ワートリハードモード トリオン能力1未満トリガー無し敗北即死   作:ルシエド

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします

・この幕間はこの二次の本編で登場しない原作キャラが登場します
・この幕間が本編後の未来になるかは不明です。安倍晴明が見た未来の一つです
・続かない


【正月記念幕間】ちょっと未来の話

 20●●年。

 第二次大規模侵攻と呼ばれる大いなる戦いが終わってから一年くらい経ったかなあ、という頃のお話し。

 世界は一時の平和を取り戻し、ボーダーはまだまだ雛の如き組織ながら順当な成長を始め、かつてボーダーらに守られた若者の内から志有る者達が次々とボーダーに志願する時代が到来した。

 

 世界防衛、黎明期。

 

 後の歴史書に、地球人達が自らの意志で自らの世界を守り始める夜明けの時代と書かれるようになる、そんな時代であった。

 

 新築のボーダー本部が、三門市に今日もぴかぴかと輝いている。

 まだ名もなき若者が、あるいは既に名のある若者が、ボーダーに入隊希望届を出す。

 それらを牽引するのは、今は『旧ボーダー』と呼ばれる、戦争を生き残った若者……通称『玉狛の先輩達』。

 ボーダーは公的な場所に姿を現してから二年と経たずに、『駒の質』を高め、小国に迫る――あるいは、凌駕する――ほどの戦力を揃えつつ合った。

 

 そんな中。

 『正隊員ランク戦三位・源隊』の二人は、与えられた隊室でうんうん唸っていた。

 

 片や、源頼漢。

 源隊の隊長にして、ボーダー唯一のトリオン1未満、緊急脱出(ベイルアウト)実装不可能と判定された悲しき無才。

 『君が前線で死ぬとそれが過剰に報道されて、ボーダーの新入隊員がビビって組織拡大にストップがかかるから、死にそうになったら自力で歩いて帰って来い』と厳命された男。

 年々背が伸び、筋肉も分厚くなっている。

 

 片や、嵐山准。

 昔の(よしみ)で部隊を立ち上げた頼漢の下に駆けつけて来てくれた男。

 アサルトライフルから様々な弾丸を撃ち放つ技巧派でありながら、足も速く防御にも長け、指揮能力や情報判断力も高い"当たり"の新人と言われた男。

 普段は爽やかな微笑をたたえている彼が、今日はなんとも珍しく、本気で困ったような苦笑を浮かべていた。

 

「准っち」

 

「はい、なんでしょうか、頼漢さん」

 

「東隊と玉狛第一にどうしたら勝てると思う……?」

 

「今の時点では諦めるしかないでしょうね」

 

「堂々と言うことか!?」

 

 訓練ばかりしている軍隊は弱いのか?

 それは創作の中だけの幻想である。

 しっかり訓練した部隊は実戦でも十分に強く、旧態依然とした『経験豊富な部隊』を一方的に打倒してしまうこともあるほどである。

 

 訓練をみっちり詰め込み、実戦で非常に高い練度を用いて蹂躙し、実戦から多くのフィードバックを得て、訓練の形式とレベルをより実戦に近付ける。

 このサイクルを繰り返すことで、兵士の集合体である軍隊という総体は、加速度的に強くなって行くことができる。

 

「まーランク戦の勝率はともかくとして。

 准っち、最近銃の命中率かなり上がってきたな。

 本気で練習しなきゃそうはならん。

 こっそり練習もしてたのか? よく頑張ってんじゃねえか、偉いぞ」

 

「ありがとうございます。

 前から思ってましたが……

 頼漢さんはこまめに褒める人ですよね」

 

「あ? そうでもねえだろ。気のせいだ気のせい」

 

「はは、そうですね」

 

 ならば、地球防衛組織たるボーダーが平時に行う訓練とは何か。

 その答えが、平時のランク戦であった。

 

 現在のボーダーは最低限の訓練を行う訓練生と、訓練過程を終えた正規隊員、この二つの層に分けられている。

 そして正規隊員から志望した者は隊を立ち上げ、他の正規隊員を招き、部隊ごとに模擬戦を繰り返して順位付けを行う……すなわち、ランク戦に参加することができる。

 

 ほぼノーコストで際限なく模擬戦を繰り返せるこの形式は、トリオンの体に換装すれば肉体的疲労も無いのもあって、異様な訓練効率を叩き出していた。

 

 チームAが革新的な戦術を打ち出す。

 チームBがその戦術の攻略法を編み出し、他のチームがその真似をする。

 チームAに刺激を受け、チームCが既存戦術を組み合わせた必勝法を生み出す。

 チームDが攻略法を編み出し、他が真似をする。

 チームEに大型新人が入ってしばらく無双し、周りが対策をして潰す。

 

 この繰り返し。

 全員が全力で試行錯誤し、必勝法を編み出し、周りが容赦なくそれを潰しにかかる。

 逆風の中で磨かれたことで必勝法が完成度を高めたり、他のチームの必勝法を潰すために編み出したフォーメーションが実戦でも有用だと発見されたりする。

 

「昨日思いついた戦術で一回くらいは勝ち星拾えると思うんだけどな」

 

「奇策は、東隊と玉狛第一に二度は通じないでしょうね」

 

「それがな……」

 

 次々新しい戦術が生まれる。

 既存軍隊の戦術の模倣・改造で温故知新を行う者も出てくる。

 一度陳腐化したトリオン戦術もデータベースに蓄積され、またいつか環境が一回りした頃に、形を変えた最強の戦術として蘇ることもある。

 

