転生したはいいが、同僚の腹パンが痛すぎる!   作:Mr.You78

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今日は2話更新です。ご注意ください。





こちらは後半ですので、前半を読んでいないかたは、まずそちらからお読みになってください。





7番目の心(Ⅵ)

 

「外部からの刺激でさえあれば、君たちはそれを糧とすることができる。君たちルバン星人は、()()()()()()()()()()()んだ!」

 

「なっ……!!」

 

 ダンの指摘に愕然とするしかないルバン。それは、ここにきて彼が初めて見せる表情であった。

 

「僕は始めから、お前が美術品を狙うのは、それを食べる目的だからなのではないかと思っていた。現にこのアジトには、美術品を収めた倉庫はあっても、多様な食材を保管する為の食料庫がない。ここまで贅沢三昧の出来るお前たちが、食事だけは、味のしない粗食(クローン用の合成剤)で我慢しなければならない道理がないんだ。当然だろう。僕が見たあの場所こそが、お前達にとっての食料庫だったんだから」

 

「……ほう」

 

「だから僕がずっと疑問だったのは、なぜお前達が赤ん坊を誘拐するのか。それだけが分からなかった。てっきり、ソガ隊員の教えてくれた通りに、人間もひとつの芸術作品として消化するつもりなのかとも思ったが……作品の方は、真贋を問題としないくせ、赤ん坊だけはオリジナルが欲しいと言う。これは、二つを別の目的で盗んでいる証拠だろう。言え! いったい何が目的なんだ!」

 

「フフフ……これは驚いた。それを知っているという事は、つまり」

 

「そう。僕も、お前と同じ……宇宙人だ」

 

 途端、爆発したように高笑いを放つルバン。反り返った拍子にシルクハットがずり落ちないように頭を押さえ、それでも腹が捩れるくらいに身を震わせる黒衣の怪人。しばらく彼は、声にならぬ声を上げるだけの生き物と化した。

 

「これは参った。君に我々の変装が効かぬのも道理だな。さてはテレパシーか。それは卑怯というものだろう、モロボシ君」

 

「お前のような、地球の平和を乱す者がいるから、僕もこうして身分を偽り、他の宇宙人を監視しているに過ぎない!」

 

「さぞや窮屈だろうに。なにが君をそこまで駆り立てる?」

 

「……地球の美しさが、僕をそうさせる」

 

 再び笑い声の爆発。あのルバンが、ステッキすらも放り出し、体を折り曲げて爆笑している!

 

「なにがおかしい!」

 

「違う、違うのだよモロボシ君。このルバンは、嬉しいのだ! この広い宇宙で、我々と同じ感性の者と出会えた事が、殊の外嬉しいのさ!」

 

「……同じにしないで貰おう!」

 

「いいや、同じさ。もしも信じられないと言うのなら……良い。君にであれば、全てを話そう。このルバンの秘密を。光栄に思い給え、ご同輩」

 

 そうしてルバンは、軽妙で小気味良いテノールに喜色すらも滲ませながら、朗々と語り始めた。

 

 ――まず、君の認識をひとつ改めるとしようか。我々ルバン族は、確かに傍目から見れば、余所者が語る話を……つまり新鮮な外部情報を食らっているように見えるだろう。

 

 だが、本質はそうではない。我々が真に欲しているのは、情報そのものではなく……それを受け取った側に生じる情動。

 

 知っているか? モロボシ君。人の感情は、味がするのだ。

 

 淡い恋心は、口の中で弾けるように芳醇だよ。失敗の悔しさや屈辱には……丁寧に焙煎を重ねた奥深さがある。安物の悲劇は塩っ辛くて舐められたもんじゃないし、純なる怒りの激発ほど、胃の腑をカッとさせて、体を芯から暖めてくれるものはない。そして、他人のしくじりを遠目で眺める時といったら! 舌にとろりと纏わり付くような濃厚さ……あれぞ甘露だろう。

 

 つまり我々が糧としているのは、誰かが何かを見聞きした時に湧き上がる感情。そのエネルギー。

 

 ……そうさ。心だ!

