フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆前話
・さあ! 呪いのパワーをヨーナスに!
 西方辺境の忌地から瘴気的なサムシングが薄くなり、魔宮(ダンジョン)の発生確率が下がった。
 一方で、瘴気を吸い取った呪鎚【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】は呪詛を強め、ヨーナスの正気度の低下と引き換えに、彼にさらなる膂力や生命力の強化をもたらしたぞ。
エルスティア(いちばんちゃん)「ノルマが終わらないよう >< 」 愉快で過酷な追いかけっこ(上司命令)は命がけ。

 
 


35/n 悪逆騎士怪人-6(超重呪詛怪人デュラハン)

 

1.いよいよもって民の恐怖と憤怨(ふんえん)は限界だ! 悪逆騎士を誅滅せよ!

 

 

 冒険者同業者組合(ギルド)が、悪逆騎士討伐のための大規模な依頼(クエスト)を発令した。

 それは市井で歓呼の声を持って迎えられた。

 

「オレの故郷の荘も悪逆騎士に焼かれたんだ、仇をとってくれ!」 「悪逆騎士! 熊皮被りの怪人! ベルセルク! 殺せ、殺せ、殺せ!」 「あいつは柱に吊るされるのがお似合いだ!」

 

 悪逆騎士ヨーナス・バルトリンデン、またの名を 〝怪人ベルセルク〟 とも呼ばれるようになったその悪漢は、もはや西方辺境において、これ以上看過されえぬ悪となった。

 縦横無尽にして神出鬼没で横行闊歩。西方辺境の流通を乱しに乱したヨーナスの徒党は、これまで以上の恨みの的となったのだ。

 出稼ぎに来ている間に故郷の荘を焼かれた市民や冒険者も数多いという。そして流通の圧迫は、流民の発生や物価の上昇にもつながっている。

 

 市民からの嘆願が積み重なり、様々な同業者組合や大小の商会、果ては有志個人の出資を取りまとめた保険組合のハシリみたいな講座だのによる懸賞金が膨れ上がり、討伐の機運は高まっていた。

 

 だが一向に行政府は動かぬ。

 市民らは業を煮やしていた。

 

「やっとか……。だが領軍じゃないのか……」 「なぜ領軍は動かない?」 「春になるのを待つんだとよ。腰抜けが。爺さんの代なら……」

 

 もちろん行政府にも事情がある。

 土豪連中のサボタージュに妨害工作。そしてヨーナスの名を騙って盗賊働きを行う有象無象に手を取られ、行政府の騎士たちは大々的な行動をとれずにいた。

 時期も悪い。これから冬になろうというところで、大規模な軍事行動は、兵糧補給の観点からも難しかった。

 さらには土豪を通じて作戦計画がヨーナスに漏洩している節があり、その内部の綱紀粛正がかなわない限りは、行軍が空振りに終わる可能性すらあった。

 土豪側とてかなり被害にあっているというのに、足の引っ張り合いとは呆れたものだ。

 

 そういった背景があり、行政府による関与は従来の街道防衛の範疇にとどまり、大々的な討伐にまでは発展していなかった。

 もし行政府が動けるとしても、春になってからだろう。だが、市民感情としては、それでは遅い。

 

 もちろん義憤や功名心や私怨で個人的に討伐に動いた騎士も居たが──── それらのことごとくが返り討ちにあった。

 あまりの犠牲に、辺境伯直々に抜け駆け禁止を発するほどだ。

 

 そして返り討ちに遭ったのは、冒険者たちも同じ。

 復仇や懸賞金目当ての冒険者による襲撃は、そのすべてが失敗に終わった。

 

 

 だがそれも今日この日までだ。

 ようやく、冒険者ギルド主体だが、大規模クエストが発令されたのだ。

 

 主だった冒険者氏族や一定以上の等級の冒険者には声がかかった。

 それだけ手広く声をかけても利益が出るほどだとギルドは見込んだのだ。

 

 勇壮な獅子人『牙折り』ガティ、『二刀』の巨鬼ロランス、『舌抜き』と称される槍使いの馬肢人マンフレート……。

 そうそうたる面子の冒険者たちがこのクエストには名を連ねていた。

 

