一発ネタ。続かないです。
主人公の外見はSEKIROの九郎様イメージでお願いします

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ウマ娘 貞操観念逆転モノ

 

 

 

 

 生来の能天気さで、知人友人からは危なっかしいやつだとよく評される。この生来というのは、前世も含めた生来な訳だから筋金入りと謂えよう。物事を疑ったり心配したりする術に長じることが終ぞできなかった身であり、楽天家ではなく能天気とされた辺りには家族達の呆れが多分に含まれている。

 前世でそれを指摘してきたのは母であったが、今生ではどうにも父に心配性の気があるらしく、ことあるごとに流し込まれる小言は耳から漏れていくようになってしまった。その水漏れを気にもしない辺りが、父から言わせるとやはり能天気らしい。

 

 やれ、女は獣だ狼だ、腹を空かした野犬だと、子どもを脅かすような文句を並べるのだから思わず、何を仰る、女はウマではありませんかと返すと、そのウマ娘が一番怖いんだと真顔で言われてしまってはどうにも口が回らない。

 馬というものは生来臆病で大人しいというのが私の記憶の常識であったが、ウマでは話が違うらしい。馬が娘っ子になって言葉さえ交わせるようになったらば、有り難がりこそすれ何を怯えることがあるだろう。珍妙なものである。よくよく精査せねばなるまいが、私は面倒になって父が雄々しい(前世では女々しいという)のだと決めつけてしまった。

 

 そこまで言うならば、よろしい、ウマ娘と触れ合ってみなさい。

 

 父がこんなことを言ったものだから、私は胸中大喜びしてしまった。よくわからん父である。古ぼけた棚のようで、どこをどう叩けばぼた餅が出てくるのか予想できたものではない。まあ、構うまい。私は能天気にそう考えた。もうぼた餅は出てきたのだから、後は食うだけでよかろう。

 

 ぼた餅の名はオグリキャップといい、父方の実家の近くに住んでいるらしい。私の家に負けず劣らずのド田舎で、少子化と地方過疎化の波は無慈悲なほど子どものコミュニティを破壊し尽くし、一番近い歳でも五歳以上は上下するというのだから、哀れんだ祖母が同い年の私(数えで八歳になる)を夏期休暇に合わせて呼んだのも自然の数だ。

 無論私に否やはなく、トントン拍子で纏まりかけた話に割って入ったのが、事態が自分の思惑の斜め上を行こうとしていることに気付いたらしい父だった。奇っ怪なことだが、どうにも例の一言は父なりの脅し文句であったらしい。前世も含めればそれなりの人生になるが、これほど脅しに向かない人間というものを初めて見た。

 

「親父殿が行けと言うから、おばあ様には肯定の返答を致しました。おばあ様の楽しげな様子を察するに、件のウマ娘とやらにも嬉々として話している頃合いでしょう。それを今更やれ気が変わったというのはおばあ様の顔に泥を塗る所業でありますれば、親父殿も面目が立たんでしょう」

 

 私に役者の才能はなく、幼子の如く話すなど土台無理だと随分前に投げてしまった。それを気にかけることなく、頭をぐわんぐわんと回しながら私を説得する言葉を考えている父は、いっそ私などより能天気やも知れなかった。

 

「無論、無論!一度吐いた言葉を再び飲み込んで胃に納めるような品のない真似など、私はしません。つまり、なんです。そのオグリ某というウマ娘に必要なのは友達であり、異性などまんざら要していないのではないかとこう、人の親として斟酌する訳です」

 

 天啓得たりと喜色満面に語る貌は人の親というより大喜利の整った漫談家といった風であったが、なかなかどうしてこの具申は、健全な発育に要する妙諦を捉えぬでもないように思われた。

 

「しかし、どうしようと言うのです?今さら女児など用意できませねば、それとも、私がおなごにでも成りすましましょうか?」

 

「それだ!」

 

 こうやって父が手を打ったものだから私は度肝を抜かれてしまった。いよいよ我が父は大人物やも知れぬ。歴史を紐解いても、偉人伝たるや変人列伝の間違いかしら?と思うこと一度や二度ではないが、父は勝るとも劣らぬ変わり者であった。

 

 話は変わるが、父はこれで容貌の整った男である。前世の基準で例えれば、俗な表現であるが『芸人にしてはイケメン』と称される程度には世間受けする顔立ちであった。

 一方母は風采優れたるやよくよく常ならず(などと表現すればあまりに野暮ったるいが)の人で、切れ長の瞳が怜悧を思わせる美貌に、所々少年的な暖かい無邪気な風情を醸し出す女傑で、多少足並みが揃わぬが美男美女の夫婦と言って障りがなかった。

 その間に生まれた私は、謙虚と謙遜をかなぐり捨てて言えば、中性的な顔立ちに親しみやすい暖かさを灯した美少年であった。女装などものともせぬ顔である。

 