 

 我々は、他者の心を掠め取って、日々の飢えを凌ぐ生き物なのだ。

 

 極論を言ってしまえば、例え同じ情報であったとしても、語り手がそれを情景豊かに、時々の主観なども交えて話してくれさえすれば、あるいは受け手の側に、深い見識と逞しい空想力があって、まるでその場にいたかのような錯覚でも起こせるのであれば、それは我々にとって極上の美味となるだろう。

 

 ところが現実はそうでなくてね、キュラソ政府の役人共が、配給と称して集落へ送ってくる情報と言ったら! まさに無味乾燥。いや、無味感想か。カビの生えたような古臭い情報ばかりで胸焼けしそうだったよ。

 このルバンには、そんな生活がとても耐えられなかったのさ。

 

 そして、妻と共に集落を飛び出し、連邦各地を転々とした我々は……あまりの事実に愕然とするしかなかった。

 なんと、キュラソ連邦ってのは、本当に酷い場所だったんだ。どこまでも同じ景色! 同じ色! まさに配給で毎日毎晩味わったような経験がずっと続くんだぜ?

 

 気が変になってしまいそうだったよ。政府のお役人共は、あれでなかなか勤勉な方だったという事が、このルバンにとって、どれほどの衝撃だったか。君に分かるか? モロボシ君。

 

 そんな時に我々は出会ったのだ。この星に。この極彩色で包まれた奇跡の星に!

 

 地球は素晴らしい星だね、モロボシ君。君にまったく同意する。我々は、この美しさに全身で打ち震えた。だから、ここにアジトを構えたんだ。あんな、雪と油と霧に覆われた灰色の星ではなく。この星に。

 

 だがね……残念ながら、このルバンが見つけた時、地球にはまだ文化が無かった。……ああ? まあ、あるにはあったが……あまり我々の好みではないので、そんなものは無いのと同じだろう。それだけが我々には不満だった。

 

 そこでこのルバンは閃いたのさ。我々好みの文化を、キュラソ連邦から地球へ輸入してくれば良いのだと!

 このルバンにとって、地球を最も美味なる環境へと作り替えてしまえば良い!

 

「なにっ!? ではまさか!?」

 

「そうだ! このルバンが本当に盗みたいもの。それは地球だ! 我々は、地球を盗みたいのだ!! この青いルビーを!」

 

「そんな事が許されるものか!!」

 

「なぜだ? 地球は誰の所有物でもない。ましてこのルバンは、金や暴力でここを独占するのではなく、ただほんの少しばかり、自分にとって好ましい文化を反映させたいだけだ。……それとも、どこかにそれを禁じる法があるのか? 無いな。モロボシ君。君がいつからこの星にいるのかは知らないが、少なくともこのルバンより古いというわけはあるまい。現に、君ほど美しい存在にはこれまで出会った事がない」

 

「例え人間の法に無くとも、それは宇宙の掟に反する行いだ!」

 

「宇宙の掟? ならばそれは、どこかにその原文があるのだね? 誰かがそれを参照したいと願ったなら、誰しも触れる事が可能な場所に」

 

「……ッ!」

 

 残念ながら、ダンはそれに答える術を持たない。宇宙の掟とは、平和を願う宇宙全生命の祈りだからだ。それをひとたび言語化してしまっては、その瞬間からきっと陳腐な物に成り下がる。それは、言葉持たぬ者を取りこぼしてしまう行為に他ならない。

 

「……だが、お前達の目的が地球の文化侵食であるならば、ますます赤ん坊は必要ないはずだ」

 

「それが必要なのさ。言っただろう。我々は他者の感情を食べる。地球の美しさを余すことなく平らげるには、地球を十全に感じられる者が必要だ」

 

「……そうか、地球人!」

 

「それも、ただの地球人ではないぞ。肉体的な五感に優れ、かつ感受性の豊かな者でなくては。健全な美意識とは、幼き頃から良き物に触れ、全身で経験を積む事でしか鍛えられない。それに深い教養も。このルバンならば、それらを完璧な状態で与えられる。なにせここには、地球とキュラソ、それも古今に渡る最高級品ばかりを取り揃えているのだから!」

 

 両手でゆっくり円を描くように、アジトの天井を指し示すルバン

 

「お前の認めた芸術だけに触れさせて、観賞用の子供を育てあげるつもりか!」

 

「天然モノは、どうしても余計な経験を積んでしまうからな。挫折、絶望……あるいは人間関係に付随する種々のノイズ。それらが雑味となって、我々の観賞(食事)を妨げる。だからこのルバンは、真なる美食の為に、養殖を始める事にしたのさ」