 残念ながら、聖騎士フィデリオとその仲間たちは、別の冒険に出ていて捕まらなかったが。

 辺境を脅かすのはヨーナスだけではない。どうも、かの聖騎士たちは、辺境の平穏を乱さんと陰謀し蠕動する()()()の尾を追っているらしいとの噂だ。

 

 それでも高位冒険者たちは十分に集まった。それほどに彼らを集めても十分な利益が見込めるほどに懸賞金は膨れ上がっていた。

 またそれだけでなく裏から行政府や隧道公団(コーポ)からの資金投入もあった。

 ハシシ=ミュンヒハウゼン隧道方伯の影響力が強くなることにいい顔をしない都市幹部も居ないではなかったが、貴族としての義務を果たせず賊の跳梁を許している手前、大きい声で抗議する訳にもいかない。まあ鉄道敷設は国家事業であるとはいえ、そもそも地下鉄道駅の誘致を許した時点で今更ではある。

 

 

 さて、潤沢な資金を目当てにして、新興の冒険者クランからも、戦力が供出されている。

 

 例えば新・漂流者協定団(ノイエ・エグジル・レーテ)の銀髪の女頭領、『魅了眼』のエルスティア。

 そして彼女の下僕で信奉者な構成員たち。

 

 それから、帝国隧道公団(インペリアル・トンネル・コーポ)のマルスハイム支部からも、後方支援の事務方だけでなく、魔蟲契約者たちが数名派遣される見込みだ。

 手の少年(ヘンド)や、眼の少女(アウグン)もその中に含まれている。

 独立行動権を確保するために、公団(コーポ)の戦闘部隊は公団の手弁当での参加だ。

 

 主力を支えるための荷駄部隊(しえんぶたい)には、下位の冒険者たちも大勢動員された。

 冬に食い扶持が少なくなる下位冒険者連中への財政的な手当でもあるのだ、この冬の大動員は。

 

 その中には、近頃よく吟遊詩人に歌われる機会も増えてきた『金の髪』のエーリヒらの姿もあった。

 

 

 

 さて、神々との約定で、冒険者は、ヒトの戦争には参加できないことになっている。

 だが、怪物になりつつある賞金首の討伐であれば、ギリギリ冒険者の仕事の範囲と言えなくもない。

 マルスハイム辺境伯(マルス=ボーデン家の長)はそう見込んで、自身の姉である冒険者同業者組合の組合長マクシーネ・ミア・レーマンを通じて、悪逆騎士・怪人ベルセルクの討伐の依頼を出した。

 

 

 冒険者たちがヨーナスを片付けられればそれで良し。

 冒険者の後塵を拝することになる領軍の騎士たちには鬱憤を抱えさせることになるが……。

 それもまあ、土豪連中相手の内戦が控えていることだし、手柄の立て時は今後いくらでもあるとして宥めるしかあるまい。

 

 それに冒険者たちが上手く悪逆騎士を片付けられなくても、いくらかは戦力を削ってくれるはずだ。賊徒らも全く無傷とはいくまい。

 

 それに、冒険者の本領は、軍事行動ではない。

 大規模な動員は、本来の冒険者のスタイルとは噛み合っていない。

 一方で、悪逆騎士ヨーナス(かいじんベルセルク)が率いる徒党は、曲りなりとも軍隊として統率された集団である。

 彼我の集団としての性質の差が、どう響くか。

 

 まあ、冒険者が失敗するならそれで構わないのだ。

 今回の冒険者同業者組合の依頼では、敗走も許容されている。

 冒険者らが敗走したとして、行政府側としても、()()大規模な威力偵察だったとして割り切ることも可能だ。

 

 そのあとに領軍が出て、ヨーナスを片付ければ、問題ないのだから。

 

 

 

「頼んだぞ~!!」 「悪逆騎士に死を!」 「帝国万歳!」

 

「任せとけ!」 「ぶっ殺してくらぁ!」 「祝杯を用意しとけよ!」

 

 市民らが出立する冒険者らを歓声とともに見送る。

 ガチャガチャダラダラと不慣れな団体行動ながら、領都マルスハイムを離れる冒険者らの一団は、しかしそれでも勇ましく。

 

