東方庇護録(旧作)   作:まほろばのーぶる

52 / 57
第51話:底が見えない主の秘密~執事は全てを知っている~


Walter perspective

 

A little while ago・・・

 

 

「・・・あははは!中々やるじゃないか!」

 

あちこちがボロボロになった月光館の脱衣所に、1人立つ角の生えた少女。

その少女はカラカラと楽しそうな声で笑っている。

 

ガラガラガラガラ

 

瓦礫の山が崩れ落ちる音が脱衣所に響くのを耳にしながら精一杯の力を身体に込める。

自分に覆いかぶさっていた、一際大きな瓦礫を退かして痛む身体に鞭を打って立ち上がる。

 

「っはぁ、はぁ、はぁ、ぐっ。」

 

なんとか立ち上がったは良いものの、疲労困憊の身体は言う事を聞いてくれないらしい。

身体に上手く力が入らずに、ふらついて再度膝を地面に付かせてしまう。

身体中がぬるま湯に浸かっているかのように生温く感じる。

ふと見ると身体を覆っているタオルが所々赤く滲んでいる。

自分で思ってた以上に出血してしまっているようだ・・・

 

思うように動いてくれない身体に内心で舌打ちをしながら、代わりと言ってはなんだが、強い視線で目の前の少女を睨んでおく。

 

「おや?威勢だけは良いみたいだね。・・・でも、身体の方はもう限界みたいだよ?もうまともに妖力すら使えない程に弱ってるみたいだ。」

「・・・くっ。」

 

先程から目の前の侵入者の少女と戦闘を繰り広げている・・・が、まったく歯が立たない。

何故か相手から攻撃を仕掛けてくる事はないが、私の攻撃は全て軽くいなされ、こちらの体力ばかりが削られていく。

 

それに、この少女と対峙していると、まるで見えない鎖で縛られているかのように、いつもの様に力が発揮できない・・・

その所為か、満身創痍の身体になんとか妖力を練ろうとしても上手くいかず、何度も失敗している。

 

対する目の前の少女は余裕そうに腕を組んでこちらを観察するようにニヤニヤとした笑みを浮かべて見てくる。

 

・・・この妖怪は危険すぎる。

この辺りでは見た事がない妖怪で、未知の妖怪だ。

その実力は計り知れない程に、私とこの妖怪とでは力の差がありすぎる・・・

 

このままでは、攫われたアズール様を救えない・・・

 

握りこぶしを握りながら、自分の無力さを痛感する。

さっきまではアズール様を攫われた事で頭に血が上っていたが、敵との実力差を分からせられて、段々と冷静さを取り戻してきた。

 

・・・この状況はアズール様を攫われた事で冷静さを欠いた私の失態だ。

目の前の強者との実力差にいち早く気付き、紅魔館の伯爵達に救援を求める。

それが、私が行動するべき最適解であったはずだ。

それなのに、頭に血が上っていた私は無謀にも単独で挑んでしまった。

 

もし、紅魔館に救援を要請できていたら・・・

もし、伯爵か夫人が助けてくれていたら・・・

 

・・・いや、それ以前に、私がこの少女と渡り合える程に力を持っていれば、こんな結果にならずにすんだのだ。

 

何が『アズール様は私が守る』だ・・・

守る力も無いのに、守ると誓うだなんておこがましいにも程がある・・・

 

 

結局、私は・・・守られてばかりじゃないか・・・

 

 

自分の弱さを唇とともに噛み締める。

唇から赤い液体が(したた)り落ちる。

 

そんな私を、目の前の角の生えた少女は興味深そうにニヤニヤと笑みを浮かべて見ている。

 

「・・・なるほど。やっぱりあんたはあのお嬢ちゃんの事がそんなにも大切なんだね。頭に血が上って、勝てない戦いに挑んじゃう程には・・・」

「・・・っ当然です!アズール様は生まれて初めて私の〖家族〗になってくれたお方。〖家族〗を大切に思う事は当たり前の事です!」

 

少女の言葉に力強い言葉で即答する。

 

「・・・あははは。やっぱりあんたは私が見込んだ通りお嬢ちゃんと関わりが深い妖怪だった訳だ。ここに残って良かったよ。()()()()()が聞けそうだ。」

 

少女は私の言葉に可笑しそうに笑う。

知りたい事・・・?