 

 ダンの脳裏に、ソガの漏らしたワードが蘇る。

 

「感性の……収穫!」

 

「自分好みの食器を手ずから造り上げるのも、時には悪くない。このルバンが最も好む味はな、我々の鮮やかな偉業を、他人の目を通してみることだ。あの驚愕! あの興奮! ああ、今から楽しみで堪らないとも」

 

 自身の考える最高の味を想像してか、思わず舌舐めずりすらしてみせるルバンに対して……ダンは吐き捨てるようにこう言った。

 

「……馬鹿だな」

 

「なに? なんと言った?」

 

 思わぬ罵倒に、耳を疑うルバン。片眼鏡の向こうでは、鳶色の瞳が新鮮な味覚に驚いている。

 

「馬鹿だと言ったんだ。お前の方法では、お前の求めるものは絶対に手に入らない」

 

「……ほう。このルバンに意見するからには、君なりの確証があるのだろうね。いいとも。聞かせてみたまえよ」

 

「簡単なことだ。人の感情は、お前達の思うほど単純なものではないからだ」

 

 皮肉げに嗤ってみせるルバンに対し、ダンは、堂々と胸を張って断言した。

 

「いまお前が無駄と切り捨てた、あらゆる全ての経験が、その人間を形づくるんだ。美しいという感動は、そうでないモノを知っているからこそ分かる価値だ! それはこの地球も、人間も変わりない。これまで歩んできた道のりを受け入れ、ありのままあることが最も美しい状態なんだ! お前がやっているのは、それを歪めて醜くしているだけだ!」

 

「……どうやら、お互いの美意識に相違があるようだな」

 

「ルバン。お前達がそこまで美しい物に拘泥するわけを当ててやろうか。それはお前が、心の底では分かっているからだ。自然の摂理に反する、己が在り方の醜さを」

 

「……言ってくれるじゃないか!」

 

 ルバンの右手で、火花が散る。本物のソガもかくやというべき素早さで引き抜かれた自動拳銃が、立て続けに弾丸を発したのだ。

 

 咄嗟の銃撃を、見事な側転で回避するダン。装置の物影に飛び込んで、パラライザーの応射をお見舞いする。

 

 黄色い麻痺光線が、ルバンの右手から値打ちものの拳銃を弾き飛ばした。

 

「……ぐぅ!」

 

「無駄な抵抗はやめろ、ルバン。先ほど言った事は嘘ではない。お前達が自首すると言うのなら、僕は死刑回避の嘆願書も書いてやる」

 

「ハハハ……見事だモロボシ君。今度こそ観念したよ。最後にひとつ教えてくれたまえ。アントロー……我々の愛すべき運転手は、いったいいかなる方法で死んだ?」

 

「……焼死だ。基地の牢屋で警官と揉み合った末、吐かれた炎に引火して……」

 

「そうか……だから金など捨て置けと言ったんだ。欲目を張るからそうなる……」

 

 相棒の死に、黙祷をささげるかのように瞑目するルバン。その瞬間だけは、ダンも微かに痛ましげな表情を浮かべた。

 

 だが、ルバンの手が性懲りもなく背後のレバーに伸びるのを見ると、釘を刺す意味も兼ねて、悲しげな声でその事実を教えてやる。

 

「残念だが、過去へタイムスリップしてあの囚人を救おうとしても無駄だぞ。僕らは、お前が時間跳躍出来る事を認識してしまった。これ以上の改変は不可能だ」

 

「なっ……!?」

 

 ルバンの驚きようは、先ほどダンが彼の嘘を指摘した時以上のものだった。しばらくは掘りの深い顔に絶望を色濃く浮かべていたが、やがて冷静さを取り戻したのか、自嘲するような笑みすら溢す黒衣の怪人。

 

「まさか、そこまで辿り着いていようとは……驚くべき優秀さだな。つくづく君が我々の仲間でない事が残念でならない。今のは、このルバンがこれまでについぞ味わった事の無い味だ。敗北が、ここまで刺激的だったとはな。教えてくれて感謝すらするとも」

 

「そうでなくては、お前が地球の文化様式に変化を与え、本来ならば長い時間を要するクローンの品種改良を行える説明がつかない。だが、お前の時間遡行は、それほど自由なものではないらしい。少なくとも、僕を警戒する事が出来なかった」

 