 賊徒討伐のため、冒険者たちは、悪逆騎士ヨーナスが陣取って塞ぐという情報のある街道へと歩を進める。

 

 

 

< 1.行きはよいよい ──── 了 >

 

 

 

§

 

 

 

2.やって来るもの、待ち構えるもの、そうなるように強いたもの

 

 

 冒険者らによる悪逆騎士・怪人ベルセルクの討伐クエスト。

 ここで問題になったのは、どうやってかの怪人の居場所を捕捉するか、ということだった。

 

 行軍が大規模になれば、それを隠すことはできない。

 特にヨーナスらの徒党の本拠地は、マルスハイムから離れた土豪領域にあるとされるものの、そこにとどまらずに移動宮廷よろしく各地で収奪を繰り返しながら居所を転々としていると言われている。

 冒険者たちの一団を避けて、彼らの補給が尽きるまで別の場所を襲って掠めるくらいは、ヨーナスらにとっては簡単なことだった。

 

 それではなぜ、冒険者ギルドはこのような大規模クエストを発令するに至ったのか。

 察知されれば逃げるくらいの脳はヨーナスら賊徒にも、いや、賊徒であるからこそ、逃げ足は速いだろうに。

 

 それでも大規模クエストが発令されたということは、ヨーナスの位置を確定させる手管があるからに違いなかった。

 

 

「そうだね、私の仕業だね」

 

 

 どうも。

 辺境の騒乱に介入している凄腕密偵とは私のことだ! な、魔法チート転生者で帝国隧道方伯にして魔導副伯なマックス・ロタール・フォン・ハシシ=ミュンヒハウゼンです。ちなみに密偵として活動させている子実体クローンには、『ロタール』と名乗らせているぞ。

 

 そうだね、怪人ベルセルクの持つ呪いの大槌【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】を中核に、お手製呪物【人喰い外套(マントゥ・カニバル)】を組み込んだ首輪的なシステムで、あの逆徒ヨーナス・バルトリンデンを操作しているのは私だよ。

 ついでにあの呪鎚【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】の面白い特性を使って、辺境に積もった怨念の澱を掃除させたりもしました。

 

 おかげで西方辺境は、霊的にかなりクリーンに!

 その代わりにヨーナス君はさらに呪いまみれになって正気を失ってしまったわけだが……。

 まあ、逆徒にしては上等な働きができてよかったね。我ながら上手に再利用できたと思うよ。

 

 え? 呪いを糧にヨーナスはさらに膂力が強化されたが大丈夫かって?

 

 それってうちの近侍護衛の巨蟹鬼(クレープスオーガ)セバスティアンヌより強いのかい?

 

 今や巨大蟹の下半身はそこそこ豪華な平屋くらいの大きさがあって、上半身の巨鬼部分まで含めると余裕で二階建ての建物を超えるくらいの巨体の彼女より強いと? 質量はパワーだぜ?

 しかもまるで神剣のように鋭い第一鉗脚(まえのハサミ)に、大盾にして鎚たる重厚な第二鉗脚(つぎのハサミ)は、どちらも神銀(ミスタリレ)に覆われた金属殺し。両方合わせて、左右に重装騎士を二人従えているようなものだ。しかもただの騎士じゃない。巨鬼の騎士を、だ。

 身に着ける武具防具も、私が打った最上級品。回転を基本術理とする彼女自身の武術の技量は言わずもがな。生得魔導をマヌルネコ仙人娘の指導で磨いていて、搦手(からめて)への対応も可能。

 

 暴力という土俵に立った時点で、うちのスティーが勝つに決まってるんだよなあ……(ゆるぎない信頼感)。

 

 

 というわけで、あとは呪いや怨念のリソースをあたり一帯から吸い尽くして一点に集めたあのヨーナスを、どう(学術的な意味で)面白おかしく収穫するかという次元の話なんだよね、私からすると。

 まあ、私みたいな魔導師に、あんな面白ギミックの呪いの鎚を与えれば、そりゃあこうもなる。

 我がことながら、〝まったくこれだから魔導師(魔導院)は……〟 と言われる理由もわかるというものだ。

 

