Monster Hunter World HS:C R&A 作:Luly
原作:モンスターハンター
タグ:R-15 オリ主 オリジナル設定 オリジナル展開 異世界 モンスターハンターワールド:アイスボーン MHW:I R-15は保険
今作を通したコンセプトは簡単に言えば“もしもモンスターハンターの世界と現実世界がゲームを通じて繋がっていたのなら”。
1人のプレイヤーが“モンスターハンターワールド:アイスボーン”を起動するところから物語は始まる。
感情暴走妄想狩人Lulyによる作品。
企画としてはモンスターハンターという作品への愛を表す企画ではある。
…が、モンスターハンターという作品への愛を詰め込んだかと言われると“そうではない”と答えるだろう。
どう思ってこの作品を書いたか、と言われると“書きたいものを書いた”としか言えないのである。
作者にとって、モンスターハンターという作品への愛とは一体なんなのか。探しているところではあるが、この作品がその答えを示しているのかもしれない。
筆が進むままに、筆の走るままに書き上げた一作。
執筆開始後、約一ヶ月。かなりの時間を使って書き上げたもの。
…どうか、最後まで読んでいただけると幸いです。
…書き上げた動力源が、愛なのかは分かりませんが。
この企画に参加してから、ほとんどの趣味に手をつけることができませんでした。
間に合わせないといけないという気持ちもあったでしょう。
…だけど、殆どの思考がこの作品の続きを構成するのに支配されるのは明らかにおかしい。間に合わせる、という思いだけでは私はここまでなりません。
…この場で長く語っているのもアレですから、本編へと参りましょう。
65000字超の長文、失礼いたします。
『』:テキスト
〈〉:機械越しの音声
はじめに
この話はフィクションです。登場する人物、設定は実在するものとは一切関係ありません。
所々何か言いたくなるところはあるかもしれませんが、まずはこのお話を全部読み切ってからでお願いします。感想欄はもちろん、twitterなどでも文句、不満、その他諸々は受け付けます。(メンタルガラスですけど全部受け止めましょう)
三行分一気に改行されている場所は時間が経過していることを示し、五行分一気に改行されている場所は1日以上時間が経過していることを示します。
またフォントが明らかに違う場所───
サンプル
上のようなフォントになっている場所はモンスターハンターの言語となっています。
2020年1月10日───
この日、私は1つの運命に出会った…のだと思う。
モンスターハンターワールド:アイスボーン、steam版発売。
昔から、“モンスターハンター”というゲームのシリーズは男女問わず多くの人に愛されていると聞いている。
…だけど、私はこのゲームに興味を持っていなかった。私は…ゲームが下手だと、ほとんどのことに適性がないと知っていたから。
興味を持たなければ、私は自分から何かをすることはない。…そんな性格だって、分かっていた。
だけど今。私はゲーミングパソコンの前に座って、購入したモンスターハンターワールドを始めようとしている。…正確には、アイスボーンだとおもう…って、友達が言ってたけど。
「…」
きっかけというのはふとしたことで。友人がやっているのも一つのきっかけ。そして、馴染みの配信者さんがやっているのもきっかけだった。
いつの間にか、私はこのゲームに強い興味を抱いていた。私は興味を持たなければ何かをすることはない。だけど、一度興味を持ったならば…やらなければずっと気になってしまう。…それが、私だった。
「…始めよう。」
ヘッドセットを付け、ゲームを起動する。…確か、ゲームを始めるとすぐにモンスターとの戦闘があると誰かが言っていた。事前情報なんて何もないけれど。そこまで強くないモンスターならいいな、と思いながら起動しきるのを待つ。
| Log in ユーザー名: パスワード: ok cancel |
|---|
出てきたログイン用の画面にあらかじめ登録しておいたユーザー名とパスワードを打ち込む。それは確かに承認され、ゲーム上の注意などが表示される───
今現在、私のキャラクターは拠点となる場所にいる。結論から言おう。
ログインしてからキャラクターを動かせるようになるまで2時間かかった。
キャラメイクがどうしても納得できなくて最終的に妥協したけども。誰が言ったか時喰竜“キャラメイク”…最初のモンスターってこれなのかな…
ゲーム内の私がこれから向かうのは新大陸という地…らしい。私は乗っていた船から知らない女性と共に落下し、移動や隠密、痕跡の収集方法なんかの説明の後にこの“調査拠点アステラ”という拠点まで向かった。
…“受付嬢”、という名らしい彼女の“武器もないのに戦ってはいけません”、という言葉には“その腰の短剣は?それって武器なんじゃないの?”と思ったけれど。
草むらに隠れた時は“草むらに隠れた程度で隠密になるの?”とは思ったけども。
…ダメだ。今まで私がやってきたゲームとは勝手が違う。
このゲームはこのゲームだ。ゲームにはゲーム固有の仕様がある。
固定観念を捨てた方がいいだろう。友達の話では“今までのシリーズとはシステム的に大きく違いがあるから、初心者でも…というか、初心者の方が違いに戸惑わなくて済むだろう”、っていうことだったし。
…現時刻11:00。朝から始めてたからまだ時間はある。とりあえずは、メインのクエストを進めるとしよう。最初は───“ジャグラスと古代樹の森”。
「…よし」
…このゲームシリーズで私が受ける、最初のクエスト。せめて倒されないように頑張ろう。
「ふう…」
なんとか、ジャグラス7体の討伐は終わらせた。
〈ジャグラスの調査、ご苦労だったな。〉
『総司令:ジャグラスの調査、ご苦労だったな。』
〈なるほど、生息域に変化は見られないが、数自体は増えていた、と。〉
『総司令:なるほど、生息域に変化は見られないが、数自体は増えていた、と。』
総司令、と名乗った人の声が聞こえる。今は、クエスト終了画面が終わってアステラに帰ってきたところ。
〈危険なのは、ジャグラスだけじゃない。〉
『調査班リーダー:危険なのは、ジャグラスだけじゃない。』
〈この所、草食竜のケストドンもえらく気が立っている、という報告があるんだ。〉
『調査班リーダー:この所、草食竜のケストドンもえらく気が立っている、という報告があるんだ。』
「ケストドン…?」
新しい名前が出てきた。…いや、そもそも私は知識が全くないから全てが新しいと言えば新しいのだけど。
〈ふむ…やはり、ゾラ・マグダラオスの影響か。〉
『総司令:ふむ…やはり、ゾラ・マグダラオスの影響か。』
ゾラ・マグダラオス。確か、私達が追っていたモンスターの名前、だったはず。
〈よし。では、次の5期団の任務はケストドンの生息域調査と討伐だ。〉
『総司令:よし。では、次の5期団の任務はケストドンの生息域調査と討伐だ。』
〈俺も一緒に行くよ、心配だからな。〉
『調査班リーダー:俺も一緒に行くよ、心配だからな。』
そこまで手伝ってくれなかった調査班リーダーが言っても説得力が…そうこうしてるうちに、会話が終わってボイスチャット使用可否の選択になる。…当然拒否。
ログインボーナス、というのが受け取れるらしく、指定されたものを押して開く。…激運チケット?MHW:I 発売記念セット?…??よく分からない…
「…うん?」
ふと画面の右側を見ると、何かの文字が書かれていた。…確か、チャット…だっけ。
『星の船においで!私はそこで待ってるから!』
…誰だろう。というか、星の船とは何だろう。そう思って、チャットログを開く。…まぁまぁ来てた。
あれ、あなた初心者?
…だよね。多分。ハンターランク1ってことは多分そう。
…来るかどうかは、最終的にあなたに任せるけど。
もしも、この世界を深く知りたいというのなら。
星の船においで!私はそこで待ってるから!
あれ、知らない?
もしかしてここは完全に初めて?集会エリアも分からない?
う~ん、そっか。え~っと…
…今、どこにいるの?アステラ…だよね?
あ~…わかった、言葉でだけど案内するからその通りに動いて。まず、近くにリフトって見えない?
リフト───確かに、近くにある。…さっきは立っていなかった誰かがいる。
「見えますけど…」
と、肉声で言ってしまってから慌ててチャットを打ち込む。
ん、じゃあそのリフトを調べて行き先を決定してほしいの。
うん。私のいる星の船…“集会エリア”に来てもらえるかな?
言葉の通りにリフトの前に向かう。リフトを調べる前に、前に立っている人に話しかける。
『イベント受付嬢:5期団の皆さま、お疲れ様です。』
『イベント受付嬢:ただ今より集会エリア「酒場 星の船」をオープン致します。』
星の船。さっき、チャットの相手が言った言葉だ。
『イベント受付嬢:集会エリアとは、さまざまなハンターと出会い、親睦を深める場でございます。』
『イベント受付嬢:場所は、あの天高くの船の上…。星を目指す船の甲板にあります。』
『イベント受付嬢:そこに行くには、リフトで「集会エリア」を選んでくださいませ。』
『イベント受付嬢:どうぞ、お気軽にお越しくださいませ。』
そうして会話が終わる。…なるほど、集会エリア“星の船”。どうやら、マルチプレイ用の場所みたい。
「…行ってみようか」
少し悩んでからリフトにアクセスする。…あまり私はマルチプレイはしない方だけど。呼ばれたならたまにはいいかと思いつつ。
リフトに乗るとムービーが入って、チュートリアル。そこまで終わって、集会エリアなる場所を自由に動けるようになった。
先程の…イベント受付嬢、だったか。彼女に似た人もいて、それ以外にも何人かいる。適当にその場所を探索してみる。
…そして、見つけた。
一際大きな存在感を放つ、三つ編みの白い髪…いや、銀の髪?…どちらでもいいかな。ともかく、そんな女性。見たことない装備だけど…恐らくはこのゲームの中で手に入る装備なのだろう。…このゲームの髪形に三つ編みなんてあったっけ。
ふと、何かに気がついたように彼女がこちらを振り向いた。
『こんにちは。緊張しないでいいよ?』
彼女がチャットにそう打った。
『貴女は…?』
『私?私はLupus…ルーパス。オトモの名前はSpilis…スピリスね。…貴女は?』
入力が早い。私の速度では追いつけない。わた、と打ったところで既に次の言葉が放たれる。
『あ、焦らないでもいいよ?時間はまだあるんだし、ゆっくりでいい。ゆっくりと貴女の言葉を聞かせて?』
『私は…Sophi、と言います。えっと…“ソフィ”、と読みます。』
『ソフィ、ね?ん、分かった。ギルドカード交換、ってできる?』
ギルドカード…?
『…ええっと。まずはメニューを開いて…どこかにギルドカード関連の物があったと思うんだけど。』
そう言われてメニューを開く。これ、だろうか。送る対象は…Lupus。送信。
『あ、来た。ええっと、私のも送るね。』
その言葉と共に私の方にも表示が出る。私のギルドカードと見比べてみる。
Lupus…ハンターランク999、マスターランク6。
Sophi…ハンターランク1。
───なんだ、このレベル差は。彼女に比べれば、私なんて雑魚中の雑魚ではないか。
『何かしたいものとかはある?手伝うけど。』
『いえ、そんな…これだけ差が開いていると流石に…ルーパスさんの迷惑になりそうですし…』
『大丈夫だよ、私誰かを手伝うのとか好きだし。』
そういう問題なのだろうか。
『いいからいいから、クエスト選んできたら?』
「え、えぇ…」
大丈夫、なのだろうか。彼女も自分のクエストがあるはずだ。そう思いつつ、私はクエストを受けた。
『…“ケストドンは不穏と共に”…か。これは私無理だね』
『え?』
『任務クエストは一部私が手を出せないものがあるの。私が、というか他の人が。だから…そうだね、救難信号が出せるようになったらメニューを開いて拠点に帰還してほしい。ちょっと手間はかかるけど、そうすれば私も参加できるから。えっと、ソフィの武器は…あれ、珍しい。狩猟笛なんだ。…まあいいや、待ってるから行っておいで。』
システムが色々面倒なんだなぁ…とか思いながら私はクエストに向かった。…Lupusというキャラ名を使っている他人を待たせるんだから、早めに終わらせなきゃ。そう思っていたら、チャットが飛んできた。
『あ、別に“早く終わらせないと”、とか考えないでいいからね。ゆっくりと、自分のペースでやってきなさいな。』
…見抜かれていたみたい。
side Lupus
私はソフィと名乗った彼女がクエストに出発するのを見守っていた。
「……よかったんですにゃ?」
スピリスが声をかけてくる。
「何が?」
「彼女の補助ですにゃ。歴戦のハンターが初心の方の方向性を決めるのはどうかと思いますがにゃ…」
「あぁ…なるほど」
スピリスの言うことも最もだ。初心者を歴戦が補助しすぎたことによって振る舞いが酷くなった例もある。
「……まぁ、旦那さんでしたら大丈夫だとは思いますがにゃ。」
そう言われ、私は自分のギルドカードに似たものを見た。私のほぼ全ての狩猟記録が記録されているもの。ギルドカードではなく、ギルドパスと呼ばれるけど。
ハンターネーム:Lupus Felt
性別:女
所属ギルド:龍歴院
出身:ベルナ村
統合ハンターランク999
統合マスターランク999
モガの村派遣:ハンターランク999
ユクモ村派遣:ハンターランク6
ドンドルマ派遣:ハンターランク999
メゼポルタ派遣:ハンターランク7
メゼポルタ派遣:Gランク999
メゼポルタ派遣:Gスキルランク999
龍歴院:ハンターランク999
新大陸派遣:ハンターランク999
新大陸派遣:マスターランク
「…これは、流石に
よく“お前の記録はぶっ飛んでる”って言われる私の
「さてと、色々準備して待ちますか。」
私は星の船に設置してあるアイテムボックスから今回使うものの選択を始めた。
side Sophi
あれからしばらくプレイし続けて、ハンターランクは2になった。武器の強化や防具の生産、防具の強化にクラッチクローの使い方。探索に行って帰ってこない私を心配してくれて。アンジャナフっていうモンスターを倒そうと悪戦苦闘してたって話をしたら笑われた。
『な、なんで笑うんですか!』
『あははっ、ごめんごめん……えっと。ソフィとは違う子も同じことをしたことがあるの。二つ結びの黒髪の女の子なんだけどね。彼女もソフィみたいに装備が揃ってない状態でアンジャナフを倒そうとしてたんだよね。彼女は弓だったけど。』
『二つ結び…』
ツインテール、ということだろう。その人も同じことをしようとしてたのか。
『ダメとは言わないけどね。私は好きだよ、そういうの。…で、どうだった?アンジャナフの強さは。』
『…すごく、強かったです。』
『まぁ、その装備だとね…狩猟笛の必須スキルもないし…』
『必須スキル…ですか?』
『…あー…ちょっと待ってね、ええっと…』
そこからは必須スキルの話になった。必須スキルとは武器によってつけた方がいいスキル達のこと。
話を聞く限り、私が持つ“狩猟笛”という武器では“笛吹き名人”、“弱点特効”、“達人芸”、“挑戦者”、“体力増強”。
彼女の持つ“弓”では“弓溜め段階解放”、“会心撃【属性】”、“弱点特効”、“体術”、“散弾・剛射強化”。
調査班リーダーが使っている“大剣”では“弱点特効”、“無属性強化”、“集中”、“挑戦者”───
などなど、色々な構築があると聞いた。
『まぁ、自分が好きな構築にすればいいと思うよ。私の場合は見た目重視だから、スキルなんて揃ってないし。』
そういう彼女の装備はブロッサムシリーズというらしい。正直、私のハンターシリーズとは60の防御力差がある。だが、教えてもらった相手の装備スキルを見る方法を使ってみると確かに先程教えてもらった弓の必須スキルは一切入ってない。
『……あ。』
『?』
『すみません、私これで落ちます。時間結構遅くなってるので…』
既に時間は18:00を回っている。というか、私はご飯も食べずに10時間もこのゲームをやり続けていたのか。
『あ、はーい……そだ、ソフィ』
『はい?』
『ここの集会エリア番号、覚えていったら?私はいつでもここにいるから、気が向いたときに来てくれればいいよ。』
集会エリア番号…確か、メンバーリストから見ることのできるこの集会エリアを示す識別コード。一応、メモを取ってルーパスさんに挨拶してからゲームを終わらせた。
「みゃー」
飼っている猫が鳴く。…空腹か。
「待ってね、今ご飯あげるから…っとと」
足がもつれる。…ずっと正座だったから、足がかなり痺れていた。
「みゃー…」
「…あっ、ちょっ、やめ───」
ちょん
「───あ゛あ゛あ゛っ゛!!」
猫が気ままなのは分かるけど痺れている足に触れないでほしかった。
モンスターハンターワールドを始めてから、それなりの月日が経った。
“ハンターランク”とは“レベル”ではなく、ただただ
これが何を指すかというと、ハンターランクが高いからといって決して強いハンターであるということではない、ということだ。つまり高いハンターランク=強いプレイヤーという等式が成り立たない。…数学でもないのに等式というのは変な感じもするが。
とはいえ、私からすればルーパスさんを含めた先輩ハンターなど全員強いと思ってもいるのであまり意味はないといえばない。
…話をゲームへと戻そう。
ログインが少し不定期にはなったものの、私のハンターランクは既に8となり、防具もウルムーシリーズと最初に会った時のルーパスさんの防御力を越えていた。
…まぁ、その彼女はデスギアシリーズという装備を纏っていたものの。
何故高い防御力のままで来ないのか、と聞いたことがある。既にマスターランク24に到達している彼女ならば、もっと高い防御力や性能を持つ装備も作れるはずだろう、と。武器が弱いのは理由がなんとなく分かるとしても、防具まで弱いのはよく分からない。
『私が高い防御性能で来ない理由かぁ…う~ん…なんて言っていいか分からないんだけど。こんなハンター業でも、楽しんでるんだよね。モンスター達と触れ合うことを。』
『モンスターと…触れ合う?』
『うん。なんていうか…意地と意地のぶつかり合い?みたいなのが結構好きだったりするの。うまく表現できないんだけどさ。』
私にはなんとなく理解できた、かもしれない。確かに今よりも遥かに強い武器や防具を手に入れて、今苦戦して相手を倒すのも容易になるだろう。…だが、それは“楽しい”か?ただの“作業”になってしまわないだろうか?