「そうだ。この跳躍機構は、地球で死んだケムール人が使っていたものでね。ところがとんだポンコツで、60年単位でしかジャンプ出来ないのさ。しかし妙だな……少なくとも、あの時に一度未来へ帰った際は、我々が捕まったなどというニュースを聞かなかったが……これがどういう事か分かるか?」

 

「それは、その時点で不確定だった未来が、今ここで確定したという事だ。当時は誰も、お前達が時間跳躍しているなどとは知らなかったから、お前による改変結果を観測できるものがいなかった。しかし、ここから後の歴史では僕らの認識がお前の改変を阻害する。時間旅行者の常識だ」

 

 故に、時間旅行には厳しい制約が付きまとう。有名なところでいえば、同一人物が同一空間に存在してはならないというのが、その最たるものだろう。

 

 その発展形として、時間旅行の原理を正しく学んだ者が、タイムトラベラーの存在に気が付いてしまえば、両者の認識宇宙が重複干渉を起こして、それ以上の改変が困難になってしまうというのも、ある程度の科学レベルを有する星では常識だった。

 

 今回では、ダンとエリキュールがそれにあたる。もしも303号が生き返るような事があっても、この二人が楔となって、新しい第二の過去を否定する事が出来てしまうのである。

 

 この先ルバンがいくら過去に戻ろうとも、これ以上の影響を及ぼすは不可能なはず。しかしルバンの顔には、いまなお余裕の笑みが浮かんでいるではないか。

 

「なるほど、君はそう解釈するのか。だが、このルバンの解釈は違う。ただ単に、君が我々の秘密を二つも知る人物になってしまった、というだけだ」

 

「……なにが言いたい?」

 

「「こういう事だよ」」

 

 最後の返事は、二つの方向から同時に聞こえた。ひとつは眼前で倒れ伏すルバン。そしてもう一方は、傍らで赤ん坊を抱いたまま立ち尽くしていた女……いや、今そこにいる者こそ、怪盗装束に身を包んだルバンだった。

 

 そんな馬鹿なと、ダンが床へ視線を戻した時、そこに倒れているのは金髪の女のみ。

 つまり、ダンが今までルバンだと思って会話していた相手は、始めからルバンに化けた女の方だったのである。ダンがそう気付いた時には……もう遅い。

 

「さようなら、モロボシ君。覚えていたら、また会おう」

 

 ルバンのモノクルが妖しく光を放つ。それを真正面から食らってしまったダンは……たちまち意識を手放して、糸の切れた人形のように床へ崩れ落ちた。

 

「ぐあっ……!?」

 

 それと同時にルバンもまた、見えない何かによって頭を殴りつけられたようにたたらを踏み、モノクルの嵌まった右目を押さえて苦しげな呻きを上げる。

 

「ルバン様!」

「よい。案ずるなリクラス。このルバンともあろうものが、出力を高めすぎた。……しかし、なんという情報量なのだ……」

 

 そんなルバンが、たったいま収穫したばかりの、新鮮な情報を味見とばかりに吟味していけば……

 

「ハ、ハハハ……ハハハ!! そうか、君がそうなのか! モロボシ君!? なんという事だ、まさかこんな事が……! 喜べリクラス! これはとんだ上物だぞ!」

「それは大変喜ばしいことでございます」

「しかし残念ながら、ここで君を完全に殺しきるには、いささか準備不足だな。できればもっと味わってみたくもある。……おや? そうか、彼もか」

 

 情報を遡ったルバンは、あのしつこく自分達を追ってくるキュラソの万年警部の顔を思い浮かべる。

 普段のルバンは極力、他人の命までは盗まぬようにしている。それはただ単純に、わざわざそんな事をせずとも、彼らの能力を使えば、目撃者などいかようにでも消す事が出来るという事と……自身の偉業を語り継ぐ観客は、多ければ多いほどに付加価値がつくと考えているからだ。

 

 しかし、己の秘密を知ったものに限ってはそうではない。彼らが生きている限り、ルバンの安全と計画は常に脅かされ続ける事になってしまう。

 

 他者に対し非常に寛大で、驚くほどに慈悲深いルバンらとて、流石にそれは許容できない事柄だ。

 

 誰かに怯えるなぞ、まったく美しくないではないか。

 

「実に残念だ。知りさえしなければ、生かして帰してやったものを」

気になる?

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