 それは、数人のゲームチームが、身内だけの対戦を何万回と繰り返して互いに試行錯誤していく内に、世界中の猛者をなぎ倒す世界大会級の人材が育つ光景と、どこか似ていた。

 

 もはや蠱毒である。

 瓶に詰められた虫。

 瓶の中で殺し合う虫。

 死者こそ出ていないものの、死者が出るような鍛錬で生み出す人材より遥かに強力な、馬鹿げた多様性と対応力を備えた人材が揃っていく、そういうシステム。

 

 それが成立するのは、ランク戦に参加している強力な部隊がいくつも存在するからだ。

 

「俺達三人なら玉狛第二、玉狛第三、玉狛第四には勝てるんですけどね……」

 

「玉狛第一にはどうしても勝てんわクソが。あれはダメだろ」

 

 嵐山と頼漢がうんうんと頷き合う。

 

「桐絵、木崎さん、迅、千佳ちゃん。

 オペレーターにゆりさん。

 本当になんでしょうね、あの布陣。

 ……頼漢さん、千佳ちゃん今からでも引き抜けませんか?」

 

「あーダメダメ。少なくとも俺の部隊だけで一回はランク戦一位を取るって決めてんだ」

 

「また難儀な縛りを……」

 

「桐絵が隊長になって俺と千佳誘って部隊作りたいって言ってたが、やる気配もねえしなあ」

 

 現ランク戦環境一位は、旧ボーダーの有望な若手が集まって結成した玉狛第一。

 二位は現行ボーダー設立後に集った有望な才人達のみのチーム、東隊。

 次いで三位の源隊。

 四位に『高速の双剣兄弟』こと風間兄弟による風間隊。

 五位、六位、七位を、先の戦争を生き残った旧ボーダーの若手が中心になって結成した、玉狛第二、玉狛第三、玉狛第四が固めている。

 それ以下の数部隊は団子だ。

 

 実質上位の七チームがバチバチにやり合う形になっていて、頼漢達の源隊はその平均ラインのちょっと上辺りを維持している。

 

 しかし実際のところ、源隊は"一位の玉狛第一と二位の東隊相手には勝率三割を切っている"というのが実情であった。

 理由は様々である。

 が。

 最たる理由は、『単純にクソ強い奴らを集めた玉狛第一と東隊が強すぎる』という、身も蓋もないものであった。

 

「そもそも源隊は上層部がランク戦引っ掻き回してほしいってんで作った部隊だからな」

 

「ああ。そういえば頼漢さんが前に言ってましたね」

 

「覚えてたか。

 まあ、アレよ。

 玉狛第一で無双すんのは分かりきってたからな。

 上層部からすりゃある程度群雄割拠であってほしかったんだろ。

 だから俺にできれば玉狛第一の対抗馬の部隊を作ってほしかったっぽい。

 それも新隊員を軸にして、な。

 有望な新隊員がボーダーのトップチームで活躍してりゃ、新入隊員も夢が持てるだろ?」

 

「新隊員軸のトップチームという役割ならもう東隊がやってると思うんですが……」

 

「そうなんだよな~~~……源隊の今の存在意義何? どう思うよ准っち」

 

「どう思うと言われましても……」

 

 ランク戦のルールは戦闘員最大四人に、オペレーター最大一人、この規定さえ守っておけば基本的に自由である。

 

 よって、隊長の人望や勧誘力、チームのコンセプト、隊員の得意分野のバランス、勧誘した時点での隊員の実力から、部隊入りした後の隊員の成長、あるいは隊長による教育など、短期的・長期的な総合力が問われると言える。

 

 後衛ばかりを集めたチームでは長期的に勝ち続けられず。

 エースが他チームのエースに勝てないようであれば頭打ち。

 格上を複数人の連携で獲れないチームは上に上がれず。

 戦略レベルでの優位、地形戦での勝ちを作れないと負けが嵩む。

 また、隊長が上手く部隊の中に生まれた不和を処理できない場合、そのまま内部分裂してしまうというネックもあった。

 

 仮に上手く行っても、他チームに対策されると、勝ち続けられず、強者の椅子から転落してしまうこともある。

 難儀するゆえに、本当に強い者達を篩いにかけられる、それがランク戦システムであった。

 

 頼漢と嵐山が悩んでいるのもそこであった。

 チームの総合力は一朝一夕では上がらない。

 新人を入れれば不和が生まれる可能性がある。

 簡単に強いチームを作れそうで、簡単に強いチームを作るのが難しく、更に言えば『強いままで居る』ことはもっと難しいのだ。

 

 源隊は現在三位だが、これは上の二隊に勝てないという意味での三位でもある。

 

「東隊は東さん、二宮さん、加古さん、三輪さん……全員各分野のトップクラスなんですよね」

 

「現ボーダー唯一の狙撃手の東さんだろ?

 最強の射手のニノっちだろ?

 前期個人撃破数一位の加古っちだろ?

 太刀川や迅と模擬戦で遊んでる三輪さんだろ?