…そんなことを考えたまま止まっていると、ルーパスさんからチャットが飛んできた。
『考え方なんて人それぞれだけど、“最適解”以外を許さない人だっている。私みたいに相手に合わせた強さを使う人だっている。…その辺は、その時々に対応させないとね。』
最適解…それは必須スキルを全て積み、かつ生存できること…だろうか。…私には、無理な考えだ。私はどんなゲームにおいても見た目に拘る。今ウルムー一式なのもそれが理由なのだし。
『さて、今日は何に行く?クエスト貼って良いよ。』
私は“怒涛のカンタロス祭り”というクエストを貼った。私がカウンターから離れると、ルーパスさんがカウンターにアクセスして受注する…がいつものパターン。
「…?」
いつもだったらすぐに受注され、ルーパスさんも動き出しているはず。…今回は、ルーパスさんがフリーズしたかのように固まっている。
『ルーパスさん?』
私がチャットを流すと同時に、ルーパスさんも動き出す。…なんだろう。いつもよりも少し挙動不審な気がする。
そんなことを考えているうちに準備完了になり、私達はクエストに出発する。
───怒涛のカンタロス祭り
クエスト達成条件は“カンタロス”14匹の討伐。
小型モンスターであるため、大型モンスターよりは楽だろう。
“ソニックホルンIII”への強化に“カンタロスの羽”なるものが必要で、それを取りに来たのだが……
「……」
カメラを回し、背後を見る。後ろをついてくるルーパスさんの姿が見える。
彼女が後ろをついてくるのはいつものこと、なのだが……
……遠い。いつもより距離が開いている。
『ルーパスさん?遠いです。』
『あっ、ごめん!…ごめん』
そうチャットが来たかと思うと、ルーパスさんは私に近づいてきた。…密着するレベルで。
『……今度は近いです、ルーパスさん。…遠いよりはいいですけど』
『……ごめん』
私の言葉が効いたのか、ルーパスさんは少し離れて歩いた。…少し言い過ぎてしまっただろうか。
そうこうしているうちに、カンタロスの現れるエリアにやってきた。今回持ってきたのは“アイアンホルンI”。友達曰く、あるスキルがあればどんな武器を使っていってもいいらしいのだが、生憎と私はそのスキルが発動する装備を持っていない。そのため、弱い武器を持ってきたのだ。とりあえず“自分強化”を癖で吹き、カンタロスの討伐にかかる。
「…ん?」
視界に入る中にいたカンタロスを討伐し、剥ぎ取ったあと、チャットが目に入った。
『い、いやぁ…!来ないで…!』
チャットなんてルーパスさんとオトモくらいだ。ふと見渡すと───いた。カンタロスに追い詰められかけているルーパスさんが。
…まさか、と思い、ルーパスさんに襲いかかろうとしているカンタロスを討伐する。
『あ、ありがとう、ソフィ…』
『……虫、ダメなんですか?』
即座の応答はなかった。けど、少ししてチャットが流れてきた。
『うん…先に言っておけばよかったかな……私、昔から虫がダメなの。クエストの時はいつも気を強く保っておけば大丈夫なんだけど。…今回はうまく行かなかったみたい。』
意外、というのも失礼だろうが…本当に意外だと思ってしまった。やはり、いくら強くとも苦手なものはある…ということか。
とりあえず、ルーパスさんのためにも早々に終わらせた方がいいだろう。…正直、こういうときの彼女の声を聞いてみたいと思ってしまったがそれは流石にここまで優しくしてくれている彼女に悪いと思う。
とりあえず、マップに表示されているカンタロスの場所に行き、できるだけ早く倒してクエストを終わらせた。
…報酬を気にしないのならば、拠点に帰還すればよかったというのは報酬画面で気がついた話だ。
唐突だが、私はちょっとした縛りプレイをしている。
具体的に言うと、防衛隊武器の使用禁止、ガーディアンαの使用禁止、やむを得ない場合以外捕獲禁止、防具見た目重視、攻略時点での全狩猟笛作成。
防具見た目重視は縛りになるのか、思うだろうがスキルが縛られる以上立派な縛りだろう。
…私がしている縛りではあるのだが、それに彼女を付き合わせてしまっているのがやはり申し訳ない。
『どうしたの?動きが止まってるけど。』
ルーパスさんがチャットで聞いてくる。先程のカンタロスからは復帰したようだ。
『…あの』
『ん?』
『どうして…ここまでしてくれるんですか?』
彼女はどうしてここまでしてくれるのだろう。そう思って、聞いてみた。
『…ん~と?』
『どうして、ここまで助けてくれるんですか?そこまで強くもない、この私を…迷惑かけてばかりだと思われる私を。』
『…あ~…なんとなく言いたいことは理解』
次のチャットが出るまで少し間があった。
『うまく言えないんだけど…この世界の魅力を知ってほしい、みたいな?』
『この世界の…魅力?』
『うん…まぁ、下位だとまだよく分からないだろうから、上位に上がった時にでも。』
上位…友達の話では今私がいる難易度よりも上、全モンスターが今より強くなるという難易度。…そこに、私は行けるだろうか。
『まぁ、考えるのが面倒なら私の趣味だと思っていてくれればいいよ。』
趣味…か。
その日は結局それ以上クエストに赴くことはなく、ゲームを終了させた。
……そういえば。
このゲームは、公式───つまりはカプコンからとある拡張パッケージが配布されていたはずだ。
ふと、部屋にある
「……使ってみようかな」
世界の魅力。…それは、多分───
「……よし。」
私はパソコン前から立ち上がる───と、同時に痺れた足が原因で倒れ込む。
「……初日もこんなことしなかったっけ、私。」
猫は…来ない。痺れが収まるのを待ち、もう一度立ち上がった。
「スタン取ったよ~」
〈ナイス~…っていうか、ほんと…もうすっかりカリピストだよね、
そう言って私の名を呼ぶのは私の友達。
“
余談だが、私のキャラクター名である
私のハンターランクは10へと到達し、次はゾラ・マグダラオスの誘導だ。
ゾラ・マグダラオスは火の古龍、ということで水属性の狩猟笛である“アクアバグパイプIII”の素材集めを友達───
“
その梦香が操るキャラクター───“
〈そろそろ捕獲できるけどどうする~?討伐する?〉
「討伐で行くよ?もちろん。」
〈りょ~かい。おっと、スタン切れたけど怒り解除されてるからあたしぶっ飛ばし入れるね~〉
相手は梦香なので通話アプリを使ってボイスチャットにしている。梦香は宣言通りジュラトドスの頭に飛び付き、ジュラトドスを壁にぶつけた。
〈ダウンしたよ~〉
「攻撃力UP【小】と泥軽減&水場・深雪適応かけ直すね。」
〈はーい〉
梦香には先に攻撃しててもらい、私は揃えてあった“攻撃力UP【小】”旋律と“泥軽減&水場・深雪適応”旋律、“響周波【打】”旋律を演奏する。重ね掛けまでいれてジュラトドスの頭に直撃させる。スタン…はまだ遠いけど、既に弱って足を引き摺っているからスタン前に終わりそうだ。
今回私が持ってきたのは“ハードボーンホルンII”。火力重視、というわけではなく正直泥が面倒だったからだ。見た目も嫌いではないし、使う理由としては十分。
〈…あ、眠った。ぶっ飛ばしいれるね~〉
梦香がそう言う。…スリンガー弾、補充したのだろうか。
〈引っ搔いて、ぶっ飛ば───スリンガーの弾がねぇ!!〉
その言葉に小さく笑って私も頭に飛びつく。それを見て結女 夢が離れる。それを確認してからぶっ飛ばし。
〈…ごめん、恵〉
「大丈夫、私持ってたのスリンガー着撃弾だったから」
そう言ってから頭に一撃入れるとクエストが終わる。…どうやら、結構ぎりぎりで耐えてたみたいだ。
「
〈う~…取られた。…っていうか地味にLA取るの上手だよね、恵〉
「偶然だよ偶然」
〈偶然なのは知ってるけどね…恵の手元見てたことあるけど、体力調整とか考えてないもんね〉
実際、体力など考えないで戦っているのは事実だ。
〈…それにしても、やっぱり“Knowledge Abyss Palace Keeper Observation Nightmare”製のゲームは楽しいよね。こういうLA対決とかにもよく使えるし。〉
「…そうだね。」
一瞬考え込んでしまった。それもそうだ、カプコンの正式名称なんてあまり聞かない。
“Knowledge Abyss Palace Keeper Observation Nightmare”。それぞれの頭文字をとって“
ちなみにLA対決というのはどれだけラストアタックを取ったか。対モンスター戦が多いゲームで私達がやってる…まぁ、一種の遊びみたいなものだ。カウントはマルチ時に限り、カウントの集計は私達ではない第三者、このLA対決に参加していない友達がやってくれている。
〈恵、必要素材揃った?〉
「うん、揃った。ありがと、梦香。」
〈いいよいいよ、お金は足りる?〉
「えーっと…」
拠点アステラに戻った私は加工場に向かう。4000z…足りる。間違いなく。
「…できた!」
〈おめでと。…次、どうする?〉
「…ん~と…狩猟笛もう集めきっちゃったんだよね」
アクアバグパイプIIIが最後の狩猟笛だった。
〈ゾラ行く?それとも別武器作ってみる?〉
「…別武器作ってみたいかも。」
〈りょ~かい、じゃああたしも久しぶりにガンス以外担ごうかな?〉
「梦香は何使うの?」
〈チャアク…チャージアックスかな。恵は?〉
「私は…弓かな」
〈弓かぁ…最強クラスの武器種…恵が使うとなると怖いなぁ…〉
そんな梦香の言葉に疑問を覚えた。
「弓って弱いんじゃないの?攻撃力低いし…」
初期の弓は攻撃力が2桁だ。他の武器は3桁なのに弓のみが。ルーパスさんはかなり強かったものの、それはルーパスさんの実力だと、私は思っていたのだが…
〈……あー…なるほど、さては“武器倍率”とか知らないね?〉
「武器倍率?」
〈…うん、その反応は知らないね。ええっと、武器倍率っていうのは…簡単に言えば、実際の攻撃力のこと。んと、今作の初期大剣“バスターソードI”の攻撃力って384。初期弓“鉄弓I”の攻撃力は96なんだけど。これ、表示されてる攻撃力=実際の攻撃力じゃないんだよね〉
「そうなの?」
〈そうなの。…説明私苦手なんだけど…ん?〉
ポコン、という音がした。
〈…おはようございます…恵さん、梦香さん…〉
〈あ、茉莉〉
「おはよ、茉莉」
“
「寝起き?」
〈…はい。本気で寝起きです…昨日モンスターハンターポータブルやり過ぎたので…〉
〈そういえばなんか今日の2:00まで配信してたよね~〉
〈見てたんですね…いつもありがとうございます〉
「頑張るよね…ほんと。私に実況は向いてないから…」
〈あはは…〉
彼女はゲーム実況者。最近はレトロゲーム…と言っていいのか、少し前のゲームを主に配信や実況で取り扱っている。ごくまれにマルチプレイで救援を頼まれたりもするものの、私はあまりそういうゲームが多くなく、梦香かもう1人が主に救援に行く。…彼女もモンスターハンターワールドのsteam版は持っているから、私が救援に行くことはできなくはないものの…私の方が遥かに弱いため、救援には行かないようにしている。
〈…っと、ワールドやってたんですね。完全寝起きだったので全く見えてませんでした…〉
〈あ、そうだ茉莉。武器倍率に関して説明できる?〉
〈武器倍率、ですか?〉
〈ほら、ワールドって実際の攻撃力での表記じゃないでしょ?恵が表示されてる攻撃力を見て弓が弱いって言ったから…〉
〈あぁ…そういうことですか〉
そこから少し茉莉の解説が始まった。
武器倍率───表示されている攻撃力を武器ごとに設定されている値で割ると出る“実際の攻撃力”。
大剣ならば4.8。狩猟笛ならば4.2。ガンランスならば2.3。弓ならば1.2…といった値を割れば出る武器倍率。
それを当てはめれば、大剣の384は80。弓の96は80。…同じ、攻撃力。
故に、実際の攻撃力だけで見れば強い弱いはなく、その武器の特徴やプレイヤーの技量によって武器全体の強さは変化する…ということらしい。
〈…っと、こんな感じで大丈夫ですか…?〉
「あ、ありがとう。…そっか、本来の攻撃力って違うんだ…」
そう言っているうちに茉莉の方でも起動したのか、茉莉のキャラクター───“
〈さ、とりあえず恵の弓作成の素材集めようか。何が足りない?〉
「えっと…“水袋”がまず足りない」
その言葉に梦香が固まった。
〈…水袋?〉
「うん。」
画面共有操作をして2人にも見えるようにする。
〈えぇ…今日、ジュラトドス7体狩ったよね?全く出なかったの?〉
「うん。」
〈…物欲センサーにでも引っかかったのかな…〉
「…それは、ちょっと辛い」
とりあえず私達はジュラトドスに行って───ちょっとしたことがあって、終わった。
いつもの集会エリア。…珍しく、ルーパスさんはいない。
「…どこに行ったんだろう。」
NPCに自由に質問ができて、NPCがプレイヤーの行き先を知っていたりすれば聞くこともできるのだろうが…このゲームは定型応答NPCだ。そもそもNPCと自由な会話ができるわけでもない。
「…そういえば」
ふと、船の船室に繋がりそうな扉を見る。最初に来たときからずっと気にはなっていた。キャラクターを動かしてその扉の前に行き、扉にアクセスする。
「…“五匹の竜の間”?」
行き先選択に現れたその名前。五匹の竜、というのは時々受付嬢から出ていたと思う。
…そういえば、受付嬢は多数のプレイヤーから嫌われているらしい。…私は、所々呆れながらも嫌いではなかったが。
とりあえず、ルーパスさんもいないことだし五匹の竜の間に行ってみることにする。
画面が暗転する───ロードが終わって別の風景に変わる。
「……」
まず目を引くのは綺麗なガラス細工。まるで会議室のような椅子の並びに、所々に赤色の旗がかけられている。
『…あれ、ソフィ?』
そのチャットに周囲を見渡すと───いた。椅子に腰かけたルーパスさん。…座ることとかできただろうか。
『来てたんだ。ごめんね、気がつかなくて。』
そう言って立ち上がり、ルーパスさんは私に近づいてくる。
『…?何か悩んでる?』
『…分かるんですか?』
『なんか雰囲気がね。いつもと違うから。』
…ゲーム越しにそれは分かるものなのだろうか。声も聞いていないのに。
『私に言えないことなら別に良いけれど…悩みが落ち着くまでここにいたら?』
『……そう、します。』
『ん。じゃあ、私は外で待ってるから。』
そう言ってルーパスさんはこの部屋を出ていった。
「……はぁ」
ため息をついてキーボード、マウスから手を離し、寝転がる。
…かなり、彼女に気を遣わせてしまった気がする。
「…何してるんだろ、私」
この集会エリアに入るということは彼女と会うということ。…正確には、“会いに来た”ということ…なのかもしれない。最初に会った日からずっと、この集会エリアのエリア識別番号は変化していない。恐らく彼女は───
…この集会エリアに来たということは、彼女と狩りに行く事を目的としているはずなのに。彼女と話すことを目的としているはずなのに。…私は今、大した言葉も交わせずにキャラクターは五匹の竜の間で立ち尽くし、私自身はこうして寝転がっている。
「……」
梦香に言われたことが頭の中を回る。…確かに、彼女は私よりも遥かに強い。弓を持って、彼女の戦い方を真似したのは私だ。…だけど。
「…ルーパスさんが、私で遊んでいたなんて…考えたくない」
誰に聞かれているわけでもなく、そう呟いて───私は身体を起こし、五匹の竜の間を出る。
ロードが挟まる。五匹の竜の間から、集会エリアの方に戻っていく。ロードが終わって、星の船の風景が現れる。
『あ、戻ってきた。お帰り、ソフィ』
『…戻りました』
『…悩み、吹っ切れた?』
彼女は…分かるのだろうか。私の考えていることが。画面越しに。
『…?』
ふと、カメラを回転させると。1人の女性がたたずんでいた。武器は…狩猟笛?
『あ、紹介するね。ええっと、私の知り合いで…』
『“七海”…ななみ、です。ええっと、ギルドカードは…』
相手からギルドカードが送られてくる。七海、ハンターランク150、マスターランク20…
『…どうも、Sophiです』
私も送り返す。ルーパスさんの知り合いにはこんな人もいたのか。
『…なんか、暗いね?どうしたの、ソフィ。』
ルーパスさんがそう聞いてくる。
『…ひとまず、3人でクエストでも行く?一番ハンターランクが低いのはソフィだし、ソフィが貼っていいよ。』
一番ハンターランクが低い。…その言葉が、刺さる。今まで言われても、特に何も思わなかったのに。
『…ルーパスさん』
『うん?』
『…一つ、聞かせてください』
この場所に来た理由を、問う。
『ルーパスさん、あなたは───私で、遊んでいたんですか?』
その言葉を震える手で打って、送る。
『えっ?』
長い沈黙の後、ルーパスさんが驚いたような言葉を流した。
『…えっと、どういうこと?』
『…あなたの立ち回りは、“カズヤマン”と言われるそれですから。新人である私が悪戦苦闘しているところを見て、楽しんでいるのではないか…と、友人から言われました。』
『……』
『もし、そうなのだとしたら───私はもう、ここには来ません。…私は、あなたの遊び道具ではありませんから。』
『…それは』
『黙って、七海』
何かを言おうとした七海さんを黙らせて、ルーパスさんはクエストカウンターに向かった。
『…ソフィのランクは10だっけ』
『え…はい』
答えると同時に表示されるクエスト受注表記。…ルーパスさんが、受けた?
『七海はちょっとここにいて。ソフィは私が受注したクエストを受けて私と一緒に来て。』
『は、はい』
その言葉に圧され、私はクエストカウンターにアクセス、“集会所のクエストに参加する”を選ぶ。
───☆5クエスト“双幻影”。クエスト達成条件キリン2頭の討伐。
…これ、だろうか。しかし、他に見当たらないためそのクエストを受ける。
…キリン。私は…
『準備できたら行くよ』
『…これは、どんなモンスターなんですか?』
『…キリン、知らないのね。雷属性耐性を出来るだけ上げた方がいいかな。』
雷属性耐性。ということは、雷を使うモンスターということだ。
…パピメル装備でいいだろうか。思いつく雷耐性と言えばそれくらいな気がする。
『弱点は火ね』
火が弱点…ならば、“ヴァルキリコーダー”で行こうと思う。旋律はほとんど役に立たないだろうが、ブレイズホルンIは使いにくい気がする。
『…準備、出来ました』
『分かった。…大丈夫だよ』
そうルーパスさんが言ったのを最後に、私達はクエストに発った。
「くぅ…!」
キリン。ユニコーンのような古龍。既に1体は討伐し、残るは今対峙しているキリンだ。
落雷に被弾し、私は吹き飛ばされる。
「…!」
動けない私の前に来たキリン。やられる、と思ったところに割り込むように跳び込んでくるルーパスさん。ちょうど落雷のモーションに入ったところに、竜の千々矢。よろけ怯みを起こしたのを確認し、すぐさまクラッチ。私は私で一度回復するために離脱する。
「…情けない…!」
情けない。ルーパスさんではなく、私が情けない。集会エリアで、私で遊んでいるのならもう来ないと言っておきながら。私は今、ルーパスさんに助けられている。
『ソフィ、防御力切れてる!!』
旋律が切れているという警告。確かに、防御力UP【小】の効果は切れていた。
…以前から思ってはいたが。彼女は何故、こんな戦闘中でもチャットを打てるのだろう。以前彼女に聞いても、答えてはくれなかったが。…今聞いて、答えて…貰えるだろうか。
…いや、今はいい。あとでも聞けることだ。今は、旋律をかけなおして戦闘に戻るべきだ。
“スタミナ最大値UP&回復”、“スタミナ消費軽減【短】”、“防御力UP【小】”。これらを演奏し、戦闘に参加する。
「…」
ずっと見てはいたが。彼女の動きはこれまでとは全く変わっていた。
落雷が来ると見ればその範囲から外れ、正確に曲射と剛射を放ってスタンを奪う。スタンを奪えばクラッチして2回クロー攻撃の後傷つけ攻撃。
睡眠ビンで眠らせたかと思えば近づいて大タル爆弾二つ設置、そして近くに小タル爆弾を置き、少し離れて竜の一矢を構える。爆発とほぼ同時に矢は放たれ、それに怒ったキリンの雷撃をチャージステップで避ける。
彼女の武器は“竜骨弓II”。装備は無強化カガチシリーズ。…私よりも、防御力は低い。
…いつもなら、少し離れた位置で竜の一矢を放つだけだった。それが、ここまで変わるということは───
「…!」
考え事をしていると、クエスト達成の音楽が流れた。見ると、弓を抜刀したままのルーパスさんが倒れたキリンの前で立っていた。
「…強い」
私の支援なんて、あってないようなものだった。…というか、私が狩猟の邪魔していたようにも…
『…今見たとおり、私が普通に戦えば下位のモンスターはこんな感じになる』
ルーパスさんからのチャット?
『でも、それだと意味がない。ソフィの練習にならない。』
『…え?』
私の…練習?
『私が手を出し過ぎて、ソフィの力がクエストに合わないまま送り出すのは、ただの無責任。…それは、“後進の育成”じゃない。だから、私は立ち回りを縛った。』
彼女が私の方を向いた。
『私は、ソフィの邪魔にならない程度に、成長を阻害させない程度に支援した。…それが、ソフィで遊んでいるように見えたのなら謝るよ。私の立ち回りを見て、それが正しいと思い込ませてしまうのも、育成者の辛いところではあるけれど。私はただ、ソフィの成長とソフィがこの世界の美しさを、この世界の魅力を知るのを促していただけでもあるし。』
……もしかすると
『…教える、なんて。私は少し苦手だけどさ。それでも、私の手の届く範囲の人で、この世界の美しさを知らずにこの世界を離れてしまうのは…嫌、なんだよね。…自分勝手だけど。』
…この人は。不器用…なんだろうか。よくよく思い返してみれば、私が危険に陥った時、ちょうど中った竜の一矢でモンスターがターゲットを移したことが何度もある。ターゲットが移らずとも、危険状態の私の体力を回復をしてくれたのはいつだってルーパスさんだ。そして、同時狩猟においては───
「───!」
彼女は、何かが乱入してきたとき、または対象が合流したとき。私が対峙しているモンスター以外は総て戦闘を受け持っていた。プケプケの毒噴射やレイギエナの冷気放出、アンジャナフの火炎放射等の広範囲に影響する技は流石に受け持ちきれないものの、引き付けて受け持ち、私にほとんど被害が行かないようにしてくれていた。
……そんな優しい彼女を私は疑っていたのだ。声が聞こえなくとも彼女が優しいことは分かる…というか、彼女が優しいことは分かっていた。そんな彼女が、私で遊んでいると考えたくはなかったが。もしも、本当に私で遊んでいるというのなら。わざわざ乱入モンスターのターゲットを受け持つなどしないだろう。
『少なくとも、私はソフィで遊ぶなんて考えてない。…信じるかどうかはソフィに任せるけど。』
話をしている間にいつのまにか探索モードに入っていた。ルーパスさんがこれを指定していたから、何か理由があると思った。…集会エリアではなく参加者だけでのチャット。それが、理由だったようだ。
『この集会エリアから永遠に離れるのもソフィの自由だよ。…別に、私の事を忘れ去ったって構わない。ソフィが決めたことに、私が介入することはできない。』
なんとなく、思う。…優しくて、強くて、真面目で。そして───少し、不器用で。それが、彼女という存在なのかもしれない。
『…あの』
『?』
『…今まで、ルーパスさんのもとを離れた人はいるんですか…?』
『……いるよ。大体火力だけを追い求めた人だったけど。』
火力だけを…
『でも一番辛かったのは…この世界が嫌い、って言われたことかな。私を否定されるよりも、この世界を否定されることの方が私にはよっぽど堪えた。』
世界が嫌い……?
