色々と、気付く前。
始まってしまう、少し前。
まだ知らない、裏側のキモチ。

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アオのハコ#3 sideB

 身の程知らずの幼馴染みを応援したくなるこの気持ちは、なんなんだろうか。

 あれは元気の良い小型犬みたいなものだから、保護欲とかそんなものなんだろう。

 私のバカな友達、猪股大喜。何をやっても人並みが精々なじゃがいもの癖に、高等部全体をみてもエース格の超有名人に片想い中の身の程知らず。

 まあ、多少は進展しつつあるらしい。

 やたら気合入れて筋トレしてるから「さては、あの女バスの先輩と何かあったな?」とカマかけてみたら、見事に動揺しまくり。

 うんうん、今日も大喜はバカで可愛い。

 スマホのロック番号でも特定したか、それともなにか弱味でも握ったか。

 いやいや大バカ三太郎な大喜に、そんな器用な真似が出来るとも思えない。

 さて、一体どうしたのか――と思っていると。

「あぁ、大喜くん」

 どういう因果かはたまた神のご意志か、なんなのか。当の千夏先輩から、大喜に話しかけてきた。

 これはまた面白い事になるかも、と見守ろうとする私。

 と言うか名前覚えてもらえてたのか、まさかそれが嬉しくて筋トレしてたのかこのバカは。

「さ、財布!拾ってくれて、ありがとっ、ござっますぅ!」

 明らかにテンパった声で、先輩の手から何か受けとる大喜。あ、見覚えのある財布だ。そうか、届けに来てくれたんだな。

 誰のか調べるのに中見て、それで名前分かったのか。なんだ、一安心。

 

 ――あれ?何で私は安心しているんだろう。

 

 ……まあ大喜がキョドりながらでも会話が出来るくらいに育ってくれたのは、おねーさん正直嬉しい。

 ここから少しでも関係を詰められると良いんじゃないかな、と考えはした。

 けれども、そう上手くはいかないようだ。

 

 先生に言われて、私と大喜に匡、そして千夏先輩は四人で椅子運びをさせられる事になったのだけど。

 大喜が、露骨に避けられている。話さないどころか視線も向けない。これは、色々と不味そうだ。

 大喜は迸る程のバカだから、あの後もキョドったまま話し掛けてウザがられたりしたんだろうか。

 ああいうタイプは美人な分他人にも厳しいから、ワケわかんない後輩なんかと関わりたくないだろうし。

 やれやれ。ここは、おねーさんが一肌脱ぐしかないかな。

 とりあえず、取っ掛かりを作ってやろう。

「あの、千夏先輩ですよね。私、蝶野と申しますっ」

 初めましてのご挨拶から、そして。

 一気に距離を詰める。間を開けず懐に入るのが、私の得意技だ。

「先輩って、彼氏とかいるんですか?」

 先ずはフリーかどうかを確認して、そこから好きなタイプとか理想のデートとか聞いて行こう。

 思いっきり不躾だけど、後ろで聞いている大喜の為だ。私自身がウザがられても、別に大した事でもない。どうせ滅多に会うわけでなし、今は空気を読めないバカな後輩でいてやろう。

 敵情視察はやってやるから、後は頑張りなさい。

 そういうプランで行くつもりだった。なのに。

「いないよ、今は部活で精一杯だから」

 ――そう言われては、どうにもならない。私にだって、それは理解できる。仮にも英明学園のトップエースが、部活を放り出して恋愛なんか出来る訳がない。

 しまった、と思う。きっと大喜は青ざめている事だろう、試合開始前に不戦敗確定なんだから。

 しかしそれにしたって、そこまで避ける必要も無いだろうに。本当に、何があったんだろうか。私が知らない所で、あのバカ何をやらかしたんだ。

 

 まあそもそも、後輩なんか眼中にはないだろう。男子なんて、同い年でもガキなんだから。付き合うんなら、年上一択だ。

 だから色恋沙汰には絶対ならない、断言できる。でも普通に先輩後輩の間柄でいる分には、特に嫌がるようなもんでも無い筈だ。それさえ拒絶する、って相当不味いんじゃないか。

 突撃バカの本領を発揮して突っ走ったのか。突然告ったとか、着替え覗いたとかそういう事だろうか。

 ……違うな。大喜はバカだけど、優しいやつだ。自分が傷つくのは平気だけど、相手の事は思いやれる子だ。

 だからそんな事はしないだろうし、まず出来ない。側で見ているわたしは、それをよく知っている。

 あのバカの事なら、全部分かっている。

 

 だって、私は――。

 

「……私は?」

 私は大喜の、――親友だ。そう。親友なんだ。

 だから心配してあげてるし、助けてあげないといけないんだ。

 それが、私の本心だから。

 もう一肌脱いで、千夏先輩と大喜の仲を修繕してあげようかな。

 なんて思いつつ歩いていると、水飲み場から聞きなれた笑い声が飛んできた。

 大喜の声だ。あのバカなにやってんだか。

 と、覗いてみると――。

「ハハ……先輩、バカでしょ」

 そこには大喜とそして、千夏先輩。

 二人は並んで、まるで仲の良い友人のように喋っていた。

「なっ、ぬう。笑いすぎ、もう知らん」

 何を話しているんだか知らないけど、さっきまでの険悪な空気は完全に消え失せている。

 まあ、良かった良かった。仲直り出来たんだろう。

 変に拗れなくて良かった。うん、良かったんだ。

 でも、おかしいな。

 どうして私は、妙なモヤモヤを感じているんだろう。

 応援しているバカな友達が、好きな人と仲良く喋っている。良いことじゃないか。

「あー……なんだろう。なんか、うーん……」

 考えても仕方ないけど、なんだかヘンだ。落ち着かない。

 良いや、練習しよう。身体を動かせば、きっと治るさ。

 私はいつものように、練習に向かう。いつものように。

 きっとこれは、ちょっとした気分の違いだ。だから、すぐ元通りになる。

 でも、どこかで。取り返しのつかない何かが、胸の中に植わってしまったような気がしてならない。

 ああ、私らしくない。

 無敵の蝶野雛は、こんなこと考えない。だから見るな、気付くな私。 

 これは、見ちゃダメなやつだ。気付いちゃダメなやつなんだ

 そんなものに、関わってはいけないんだ。

 迷いを振りきる為に、走り出す。

 私は、蝶野雛だから。

 迷わず栄光へ突き進む、英明学園の美しい蝶なんだから。


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