サイヤ人 in ヒロアカ   作:H & J

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お待たせしました、ここから第5章です。時期的にはヒロアカのアニメ5期くらい。オリジナルストーリーです。



第5章
第38話 I・エキスポ、再び


 文化祭の日から月日が経ち、12月。

 

 彼と発目はこの日、パワーローダーに呼び出されて応接室に来ていた。向かい側に座る担任の隣にはオールマイトもおり、とても真剣な表情をしている。

 

 

「で、今日は一体何用ですか先生?」

 

「2人ともよく来てくれたな。実はお前達に重大な話があるんだ」

 

 

 開口一番重苦しい雰囲気を纏ったパワーローダーの声が部屋中に響き渡る。

 

 その表情には緊張が混じっており、もしかしてまた何かの説教なのかと思う中、パワーローダーは口を開いた。

 

 

「お前達宛に【Re:I・エキスポ】の招待状が届いた。雄英を通じてな」

 

「ああ、そういえばこの前ニュースでやってましたね。I・アイランドで1度中止になったI・エキスポを再開すると」

 

 

 何事かと思えばただの招待だった。

 

 今から半年程前、夏頃に開催された時はプレオープン日に敵の急襲で中止となってしまったI・エキスポ。

 

 巨大人工移動都市【I・アイランド】で起こった前代未聞の大事件から月日が経ち、準備が整い満を持しての再開が決定したと先日ニュースになっていた。

 

 

「雄英体育祭で発表したホイポイカプセルが今度の【Re:I・エキスポ】で展示されるから、開発者をそのレセプションパーティーへ招待しますとの事だ」

 

「ああ、ホイポイカプセル……懐かしいですね」

 

 

 春頃に作って体育祭の場で発表したホイポイカプセルが今になって展示される事に、2人は一瞬遠い目をして体育祭の日の出来事を振り返った。

 

 思えばあれから色んなものを作ってきたが、まさかここに来てホイポイカプセルが再び脚光を浴びるとは予想だにしなかった。

 

 

「まぁ、正確にはお前個人に招待状が届いているわけだが、チケットは2枚あるんだ。で、お前の事だからもう1枚は発目に渡すだろう? だから2人を呼んだってわけ」

 

 

 なるほど、よく分かっているじゃないかパワーローダー先生。

 

 ホイポイカプセルの開発者は彼なので、呼ばれていない発目は本来パーティーには参加できない。だがチケットが2枚あるとなれば、当然発目に渡すのが筋というもの。

 

 しかし、1度敵の襲撃を受けているにもかかわらず、よくこの時期に開催する気になったと思う。

 

 

「確かに俺も同じ事を思ったが、今年の雄英体育祭と同じ理由だろう。逆に開催する事で敵に屈しない強固な姿勢をアピールするって感じでな」

 

「それが見事に裏目に出たのが雄英ですけどね」

 

「そ、それはそうだが……あまり痛い所を突かないでくれると嬉しい」

 

 

 唐突過ぎる発目の容赦ない口撃に、パワーローダーが苦しそうな反応を見せる。

 

 やはり度重なる敵連合の襲撃は雄英に少なくないダメージを与えており、今でも大きな古傷として痛むらしい。

 

 

「と、とにかく、そのI・エキスポへの招待状だがお前らどうする? 出席するか否か……」

 

「行きましょう行きましょう! 以前はメディカルマシーンの開発で忙しかったので、残念ながら見送りになりましたし。全世界の科学者が集まって開発したベイビー達……必見ですよこれは!」

 

 

 というわけだ。発目が行きたいそうなので一緒に行くとしよう。

 

 彼は2つ返事で参加を希望した。

 

 

「そうか。まっ、概ね予想通りだな。ただ流石に2人だけで行かせるのは不味くてな。引率の先生がどうしても必要なんだ」

 

「ああ、それでオールマイト先生がここにいるわけですね」

 

「その通りだよ発目少女」

 

 

 どうしてオールマイトまで部屋にいるのかようやく分かった。今回のI・エキスポ参加に当たって、オールマイトが引率を務めてくれるらしい。

 

 

「私宛にチケットが届いたのもあるが、I・アイランドには私の友人がいてね。久しぶりに顔を見たくなったんだ」

 

「それってひょっとしてデヴィット・シールドの事ですか? 確か敵襲撃に関与したとして捕まったとニュースで……」

 

