『G』の日記   作:アゴン

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生存報告兼最新話投下

リアルのゴタゴタも終わり、漸く落ち着けた気がする。




その234

 

 

 

 シュウジ=シラカワは幼馴染みの世界と彼女の夢と未来を救う為、文字通り全てを投げ捨てた。嘗ての痕跡を、これからの道程も、それら全てを白河修司へと明け渡し、自らの意志で戦う道を選んだ。グランゾンという強大な力を得たことで手放したモノ、それは───自身の存在の証明。

 

シュウジは強くなった。短期間の内に度重なる激闘死闘を経て、数年足らずに多元宇宙の中でも屈指の実力者へと成長と進化を遂げ、強く────否、強くなりすぎた。

 

 その強さの質と量は既に一つの星に収まる許容量を超え、本来(原初)の力を発動すれば宇宙全体が悲鳴を上げる怪物に成り果てる。シュウジ=シラカワはもう、人と呼ぶには剰りにもかけ離れた力を手にしてしまっている。

 

そして、その道を選んだシュウジにはもう戻るべき場所も、帰るべき世界も存在しない。終わりなき闘争への参入、人類を含めた知的生命体を脅かす怪物達へのカウンターとしてシュウジは戦い続ける事を決めた。

 

元の世界を手放した者に戻れる道は最早ない。例え全宇宙を巻き込んだ大崩壊を乗り越えても其処に彼がいられる世界はなく、シュウジは弾かれる様にその世界から消え失せるだろう。

 

 そして、その後に待っているのは全ての世界の修正。嘗ての形へ戻すために行われる次元修復は本来のあるべき世界へと戻していき────そして、シュウジ=シラカワの痕跡を抹消するだろう。傷付いた痕を治す人体の狭窄作用の様に、綺麗に跡形もなくシュウジという人間の存在の痕跡は抹消されるだろう。

 

それが、シュウジが選んだ道、永遠に続く孤独の道程である。

 

「───以上が、これから彼に待つ結末のあらすじです」

 

 満天の星空の下で告げられる真実、キラキラと瞬く星々とは真逆の薄ら暗く重いソレにシオニー=レジスの鼓動は早くなっていく。シュウジが選んだ現実と未来、宇宙の大崩壊という未曾有の危機を乗り越えても報われない結末、それらを余すことなく伝えられたシオニーは自身の足下が崩れ落ちる錯覚を覚えた。

 

彼がこれからも戦い続ける? 宇宙の大崩壊を防いでも、決して報われる事のないその終わりにシオニーの感情はより大きく膨れ上がっていく。

 

何故、彼がそんな目に遇わなければならないのか。

 

何故、彼に其処までの地獄を味あわせるのか。

 

何故、彼を忘れなければならないのか。

 

「───どうして」

 

「…………」

 

「どうして、そんなに淡々と言えるの。貴方にとって彼は、大事な半身なんじゃないの? どうして其処まで彼を、シュウジを追い詰めるの!」

 

 シオニーが抱く大きな感情、突然の真実を告げられた彼女の胸中には怒りという感情で渦巻いていた。何故、目の前の男は此処まで冷徹にいられるのか。シュウジを半身と呼んでおきながらどうしてそこまで無頓着でいられるのか。事実だけを述べるシュウ=シラカワにいよいよ我慢の限界へと差し掛かってきた時。

 

「それは、私が彼にそうなる様に造ったからです。正確には、私が生み出した私の因子を受け継いだデサインベイビー(人工生命体)の第三世代に当たる最高傑作ですが」

 

「──────え?」

 

「彼は、私が造った創造物。その末裔と言ったのです。末裔とは言え彼は私が生み出したもの、で、あるならば────」

 

 

“彼をどう扱おうとも、私の勝手でしょう?”