 ありゃダメだわ、クソゲーメーカーの塊すぎる」

 

「そういえば三輪さんの弟も来季入隊するらしいですよ」

 

「そういや姉弟なんだっけか。

 この前メシ奢った時にそんなこと聞いた気がする」

 

「俺は話したことありますよ。

 三輪さんに弟くんが弁当届けに来たことがあって、その時に。

 明るくて社交的な三輪さんと対象的で、大人しくて真面目そうな弟くんだと思いましたね」

 

「あの姉がアレなんだし弟もキレたらやべータイプだろ、俺の直感が言ってる」

 

「ちょっと話しただけだと、秀次くんが怒ってるとことか想像もつきませんけどね……」

 

「姉くらい動けるなら勧誘してみんのもありかね……?」

 

「姉より動けたりするかもしれませんよ?」

 

「まっさかー、はっはっは」

 

 三輪姉弟の姉の方。

 東隊の点取り屋の一人であり、頼漢によく奢らせている方でもある。

 頼漢がメシを奢っている女ランキング一位は玉狛第一のエース小南。二位は玉狛第一の主砲雨取千佳。三位がその、東隊の切り込み隊長、三輪のよく食う方であった。

 

「麟児さんもうちを抜けて東隊で上手くやってるみたいですね」

 

「あいつはまあ……どこでも上手くやっていけるだろ」

 

 現行東隊オペレーター、雨取麟児。

 彼のオペレーションで東隊は更なる高みへと登っていった。

 しかし、東隊に入る前の彼は、源隊のオペレーターであったという。

 

「あの人、実際どうなんですか?」

 

「なにが?」

 

「その……麟児さんがうちを抜けた理由ですよ。頼漢さんに聞くのが一番間違いないなって」

 

「麟っち言ってたろ。

 "ヨルと千佳と俺で三国志しようぜ"

 って。あれそんなに嘘でもねえんだよ。全部本当でもねえだろうけどな」

 

「……ええ……」

 

 頼漢の言葉に、嵐山の苦笑の苦味が増した。

 

「あいつは"自分抜きの源頼漢のチーム"がトップ取れるとまた過大に期待してんだ」

 

「?」

 

「つまりだな。

 今一位の玉狛隊に千佳と、あと桐絵も居るだろ?

 二位のオペレーターが麟っち。

 三位の隊長が俺だ。

 いざという時、麟っちが千佳と俺に招集かければ。

 まあ応じてくれればだけど、桐絵にも招集かければ。

 ボーダートップ三部隊の中核メンバーが一点に集ることになるだろ?

 そうしたら有事にボーダートップ三部隊の人間を集めた部隊を麟っちが動かせる。

 加え、三部隊に麟っちとの太いラインがつながる。

 いざという時、トップ三部隊の総意を代弁する形で、麟っちが上層部と交渉できるだろ?」

 

「あの人いつも一人だけライアーゲームしてませんか?」

 

「俺もそう思う」

 

「それであの人は何するつもりなんですかね……」

 

「上層部が権力に酔って暴走した時の監査と抑止力を用意しておきたいとか言ってた」

 

「思考が中国の故事に出てくる賢臣のそれなんですよねあの人」

 

「まあ……そうだよな。

 とまあだから俺も上位二部隊と互角くらいにはなりてえんだけどよ。

 どうにもなあ、准っちは頑張ってくれてんだが、俺が不甲斐なくて申し訳ねえや」

 

「いえ、頼漢さんの尽力を疑う人なんていませんよ」

 

「尽力してこれだ。無能忠敬と呼んでくれ」

 

「呼びませんよ」

 

 話が転がりに転がり始めた頃、がらがらがら、と隊室奥の扉が開く。

 

 そこからお盆の上に急須、茶飲みを乗せたお盆を持って、黒髪ショートの容姿がすらりと整った美人が顔を出してきた。

 

「お茶入りましたー」

 

「エビワラーさん……」

 

「沢村ですけど?」

 

 沢村響子。

 嵐山と同期入隊した成人済の美人で、嵐山と同時に源隊に入隊した生粋の武人。

 頼漢の五つ年上で、頼漢もいつもさん付けしている。

 が、たまに生意気な年下の少年にエビワラーさんと呼ばれる、沢村姓の悲しき運命を背負った美女であった。

 

 林藤ゆりから見ても一つ年上の女性だが、当時のボーダーには他に同年代の女性が居なかったということもあり、入隊直後からゆりと仲の良い女性であった。

 そしてゆりの紹介で源隊に入ったという経緯がある。

 近接に長ける頼漢と響子が前で戦い、嵐山が銃撃でそれをサポートし、将棋倒しの如き勢いで敵を食い破っていく攻めの点取りが、このチームの持ち味であった。

 

 だがそれも、過去形になろうとしていた。

 

「どう? 私が抜けた後どうにかなりそう?」

 

「さあ……」

「どうでしょう……」

 

「……本当に大丈夫?」

 

 沢村響子は別の隊への移籍が決まっていたのである。

 雨取麟児も先のシーズンで東隊に移籍していたため、これで二人目。

 源隊は次のランク戦を、オペレーター無し主力一人抜けという絶望的な状況で迎えようとしていたのであった。

 

 直球で言えば、飛車角桂香六枚落ちと同等―――負け確定の詰みの形。

 

「なんか……

 私が抜けた後のことが心配だから……

 とにかく有望そうな子が来てくれないか打診してみるわね」

 

「エビワラーさん……」

「エビワラーさん……」

 

「サワムラーだけど? 違う、沢村!」

 

「またポケモンしましょうや。俺ら源隊はいつでも古巣として沢村さんを歓迎しますよ」

 

「まあ……二人とも優しかったし……居心地は良かったわ。今までありがとうね」

 