『…この世界が持つ美しさを知ってほしい。この世界の魅力を知ってほしい───そう思っているから、辛かったのかもしれないけどね。…そんなことは、どうでもいいか。』
そう言った後、ルーパスさんは言葉を止めた。
…そのまま、時間だけが過ぎていく。…何故だろう。確実に1時間以上そのままいるのに
ゲームの
先程の考えで行けば、現実での1時間はゲーム内世界における28時間48分になる。1日を現実と同じ24時間にしたが、実際は20時間で1日の可能性もある。そのあたりは全て仮定で動くしかないため今は24時間=1日とするが。
キリン2頭討伐のクエストも、30分とかからずに終わっていた。星の船を発ったのは確か昼頃であり、約90分は約43時間12分と既に真夜中を越えて明け方になっていてもおかしくないだろう。少なくとも、1日回っているのは確実だ。
現時刻13:00。私が集会エリアに入ったのが確か11:05だ。2時間近く、ゲーム内世界時間で55時間12分もの時間を経てなお、夜が訪れていない。真昼、まるで現実と同じ13:00かのような───
「……?」
───待った。…
…今は、いいか。私がこれからどうするのか。恐らく彼女は私がその答えを出すことを待っているのだろう。時間はかなり経っているが、その答えは伝えるべきだ。
『私は───』
チャットを打ち、私の答えを伝え。
『…そっか。もし集会エリアに七海がいたら私が戻るのは少し後になるって伝えておいて。』
そのチャットを見たあと、探索から帰還する。集会エリアには七海さんと…ツインテールの女性がいた。
『…ルーパスさんは?』
『少し後で帰ってくるみたいです』
『…そうですか』
そのチャットのあと、ギルドカードがおくられてきた。
Luna───恐らく、ツインテールの女性のものだ。
『受けとりたくなければ受け取らないで大丈夫です』
Lunaさんはそうチャットを打つと五匹の竜の間に消えた。
私は七海さんにログアウトすることを伝え、ゲームを終了させた。
ピンポーン
呼び鈴が鳴る。誰かが来たようだ。
「はい、どちら様でしょう?」
「あ、白猫宅配です」
その言葉を聞いて玄関を開ける。
「あ、ご無沙汰してます、恵さん。」
「こんにちは。いつもありがとうございます。」
顔馴染みの配達員さんから荷物を受けとり、配達員さんが見えなくなるまで待つ。
見えなくなったのを確認して私は室内に戻る。カプコンからの宅配物───注文していたものが届いたようだ。
荷物を開けると出てきたのはディスクケースと白と水色のヘッドギア、白と水色のコントローラー、緑色のヘッドギア、緑色のコントローラー…全5点。ヘッドギアは一体どんな素材で作っているのやら、かなり軽い。
「…よし」
ディスクケースからディスクを取り出し、いつも使っているゲーミングパソコンのディスクドライブに入れる。ディスクが読まれ、中に入っているデータが表示される。
───“MHW:I対応感情表現拡張パッケージ.exe”。
ハンターランクが8の頃に注文し、今日届いたこの公式配布拡張パッケージ。パッケージ自体は無料で、送料も無料…なのだが、コントローラーやヘッドギアに価格が付いているため人によってはお金がかかる。…それでも、普通に買うよりは安くなっているのだが。
exeファイルをクリックし、インストールを始める。
…さて、問題はというと。
このパッケージ、“重い”のだ。途轍もなく。
ストレージは問題ないし、今日中には終わるとは思われるが…パッケージをインストールしている間、私はログインできない。
公式から出されている拡張パッケージはこれ以外にもあり、今後恐らくインストールするとは思われるが…その長いインストール時間、私は何をしているべきか。
「…とりあえず」
今日行くつもりだったモンスターは“リオレイア”。…調査段階で、“リオレイア???”と表記されていたのが少し気にかかるが。
ひとまずは、対リオレイアの立ち回りを思い出しておくとしよう。
インストールが終わった。…長かった、本当に。拡張パッケージの実装はかなりの時間がかかると聞いてはいたものの。…ここまでとは。
既に時間は18:00を回っている。一応対リオレイアの立ち回りは思い出し、VR設備の調整も終わった。…あとは
「…よし、行こう」
いつものようにログインする。集会エリアは───
「……」
───眼前に広がる景色。見えなくなった私のキャラクターの姿。首を動かせば私の視界も変わる。
『…こんばんは、ソフィ。遅かったね、今日は。』
そんなチャットに辺りを見渡すと、小さく笑みを浮かべて私の方を見つめているルーパスさんがいた。
…あの時。私はルーパスさんと交流を続けることを選んだ。だから今、この関係は続いている。
「こんばんは、ルーパスさん。」
『こんばんは、ルーパスさん。』
私の言葉が認識され、それがチャットテキストへと変換される。それを見てか、ルーパスさんが驚いた表情をした。
…あぁ、やっぱり。
彼女は、私と会った時には既に───感情表現拡張パッケージを導入していたんだ。
拡張パッケージが何も入っていないゲームでは負荷を抑えるために細かい描画はされない。
だが、感情表現拡張パッケージが入れば。人物の感情に対して細かい描画が成されるようになる。
そして、感情表現拡張パッケージは
感情表現拡張パッケージとは、
だが───PCよりも高解像度、PCよりもより立体的でよりリアルなVRからPCに戻るという人は少なめだ。
私は、そこまでVRが得意ではないけれど。…それでも、これを入れた理由は───
───“モンスターハンターの世界の魅力”を知るため、で間違いない。
『あ~…ソフィ、拡張パッケージ入れたの?』
「はい。」
『はい。』
『ん、そっか。…さ、約束してたの…行く?』
その言葉に私は頷く。感情表現拡張パッケージは頭の動きを認識して描画してくれるから、頷いたのもきちんと反映されているはずだ。
…あ。
これからクエストに行くのはいいが、この状態で行くのは初めてだ。…動ける、だろうか。
『ていうか、そっちも声を文字に変換してるなら普通に声同士で話した方がよくない?』
…確かに、その方がよさそう。あまり知らない人とはボイスチャットを使わないものの…まぁ、彼女ならいいと思う。
ヘッドギア型の機器はヘッドマイクのような小さなマイクが格納されており、それを使ってボイスチャットができるようになっている。マイクの位置はちょうど口元になるように設計されている。
ボイスチャットを有効化する操作も忘れずに行い、準備は整う。
「…えっと。聞こえますか?」
テキストへの変換は切ったためチャットは表示されない。
〈聞こえてるよ~。…そっか、これがソフィの声なんだね。〉
その声は…どこかで、聞いたことがある気がする声だった。アニメとかで聞いたと思うから…もしかしたら声優さん、なのかな。
〈さ、いつもの通りクエスト貼っていいよ。〉
そう言われてクエストを受ける。“不思議の国の女王”───クエスト達成条件は“任務の達成”。それを見たのだろう、ルーパスさんが苦笑いした。
〈これかぁ…ルナは苦戦したらしいけど、まぁパピメルβシリーズならなんとか………いや火属性耐性低いからちょっときついかな……?〉
ルナ、というのは以前いたLunaさんのことだろう。初日に話していた装備が揃っていない状態でアンジャナフと戦おうとした弓使いの子というのはLunaさんのことらしい。
今は私もルーパスさんも上位のパピメルβシリーズを着用している。一応私は笛吹き名人Lv.1と毒耐性Lv.2、精霊の加護Lv.2、不屈Lv.1を装飾品で発動させてはいるが…
〈ん~…一先ず一緒に行けるようにしてきてもらえるかな?多分大丈夫だと思うから。〉
頷いてクエストに出発する。…うん。拡張パッケージは結構面白そうだ。
リオレイア亜種、リオレウス亜種、バゼルギウス、イビルジョー…ネルギガンテにヴァルハザク、テオ・テスカトル、キリン───様々な相手を倒して、私のハンターランクは15となっていた。次の任務クエストの名称は“収束の地”。このクエストのクリアをもって、最初のハンターランク解放が行われる、とは梦香が言っていたこと。
〈ついにここまで来たね、ソフィ。〉
肩に手が触れる感覚がある。これもVR機器と拡張パッケージの導入で再現された感触だ。まったく、カプコンはどうやってこれを実現しているのか…
…そんなことは、今はいいか。
「ルーパスさん。」
〈うん?〉
「“収束の地”が終われば、上位はほとんど終わりなんですよね?」
〈…うん、そうだよ。ハンターランクが解放されて、さらにはG級…ううん、“マスターランク”への道が開ける。…私と同じ土俵に立てるんだよ、ソフィ。〉
数か月かけて、やっと。ここまで来た。…ならば。
「…ルーパスさん」
〈ん~?〉
「教えて、ください。…どうして、ここまで私を助けてくれるんですか?」
以前、下位の頃にルーパスさんにした問い。それを、今もう一度。
〈…そうだね。上位に上がったら、教えるって言ったもんね。〉
そう言ってルーパスさんはクエストカウンターの前に移動した。
〈大体は以前言った通り。“この世界の魅力を知ってほしい”。それが理由だよ。…ねぇ、ソフィ。〉
「はい。」
〈まだ、時間はある?具体的に言えば…多分、10時間…くらい。〉
10時間。ルーパスさんは私を見つめてそう言った。今の時間は8:00、今日明日は仕事は休みだ。…時間は特に、問題ない。
「あります。」
〈…そっか。だったら───〉
ルーパスさんが何かを受けた。そうして、クエストカウンターを離れる。
〈もしも、長い時間耐える覚悟があるのなら。そのクエストを、受けるといいよ。〉
その声に疑問を持ちながらも、クエストカウンターに近づいてアクセスする。受注されているクエストは───
“長期クエスト・発見された痕跡調査”
見たことのない、聞いたことのないクエストだった。クエスト種別は…特殊クエスト。制限時間は24時間。
…徹夜はきついかもしれないが───何とかなるだろう。そう思って、クエストを受ける。
| 長期クエスト・発見された痕跡調査 Welcome to "True Hunting World"
本当にこのクエストを受注しますか? ok cancel |
|---|
「…?」
受注するか否かをもう一度聞かれた。それと…枠が、少し赤い…?
気にせずにokを押すことにする。
| 長期クエスト・発見された痕跡調査 Welcome to "True Hunting World"
本当の本当にこのクエストを受注しますか? ok cancel |
|---|
もう一度聞かれる。…というか。赤色が、鮮やかになった気がする。
もう一度okを押す。
| 長期クエスト・発見された痕跡調査 Welcome to "True Hunting World"
このクエストを受注して、後悔しませんね? ※やり残したことがないか確認してください ok cancel |
|---|
……一つツッコませてもらおう。それは別のゲームのネタである。
…とはいえ、文字まで赤くなったのは少し気にかかる。そして最後の一文。
やり残したこと…か。
「ルーパスさん、ちょっと待っててください」
〈はーい。〉
その声が聞こえたと同時にヘッドギアを外し、数日でかなり機能が拡張されたVR設備を離れる。
やり残したことがないかを確認…か。制限時間が24時間となっている時点で、しばらくゲームから離れることはできないのだろう。制限時間ギリギリまで使うことも予想して、水分補給の用意と軽食くらいは済ませておいた方がいいと思われる。それと、猫の餌と水の取り換え。
流石に意識を失ったり異世界に行って帰ってこれないということはないだろう。…ない、と思いたい。意識を失うというのは今のVR技術では無理だ。カプコンがそれ用───肉体の動きはなくともキャラクターだけ動かせるようなVR機器を開発しているようだが…まぁ、それは今ではないし。…現実は小説より奇なり、とはよく言うが…まぁ。ない、と思う。
そんなことを考えながら様々な作業を終わらせて、VR設備の元に戻る。ヘッドギアを被り、スリープから復帰する。
「お待たせしました。」
〈大丈夫だよ~、ゆっくり準備していいから。〉
その声を聴きながら、再度先程の問いかけを見る。
「…よし」
okを押した───その瞬間。
「…っ!?」
気配が、空気が───ガラリと、変わる。それと共に炎文字───
───直感する。これはもう、
そう思い、ルーパスさんの方を振り向く。ルーパスさんは柔らかく笑って私に手を差し出した。
〈───ようこそ、ソフィ。
真の姿。理解はできない、だけど何かが明確に変わったのは事実。完全に理解しきるよりも前に、差し出されていた手に私は手を重ねていた。
〈さぁ、行こうか。リフトを調べてみて。行ける場所が増えているはずだよ。〉
後戻りはできない。そう、感じる。言われるがまま、リフトを調べると───確かに、増えていた。
4F 集会エリア
3F 食事場
2F 一等マイハウス前
2F 工房エリア
1F 流通エリア
B1 秘匿エリア
「この、“秘匿エリア”に行けばいいんですか?」
〈うん、そうだよ。〉
秘匿エリア…なるほど、その名の通り隠されているのだろう。実際、クエストを受注するまでこの表記は存在しなかった。
行先を秘匿エリアにしてリフトに乗り込む。カラカラ、という鎖の音がする。
「…綺麗、ですね。此処からの景色は。」
〈…そうだね。でも、加工場の近くから行ける場所も綺麗だよ。〉
「…加工場の近くから…ですか?」
〈…あれ、行ったことない?じゃあ、あとで案内するよ。〉
そんなことを話していると、流通エリアを過ぎ、少し薄暗い場所に辿り着いた。…地下なのだから、当然なのだろうが。
〈…ですから…〉
〈ふむ…〉
微かに声が聞こえる。ルーパスさんはそのまま前に進む。私はそれについていく。
やがて、一枚の扉の前に出た。ルーパスさんはその扉をノックし、押し開けた。
〈お、来たな。じゃあ、ちょっと呼んでくる。〉
中にいた…えっと、調査班リーダーがさらに奥の扉の方に向かった。部屋の中は流通エリア付近の会議所と同じような感じになっている。…日の光が入らないという違いはあるものの。
〈じいちゃん!そろったぞ!〉
〈うん?そうか。今行こう。〉
その扉の奥から聞こえた声は、紛れもなく総司令のもの。奥の扉が開き、こちらに総司令が歩いてきた。
〈さて…皆、揃っているな?これより、作戦会議を開始する。〉
その言葉でこの場の空気が変化する。
〈この会議が初の者もいるが…まずは手元の資料を見てほしい。〉
そう言われて机にあった資料を手に取り、紙をめくる。これは…
〈今回の調査対象は霞龍“オオナズチ”。新大陸に生息していないと思われていた、かの古龍が新たに発見された。〉
「…オオナズチ」
茉莉から少しだけ聞いたことはある。確か…姿を消す古龍。
〈場所は“深淵の洞”。こちらもまだ大掛かりな調査は進んでいない場所だ。よって、クエスト参加者は深淵の洞の調査も並行して行ってもらいたい。〉
深淵の洞…?
〈確認するが、我々新大陸古龍調査団のやるべきことは古龍渡りの解明と新大陸に生息する生態の調査だ。この40年、新大陸の調査はしてきているが未だに不明な点は多い。だが、今は優秀な5期団もいるため調査が飛躍的に進むことを期待している。…彼女も、協力してくれるようであるしな。〉
「彼女…?」
〈…聞かなかったことにしてもらいたい。…さて、ルーパス。君は、霞龍オオナズチと戦ったことはあるな?〉
〈はい。霞龍オオナズチ、その場から消えるかのように擬態することから霞龍の名を与えられた古龍。注意点はかの古龍が扱う“猛毒”と巧みな舌捌きによるアイテム強奪。猛毒に関しては、こちらのスキル事情では毒耐性をLv.3まで上げるべきかと。〉
猛毒…それに、アイテム強奪…?
〈アイテム強奪に関しては舌による攻撃を必ず回避することで対処は可能です。それともう一つ、対策方法として“キノコ大好き”のスキルをLv.3まで重ね、回復薬、秘薬、強走薬などといったアイテムを持ち込まずにキノコで代用するものがあります。かの龍は人間が普通に食せるもの以外は強奪しませんから。〉
〈ふむ…なるほど。やはり君はこちらよりもよく分かっているようだ。〉
〈情報があれば立てられる程度の対処法です。私でも知らなければ対策を立てることはできません。…っと、そうでした、もう一つ注意点が〉
〈む?〉
〈導蟲が擬態しているオオナズチを発見できるかが定かではありません。クエスト参加者は急な奇襲に十分警戒を。〉
〈…そうか。さて、それぞれに準備はあるだろう。それぞれの準備が整い次第、作戦を決行する。クエスト参加者はこの地下で準備を整えるように。以上、解散!〉
その言葉に私を含めた全員が頷き、会議所のようになっていた場所を退室していった。
〈ソフィ、こっち〉
ルーパスさんに手を引かれる。
「どうしたんですか?」
〈こっちに物資資源補給所とか加工場の代わりになる設備あるから。必要なものあったら揃えておいで。〉
「あ、はい…」
深淵の洞…か。深淵と聞くとカプコンの正式名称の一部を思い出すけども。…それとは多分違うだろうし。
「ルーパスさん、深淵の洞ってどんな場所なんですか?」
〈ん~…わかんない。結構最近見つかった場所なんだよね。えっと…すごい生態が不安定らしくて。現大陸にあった“未知の樹海”みたいな感じになってるらしいんだよね。〉
未知の樹海。それは確か、4系列に出たフィールド…って梦香が言ってたと思う。確か…解明がされていなくて全体像すらも未確定…なんだっけ。
〈だから、調査があまり進んでなくて…今回の発見があったのも奇跡っていう感じ。偵察に特化してる調査団メンバーが今も追って定期的に連絡してくれてるらしいんだけどね。〉
なるほど。それならば未知の樹海のようであっても実在は確認できる、か。原始的、と言えるが同時に効果的な方法だろう。…問題は、そのメンバーの忍耐力と食料関連でもあるが。
「その人は大丈夫なんですか?」
〈実際心配だけどね。本人が大丈夫だって言うなら大丈夫じゃないかな…あ、オオナズチの弱点属性は火ね〉
火弱点、そして毒の使い手。ならば…“ジャナフバローネIII”がいいだろうか。ちょうど火属性で、緑青紫青で“体力回復【中】&解毒”旋律が発動する。こんなの、オオナズチ相手に使えと言っているものではないか?…まぁ、会心率が-20%と少々不安ではあるが。
現在はウルズβシリーズ。とりあえず見切りスキルはLv.4まで上げてマイナス会心を打ち消しておくことにするが…さて、ここからどうしようか。
「ルーパスさん、これ以上スキル組み込めるのってあります?」
〈ん~?…ちょっと待って。ええっと…一応さっき言った毒耐性とキノコ大好きはどっちもLv.3まで上げられるけど。達人か耐毒、どっちか片方Lv.3まで発動させられる護石、ある?〉
それならばどちらもある。…耐毒の方にしておこう。
〈あとは笛吹き名人がLv.2まで組めるのと…それからスロットレベルが1のスキルが1つ組める。…どうする?〉
…ふむ。笛吹き名人はあった方がいいだろう。残り1つ…そうだ、砥石使用高速化で行こう。
「決まりました。えっと、食事場は…」
〈あ、こっちこっち〉
手を引かれて案内されている間にルーパスさんの装備も確認する。
…ウルズβシリーズに“龍骨弓III”。そこに護石と装飾品を合わせて広域化Lv.5、整備Lv.3、龍属性攻撃強化Lv.5、早食いLv.2を追加した龍属性・サポート特化…だろうか。
毒耐性が一つもないが…まぁ、何とかなるのではないだろうか。ルーパスさんだし。
〈…おい、5期団。嬢ちゃんは…ソフィ、っつったか。さっさと食うもん決めたらどうだ。〉
その声に視線を上げると、料理長が私を見つめていた。…どうやら、考え事をし過ぎて気がつかなかったようだ。
「は、はい。…えっと…」
〈ルーパスの嬢ちゃんが高級お食事券使ったからな…全部新鮮食材で揃えてある。〉
…それはすごい。日替わりスキルは…“ネコの報奨金保険”、“ネコの解体術【小】”、“ネコの防御術【大】”…ふむ。どれも便利なものばかりだ。食材から選ぶのは私のいつもだが…
「たてがみマグロ、大巻貝、軍団イワシ、武士カツオ、くの字エビ、骨タコで作ってもらえますか。」
〈あいよ。ちょっと待ってろ。〉
そう言って料理長が調理にかかる。…思ったが、拡張パッケージを全部入れたこのゲームのNPCのAIは性能が高すぎないだろうか。AIを悪く言うつもりはないが、まるで本当に生きている人間かのようだ。
正直、カプコンの技術はかなり進んでいる方なため、そんなAIを搭載できても不思議ではないが…
〈お待ちどうさん。ほれ、冷めねぇうちに食っちまえ。〉
「…いただきます」
五感拡張パッケージ。それの影響で匂いまで再現されるこのゲームの料理はかなり辛い。何が辛いって普通に空腹になるのが辛い。味覚までは拡張できなかったようで少し残念なのだが。今後に期待するしかないだろう。
「ごちそうさまです」
〈おう。〉
正直に言ってかなりの飯テロと呼ばれるものです。軽食済ませておかなかったら色々不味かった気がする…
〈今回の調査も大変なもんなんだろ?準備は徹底していけよ。お前さん自身もだが、オトモの準備もな。〉
…余談だが、私のオトモアイルーは
「大丈夫です…多分。」
〈…そうか。まぁ、気を引き締めていけよ。アンタ達が無事に帰還するのを待つもんがいるってこと、忘れんな。〉
そう言って料理長は別の作業を始めた。…今のは、私に対する激励…なのだろうか。
「ええっと…待つ所は」
〈こっち。〉
いつの間にかルーパスさんが背後にいた。そのままルーパスさんについていくと、五匹の竜の間みたいに椅子が並んでいる場所に出た。…誰か、いる?
〈ん?おっ、やっと来たな。〉
その顔は…確か“陽気な推薦組”さん。
〈あれ?エイデン君も参加するの?〉
〈うす…未知の樹海みたいな場所、俺はよく知ってると思ったというのもあるっすし。〉
〈そっか…〉
ルーパスさんの言葉から察するに、この人の名前は“エイデン”というのだろう。防具は…レイアα。武器は…“レイ=ロゼッテス”?
〈ロゼッテスか。貫通弾運用?〉
〈いや、属性弾運用ッスよ。…一応。整備も万全なんで、何とかなるっしょ。〉
〈あ、反動とリロード1個ずつはついてるのね。〉
追加スキルは属性解放/装填拡張Lv.2と特殊射撃強化Lv.1。…同じボウガンでも、ヘビィボウガンはまだよく分からない。
〈…緊張してる?〉
「…ええ、まぁ。」
〈…そっか〉
〈あ、ルーパス。〉
不意に、声。ルーパスさんがそちらの方を向いた。
〈リーダー?〉
〈ちょっと、こっちに。〉
〈?〉
ルーパスさんがそっちの方に向かった。…何かのクエストフラグでも立ったのだろうか。
side Lupus
リーダーに呼ばれて何かと思ったら。総司令が私のことを呼んでいたみたい。部屋の中には既に各班のリーダー達がいた。
「ルーパス・フェルト、参りました。」
「来たか。すまないな、準備している最中に。」
「いえ。」
「あぁ、言葉も崩してもらって構わない。君は既に5期団の筆頭ともいうべきだからな。…いや、それは分かっていたことか。」
その言葉を聞いてため息を吐く。
「それでは遠慮なく。…なに、総司令」
「うむ…これを、見てほしい。」
そう言って出されたのは…複数の痕跡の資料。手に取り、慎重に読む。読み終わって総司令の顔を見ると、真剣な表情で私を見つめていた。
「どう思う?君の意見を聞かせてほしい。」
「…オオナズチ以外に
「こちらでも予測は立っているが…まずは君の意見だ。歴戦のハンターである君の知識を借りたい。」
「…深淵の洞が未知の樹海と似た場所だってことから今もこの痕跡の主がいるかどうかは分からない。けど、この痕跡をどのモンスターが持つかは分かる。」
資料の中から地面に棘が刺さっているものを抜き出し、机に提示する。
「雌火竜“紫毒姫リオレイア”───劇毒を操る女王がいる。」
「…そうか。他に、分かることは?」
「こっちの棘は多分滅尽龍“ネルギガンテ”だと思う。こっちの暴風のような傷跡は鋼龍“クシャルダオラ”。これはリーダーも分かってたでしょ?」
「まぁな。」
…それにしても、この写真のクシャルダオラの痕跡。…なんだろう、凄く嫌な予感がする。…まぁ、今はいいか。
「…それと、このモンスター…これは多分、あの子から連絡があったものだとは思うけど。私はよく知らないから不確定。」
火を放っているような石の情報を見てそう告げる。
「…そうか。そのモンスターの方については、ギルドでも調べがついている。とあるハンターが討伐したことで研究は一気に進んだそうだ。…もっとも、何故この新大陸に生息しているかは謎だが。」
「じゃあ…やっぱり」
「うむ。そのモンスターの名は───」
総司令に合わせて私も口を開く。
「「───怨虎竜“マガイマガド”」」
同時に同じ言葉。それに顔を見合わせて同時に小さく笑う。
「やはり、君も同じ考えか。」
「そういう総司令だって。…ね、とあるハンターって?」
「君もよく知っているハンターだ。狩猟笛を使う少女───君の夫だな。」
「違うっ!!」
即座に否定する。こ、この総司令、いきなり…!