 己が尊厳に懸けてもおなごの召し物などお断りであったが、父の指図するままに短い穿き物やら緩い上着やらを着込むと、鏡の中には男とも女とも付かない座敷わらし染みた童児ができあがったのだった。

 

 父が大喜びでおばあ様に連絡を送る。変に西洋かぶれなおばあ様は『さぷらいず』とやらで私のことを年齢以外何一つ明かさなかったというのだからいよいよ父を止めるものはなくなった。

 その頃になると私もすっかり生来の能天気さを取り戻し「まあなるようになるだろう」などと嘯いていたので、父のとんちきな奸計は見事日の目を見ることとなったのである。

 

「オグリキャップだ。よろしく頼む」

 

「うむ、野上だ。下の名前は厳めしく、あまり気に入っていない。野上と呼んでくれ」

 

 これは大嘘であった。隠しようもないほど男の名前だったので、名乗らなかっただけである。もっと言えば野上というのも母方の祖父母の苗字であったから、私は全く姓名不詳の怪しげな男と成り果てた。いや、よく考えれば性別も不詳である。面妖な生命体と云わざるを得ない。

 オグリキャップは別段気を悪くした風もなく、

 

「野上か。改めてよろしく頼む」

 

 と律儀にもう一度頭を下げた。

 それからしばらく続くオグリキャップとの日々は、我が幼年期に燦然と輝く一時代であったことを私は一度も疑ったことがない。

 山に入り、虫取をした。オグリキャップが、幻影でも見せそうなほどに大きく奇っ怪な紋様をした蝶々を捕まえて、食えるか食えないか吟味している隙に逃がしてやったことがある。

 おばあ様の家から下ったところに小川があり、並んで釣り糸を垂らした。オグリキャップが見事な鯉を釣り上げ、これはまさしくこの川のヌシだなどとふざけ合った。食いそうな気配を見せたので隙を見て逃がした。

 夜の森に忍び込み、草木の戦ぐ音や空を埋める星々の輝きに嘆息した。この世のどんな絢爛も、澄みわたる自然の夜空に比べればなにほどのこともないと、大人ぶって囁きあった。やがて梟が鳴き出すと、オグリキャップがこれは食べれる鳥かも知れないなどと言い出したので、隙を見て石を投げ危急存亡の秋を知らせてやった。

 山裾の林の中で、区別のつかぬ動物に出会った。オグリキャップは犬だろうと言ったが、そのどこか気高い様が私には絶滅したとされる狼のように見えた。私が竹皮に包んだ弁当の中からおはぎを出してやると、どこか遠慮がちに口をつけた。オグリキャップが恐ろしい眼光でおはぎを睨み、食い終わった後は狼の喉元を凝視していたので、私はオグリキャップを促して早々にその場を立ち去った。遠吠えが聞こえなかったからやはり犬だろうとオグリキャップが言い、私はいやあれこそは分別を知る狼の中の狼だと言い張った。この下らない口喧嘩は存外楽しく、私とオグリキャップは笑いながら、余人には到底聞かせられぬ幼稚な悪口を言い合った。

 楽しき日々であった。一日が一秒で過ぎ去るように思われ、しかし思い返すと、一年かけても足りないような充足の中にいたのである。

 

 

 夏も更けた頃、粗方屋外を冒険し終えた私たちはもっぱらおばあ様の家を宝の在処と見当をつけ、地図も持たぬままに探索をした。籠があり、笠がかかっていた。埃を被った蓄音機があり、でこぼこに凹んだ金盥があった。物言わぬラジオの残骸があり、タイプライターがあった。兵どもが夢の跡とはよく言ったものであるが、前時代の遺物が物静かに鎮座している様は博物館のようで、生なかな現代機器よりも興味をそそる魅力を秘めていた。

 やがて、一つの黒い長方形を見つけた。オグリキャップにはなにやらわからぬようであったが、VHSである。要はDVDだと告げた時のオグリキャップの顔の幼さは、いっそ見事であった。驚きがあった。それは、この角ばった不明の物体があの薄い円盤と同門であるという私の言を、一切疑わないが故の正直な驚きであった。私が真実幼子だったとして、これほど純心で在れたかは怪しいものだ。オグリキャップの無知ならざる上に無垢なるはいっそ奇跡の産物にしか見えなかった。

 

 居間には、VHSを再生するデッキが今もなお現役であった。探せば父の幼少の映像でも見つかるのだろう。あの珍妙な父がどのように幼年期を過ごしたか興味の尽きぬことではあったが、今はこのVHSである。

 それは、映画であった。白黒の映像の中に、一風古風な装束を召した人々が(時にはウマ娘が)フランスの街並みを背景に生活を営んでいる様が映し出される。何やらレースがあるらしく、勝敗について侃々諤々言い合っている。言い争う人々はどこか活気に満ちていた。それを尻目に一人歩く草臥れたウマ娘が、どうやら話の主人公のようであった。