「そうさ。デイヴは今I・アイランドの収容施設にいるから、余計話せる時間が無くなってね。丁度良い機会だから、君達の引率ついでに彼と直接話をしに行こうと思って」

 

 

 なるほど、それで引率というわけか。シンプルな理由で分かりやすいし、これ以上の適任は存在しないだろう。

 

 

「他にも理由はある。今回のI・エキスポにはあのスターアンドストライプが警備に付いてる。私は彼女とも何度か面識があってね。是非とも会って話がしたいんだ」

 

 

 スターアンドストライプといえば、アメリカNo.1ヒーローとして君臨する世界最強の女である。

 

 滅多に本国から出ないと噂のヒーローがわざわざ海上都市に赴くとは、それだけ今回のI・エキスポには力を入れているのだろう。

 

 他にも世界の名だたるヒーロー達が集結するとの話で、主催側の本気度が分かる。

 

 

「というわけで、よろしく頼むよ2人とも。くれぐれも向こうの土地でやらかす事の無いようにね?」

 

「ええ、分かってますよそれくらい」

 

 

 こうして彼と発目とオールマイトの3人でI・アイランドに行く事が決まった。

 

 ちなみに【Re:I・エキスポ】の開催時期は1月なので、その時までゆっくり雄英で過ごすとしよう。

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 それから数週間後、12月24日。

 

 本日はクリスマスの前夜祭。日本全国が赤と白の2色に染まる中、ここ雄英でも年に1度の祭典を盛大に祝っていた。

 

 

「「「「メリークリスマス!!」」」」

 

 

 クラス一同の大合唱と共に掲げられるコップをくっつけ合いながら、彼も皆と一緒に目の前の御馳走にありつく。

 

 七面鳥、フライドポテト、ローストビーフ、ケーキなど、テーブルに並べられた豪華な料理はクラス全員の共同制作。

 

 ランチラッシュには確かに及ばないものの、これも中々どうして、美味と言えるクオリティである。

 

 

「いつもベイビーの開発に掛かり切りでこういう事はあまりしませんけど、たまにすると結構楽しいものですね! あっ、このエクレア美味しい……」

 

 

 彼の隣で同じように料理を食べる発目も、クリスマスをしっかり楽しんでいるようで何よりだ。

 

 あと、そのエクレアを作ったのは自分だ。発目の好物なので一応作っておいたが、お気に召してくれたのであれば嬉しい限りである。

 

 

「そうだったんですね。まさか私の好物をちゃんと覚えてくれてたとは。ちなみにあなたが今食べてるチョコケーキ、作ったの私ですけどお味はどうですか?」

 

 

 めっちゃ美味しい。割とマジで。

 

 勿論発目が作ってくれた物はどれも美味しいのだが、このチョコケーキ、チョコと生クリームのバランスが完璧で口にした時は内心驚いた。

 

 思っていた以上のクオリティで、お世辞抜きで面食らったのだ。発目がクラス内で一番料理上手なのは全員の共通認識だが、まさかこれ程とは。

 

 

「そうですか。そこまで褒められると何だか照れますね。前日から準備を進めて作った甲斐があります」

 

 

 自作のケーキをこれでもかとべた褒めされ、珍しく照れ臭そうにもじもじする発目。

 

 可愛い。シンプルにそう思った。

 

 この極上の表情は是非とも写真に撮って保存しておきたかった。高画質の一眼レフで。今持っていない事が何よりも悔やまれる。

 

 今後は発目の最高の1枚を撮影できるように、常にカメラを携帯しておこうと心に誓う彼であった。

 

 

「そういえば、この前先生方に呼び出された件はどうなりました? 確かヒーロー事務所へのインターンシップ、でしたよね?」

 

 

 話題は変わって、インターンシップの話を発目に尋ねられた。

 

 

 

 

 

 ──実は数日前、もう何度目かも分からない校長室への呼び出しを食らった彼は、そこで校長からこんな話を持ち出された。

 

 

「突然呼び出してすまないね。今回はヒーロー事務所へのインターンシップの件で話があるのさ」

 

 

 話を聞くところによると、つい先週ヒーロー公安委員会が全国のヒーロー科がある高校へこのような要請を出したという。

 

 

『ヒーロー科全生徒の実地研修実施』

 

 

 昨今増加している組織化した敵への対応学習が目的との事らしいが、話を聞く限りどうにもきな臭い。

 