「なんだ、違うのか?」
「違うにきまってるよ!女の子同士だよ、私とあの子は!そりゃ、夫婦とか言われてるけどさ!それはただの通り名であって実際に夫婦なわけないでしょ!?」
「満更でもなさそうだったと聞いているが?」
「いや別にいいけどさ。夫婦扱いされてても別にいいけどさ…だけどさ。実際に結婚した夫婦だと思われるのはどうかと思うの。」
「ふむ…特に抵抗はないと?」
「ない。」
即答。一応夫婦ではないと否定はするけど特に夫婦扱いされることには抵抗はない。一緒にいると安心できるし、離れてると不安になるし…なんだかなぁ
「…君、話を聞いていた時から思ってはいたが…彼女の事、好きだろう。」
「え?えっと…?それは、どういう意味で…?」
「無論、恋愛感情的な意味だが…いや、今はいいか。クエスト前に君の心を乱すのもよくない。」
「え?あ、うん…あ、それと彼女は男の子扱いされたら凹むから気を付けてね。」
一応忠告すると総司令は頭を押さえた。
「…よく分かっているな。」
「だってハンターになる前からの付き合いだもん。新大陸に来るまでずっと一緒だったからね。」
「…そうか。いや、怖いな。異世界のハンター達が言うとある存在に私達が当てはまりそうで少し…な。」
「…えーっと?」
「じいちゃん、大丈夫か?」
「問題ない…さて。ルーパス、君に頼みたい。」
その言葉に思考を切り替える。
「深淵の洞へ到着後、その場での指揮はすべて君に任せる。我々も君の指示に従うとしよう。こちらにもハンターはいるとはいえど、君ほどの死線を潜り抜けたハンターはやはり少ない。奴は40年経っても今の仕組みに適応しきれないからな。…そうだろう?」
「…かたじけない」
ソードマスターがそう言う。そういえばクラッチクローとか導蟲も慣れないんだっけ…
「故に、君に任せたい。流石に無茶だ、と思った際はこちらからも提案はするが…最終的な判断は君に任せる。それでいいか?」
「…承りました。他に何か?」
「…ない、と言いたいのだが。クエストとは関係なく、2つほど頼まれてほしい。」
「2つ?」
「まずは、必ず無事に帰ってくることだ。我々のように君達の帰りを待つ者がいることを忘れるな。今回のクエストはかの爛輝龍や赤龍の調査の時のようにクエスト参加者の制限は解除しているため、危ないと思ったなら迷わず救援を呼べ。まぁ、今回も協力してくれる彼女が飛び出したならこちらも参加するが。」
「あ~…彼女ね」
異世界のハンターの1人。新大陸に初めて現れた…というか、この世界に初めて現れた異世界のハンター…って聞いてるけど。私は詳しいことを知らない。
「もう1つは?」
「…これを、見てほしい。」
そう言って出されたのは、痕跡の情報。
「他にもモンスターが観測されてたの?全く、今度はどんなモンスター…が……」
一読して気づく。このモンスターは…
「…総司令。これは、本当なの?」
「…可能性は、大いにある。もしも、その痕跡を見つけたならば、植生研究所の所長を連れて調査を行ってもらいたい。」
「…護衛は、私達?」
「長い任務になるかもしれんが…すまない、頼めるか?」
その問いに少し考える。
「…参考までに、今回のクエスト参加者は?」
「君が連れてきた異世界のハンターと、エイデン君、君、そして───出るのだろう?」
「うむ、某も出る。此度は負けんぞ?」
「炎王龍いるわけでもないのに…まぁ、いいけど。その四人なら大きな不測の事態が起こらなければ何とかなるんじゃないかな……」
問題があるとすれば…
「ただ、知ってると思うけど異世界のハンターは基本的に長期クエストに慣れていないはず。ソフィがどこまで連続して戦えるかは未知数だからね。」
「ふむ…なるほど、大体把握した。…さて、私からの話は以上だ。他に何か言いたい者は?」
総司令が聞くが、誰も声を上げようとしない。
「なければこれで解散とする。未知に挑む諸君らに、導きの青い星が輝かんことを。」
それに全員が頷き、それぞれが会議室を出ていく。私も戻って色々と考えようと、体の向きを変える───
「っと、ルーパス。すまない、最後に1つ。」
「…何」
まだ何かあるのか、というように振り向くと、何かを私に向けて投げられた。慌ててそれを受け止める。これは───
「…自奏楽器?」
「餞別、というわけでもないが。君専用だ、今回のクエストで使ってみるといい。」
「…分かった。」
いつも使っている自奏楽器を外し、投げ渡された自奏楽器を付ける。
「これでいい?」
「あぁ。すまない、用件はこれで以上だ。戻って構わない。」
その言葉に私は地下の指令室を出て行った。
side Sophi
〈着いたぞ。…あれが、“深淵の洞”だ。〉
船長がそう言う。船を使って新大陸を右回り。大蟻塚の荒地の傍を過ぎ、龍結晶の地の傍を過ぎて───ちょうど、総司令がいつも見ていた地図の右半分あたりだろうか。屹立した太い塔のような場所もあるが、これは特に関係ないと思いたい。…ルーパスさんが“導きの地”と呟いてはいたが。確か…マスターランクのエンドコンテンツだっただろうか?
〈じゃ、頑張ってこい。…俺はここで待ってるからよ。〉
深淵の洞。洞の名の通り、入り口は洞窟のようになっていた。そして少し奥に、落ちることが出来そうな穴と翼竜の止まり木。
〈行こうか、ソフィ。ソードマスターも、エイデン君も。〉
〈っス!〉
〈うむ。〉
「はいっ!」
一斉に指笛を吹き、翼竜に掴まってその穴の中へ。ルーパスさんから聞いた話では、ちょっと特殊なクエストの仕様にしてるから私のオトモとルーパスさんのアイルーもついてこれているみたい。
〈暗いっスね~…〉
〈怖いの?〉
〈んなわけ!暗い場所が怖くてハンターやってられないでしょうに!っていうか、女2人男2人で俺が怖がってたら男としてどうかと思うんすけど。〉
〈ん~…怖いものは人それぞれだし。それいうなら私だって虫苦手だからね。〉
〈…確かに〉
虫苦手。それは確かにこの世界では辛いと思う。この世界の素材に虫を使うことは多い。
…ところで
「ソードマスターさん。」
〈む?〉
「その装備って確か…現大陸の?」
〈うむ。某に新しきものはよく分からん。それに…これには思い入れがある故な。加工屋にも変えたらどうかとは言われたが、某にこれ以外使う気はない。〉
飛竜刀【葵】にゲーム上では詳細不明の防具。現大陸の旧式レイアS、とかルーパスさんは言ってた気がするけど。ゲームシステムのバグなのか詳細を見ることができないが…こだわりを持つことはいいことだと思う。
「…それにしても、レイアシリーズ2人のウルズシリーズ2人…剣士とガンナーが1人ずつ…」
〈?ソフィ、何か言った?〉
「…いえ、なにも。」
〈…?あ、見えてきたよ!〉
しばらく飛んで、ルーパスさんがそう言った。
〈…全然見えねぇっス。ナディアさんみたいに本当に目がいいな。擬態したオオナズチも見えるんじゃないか?〉
〈どこにいるか大体わかる程度だよ~〉
〈透明化とさえ言われている霞龍がどこにいるか分かると…やはりルーパス、そなたは異常だな。〉
〈みんなから言われるけど私ってそんなに異常かな?〉
〈〈異常。〉〉
〈そうかなぁ…〉
ルーパスさんは納得いかない表情だったが、いつの間にか私達は地面のある場所に降り立っていた。
〈ここだね〉
〈本当にいるっすかねぇ…〉
エイデンさんがそう言った直後、導蟲が青い光を放って痕跡の在りかを示した。
〈…調べてみよっか〉
ルーパスさんが近づいて痕跡を調べる。私も同じように調べる…“粘液”?
〈…こうして痕跡があったっていうことは、いる…か〉
〈痕跡が新しいね。それも、数日前どころか数分前につけられた感じ…っていうことは…〉
〈近くにいる、ということか。〉
ふと、視線のようなものを感じて背後を見る。…何もいない?
〈……ルーパス〉
〈…いるね、確実に〉
〈うむ。姿は見えぬが感じる。いるぞ、確実に。〉
〈分かるんスね…〉
その言葉に私は狩猟笛を構えて“自分強化”、“防御力UP【大】”、“スタミナ消費軽減【長】”を揃える。ルーパスさんが頷いたのを見てから演奏。自分強化によって狩猟笛の重みが小さくなり、かかっていないときよりも動きやすくなる。
〈───っ〉
小さな気合と共に弓を構えて矢を番えていたルーパスさんが矢を放つ。その矢は、私の背後へと飛んで───
バシッ
中った、音がした。一斉にその方を見ると、矢が浮いていた───
───いや。
音もなく、現れた。その、紫色の身体。カメレオンのようなその姿───
───霞龍“オオナズチ”。古龍の中では比較的温情派であり、咆哮も持たないモンスター…
〈戦闘開始───行くよ、みんな!〉
〈了解っス!〉
「はいっ!」
〈うむ!〉
導蟲が赤く光って隠れる。戦闘状態に移行したみたいだ。オオナズチは私達を直視してからその姿を消した。
〈すんません、少し頼むっす!〉
「はいっ!」
戦闘開始後80分…多分。エイデンさんが弾薬の調合の為に離脱し、私が前に出る。
ちょうど姿を消したオオナズチの頭のあった部分に袈裟斬りのように狩猟笛を振り下ろす。スタン値がたまったのかそこでスタン。それを確認して私が離れるとソードマスターが気刃突き、オオナズチの頭を踏み台にして飛び上がり、そこから気刃兜割。
起き上がったオオナズチは霧を吐いて周囲を真っ白に。視認性が悪くなるけど、なんとなくどこにいるかが分かる。…何故かは知らないけど。
〈なんも見えねぇ!〉
〈見るのではない!感じるのだ!〉
〈言ってること分かんねぇっス、っていうか俺はそこまで感覚鋭くねぇ!!〉
…そう言いながら機関竜弾を全弾正確にオオナズチへ当ててるのは何故だろう。
〈…幸運にもほどがあるよ、エイデン君…〉
〈…うむ〉
〈へ?何が?〉
「当たってますよ、その弾…全部」
〈マジで…!?〉
あ、やっぱり気がついてなかった…ていうか気付きましょう、弾が変なところで止まる時点で…
“自分強化”を吹きなおし、“体力継続回復”の響玉も設置しておく。
〈ソフィ!〉
「っ!」
設置を終えた直後に右足を後ろに強く踏み込んで後方回避。私がさっきまでいた場所をオオナズチの舌が通過していた。
拡張パッケージ全入れの際の回避方法の1つは後方へ足の強い踏み込み。これが結構難しく、踏み込みが足りなければ抜刀状態ではただの移動になってしまう。納刀状態ならば走ることになるが。
オオナズチがボーっとしているようなところにソードマスターが気刃大回転斬りを叩きこむと、オオナズチがダウンした。同時に霧が晴れる。オオナズチに視線を合わせると白い息みたいなものは吐いていない。ということは非怒り状態。
「…はぁっ!!」
視線を合わせたまま、今度は前傾姿勢のまま両足で強く踏み込み、オオナズチの懐に飛び込んで狩猟笛を叩きつける。移動、回避、飛び込みと足元の操作は結構多い。…これも、いつか簡略化されるのだろうか。
「せー…のっ!」
地面に狩猟笛を立て、クラッチクローを利用して響音攻撃。二回目の響音攻撃でよろけ怯みを起こしたところにルーパスさんがクラッチ。傷つけ攻撃をしてスリンガーの弾を落とし、次いでエイデンさんが頭にクラッチしてクロー攻撃、ぶっ飛ばしで壁当てを行う。
エイデンさんが離れてルーパスさんが翼のあたりから竜の千々矢。大量に貫通する音が心地よい、ということは
起き上がるとすぐに霧を吐き、姿を隠す。場所は───
「そこ…っ!!」
周囲を見渡した場所に向けて飛び込み、狩猟笛を振り下ろす。硬い感触がして、クラッチクローを放って飛びつく。視線がちょっと遠くから来てるから───これ、後ろ右足だ。構わず傷つけ攻撃。
目が合って、オオナズチが口を開いたのが分かる。
「…あづっ!」
吐かれたのは赤紫色のブレス。猛毒は無効しているものの、先ほどまででルーパスさんが被弾して猛毒になっていたのを知っている。というか、防御力上がっているのに4割近く削られるって…
〈生命の粉塵、行くっスよ!〉
エイデンさんが生命の粉塵を撒いてくれる。…機関竜弾構えて撃とうとしてるのに生命の粉塵撒けるってかなり力強くてかなり器用なんだろうなぁ…戦闘挙動拡張パッケージ入れてから一通り持ってみたけど、ヘビィボウガンってかなり重かったし…
…ちなみに戦闘挙動拡張パッケージは入れるとかなり辛くなる。攻撃のモーション、回復のモーション、キャラクターの移動…それらをすべて自らの身体で行わないといけなくなるからだ。
パキン
と、何かが割れるような音がする。…斬れ味が黄色に落ちたか。流石に黄色では属性が弱くなるらしいから、砥石を使った方がいいはずだ。
〈エイデン君!〉
〈了解っス!〉
時間稼ぎを頼もうとした直後オオナズチが麻痺し、オオナズチに向けて拡散弾が撃たれる。それを見て私は後ろに下がり、ソードマスターも同時に後ろに下がって少し体勢を低くし、砥石をかけ始める。
〈…気づいていたのだろうか。〉
「…どうでしょうね」
そんな話をしながら砥石をかける。ガンナーに砥石は必要ない。必要なのは剣士。そして、拡散弾は撃ち込まれた場所にいるプレイヤーを吹き飛ばしてしまう。普通ならば、剣士のプレイヤーがいる時点で使うことは躊躇うだろう。それを、躊躇なく使った。それは───近づくな、ということではないかと私は思ったが。こちらに向かわないように拘束し、剣士が近づかないように拡散弾。…考えすぎ、だろうか?
そんなことを考えていたらいつの間にか斬れ味は最大になっていた。砥石をアイテムポーチにしまい、呼吸を整えて狩猟笛を持ち上げ、そのまま立ち上がる。
ちょうどルーパスさんが睡眠ビンを使って矢を放ったのが完全に効いたのか、睡眠するようなモーションになった。そのモーション中に気刃突きをするソードマスター。眠りきったところに───兜割。それで起きたオオナズチは姿を消した。それと同時に導蟲が虫かごから出てきた。
〈エリア移動だね。…あっちか〉
「…あの」
〈ん?〉
「戦闘中はそこまで気にしてなかったんですけど…なんか、すごく匂いません?」
戦闘開始直後からずっと凄い匂いがしてるのだ。戦闘中はそこまで気にしている余裕はなかったものの…落ち着くと流石に気になる。
〈…ソードマスター。もしかして、ペイントボール投げた?〉
〈ちょうど持っていたのでな。…迷惑か?〉
〈いや、別にいいんだけど…もしかしてこの匂い、導蟲に追えるかな…?〉
そう呟くと同時に、導蟲がもう一度同じ方向を示した。色は緑、普通の色だ。
〈…ペイントボールの匂いの方向に導いてくれてるんすかね。〉
〈…わからないけど。行ってみるしかないかな〉
視界に表示されているタイマーが示している時間は1時間30分。…どうやら、まだまだ続きそうだ。
〈…そういえば、ライドコールってどうなるんだろう〉
「あ、そういえば…」
〈ちょっと気になるっすね…〉
ルーパスさんがライドコールの指笛を吹く。…返事はない。
〈…来ないみたいだね〉
「ま、まぁいいじゃないですか。」
〈ま、いっか。〉
その言葉を最後に私達は導蟲を追い始めた。
しばらく追って、1つのエリアで導蟲が止まった。出てきてはいるものの、どこに導けばいいか分からないかのように右往左往している。
〈…う~ん、やっぱり匂いを特定できないのかな〉
〈聞いたことあるっすけど、オオナズチみたいな周囲に溶け込むかのような擬態をするモンスターはペイントボールの匂いを遮断するとかって…〉
〈あれなんなんだろうね、ほんと。エリア自体に匂いは残っていてもモンスターの位置を特定できないんだよね……〉
ルーパスさんがあたりを見渡す。
「…視線は感じますけどね。さっきよりも擬態が上手ですね。」
〈本気になったって───うわぁぁぁっ!?〉
ルーパスさんのそんな声にそちらを向くと、ルーパスさんが逆さまに宙吊りになってた。
「なっ…!」
〈ちょっ、おろして…!〉
〈今助けるにゃ、旦那さん!〉
スピリスさん、と言ったはずだけど…ルーパスさんのオトモアイルーがブーメランを投げ、ルーパスさんの足の近くにあった透明な何かを切断した。
〈ありがとう、スピリス!〉
そのまま弓を構え、透明なものがいる場所に矢を放つ。その矢が弾かれたと思うと、その場所にオオナズチが現れた。
〈いや~…驚いたっすね~…〉
〈…ほんと、いたずら好きなんだから…〉
「違いないですね」
〈…白〉
〈それ以上言うと火力全盛りの抜刀一矢叩き込むからね、エイデン君。護身弓使うけど。大丈夫、攻式じゃなくて防式にするから…やるとしたら、だけどね。〉
〈…ハイ〉
あ、目が笑ってなかった。…というか護身弓って?
〈さ、再度戦闘開始───準備はいい?〉
旋律も問題ないため頷く。ふと視線を感じてそちらを見ると、オオナズチと目が合った。…敵意、といったものは感じない?捕食対象、というのも感じない。なんというか…“来い”、と言っているかのような。
「…っ!」
〈えっ、ちょっ、ソフィ!?〉
無意識に、私は狩猟笛を振りかぶって地を蹴り、オオナズチに接近していた。オオナズチはその私をまっすぐに見据え、振り下ろされる狩猟笛に向けて手を伸ばす。
それを見た私は即座に狩猟笛を引き戻し、少し乱暴ではあるが狩猟笛を支えにして跳躍。現実には前方倒立回転のように床に武器の動きを認識するコントローラーごと手をついて軽く跳び上がっているのだが。
口を開けたオオナズチに危険を感じて体を捻る。キャラクターが宙に浮いたまま体を捻り、伸ばしてきた舌を回避する───
やはりというか、現実の私よりもゲームのキャラクターとなっている私の方が滞空時間が長いようだ。空気抵抗の違いだろうか…別に太っていると言っているわけではない。というか多分私よりも体重は軽い。空気抵抗か、もしくは重力が少し違うのか、重量の問題か…そもそも
滞空時間はまだ残って───いや。これは…時間の感覚が変わってる?
全てが遅い気がする。時間が止まった、ではない。私の身体は動いていて、オオナズチも確かに緩やかに動いている。走馬灯───ともまた違うだろう。死を覚悟しているわけでもないし、そもそもあれはかなりの早さで流れるはずだ。…原理的には同じかもしれないが。
───
空中でクラッチクローを構える。操虫棍ならば空中クラッチができるとどこかで聞いたが、挙動拡張パッケージが入っているのならば恐らくはどんな武器種であってもできるだろう。挙動拡張パッケージとはそういうものだ。現実の肉体と連動する関係上、
クラッチクローを放つと、時間の感覚が引き戻され、かなりの速度と共にオオナズチの左前足に。丁度吐かれたブレスは私の体すれすれを通過していき、誰かにダメージを与えるでもなく消えていく。それを確認して頭に移動、クロー攻撃2回で壁の方を向かせ、ぶっ飛ばしでダウンを取る。
〈見事!〉
〈畳み掛けるよ!〉
ルーパスさんの声に立ち上がろうとして、そのまま崩れ落ちる。軽いスタミナ切れだろう。それも、ゲームに表示されない、私自身の。挙動拡張パッケージをいれるとキャラクターのスタミナとは別に自分自身のスタミナも考慮しなければいけなくなる。
〈…!大丈夫か、アンタ!〉
「大丈夫、です。少し、疲れてしまったようで…」
〈無理はすんな、復帰まで時間は稼ぐっスから!〉
「……ありがとう、ございます。」
実際、ありがたい。自分自身のスタミナ切れを起こすと、動きがかなり制限される。この程度ならば、5分位で復帰はできるだろうが…
「…喉渇いた」
ふと現在時刻を見ると、既に10:20を指していた。…クエストを提示されてから、もう2時間20分。11月という冬とはいえど、喉も渇くはずである。
位置調整のためにモーション追跡を停止させ、壁際に移動してから置いておいた水のペットボトルを開け、一口飲む。そうしてからペットボトルの蓋を閉めて同じ場所に置き、初期位置に戻ってモーション追跡停止前と同じ体勢になる。そのままモーション追跡を作動させると、キャラクターが動くようになる。
「復帰します!」
〈了解!〉
〈───ゼアッ!〉
そんな掛け声と共に、ソードマスターが兜割。同時にグシャッ、という音がした。
〈霞龍の尾を切断したぞ!〉
〈透明化一部解除!〉
ルーパスさんが言ったと同時にオオナズチが霧を吐いた。怒り移行だ。
「…!」
危険を感じて飛び退くと、そこにオオナズチがボディプレスしていた。角の破壊は既に終わっていて、尻尾の切断がされたからか不安定になっている透明化。頭がある位置に向けて響音攻撃───
〈ヒュルォォォ…〉
───した瞬間、オオナズチが倒れた。タイムは───1時間45分。大体、ゲームにおける4分くらい。
〈クエスト達成…みたいだね〉
〈うむ。この音が流れるならそうであろうな。〉
〈…剥ぎ取り、先にやっていいかな?〉
ルーパスさんの言葉に全員が頷く。それを見て、ルーパスさんが剥ぎ取りを開始した。
〈…しょっ。…これ、なんだろ。〉
ルーパスさんが剥ぎ取ったのは皮。それを見てエイデンさんが首を傾げた。
〈あれ?それ、普通のオオナズチの皮じゃないっスね。〉
〈…だよね。…なんだろ、あとで調べてもらおうか。〉
そう言いつつ、剥ぎ取りを行っていくルーパスさん。残り2回をやった後、オオナズチから離れた。
〈導蟲、何かあったら教えて。あ、剥ぎ取りやってていいよ〉
そして導蟲を放つ。ルーパスさんの言葉に私達も剥ぎ取りを始めた。
そうして、私が剥ぎ取り終えた直後。警告音のようなものが聞こえた。
〈この音───〉
ルーパスさんが言い切る前に、私の視界が真っ赤に染まった。
〈噓でしょ───
〈どうするのだ、ルーパス!〉
〈どうするも何も───ソフィ!聞こえる!?〉
「は、はい!」
〈あ、よかった通じた…!唐突だけどあなたに聞くよ!あなたはまだ戦える!?未知の存在かもしれないものを相手に、戦う覚悟はあるか!!〉
「え…?」
〈乱入は私達でも何が来るか予想できない!ましてやこの場所は調査が全く進んでない!そんな場所で、未知に立ち向かう覚悟はあるか!!なければすぐにモドリ玉でキャンプに戻って!!〉
私は───
「───私も、戦います!」
〈その決意───買った!行くよ、みんな!〉
〈了解っス───死なない程度に戦うっスよ!!〉
私は旋律をかけなおし、何が来てもいいように構える。
〈───来る〉
そう言った直後、風が吹いた。強い風。そちらの方を見ると───いた。あれは───クシャルダオラ?それにしては色が…
〈───マジかよ〉
「エイデンさん?」
〈新大陸に、いたってのか…?〉
〈いやな予感、当たったね───まさかとは思ったけど、
「錆…?」
〈キュィィィィ!〉
〈まだ来るぞ!〉
上から飛び降りるかのように、2体のモンスターが現れ、空から1体のモンスターが下りてくる。飛び降りてきた1体はネルギガンテ。もう1体は紫の炎を纏う虎みたいなモンスター。空から降りてきたのは…紫色のリオレイア?