 聞きなれぬ外国語と共に、字幕が表示される。うだつのあがらぬウマ娘が男のトレーナーと出会い一念発起する。努力があり、挫折があり、嫉妬があり、不和がある。そのすべてをウマ娘とトレーナーは寄り添ったり反目したりしながら、やがて凱旋門へ辿り着く。

 端的に言って、ありがちなラブロマンスにレースを絡めただけの映画だった。気さくなBGMと共に、二人がパリの街を練り歩くシーンは手垢という表現で済まないほどに既視感に溢れていたし、凱旋門を制したウマ娘がなぜかゴール板のすぐ横で待機していたトレーナーと抱擁し、口付けを交わすシーンは失笑ものであった。そうしなかったのは、あまりにも羨望に満ちた顔でオグリキャップが映画を見ていたからである。

 

「いいな」

 

「なにがだ?」

 

「全力で駆け、喜びを分かち合う。それが、いいんだ」

 

「駆けることは好きか」

 

「多分」

 

「多分?」

 

「小さい頃、足がちょっと外向きに曲がっていたんだ。今は矯正されているけど、念のために走らないよう言われてる」

 

「それは、難儀だな」

 

「なにもずっとじゃない。もうすぐ、走れるようになる。でも、トレーナーは見つからないかもしれない。故障の可能性は普通のウマ娘より高いって言われてる」

 

「ますます、難儀だ」

 

「いいんだ。走れれば」

 

 オグリキャップが画面を見つめる。私は噴き出してしまった。美人の美人たる所以は造形の素直さにあるのかも知れない。オグリキャップの横顔は、毛ほども『いいんだ』などという言葉を肯定していなかったのである。

 

「ならば、私がトレーナーになってやろう」

 

 オグリキャップが目をぱちくりとさせた。無用に睫毛の長い娘である。睫毛を眺めるだけでも楽しいような気分がする。私が笑っているのを見て、オグリキャップが眉根を寄せた。ますます睫毛が踊ったのを見ると、私のような能天気ものでもトレーナーぐらい易いような気がして、人生の面舵を切ることも造作もないように思われた。

 

「私がトレーナーで、オグリがウマ娘だ。そうすれば、喜びを分かち合う機会の一度や二度はあるだろう」

 

 むすっとした顔つきのオグリキャップが、私に釣られたのか、へにょ、っとした顔になり、やがて笑顔を見せた。テレビ画面ではエンドロールが終わり、主役の二人が抱き合ったまま次のレースについて諧謔を言い合い、面倒になったのかもう一度口付けを交わして映画を締めた。

 私たちは口付けの代わりに手紙を送り合う約束を交わし、夏を締めくくった。オグリキャップは中央トレセンとやらを目指すらしい。なんのことやら、界隈に縁遠い私には分かりかねたが、オグリキャップが野上ならいけると奇妙に自信を持つので、ならばいけるだろうと腹を括った。

 やがて、夏が終わりオグリキャップとの別れを済ませた。手紙の第一報は夏の思い出話と共に、同年代の男と過ごす機会のないことを少々残念がる、少女らしい文面だった。オグリキャップが食事以外に興味があったことに驚き、ついでに私が男性であることをついぞ告げないままだったことに気付いたが、まあ些細なことであろうと適当に流した。いきなり告げぬでも、なに、中央トレセンとやらに辿り着くまでには幾年もの月日がかかるのである。どこぞで言う機会もあるだろう。

 

 

 結論から言えば。

 私が男性であることをオグリキャップが知ったのは、中央トレセンで再会したまさにその日になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 青々とした空に、春風が散りかけた桜の残り香を運んでいる。

 トレセン学園の裏庭で日を浴びながら、オグリキャップは人を待っていた。校門の辺りには今日の模擬レースを見ようと新人からベテランまで多くのトレーナーが(ついでにレース専門誌の記者が)駆け寄せている。人混みは好きじゃないし、それは彼女も一緒だろう、とオグリキャップは思った。

 幼い頃の一夏の思い出。普通の人ならば子供心の戯言と、思い出に変えてしまうのだろうが、オグリキャップも野上も夢を貫き、遂には叶えてしまった。

 オグリキャップは中央に転入したし、野上もトレーナー試験に合格したらしいことを手紙で知らせてきた。写真もなにも添付されていない手紙だったが、オグリキャップは一度も野上の言葉を疑わなかった。

 

「なあ、オグリ。はよ行かんと模擬レース始まってまうで」

 

「いや、もう少し野上を待つ。彼女は方向音痴だったからな。私がよく案内したんだ」

 

「もうその言葉だけでイマジナリー感がしてあかんねんけど」

 

「……都会はどこを見ても同じような風景だからよくわからないんだ」

 

「それでこんな学園裏の森みたいなとこ待ち合わせにしたんか、正面口やのうて。今頃、スカウト連中は血眼なっとるやろな」

 