 

 

 シュウ=シラカワがそう言い切る直後、彼の頬はシオニーの手によって張られた。パシンと乾いた音は小波の中へと消えていく。

 

「………ふざけないでよ」

 

「…………」

 

「彼の命、人生を弄んで、どうしてそんなことが言えるのよ! 彼は、シュウジ=シラカワは貴方の玩具じゃない!」

 

冷たい眼光、頬を張られたまま向けられる氷のような冷たいその眼で睨まれているにも拘わらず、シオニーの怒りの叫びは止むことはない。

 

「私は、貴方を許さない。彼を追い詰め、彼を利用し──シュウジの人生を歪めて弄んだ貴方を、絶対に、絶対に許さない!」

 

 シュウジはシオニーにとっても大事な人だ。リモネシアの為に戦い、世界の敵になろうとも、彼はいつだって自分の気持ちに従い戦ってきた。痛ましく、それでも嬉しく思えた彼の献身を、その全てが目の前の男が望んでいたモノだと思うと、悔しくて堪らなくなる。

 

目の前の男がどれだけ規格外だろうと、シオニーは自分の言葉を撤回したりはしない。今ここでこの男を糾弾しないで、誰が彼の想いに報いるというのだ。シオニー=レジスはシュウ=シラカワを許さない、彼の身体で、彼の顔で、好き勝手に振る舞うこの男を───許すわけにはいかない。

 

一通り叫び終えた後、待っていたのは沈黙だけだった。シュウは未だに此方を見据えているだけ、報復しようものなら自分なんて抵抗すらできずに叩き潰されるだろう。恐怖と怒りの感情が溢れ涙が溢れてくる。震える体に力を入れてそれでもシオニーはシュウを睨み付ける。

 

 どれくらいの時間が流れただろう。聞こえてくるのは小波と海風の音と鈴虫の鳴き声だけ、何時までこうしていればいいのか、感情の波も治まり始めてどうすればいいか分からなくなってきたシオニーがそろそろ限界に差し掛かってきた時に────。

 

「………成る程、彼が入れ込む訳だ」

 

ふと、シュウ=シラカワから笑みが溢れた。

 

「───え?」

 

「そんな貴女だからこそ、彼は助けたいと願い行動した。………本当に、運が良かった」

 

「何を……言って………」

 

「シオニー=レジス、貴女は一つ勘違いをしている。確かに我が半身シュウジ=シラカワは私が生み出した者の末裔、彼等からすれば私は創造主。………ですが、私は彼の行動に助力したことはあっても、その行動と意思に介入した事はありません」

 

「なっ! そ、そんな事、信じられる訳───」

 

「最初に言った筈ですよ。貴女に、この国の人々に出会えたのは幸運だったと」

 

 その言葉の意味を理解して、シオニーは今度は別の意味で憤慨する。要するにこの男は自分という人間性を試したのだ。誰かの為に、シュウジの為に心の底から怒れるか。ワザワザこんな回りくどいことをして。

 

態度こそが先程よりは軟化しているが、上から目線での物言いは何一つ変わっていない。こんなやつの血をシュウジは受け継いでいるのか、笑えない冗談にシオニーが何か物言いをしようとするが。

 

「ですが、だからこそ貴女はこれ以上踏み込まない方がいい。我が半身の望みは、あなた方の幸せなのだから」

 

「───え?」

 

「私からは以上です。ここから先は貴女自身が決めてください」

 

 そう言って、ニヒルな笑みを浮かべてシュウ=シラカワは背を向ける。最後に残した意味が理解できず訊ねようとするも彼の気配は既に消えていた。

 

「────ん? あれ? 俺、何でここに? 確かさっきまでグランゾンの整備をしていた筈だけど………て言うか、何か頬が痛い?」

 

それはシオニー=レジスがよく知る彼だった。何故自分が此処にいるのか混乱している様子だが、それでも変わらないでいてくれたシュウジを見てシオニーは自然と笑みを浮かべた。

 

 それと同時に、シオニーは自分の本当の気持ちにも気付けた。どうして先程自分は彼処まで感情を顕にしたのか、漸く気付けた気がした。

 