〈最悪───噓でしょ。報告にあった4体、全部ここで揃うとか…!!〉
〈ルーパス、そなたの判断は?〉
ルーパスさんは私達をそれぞれ見つめてから口を開いた。
〈…ソフィ、ネルギガンテのソロ行ける?〉
「…はい!やって見せます!」
〈…分かった。でも無理はしないでね。エイデン君は───〉
〈錆鋼龍と戦うっス。…今、ここで俺の前に現れたってことは…過去と決着をつけろ、とでも告げてるんでしょう。〉
〈…そっか。ソードマスターはマガイマガドを。〉
〈承知した。して、ルーパスは…〉
〈私は紫毒姫を相手する。各自撃退、もしくは討伐したら他の人の手伝いを。注意点、各自絶対に無理、無茶はしないこと。無理だと思ったらすぐに救難信号を上げて。総司令にそのあたりの話は通ってるから。〉
その言葉に全員で頷く。
〈さぁ───〉
〈ひと狩りいくよ!!〉
〈ひと狩りいくっス!!〉
〈ひと狩りゆくぞ!!〉
「ひと狩りいきます!!」
その言葉を合図にして、私はネルギガンテの懐に飛び込んだ。
side Lupus
「さて、と───」
全員に指示を通し、クラッチの武器攻撃をした後で、改めて紫毒姫に向き合う。
「こうして紫毒姫と戦うのも少し久しぶりかな───」
そう呟きながら矢を番える。
「会いにきてくれたのなら嬉しかった。現大陸から新大陸まで、遠い道をきてくれたんだから。…だけど」
チャージステップを行い、リオレイア種が行う“サマーソルト”を避ける。紫毒姫の特徴として、普通のリオレイアがするようなサマーソルトを行うとその場に毒を持った棘が設置される。…これが、痕跡となっていて私は紫毒姫だと考えた。
「……今ここにいるあなたは、お話をしにきたわけじゃないみたい。それとも、紫毒姫のようであって紫毒姫じゃないのかな。」
矢を放ち、その反撃として突進してきた紫毒姫を踏み、空中から四矢正確に頭へと叩き込む。
「…っ、」
着地した直後、激しい痛みで膝をつく───“劇毒”。最悪なことに、近くにあった毒棘に触れてしまったようだ。
「───っ、はぁっ」
漢方薬を使って劇毒を治療する。流石に、毒耐性を一切つけていない私ではかなり進行が早いようだ。…というか、あの時か。今見たアイテムポーチの中身が少ないと思ったら、どうやら“いにしえの秘薬”をオオナズチに盗まれていたようだ。
「はぁ───っ、もういい。すこし、頭を冷やそうか。」
そう言いながら立ち上がり、紫毒姫を見据える。
「遠慮なんていらない。小細工なんて必要ない。全力でかかってこい、紫毒姫!私が全て受け止めてやる───!!!」
私のその言葉で私のことを完全に排除すべき敵と認識したのか、咆哮の後に私に向かって突撃してきた。私はというと、咆哮を身躱し射法で回避して竜の一矢を放つ体勢をとり───
ガガガッ
そのまま放って紫毒姫の体の一部を抉る。次いだ咆哮をイナシ回避、そのまま走って紫毒姫の翼に向けて三矢1度に拡散で叩き込む。…新大陸の弓は、結構使いやすい。現大陸のは引き絞る強さでどんな風に矢が放たれるか決まっていたから。
「最初に狙うは───」
紫毒姫において、一番危険なのは尻尾だ。まずは、設置毒棘の生成を止める…!
免疫の装衣を羽織り、一度バックステップしてから閃光弾。目を眩ませている間にもう一度バックステップ、達人の煙筒を置いてから近くにあった尖鋭石を拾ってスリンガーに装填する。今気がついたけど、討伐済みのオオナズチが消えている。オオナズチも意識を取り戻し、体を休めに戻っているのだろうけど。…とりあえず、しばらくは大丈夫かな。
そんなことを考えながらもチャージステップ2回、抜刀したままスリンガーを構え、尻尾に向けて竜の千々矢。その後尻尾に向けてクラッチクロー。矢で2回斬りつけた後、下から斬り上げると同時に番え、背中に向けて矢を放つ。
「ヴァギァァァァァ!!」
咆哮をジャスト回避、着地点で即座に構える。
「───“トリニティレイヴン”ッ!」
2射は軽く、最後の1射は強く引き絞って放つ。…それが“トリニティレイヴン”という狩技だ。
side SwordMaster
「…!」
怨虎竜の尾が某の兜を掠める。葵で払い、続く鬼火爆発なるものを見切り、怨虎竜を斬りつける。
「───ふんっ!」
そのまま葵を真横に振り抜き、気刃の段階を上げる。刀を背の鞘に納刀するのではなく、鞘を某の手に持ち納刀する。
「───せいっ!」
噛みついてくるのを見切り、抜刀。
「───ぬんっ!」
そこから身体ごと突きを放ち、怨虎竜の顔を足場に空中に跳び上がる。
「せ───ぬっ!?」
鬼火の霧。空中の某では避けきれず、そのまま食らう。
「…やりおる」
牙竜種、怨虎竜“マガイマガド”───よもや、これほどとは。なるほど、かのカムラを壊滅寸前まで追い込んだというのも頷ける。だが───
「ふ───面白い。やはり、そうでなくてはな…!」
新大陸という未開の地。近く発覚し、かの異世界のハンターが名付けた“深淵の洞”。調査も進んでおらぬなら、何があろうとおかしくはない。ましてやかのカムラを壊滅させかけた怨虎竜と戦えるのだ。もう既に歳とはいえ知らぬモンスターと戦えるのは光栄、ここで退くは一期団の名が廃る!
「セァッ!!」
突きを2回放ち伸ばしてきた尾を見切り尾に纏っている鬼火に向けて斬る。鬼火が解除され、怯んだところに身体ごと突きを放ち怨虎竜の頭を足場に跳ぶ。狙うは───
「───その、豪腕の鬼火よ!」
空中より葵を振り下ろし、気刃の段階が更に下がる。即座に身を翻し、怨虎竜から距離を取ると、同時に鬼火が爆発する。それによって鬼火の色が変わる。
「鬼火の色が変わった…活性化、といったか?危険であろうが…その程度で怯む某ではない!」
ルーパスの連れてきた異世界のハンターが対峙している滅尽龍も同じ変化が起こるが…それとはやはり違うのであろう…とはいえ、気刃が白は流石に問題か。
「…む。」
怨虎竜が身を翻す───あれは、不味い。某の勘がそう告げる。納刀し、怨虎竜から離れる。
「ヴォォォォォォ!」
咆哮すると同時に全身を鬼火が纏い、強く輝いたのが見えた。確信する、あれは食らってはいかん!
「…ぬぅっ…!」
緊急回避なるものを用い、駆けてくる怨虎竜はやり過ごす。大鬼火怨み返しという名が付けられたこれは、確か───
「ふっ!」
最後の突撃を転身の装衣なるものに再現したという某の回避でやり過ごす。着地後、怨虎竜と真正面から対峙する。
「───来るがいい」
某の言葉が聞こえているかのように、怨虎竜は某に突撃してきた。某は強く見据え、次の攻撃への対処を考える。
side Sophi
「はぁっ!」
滅尽龍“ネルギガンテ”。ストーリー上に何度か関わってきた古龍。…というか、調査団全体に何度も関わってきたらしい。
それと、それぞれが1vs1の構成になったとはいえまだパーティ判定はされているみたいで。タイミングが合う時にそれぞれ旋律効果のかけなおしはしてる。…まぁ、あまり余裕はないけど。
〈ォォォォォォ!!!〉
「っ、不味い!」
ネルギガンテの全身黒棘、咆哮【小】。これの後に来るのは間違いなく───!
「間に合って…!」
咆哮硬直から抜けて即納刀、背を向けて走り出して───緊急回避。私の上をネルギガンテが過ぎ去っていく。
「…破棘滅尽旋・天は普通に怖いって」
そう呟きながら起き上がってネルギガンテを見ると、棘は全てなくなって肉質が硬い状態。…ほんと、少し面倒な性質してると思う。棘黒くなったら私の攻撃あまり通らないし、斬れ味ガリガリ減るし…かなり攻撃激しいから研ぐ隙そこまでないし。
行動してないから滑空の装衣を羽織ってクラッチクロー。それをキャンセルして空中から狩猟笛を振り下ろしてネルギガンテに無理矢理乗る。
「ちょっ…暴れないで!」
…って、無理な話か…
「こ…のっ!」
移動するネルギガンテのスタミナか何かを削るために剥ぎ取りナイフで突き刺していく。世界観上はどうなっているのかは分からないものの、とりあえずゲームの仕様上は剝ぎ取りナイフしか使えないようだ。そして、それは拡張パッケージのある今でも同様。…モンスターが動いているときに重い武器を持つのは危険ということもあるのかもしれないが。
「う、わっ、っとと!」
暴れるネルギガンテにしがみつく。体中が強く揺さぶられる。現実では動いてない、というわけじゃなくて本気で揺れる…感覚がある。地震ではないはずだけど。
「…っと。」
ネルギガンテの動きが停止する。移動もせず、そのまま。なら───
「…!」
狩猟笛を構えて横ぶん、もう一度横ぶん───
「───ふんっ!!」
そして、叩きつけ。それでネルギガンテがダウンする。
そのダウンの間に砥石。…手が震える。何度か挙動拡張パッケージを有効化している状態でネルギガンテと戦ったことはあるものの、流石に連戦は初だった。…そのせいか、疲労が溜まっているのだろうか。
何とかかけ終わると、ネルギガンテが私の方を見つめていた。…何か、言いたそうな目ではあるけども。私には、分からない。
「…何か、言いたくても。私には、伝わらない。だから」
狩猟笛を支えにして立ち上がる。…こんなに、私の身体は重かったか。…いや、既にゲーム開始から4時間。戦闘時間だけ見ても2時間を超える。…当然と言えば、当然か。
「戦いの中で、貴方の言葉を見つけるよ。…行くよ、ネルギガンテ」
狩猟笛を後ろに大きく振りかぶり、ネルギガンテの懐へと飛び込む。対するネルギガンテは右前脚叩きつけ。その叩きつけを狩猟笛に重ね、弾く。強い衝撃が腕に伝わるが、燕返しのように同じ動線を遡ってちょうどあった頭に叩きつける。
…というか、こう乱暴な使い方をしてなお壊れないこの武器はいったいどうなっているのか。ゲームだから、と言われれば何も言えないが…
side Eiden
「キュィィィ!!」
「っ…!相変わらず、うっせぇっスね…!」
咆哮に愚痴を漏らしたところで、コイツが咆哮をやめるわけがない。無意味、そんなこと分かってる。それでも、漏らさずにはいられなかった。
「そらそらそらぁ!!!怒りの機関竜弾でも食らっとけ!!」
徹甲竜弾でスタンしたのを見て、レイ=ロゼッテスの特殊弾を叩きこむ。レイ=ロゼッテスの特殊弾、機関竜弾。これも、あの時にはなかったものだ。…あぁ、認めるさ。俺は、新大陸で得たものが多すぎた。あの頃は、本当に意味で分かっているわけじゃなかったんだ。
「動くなんて───許すかよ!!」
動きそうな錆びたクシャルダオラに対し、睡眠弾Lv.2を撃つ。蓄積が溜まっていたコイツはその弾で睡眠に移行する。完全に眠りきる前に、通常弾Lv.2を撃つ。眠りきったのを確認し、錆びたクシャルダオラに近づいて大タル爆弾G2つ。即座に退いて石ころで起爆。なんつったっけ、睡眠爆殺?とかいう戦術。
「コイツの貫通弾でも食らいやがれ!!」
即座に貫通弾Lv.3に切り替え、6連射。風を放ってきた錆びたクシャルダオラに対し、後方に何もいないことを確認して回避する。別のモンスターいると面倒だし、誰かを傷つけるのは…嫌だからな。誰かがいたのなら、俺がどんな手を使ってでも守る。…まぁ、それでリアと黒龍を討伐して帰ってきたルーパスからちょい怒られたが。
全弾リロード、それから弾の調合。オオナズチにまぁまぁ使ったが、まだ問題ねぇ。
「うぉぉぉ!!」
武器を収め、錆びたクシャルダオラに近づいてぶん殴る。龍風圧消えてっから、普通に近づけるしな。即座に離れて生命の粉塵を撒く。勘だが、あの一期団の太刀使いのおっさんがヤベェ。
今、俺がレイ=ロゼッテスを担いでいる理由なんてたった1つだ。それは、“鍛え直し”。あの時、俺はろくに補助できなかったからな。新大陸に来てから…そして、現大陸にいた間もろくに使っていなかったヘビィボウガンを担ぎ、機関竜弾を撃ち、バリスタを撃ち───そして、無様にやられただけ。…ほっんと、情けねぇ。調査団本隊が来るまでは持ちこたえたが、最後まで戦うことはできなかった。…それが、俺の中に残ってる。だからこそ、俺は最初から鍛え直してる。…下位から。長期クエストに参加したのだって、その一環だ。
「っ!」
斬裂弾を前脚に撃ち、炸裂するのを見計らって頭にクラッチクロー。そのままぶっ飛ばして墜落させる。
ただの八つ当たりだって、分かってるさ。今対峙してるコイツだって、あの時ドンドルマを襲いにきた錆びたクシャルダオラじゃねぇだろう。それでも俺は、コイツを見た時俺が戦うと決めたんだ。すべては、師匠を傷つけかけた過去の俺を越えるために───!!
「特殊弾は…まだか」
完全には生成しきれてねぇ。…工房はほんと謎だよな。弓の矢に関しても、この特殊弾にしても普通無制限の生成なんてできねぇだろ。
…まぁ、いいか。今は錆びたクシャルダオラだ。
「キュィィィ!!」
「…っ!?」
咆哮で耳をふさぐ。錆びたクシャルダオラは上体を反って風を溜める。俺の背後は───
「───やべぇっ!!」
───異世界のハンターがいた。
「くそっ!」
即座に武器を収め、異世界のハンターの元へ走る。…あぁ、また言われるだろうさ。自分のことも考えろと、師匠からもリアからも言われるだろう。…だけどな───
───俺に、手の届きそうなヤツを助けねぇっていう選択肢はねぇんだよ!!
間に合え!錆びたクシャルダオラがブレスを放つ前に!俺を守ろうとしてくれた師匠のように───師匠を守ったあの人のように!!そして、あの時撃龍槍の元に向かった師匠を救った……誰だったか?…まぁいい、そのハンターのように!今度は俺が、後輩を助ける番だ!!
「うおおおおおっ!」
「え───きゃっ!」
突き飛ばすと同時に、俺も回避行動をとる。錆びたクシャルダオラのブレスは俺の背後を通り抜けたが───代わりに、ネルギガンテの棘が俺を襲う。
「がっ───!」
「エイデンさん!」
異世界のハンターの、悲鳴のような声が聞こえた。
side Sophi
「エイデンさん!しっかりしてください!」
今の風圧。それが私の目の前を通り過ぎてネルギガンテに当たる寸前、私はエイデンさんに突き飛ばされた。
〈…へへ、無事、か…?〉
「私は無事です、でも…!」
〈…なら、よかった。また、俺は誰かを守ることができたのか。〉
よかった…?
「何言ってるんですか…守ってもらったとしても、それで傷つかれるのは嫌です!!」
〈…はは〉
ネルギガンテは私からターゲットを外し、クシャルダオラと対峙している。
〈…アンタ、ルーパスと同じようなことを言うんだな。…アンタ達はほんと、似てる。〉
え…?
〈心配すんな、まだ…戦える。あぁ、でも…そうか。やっぱ俺は、あの人みたいにはうまくいかないか…〉
「あの人…?」
〈…気にすんな。さ、復帰と行こうぜ…〉
その言葉を聞いて、私は座ったまま狩猟笛を吹く。セットしていたのは全て“体力回復【中】&解毒”。いつの間にかそろっていて、どうしたものかと悩んでいたけれど。今、使うべきだと思った。
〈…サンキュ〉
〈ルーパス───!!!〉
突如、響いたその声。その声に、ルーパスさんが声のした方向を見た。
〈───“辻p”!?〉
───え?
〈こんの───馬鹿!!〉
そう怒鳴って翼竜からロープを外した桃色の髪の女性。その姿は、紛れもなく───“辻p”。カプコン社員、モンスターハンターシリーズプロデューサーが公式放送とかでも使っているキャラクター…!!
そのキャラクターは、空中で太刀を構えて即座に兜割を、リオレイアに放った。
〈どうして───〉
〈どうしてもなにも、私が協力するって話はされているでしょう!?〉
〈で、でも───〉
〈でもも何もない!ひとまずは切り抜ける、話はそれから───〉
〈ビャァァァァァ!!!〉
一際大きな咆哮。その咆哮に、全員が耳をふさぐ。
〈───この咆哮って…黒炎王!?〉
黒炎…王?そう思っていると、いつもより色が濃いリオレウスが現れた。…あれが、黒炎王…なのだろうか。
〈うっそでしょ…人が増えるとモンスターも追加されるっていうの…!?〉
辻pらしき人がそう呟く。…本当に辻pなのだとしたら、その開発者サイドにいる人間が知らないのはおかしい気がするのだが…
〈ビャァァァァァオン!〉
そう鳴きながら、炎を吐く色が濃いリオレウス。炎の向かう先は───リオレイア?私達、じゃなくて?
〈…黒炎王?〉
〈え?ナニコレ?〉
辻pらしき人がそう呟くものの、そのリオレウスとリオレイアは争い始める。…おかしい。リオレウスとリオレイアは原種同士、亜種同士では争わないはずだ。
〈…大丈夫そう〉
〈…よく分からないけど、使えるものは使って!〉
〈先生───!!〉
〈相棒───!!〉
同時に二つの声。降りてきたのは…調査班リーダーと、受付嬢!?え?え??え???
〈嬢!それにリーダー!?〉
〈私も戦います、相棒!〉
〈え、え、え…〉
〈先生!大丈夫ですか!俺も一緒に!〉
〈…すまぬ、頼んだ!〉
〈…嬢、エイデンさんの補助をお願いできる?〉
〈あ…はい、わかりました!〉
その声にエイデンさんも立ち上がり、私も一緒に立ち上がる。
〈お供します、エイデンさん!〉
〈…すまねぇ、恩に着る〉
〈えっと…じゃあ、私はあなたね。ええっと…あなたのお名前は?〉
「そ、ソフィです!」
〈ソフィさん、ね。あとでお話しさせてもらってもいいかしら?〉
「あ、はい!」
私は辻pさんと。エイデンさんは受付嬢と。ソードマスターは調査班リーダーと。ルーパスさんはリオレウス…と?…よく分からないけれど、そんな状態になってなお戦闘は続く。
side Lupus
黒炎王リオレウス。紫毒姫リオレイア。どちらも、二つ名個体。恐らくは今ここにいる個体達も夫婦関係だとは思う、のだけど…争っている理由がよく分からない。
ただ、なんとなく黒炎王は私が目的ではない気がする。…多分。
「ビャァァァァァオン!」
「ヴァギァァァァァ!!」
咆哮に対しては身躱し射法でなんとかする。正直フレーム回避でもなんとかなる気はするけど一応の保険。
黒炎王が炎を吐いて怯ませた紫毒姫に近づき、千々矢を放つ。怯みから回復した紫毒姫は私に標的を変え、私に向けて炎を吐く───
───のを、黒炎王が紫毒姫に掴みかかって無理矢理止める。紫毒姫は黒炎王に標的を変え、その炎を吐いた。黒炎王は私の方を時折見ながらも、紫毒姫を抑え込む。
「もしかして…止めたがってる?」
止めたがっている。それが、私がこの竜達を見ていて思った感想。黒炎王は、もしかして紫毒姫を止めるためにここに…?
「…もし、そうなのだとしたら───」
出来るだけ紫毒姫を傷つけず、出来るだけ黒炎王を傷つけさせず。即座にこの戦闘を終えた方がいい。ならば───
「…あった」
私は砥石を取り出す。…弓に、砥石は基本的に必要ないけど。この砥石はちょっと普通のとは違う。
「……よし」
弓に水色の粉がついているのが分かる。これで、何とかなる。さらに睡眠ビンを取り付けて、眠らせる準備はできた。
「黒炎王!」
私が叫ぶと、黒炎王は私の方を向き、小さく頷くような動きをしてから紫毒姫を私の方に突き飛ばした。
「───っ!!」
その、突き飛ばされた紫毒姫に大量の矢を叩きこむ。チャージステップで紫毒姫の身体を避け、起き上がった紫毒姫に向けて竜の千々矢を放つ。そうして、紫毒姫は睡眠に入った。
「───ふう」
“睡眠砥石”と睡眠ビンの相乗効果で睡眠しやすくなっていたとはいえ、ちょっと睡眠に時間かかった。あとは…
「…」
「…」
黒炎王がどうするか。それによって、私の対処も変わる。
紫毒姫が動かなくなったのを見て、黒炎王が紫毒姫に近づいた。
「…ビャァァァ」
黒炎王が紫毒姫に触れる。その後、私の方を見て───
「…ビャァァァ」
小さな咆哮───“ありがとう”。そう、言われた気がした。
それを見て私は力を抜き、弓を納めた。他の三人も…恐らく、もう終わるだろうし。
side SwordMaster
「おらぁ!!」
教え子が溜め切りを怨虎竜に放つ。…ふ。まさか、この年になって誰かに救われるとはな。だが───
「甘いぞ!前も言っておろう!大剣を用いるならば一撃当てた後即座に離れよ!」
「はいっ、先生!!」
やはり、詰めが甘いな。しかし、“誰かがいる”というのはよいものだ。こやつも詰めは甘かろうと、実力はある。安心して背を任せられるというもの。
「───ゼアッ!!」
兜割で怨虎竜の頭を破壊する。鬼火はまだ活性化しておらん、尾は既に切断した。気刃は…黄か。一度上げるべきだな。
「先生っ!」
「む」
教え子の声で考え事から浮上すると、怨虎竜が手を振り上げておった。それを一つは後方へ避け、もう一つは冷静に見切り、葵を真横に薙ぐ。気刃は…上がったな。
納刀すると同時に回避。嫌な予感がしたと思えば、鬼火が活性化しおった。
「やれやれ…歳かな。以前よりもやはり精度が悪いか。」
鬼火を纏っている部位に攻撃を当てれば、鬼火を解除できるらしいが…やれやれ。解除できないとはな。鬼火を狙う精度が落ちている。
大鬼火怨み返しを発動されても面倒だ、鬼火を解除するのを最優先とするか。そろそろ怨虎竜も限界であろうしな。
「先生?」
「合わせよ。できるであろう?」
「───!はいっ!」
確かにまだ詰めが甘く、未熟ではあるが…こやつの才は目を見張るものがある故な。それを伸ばすのが、指南役たる某の務め。
「うおおおおお!!!」
「っ!」
教え子の溜め切りの後、某が身体ごと突きを放つ。怯んだのを見て怨虎竜の頭を踏み台にし、跳び上がる───
「───ゼリャァァッ!!」
葵を振り下ろすと鬼火が弾け───
「───ウォォォン…」
そんな、微かな声と共に怨虎竜が地に伏した。
「…終わった、か。」
手応えはあった。だが、かの毒怪鳥のように狩猟されたように見せかけているだけかもしれん。しばらくは気を抜かぬ方が良いだろう。
「…終わった、のか?」
「分からん。気は抜くなよ。」
「…うす。」
さて───どうなるか。見張っておくしかないな。
side Eiden
「エイデンさん!」
「あぁっ、食らえ!!」
ルーパスの相方の言葉に機関竜弾を撃つ。コイツ、大剣でスタンさせやがった。新大陸に来たときはただの編纂者だったってのに、いつからこんなに…
「っ、撃ち切ったか。」
「起き上がります、気を付けてください!」
「わかってる…!」
毒を食らって、龍風圧が消えている。これも、クシャルダオラの特徴だ。もっとも、新大陸のクシャルダオラは毒で龍風圧を消さなかったはずだが…まぁいい。あの編纂者、スタンする前に毒けむり玉を当ててた。推薦組の編纂者…ハンターになると、ここまで力を発揮するってのか!
