僕は敵に恋してる。 作:ヒドラ
さて。こうして始まった除籍処分のかかった体力測定。最初は50メートル走。中学の頃は13秒台だった僕だけど、個性を使っていいと言うのなら話は別。天哉くんが個性を用いて3秒台前半とかいう早くもぶっ飛んだ記録を叩き出す中、僕は他の子も個性込みで何が出来るかじっと見てる。名簿順後ろの方だから暇なんだよね。二人ずつ測定だし。
「んじゃ次飛虎と爆豪。」
「うす。」
「んぅ……勝己くん一緒だねぇ。」
そして名簿順の並び的に測定は僕に対抗心剥き出しの勝己くんと一緒。ただの体力測定なのに凄い睨んでくるからへにゃって笑って流しておく。絶対血液型B型だよこの子。
『位置について……よーい────』
『ドン』という機械音声に合わせ、僕は軽く地面を蹴って身体を浮かすと前方に頭から真っ逆さまに落ちてみせる。傍から見ればきっと低空を高速で飛行しているように見えるだろうが、使ってる身としては中々に生きた心地がしない。ていうか50メートル『走』なのに走らないのっていいのだろうか。
なんて思ってほぼ隣の勝己くんをチラ見したら、手から爆風を連続発生させて勝己くんも飛んでいた。見た感じ掌から爆発を起こす個性……あんな使い方も出来るのか。強力な個性なのはそうだけど、それ以上に勝己くんの
『3秒62!4秒13!』
「えへへぃ……僕の勝ちぃ。」
「煽ってんじゃねえぞクソが!!総合成績で負かしてやるからな雑魚が調子乗んじゃねえ!!」
でも結果は僕のがちょっと速かった。ていうか、13秒台が後半とはいえ3秒台まで縮むんだからやっぱ凄いよ個性込みの体力測定。おかげで勝己くんが吊り上がっちゃいけない角度まで目を吊り上げて僕の胸ぐら掴んでるけど。
ただ、全部が全部の種目に個性を用いることはいくらなんでも不可能なわけで。次の測定項目は握力測定。結果は────
「………17キロ!?雑魚かよ!!」
「んえぇ……僕力弱いからぁ………」
「女子でももっと行くわクソが!!真面目にやれや舐めてんのか!!」
なんて勝己くんが勝ってるにも関わらず暴言が飛び出すレベルの壊滅的な記録。中学の頃から全然変わってません。かなしい。舐めてるんじゃなくて真面目にやってこれなんだよ。うちでもいっつもひぃちゃんに押し倒されると抵抗できないし……力尽くで押さえつけられて無理やりされるの好きだから良いんだけどさ。雄英だとそうも言ってられないね。さっきの記録が帳消しになった……
で、次は立ち幅跳び。これは僕の身体を一度上空に落とした上で任意の場所に向けて落下すればいいからソフトボール投げ同様に『∞』って記録が出た。落下して着地する際に気をつけないと僕が潰れたトマトになるけど、その動きを見てた勝己くんには『チートが!!』とキレられた。そういう君だって爆風で飛んでたくせに。
その次は反復横跳び。僕の個性が使えない競技その2。いや、一応左右に向けて連続で僕の身体を落下させるみたいな使い方は出来るけどさ。多分普通に跳んだ方が早いし、連続して重力の方向が正反対の方向に変わるのは流石の僕でも酔うからね。普通に跳んだよ。ちなみに勝己くんは爆風による跳躍を両手を水平に伸ばした上で行うことで、なんかすごい速度で記録を伸ばしていた。あれずるいと思うの。砂煙エグかったし。
『………12回!!』
「ひぃん………」
(こいつ
対して僕は素のゴミ過ぎる身体能力を遺憾無く発揮。あの対抗心の塊の勝己くんに憐れみの籠った視線を向けさせることに成功した。勉強も運動も苦手とか生きてる価値あるのかな。手元にナイフあったらリスカしてたよ。
でも大丈夫。何しろ次はボール投げ。デモンストレーションでやって見せた通り、ああいう投擲系は対象が何であれ僕は無限の記録を叩き出せる。
「────死ねェ!!!」
『………705.2m!』
「掛け声さぁ……」
そうやって余裕こいてる傍ら、勝己くんが物騒な掛け声と共にボールを吹っ飛ばしてる。投げる時に爆風を乗せて大砲みたいに距離を飛ばしてるのか。ほんと単純で強力な個性だからこそ応用性が高いっていうか……ああいう個性はヒーロー科で強いよね。本人の性格がちょっとアレなのが難点ではあるけども。逆に言うとその位しか弱点ないと思うの。
さて、次は僕の番か。まぁさっきみたいにボールを空の彼方に向けて落とすだけなんだけど────
「………あぁ。飛虎はもう測定いいぞ。」
「なんでぇ………」
「お前は最初に投げただろ。あの要領なら何回やっても∞になるだろうし再度計測するのは合理性に欠ける。そういう事だから次は緑谷だ。」
この効率厨め。なんて悪態つかなかった僕を褒めて欲しい。主にひぃちゃんに。まぁ確かにその通りだしスルーしたのは正解なんだけどさ。ハブられたと思って泣きそうになったんだけど。
で、次はその緑谷くんとやらの出番が来たんだけど。名簿順的には僕の後ろの席の子か。全然気付かなかったからどんな子かと思ったが、なんて言うか……地味な子だね。それはもうヒーロー科にいるのが不思議なくらい。ヒーロー科の子って天哉くん然り勝己くん然り多少なりとも存在感あるのに。
なんて不思議に思っていた時だった。ちょうど僕の隣にいた天哉くんがふと小声で漏らした。
「緑谷くんはこのままだと不味いぞ……!!」