この少女は一体何を・・・?

 

「・・・さて、そんなお嬢ちゃんと関わり深いあんたに聞きたい事があるんだよね。」

 

少女は膝を付いている私に視線を合わせるようにしゃがみこんで、私の顔を覗き込んで、私に1つの疑問を投げかけてきた。

 

「あんたは、あのアズールってお嬢ちゃんが()()()()()()()知っているかい?」

「・・・え?」

 

そんな少女の言葉に、一瞬訳が分からずに呆ける。

 

「それは一体どういう・・・」

「・・・いや、私の思い違いかもしれないけれど、あのアズールってお嬢ちゃんはどうも、何かを隠してる気がするんだよね。それも必死に・・・。」

 

あちこちがボロボロになって静かになっている脱衣所に、少女の声だけが静かに響いていく。

 

「私はこう見えて長く生きていてね。どんな隠し事でも見抜く事ができる目を持ってる、と自負しているんだよ。・・・でもね。そんな目を持つ私でもあのお嬢ちゃんだけは、確信を持って見抜く事ができなかった。・・・こんな事初めてでさ。」

 

少女は困惑しているように顔を歪ませている。

能力で見る事ができるその心情にも困惑や疑念といった感情が見える。

 

「私の長年の勘がお嬢ちゃんには、何か計り知れない秘密があるって言っているんだ。・・・私の胡散臭い古い友人もお嬢ちゃんには首ったけだし、それだけでも怪しいでしょ?・・・それに、よく分からないけれど、お嬢ちゃんはずっと何かに怯えてるように感じるんだ。・・・でも、確信を持ってそうだとは言えないんだよね。こんな事、私にしてはかなり珍しい事なんだよ?」

 

冷や汗が流れる。

心臓が早鐘を打つ様に、ドクンドクンと激しく鳴り始める。

 

少女の言葉に30年前の出来事が想起されていく・・・

 

 

30年前、アズール様は自身が持つ能力で私達全員を救おうとして、能力が暴走して封印された。

 

その封印される直前、私が持つ能力によって、一瞬だけ垣間見えたアズール様の心情。

 

 

底知れない罪悪感

 

 

誰に対する罪悪感なのか。

何をした事による罪悪感なのか。

その全てが分かった訳ではない。

 

・・・でも、あの時のアズール様はまるで、何かに必死に贖罪するかのように、何かから逃れるかのように世界の悲しみを背負っていった。

その過程でご自分の事はどうなっても問題では無いかのように・・・

 

そして、唯一その時のアズール様の心情、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

・・・そして、その時に聞かされた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その話を聞いてから、私はそのアズール様の秘密に触れる事を極端に恐れている。

 

もちろん胡散臭い隙間妖怪の胡散臭い話だと言うのは分かっていた。

胡散臭い隙間妖怪に騙されてる可能性だって十分に有り得た。

 

・・・でも、その話を聞いた時、能力で見えていた嘘偽りだらけの隙間妖怪の心情は、その話をする時だけは嘘偽りの無いまっすぐなものだった。

それに、隙間妖怪からアズール様に向けた心情・・・

その全てを踏まえた上で、私は隙間妖怪が話した事は真実なのだと悟った。

だから、アズール様の記憶を封印する必要があると語った隙間妖怪に私は何も言わなかった。

 

 

アズール様には、何か底知れない秘密がある。

 

 

・・・そんな事は、30年前から知っていた事だ。

 

 

・・・でも。

 

 

 

・・・。

 

 

 

 

・・・・・・。

 

 

 

 

 

・・・怖い。

 

・・・怖かった。

 

あの隙間妖怪の話が本当なら・・・

アズール様の秘密を深くまで知ってしまったら・・・

アズール様の秘密が明かされてしまったら・・・

アズール様の〖心の奥底〗に触れてしまったら・・・

 

 

二度とアズール様と会えなくなってしまいそうだから・・・

 

 

「ねぇ?あんたは何か知っているんじゃないのかい?」

 

思案にふけっていた私を、少女の声が現実に引き戻す。

 

「あのお嬢ちゃんと長い年月一緒に居たあんたなら、何か知ってるんじゃないのかい?」

 