「───えぇぇぇぇい!!!」
気合と共に“アングイッシュ”を振り抜くコイツは。恐らくは、新大陸に来るまでハンターの武器を持ったことなんてなかったはずだ。それがここまで。
ルーパスに聞いたことがある。コイツが使う武器は、すべてコイツが狩ったモンスターの素材で出来ていると。ルーパスは少しの手伝いだけで本格的な狩猟はコイツ自身が行っていると。
モンスターの知識と、モンスターへの理解と。そしておそらく…眠っていた才能と、恵まれた師匠。それが、コイツを後押しした。
「…ははっ」
笑いが漏れる。妬いてるかって?そんなんじゃないさ。俺も、師匠には恵まれていたからな。様々な武器を扱うという才能にも恵まれていた。それでも、ルーパスのような完全に天才クラスの奴よりは劣るが。
様々な武器を扱える…それが、いいことだとは限らない。器用貧乏、っつったか。それが、俺だからな。
…でも、コイツは違う。コイツは、このハンターとしての後輩は───大剣のみを突き詰めて、今それを極めようとしている。
「嫉妬?そんなん違うさ。ただ───」
「エイデンさん?」
ルーパスの相方の声を気にせず、レイ=ロゼッテスの銃口を錆びたクシャルダオラに向ける。
「俺は───師匠にも後輩にも恵まれたんだな、って…そう思っただけだ!!」
貫通弾Lv.3。1マガジン───6発分食らいやがれ!!
「ちっ、足りねぇか!」
「───せいっ!傷をつけました!」
「あんがとさん…!」
正直ありがたい。傷が消える時間なんて一々数えていられねぇし、攻撃の手を止めてクラッチクローを使うのも面倒だ。機関竜弾は傷つけ遅いしよ。だったら、誰かに傷つけは頼んだ方が早いしな。
「てやぁぁぁ!!」
「退け!」
「はい!」
俺の声に応え、すぐに退く。ありがたい、と思いつつ睡眠弾Lv.1を撃つ。それで蓄積が行ったのか、錆びたクシャルダオラが眠りに移行する。
「真溜め頼む!」
「お任せください!」
そう応え、二度溜め切りを何も溜めずに放つ。それから少し下がって強く溜め───
「どっ───せぇぇぇい!」
おお。クリーンヒット。つーか角壊しやがった。
「離れろ!」
「はいっ!」
打てば響く、ってこういうことを言うんかね。…ほんと、俺は幸せもんだよ。
「おおおおおおっ!!!」
師匠に恵まれ。後輩にも恵まれ。…相棒にも、恵まれたんだからな。
「竜撃弾───いっけぇぇ!!!」
竜撃弾。それは、ガンランスの竜撃砲を再現したと言われる弾だ。…まぁ、ガンランスの竜撃砲より威力が高いってのは工房でも謎らしいがよ。
その竜撃弾が、錆びたクシャルダオラに炸裂する。
「ビュギィィィ…」
それと同時に、倒れ伏す錆びたクシャルダオラ。
「…はー…」
終わった。…そう、思いたい。
「…終わった、のでしょうか。」
「さぁ、な…」
油断はしちゃいけねぇ。…俺は、それで過去に師匠と同じ過ちを繰り返そうとした。
「油断すんなよ、とりあえず。」
「はい、わかりました。」
「なんにせよ、助かった。…えと…」
…俺、そういやコイツの名前知らねぇ…
side Sophi
〈せぁぁぁ!!〉
辻pさんが兜割を放つ。…見たこともない太刀だけど、雷属性みたい。
〈ソフィさん!〉
「はいっ!」
辻pさんの声に合わせ、狙いをつけさせないようなステップでネルギガンテの腕に近づいた後に狩猟笛を真横に振り抜く。無論反撃は来るけど、それを狩猟笛で受けて遠くに吹っ飛ぶ。
〈応えよ、深淵!!〉
辻pさんがそう叫んだと思うと、太刀が真っ黒な光を放った。
〈叩き斬るわ───この一刀のもとに!!〉
気刃突きからの兜割。その真っ黒な光はネルギガンテに移り、謎の爆発を起こした。
〈う~…痛た…深淵爆発はかなり痛いわね…〉
深淵爆発、というらしい。分からないけれど…とりあえず“体力回復【中】&解毒”を吹く。吹いた後は何故かスタンしているネルギガンテにクラッチし、傷つけを行う。
〈…〉
「辻pさん?」
なんだろう。私のことをじっと見つめて…
〈…何でもないわ。それより、あともう少しで倒せるはず。気は抜いちゃだめよ。〉
「あ、はい!」
この人は多分、私よりもこのクエストに参加したことがあるのだろう。このクエスト、結構辛い。けど…楽しい。そう思う。
〈ォォォォォォ〉
ネルギガンテの咆哮…というか、恐らくは軽い威嚇。そのあと、私に向かって真正面から襲い掛かってくる。私はバックステップして回避しながら狩猟笛をバトンのように手元で回し、急接近してその回転をネルギガンテの頭にぶつける。この狩猟笛の重みにも、だいぶ慣れた。なら───
「はぁぁぁ!!」
両手持ちではなく、狩猟笛の持ち手の先端を持って
どういうことかというと───
「っ!」
まず、後ろから地面と垂直に振り下ろす初撃。
〈ォォ…ォッ!?〉
次に、振り下ろした時の慣性を利用して自らの身体ごと地面から浮かせて回転させながら、うしろに狩猟笛の打撃点を持っていき、そのまま地面と垂直に振り下ろされる第二撃。
「くっ…!」
空中で身体を捻り、右斜めから振り下ろす第三撃。
「いづっ!」
着地と同時に狩猟笛の慣性が乗る重みが伝わって受けた左手が痛むものの、それを利用して動く方向を反転させ、左斜めから振り上げる第四撃、さらに地面と平行に薙ぐ第五撃。その第五撃で、ネルギガンテが吹っ飛んだ。
「いたた…」
〈あなた…〉
「何か…?」
〈…いえ、何でもないわ。それより、手は大丈夫?骨折していなければいいけれど。明日に響くんじゃないかしら?〉
明日も仕事は休みだし問題ない。左手は骨折してないだろうし、多分大丈夫。骨折したときの痛みはこんなものではないし。
…それより、思い付きでやってみたはいいものの、肩が外れそうである。それと、慣性に任せている影響もあるのか、少し遅い。持つ場所を打撃点に近づければもう少し肩の負荷も軽減でき。早く動くこともできるだろう。
〈ォォォォォォ!!!〉
咆哮。硬直から抜けた直後、ネルギガンテが私に対して空中からの───確か、“滞空滅尽掌”。棘は、生えていない。なら───
「こいっ…!」
その私の言葉に反応したのか、ネルギガンテが叩きつけを繰り出す。その叩きつけを狩猟笛で受け流し、手元で狩猟笛を回転させて連続攻撃とし、腕を引き抜こうとしているネルギガンテの頭に向けて横薙ぎ。
そこまでやると、ネルギガンテが飛び上がり、私をまっすぐに見つめた。
〈ォォォォォォ!!!〉
咆哮【大】。耳栓のない私は打ち消すことができないが、硬直が終わるまでネルギガンテは動かなかった。
「───ぁぁぁぁぁぁ!!!」
ネルギガンテが動き出すと同時に私もその場で強く跳躍する。私は狩猟笛を振りかぶり、ネルギガンテは拳を振りかぶり───
───一閃
私とネルギガンテは、背を向けあい、最初とは別の立ち位置にいた。
〈ギュォォォォン…〉
倒れたのは、ネルギガンテ。私は、体力ゲージ数ドットで耐えていた。
「───はぁ、終わっ…た。」
その場に倒れる私に辻pさんが駆け寄る。…まるで、現実だ。今の一瞬…いいや、ネルギガンテと戦っている最中。私は、これがゲームだと忘れていた。
「はは…カプコンは、本当にすごいものを作ったなぁ…」
〈…〉
その私の言葉に、辻pさんが少し複雑そうな表情をしてたけど。…私には、それがよく分からなかった。
〈…動けるようになるまで待ってあげるから、少し休んでいなさいな。あんな戦闘、今のVR環境でやろうとなんて普通思わないわよ。〉
「そう…なんですか?」
〈えぇ。…見事だったわ、ソフィさん。だから今は、身体を休めなさい。〉
お言葉に甘えて、身体を休めることにした。…そうすると、だんだん眠く───
覚醒。私が目を覚ますと、辻pさんの顔が目の前にあった。
「う、うわわわわっ!?」
思わず跳び起きる。
〈あら、起きたのね。おはよう。〉
「お、おはようございます…」
あれから眠ってしまったのか。…疲れて眠るとか、赤ちゃんだろうか。
〈あまりに可愛い寝顔だったもの、少し悪戯したくはなったけれど…まぁ、流石に自制したわ。夫も娘もいるのに、私がゲームの中でそれをやるのもアレだもの。〉
「…あはは」
〈その様子だとほぼ全快したようね。みんなもそろそろ戻ってくるでしょうし、少しの間待ちましょうか。〉
「…はい」
ふと周りを見渡すと、さっきの4体…モンスターの数で言えばオオナズチとリオレウスを含めて6体なんだろうけど。その6体の姿は消えていた。剥ぎ取り受付時間が過ぎてしまったのだとは思うけれど…
と、今気がついたがクエスト経過時間が消えている。いつの間にクエストが終わっていたのだろう。
「…あの」
〈うん?〉
「私…どれくらい寝てました?」
〈え?そうね…ざっと、4時間くらいかしら?〉
4時間。それは…ゲームにおける8分くらいか。もっとも、正確ではないけれど。
〈あっ!起きたんだ!〉
背後から声が聞こえた。ルーパスさんの声だ。そっちを振り向くと、ちょうどルーパスさんが私に向かって抱きつきに来たみたいで、視界が思いっきり塞がれた。
〈よかった…心配したんだよ!〉
「あ、あの!前が見えないです!」
〈あっ、ごめん!〉
そう言って離れるルーパスさん。自分のしたことが恥ずかしいのか、顔を赤くしている。…前々から思っていたが、彼女凄く可愛いのだ。別に彼らを否定するわけでもないが、同性愛者でもない私ですら動悸がするレベルの美少女。このゲームで作れるのか、と思うほどの造形なのだが…はて。
〈よかったぁ…リーダーを抑えるのに大変だったんだよ…〉
〈暴れだしたのかしら?〉
〈暴れかけたの。誰も護身持ってなかったし、ソードマスターが殴って気絶させたけど。〉
そういえば、調査班リーダーは“怪我したら怒る”とか言っていた気がする。
〈…ビャァァァァ〉
〈ヴァギァァァ〉
鳴き声にルーパスさんの背後を見ると、先ほどのリオレウスとリオレイアが私とルーパスさんの方を見つめていた。思わず、身構える。
〈ん…?あぁ、大丈夫。〉
「え…?」
リオレウスとリオレイアを見たルーパスさんの言葉に、疑問の声を投げかけると、リオレイアとリオレウスは私達の方に向かってお辞儀…のようなものをして、それから仲良さげに飛び立っていった。
〈黒炎王ね。紫毒姫を止めに来たみたいなの。〉
「止める…ですか?」
〈うん。暴走した紫毒姫を止めるためにここに来た。だから、黒炎王は最初から私達と敵対する気はなかったみたい。〉
そう言ってルーパスさんは私の方を振り向いて、笑みを浮かべた。
〈いいよね、そういう夫婦愛って。互いが互いを信頼して、片方が間違ったら片方が止める。もし止められなくて遠いところに行ったとしても、追いかけて連れ戻す。連れ戻すために必要ならば、それが本来敵と認識できるような私達ハンターだったとしても協力する。…重い、かもしれないけどさ。私達には私達の、モンスターにはモンスターの夫婦愛があるんだから、私達が否定するのは間違ってる…と思う。〉
「…そう、ですね。」
確かに、それは私達人間からしたら重い愛になってしまうのだろう。だが、それがモンスターとなるとその認識も変わってくる。私達はモンスターではないのだから、モンスター達を完全に理解することはできないのだろう。
〈さ、帰ろ?みんなは先にアステラに帰ってもらってるの。ここに残ってるのは私とソフィ、辻pだけだよ。〉
「…はい!」
〈わかったわ。〉
私達は指笛を吹く。その指笛で、三体の翼竜が降りてくる。翼竜に掴まる。行先は、キャンプだ。
〈…ソフィ、1つ聞いていいかな?〉
ルーパスさんが翼竜に掴まったまま私の方に振り向き、そう聞いてきた。
「はい?」
〈…あなたに、この世界の魅力は伝わった?〉
この世界の魅力。それは───
「───はいっ!」
十分に伝わった。拡張パッケージを使い始めてからの数か月、今回の深淵の洞での戦闘。それを通して、私なりにこの世界の魅力は理解したつもりだ。
〈───じゃあ、もう1つ。あなたは───この世界が、好き?〉
「はい!」
〈…よかった〉
安心したように、ルーパスさんが笑った。その間に、私達はキャンプに辿り着いていた。
〈船長!〉
〈おう、戻ったか!よくやった!そら、乗れ!アステラに帰るぞ!〉
その言葉に、ルーパスさんが乗る。私は…少し、躊躇った。もしも、これが夢だったなら。この船に乗れば覚めて消えるものであったなら。そう思ってしまった。
〈早く乗りなさい?〉
「…」
〈…消えたりしないわよ。ソフィさんが体験したのは紛れもない現実。いつでも帰ってこれるわ。〉
その辻pさんの言葉に思わず辻pさんの顔を見る。
〈その顔を見れば何を心配しているのかわかるわ。…私も、同じ道を通ったことがあるもの。でも、戻らないという選択肢はなかったから、恐怖を押し殺して船に乗ったの。…結果は、消えていなかった。この世界は、この世界のままだったわ。〉
「…」
〈だから、安心なさい。〉
「…はい」
辻pさんの言葉に私は船に乗る。辻pさんも続けて乗る。それを確認して、船長は船を漕ぎだした。
〈おお、無事に戻ったか。それは何より。すまないが、これより手短に会議を始める。〉
総司令が出迎えてくれる。
〈霞龍“オオナズチ”、並びに怨虎竜“マガイマガド”、錆鋼龍“錆びたクシャルダオラ”、滅尽龍“ネルギガンテ”の討伐、そして雌火竜“紫毒姫リオレイア”と火竜“黒炎王リオレウス”の撃退。すべて報告を受けている。よくやった。これで、さらに調査は進展するかもしれない。感謝する、5期団のハンター達よ。〉
その言葉に頷く。事務的な話し方ではあるものの、私達を心配していたことが伝わる。
〈さて…ギルドの方に報告する必要もあるが、その前に君達には細やかだが褒美のようなものを与える。…褒美、というのもおかしいが。リフトを調べてみるといい。さらに下に行けるようになっているはずだ。以上、解散!〉
その言葉に全員が頷き、それぞれ自由な行動を始めた。
「…さらに下?」
〈こっちこっち、早く!〉
ルーパスさんが私の手を引く。何度かあったものの、やはり彼女はたまに強引だ。…まぁ、嫌いではないけれど。連れてこられたのはリフトの前。
「えっと…?」
〈アクセスしてみて。〉
言われるがままにリフトにアクセスする。
4F 集会エリア
3F 食事場
2F 一等マイハウス前
2F 工房エリア
1F 流通エリア
B1 秘匿エリア
B2 秘匿祭典エリア
この秘匿エリアよりも下に、さらにエリアが増えている。恐らくは、ここに行けとの事だろう。
そこに行先を指定し、リフトに乗る。地下、ということからやはり外からの光は小さくなるが…しかし、ちゃんと灯りは用意されているために明るい。
着いた場所は、まさに大食事場。料理長とその傍にいるアイルー達が中央で料理を振るい、他の人たちが注文した料理を食べていく。
飾りつけも凄くて、なんというか…ほんとうに、お祭りみたいな。…あれ?ルーパスさんがいない…
「…」
〈おっ、来たっスね。〉
エイデンさんが私に話しかけてくる。立ち話もアレだから、ということで近くの席に座った。
〈お疲れ様っス。いや~…マジで疲れた〉
「お疲れ様です。」
〈ご注文を聞きに来ましたにゃ。どうしますにゃ?〉
「あっと…」
〈俺は肉定食。アンタは?〉
「ええっと…ホワイトシチューとかあります?」
〈お任せですにゃ!料理長!肉定食とホワイトシチュー入りましたにゃ!〉
〈おう。シチューか…師匠に鍛えられた成果を見せる時か?まぁいい、料理長の名に懸けてやってやるさ。〉
そんなことを呟いて料理長が料理にかかる。
〈ほんと、この新大陸はすごいよな。〉
「…ですね。」
〈…なぁ、聞いていいか?アンタ、今回のクエスト…緊張した?〉
その言葉に懐かしさを覚える。…言葉の感じは違うけど、私がこのゲームを始めた時に彼から聞かれた言葉のようだ。あの時は…たしか、“緊張してる?”だったはず。
「…はい、緊張しました。あなたは…?」
〈俺?俺は…そうだな。やっぱ、緊張したかな。あの時は威勢よく言ったけど、実際に1人で相手にするってのはやっぱ違うからさ。〉
それは…確かに。これまで拡張パッケージの有効無効関係なく、何度かソロで戦うこともあったけれど、その度に苦戦した覚えはある。そう考えると、ルーパスさんや梦香達の力って凄かったんだと本当に思う。
〈でもさ。お互い全力でぶつかり合って、それで勝ちをもぎ取るってさ。生きてる、って感じしないか?〉
「…そう、ですね。」
〈ま、最終的に救援に助けられたから何も言えねぇんだけどよ!ははっ!〉
その声と表情には、悔しいといったような感情は見受けられなかった。
〈お待たせしましたにゃ。ホワイトシチューと肉定食ですにゃ。〉
いつものようにお酒のついた食事が運ばれてくる。
〈んじゃ、生きてるってことに感謝して!〉
突き出されたジョッキに私のジョッキを打ち合わせる。
〈…モンスターってさ。本当に何なんだろうな。〉
「え?」
〈ほら、モンスターって俺達人間とは別の生態をしてるわけだろ?いちゃいけねぇ、って言うわけじゃねぇが…一体どういう理由でこの世界に生きているんだろう、ってな。多種多様な生態のモンスター達がこの世界に生まれた理由は何だろう、ってな。〉
……
〈いつの日か、モンスター達のことも完全に解明されることがあるのかね。…俺が生きている間に、そんなことがあればいいけどな。〉
「…そう、ですね。」
私はシチューを食べる。…うん、味はないけど…でも、温まる。そんな気がした。
その日は、ソードマスター達と話した後に別れ、ログアウトした。
「…ふう」
ヘッドギアを外す。…もうすっかり夜、というか深夜だ。時折軽食は取っていたとはいえ、流石に15時間に及ぶ連続ログインは疲れる。
だが───
「…楽しかった」
これまで経験したどんなゲームよりも楽しかった。…問題は、かなり動きすぎて明日が心配だ。恐らく筋肉痛で動けないだろう。…願わくば、今度は身体を動かさずともキャラクターを動かせる技術が確立してからこの戦いをしてみたいものだ。
「?」
休日。私の家のポストに、一通の封筒が届いていた。
「誰からだろう。」
そう呟いて差出人と宛名を見る。
差出人───株式会社カプコン
宛名───“長期クエスト・発見された痕跡調査”参加者 狩猟笛使い Sophi 様
「っ!?」
カプコン。モンスターハンターシリーズの発売元───それは、当然なのでいいのだ。いいのだが───何故、私の家のポストに?それも、私のキャラクター名宛で。
即座に家に入り、封筒を開ける。同じプレイヤー名の人はいるだろうが、そのクエストに参加した狩猟笛使いのSophiとは私だけだろう。
入っていたのは、一通の手紙だった。
Sophi様
突然のお手紙にて失礼いたします。
株式会社カプコン、モンスターハンターシリーズプロデューサーの辻宮と申します。
日頃より弊社の製品を楽しんでいただきありがとうございます。
突然ではございますが、少々お話したいことがありますので、下記の日程の中でご都合が合う日に弊社東京本社へと来社いただけると幸いです。
ご検討のほどよろしくお願いします。
なお、このお手紙を送信する際に使用した個人情報に本名は含まれておりません。
まさかのモンスターハンターシリーズプロデューサー本人から、それも…これ、直筆である。いつだったかのインタビューで言っていた気はするが、彼女は本気で誰かに伝えたいことがある、などの時は直筆を用いるらしい。…そう考えると、これは私に何か伝えたいことがあるということだとは思うのだが…ふむ。
「ええっと、シフト表は…」
仕事のシフト表と指定された日程を照らし合わせる。…うん、ちょうど初日が空いている。返信用のメールアドレスもあるが…さて。こちらも手紙で送るとしよう。
そうして、約束した日。私はカプコンの本社前に来ていた。
「…ここか」
手紙を送って数日後、また届いた手紙には細かい場所の指定がされていた。本社内の、喫茶店。そこで待っているらしい。
…躊躇っていても仕方ない。入るとしよう
「すみません」
「あ、はい!カプコンへようこそ!どんなご用件ですか?」
「ええっと…待ち合わせ?なんですけど…」
そう言いながら受付の人に手紙を出す。
「辻宮…穂乃花さんから、ですか?…少々お待ちください、確認いたします。」
そう言って受付の人がパソコンで何かを調べ始める。
「申し訳ありませんが、お名前をお伺いしても?」
「えと、音萌───」
と、本名を言いかけて気付く。相手は私の本名を知らないはずだ。本名を使用してはいないと書いてあったし、ずっと呼び方はSophi様だった。…まぁ、知っていてもおかしくはないが。
「───ではなく、ソフィと言います。綴りは───大文字のS、小文字ophiです」
「ソフィ様、ですね。ええっと…大文字のS、小文字のophi…これですね。はい、確認が取れました。それではこちらをお持ちください。」
そう言って渡されたのは来社証。お礼を言って、受付を離れる。
「あ、社内喫茶は3階、エレベーターを降りて右に向かい、さらにその突き当たりを左になります。」
「…ありがとうございます。」
正直その案内は助かる。再度お礼を言って、エレベーターに乗る。
そうして着いた社内喫茶には、既に先客がいた。長く黒い髪の美女。…なんというか、茉莉をそのまま大人にしたような外見の人。あの人が、辻宮プロデューサーだ。
「すみません、遅刻しましたか?」
「…はっ。い、いえ。こちらが早く来ていただけですので…って」
辻宮さんも私に気がついた。
「貴女は───音萌さん?」
「…こんにちは、穂乃花さん。」
「…まさか、娘の友人さんだったとは…声を聴いた時からなんとなくそうかもとは思っていたけれど。」
そう言いながら辻宮さん…穂乃花さんも頭を押さえる。
「…失礼しました、まずはお掛けください。」
そう言われ、穂乃花さんと対面するように座る。
「…さて。こうして直接言葉を交わすのは初めてですね。モンスターハンターシリーズプロデューサー、そして茉莉の母の“辻宮 穂乃花”です。この度はご足労いただきありがとうございます。」
「“音萌 恵”です。敬語は必要ありませんから、普通に話してください。…それと、私を呼ぶ際も恵で構いません。」
「…そう、させていただきます。…本来はダメなのだけど、話したことはないと言えど知り合いとなるとちょっとやりにくいわ。…ほんとこういうのは駄目ね、私は。」
そう言って穂乃花さんが溜息を吐く。実際言葉を交わしたことはないものの、何度か会ったことはある。主に茉莉関連で。
「…早速、本題に入らせてもらってもいいかしら。貴女は、“異世界”って信じるかしら?」
「異世界…ですか?」
穂乃花さんから出てきたのはそんな言葉だった。
「そう、異世界。この世界とは別の世界がある、っていう理論みたいなものね。信じる、かしら?」
「…信じる…と思います。実際に、私達のいる世界も誰かにとっての異世界かもしれませんから。」
「…そう。その認識は、正しいわ。」
正しい…?