 現在雄英は度重なる敵連合の襲撃や世間体もあり、インターンの自粛期間を設けていた。だというのに、ヒーロー社会の大元からやれと言われたのだ。何の前触れもなく、まだ世間からの目も厳しい中でのインターン再開。何かあるとしか思えない。

 

 実地研修をする目的は使える人材を増やす事だ。インターンでプロヒーローの活動をより身近に経験すれば、その生徒は1人前のヒーローへと成長するだろう。

 

 つまり今回の要請は、「ヒーローが足りないのでなるべく早く若手を育ててくださいね」という公安からのメッセージ。

 

 しかし解せないのは、今はどこでもヒーローが闊歩するヒーロー飽和社会であるという事。学生を急いで叩き上げる必要性が本当にあるのかと問いたいところだ。

 

 それでも公安はインターンの実施を要請した。

 

 

 ……そういえば、つい最近愛知県の泥花市で街全体を巻き込んだ暴動が起こったとニュースになっていた。何でも被害規模は神野区事件を上回るとか。

 

 保須市、神野区に続き今回の泥花市。立て続けに都市規模の人災が起こり過ぎて、遂に公安も重い腰を上げたと解釈できるが、それなら神野区の時点で要請を出しているはず。そもそも前者2つは敵連合が事件の発端だ。

 

 となると、推し測るに今回のインターン要請の真の目的は、対敵連合に向けての戦力増強といったところか。

 

 そして、学生を駆り出してまで人員を確保するという事は、それだけ敵の数が多いという事を意味する。つまり戦う相手は敵連合だけではないのだろう。

 

 ……まさかとは思うが、異能解放軍なんて随分昔の革命サークルが敵なんて可能性はあるだろうか。ここ数カ月、異能解放を謳う啓発本が突然再販され、現在やたらと売れている。

 

 何かの前衛的な思想に染まった人間が社会に紛れて水面下で活動するのはよくある話だ。そういう団体に限って無駄に数が多かったりする。

 

 

 と、そこまで考えていたところで校長から声がかかり、そちらに意識を向けた。

 

 

「で、話の続きなんだけど、今回その要請を出した公安から、なんと君にもヒーロー事務所へのインターンに行けないか打診しろと言われたのさ。恐らく君の実力を見込んでのものだろうね」

 

 

 大方そうだろうなという気はしていた。

 

 これまで散々力の片鱗を見せてきたのだ。その殆どが世間には知られていないが、雄英の上の立場の公安が自身に関する情報を掴んでいるのは把握済み。

 

 別に必死になって隠す気もないから、そのような要望が来たところで「だろうな」としか思わない。

 

 それよりもインターンである。

 

 公安は既に知っているだろう、自身がオールマイトを超える力を有している事を。その気になればたった1人で国どころか世界をひっくり返せる事を。

 

 こちらも知っている。自分の力がもしも社会に牙を向けたら不味いので、どうにかして秩序側に取り込めないか色々と摸索している事を。その最も有効な手段がヒーローにさせる事だと。

 

 

 だが、生憎とこちらは初めからヒーローになるつもりなど毛頭ない。個人的に守りたいと思った相手さえ無事なら、他がどうなろうとぶっちゃけどうでも良いのだ。

 

 ヒーローになると助ける気も無い人達にまで気を配る必要が出てくる。態々どうでもいい相手のために動く義理などこちらには一切ない。

 

 分け隔てなく助けるのはヒーローの領分だ。自分ではない。

 

 

「結果は分かり切ってるけど一応聞くね。要請に応えてインターンに行くかい?」

 

 

 校長からの問いかけに、彼は否を主張した。即答だった。

 

 

「OK、答えてくれてありがとう。公安にはこちらから伝えておくよ。話はこれでお終いさ、お疲れ様」

 

 

 こうして校長との形骸化したやり取りを済ませた彼は、校長室を後にして寮へ戻って行った。

 

 

 

 

 

 ──という事が数日前にあったわけだが、それがどうかしたのだろうか。

 

 

「いえ、特に何かあるわけでは。しかしあなたも相変わらず意固地ですね。頑なにヒーローになりたくないと言ってる方はあなたが初めてですよ」

 

 

 そう言われても、こればかりは個人の価値観の話なので勘弁してくれると助かる。

 

 彼は深い溜め息を吐いた。

 

 

「大丈夫です、分かってますよ。私だって気の進まない事を他人に押し付ける気はありませんから」

 