少女の追及に冷や汗が止まらない。

 

「それに、紫が完全な人払いをしてまでアンタに内緒の話をしていたのは知っているんだ。」

 

心の臓が破裂してしまいそうな程に心臓は早鐘を打ち、身体に上手く力が入らず小刻みに震え始める。

感じる恐怖に涙さえ出てくる。

 

「・・・あ、うあ。」

「ん?なんだい?急にそんなに怯えた顔して・・・。」

 

・・・だ、だめだ。

アズール様の秘密をこの少女に知られるのは・・・

アズール様の秘密が明るみに出るのは・・・

私が、アズール様の秘密に触れるのは・・・絶対に・・・

 

「わ、私は、な、何も知らない・・・」

 

絞り出すように、目の前の少女に震える声で返答する。

その返答を聞き、対峙する少女の真紅の瞳が細くなっていく。

私をまっすぐに見据えてくる真紅の瞳から能力で見える、少女の疑惑の心情が増していく。

そんな疑惑の心情から必死で目を逸らし続ける。

 

「わ、私はアズール様の秘密なんて、し、知らない。」

「それは嘘。」

 

私の答えを遮って、少女は私の頭を掴んで持ち上げてしっかりと目を合わせてくる。

少女が少しでも力を入れたら私の頭なんてぺしゃんこに潰れてしまいそうな程に、私の頭を掴む少女の華奢な手にはとんでもない力を感じる。

 

「あぐっ、うあ・・・」

「言ったでしょ?私には隠し事はできない・・・つまり、あんたはあのお嬢ちゃんの何かしらの秘密を知ってる訳だ。」

 

少女は私の頭を掴んだまま、目を逸らした私の目を真紅の瞳で覗き込んでくる。

 

「・・・じゃあ、質問を変えようかな。」

 

目を合わせてくる少女の真紅の瞳が「これ以上の嘘は許さない」と訴えかけてくる。

 

・・・でも。

・・・いやだ。

あの日、あの時のアズール様の心情は、この秘密だけは、知られては・・・

何をされても、何があっても。

この秘密だけは・・・

 

 

「あんたは今のままで良いの?」

 

 

そんな少女の問いに、まるで雷に撃たれた様な衝撃を覚える。

 

その言葉はするりと私の中に入り込んできて、まるで心の臓にピシャリと冷水を掛けられたかの如く、全身から血の気が引いてくる。

咄嗟に否定の言葉が口をついて出てくる。

 

「ち、ちが、わ、わたし、は・・・」

「いや?違わないね。一体いつまで、今のままお嬢ちゃんの優しさに甘え続けるんだい?」

 

私達の事なんて全然知らないはずなのに、まるで全て見てきたかのように問いを続ける少女。

 

「い、今の、まま?」

「そうだよ。私はあんたの事よく知っているよ。隠れて見てきたもの。」

 

少女の真紅の瞳が私を非難するかのように見てくる。

 

「風呂場では随分とあのお嬢ちゃんに甘えていたね。お嬢ちゃんが過去の傷を慰めてくれる優しい妖怪で良かったね。」

 

少女の言葉はまるで茨の如く、私の心を捕らえて離さない。

 

「でも、あんたはただ甘えているだけ、いつまで経っても護られる側。・・・救われてばかりの今のままで本当に良いの?」

 

私の心を捕らえる茨の言葉は私の心を締め上げていく。

身体には何もされていないのに、胸にチクチクと痛みが走り始める。

 

「あんたは、あのお嬢ちゃんの理解者であるようで、その実、何も分かっちゃいない。・・・あんたは本当にお嬢ちゃんの〖家族〗なのかい?」

 

〖家族〗という言葉に胸が張り裂けそうになる。

 

私は貴方の事は執事というよりは、〖家族〗みたいに思っています。

 

アズール様と初めて会った時に掛けられた言葉を思い出す。

 

・・・家族。

 

・・・私は貴方を〖家族〗として愛していますよ。

 

先程、風呂場でアズール様に掛けられた優しい言葉を思い出す。

 

・・・かぞく。

 

「あのお嬢ちゃんにはあんたと同じように、ひょっとしたらあんたよりも大きな心の傷がある。・・・なんとなく分かるのさ。あんたには分からないの?・・・本当に〖家族〗だったら、秘密が何であれ、あのお嬢ちゃんを助ける為に動くべきじゃないのかい?」