「頼漢さん、その辺にしておいて。沢村さんはどこのチームに行かれるんでしたっけ?」

 

「今はまだ秘密ー。そりゃもうびっくりさせてみせるから楽しみにしててね?」

 

「嫌な予感しかしねえ」

 

 新生ボーダー黎明期。

 

 まだボーダーが赤子に等しく、よちよち歩きだった頃。

 

 源隊は下位転落秒読みという、絶望的な状況まで追い込まれていた。

 

 

 

 

 

 麟児が抜けたチームから響子まで抜けて、それから一週間後。

 

 響子の紹介で、目の醒めるようなイケメンがやってきた。

 

「烏丸京介です。沢村さんには入隊試験の時にお世話になってました」

 

 定番の調味料的なイケメン表現をするのであれば、嵐山が醤油顔のイケメンで、その男はマヨネーズ顔のイケメンであった。

 響子曰く、剣も銃も行けるオールラウンダー。

 同期にも九割がた負けていないという話である。

 これから負けが込みそうだった源隊にとっては、期待が持てる即戦力であった。

 

「頼りにしてるぜ烏丸。即戦力になってくれたら嬉しい」

 

「任せてください。

 俺こう見えて空手大会で優勝してフランス人と女子高生総立ちで大喝采されたことあるんで」

 

「マジで!? すげえじゃねえか!」

 

「いえ、嘘です」

 

「なんでだよ!」

「唐突な嘘松かましてきましたね……」

 

 しれっと嘘をかましてきた烏丸に、頼漢はあっという間に手玉に取られてしまう。

 

「いえ、沢村さんが"源隊の隊長はおもしれーやつが好きだよ"と言っていたもんすから」

 

「俺は乙女ゲーの"へっ、おもしれー女"連呼マンか? 忘れろ忘れろ」

 

「頼漢さんのツボを把握してるんだかしてないんだか分からない状態で抜けていきましたね、沢村さん……」

 

 源氏蛮族、源頼漢。アタッカー。

 爽やか真面目好青年、嵐山准。オールラウンダー。

 嘘つき愉快イケメン、烏丸京介。オールラウンダー。

 オペレーター、今のとこなし。

 これが新生源隊のスタートであった。

 

「普段お二人はどんな話してるんすか?」

 

「普段は『それいけアンパンマンの対義語はほらきたバイキンマン?』みたいな話をしてるが」

 

「暇そうっすね。あ、もしかして意趣返しで俺に適当な嘘言ってたりするんすか?」

 

「いや、マジの話」

 

「マジの話なんだ……」

 

 ただ、烏丸が内心抱えていた『上手くやれるだろうか』という不安はもうなくなっていて、『楽しそうな部隊だな』という気持ちが、代わりに湧き上がっていた。

 

「だが京っち……お前には入隊するために最終試験を受けてもらう」

 

「え? まだなんかあるんすか?

 俺入らないと、この部隊二人だけで困るんじゃないんすか?」

 

「正論を言うな!」

 

 広い隊室に頼漢の声が響き渡り、嵐山が苦笑した。

 

「そうだな……えっと……

 最近借してもらった漫画でなんかねえかな……」

 

「考えてなかったんすか?

 というか漫画から引用してどうすんすか。試験でしょ」

 

「うるせぇ。そうだな……『憧れは理解から最も遠い感情だよ』みたいなこと言ってみて?」

 

「唐突なBLEACH。

 ええっと……

 『枕投げは睡眠から最も遠い行動だよ』とかでどっすか」

 

「……ふっ。合格だ。次のランク戦から出てもらうぞ。源隊へようこそ、だ」

 

「これでいいんだ……」

 

「頼漢さんと呼吸が合うかどうか。

 それがこの部隊で一番大事なことだからなぁ……

 というわけで烏丸くん。今日から頼漢さんの変な動きに合わせる特訓が始まるぞ」

 

「え、そういうやつなんすか?」

 

 かくして三人での再スタートが始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 そこにはすっかり仲良くなった三人が、焼き肉食べ放題に乗り込む姿があった。

 

「新生源隊、防衛任務初成功を祝って乾杯! イェーイ!」

 

「イェーイ」

 

「いぇーい」

 

 氷ががっつり入った水のコップで乾杯し、三人はがちゃがちゃ肉を頼み始めた。

 

「店員さんすんませーん! このメニューにあるやつ全部上から順番に持ってきてくだせぇ!」

 

「よるせんの食い方やばくないすか? 嵐山さん、この人いつもこうなんすか?」

 

「昔麟児さんって人が交渉して、頼漢さんの食費は全部城戸司令持ちになったらしい。

 頼漢さんが食っても食ってもボーダーの一番偉い人が払ってくれるってわけなんだな」

 

「ボーダーを財布だと思ってる人初めて見ました」

 

 次々来る肉を猛烈な勢いでかっくらい、ライスを繰り返しおかわりし、しかし嵐山と烏丸の分もしっかり残しつつめちゃくちゃな暴食を行う頼漢に、烏丸は内心引いていた。

 

「あ、よるせん、その肉俺が育ててたやつっすけど食ってもいいっすよ」

 

「え、マジ?」

 

「その代わりアレ、あの射撃避けのコツとか今度教えてもらっていいっすか?」

 

「おお、いいぞ。つかいつでも訊け、いつでも時間作って教えてやるから」

 

「あざす」

 

「頼漢さんも大分忙しい人なのにこれだからなぁ……」

 