 でも一方でこんな地雷原みたいに因縁が絡み合った土地で面倒な工作活動に従事する私には、息抜きに興味深い(オモシロ)呪物をいじりまわすくらいの役得があってもいいと思います(真顔)。

 そもそも大規模内戦をわざと勃発させるための事前工作とか、やりたくもないことさせられてるわけですし~。最悪土豪連中全員洗脳しちゃえば内戦すら不要ですよね? とか思ってないですよ、ええはい。

 

 冒険者同業者組合(ギルド)に働きかけて大規模討伐クエストを発令してもらってはいるけれど、それも公共事業というか、物語づくりというか、そういう人心慰撫とかの側面での効果を期待してのこと。

 正直なところ、私や巨蟹鬼スティー、極光の妖精女王なターニャが出張ればすぐにカタは着く。

 

 とはいえ、それをしない方がいい理由というのもある。

 

 ポッと出の私が討伐するよりも、地元の英雄というのに活躍してほしいよね、という、まあそういうことである。

 領軍にはまだ土豪たちとの内戦を見据えて戦力を温存してもらいたいし、そうなってくると、冒険者連中に白羽の矢が立つというわけ。

 

 敵が居ればまとまりやすいというのもあるね。

 ここでヨーナスという賊徒に民衆の敵愾心を集中させて、のちの統治におけるまとまりを作る際のその土地の 〝物語〟 の一部にしたい、という思惑もある。

 敵を前に轡を並べた経験というのは大事だ。ライン三重帝国の十八番でもある。外征して取り込んだ諸族を動員し、戦友として苦難を乗り越える経験を通じてまとめるために外征するというあれだ……永久機関かな?

 

 だからヨーナスには、とってもとってもとぉ~っても、強大になってもらう必要があったわけですね。

 

 民族の物語において、()()()()()()()()()()ボスの性能なんていくら盛ってもいいわけですからね。

 そして冒険者側には転生者のエーリヒくんもおるし、なんぼ盛ってもいいでしょうよ。

 いけるいける。うん、いけるいける。

 

 んで、はい。【魅了の魔眼】のエルスティア(いちばんちゃん)にも手伝ってもらって、頑張った結果。

 

 出来上がったのは、狂奔が伝染して理性をなくした、〝狂戦士の軍勢〟 でしたとさ。

 

「ん~、魔宮を7つは発生させてなお余りあるほどの呪詛の蓄積。さすがにヨーナス単身にとどめるのは無理があったか」

 

 魔種の魔物化。

 それと似た現象が起きている。

 呪いの伝播、か?

 

「狂戦士。ベルセルク。そこから派生しての、百鬼夜行……ワイルドハント? いやそれだと微妙に文化圏が違うか?」

 

 あふれた呪詛が、ヨーナスの徒党にまで及び、彼らを端末として一塊(ひとかたまり)の『呪われビトの群れ』とした。

 ヨーナスと同様に、呪いに冒されて、生きながらにして生気を失い、半ば以上に死者と化したものたち。

 

 正気を失い、瘴気に呪われた、狂気の軍勢。

 有り余る呪いが彼らの身体を支えているから、飲食すら不要ときたものだ。

 

 そして、その核となっているのは、呪われた大槌【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】を中心として、人喰い外套(マントゥ・カニバル)を組み込んだ呪いの首輪のシステム。

 

 つまり、いまや彼らの軍勢は、ヨーナスの呪いの頚木(くびき)を通じて、私ことマックス・ロタールの支配下にある。

 

 となれば、狙いの場所に行軍させるくらいは簡単なこと。

 適当な略奪計画をでっち上げたふりをさせて、それを土豪の中でも領府寄りの者を通じてリークさせ、そこから特定されるヨーナスらの徒党の予定経路をもとに、冒険者ギルドに大規模討伐を立案するよう促すくらいは朝飯前だ。

 

 

「総てが死兵な 〝狂戦士の軍勢〟 VS. 辺境の選りすぐりの冒険者たち。どんな化学反応を魅せてくれるかな……新たな英雄譚の誕生が楽しみだねぇ」

 

 

