納得いかないのは納得いかない。
まあ、後悔しても始まらない。
いっそ、呑んで忘れましょうか。
好きだったのに、と今さら思ってしまう。幾らでもチャンスはあった筈だ、それを掴み取れなかったのは何故か。私に勇気が無かったからだ。お互いに憎からず思っていただろうし、実際仲は良かった。どちらかが少しでも踏み込めば、そこで私たちは結ばれていた。あと一歩だから、とモラトリアムに浸りきっていたのが悪かったんだ。
自覚したら即座に動くべきだった、躊躇っている程の余裕は無かったのに。私は足踏みをしていただけで。
だから私は「友人」として今日、大喜の結婚式に出席している。
もし、ほんの少し歯車が噛み違っていれば。大喜の隣にいるのは、私だったのに。
きっとこの人も、そう思っているのだろう。
私のとなりの席で貼り付いた作り笑顔のまま、千夏先輩も溜め息を吐いているから。
鳶に油揚を拐われる、とはああいう事なんだろう。あの時私たちは高三になり、千夏先輩は栄明を卒業した。同居という大きすぎるアドバンテージを手放し、近所のワンルームマンションから大学に通う事となったのだ。これで私にも勝ち目がある、と思ったのも束の間。
「猪股先輩、好きです」
中等部から上がってきたばかりの後輩女子が、真っ正面からそう言ってくれやがった。勿論大喜は断ったけれど、それでも彼女はめげなかった。毎日毎日「先輩、好きです」と言い続け、全力で好意を叩き付け捲ったその結果、ついに大喜も根負けしてしまった。「俺なんかで良ければ」と消極的ながらも告白を受け入れて、そして。トントン拍子に二人は仲良くなり、私どころか千夏先輩すら割り込めなくなってしまった。
でもまさか、そのまま同じ大学へと進んだ挙げ句、大学卒業と同時に結婚してしまうとは思わなかったけど。
人生って、何だろう。
「私さー……、大喜くん好きだったんだけどなー……」
グラスワインを片手に呟いたその声は、千夏先輩の偽らざる本音なのだろう。私だってそうですよ、と同じくワインを煽りながら、ポツリポツリと愚痴を溢し合う。まったくお互い、あのバカには振り回されてばかり。段々と腹も立ってくる、表には出さないけど。
「蝶野さんってこの後、どうする?」
この後か、二次会なんか行く気分じゃないな。大喜には末長く爆発しろ、くらいしか言うこと無いし。とりあえず切り上げて、他所で呑んで寝てしまおうか。
……千夏先輩はどうするんだろうか、この人もこの人で色々ありそうだから誘うのもなー……。なんて思っていたけれど。
「眺めの良いところでさ、呑み直さない? 私の奢りで」
まさかそっちから話が来るなんて。まあ、二つ返事で同意しますとも。ただ酒大好きですから。
どこかの高級な店かと思っていたけれど、着いたのは高層かつ高級なホテルの一室。一泊何万どころか何十万ってレベルの場所だ。確かに眺めは良いけれど、というか夜景が眩しいくらいに輝いているけれど。
もしかしたら私、ここで千夏先輩に抱かれちゃうんだろうか。いやまあ、それはそれで良いかもしれないけど。でもなあ、私ノンケなんだけど。
どうしようかな、と思う暇も無く千夏先輩は早速シャンパンのコルクを抜いてそして。
「ん、ー……っ♪」
あろうことか、ラッパ呑みを敢行してしまった。流石に半分も行かないうちに一旦口を離したけれど、何て贅沢な。
でもま、良いか。どうせ先輩の払いだし、それに今日だから。終わった恋を、儘ならなかった日々を、盛大に供養してしまおう。
夜景と星明りの両方から照らされる、この眩しい夜を二人きりで貸し切りにして。積もり積もったストレスを、残らず吐き出そうじゃないか。受け取ったシャンパンを煽りながら、そう決める私だ。
「まったく、分かってないのよあのバカはさ!」
「そうだよ、大喜くんってバカ過ぎ!」
本当に、あれは壮絶なバカだ。こんな美人二人をほっといて、押しが強いだけなポッと出の地味な後輩なんかに靡いちゃって。納得行くわけがないじゃないか。
まあ、私たちだってバカなんだけど。気が強いくせに自分から想いを打ち明けられず、ただ振り回されて来たんだから。今でも私は大喜が好きだし、千夏先輩もそうなんだろう。大喜はきっと気づいてさえいないけど、私たちは恋をしていたんだ。
大喜に見てほしかったから、歯を食い縛って頑張ってきた。それなのに、それなのに――。
披露宴での安酒が祟ったか、二人とも勢い良く呑みまくる。鷲掴みにしたツマミを噛み下し、高い酒を浴びるようにして、どんどん酔いが深まっていく。こりゃ明日は二日酔いだな、でも良いか、これも全部あのバカのせいだ。大喜の癖に私たちをなんだと思ってるんだ、栄明のじゃがいも如きが。
「いっそ、奪い取っちゃおうかなー……♪」
ロンパった瞳で物騒な事を言う千夏先輩だけど、それはなかなか良い考えだと思う。
人生はサバイバルだ、欲しいものは奪っていくのが当然だ。私だって、奪い取りたいし。
そうだそうだ、そうしよう。あのバカを、力尽くでモノにしてやろう。壊れたように笑いながら尚も呑み続ける千夏先輩と肩を組み、そう誓いあう。
私たち二人が揃えば、不可能なんかあるものか。
そうそう待つ身でいられるか、駆け抜けろ私たち。
何処までも、いつまでも。