 けれども頼漢がこの上ないほどに美味そうに肉と米を食っていくので、次第にどうでもよくなっていき、途中からは自分が焼いていた肉を頼漢に譲ってやるようになっていく。

 カルビ一枚でこんな簡単にご機嫌取りができてしまう人を、烏丸京介は他に知らなかった。

 

「ってか、思ったよりハードですね。ボーダーの防衛任務。シフト見てビビりました」

 

「人が居ないからな……多くて十部隊程度のシフトでしたよね、頼漢さん」

 

「"ボーダーの戦力に数えられる部隊"が上位七チームしか居ないからな。

 玉狛第一から第四。

 東隊、風間隊。

 あとうちの部隊。

 人が足りない時は幹部の人達動員した臨時部隊とソロ混成部隊も。

 沢村さんが移籍したって部隊でその内もう一個増えて……

 時枝隊と諏訪隊も戦闘員三人揃うまでは一線級とは言えねえ。

 あとアリステラ出張部隊が駐留してくれてる時は三~四部隊くらい増えてるな」

 

「経験浅すぎる部隊だけで防衛任務するわけにもいきませんしね」

 

「正直、今の一シフト二部隊、一日三シフト六部隊も大分危ねぇとは思うんだよな……」

 

「6時から14時、14時から22時、22時から6時ですもんね。

 学業と並行はそこそこキツいっす。

 しかも今の部隊数だと皆二日に一回八時間は防衛任務でしょ?

 稼ぎがいいから文句は言いませんけど、部隊数が今の倍になってもキツそうっすね」

 

「ああ、んまぁ、時間もキツいんだけどよ。

 戦力がちょっとな。

 今だと即応できる部隊が二部隊だろ?

 これじゃパトロールもできん。

 敵が大勢で担当部隊が弱めだとそのまま負ける可能性もある。

 トリオン兵が出ても本部から走ってくしかねえから遠いと間に合わない可能性もある」

 

「……大規模侵攻のヤバさは分かってるつもりっすけど、結構ヤバい感じしますね」

 

「そうだな。頼漢さん曰く『かつて勝てたのが奇跡』だったそうだから」

 

「そらもーやべーやべー。

 お前もさっさと強くなれよ、京っち。

 ランク戦にも勝ちてえが、それが目的じゃねえ。

 ランク戦の目的は俺達が強くなること。

 つまり、お前は世界の未来を守るために強くなんなきゃなんねえんだ」

 

「うす」

 

「最低限、家族を守れるくらいでいい。強くなっとけ」

 

 じゅー、じゅー、と肉が美味そうに焼けているのを尻目に、烏丸は内心が読み難い顔で、しっかりと頷いて返した。

 

「しっかしよ、『源隊は顔面偏差値の落差で発電できそう』とか言われてんだぜ、泣くわ」

 

「それを言ってるの太刀川さんだけでは……?」

 

 嵐山がまた肉を網の上に並べていく。

 

「なんか妙に気安いというか仲良いっすよね、太刀川さんと源さん」

 

「ああ、烏丸くんは知らないか。

 編入された学校でクラスが同じなんだよ、源さんと太刀川さんは」

 

「へぇ……」

 

「あんまりにも勉強ができなすぎて胃痛で先生を病院送りにした伝説のコンビだ」

 

「ええ……」

 

「一緒にすんじゃねえ。

 太刀川は授業を聞いてねえやつ。

 俺は授業聞いてても分からねえんだ」

 

「より酷くないですかね……?」

 

「教師の人に

 『源くんは真面目に授業を聞く姿勢も理解しようとする努力も見えるので偉い』

 って褒められたぜ、へへっ。ま、勤勉と真面目が人間の美徳ってやつだからな……」

 

「小学生の頃に頑張ったで賞貰ったことない人か何かなんすか?」

 

「ああん?」

 

 タンをめちゃくちゃ追加で頼む頼漢を見て、"この人タン好きすぎだろ"と烏丸は思った。

 

「そういや、よく分かんなかったことあるんすけど。あ、タンの上のネギ落とさないで」

 

「ちょっとならいいだろ燃料になるしよ。なんだ?」

 

「ボーダーの派閥分けあってあるじゃないっすか。あれどうなってんすか?」

 

「ああ、ありゃ気にしなくてもいいぞ。忘れちまってもいい」

 

「ええ……一応所属組織内の派閥抗争とかなんじゃないんすか……?」

 

「まあ、頼漢さんは絶妙に何も気にしなくてもいい立場ではあるんだが、難しいな」

 

「居心地のいいとこに行けば?

 くらいの話でしかねーからな。

 古参ボーダーは皆仲良いし。

 細かい方針くらいしか違いがねえ。

 あとまあ、組織外から交渉の打診があった時、相性のいい派閥当てたりすんだよ」

 

「分かるような分からないような話っすね」

 

「アメリカは結構昔から多大な近界民(ネイバー)被害受けてたことが判明してただろ?

 で、物騒な声が大きくなった。

 その後アメリカからボーダーに接触して来た勢力・組織は大体タカ派だった。

 そいつらは近界民(ネイバー)をぶっ殺してえ奴らなわけだ。

 じゃあボーダーの中でも好戦派・武闘派の城戸司令派の窓口に誘った方が話が合うだろ」

 

「ああ、なるほど」

 

「城戸さんと相馬さんが城戸司令派。

 モットーは"良い近界民と協力して悪い近界民全部ぶっ倒そう"。

 最上さんと林藤さんが最上副司令派。

 モットーは"今は敵でもその内仲良くする道があるんじゃね?"