 呆れたように、タマモクロスが肩を竦めた。どころか、両手をあげてやれやれと首まで振っている。

 この口も仕草もやかましいウマ娘と、腹の音こそやかましいが口数の少ないオグリキャップは、どうしてどうしてウマが合った。この二人の親密さを芦毛という一括りで安直に納得するものがいるが、人の関係性とはそれほど単純なものではない。この二人はもっと根本的な部分で通じ合い、なるべくして親友となったのである。

 その口数の少ない親友が時折饒舌に語る幼馴染とやらをタマモクロスが気にするのは、自然の数であった。

 

「タマはいいのか?トレーナーさんが待ってるんじゃ」

 

「ええてええて。元々軽く走るつもりやったしな。トレーナーからも怪我さえせんならなんでもいい言われとる。そんなんよりもオグリの幼馴染の方がずっと気になるわ」

 

 言葉を切ると、タマモクロスはにやっと笑って続けた。

 

「しっかし惜しいなぁ~。一夏共に過ごしただけの幼馴染が夢を誓いあって?ほんでそれぞれ努力して、見事ウマ娘とトレーナーとして再会して?よーできとる話やで。今時青春ドラマでもようやらんわ」

 

「それの何が惜しいんだ?」

 

「そら女同士ってとこやな」

 

「……別にいいじゃないか」

 

「悪いとは言わんわ、男女やったらより傑作やというだけで。オグリかてそういう作品見たことくらいあるやろ?」

 

 言われて、オグリキャップは顔を逸らした。歳の近い男性をトレーナーにし(昨今は年下の後輩系トレーナーがトレンドであった)、切磋琢磨しながらレースを勝ち抜き、やがて選手としても私人としても共にゴールを迎える。ウマ娘の界隈では王道といえばこれであった。古くは万葉集にも野駆けで男と出会う和歌があるほどだ。(当時は年上の歌人系トレーナーがトレンドであった)

 野上と幼い頃に交わした約束について、不満はない。それはそれとして、異性のトレーナーに憧れを見るのはウマ娘の性であった。

 

「ま、男のトレーナーなんて今日日絶滅危惧種もいいとこやけどな。競技者からスタッフまで、レース界隈は女社会や。ウチが男だったとしてもわざわざこんな世界に飛び込も思わへんわ」

 

「理事長は、そういった間口も広めようとしているらしい」

 

「結構なこっちゃ。その辺に男がゴロゴロしてるようになれば言うことなしやで」

 

「タマ、そこまで……」

 

「……いや冗談やからな?そんな本気で憐れまれても困るんやけど」

 

 タマモクロスがばつが悪そうに頭を掻いた。オグリキャップの朴訥さは度々、脳より先に口が動くタマモクロスの発言を真面目に受け止める。その度にタマモクロスはしどろもどろに発言を撤回することになるのだ。

 異性に興味はあるが、そこにちょっとでも生々しい表現が混じりそうになると腰が引けてしまう。野上が聞けば『思春期の男子中学生かのう?』ぐらいには思っただろうが、この世界の女学生、年頃のウマ娘としてはありふれたリビドーであった。

 ちなみに、青春の機微において木石同然のオグリキャップと、母性にすべてを委ねたスーパークリークはその手の雑談相手として非常に心許ない。タマモクロスに付き合わされるのは専らイナリワンであった。

 オグリキャップ相手にこんな話題を拡げてしまった時点で形勢不利である。差しを図ろうと話題を探したタマモクロスの頭上を、伸び伸びとした声が通り抜けた。

 絶妙な声音であった。低い女声とも高い男声とも取れるそれが、オグリキャップとタマモクロスの判断を鈍くした。

 

「オグリ?オグリではないか!ようやく見つけたぞ!久しいなぁいやぁ助かった、都会というのはどこを見ても同じ風景で敵わん。内府の者らもわからん街作りをしたものだ」

 

「やっと着いたのか!久しぶりだな、野……上……?」

 

 掛けられた声に嬉々として駆け出そうとしたオグリキャップの言葉が尻すぼみに消えていくのを訝しげに思いながらタマモクロスも振り返り、二人揃って呆然とした。

 どう見積もってもサイズを二つは間違えた英字Tシャツを肩に辛うじて引っかけながら、深い襟ぐりをはためかせて一人の人間がぶんぶんと手を振っている。タイトな七分丈のズボンは明らかに流行を逃していたが、不思議とその人間が身に付けるとあるべきものがあるべき場所にあるという気がしてくる。器用なことにこれもサイズ違いを腰穿きで、なにか緩めばストンと落ちるのではないかと心配になるほどだ。

 濡羽色の髪の下には幼さを頬に残す清爽な顔立ちが、好意を隠そうともせずに、これでもかと笑顔へ乗せていた。首はつるりと滑らかで、控えめな喉仏が艶めかしい。そう、喉仏(・・)だ。

 

「その、野上?不躾な質問かもしれないが」

 

 オグリキャップが恐る恐ると口を開く。

 

「野上はいつから男になったんだ?」

 

「うん?なにを頓珍漢なことを」

 