「貴女は先日、モンスターハンターワールドの中で“長期クエスト”というものを体験したわね?」
「は───はい。しました、けど…」
長期クエスト。それが、どうかしたのだろうか。
「…あんなもの、私は実装していないわ。いいえ、実装する予定でしかない…と言いましょうか。」
「え…?」
実装していない…?
「もう一つ。私が関わったモンスターハンターワールドに霞龍“オオナズチ”、錆鋼龍“錆びたクシャルダオラ”、怨虎竜“マガイマガド”、雌火竜“紫毒姫リオレイア”、火竜“黒炎王リオレウス”は
「え…待ってください!」
それじゃあ、あれは───
「落ち着いてちょうだい、今回はその話をするために来てもらったの。…言っておくけれど、開発陣に今言った5体を追加した人間がいないことも、内部データ的に実装されていないこともすでに確認済みよ。」
「そんな…じゃあ、あれはやっぱり夢…?」
「…とりあえず、落ち着きなさい。ちゃんと説明するから。あと、ゲームの中でも言ったでしょう?あれは夢なんかじゃないわ。あれは紛れもない現実。貴女がオオナズチを倒したっていう事実は変わらないのよ。」
「…!?」
「ようやく気がついた?私はあの時いた“辻p”本人よ?」
「え…でも、それだったら───」
「運営が把握していないのはおかしい、でしょう?分かってるわ。…けれど、これはもう私達の理解を越える事案なの。」
理解を越える…?
「とりあえず、結論を言うわね。貴女が先日いたのは、夢でも現実でもないわ。…いいえ、この表現はおかしいわね。身体は現実にあった。意識も現実にあった。ただ、キャラクターだけが夢でも現実でもない場所───“異世界”に飛ばされたのよ。」
「異世界…」
「貴女のいた集会エリア。あれは、ゲームの域を超えているわ。あの集会エリアそのものが、異世界よ。」
「…えっと?」
「…あの集会エリアにいる間。私達は、
確かに、突拍子もない話だ。
「でも…それを裏付ける証拠とかはあるんですか?」
「…あの長期クエストを受けた後。貴女、違和感を感じなかった?」
違和感?
「NPC達に対してよ。具体的に言えば、総司令、料理長、ソードマスター、陽気な推薦組に調査班リーダー。」
「…そう言われてみれば。いつもより、人間らしかった気がします。定型文で答えるNPCのはずなのに、私の言葉にきちんと反応して…」
「それこそが証拠になるわ。あの集会所にいる時点で───いいえ、長期クエストを受けた時点であのNPC達はNPCじゃない。ゲーム上では、NPCとして認識されるけれど。」
NPCだけどNPCじゃない…?
「ついでに言うと、貴女が長い間行動を共にしていたルーパスさんもNPCよ。」
「え…!?」
「彼女は現実に生きるプレイヤーじゃないわ。異世界に生きるハンターそのもの───私が何を言いたいか、分かったかしら?」
───まさか
「あの人たちは───全員、
「…ええ、その通りよ。」
帰ってきた言葉は、肯定。それに、私は絶句した。
「理解できないでしょう?…私も一緒よ、そんなの。でもね。そうとしか考えられないのよ。」
「…」
「初代“モンスターハンター”───2004年3月11日に発売されたモンスターハンターシリーズの原点は知っているわね?」
その言葉に頷く。“モンスターハンター”。2004年3月11日、Playstation2用ソフトとして発売されたモンスターハンターシリーズの原点。
「私はそれが発売される前に、マルチプレイのテストをしていたのよ。気紛れで、一人でね。そしたら───繋がったのよ。」
「繋がった…?」
「ええ。カプコン社員しかマルチプレイに入ってこれないはずなのに、既にマルチプレイ用の集会所を開いている謎のプレイヤーと。その時にいた名前は…今でも覚えているわ。ルーナ───綴りは、Luuna。鉄刀を使う、当時では変なハンターだったわ。…よく思い出せば、ルーパスさん…だったかしら。彼女はルーナに似ているわね。」
「…どんな、人だったんですか?」
「不思議な人だったわ。まるで、当時から本来の太刀を知っているような口振りだった。当時メインシリーズにはなかったギルドカードさえも知っていた。私は、彼女が何を言っているのか理解しきれなかったけれど。…別れる直前で、彼女が異世界人かもしれないと思った。」
「異世界人だと…思ったんですか?どうやって───」
「ログアウト、よ。彼女はそれを知らなかったの。」
ログアウトを知らない?
「ネットゲームに接続してる以上、ログアウト───つまり、そのゲームから離脱するということは知っていないとおかしいわ。だけど、彼女はそれを知らなかった。考えられるとしたら、データの中で生まれた存在か、それともその世界で実際に生きているか。データの中の存在?そう考えたけれど、そうは思えなかったわ。当時のNPCなんて、話しかけたら対応した言葉を話させる、そんな程度の単純な動きだもの。…って、さっき挙げた2つの可能性のほかに、もう1つあるわね。ええと…“現実に生まれる前に死に、その命が電子の海の中で生まれた可能性”。…ないとは言い切れないけれど、薄いんじゃないかしらね。あの日私が見たのは
全部のNPCが…AI化。
「当然、当時のサーバーでそんな大量のAIを保持し、運用することなんてできないわ。そんな異常事態放っておけないし、サーバーに問題があったらプレイヤー達から文句が出る。終わらせた後、私はプログラマー達にサーバーの情報を全部見てもらったわ。」
そこまで言って、ずっと机の上にあった紅茶を飲む。
「…あぁ、ごめんなさい。勧めるの、忘れていたわね。頼んだらどう?」
「…では…ホットコーヒーで。」
「わかったわ。」
穂乃花さんが手元の端末を操作すると、キッチンの方で作業を始める音がする。
「…ごめんなさい、忘れていて。少しだけ待っていて頂戴ね。」
「いえ、大丈夫です。」
「そう?…なら、話を戻してもいいかしら。」
その言葉に頷く。
「…サーバーを見てもらった結果は、“何もない”だったわ。何度も他の人にも聞いて、自分でも見てみた。でも、やっぱり何もなかった。結構、不審には思われたけれどね。私も夢だったのか、と思ったわよ。…だけどね。その次の日、テストプレイをしたらまたNPCがAI化してたのよ。すぐさま、私はサーバーチェックを頼んだわ。主に───私が、“tuzip”がオンラインに接続しているかどうか。」
そう話している間に、私の言ったホットコーヒーが届いた。
「辻p…それって、“辻宮プロデューサー”を略した言葉だと思ってたんですけど、違うんですか?」
「元々は、“辻宮・プロトタイプテスト担当”の略だったわよ?まぁ、2ndGの頃からプロデューサーを任されることになったから、プロデューサーの略だと思われても仕方なかったけれど。実際、社内でも目標が高いっていう人はいたもの。」
プロトタイプテスト…
「それで、結果はどうだったんですか?」
「結果?…私は、
「…」
「それを見て、サーバー関係をやっていた人員も異常に気がついたらしくてね。サーバーの全精査、それから当時のマルチプレイのサービスを提供していたシステムの方に問い合わせなんかもしたけれど、結局は原因が不明のままだった。でも───思い出したのよ、私。ここの、社名。社名が影響なのか、この会社にまつわる都市伝説。」
カプコンの都市伝説。それは───
「…カプコンが作る製品は稀に奇妙な現象が発生する、ですか?」
「ええ。もしかしたら、それが影響なんじゃないかって。そう言ったら、当時の取締役も神妙な顔をして黙っちゃって。申し訳ないとは思うけど、ちょっと笑っちゃったわ。…だけど、その通りだったのよ。その奇妙な現象こそが、この“異世界との接続”。初代が発売されるまでに何度も何度も試して、やっと分かった。ルーナさんたちは生きているんだって。私達のいる現実世界とは違う、モンスターハンターの世界の世界で。本当に生きている人間なんだって。」
「…」
否定は、出来ない。AIの技術が当時よりも高くなっているとはいえど、先日体験したあれは異常だった。本当に滑らかで、“私に答えられる問いではありません”という答え方を知らないかのような。もちろん、彼女達も“分からない”ということはあったけど。それに、AI特有の冷たさはなかったし…第一、あれは完全に人間の声だった。
「この会社が本格的にVR技術に手を出し始めたのはその頃よ。まぁ、今は恵さんが持っているVR設備くらいが限界だけれど。」
「…穂乃花さんは、VR技術を使って…何を、するつもりなんですか?」
「何をするか?…決まってるじゃない。ゲームの、私達が見ている世界とは別の世界の住人に会いに行くの。」
そう言って、穂乃花さんは小さく笑った。
「…私だって、1人のゲーム好きなのよ?ゲームの中に飛び込むなんて、やりたいにきまってるじゃないの!」
「…そう、ですね。」
ゲームが好き。穂乃花さんは、それだけでここまで来たと聞いたことがある。なら、ゲームの中に飛び込めるなんて知れば、真っ先に飛び込んでいくだろう。
「…こほん。まぁ、現状は異世界の存在は秘匿されているのだけれどね。突然受け入れられるものでもないだろうし…第一、VR技術を完成させて実際に異世界に飛び込むことができたところで、悪い奴がその世界を乱せば、その世界の美しさはなくなってしまうでしょう。…それだけは、絶対に避けたいのよ。」
「世界の美しさ…」
「…ところで、貴女は何故あの集会エリアに行けるか、知っているかしら?」
唐突な問いに首を横に傾げる。
「あの集会エリア、普通に調べただけでは絶対に出てこないのよ。何故、貴女はその集会エリアに行けるのだと思う?」
「え…待ってください、普通に調べただけじゃ出てこないんですか?」
「ええ、出てこないわ。最初にあの集会エリアに行くには
───待て。いま、凄い天文学的数字が聞こえたような…
「えっと…何通りですか?」
「
…聞き間違いではなかったようだ。一体どうしたらそんな数値になるのやら…
「…そんなことより、普通に調べただけじゃ出てこないってどういうことですか?私、調べたら出てくるんですけど…」
「それ、ギルドカードのおかげよ。」
ギルドカード?
「貴女、ルーパスさんとギルドカードを最初に交換したでしょう?それこそが鍵なのよ。」
「どういう…ことですか?」
「そうね…まぁ、バッサリ言えば、モンスターハンターの世界の住人がプレイヤーに渡したギルドカードにはモンスターハンターの世界への通行許可証のような役割を持たせているの。そのギルドカードを所持していると認識されなければおまかせ検索以外で集会エリアに入ることはできないのよ。」
ならば───あの時。
「私が、ルーパスさんを疑って別れようとしたとき…その時、私がルーパスさんのギルドカードを捨てていたのなら。私はもう、ルーパスさんと会うことができなかったかもしれない、っていうことですか?」
「そんなことがあったのね……ええ、そうなるわね。」
「…!」
今思い出して怖くなる。あれは、本当に───運命の分かれ道だったんだと。私が言葉を失っていると、穂乃花さんが息を吐く。
「…異世界については、これくらいかしら。他に何か聞きたいことはある?」
「じゃあ…深淵爆発って、なんですか?」
あの時、穂乃花さんは深淵爆発なる技を使った。あれは、一体何だったのか。
「あぁ、アレね…あれは”深淵”シリーズの武器でしか使えない…いわば必殺技みたいなものよ。」
「深淵シリーズ…ですか?」
「えぇ。あの後、“深淵の上皮”っていうアイテム、出なかった?」
そう言われてみれば確かに。
「私が入手した後調べてもらったのだけど…どうやら、深淵素材を使ってかなり特殊な武器が作成できるらしいの。私は実装するつもりはないから、今のところモンスターハンターの世界に行けるプレイヤーだけが持てる武器、ってなるかしらね。こっちがわで調整して普通の集会エリアでは使えないようにしてあるもの。とはいえ、深淵素材を手に入れたのなら作る資格はあるわ。作るなら作るだけの素材はあげるわよ?深淵の洞はギルドとしても調査団としてもまだ未知の領域だから、ギルドの方で報酬を用意することができないし。私が大量に集めた素材でいいならあげるわよ?」
「…」
なるほど。作ってみる価値はあるかもしれない。けど───
「…自分で、素材を集めて作ります。」
「…そう。それでこそ、って感じだからうれしいわね。他には何かある?」
ない、と言おうとしてお腹が鳴った。
「…うぅ」
「…あぁ、ごめんなさい。もうお昼時ね。何か食べる?」
「…いえ、これ以上迷惑をかけるわけには…」
「迷惑をかけているのはこっちの方よ。今日なんてお仕事お休みなのにわざわざ来てくれたんでしょう?それに娘の茉莉のこともね。まぁ、あまりあの子は迷惑をかけたりしないとは思うけれど。」
「…茉莉とは、仲は良く?」
「あの子が実況している過去作。悪いけど全部私が持ってたものよ?というか、実況に私が参戦している時点で親子仲はいい方よ。…多分。あの子、私をどう思っているか教えてくれないもの。」
茉莉が穂乃花さんをどう思っているか。…伝えて、いいんだろうか。
「…仲はいいと思っておくわ。たまに茉莉もここに仕事に来るのと同時に遊びにも来ることだし。」
「…え?」
「あら、知らなかった?あの子、この会社の広報系統任されてるわよ?正社員ではなくて、会社お抱えの実況者さんって感じかしらね?」
そうなの!?実況とかでカプコンの話結構多いなぁと思ったら!
「まぁ、基本は自由にしなさいって言ってるけれどね。我が子ながら、残念な美少女に育ったものねぇ…」
「お前が言うな」
「ちょっと!?」
「…って、以前茉莉が言ってましたよ。穂乃花さん、若い頃とかかなりの美少女だったらしいじゃないですか。それで、ゲームが好きすぎてあだ名が“残念な美少女・穂乃花”…」
「仕方ないじゃない!好きなものは好きなのよ!!」
そう言って机を叩く穂乃花さん。…なるほど、ゲームが好きでここまで突き進んだっていう話は偽りではなさそうだ。
「…まぁ、そうですね。」
とはいえ、その“好きなものは好きだから仕方ない”という気持ちはよくわかるので否定はしない。学生時代、私や梦香も同じようなものではあったし。まぁ、私は学校ではあまり言葉を発さなかったからか何も言われなかったが。
「…まぁ、とりあえず。うちの茉莉をこれからもよろしくお願いできるかしら?」
「…はい。」
「よかった。いつも不安だったけど、恵さんのような人だったら安心ね。」
その言葉に小さく笑うと、入り口の方から足音がした。
「はぁっ、はぁっ…ママ!?恵さん!?」
「「茉莉。」」
私達の声が被る。
「ママはここにいるって聞いたけど…受付の人に、狩猟笛使いのSophiさんがここにいるって聞いて…もしかして、って。やっぱり、恵さんだった…!」
「あはは…穂乃花さんに呼び出されたんだよね…」
「え…?ママ、恵さんが何かしたの?」
「ええと…ほら、茉莉には話しているでしょう?異世界の事。」
「うん。行ったことはないけど…」
あ、行ったことないんだ。
「恵さんが、その異世界…それも、本質の方に入ったから、それ関連でちょっと。」
「恵さん、ホント!?」
その気迫に思わず頷く。
「すごい!異世界に行った人は多いらしいけど、その本質にまで入った人はママしかいなかったんだよ!」
「そう…なんですか?」
「ええ。私以外本質に触れることができた人はいなかったわ。…まぁ、VR酔いとかも問題だったのだろうけれど。」
「こんど、異世界のことについて聞かせてくれる?恵さん。」
「うん、いいけど…ちょっと待って」
どこかに行こうとする茉莉の腕を掴んで止める。
「…?」
「…別に、強要はしないけど。お母さんに自分の気持ちはちゃんと伝えた方がいいと思うよ。」
「え…?」
そう言って茉莉と穂乃花さんを向き合わせる。…本当に、こう揃うと似てると思う。
「…ええっと…恵さん、伝えるって何を伝えれば…」
「茉莉が穂乃花さんに対して思っていることを、そのまま言葉に、声にだしてみて?穂乃花さんはちゃんと聞いてあげてください。」
「え、えぇ…」
多少強引な気はするけど、こうでもしないと茉莉は伝えないから。誰に対してでも、こうでもしないとこの子は本当の気持ちを伝えないから。
「え、えと───ママ!」
「はいっ!」
「えと、えと───だ、大…大……ぷしゅ~……」
「茉莉!?」
あ、茉莉がオーバーヒートした。
「ぷ、ぷしゅ~…」
「茉莉…!大丈夫!?」
「…しゅ~……うぅ、ママ…大好き…」
「…っ!?」
そういえばこうなった方が本心出しやすいんだっけ?…っと、とりあえず硬直してる穂乃花さんとオーバーヒートでダウンした茉莉を介抱しておかなきゃ…
「ごめんなさい、恵さん!」
「いや、大丈夫だよ。私も悪かったし…」
「ううん、私が正直に言えないのが悪いから…」
気がついて速攻、茉莉に謝られた。
「…うう、恥ずかしい。ごめん、私先に広報室行ってるね。ママの事、お願い。」
そう言って茉莉は喫茶店を去っていった。
「…大丈夫ですか?」
硬直が長い穂乃花さんに声をかける。
「…まさか」
「?」
「まさか、“大好き”なんて言われるなんてね。あの子のために何かできたとは思えないのに。嫌われているものだって、思っていたのに。」
「…」
「私が案件を持ってくるから、嫌々広報を担当してくれてると思っていたのに。…まさか。」
「…あの、穂乃花さん?」
「…?」
「穂乃花さんって、ゲーム実況者としての茉莉を知ってますか?」
「…ええ、もちろん。」
「なら───雑談配信者としての茉莉は?」
「ざつ…だん?」
雑談配信。その名の通りで、雑談するための枠。視聴者と配信者で雑談するための枠だ。
「雑談配信でよく貴女の話が挙がりますよ。“お母さんとお父さんの事、マリーちゃんはどう思っているの”、って。」
マリー。茉莉のリスナーからの呼ばれ名の1つである。
「その時に茉莉はいつもこう答えてます。“お母さんもお父さんも大好き。私の宝物だよ”って。」
「…!」
「それで、リスナーが尊死するのはいつもの事でして。耐性がついてきたリスナーは“守らねばならぬ───この笑顔”とか言ってますけど。そして、私や梦香がその度に“ちゃんと本人に伝えようね”って言ったら恥ずかしがるんです。“こんな歳にもなって、お母さんとお父さんに大好きって伝えるのは恥ずかしい”って。…でも、思うんです。」
ずっと、思っていたことを告げる。
「お母さんやお父さんに大好きって告げることに、年齢なんて関係あります?」
「…ない、わね。」
「でしょう?」
「…ありがとう、恵さん。…あなたを信頼するあの子の気持ちが、分かった気もするわ。」
「…そう、ですか?」
「…もう少し、夫共々仕事量減らそうかしら。茉莉はよく私がいるとモンハンしたいって言うけれど。…他に何か、やりたいこととかあるんじゃないのかしらね。」
「…それ、違いますよ。仕事に関しては減らした方がいいかもしれませんが…茉莉はモンスターハンターシリーズが好きなんですよ。だから、一緒にやりたいんだと思います。…それから」
私はスマートフォン端末のロックを解除し、茉莉のチャンネルの1つの再生リストを見せる。
「これ。嫌いだったなら、何度も一緒に動画撮ったりしませんよ?」
私が見せた端末の画面には100を超える動画が詰まった───“母娘動画”の再生リストが表示されていた。
「…ふふっ。こんなに、撮っていたのね。なんで、気がつかなかったのかしら───」
私は泣き始めた穂乃花さんが泣き止むまでその場で待っていた。
「…よしっ!」
私はゲーミングパソコンに向き合う。今日は、普通のモンスターハンターの気分なのだが…
「今日は…どうしよ。ウルムー亜種とか行こうかな?」
マスターランク。私はベリオロスで苦戦してる最中だった。でも、苦戦とか気にしない。それが、私だから。
「…うん?」
パソコンに一通のメール。穂乃花さんからだ。…えっ?