 忍田さん・風間さんが忍田本部長派。

 モットーは"とにかく何より街と人々の平和を優先"。

 甲斐さん・桐山さん・梅咲さんが甲斐総務部長派。

 "みんな若いし皆の自由意志と選択を尊重したいよね"。

 ……影響力強い旧ボーダー大人勢の分布は大体そんな感じだったはずだ」

 

「司令以外全員名前と顔が一致しないっすね。あ、カルビ焼けましたよ」

 

「……お前……」

 

「ボーダーは覚えないといけない人数が多すぎるんですよ、頼漢さん。

 将来的には覚えてもらいたいですけども、烏丸くんが覚えてないならしょうがないでしょう」

 

「まあ……気合いの入った群像劇にしすぎて登場人物覚えきれない漫画みたいだしな……」

 

 ワールドトリガーは登場人物を全て覚える必要はない。

 というか、覚えるのは難しい。

 かしこ。

 

「俺は忍田さんに大分世話ンなったからな。

 便宜上は忍田本部長派だ。

 源隊もそうなる。

 つっても心情的には城戸司令派で、立場的には最上副司令派なんだが」

 

「多方面に気を持たせるビッチ部隊ってわけっすね……大変な部隊に入ってしまった気がする」

 

「ビッチ部隊!?」

 

「ビッチ部隊!? いや、まあ、間違ってねえのかもしんねえけど……嫌だな……」

 

「2ちゃんねるが

 "スレが正確な最新情報をお届けするニュースサイト"

 みたいな紹介されちゃってるのとどっちが嫌っすかね?」

 

「どっちも嫌……!」

 

 ビッチ部隊源隊は、メニューを全部食い尽くしたので二週目に入ろうとしていた。

 

 頼漢がバカみたいに食べているが、嵐山と烏丸もよく食っている。

 

 育ち盛りの十代は、よく食うのである。

 

「流石にメニュー一周すると網がヤバいっすね」

 

「頼漢さんが乗せた肉の量が尋常じゃないからな……」

 

「あー。

 そういやよ。

 うちの肉焼き網掃除したけど、綺麗にすんのに二週間かかったわ」

 

「随分しつこい油汚れっすね。マジックリンでも歯が立たなそう。どういう脂?」

 

「頼漢さんは普通にその辺の野生の熊とか猪とか焼いてるからな……」

 

「マジすか。文明を手に入れた野生の化身じゃないすか」

 

「まあ掃除に入るまでに半年くらいかかったんだけどな。面倒くっさくて」

 

「部屋片付けられない男の言い分っすね……」

 

「いやいやいや、もっと速く掃除に入ってくださいよ!?」

 

「俺の部屋の隅っこに置いとく分には誰にも迷惑かけねえなって思ったらな……」

 

「生活力のせの字もない……

 桐絵でも呼んだらよかったんじゃないですか?

 親戚の付き合い程度にしか知りませんが、結構家事できるやつですよ。

 網くらい掃除してくれたと思いますし、頼漢さん相手だったらたぶんもっと……」

 

「バッカ野郎、年頃の女子を男の部屋になって呼べるか。

 桐絵も年頃だぞ? 変な噂が出来て好きな男に勘違いとかされたらかわいそうだろ」

 

「……」

 

「よるせん、彼女とか一回も出来たことなさそうっすね。

 部屋に呼ぶラインがなんか純真というか……どう……いや、なんでもないっす」

 

「ああん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランク戦は年に三度、それぞれ一ヶ月程度のインターバルを置いて行われる。

 つまり部隊の再編成と連携訓練に集中できるのは、その一ヶ月しかないということだ。

 

 この期間が、長いようで短い。

 人を探して、人材としての能力を値踏みして、チームに組み込んだ場合を想定し、お眼鏡に適ったら勧誘して、交渉して、仲間に入ってもらえなかったら他の人を探し、予定の人数が揃ったら連携訓練をして……という過程を、学校に通っている者がほとんどである十代のボーダー隊員の中で行うのは、至難の業である。

 

 人集めが苦手な人間であれば、まず一ヶ月では終わらない。

 ランク戦上位勢が新たにランク戦上位で戦える人間を探そうとすれば、当然時間もかかる。

 新部隊がランク戦上位で通用するレベルの部隊連携ができるかどうかは、誘ってからどれだけ密度の高い連携訓練をしたかによるので、そこでまた時間を食ってしまう。

 

 ある程度の段階で"今回はもう次のランク戦には間に合わないだろう"と割り切って、勧誘作業を打ち切り、二人か三人の部隊での連携訓練にシフトした方がいい場合もある。

 それもまた部隊再編だ。

 

 この限られた期間で部隊をどう再編するか、そういう面でも、上層部は各隊員の適性や能力を見定めている。

 

「次のランク戦シーズン来週からですけどオペレーター見つかりませんね。どうするんすか?」

 

 烏丸と頼漢もまた、二人で隊室でうんうん考え、『オペレーター枯渇時代』とまことしやかに語られる現シーズンをどう乗り切ろうか悩みに悩んでいた。

 

「どうしよっか……オペ無しで勝とうぜ! 京っち、お前のノルマは二点だ」

 

「いやオペレーション無しじゃキツいんじゃないっすか。

 前のここのオペレーター、麟児さんでしたっけ?