 

 その発言はお互いにとってブーメランになる気しかしないが、とにかくこちらのヒーローに対する価値観、人生観につべこべ言わないでくれるのはありがたい。

 

 つくづく発目と出会って本当に良かったと思う。

 

 

「ふふっ、嬉しい事を言ってくれるではありませんか。ならばもっと楽しみましょう。何たって今日はクリスマスイヴですから!」

 

 

 発目の満面の笑みがヒマワリのように花開いた。

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 12月末、蛇腔総合病院の地下研究所にて。

 

 この日、敵連合改め超常解放戦線の幹部となった荼毘は、殻木球大ことドクターのもとへ訪れていた。

 

 

「ようドクター、研究は順調か?」

 

「荼毘か、久しいな。ああ、脳無の研究はすこぶる順調じゃよ。過去一番と言ってもいい」

 

 

 荼毘の質問に、ドクターはにんまり笑った顔で答えた。弾んだ声からすこぶる上機嫌である事が分かる。

 

 

「リーダーはどうした? 見当たらねぇぞ」

 

「死柄木弔なら今部屋で仮眠を取っているところじゃ。これまでの戦闘で蓄積した疲労がまだ尾を引いておるようじゃの」

 

「おいおい大丈夫か、今度大事な手術が控えてんだろ。この前デトネラットの社長(ハゲ)に使ったメディカルマシーンってやつで治してやれよ」

 

「それはもうやった。だから傷は癒えとる。疲労の原因は長期間に及ぶ睡眠不足じゃ。ギガントマキアと会った時から碌に寝れてなかったからな」

 

 

 疲労で寝ている死柄木弔の状態を憂う素振りを見せる荼毘。しかし薄笑いを浮かべており、心から心配しているようには見えない。

 

 

「にしても聞いたぞ荼毘、あのホークスを仲間に引き入れたとな。良い仲間を見つけたと以前言っておったが、まさかNo.2を連れて来るとは思わんかったわい。土壇場で手の平を返されても知らんぞ?」

 

「多分、いやほぼ確実に裏があるとは思うが、それを差し引いてもあいつには利用価値がある。No.2ともなりゃ、多少のリスクは織り込み済みだ」

 

「それなら良いがの。くれぐれも飼い犬に手を嚙まれん事じゃな」

 

「ああ、ちゃんと躾けておくよ」

 

 

 つい最近、敵連合は異能解放軍との激闘の末に勝利し、死柄木を中心とした新たなリーダーとして君臨した。

 

 そして名を改め、超常解放戦線という11万人超えの戦闘員を抱える超巨大組織へと変貌し、異能の解放を目指して国家転覆を目論んでいる。

 

 荼毘は新しく発足した組織の幹部に抜擢されたわけだが、そうなる前からホークスとは様々な取引を繰り返しており、今回の新組織発足を機に仲間として迎え入れたのだ。

 

 十中八九ホークスはスパイだと察しているが、それでも利用価値があると踏んで今でも気付いてないふりをしている。

 

 とはいえ一歩間違えれば大惨事なので細心の注意は払っている。

 

 

「話を戻すが、脳無の研究はそんなに順調なのか? ブレイクタイムがてら少し聞かせてくれよ」

 

「いいぞ、お前とは審美眼が合うからの」

 

 

 話題は再び脳無の研究に戻り、ふと気になった荼毘は研究の成果を尋ねた。

 

 ドクターもその要望を快く受け入れ、早速荼毘を引き連れて研究所の奥へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

「まずはこれを見てくれ」

 

「こいつは……ひょっとしてここにいる奴ら全員……」

 

「ああそうじゃ、全てハイエンド脳無じゃよ」

 

 

 研究所の奥へと向かった荼毘が目にしたのは、巨大な試験管の中で液体に浸った怪物の軍団。脳無と呼ばれる脳が剥き出しの化け物、その中でも最上位のハイエンドタイプがずらりと並んでいた。

 

 ハイエンドは上位種と同じく全身黒い肌色が特徴的で、複数の個性使用と自律思考が可能な知能を持ち合わせている。先の九州で起こったハイエンドvsエンデヴァー&ホークスの激闘を思い出せば分かるだろう。

 

 

「前にここへ来た時はこんなにいなかったはずだ」

 

