BLEACHとワールドトリガーのクロスオーバーです。一護をワートリ世界に投入した世界観の物語であり、BLEACHキャラは一護のみ登場します。
これはまだ物語が始まる6年ほど前のお話。
「小南。いい加減いつもの調子に戻ったらどうだ?」
「いつもの、って何よ。私だけじゃない。皆、お通やみたいな空気じゃない」
ソファで膝を抱える少女、小南に大柄の少年、木崎が優しい声色で語り掛ける。
だが、小南の表情は変わらない。
彼女は視線を上げ、今もなお大人たちが会議を行っている部屋へじっと視線を送った。
二人が所属するボーダーという組織は同盟国であるアリステラ王国からの救援要請に応えるために先日援軍に赴き、そして多大な犠牲を被った。19人いたメンバーは10人がこの戦いで死亡し、残ったメンバーも大きな傷を負ってしまった。
心身共に傷ついた影響は大きく、今後も起こりうるであろう敵への対策で方針が揉める事さえある。かつては皆が仲睦がしく暮らしていたこの本部は、その面影さえ残っていなかった。
「皆、一生懸命に戦ったのに」
そう言って小南が再び視線を落とす。心境が簡単に晴れる事はない。特に幼い彼女は突然すぎた仲間の死を割り切れることができなかった。
「……ん? 小南、おい、どこに行く?」
その痛々しい姿になんて声をかけたらいいのか。
木崎が迷っていると、小南がいきなり立ち上がり、扉へと歩いていく。
「外の空気を吸ってくる。あたしたちが出れない間に敵が来ても困るからパトロールがてらね。レイジさんはついてこなくていいから」
このまま座り込んでいても心は晴れないと小南も察したのだろう。
口早にそう言ってボーダー本部を後にした。
小南は確かに腕の立つ隊員だが、今はあの大戦後で精神的な負荷がかかっている。何あってはいけないとすぐに木崎も後を追った。
「待って、レイジさん」
「なっ、迅!?」
だが立ち上がった木崎を同僚の迅が手で制する。
「追わなくていい。いや、追わないでくれ」
小南と同様に意気消沈していた迅。
彼の瞳には、ある未来が浮かび上がっていた。
★
「チッ!」
敵——大型の機械兵、モールモッドの攻撃を弧月で受け止めて力ではじき返す。圧力に押されてか、相手が距離を取ったものの小南は小さく舌を打った。
(力が、出ない……!)
小南は本来の力を出せていなかった。
ボーダー隊員が使う専用の戦闘体・トリオン体はトリオンという特殊なエネルギーから構成されるのだが、そのトリオン量が小南はまだ完全に回復していなかった。
原因は考えるまでもない。前日の同盟国との共闘の際にトリオン体を破壊され、トリオンを著しく失ったためだ。トリオンが回復するまでには一定の時間を要する。
そして十分でないトリオンのままではトリオン体を構成する事は出来ても従前の力を発揮する事はできなかった。
「それでも!」
しかし負けじと小南は弧月を横薙ぎに振るう。
こんなところで屈するわけにはいかない。
先の戦場で散った仲間の為にもと、小南は刀を振るい続けた。
「ッ!?」
だからこそ、目の前の戦いに集中し過ぎた小南は、背後から迫るもう一体のモールモッドに気づけなかった。
(もう一体いた!?)
前後からの挟撃。前からの攻撃は弧月で受けたとしても、背後からの攻撃は受けきれない。
シールドは、おそらく今のトリオン量では持ち堪えるのは難しいだろう。
「ぐっ!」
小南は突撃を中断。
前後同時に迫る刃をその場で受け流そうと弧月を構えた。
簡単な話ではない。だが成功させなければここで終わる。
なんとかしなければと、小南は集中力を高めて相手の動きに目を凝らした。
「あぶねえ!」
その時。
突如近くの草むらより一つの影が駆け抜けた。
「はっ? 馬鹿、誰!?」
いきなり聞きなれない声が響き、小南はその主の方へと視線を向ける。
真っ先に、オレンジ色という目立つ派手な色の髪の毛が目に映った。
先端が立ったツンツンヘアーの、小南と近しい年代と思われる少年が、小南へ向かって一直線に走り、そして彼女の体を抱きかかえて飛び込んだ。
「ふうっ。あぶねえ」
直後、小南がいた場所へ二体のモールモッドの刃が振り下ろされる。攻撃が不発に終わったのを見届けて、短髪の少年が一息つく。
「あ、あんた」
「てめえ! そんなコスプレして何やってんだ! なんだあの化け物は! 刃物なんて振りかざしてあぶねえだろうが!」
「コスプレ!?」
我に返った小南が文句を言おうとしたものの、彼女の声を遮ってオレンジ髪の少年が怒声をまき散らす。
事情を知らないものの、どうやら何かおかしな撮影か何かをやっているものと判断し、危険と考えて飛び込んだのだろう。ボーダーという存在も近界民という存在も世間一般には明らかにされていないのだから仕方ない話かもしれないが。
「馬鹿!」
悪態をつかずにはいられない。
近界民、それも二体も同時にしている間に一般人が飛び込んでくるなんて死にに来たようなものだ。
早くここから離れるように、小南が指示しようとして。
一体のモールモッドが少年の背後に迫る光景が視界に映った。
「危ない!」
「うおっ!」
小南が少年の肩をつかみ、後ろに押し寄せて代わりに前に出る。同時にシールドを展開、弧月を前に構えて防御の姿勢を取った。
だが。
彼女の守りを打ち破り、モールモッドの刃が小南の体を引き裂いた。
「お、お前……!」
「ッ」
「おいっ!」