 ──── そうだ、ひょっとしたら、臨界を超えて魔宮が生成されるその瞬間が見られるかもしれない! こりゃあターニャを通じて、迷宮学専攻のバンドゥード卿にも声を掛けなきゃな……。他にも落日派で興味を持ってくれる人もいるかも知れないし……ああでも秘匿任務との兼ね合いが……ううむ悩ましいなあ……。

 

 思考の端が口から洩れ、ウキウキとした声音が闇に溶けていった。

 

 

< 2.夜明けの晩に ──── 了 >

 

 

 

§

 

 

 

3.カーヤとディルク

 

 

 〝金の髪〟 のエーリヒいわく。

 

『帝都に居た者として言うが、魔導師、魔導院というのは、ろくでもないものだよ』

 

 とのこと。

 まあ、その後ろには決まって─── 『ただし我が麗しき親友を除いて』と続くのだが。

 

 そして今回の『怪人ベルセルク討伐』の大規模クエストは、どうにもエーリヒの嗅覚に引っかかるものがあるのだという。

 つまり、要注意ということ。

 

「まあ、報酬も良いから参加するんだけど……」

 

 薬草医の娘、カーヤは、槍を持って隣を歩く幼馴染のディルク── 自称はジークフリート── を見る。

 面傷(おもてきず)のある彼の横顔は、今日も精悍で、どうにも愛おしい。

 二人は同郷から出てきた、ようやく駆け出しを脱した程度の冒険者で、〝金の髪〟 のエーリヒや 〝音無し〟 のマルギットの同期でもある。

 

「……? なんか俺の顔についてるか」

 

「んーん、なんでもないよ、ディーくん」

 

「ジークフリートと呼べ。まあ、何でもないならいいんだけどよ……」

 

 周囲前後では、カーヤやディルクのような駆け出し冒険者らが、だらだらと疎らに長い列になって街道を歩いている。

 道端には疲れて座り込んでいる若者も多い。

 

 まずは自分の分の食糧や荷物を持って、行軍についてこれること。

 それが支援部隊に回された駆け出し冒険者たちに課されたクエストにして最低条件だった。

 

「歩いてついていくだけで給金が出るとか、妙な話だよな」

 

「行軍訓練も兼ねて、ということらしいけどね」

 

「支給された食料をそのまま持ち逃げしても構わないとかも言ってたか」

 

「前金あつかいだった、かな? でも要所(チェックポイント)での点呼に居なかったら、依頼失敗の査定がつくみたい」

 

「そりゃそうだ。まあ護衛に回された俺らにも、脱走を防げとか、落伍者を拾えとかも言われてねーしな」

 

 先頭の選りすぐりの冒険者たちの集団から離れている後方のこのあたりでは、実戦に向かうような張り詰めた空気は皆無だ。

 

 荷駄馬車を中心に長く伸びた隊列……のようにも見える駆け出し冒険者らの群れ。

 それに続くのは、酒保の商人たちの一団。

 疎らに配置された、ジークフリートやカーヤのような、駆け出しを脱した程度の少しマシな冒険者たち。

 

 〝金の髪〟 のエーリヒは軍馬持ちであることもあり、先頭集団のお付きとして斥候を任されていて、ここにはいない。

 もしここにエーリヒが居れば、『まるでボーイスカウト、いやそれよりひどいな』とでも言っただろうか。

 

「悪逆騎士の討伐に向かってるとは思えねえな……」

 

「しかたないよ、あれだけ沢山、すごい上級の冒険者が参加してるんだもの」

 

 英雄譚に謳われる冒険者たちが大勢だ。

 みんなもう勝った気になっている。

 だから後方ではここまで空気が弛緩している。

 

エーリヒ(あいつ)が何か不吉なこと言ってたよな」

 

「〝死神の旗(しぼうふらぐ)が立っている〟 とか、なんかそんな感じのこと、言ってたね」

 

「あいつが『いい依頼さ』って言うときでも大概やばいことになるってのに、そんなこと言うときはどうなっちまうんだか」

 

 エーリヒによると、どうにも帝国隧道公団(インペリアル・トンネル・コーポ)の動きが腑に落ちないのだという。

 漏れ聞こえてくる怪人ベルセルクの逸話からすると、既にソレは、公団のトップである魔導師が蒐集していて然るべきもののように思える、と。

 それなのに放置されて、ついには冒険者ギルドにお鉢が回ってくるというのは、どうにも怪しい、なんとも()()()ない……と。

 