 と言ってから、野上はうーむ?と首を捻った。

 やがてポンと手を打ち合わせる。それはどこか、大喜利の整った漫談家のようであった。

 

「そういえば言い忘れておった。許せオグリ。実はだな、私は生まれた時から男であったのだ。はっはっはっは」

 

 悪びれもせず野上が笑う。サクラバクシンオーに似た、能天気な笑いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、野上のお父さんが野上を心配して女と偽った、ということか?」

 

「偽ったというと随分悪徳なことだな。男と名乗らなかった、ぐらいにして貰えぬか」

 

 どうにも腑に落ちぬというように、腕を組みながら憂いた表情を見せるオグリキャップの姿を見て、これがあの元気ハツラツとした野生児かと思うと時の流れとはまことに俊敏である。少年老い易く学成り難し。心せねばなるまいとうんうん頷いていると、オグリキャップが呆れたように口を開いた。

 

「野上、なにか関係ないことを考えているだろう」

 

「何を言う。季節の移ろいをだな」

 

「今季節の話をしていたか……?」

 

 当然しておらなんだ。細かいことによく気の付く奴である。この世の話はすべて四方山話よと煙に巻いてもよかったが、そんなことより私には気になることがあった。

 

「まあそんな話はどうでもよかろう。それより、そちらがタマモクロスか?」

 

「よくないが」

 

「はっ、はい!…………アカン間違えた。おう!ウチがタマモクロスや」

 

「野上である。お主のことは、ここしばらくのオグリの手紙にはよく書かれておったぞ。この粗忽者が都会に出て大丈夫であろうかと気を揉んでいたが、よき友に巡り会えたと聞き随分安心したものだ」

 

「い、いやぁーあはは」

 

「……粗忽じゃないぞ」

 

「いーや、私には手に取るようにわかるぞ。旨いものの匂いに釣られてあっちへふらふらこっちへふらふら、挙げ句に帰れなくなるオグリが目に浮かぶ」

 

 この指摘は痛恨だったと見え、オグリキャップは口をへの字に曲げた。造形の素直さは相変わらずのようだ。口元は不機嫌さを表現しようと必死であったが、へにょりと垂れた耳がこれでもかと図星を白状している。肚を決めかねるようにゆらゆら揺れる尻尾の誠に愛い奴である。

 そういえば、と目線を再びタマモクロスに転じる。

 

「な、なんや」

 

「うむ、実はだな、田舎の養成学校には時たま引退したウマ娘がやってくるぐらいで、歳の近い者となるともうオグリぐらいしか知らんのだ」

 

 そんな場所で免許が取れて良いのかと疑念を抱いたこともあったが、数分もすればどうでもよくなった。例えば自動車免許など、北海道の地平で取ろうと離島の山間で取ろうと、もちろん東京都心で取ろうとすべて一緒である。それに比べれば最終試験を都会で(全国に五ヶ所ある)受けなければいけないトレーナー免許は一等ものだ。

 

「そんな具合で、ウマ娘の実地観察に乏しいこと切実なのだ。よければ、耳だの尾だの見せて貰いたいのだが」

 

「それはええけど……」

 

 そういって被り物を取った耳を繁々と見つめてみるが、どうにも勝手が違う。どうしたことだと考えてみれば、なんのことはない、視点の違いである。

 私は幼い頃から背が低かったし、オグリキャップは上背の張る方であった。必定、私にとってウマ耳とは見上げるものだったのである。ところがタマモクロスは背が低い。これはいかんと上体を倒して上目に見上げると、タマモクロスが跳ぶように後退った。

 

「うん?なにか気に障ったか?」

 

「い、いやいやそんなことはないねんけどぉ!」

 

「であればもうしばらく見させて欲しいのだが」

 

 言って、返答を待たずに歩を進める。

 オグリキャップの耳はどちらかといえば柔く、度々垂れている印象が強いが、タマモクロスのものはピンと空を指している。これをウマの体質と見るか本人の気性と見るかは議論を呼びそうだ。他にも毛質などにも違いは見えそうである。

 などと観察していると、どうにもタマモクロスの挙動の不審なるに気付いた。視線がやたらと上下するうえ、強く閉じたりパッと見開いたりしている。何事かと思案していると、オグリキャップがタマモクロスに寄って来た。

 

「……タマ」

 

「無茶言うなやぁ!こちとら理性総動員やぞ!こんなん目ぇ逸らせるかアホぉ!大体なんやねんあの服なんであんなブカブカなうえ襟元パックリ開いとんねんただでさえ鎖骨も肩甲骨もがっつり見えとんのに前屈みになったらそらそうなるやろがい!どうなっとんねんオグリィ!

 

「う……それは私も疑問だったんだが」

 

訊いてこい

 

わ、私がか!?