いや、本当はもっと前から分かっていた筈だった。それを見ないようにして、心に蓋をしてその感情と向き合わないようにしてきた。自分と彼は違う人間だと、彼と私とでは決して結ばれてはいけないと。

 

でも、ガルガンティアで一度死んだ彼を見て、胸の奥が裂けるように痛かった。悲しくて辛くて苦しくて、どうにかなりそうだった。

 

 そんな彼が生き返って自分達の為に戦っていると知って、どうしようもなく嬉しかった。そう、シオニー=レジスの感情は何時だってシュウジに振り回されてきた。まるで、乙女の様に心を弾ませてきた。

 

自分と彼はきっと結ばれてはいけない。それは私だけでなく、きっとシュウジもそう思っている。自分の辿る結末を知って、それでも尚進むと決めた彼に私はいつか………付いていけなくなる日がきっと訪れる。シュウ=シラカワが言った言葉はきっと、そう言う意味が込められているのだろう。

 

 でも、それでも、この胸に抱く気持ちに───もう、見て見ぬふりは出来ない。

 

「ねぇ、シュウジ」

 

「うん?」

 

「私、好きです。貴方の事が」

 

だって、この気持ちに嘘はないのだから。

 

 素の表情のままで固まるシュウジ、そんな彼に私は───恋をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※月δ日

 

 ─────なんだろう。書くことがないや。いや、あるにはあるんだけど………こう、言葉が上手く出てこないや。

 

あの日、後から知った話だとどうやらシュウ博士は久し振りに俺の体を勝手に使ってシオニーさんに色々言ったらしいのだ。具体的に言えば、俺の待っている未来について。

 

何でワザワザそんな事言っちゃうのかなぁ、まぁ博士なりの心配の仕方なんだろうけど、言い方ってあるよね。変に遠回しに言って自分を悪役に仕立て上げようとする辺り、シュウ博士も中々の不器用な人だ。

 

今はグランゾンの中で大人しくしてくれている。思えば博士には色々と世話になっているから、いつかその恩を返したい。本人を模した擬似人格、故に気にかける必要はないのだと当人は言うが、そんな事は関係ない。擬似人格だろうと博士には助けて貰ってばかりいるのだ。やはり人として一人前を気取るにはそう言った事をハッキリ出来る人間になりたいよね。

 

 あとは………シオニーさんの事だけど、ね。どうしたらいいんだろう。自分、告白したいと思った事はあっても告白される事なんて一度もないから、どうしたらいいか全く分からんでごわす。

 

あの日、シオニーさんから突然の告白を受けた自分は呆気に取られてしまい、一瞬何がなんだか分からずパニクっていた。何かを言った方が良いのではないかと思ったが、喉はカラカラになって口も良く動かず、結局自分はシオニーさんが立ち去るのを眺める事しか出来なかった。

 

なんで、シオニーさんは俺なんかに好きだなんて言ってくれたのだろう? 俺、心当たりなんかまるでないんだけど?

 

それに………俺はあの時、なんて応えれば良かったんだろう? ただ断るのも違う気がするし、受け入れるのも………うーん。

 

 ただ、シオニーさんの方は何というかスッキリした様子だった。あの後自分と接した時もいつもと変わらなかったし、うん。いっそあの告白が夢だったのではないかと思えるくらい普段通りだった。

 

シオニーさんは俺の返事を待っている? でも、今の自分にはそんな事出来るほど余裕があるのだろう。

 

 ────先日、トライア博士から連絡が来た。グランゾンを通して寄越してきたその連絡の内容は大崩壊の期日と対抗策の準備の完了。

 

二週間後、地球人類は多元宇宙最後の戦いに挑む。俺も、いよいよ腹を括るときが来たようだ。

 

 答えは未だに出てこないけど、せめて一生懸命考えよう。それが正面から気持ちを伝えてくれたシオニーさんに対するせめてもの礼儀だと思うから。

 

 

 

 




無駄に長く続いた本作もやっと最終章に突入できました。

最後までどうぞ宜しく。

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