小南の華奢な体が衝撃で宙に浮く。
すぐさま少年が走り出し、地面に叩きつけられる前に両腕で抱き留めて。
彼の腕の中で、小南の変身が解けた。
「……はっ? なんだこれ?」
「ちっ。トリオン体が、解けたのよ。あのデカ物、近界民って敵を倒すための変身がね」
「トリオン体? 近界民?」
「そう。あたしはボーダーっていうあいつらを倒すための人材ってわけ」
聞き覚えのない言葉の羅列に困惑する少年。
何一つ理解できていないようだが、それでもわかることがある。
「……悪かった。俺は、俺はただ……」
自分が飛び込んだせいで目の前の少女が傷ついたという事。
撮影でもなんでもなく、本当に敵と戦っていたのだという事。
ようやく理解が追いつき、少年はただひたすらに謝罪を続けるのだった。
「気にするなって、言いたいところだけど。残念だけど今の私じゃもうあいつらと戦えないの。このままじゃ、あたしもあんたも、あいつらに殺される」
「————」
小南の説明を聞き、少年は言葉を失い、拳を握りしめた。
逃げようにもあのような怪物はどこまでも追いかけてくるだろうし、こちらは何も手持ちがない以上、いずれ殺されるだろう。
何もできない無力さを察し、歯を食いしばった。
「……助かりたい?」
「! あるのかよ、ここから助かる方法が!」
「一つだけ、ある。他の仲間と連絡を取れればいいんだけど、生憎今のうちの技術じゃこの距離まで通信をつなげないし——一つしかない」
そう言うと、小南は希望にすがるように前屈みになった少年に、右手に持った刀の柄のようなものを眼前に突き出した。
「あんたがトリオン体——さっきのあたしのような姿になるの!」
「な……何、言ってんだ。そんなことが……」
「できる!」
突拍子もない提案に戸惑いを隠せない少年に、小南が喝を入れる。
「あんたはこのトリガーを持って『トリガーオン』と口にすればいい。そうすれば一時的にトリオン体という戦闘体に換装、あいつらと互角に戦えるはずよ」
「そんな事、できるのか……?」
「……多分。人によってはそもそもトリオン量がなければ戦闘は難しいし、あの敵は並の力じゃ勝てない。でも他に方法はないの。迷っている暇もね」
小南の鋭い視線が少年を射抜いた。
心臓の鼓動が早まる。突然異形の化け物と戦えと言われても恐怖を感じないわけがない。
だが、それでも時は待ってはくれない。
二体のモールモッドがタイミングをずらし、二人めがけて突撃してきた。
「……わかった。それをよこせ、ボーダー! テメーのアイディアに乗ってやる!」
迫る敵を見て、覚悟を決めたのだろう。少年は小南を地面におろし、右手を前に出した。
「“ボーダー”じゃない。“小南桐絵”よ」
「そうか。……俺は黒崎一護だ」
小さく笑い、名乗る小南に、少年・黒崎一護も名乗り返した。
トリガーが黒崎へと手渡される。それを手にした黒崎は大きく息を吸い、そして。
「トリガー、オン!」
トリガーを起動した。
その声に応じて速やかに体が戦闘用の仮の肉体・トリオン体へと換装される。
そしてトリオン体となった黒崎の右腕には先ほど小南も使用していた弧月が握りしめられていた。
相手が戦闘態勢に入ったのを確認したのか、先行するモールモッドが刃を振り上げ、勢いをつけて黒崎へと振り下ろす。
まともに食らえば一撃で敵を戦闘不能に追い込む切れ味を持った刃。
その一撃を、黒崎は一刀両断に切り捨てた。
「なっ」
驚く小南を他所に、黒崎は返す刀でモールモッドの体を真っ二つに叩き割った。
続けてもう一体のモールモッドが突撃してくるものの、黒崎は弧月でしっかり受け止める。
(嘘でしょ。モールモッドは敵の中でも最高の硬度を持つというのに、それを一撃で切り捨てた……?)
敵の中でも最高の硬さを振るう刃が特徴であるのがこのモールモッドだ。
その相手を、たった一撃で切り伏せた。
信じられない荒業に小南が息を飲む。
「近界民だがなんだか知らねえが、これ以上好き勝手なんてさせねえ!」
驚く彼女を他所に、黒崎はモールモッドの巨体をはじき返すと、勢いよく地を蹴り、弧月を上段から振り下ろす。
二体目のモールモッドも弧月によって一撃で地に沈む事となった。
(トリガーの威力はトリオンによって差が出るって聞いた事はある。でも、こんなに切れ味のある弧月なんて見たことがない!! こいつ、一体何者なの……!?)
あっという間に戦闘が終了した。初めて戦いとは思えないほど圧倒的な威力を見せつけた黒崎の姿に、小南は目を奪われた。
「——ふぅ。終わったぞ、小南。色々と聞かせてもらうぜ。さすがにさっきの説明だけじゃ全然頭に入ってこなかったからな」
「そう、ね」
弧月を鞘にしまい、黒崎がゆっくりと小南の元へと歩み寄る。
そして視線を合わせると改めて説明を求めた。
このような事態に巻き込まれたのだ、当然の反応と言える。
さてどこから説明したものかと、小南が頭を抱えていると。
「そういう事なら、うちの本部に来てもらえないかな」
明後日の方向から小南が聞きなじんだ声が響いた。
「誰だ……?」
「迅!」
「なんだ、知り合いか?」
「そうだよ。一応駆け付けたけど、やっぱり大丈夫だったね。初めまして、小南を助けてくれてありがとう」
そう言って少年、迅は深々と頭を下げた。
この彼ら彼女らの出会いが、ボーダーという組織にとって大きな分岐点となっていくのだった。