 

ウチが訊けば一発でセクハラやろ。その点幼馴染ならなんとかなる

 

幼馴染というのもそれはそれで気を遣うんだが……

 

じゃかぁしい。行け

 

 二人は身を寄せ合ったまま何やらヒソヒソとやっている。これには疎外感を覚えぬでもないが、朋輩とはよくよく内密を有するものである。畢竟、これは二人が気の置けない間柄であることの証明であれば、私も穏やかに眺めることができて然るべしだ。

 善き哉、などと呟いていればなにやらおずおずとオグリキャップが顎を引きながら近寄ってくる。背の高い割りに上目の似合う娘だ。

 

「な、なぁ野上。ちょっと気になったんだが、その服はどうしたんだ?」

 

「おおオグリ、この服に目を留めたか!よしよし、説明してやろう。この事情がまた傑作なのだが」

 

「事情?」

 

「うむ。というのもだな、先刻述べた通り我が父には心配の虫が憑いておるのだ。ここ数年は大人しかったのだが、私が都会に出るとなった途端蝉の幼虫がようよう羽化したような有り様でな。『君は都会に出ればたちどころに襲われてしまいます』だの『一匹の蟻が象のごとき無警戒さを振りかざして生きていけましょうか』だの『香水代わりに香辛料を振りかけて狼の群れへと出向く羊のごときものです』だの、全く暴言の輩そのものの放言具合でほとほと参っていたのだ。母と共になんとか説得したものの、代わりとばかりに細々と約束事を出されてしまって、これがまた御成敗式目のごとく面倒な塩梅なのだ」

 

 オグリキャップが変な表情で相槌を打っている。さしずめ、我が父の杞の国民のごとき気性に失笑を漏らそうとして、息子の前だとてこらえたのであろう。見れば、タマモクロスも同様呆れた顔をしている。

 

「……それで、その服装もなんだ、御成敗式目の一つなのか?」

 

「うむ。都会に出るからには、他人に侮られるような装束を禁ずべし、だ。無視してもよかったのだが、若い身空で親元を捨て都会へ出るのだ、孝徳の一つぐらい積んでも罰は当たるまいと言いつけ通りに着飾っておる」

 

 オグリキャップがますます怪訝そうな顔をする。

 

「それが侮られない服なのか?」

 

「見るがよい、この大きな服を。野生の動物などは己が身を大きく見せることで自衛するものもあると聞く。これだけ大きい服を羽織れば猫も虎になれような。問屋の衆も、よくお似合いですなどと褒めてくれた」

 

「……その店員、男だったか?」

 

「いや、女性(にょしょう)であった」

 

 はっはっは、と笑うがオグリキャップの顔色は未だ変わらぬ。この辺りが話のオチであったのだが、どうにも木石らしいオグリキャップには通じぬようであった。笑いが通じぬとは全く不幸なことである。

 

オグリ、これ目ぇ離したらアカンやつやで

 

わかってる……野上、とりあえずその店は禁止だ」

 

「それはまたどうしたことだ」

 

「どうしたもこうしたも」

 

 とオグリキャップは頭を抱えてしまった。察するに、これは都会特有の法度がありそうだ。郷に入りては郷に従えとある。田舎者が自身の価値観を振りかざすよりは先達に倣うが懸命であろう。一人納得して、私は歩きだした。

 

「ちょ、どこ行くねん」

 

「どこもなにも、今日は模擬レースとやらがあるのであろう?お主たち、出走するのではないのか?」

 

「「 あ」」

 

 

 時間は水のごとく、常に流れて腐らない。足を止めるのが一興なれば、歩きながらの会話もまた一興である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰も彼もが二度見していた。

 前を歩くオグリキャップを確認した後、その連れを流し見て一度逸らす。それから、二度見することが金科玉条でもあるかのように誰も彼もが目を向けて、以後はちらちらと盗み見ていた。

 オグリキャップはあえて不機嫌そうに腕を組んでいた。殿のタマモクロスは輩のごとき形相である。それでも誰も見ることをやめない。狼の群れに羊とは、野上の父もよく言ったものだ。

 

「おお!オグリ、あれはなんだ?」

 

 件の羊は物見遊山と化していた。中団で辺りを見回し、興味の惹く物を見つけるとオグリキャップやタマモクロスに尋ね、ウマ娘と目が合えば無邪気に手など振っている。警戒心というものは母親の胎内に置いてきたらしかった。服の代わりは見つからず、傾けば肩からずり落ちて行きそうなTシャツをなんの屈託もなく着こなしている。

 

「オグリ、どうする?」

 

 タマモクロスが話かける。主語がなくと、なんの話かはわかった。

 

「ウチもお前も中距離レースや。誰かに預けんとアカンで」

 

「クリークに頼もう」

 

 間髪入れずオグリキャップが答える。

 

「ま、そうなるわな。よっしゃ野上、ウチらの友達を紹介したるわ。ウチらが走ってる間はそいつのそばにおるんやで」

 

「もしや、スーパークリークか?オグリの手紙にも名前を見たぞ」

 

「知っとるんか。なら話は速いわ」

 