「まだ製造途中だったからな。だがこれを見て分かるように、こんなにも多くのハイエンドの製造に成功しておる。現時点で18体が製造完了、完成間際が12体、これから製造予定の個体が10体といったところかの」

 

「はっ、マジかよ。凄ぇじゃねえか。一体どんな裏技を使ったんだドクター?」

 

 

 脳無の中でも最も強いハイエンド。エンデヴァーとホークスのチームアップを圧倒した個体が、製造予定も含めて計40体。

 

 この出鱈目すぎる個体数に、いつもは相手を冷笑してばかりの荼毘も流石に驚きを隠せなかった。

 

 

「ふふふっ、それはの……この血のおかげじゃよ」

 

「血? それがハイエンド量産の秘訣か?」

 

 

 疑問に思う荼毘を更に驚かさんと、ドクターは血の入った容器を見せた。厳重に保管されており、取り出す際はドクターしか解錠できない仕組みになっている。

 

 

「ああ、そうだとも。この血はお前さんも良く知っとるあの子から秘密裏に回収した物での」

 

「いや、あの子って誰だよ。そんな奴いたか?」

 

「前に1度会ったじゃろ。雄英にいる例のサポート科の彼じゃよ」

 

「……なるほど、あのガキか。よーく覚えてるよ。人の家庭事情に土足で踏み込んで来たからな。むかつく野郎だ」

 

 

 ドクターとの答え合わせで血の持ち主を理解し、荼毘は途端に顔を顰めた。

 

 思い返すは神野事件の前夜。突如敵連合のアジトに乗り込んできたサポート科の彼に、連合メンバーはあれよあれよと翻弄された。

 

 その際、彼に頭を掴まれた荼毘は、自身が今までずっと隠してきた最大の秘密を彼に知られてしまい、その事を耳元で囁かれたのだ。だから彼の事を荼毘は気に食わないと思っており、さっさと死ねとすら願っている。

 

 そんな苛立ちを見せる荼毘を、ドクターは手で制して気持ちを落ち着かせる。

 

 

「そう言うな、この血のおかげでより多くの力を蓄えられたからの。とはいえ苦労したぞ。初めは血を馴染ませるのにかなりの時間を費やした。というかそれが一番大変だった」

 

 

 ドクター曰く、強大な力を持つ彼の血を使うと、何と打ち込まれた個体は大きすぎる力に耐え切れず、肉体が勝手に自壊してしまったとの事。

 

 だから肉体がギリギリ耐えられるレベルまで彼の血を希釈し、その上で少量ずつ打ち込んでゆっくり馴染ませる工程を踏んだ。

 

 そこから度重なる失敗の末にようやく成功し、徐々に製造個体数を増やして今に至る。

 

 

「彼の血を使う事でハイエンド脳無の製造効率が一気に増した。何せ極限まで希釈した血を肉体に馴染ませるだけで、オールマイト並みの超パワーと耐久力が備わるからの」

 

「へえ、そいつは良かったじゃねえか」

 

「それだけではない。彼の血を取り込んだハイエンドは全員空を飛べるようになった。恐らく本能で理解したのだろう。おかげで飛行の個性を態々取り込ませる必要が無くなったわい」

 

 

 ドクターが語る新タイプのハイエンド脳無は末恐ろしい性能だった。

 

 極限まで薄めた彼の血を少量打ち込むだけで、悪意を持ったオールマイトが誕生するのだ。

 

 過度な肉体改造で無理矢理パワーと耐久力を上げる手間が大幅に省略され、おまけに飛行まで可能となれば、それだけで値千金の凄まじい効果だろう。

 

 ちなみに、従来のハイエンドと同様に『超再生』の個性も当然備わっている。再生持ちのオールマイトが相手なんて、考えただけでぞっとする話である。

 

 

「言っておくが、超パワー・超耐久・飛行・超再生の4つだけではないぞ。他の個性も勿論持たせておる。肉体(ハード)の性能が良すぎて膨大な個性(メモリ)が驚く程あっさり馴染むんじゃこれが」

 

 

 本来、オール・フォー・ワンの個性で無理矢理個性を譲渡しなければ複数個性の所持は難しい。

 

 だが、彼の血を取り込んで飛躍的に向上した肉体があれば、オール・フォー・ワンを介さずとも、ドクターの手術で複数の個性を持たせる事が可能となった。

 

 

「マジでとんでもねぇ事になってるな。これもうリーダーとか解放軍抜きでこの国引っくり返せるだろ」

 

