見たくないのは、変わりたくないから。
でも何処まで行っても、自分は自分だ。
裏側から、気持ちは支えられる。
褒めて貰えるのは有り難いのだけれど。けれど、指導はちゃんとして欲しい。
顧問の先生が私にかけるのは基本誉め言葉だけで、何かを指摘される事はほとんど無い。
これは私が完璧だから、ではない。指導力の問題だ。それと保身か。
全中四位、父親は元日本代表。栄明の客寄せパンダとして申し分ない、この私の機嫌を損ねたくないから。
その程度でしかない。
小さい頃から天才だ神童だと持ち上げられ、そしてそれを真実にするため血を吐く思いで耐えてきた。他の生き方なんか、知らない。
それがいつまで続くのかは、分からないけど。
今日も体育館は盛況だ。栄明バスケ部のエース、千夏先輩の取り巻きは年毎に増えている。まあ私目当ての人たちも増えてはいるけど。
別に連中には興味なんか無い、どうでもいい。遠くから見ている分には、害もないし。
と。その中に見知った顔を見つけて私は立ち止まる。
そして駆け寄り、手を突き出して言い放つ。
「――観覧料、2000円」
「払えるかぁ!」
スパァンと返ってきたリアクションに、思わずニヤけてしまう。
さすが中学時代から一緒だけあって、分かってるなコイツは。
猪股大喜、男子バド部。私の友達その一、スターでもなんでもない栄明のじゃがいも。なんだか知らないけど、大喜の前では気を張る必要がないから落ち着く。
まあこんなの相手にまで営業スマイルするほど、暇じゃないけどさ。
からかってやると楽しい、だからずっと仲が良い。それだけ、だ。……それだけ。
「あ。……っ、練習練習っ」
もうちょっと遊んでやろうと思ったのに、大喜は突然練習に戻ってしまう。
なんだよ、と思っていると不意に千夏先輩の姿が目に入った。
……そうか、見られてたと思ったのか。だから逃げたのか。
最近大喜は、千夏先輩が好きらしい。どう考えても釣り合わない身の程知らず、バカバカしいほどの格差があるのに。
それでも一途、というのはちょっと感心する。あのバカはバカな分真っ直ぐだし、もしかしたらもしかするかもしれない。もしかしないかもしれないけど。
ま、応援くらいはしてやるつもりだ。
――つもり、なんだけどさ。
どうにも素直に、背中を押してやる気になれない。どうせ失敗してボロボロになる、そんな大喜は見たくもない。
いや、違うな。私が嫌なのは、それじゃない。
大喜が、離れていく感じがする。いつも私のとなりでバカやってる大喜が、いつのまにか大人びていくような。
それが、寂しいんだろう。若しくは小さい頃に経験した、友達の取り合いみたいなものだ。最近はご無沙汰な。
大喜が千夏先輩と仲良くなれば、私と一緒にいる時間は減るから。それでなんとなく、掠め取られた気になってしまうだけだ。
そうでなければ、
――考えるな。
「大丈夫、私は問題ない」
口に出して確認する。私は、考えてはいけないから。
これ以上、自分を苦しめるようなものを増やしたくない。そうなっては、いけないんだ。
私の生き方を、歪めないように。気付かないように。
うまく自分を偽っていかなければ。
血が滲むほど拳を握り締めて、雑念を追い払う。私は、蝶野雛だから。
不死身の身体、不屈の闘志。戦う女、無敵の蝶野雛。
そうでなければ、私でいられなくなる。
只でさえ頑張るのが苦手な上に早生まれで体格も劣っている私は、積み上げる事にはあまり向いていないのだ。
不要なことは、考えていられない。集中して、研ぎ澄ませるしかない。自分を削って、勝つしかない。
他の勝ち方があるなら、教えて欲しいくらいだ。
だからこそ、大喜は大事なんだ。大喜と一緒にいる分には、僅かでも気を抜いていられるから。大喜がいなくなったら、私は破裂する。
大喜を失いたくない、でも縛り付けたくもない。
どうしよう、かな。応援してあげたいけど、難しい。
色々と自分も回りも複雑になって、面倒だ。小さい頃みたいには、いかないんだな。大人になっていく、って大変だ。
それでも。私は進むしかないから。
蝶野雛は、孤高の花なんだ。