「ま、まあ、私たちも準備はたくさんしてきたし。魔法薬だって、ほら、矢避けとか魔除けとか、傷薬とかもいろいろ作ってきたし」

 

「………だな」

 

 カーヤは、エーリヒの隠し事──── 彼が魔導院仕込みの魔法を使うことを看破しており、こっそりと教えを乞うたりもしている。

 魔力は持つものの、体質的に普通の魔法使いのようにその場で放出することが苦手なカーヤは、一方で事前に作った薬品に魔力を込めることに非常に高い適性を持つ。

 エーリヒは『門前の小僧習わぬ経をなんとやら、さ』などと韜晦していたが、高度な理論に裏打ちされた技術と、あまりに物騒な殺意の高い発想は、カーヤの作る魔法薬の質をより実践的にし、その威力を何段階も高めていた。

 

 今回の怪人ベルセルク討伐には、それらの虎の子の魔法薬もいくつも持ってきている。

 エーリヒの助言をもとに、概念的な領域に迫る力を込めた、これまで故郷で作ってきたようなものよりも高度な魔法薬を。

 何かあっても、これを使えばきっとなんとかなるはずだ。なるといいなあ。

 

 

 一部人員の心に不安の影を落としつつも、歩けば進むもので。

 交戦予定地は、徐々に近づいてきていた。

 

 

 ある交差路周辺の平地を見下ろす、少し小高くなった丘の上。

 冒険者たちの一軍は、そこで陣を張り、悪逆騎士の軍勢を待ち受けることにした。

 

 情報によれば、あと数日以内か早ければ明日にでも、ここへと標的はやってくるはずだ。

 

 

 

< 3.あと1日 ──── 了 >

 

 

 

§

 

 

 

4.別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?

 

 

 開幕、【次元斬】。

 これに限ると思います。

 

 

 布陣した小高い丘の上。天気は曇り。

 前日から待ち構えていたマルスハイムの冒険者らの陣幕から見える先。

 つい先ほどやってきて隊列を整えた、なんとも不気味な沈黙を纏った悪逆騎士の一団へ。

 

 〝金の髪〟のエーリヒ、〝灯篭斬り〟 とも言われる彼が、渾身の奥義を披露していた。

 見れば、ただの素振りのような、何もない空間への振り下ろし。

 だがその所作は美しく──── そして何より、確かに何かを 〝斬った〟 ことを、武術の素人にさえ雄弁に伝える 〝威〟 に満ちていた。

 

「「 ほう…… 」」

 

 歴戦の高位冒険者らも思わず感嘆の息を漏らす。

 

 距離という概念すら切り伏せる、剣術の極み。

 神話に語られるような、神域の技能を持った、錬武神の寵児にしか許されないような、文字通りの神業。

 

 それがいま、目の前で振るわれたのだ。

 これで胸が熱くならないで、何が武芸者か。

 

 

 ともかく、このようなエーリヒの先制攻撃が許されたのは。

 あまりに悪逆騎士の徒党が不気味だったからだ。

 

 

 魔種であれば近づくだけで狂を発しかねないほどの濃密な瘴気の気配。

 その中で、不気味なまでに統率された兵士たち。

 何より、光が歪んだ錯覚をいだくほどに禍々しい、頭目たる怪人熊皮被りの狂戦士(ベルセルク)──── ヨーナス・バルトリンデンのオーラ。

 

 ──── 尋常の軍勢ではない。

 

 それが幾つもの修羅場をくぐってきた高位冒険者らの感想であった。

 

 近づくことすら(はばか)られる。

 

 そんな中で、『見える範囲であれば斬り捨てて御覧に入れましょう』などと 〝金の髪〟 が生意気に先陣を切ることを名乗り出れば、それを止める者は居なかった。

 たとえ()()()であっても、それは新人が恥を一つかくだけのこと。やらせてみても損はない。

 だが、〝金の髪〟 には、その言葉が真実であろうと思わせるだけの()()があった。

 

 

 果たして、彼は自らの力量を証明した。

 

 

 ──────【次元斬・首刈り(ヴォーパルストライク)

 

 

 見る者すべてを魅了するほどの、一直線の振り下ろし。

 その斬撃は、距離を超える。

 

 そしてはるか丘の下、一拍遅れて転がったのは、首魁であるヨーナスの首。

 高く吹き出す赤い血が、ヨーナスの鎧と大槌と、騎馬を汚す。

 

 これで勝ちか?