 記録見ましたけど凄かったですよね。

 オペレーターが作戦考えて戦闘員動かせるとあんなに強いんだなあって。

 隊員を戦闘に集中させられるオペが居ると居ないとじゃ天地だと思うんですけど」

 

「まあ……そうなんだよな……

 麟っち居なかった前回とか散々だったし……

 風間隊に三位奪われててもおかしくなかったし……

 准っちが吉報を持って帰ってきてくれるといいんだが……」

 

「新人漁りに行ってるらしいっすよね。

 でも新人オペで大丈夫なんすか?

 上位のランク戦は『終わらない難問ばかりの早解き問題集』って言われてるらしいですけど」

 

「オペは経験も大事だが、経験だけが大事なわけじゃねえ。

 センス。

 戦術眼。

 並列処理能力。

 パニック耐性。

 分析・解析を素早く終える処理能力。

 そういうのはオペになる前から抜きん出てるやつは抜きん出てるからな」

 

「なるほど……」

 

「だが、俺が求めんのはやる気だけだ。

 やる気があるやつなら信用できる。

 やる気さえあるんなら成長できる。

 やる気がありゃあどうとでもなる。

 准っちもそのへん分かっててオペ見定めに行ってくれてるはずだ」

 

「でもボーダーだと頼漢さんは貧乳が好きだから貧乳のオペ選ぶだろうって話になってますよ」

 

「えっ」

 

「仲良い女性みんな貧乳だよね~みたいな噂があるっすね」

 

「んだと……!? いや言うほどそうでもねえだろ! 千佳と桐絵くらいだろ!」

 

「まあ、そうかもしれませんね」

 

「誰だンなクソデマ流してんのは!」

 

「太刀川さんですね」

 

「クソが! 野郎! ぶっ潰してやる! あいつ今どこだ」

 

「ここで言うことじゃないかもしれませんけど」

 

「なんだ!」

 

「嘘です。噂は流れてませんし太刀川さんは噂流してませんよ」

 

「……オメー俺で暇潰ししてて楽しいか?」

 

「はい」

 

「クソが!」

 

 二人で話していると、隊室の扉が開く音がする。

 

 沢村響子が部隊を離れる時、最後の挨拶に来た時と同じパターンだ。

 

 ただし今度は、別れのためではなく、出会いのために、扉は開かれた。

 

「一人有望な子が見つかりましたよ!」

 

「ナイス准っち!」

「ナイス嵐山先輩」

 

「綾辻、自己紹介してくれるか?」

 

「はい。

 綾辻遥です。

 この度は嵐山さんのご厚意でオペレーターとして招かれて嬉しいです。

 ボーダーで一、二を争うほど有名な部隊でどこまでできるか分かりませんが……

 精一杯、一生懸命、粉骨砕身がんばるので、よろしくお願いしみゃす! ……します!」

 

「あ、噛んだ。やりましたねよるせん。美人の子ですよ。俺の一個上だ」

 

「お前そこで"やりましたね"とか言われるとな?

 俺が美女のオペレーター探させてたみたいな噂広がるからやめない?

 あ、噛んだことは気にすんなよ。俺の方がよく舌噛むからな、おあいこってやつだ」

 

「ひゃ、ひゃい」

 

「頼漢さんが舌噛むのは綾辻のとは別で口の中に血を溜めて使うやつじゃ……」

 

 源頼漢、高二相当。

 嵐山准、高一。

 綾辻遥、中二。

 烏丸京介、中一。

 烏丸は内心ちょっとだけ、自分の末っ子ポジが変わらないことに密かにがっかりしていた。

 

「どうスカウトしてきたんだ准っち。新人漁りに行ってたんだよな?」

 

「今日がオペレーターの必修修了日でしたからね。

 頼漢さんが目を付けてないところ……

 修了直後のオペの皆さんに声をかける方法でやってみました。

 そしたら志望者の女の子がものすごく集まってきたので……成績が一番優秀な綾辻を」

 

「柄杓で餌まいた釣り堀か?」

 

「手塚ゾーンですね。イケメンは強い」

 

「オメーも十分顔は強いんだよ京っち」

 

 嵐山に烏丸。

 次のバレンタインには、この二人に贈られたチョコで隊室の入り口が埋まる。

 頼漢にはその確信があった。

 源氏の直感である。

 そして"自分がこの二人ほど貰うこともないんだろうな……"という、悲しい確信もあった。

 これは男の直感である。

 

「イケメンパワーすげえ……

 嵐山と烏丸だけでボーダー女子のチョコ過半数以上集まんじゃねえのか」

 

「いやいや、集まりませんよ。なあ、烏丸くん」

 

「集めろって言われれば集めますけど。たるそうっすね」

 

「烏丸くん!?」

 

「准っち京っちは謙遜主人公にはなっても鈍感主人公にはなりそうにもねえな……」

 

「まあ、冗談なんすけども。本気にしないでほしいっすね」

 

「お前の冗談分かんねえ~~~」

 

「いや……頼漢さんが騙されやすいのもだいぶあると思いますけど……」

 

 嵐山と烏丸は顔だけでなく、優秀な男達である。

 オペが来たなら、時間を無駄にする気も無いようだ。

 テキパキ準備をして、トレーニングルームで『オペ付きの模擬戦闘』を行うための準備をしていく。声を掛け合うでもなく以心伝心に動き、各々の動きに無駄はない。

 だらだら駄弁りながら、その手はてきぱき動いていく。

 