「テスト段階の時点で問題なく動けるのも確認済みじゃ。起動から安定まで1時間で済むのも何気に大きい。フードちゃんの時は10時間かかったからの」

 

 

 聞けば聞くほど戦慄する新たなハイエンド脳無。これら全てが死柄木弔、引いてはオール・フォー・ワンのために作られている事実は、まだヒーロー側には知られていない。

 

 だが、ドクターの研究の成果はこれだけでは終わらない。むしろここまでは茶番に過ぎない。

 

 

「次はこれじゃ。ワシの最高傑作といえる代物……今だけ特別じゃぞ?」

 

「どれどれ……何だよ、脳無じゃねえか。さっきの奴らと殆ど変わら……いや、それにしてはどこか雰囲気が違う?」

 

「おおっ、一発で違いに気付いてくれたか! やはりお前さんとは話が合う!」

 

 

 研究所の最奥に連れて行かれた荼毘が見たのは、先程と同様にカプセルの中で眠る2体の脳無だった。1体は普通の人間と殆ど変わらない背丈で、もう1体は他のハイエンドと同じく数m以上の巨体。

 

 だが、明らかにどこか雰囲気が違う。今までのハイエンド脳無とは比べ物にならない格がある。

 

 それに気付いた荼毘を褒めちぎりながら、ドクターはハイテンションで語り始めた。

 

 

「この脳無はのう、先程のハイエンドよりも更に格上! あの子の血が()()()()()()で肉体に馴染んだ奇跡の適合体なんじゃ。当然戦闘力もハイエンドとは比較にならんぞ」

 

「へぇ……」

 

 

 新タイプのハイエンド脳無とは比較にならないという事は、オールマイトよりも遥かに強い事を意味する。

 

 その事実を悟った荼毘の口角が僅かに上がる。

 

 

「とはいえ、実はこの2体の間にも大きな戦闘力の差がある。片方は戦闘力を抑えた代わりに、知能は人間と殆ど変わらん。言葉は流暢に喋れるし、人間の仕事も普通に熟せる。黒霧と同じタイプだな」

 

 

 それでも十分凄い。荼毘は内心そう思った。

 

 戦闘力を抑えたとはいえ、それでもオールマイトより強い事には変わりない。むしろ人間と変わらない理性と知能がある分、黒霧の完全上位互換と言える。

 

 

「もう片方は知能が低い代わりに戦闘力に極振りしておる。だが戦いに対する学習能力は凄まじいぞ。言葉が分からないだけで考える頭はあるからな」

 

 

 今の説明だけで、もう1体も最高傑作と呼ぶに相応しい性能だと荼毘は理解した。

 

 とにかく更に凄い脳無が2体いるとだけ認識する。

 

 

「あのガキ様様だな」

 

「そうじゃの。先程の脳無がハイエンドならば、こっちの2体は差し詰め(スーパー)ハイエンドといったところかの」

 

「超ハイエンドね……。んで、こいつらもリーダーが起きた時に起動すんのか」

 

「それなんじゃが、まだどれも実戦で試した事がなくてだな。出来る事なら強いヒーローと戦わせて確かめたい。この超ハイエンド達も含めてな。何か良い案はあるか?」

 

「……そういや、1月にI・アイランドで開催される【Re:I・エキスポ】に、世界中から有名なヒーロー共が集結するらしいな。中にはあのスターアンドストライプもいるとか何とか。そこにぶつけるってのはどうだ? 悪い案じゃねえだろ」

 

「ほっほ、確かにそれは名案じゃの。超常解放戦線が着々と準備を進めてる今、日本で事を起こすのは逆に迷惑になるからな。どれ、宣伝がてら15体くらい送り込んで好きに暴れさせてみるかの」

 

「どうせ送るなら一番嫌なタイミングにしようぜ。リーダーならそうする。この場合だと最終日の3日目だな」

 

「思う存分祭典を楽しませた後で、全員を一気に地獄へ叩き落とす算段か。とことん嫌がらせに本気じゃのう。良いだろう、それで決まりじゃ!」

 

 

 ヒーローへの全力の嫌がらせに意見が合致する2人だったが、これが後にとんでもない事態へ発展する事を、この時はまだ知る由もなかった。

 

 

 




アニメ5期ってサポート科の出番皆無なんですよね。だからこの際日本を出て海へ飛んで行っちゃおうとなりました。
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