「茉莉が!?」
即座にゲーミングパソコンから離れ、VR設備に駆け込む。VR用のスーツを着て、ヘッドギアを被って、武器に見立てるコントローラーを握って。
「スタート!」
ボイスコマンドが実行され、ログイン処理が行われる。タイトル画面を抜け、データ選択を抜け───検索するのは、いつもの集会エリアだ。
真っ暗な視界を光が裂いたと思うと、私はアステラの流通エリア───ゲームを起動した初期位置に立っていた。
〈お~う、5期団。今日も元気だな~!〉
その声に手を挙げる。本当に、あの長期クエストが終わってから私が見るこの世界は一変した。
穂乃花さん曰く、長期クエストを受けたときに出てきた炎文字を見た人で、VR設備でログインしている人は特別なサーバーに飛ばされるようになっていて、調査拠点アステラ、研究基地、前線基地セリエナ共に全NPCが全てAI化されたその人専用のゲームマップに行けるようになっているのだとか。だから、このアステラにいる人達はルーパスさんみたいなモンスターハンターの世界の人達ではないけれど、実際に命を持っているようなもの。長期クエストの時だけ、私達プレイヤーは完全にモンスターハンターの世界にいるみたい。もっとも、穂乃花さんはゲームマスター権限なのか分からないけど、自由に…とはいっても結構な制限はあるものの、行き来できるのだとか。
そんなことを思い出しながらもリフトに向かって走りながらメンバーリストを呼び出す。
Lupus
辻p
茉莉花
Sophi
私が最後に来たからだろう、最後に記されている。
リフトにアクセスし、集会エリアを指定してリフトに乗り込む。カラカラと良い音を立てて登っていく。
集会エリアに着いた。そこにいた、いつもの銀髪の三つ編みの女の子。
〈あ、こんにちはソフィ。〉
ルーパスさんだ。
「こんにちは、ルーパスさん。…あの、薄紫色の髪の子ってきませんでした?」
〈薄紫色?…そういえば、さっき来たね。ええっと…まりか、でいいのかな?〉
まりか。その名前は、間違いなく───
〈なぁに?呼んだ?〉
背後から声がした。それは、間違いなく茉莉の声で。振り向くと、薄紫色のロングヘアの女性と桃色のロングヘアの女性が立っていた。茉莉が操る“茉莉花”と、穂乃花さんが操る“辻p”。
〈こんにちは!ソフィさん!〉
〈こんにちは。ごめんなさいね、ソフィさん。急に呼んじゃって。茉莉花が呼んでほしいっていうものだから。〉
〈う~…!恥ずかしいからやめてよぉ…〉
その声は、母娘仲がいいことを感じさせて。自然と、私とルーパスさんに笑みがこぼれた。
〈…ソフィの知り合い?〉
「…はい。」
〈そっか。う~ん…とりあえず、何か行く?〉
〈あ、私“陸の女王リオレイアの溜息”やりたい!あ、でも…〉
「大丈夫、マスターランク足りてるから。」
〈ホント!?〉
「うん。」
〈じゃあ、それを受けるよ。準備は…あ。〉
ルーパスさんの声が途中で止まる。その声に私が首をかしげると、視界の中に白いものが映った。これは───
〈「…雪?」〉
雪が、降っていた。
〈珍しい。セリエナだとよく見るけど、アステラで雪が降るのは本当に。〉
「そうなんですか?」
〈うん。〉
ふむ…なるほど。
〈茉莉花?ソフィさんに何か言いたいことがあるんじゃなかった?〉
〈え…あ、そうだソフィさん!〉
「うん?」
〈今日って何日か知ってる?〉
「えっと…12月3日でしょ?」
間違っていないはずだ。もっとも、今日は仕事が休みだからと言って昼まで寝ていたのだが。
〈そう!ということで───〉
「?」
〈はいっ!〉
そう言って茉莉花から手渡されたのは…真珠と青い宝石のブレスレット?
「これは?」
〈ソフィさん!〉
「??」
〈───お誕生日、おめでとう!〉
───え?
〈…ごめんね、本当はもっとちゃんとしたものをあげたかったんだけど…素材はおか───じゃなくて辻姉と一緒に集めたんだけどね。〉
辻姉。辻pさんのことを茉莉花はそう呼ぶ。現実とゲームの使い分けっていうだけだし、たまにお母さんと言いかけるけど……じゃなくて
「え、待って…!…覚えてて、くれたの?」
〈うんっ!〉
〈え?ソフィって今日がお誕生日なの?〉
ルーパスさんの言葉に頷く。12月3日。茉莉花の言うとおり、私の誕生日。…まさか、ゲームの中で祝われるとは思っていなかったんだけど。
〈知らなかった…え、どうしよう。何も用意してないけど…何かあるかな…〉
「え、そんな…話してもいなかったんですから無理に用意しなくても…!」
〈ん~…あっ。ちょっと待ってね。〉
そう言ってルーパスさんはアイテムボックスから何かを取り出し、私に背を向けて何かを始めた。
〈んと…これをこうして…できた!〉
そう言って私の方を振り向く。私に近づいてきて、私の頭に何かを乗せた。
〈はい。お誕生日おめでとう。…って、多分ソフィよりも年下の私が言うのもおかしい気がするけど。〉
「…これは?」
頭の上に乗せられていたのは、花冠。大輪の花、ではない気がするけど。
〈“星見の花”で作った花冠。〉
「星見の花…ですか?」
〈そ。私がどこで手に入れたのかは秘密ね?〉
「あ、はい…」
…そういえば。
「あの、失礼だと思うんですけど、ルーパスさんって今…?」
〈私?18歳だけど。〉
「18歳ですか!?」
〈うそ、私よりも年下!?〉
〈あ、そうなんだ。〉
異世界、か…本当に、分からないことだらけだと思った。
とはいえ、みんなのおかげで今年の誕生日は忘れられないものになりそうだった。
〈…さ、そろそろ行こうか。みんな、準備はいい?〉
食事を済ませ、星の船の船首の方に集まる。
〈それじゃあみんな、アレやろアレ!〉
「アレ?」
〈…ほら、CMとかで流れてるアレよ。〉
辻pさんが耳打ちしてくれる。…あぁ、あれか。
〈行くよ~!ひと狩り───!〉
「〈〈〈行こうぜ───!!〉〉〉」
多分、私はこのことを忘れないだろう。
1人の女の子と出会って。
いろいろと教えてもらって。
立ち回りを見て、疑って。
不器用なだけだと知って一緒にいることを選んで。
この世界の深い場所に触れて。
そして今、こうして友達と一緒に狩りに行って。
そんな、楽しい記憶。
この記憶に、名前を付けるなら───
…が、いいかな。…英文文法あってたっけ。…まぁ、いいや。
side Lupus
色々なクエストが終わって、ソフィ達が帰っていって。私も、集会エリアから流通エリアに降りる。もうすっかり夜だった。…まぁ、楽しかったからいいけれど。
「お、ルーパス!いいところに来た!」
「船長?」
ちょうど通りかかった船長が私を呼ぶ。
私が船長についていくと、船長は船の積み荷に近づき、何かを探していた。
「ええっと…これじゃねぇ、こいつでもねぇ…」
「手伝おうか?」
「んにゃ、大丈夫だ───あった!」
見つかったようで、声を上げる。差し出してきたのは手紙の束。
「ほれ。お前宛だ。珍しくお前さんの夫じゃない、若いお姉さんが届けに来たぞ。」
「だからあの子は夫じゃないってば。…手紙、ありがと。」
「それとほい。これな。」
船長から可憐な花───“星見の花”を3本、渡される。また私に渡してくれるように頼んでくれたみたい。アイテムボックスの中にほとんど入れたままとはいえ、流石に結構な頻度で送られてくると数が多くなる時が多いから10本を目安に押し花にしてる。…ベルナ村のみんなの事を思い出せて嬉しいけど。同時にちょっと、寂しくもなる。
「ありがと、船長。」
「しっかし…お前さん、姉御さんいたんだな?心配してたぜ?」
「お姉ちゃん?私、一人っ子だよ?」
「はぁ?」
そう言いながら一番上の差出人を見る───Luuna
「あっ、お母さんだ!」
「…は?お母さん?お姉さんじゃねぇのか?」
「…船長、その人自分の名前なんて言ってた?」
「ルーナ、っつってた…待て、待て───待て待て待て待て!?まさか、あの人───」
私はそれに答えずに身体を二等マイハウスの方へと向け、歩を進める。
「ル、ルーパス!あの人がお前さんのお母さんってことは、まさか、あの人、“神速”の───!!??」
「───うん」
その言葉に立ち止まって身体ごと船長の方を向く。
「───“神速のルーナ”!それが、私のお母さん!」
「───!!!」
船長が絶句したのを見て、私は二等マイハウスに入っていった。
「ん?なんかご機嫌っスね、ルーパス。」
「そうね。何か嬉しいことでもあったかしら?」
「ん~?なんでもな~い!」
「「???」」
エイデン君とリアに不思議がられるけど、流しておくことにした。星見の花は二等マイハウスの花瓶に1本挿しておいて、手紙の束を開く。…あ。
「スピリス、カティからスピリス宛にお手紙来てるよ。」
「ほんとですにゃ!?読ませてほしいにゃ、旦那さん!」
スピリスにカティからの手紙を渡し、私はとりあえずお母さんからの手紙を読むことにした。
「そういえば、ルーパスさん。」
「うん?」
「あなたは…いつか、現大陸に帰るのかしら?」
「うん、帰るよ?本当は自由に行き来できたらいいんだけどね。」
あとはソフィ達の世界にも行けたらいいんだけどなぁ…前に言ったら辻pに困った顔されちゃったし、難しいのかな。
「そうなのね…いつか、あなたとあっちでも会えるかしら。」
その言葉に手紙から顔を上げる。リアはどことなく不安そうな顔をしてた。
「…また、きっと会えるよ。諦めなければ、生きていれば───きっと。」
私は、そう思う。だって───
「?なんっスか?」
「……ううん、なんでもない。」
現大陸で何度も会っているにも関わらず、私の事を忘れているけれど。…エイデン君と、また一緒に戦うこともできてるんだから。
side ???
この物語はこれで終わる。
1人の初心者プレイヤーと、1人の熟練ハンター。
その2人が一緒にいた記録の一部がこの物語だ。
……さて。
私は、この物語をこう名付けよう。
Monster Hunter World Hunter Story: Crossed Real World & Another World
これは、モンスターを狩る者達の世界で、ゲームのプレイヤーがゲームを通してモンスターを狩る者達の世界を知る物語。
ゲームのプレイヤーと異世界の狩人が交差した狩人達の物語。
…どこかの世界にあったかもしれない、不思議な出会いと交流の物語。
登場人物・登場用語簡易解説
異世界のハンター:プレイヤー達の事を指す。モンスターハンターの世界に生きている存在達にとって、プレイヤー達は“突然現れた謎のハンター達”という認識になる。共通する特徴として、“どんな状況でも死なない”、“少し動きがぎこちない”というものがある。
ギルドパス:正式名称“ハンターズギルド所属ライセンスパスカード”。ハンターズギルドに所属することを証明する身分証明書。簡単に言えば免許証のようなもの。ギルドに所属する者が所有し、氏名、性別、所属ギルド支部に出身地、派遣先でのハンターランク…その他様々な情報が刻まれるもの。今回見せたのは情報の一部なため、他にも色々と書かれていることはある。
カプコン:モンスターハンターシリーズ全般の発売元。ただし、当作品におけるカプコンは
拡張パッケージ:主にゲームをVRに対応させるための追加データの総称。いくつもの種類に分かれており、プレイヤーは自分が使いたい拡張パッケージを入手し、ゲームにインストールすることによってその機能を実装させることができる。このパッケージをインストールすればするほどゲーム内の表現は現実に近づき、モンスターハンターシリーズにおいてはモンスターハンターの世界に住む者達から“異世界のハンターである”と判別されにくくなる。
長期クエスト:下手すれば24時間丸々かかるクエストの事。通常のクエストよりも遥かに高い体力を持つモンスターと戦うと考えればいい。
調査班リーダー:5期団指南役。氏名未設定。辻pが出撃するのに合わせ、自分も出撃した。戦闘終了後、Sophiが動かないのを見て暴れかけたが、ソードマスターによって気絶させられ、止まる。
ルーパスの相方:受付嬢。氏名は独自に設定してあるが、ここでは触れないことにする。辻pが出撃するのに合わせ、自分も出撃した。そもそもの元ネタはたまに出没しているらしい“受付嬢”という名のプレイヤー。当作品においては大剣使いで、主に“アングイッシュ”や“業剣グルンティング”───そう、イビルジョー系列の武器を用いる。ハンターとしての実力はまぁまぁ。編纂者としての知識と環境に恵まれたことが彼女を後押ししたようだ。なお、秘匿エリアにてSophi達が調査班リーダーに声をかけられる前に総司令と話していたのは彼女。
総司令:調査団総指揮者。氏名未設定。当作品本編中では明かされていないが、最後にLupusに依頼したのは“キリン亜種”の生息調査。4期団が追ったかもしれない古龍が生息している可能性があるというのを知るが、自身では危険だと気がつき、泣く泣く依頼した。その後、痕跡が発見された4体のモンスターに加えて黒炎王が現れたとの報告を受けて酷く慌てた。無事に全員が帰還した際は会議の時はまだ保てていたが、クエスト参加者全員が退室した瞬間安心で気が抜けて倒れ込んだそうな。
エイデン:陽気な推薦組。氏名は公式設定。今回は上位レイア装備にレイ=ロゼッテスで参戦。一時的に片手剣を封印し、ヘビィボウガンで鍛え直し中。プレイヤーとしての名称は“エイデン”になっている。
ソードマスター:先生。氏名未設定。
自奏楽器:独り手に音を奏でる楽器。主にBGMを鳴らすもの。魔法的な要素が強いような道具ではあるが、一応工房の謎技術によって作られた楽器。魔法のような技術を扱うのも工房の不思議な点である。
護身弓:護身用の弓の通称にして、攻防どちらの護身用の弓の原型となる“護身シリーズ”の一種。性能的には攻式と防式を合わせたような性能をしているが、派生する2つのシリーズより性能そのものは低い。銘は生産段階で“試作護身長弓”、強化すると“ガードボウ”となり、最終強化で“正規護身専用長弓”となってから攻式か防式のどちらかに強制派生する。
護身弓・攻式:護身用の弓のうち、攻撃的な性能を持つ弓の通称。“護身・攻式シリーズ”と言われるものの一種。総ての矢が破魔矢のような鏃の付かない矢で、弓そのものの力も弱いため、打撃ダメージ以外入らなくなっている。逆を言えば打撃ダメージのみであるお陰でスタンが非常に取りやすい。あくまで護身用の武器であるため、攻撃力は低め。銘は初期段階で“試作護身長弓・攻式”、強化すると“ガードボウ・A”となり、最終強化で“正規護身専用長弓・攻”となる。
護身弓・防式:護身用の弓のうち、防御的な性能を持つ弓の通称。“護身・防式シリーズ”と言われるものの一種。素の攻撃力が1であることに加え、無属性という性能で弓につけられる全てのビンを使える。戦えなくはないが、普通は戦闘に使おうとは思わない。主に対人での模擬戦に使われ、まさに“相手を殺さぬ護身用”をコンセプトとした武器。銘は初期段階で“試作護身長弓・防式”、強化すると“ガードボウ・D”となり、最終強化で“正規護身専用長弓・防”となる。
睡眠砥石:武器に一定時間睡眠属性を付与する砥石。ビンで状態異常属性を付加できるし、抗竜石で狂竜症の抑制効果付与とかできるのだから状態異常属性を付与できる砥石があってもおかしくないと思うという考えから。
リア:勝気な推薦組。氏名は公式設定(恐らく)。最後にしか出てこなかったが、長期クエストの後エイデンに怒ったらしい。
エイデンを守ろうとした師匠:4系列、X系列に出てくる筆頭リーダー。氏名ジュリアス(公式)。当作品では未登場だが、エイデンが今回も無茶をしたことを知って怒ったらしい。
師匠を守ったあの人:4Gに出てくる“師匠”。氏名不詳。当作品に強い関わりはない。
撃龍槍の元に向かった師匠を救ったハンター:我らの団ハンターのこと……なのだが、当作品のモンスターハンターの世界において我らの団ハンターというのはLupusとその夫(と総司令に言われていた幼馴染の少女)のこと。ただ、エイデンは彼女達のことをすっかり忘れている。Lupusは覚えているが、遅れてきた後に話しかけられた際に忘れられていると感づいたようだ。
tuzip:プレイヤー名の決定の際、日本語入力が対応していないときに使用していた穂乃花のキャラクター名。
船長:交易船のあの人。現大陸と行き来するというのを利用して調査団と現大陸にいる人達との手紙の受け渡しなども引き受けている。
カティ:X系列に出てくるネコ嬢。今回は手紙の差出人のみでの出演。Lupusは出身地がベルナ村なので普通に知り合いである。
世界観関連について
現実世界
モンスターハンターの世界
Lupus達が住む世界。“英雄の証”は辻pが現れてから伝わった。クエストは短期クエストと長期クエストに分かれており、長期クエストは基本的に防衛クエストのような扱いとなる。また、古龍種は絶命することがないといわれ、しばらく経つと目を覚まし、休眠のために移動するという。なお、絶命や討伐で動かなくなったモンスター達が時間が経つとその姿が消えるのは霞龍のせいだとされている。正直言ってこの世界も私達が見ているモンスターハンターの世界とはかけ離れている気がする。また、ゲームによってモンスターハンターの世界と現実世界との時系列でズレが生じるようだ。
モンスターハンターワールド:アイスボーン
大体は私達の世界にあるものと同じ。こちらと違う大きな点は“特定のエリアがモンスターハンターの世界と実際に繋がっている”という点。もっとも、私達の世界にあるものももしかしたら繋がっているかもしれないが。ゲームであると同時にモンスターハンターの世界の言語と現実世界の言語との相互翻訳機を兼ねている。
Lupusのいる集会エリア
モンスターハンターワールド、及びモンスターハンターワールド:アイスボーンにおいて、モンスターハンターの世界と繋がる特別な集会エリア。サーバー内に10個と言われていた
ギルドパスとギルドカードの表記の差異
ギルドと穂乃花が
フレーム回避について
私達プレイヤーには結構馴染み深い、“回避後に無敵となるプログラムで設定された数フレームでの回避技術”であるが、モンスターハンターの世界においては“特定の行動後にギルドカードが発生させる攻撃を通り抜けられる時間での回避技術”となる。当作品におけるモンスターハンターの世界は、ゲームの仕様をそのままモンスターハンターの世界に当てはめたようなものであり、当然ごく僅かな無敵時間によるフレーム回避も存在する。ならば作品ごとに猶予フレームが違うことがあるそれをどうやって再現するか、と問われれば大体の作品に存在する“ギルドカード”に無敵時間を発生させる効果を持たせて再現しているのである。モンスターハンターの世界ではこの無敵時間のことを“透け時間”と呼んでおり、“フレーム回避”という言葉が
ハンターの通り名
モンスターハンターの世界において、ハンター達個人に付けられることがあるその人そのものを指すもの。“神速”といえばLuunaの事を示す。
戦闘描写でのコンセプトの軽解説
カンタロス VS Sophi & Lupus
“強くとも苦手なもの”。いくら強いとはいえど、苦手なものはある。人それぞれではあるが、その人はそれが苦手であっただけ。そんな強者が苦手なものとそれに驚く別の誰かをイメージして構成した戦闘描写(?)。
ジュラトドス VS Sophi & 結女 夢
“友人との共闘”。楽しく談笑しながら一緒に戦う。ゲームとは別に友人同士で行っている勝負も追加し、負けたら悔しがり勝てば喜ぶ。そんな友人との一幕をイメージして構成した戦闘描写。
キリン & キリン VS Sophi & Lupus
“
オオナズチ VS Sophi & Lupus & エイデン & ソードマスター
“未知との遭遇”。深淵の洞という未知の領域の調査。新大陸にいないと思われていた未知の古龍。参加する全員にとって“未知”が存在する調査活動をイメージして構成した戦闘描写。
紫毒姫リオレイア VS Lupus
“様子がおかしい”。様子がおかしくなった紫毒姫リオレイア。一度鎮めようとするLupus。暴走と鎮静、どちらが勝つか。そんなぶつかり合いをイメージして構成した戦闘描写。
マガイマガド VS ソードマスター
“武士VS武士”。喰らったモンスター達の怨念のようなものを背負う亡霊武者・マガイマガド。一期団として今を切り開き、調査団の安全を守っていたという矜持を背負う太刀の老兵・ソードマスター。怨念の槍と守護の刀、どちらが勝つか。そんなぶつかり合いをイメージした戦闘描写。
ネルギガンテ VS Sophi
“戦闘を通じて知れ”。自身の言葉を伝えたいネルギガンテ。モンスターの言葉を理解できないSophi。ならば、戦闘の中で言葉を見つけろ。猛攻の中で感覚を研ぎ澄ませ。敵に回りながら何かを伝えたいというようなぶつかり合いをイメージして構成した戦闘描写。
錆びたクシャルダオラ VS エイデン
“過去の後悔”と“鍛え直し”。知っている人はいると思うが、モンスターハンター4Gにおいてエイデンは“錆びたクシャルダオラ”と因縁がある。その因縁を…というよりは、自身の後悔を晴らすために戦う。さらに、黒龍戦において機関竜弾とバリスタ以外撃っていなかったことから“これではだめだ”と思い、鍛え直しを行っている。エイデンの過去とクシャルダオラとの因縁をイメージして構成した戦闘描写。
錆びたクシャルダオラ VS ネルギガンテ
“邪魔するな”。自分が戦っていたのだから、邪魔をするな。そんな怒りをネルギガンテがぶつけているのをイメージした戦闘描写(明確に描写されてはいないとか言ってはいけない)。
紫毒姫リオレイア VS Lupus & 黒炎王リオレウス
“暴走した妻を止める”。夫婦喧嘩のようなもの。妻を止めるためなら本来敵に等しいハンターと協力するのも構わない、というものをイメージして構成した戦闘描写。余談だが、紫毒姫リオレイアは狂竜化のようなものを起こしていたためにこのような現象が起こっている。なお、原作において、どちらかが狂竜化してもう片方が狂竜化していない場合、夫婦同士で争いあうのかは不明(そもそもそんな出現条件のクエストがあるのかすら知らない)。
マガイマガド VS ソードマスター & 調査班リーダー
“教え子との共闘”。教え子が成長し、自分の助けになるまでになったことを喜ぶ半面、教え子がまだ未熟だと思う。まだまだ教えられることはあるというのをイメージして構成した戦闘描写。
錆びたクシャルダオラ VS エイデン & ルーパスの相方
“どれだけ恵まれていたかの再確認”と“過去との決着”。どれだけの自分が恵まれていたのかをはっきりと認識し、後輩に追い抜かされると思ってもそれを受け入れる。そんなエイデンの考え方と、エイデン自身の過去の後悔に完全に決着をつける。そんな状況をイメージして構成した戦闘描写。
ネルギガンテ VS Sophi & 辻p
“模索”。どうすれば戦えるか、どう戦いたいかの試行錯誤。そして、どうやったら答えを知ることができるのか。“伝えたい”という思いと“知りたい”という思いのぶつかり合い。“新人”と“古龍”のぶつかり合い。それを主にイメージして構成している戦闘描写。
おまけ 対霞龍の際に盗まれたもの
Sophi = 回復薬グレート×5、漢方薬×7、げどく草×2
Lupus = いにしえの秘薬×1、星見の麗花×1
ソードマスター = 調合書①入門編、薬草×5、ハチミツ×3
エイデン = 生命の大粉塵×1、秘薬×1
※本来盗まないものまで盗んでいますがメラルー達にアイテムを盗られるハンター達を見て何を盗めば戦意喪失させやすいかを学んだと考えていただければ。食べることができないアイテムに関しては一度盗んだら姿を消し、何処かに置きに行っているのだとでも。