 安心したように、タマモクロスが肩の力を抜いた。オグリキャップも同様である。レース中ならいざ知らず、日常で周りを威圧するような真似は根が善良な二人には不向きであった。

 

「クリークは母性の塊みたいなやつやからな。安心してレースを見とけばええわ」

 

「楽しみだ。オグリ、勝算はどうだ?」

 

「全力を尽くすよ」

 

「へへっ、オグリは一等有望株やで!ま、ウチも負けへんけどな」

 

「それは大したものだ、楽しみだなぁ。ああ、そうだ!」

 

 野上が手を打った。

 

「オグリ、あれをやろう!」

 

「あれ?」

 

「昔、映画を見たではないか!フランスの映画だ」

 

 言われれば、オグリキャップの記憶にも思い出されるものがあった。元よりあの鮮烈な日々は一部の欠けもなく脳裏に刻まれている。脇役の名前すら、オグリキャップは思い出すことができた。

 

「あの映画の何をしようと言うんだ?」

 

「最後だ、最後。一着で駆け込んできたウマ娘と抱き合うシーンがあったであろう!」

 

 キャー、という黄色い悲鳴がどこからかあがった。というか、四方からあがった。タマモクロスがにやにやとしている。

 

「つまりだな、私がゴール板のところに待っていて、オグリが一着でゴールして、それから喜びを分かち合うという訳だ!」

 

 これは名案名案と野上が頷いている。その顔は純粋に旧交を温めようとするもので、オグリキャップとしては、嬉しいやら困惑するやらでどうにも返答にまごついてしまった。見かねたタマモクロスが助け船を出す。これがいけなかった。

 

「しかしレースはレースや。オグリが一着とは限らんで。もしウチが一着やったら、ウチと抱き合ってくれるんやろな?」

 

 この揶揄は間違いなく脊髄で行われたものであった。今日この日、会ってから僅かな時間であっても、野上の人間性をタマモクロスは了解しているはずであったのだ。気配り上手な彼女であれば間違いなく出てこないであろう文言が飛び出したのは、やはり緊張故だろう。

 この時野上の頭を過ぎたのは当然、年若いウマ娘のリビドーに対する危機感などではなかった。彼は養成学校の一授業を思い出していたのである。

 

 トレーナー足るもの己が愛バを愛でるべし。それ以外のウマ娘にも、太陽のごとく平等な愛を注ぐべし。

 

 この、読み上げている講師さえも真に受けないような博愛の奉仕精神を、彼は真実至上のものと信捧していたのである。必然、タマモクロスの問いに対しての答えも決まっていた。

 

「うむ。私で良ければ請け負おう」

 

 時が止まった。致命的であった。我に帰ったタマモクロスが発言を撤回させる前に、事は転がりだしてしまったのである。これには多分に不幸も含まれていた。なぜなら、たった八人立てのレースの残り六人がその場にいたのだから。

 

「あ、あの!私もいいですか?」

 

「私も中距離なんですけど!」

 

「ていうか私たちみんなそうなんですけど、あの、本当に一着を取ったら……?」

 

 次々に声があがる。小首を傾げた野上が、不思議そうに頷いた。

 

「うん?私で良ければ、よいぞ」

 

 キャー、という黄色い悲鳴は、今度は四方八方から聞こえた。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待って、今から出走登録変えれるかな!?」

 

「今日の中距離って八人立てだよね?枠余ってるんじゃない?練習場って十六まではゲートあるでしょ?」

 

「行こ行こ!生徒会に言えばいいかな!?」

 

「会長だと不純な理由は見抜かれそう……」

 

「理事長なら熱意でいけたりして……」

 

「「「それだ!」」」

 

 脱兎とはまさにこのことであった。タマモクロスがあっとかうっとか言っている内に、ウマ娘たちは我先にと走り去ってしまった。それも最初の六人だけでなく、周囲のほぼすべてのウマ娘がだ。

 

「…………タ~~マ~~」

 

「いやスマン!スマンけどやな!これウチか!?ウチだけが悪いんか!?」

 

「はっはっは、トレセン学園とは愉快なところだな。眺めているだけでも飽きぬものだ」

 

 呵呵と大笑しているのは無論野上だけであった。頭を抱えたままの二人の言い合いは、時間が迫って心配になったスーパークリークが探しに来るまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大仰なレースとなった。軽い模擬レースはどこへやら、十六人立てのG1のごときレースである。

 ゲート前でオグリキャップは左右を見た。

 

「ダイワスカーレット。今日は走らないんじゃなかったか?」

 

「い、いや~あはは。なんとなく気分が変わったというか」

 

「……マックイーン。随分念入りにアップしていたな」

 

「さ、最近スイーツを食べ過ぎまして!カロリーを消費しようかと……」

 

 ため息を吐いて、オグリキャップがゴール板の方に目をやる。小さな人影がぴょんぴょん跳び跳ねているのが見える。応援に元気を貰うよりも、あのシャツやズボンがずり落ちてしまわないかが心配になった。応援されて心配が増すというのは彼女にとって初めての経験である。