 あとは残敵掃討か?

 

 

 

「………手応えがおかしい」

 

 ぽつりと 〝金の髪〟 が呟いた。

 

 周りの高位冒険者らも、緊張を緩めていなかった。

 

 なぜなら。

 

 

 ()()()()()()()()

 

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 ──── さて、呪いの大槌【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】は、呪詛や怨嗟を集積する大槌である。

 そしてそれは、『担い手の死』ですら、例外ではない。

 

「なんだ、あれは」

 

 周囲の高位冒険者たちが、戦慄とともに緊張した声を漏らした。

 彼らは見た。単なる死者のあがきなどではない、幽霊(ガイスト)への変性にすらおさまらない異変を。

 それは呪鎚の内部に渦巻いていた男爵家の怨念や、マルスハイム中から集積された膨大な瘴気が、一人の男の不遜としか言いようのない『自我』によって力ずくでねじ伏せられ、再構築されていくという、歴戦の冒険者たちですら言葉を失うほどの異常な現象であった。

 

 ヨーナスの唯我独尊ともいえる自我の強さに、呪いの鎚に溜め込まれた怨念たちでは勝利することなどできなかったということだ。

 

 そうして引き起こされたのは、ヨーナスの魂による、呪いの大槌の『内部からの掌握』である。

 

『男爵家の負け犬どもめ。死んだ負け犬が集まった程度で、この俺様に勝てるわけがねぇんだよ』

 

 

 いまやヨーナスは、呪いの大槌【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】そのものとなった。

 苦痛に苛まれる肉の殻は捨てた。

 苛む呪詛そのものになったヨーナスの思考を邪魔するものは、なにもない。

 

 密偵ロタール(マックスなにがし)がヨーナスに施していた制御呪詛は、あくまで生前のヨーナスの肉体を対象にしていたのであり、呪鎚【祖霊溶かし(ベライディグゥング)】が意志を持ったうえで権能を自律行使するのを統制するものではない。

 さらに、呪いと一体化したヨーナスは、頸木の術式に触れることすら可能となった。

 ()()()()()ということは、つまり───

 

『そしてこれが、あの腐れ密偵野郎の、首輪の術か。こんなもので俺様を縛っていやがったのか。こんなものでッ!!』

 

 ─── ()()()ということ。

 『剛細一致』。

 霊と化したヨーナスに引き継がれた特性が、全ての障害を霊的膂力でなぎ倒す。

 

 ゆえに、いま、数週間ぶりに、ヨーナスは己の思考というものを取り戻していた。

 

 

 魔宮を七つ造って余りあるほどの膨大な瘴気が渦を巻く。

 空間が軋みを上げ、ヨーナスの周辺に控えていた配下が、まるで藁束のように軽々と吹き飛ばされる。

 

 魔宮が発生しないように制御されていた瘴気の手綱も、いまこの瞬間は、ヨーナスの手にあった。

 

 となれば、臨界をはるかに超えた瘴気がもたらすのは、当然、魔宮化だ。

 

 呪いの大槌を通じて、ヨーナスの怨念が、死した己の身体を掌握する。

 

 首なし騎士(ふるいからだ)が、大槌【祖霊溶かし】(あたらしいよりしろ)を振りかぶる。

 

 

『頭が高いぞ、愚民ども。這い、(つくば)え!』

 

 

 臨界を超えた瘴気が一気に弾け、丘全体の空気が、まるで鉛のように重くなった。

 振り下ろされる鎚とともに、重力の権能が解放される────!

 

 

< 4.や魔ろ(※ やはり魔導師はろくなことしねえな) ──── 了 >

 

 




 
悪逆騎士ヨーナス『おれは しょうきに もどった!』

走者エーリヒのショートカットにより、第一形態はスキップ。一気に第二形態へ。
 
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