 

 

本当の・・・家族・・・

 

 

アズール様に拾われてから今までの幸せな生活を思い浮かべる。

 

今のまま・・・

アズール様に甘えられて・・・

アズール様が護ってくれる帰る場所があって・・・

アズール様に慰めてもらったり・・・

アズール様に幸せをもらってばかりで・・・

アズール様に救われてばかりで・・・

 

「ア、アズール様・・・わ、私は・・・」

 

もしかしたら少女が言う様にアズール様にも、私以上に辛い過去があるのかもしれない・・・

もしかしたらアズール様にも、心に大きな傷があるのかもしれない・・・

もしかしたら・・・

 

「さぁ。話してみなよ。その秘密。悪い様にはしないからさ。」

「あ、あぁ、うぁ・・・」

 

少女の真紅の瞳、そしてその心情に込められた激情が私に虚実を述べる事を許さない。

 

「あ、うぁ、あ、あずーるさまぁ・・・」

「さぁ、秘密を話して楽になりなよ。私があんたの変わりにあのお嬢ちゃんを・・・」

 

少女の言葉に囚われて、完全に屈してしまいそうになった、その時。

 

「ちょっと、一足飛びすぎじゃないかしら?」

 

唐突に瓦礫の山だらけの脱衣所に鈴のような少女の声が響いた。

 

その刹那、私の頭を掴んでいた角の生えた少女が私の頭を放し、距離を取った。

 

膝をついた私の前に小さな少女がふわりと現れる。

 

「・・・まいったな。・・・見誤った。・・・こりゃ()()()()()()()()()()。」

 

角が生えた少女が冷や汗を流しながら挑戦的な笑みを浮かべて見ているのは紅い宝石がぶら下がった翼を持つ少女。

 

「あらあら。ゆかちゃんに話だけは聞いているのね?はじめまして。鬼の〖伊吹萃香〗さん・・・の()()()()。」

「っ!あはっ!あはははは!さすが、何でもお見通しって訳だね。あんたがあいつが言ってた〖何でも見通す悪魔〗だね。」

 

顔を上げた先にいたのは紅魔館の重鎮。

アズール様の友人で『ありとあらゆるものを見通す能力』を持つ真祖の吸血鬼。

 

スカーレット夫人がとてつもない熱を放つ炎剣を携えて少女と向かい合って静かに立っていた。

 




【後書き】
どうも【東方ダンマクカグラ】のサービス終了が近づくにつれて虚しい気持ちが強くなっていくまほろばです(т-т)
Twitterにダンカグの思い出を都度投稿していっているので良ければ皆さんで懐かしみながら最後までダンカグを応援しましょう。

それはそうと、51話です!
まずは、投稿が少し遅れてすみません 
今話は過去話との繋がりを意識したり、話が長くなりすぎて2話どころか3話に分けたりで投稿に時間が掛かりました( ̄▽ ̄;)

それはさておき、今話ではアズールが攫われた後のヴァルターと伊吹萃香さんとの対峙のお話でした。
話中のリンクはそれぞれ関係する話へとジャンプするリンクとなっていますので、お手隙の際に、これを機に話を読み直して頂けると嬉しいです(*´ω`*)

さて、今話での行間の内容をここでひとつまみ。

今話でボロボロになっていた月光館の脱衣所ですが、萃香さんがヴァルターを投げ飛ばしまくって、そこらにぶつかりまくっていたのでボロボロになっていた様です。
以前のチルノさんの襲撃の際にもあったようにアズールが結界で保護しているのはあくまで外側だけなので内側の建物への護りは薄いです。
アズールは案外抜けているので気付いていませんが、気付けばすぐに修正して内側からの攻撃にも耐えられるように対応するでしょう。
萃香さんは本気でヴァルターをどうこうしようとは思っておらず、秘密を喋ってくれたら良いなぁくらいに思っています。
あと、現時点での鬼の伊吹萃香さんは嘘についてはまだ寛容な方です。
1000年後くらいに今回のように嘘をついたらもっと怒られると思います。

さて、といった所で今回はおしまいです!
次回は遅れずに投稿できると思いますので乞うご期待です!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。