拳を握り締め、フイッと視線を逸らした。
我が身の闘争本能よりも、アニスへの忠誠を優先したのだ。
その様子を見たミッドレイは、意外そうに目を見開いた後、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。
「ほう……主への忠誠のために、その煮えたぎる血を抑え込んだか。見事な自制心だ。だが、使者殿。我が都には『挨拶代わりの手合わせ』という伝統があってな? 殺し合いではない、純粋な武の交流だ。これなら、人形聖王への不義理にはなるまい?」
「……マジか? 手合わせなら、アニス様も怒らねえよな? よっしゃ! だったら一発、オレの拳を受けてもらうぜ!!」
結局はドゴォン!と派手な衝撃音が響き渡り、二人は嬉々として拳を交え始めてしまった。
だが、それは悪意ある争いではなく、武人同士の奇妙な信頼関係を生む、彼らなりの『脳筋外交』の始まりだった。
アニスは「……まぁ、国際問題になってないなら、結果オーライ、かな?」と遠い目をするしかなかった。
○
一方その頃、他国からの外交官(天翼国の使者や獣王国からの使者)を迎え入れている、人形国家ジスターヴの客間。
そこでは、留守を預かるビオーラが、文字通り『無双』していた。
「サァ、ミナサマ。コチラが我が国の特製オカシと、アニス様特製の紅茶にございます」
ビオーラは、その彫刻のように美しい無機質な身体から生えた6本の腕を、まるで精密機械のように滑らかに、同時に動かしていた。会話能力もミュウランの手ほどきもあってかなり自然になっている
2本の腕で優雅にティーポットを傾けて紅茶を淹れ、
別の2本の腕で他国の使者たちへ完璧なマナーでお菓子を配り、
残る2本の腕で、外交に関する膨大な書類を爆速でチェックし、仕分けしていく。
「な、何という手際だ……! 6本の腕がすべて異なる完璧な動作をしている……!?」
「これが、人形国家ジスターヴの『最高傑作』の実力か……!」
やってきた他国の使者たちは、ビオーラの神々しいまでの美しさと、全裸(アニスの服を貸そうとしたが、本人が『機能美が損なわれる』と拒否した)という圧倒的な存在感、そして本でラーニングしたという完璧すぎるおもてなしに、完全に圧倒されていた。
「アニス様の栄光のため、このビオーラ、完璧に任務を遂行いたします。書面の内容、すべてチェック完了いたしました。修正案はコチラになります」
「は、ハイッ! ありがとうございます!!」
他国の使者たちは、もはやビオーラの放つプロフェッショナルな威圧感に気圧され、二つ返事で書類にサインしていく。
内政・接待・事務処理のすべてを一人で、しかも完璧にこなすその姿は、まさに『人形之王の眷属』の名に恥じないものだった。
○
自室で水晶を切り替え、ビオーラの完璧すぎるワンオペ接待を目撃したアニスは、手元の書類をポロリと落とした。
「……うん。みんな優秀すぎて、一国の王である俺の出番、もうほとんど無くね?」
前世のしがないサラリーマン時代には考えられないほど、有能な部下たちに恵まれた環境。
アニスは嬉しい悲鳴を上げつつも、自慢の配下たちがそれぞれの国で結んできた絆と成果を手に、人形国家ジスターヴをさらに大きく発展させていく決意を新たにするのだった。
(´・ω・`)戦闘描写は消えました、うむ、日常回だね