 綾辻はそこに混じれず、三人がささっと準備を終えるまでその作業を見つめていた。

 

「言うほど頼漢さんの周りも女っ気ないってわけじゃないと思うんですけども」

 

「そうか? ま、トリオン1以下隊員の中なら俺は一番モテるからな……」

 

「物は言いようですね。他に誰も居ないじゃないですか」

 

「ボーダーの入隊試験はトリオン3以下足切りなんすけどね……」

 

「あったりめえだろ、トリオン2とか1とかの奴に戦わせられるかよ。

 今の技術じゃそいつら緊急脱出(緊急脱出)も積めねえんだぞ。危なくてしかたがねえ」

 

「「……」」

 

 何か言いたげな嵐山と烏丸がコンソールを操作し、最初にどの程度の動きを確かめるか、どんな仮想敵を出すかを話し合っていると、手持ち無沙汰になった頼漢に綾辻が話しかけた。

 

「あの……」

 

「おお、イケメンに釣られた遥っち。どうした」

 

「えっ……ああ。なるほど。私、そういうのではないですよ?」

 

「あん? そうだったのか。これは失礼した。

 ランク戦上位部隊に入るチャンスを見逃さない、志の高い奴だったか。悪いな」

 

「い、いえ……そうでもないんです」

 

「あん?」

 

「私、近界民(ネイバー)大きな侵攻の時に、貴方に、家族と一緒に助けてもらってるんです」

 

「……ああ」

 

「家族で合流するのに時間がかかって。

 それで、逃げ遅れてしまって。

 囲まれて、逃げ場も無くなって、そこで……助けてもらったんです」

 

「気にすんな。

 よくある話だ。

 ボーダーの奴らにはそういう奴がいっぱい居る。

 恩に感じることもねえよ。

 お前らの日常は奪われなくて当然だった。

 じゃあ、通りすがりのチンピラにお前らの日常が守られるのも当然だろ?」

 

「……いえ、恩は忘れません。

 貴方に恩返しして、家族を守って、街を守って……

 そういうことがしたいから、私はボーダーに入ったんですよ?」

 

「そっか」

 

「ありがとうって、一度も言えなかったから。

 たくさん貴方に言いたかったんです。助けてくれてありがとう、って」

 

「ハッ。『ありがとう』なんてのは俺の台詞だっての。ありがとうな、遥っち」

 

「え?」

 

「俺が守った奴らがボーダーに来てくれる。

 そいつらが世界を、人を、幸せを守ってくれる。

 俺が居なくても守ってくれる。

 俺が……かつて命をかけて守ったもんが、また別の誰かを守ってくれる。

 俺がかつて命をかけたことが間違いじゃなかったと、皆が証明してくれる。

 過去に失ったものにも意味があったって、俺に信じさせてくれる。

 そいつがよ……なんつーか……たまんなく嬉しいんだ。だから、ありがとうな」

 

 頼漢はとても優しく微笑んだ。

 

 傷だらけの微笑みだった。

 

 ただただ、感謝があった。

 

 

 

 

 

「お前も、准っちも、京っちも、俺が欲しかった未来の一部だ。来てくれて、ありがとな」

 

 

 

 

 

「お、なんか調子いい感じっすね、よるせん。

 仮想訓練はとりあえずたくさんトリオン兵出して見ましたけどいけます?」

 

「まあな。気合いが入ると調子良いんだわ、俺。

 この状態の俺はかつて『玉狛のトリオンが死ぬほど少ない方』の名前で恐れられたもんだ」

 

「『玉狛のトリオンが死ぬほど多い方』が誰なのか一発で分かりますね……」

 

『オペレーション、開始します。初めてなので、気付いたことがあればなんでも言って下さい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてランク戦初日。

 

「いいか、准っち、京っち、今回は一位狙いに行くからな」

 

「迅以外には対策練れた感じがしますが……まあ後は状況次第ですね」

 

「未来予知でしたっけ。玉狛第一ヤバいのが揃いすぎじゃないすか。東隊も大概ですけど」

 

『足を引っ張らないようにがんばります』

 

 彼らは絶望を知る。

 

「うわぁ……」

「うわぁ……」

 

「え?」

『これは……』

 

 上位が固まっているランク戦を憂いた上層部によるテコ入れ、ランク戦への試験的刺激として、『忍田隊』が結成。ランク戦に投入されるという事態が発生した。

 

 ボーダー最強、忍田真史。

 弧月使い最強、太刀川慶。

 射手新人最強、出水公平。

 元源隊得点王、沢村響子。

 玉狛第一にも、東隊にも見劣りしない、化け物のエレクトリカルパレードが参戦。

 ランク戦は地獄と化した。

 

 ランク戦初戦は、玉狛第一VS東隊VS忍田隊VS源隊というマッチング。

 その初戦は、伝説となった。

 

 そして、

 『新生ボーダー結成以来最もヤバい勝ち星の食い合い』

 『全員化け物か天才の蠱毒』

 『仮想戦闘フィールドの街が欠片も残らず消滅したのはあの時だけ』

 『明らかに戦略兵器と読心能力者が混ざってる』

 『全盛期の頼漢伝説が一番増えた時期』

 『ノーマルトリガーしか使ってないけどノーマルなやつがいない』

 『全員ランク戦出禁にしろ』

 などなど、無数の言葉で語られる、伝説のランク戦シーズンが、始まった。

 

 

 

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