 ゲートに入る前、タマモクロスと目があった。掌を下に向けて、合図を送ってきている。抑えろということだろう。意図するところはオグリキャップにもよくわかった。

 

 レースが始まった。オグリキャップとタマモクロスは、共に最後方からのレースとなった。二人とも焦らなかった。レースの流れがほぼほぼ想像できていたのである。

 最初から中距離に登録していた六人がまず遅れだした。やがて追加組が遅れ、ダイワスカーレットやメジロマックイーンも速度を落とした。なんのことはない、皆掛かっていたのである。

 溜めていた脚を爆発させたオグリキャップが先頭に踊り出すと、すぐ後ろにタマモクロスが付けた。

 

「今日のところは負けといたる。はよ王子様迎えに行ったれ」

 

「……負けは癖になるぞ」

 

「言うやないか。どっかのレースでウチが勝ったら、あの王子様にチューさせて貰うわ」

 

「なら、絶対に負けない」

 

 ギアを一段階あげたオグリキャップが、末脚を惜しむことなく発揮して加速していく。タマモクロスは苦笑いした。

 

「こら、今日は無理やな。過去一の絶好調や。ま、敵に塩を送ったようなもんやししゃーないか」

 

 やがて歓声があがった。客席に詰めかけたトレーナーや記者が、タイムを見てどよめいている。今のオグリキャップにとって、それらは何の意味も持っていなかった。ただ、視界の先で両手を拡げている人だけを見ていた。

 

「オグリー!」

 

 野上の胸に、オグリキャップは飛び込んだ。頭半分ほど背の低い野上相手では腰を曲げることになったが、なぜか躊躇することなくそれができた。羞恥心や虚栄心の軛を抜け、自在のままに動けたのである。

 迷わず飛び込んできたオグリキャップに対して、野上は訝るでもなく優しく頭を撫で、声をかけた。

 

「うむうむ、よくやったよくやった。お主は名ウマ娘だ。お主を愛バにできたことは類い稀な幸せである。私は果報者だ」

 

 これは無論、幼き日に見た映画の台詞回しのオマージュであった。しかしこの時、オグリキャップが野上の姿に、救世主たる娘を慈しむ聖父の姿を見たと言って笑う者が果たしているだろうか。その台詞を映画のオマージュなどではなく、聖書の一節に感じても恥ずべきところがあるだろうか。

 オグリキャップは宗教に縁遠いウマ娘である。気晴らしに神社へ行き、帰りの駄賃に三女神の像を拝む。葬式があれば坊主を頼むであろうし、将来の結婚には教会で神父への宣誓を夢見たこともある。

 当然、世の宗教家、宗教画家が拘泥する宗教画の様式には頓着せず、広く自由な心で真実の美と慈愛をそこに見ることができたのだ。

 オグリキャップは抱き締める腕に力を込めた。これは、人には痛いと言われても仕方のない力みであった。その苦痛を表に見せず、むしろ応えるように、野上はより深くオグリキャップを抱擁した。

 古来、汚濁は聖光の影から這い出るものである。オグリキャップの心に広がる真っ白な雪原に、一滴の墨が落ちたのはこの時であった。大人と子供の差が胸襟に抱え込んだ汚濁の有無だと論ずる人があらば、オグリキャップは今間違いなく、大人の女であったろう。しかしそれらは些細なことであった。オグリキャップというウマ娘の本質に染み入ることなど、できはしないのである。彼女が大人の女になり、内に欲望の原罪を抱いても。

 続く言葉はいかにも秀逸な純情だった。

 

「一つだけ、訊いていいか?野上」

 

「なにを言うておる。お主はウマ娘で私はトレーナーだ。一つと言わず、那由多に訊くがよい」

 

「名前を、知りたい。名字はいいんだ。私にとって、野上は野上だからな。ただ、名前を知りたい」

 

「名前か、そうか。名字はいらぬか。そうかそうか」

 

 野上は嬉しそうに頷いた。彼にとって、オグリキャップと幼少期を過ごした『野上』という名はもはやただの偽名ではなくなっていたのである。そして、この世に野上という存在を肯定できる者がいるとすれば、それはオグリキャップに他ならなかった。野上が野上であることをオグリキャップが肯定した。これは彼にとって望外の喜びであった。

 

「随分名乗りが遅れてしまったな。九郎という。向後万端、よろしく頼もう」

 

 オグリキャップが微笑んだ。

 

「オグリキャップだ。よろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇい見せもんちゃうぞ!散れ、散れ!そこ、カメラ禁止や!あの二人もいつまで乳繰り合っとんねん。クリーク!引っ張ってこい!」

 

「ええーと、あそこに割って入るのはちょっと~……」

 

「あ~も~貧乏くじや!ウチが勝ったらチューどころじゃ済まさんからなぁーーー!」

 

 

 

 

 


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