「……あァ?たりめーだろ。無個性の雑魚だぞ。」
「無個性………?」
そして勝己くんの言葉に僕は改めて緑谷くんを見る。……あぁ、なるほどね。納得した。あの子が全然目立ってなかった理由。さっきから個性使ってなかったんだ。だから地味って言うか……でも無個性があの入試を突破して雄英に合格出来るとは思えないし。現に天哉くんは何か知ってるのか、勝己くんに反論してた。
でも実際、緑谷くんが投擲した際に出た記録はたったの46メートル。素の身体能力ならいい成績だとは思うけど、個性込みの面々と比べるとどうしても見劣りする。……いや、多分だけど個性を消されたな。消太先生に。しかもなんか指導されてる。こっっっわ……あんな指導受けたら僕泣くよ絶対?緑谷くんも萎縮してるし。可哀想に。
何しろ本当に無個性なら、先生の除籍宣告で消えるのはあの子だ。まぁそもそも無個性でヒーロー科迷い込むこと自体が可哀想な気はするから除籍するのも優しさだとは思うけど。でもやっぱ個性を消しにかかったってことはなんかあるよなぁあの子……何だろ。雄英に不似合いな地味さと言い無個性扱いされてるのといい、なんか引っかかるんだよな。それにさっきの勝己くんの口振りからして勝己くんと中学同じらしいし。もし奇跡的に生き残ったら、勝己くんにあの子の話聞いてみようか。
僕がそうやって緑谷くんを見ていた時だった。爆風と見紛う衝撃と共に勝己くんみたいにボールが吹っ飛んだ。
『………705.3m!』
「先生……まだ、動けます………!!」
「こいつ………!!」
但しその代わりとばかりに、緑谷くんの人差し指が赤黒く痛々しい色へと変色していた。僕も一時期よくやってたから分かるが、指の骨が折れたのだろう。消太先生が個性を消したのはさしずめ『あれ』を腕単位で使おうとしたってところか。それは止めなきゃダメだね。腕全部あんな色になるとか授業どころじゃ無くなるもの。
………しかしあの症状、増強型の個性を暴発させてする怪我に似ているな。個性を手にしたばっかの小さい子がよくやるやつ。わざわざ指一本に絞って怪我してるあたり、きっと個性の制御方法をまだ知らないのだろう。最下位回避のために妥協でああしたって様子だけど……あの感じ、個性を手にしたのがつい最近なんじゃないかな。
それに指一本だけであの威力。ほんの僅差だけど勝己くんの記録を超えてるし、増強型の個性としての性能は相当なスペックだ。その分暴発した時の身体への反動も甚大だが、それこそ使いこなせれば脳筋ヒーローで有名なオールマイト並のパワーを発揮出来るんじゃないか。
あとさっきの勝己くんの『無個性』って言葉。それが本当なら、個性が最近になって目覚めるなんて事はあり得ない。あんな個性だから制御が困難で無個性の振りしてた可能性は無きにしも非ずだけど、もし個性を得たのが本当に最近なら────
「あぁ、ふふ……ッ。もしかして……もしかしなくても、見つけちゃったかもねぇ。」
「てめぇどういうわけだ!!説明しろデクゴラァ!!!」
「勝己くん、ちょっと邪魔。」
怒り狂って緑谷くんに突撃しようとする勝己くんの首根っこを左手で掴むと僕は軽く
「………かっちゃん!?大丈夫!??」
「あの子ならこの位で怪我はしないよぉ。……ちゃんと途中で個性は解いたからねぇ。」
「き、君は……確か前の席の………」
僕の個性は発動には身体のどこか一部が触れる必要があるが、一方で個性の解除は触れることなく僕の任意で行える。それでも結構な速度で吹き飛ばしたからびっくりしただろうけど、本質が垂直落下である以上漫画でよくある過剰な衝撃の類も加わってはいない。急な事でびっくりはしただろうけどね。その上でああして空中で体勢を立て直すんだから勝己くんは大したものだよ。
ただ幾ら勝己くんが無傷でも緑谷くんは目の前に対峙した僕に明らかに怯え……っていうか警戒した顔をしてるから。僕は安心させるように彼の右手を両手で握り、なるべく優しく微笑みかける。すると緑谷くんの顔がボンッ!と音を立てて真っ赤になった。ああ照れてる照れてる。絶対僕のこと女の子って思ってる顔だ。可愛いリアクションするね。天哉くんといい、雄英は育ちのいい子が多くて楽しいね。
「話すのは初めてだねぇ。僕は
「あっ……緑谷出久です。その、手……離して欲しいなって………」
「怪我してる場所は触ってないのに変な事言うねぇ。それにお顔赤いけど……僕ちゃんと男の子だから。緊張しないでいいよぉ。出久くん?」
耳元で囁くようにそう告げ、望み通りに手を離してやると出久くんは信じられないものを見るような顔で恐る恐る手を引いた。本っ当に可愛いなこの子。しかも個性を制御できない上にさっきみたいに自分が傷つくのも辞さない無謀なほどの勇気。ほっといたらきっと傷だらけのボロボロに……僕の彼女のひぃちゃんにとって好みどストライクの男の子になるだろう。
うん、そう考えると今すぐに
雄英ってメディアへの露出機会多いから、理由がどうであれ目立てば存在は知られる。それで浮気されないまでもひぃちゃんにあの子の事とか話されたり聞かれたりしたら絶対病む自信あるからね。
が、ここで鏖殺するのは流石に不味い。それに出久くんの場合、持っている個性が個性だ。僕にとっても強くなってくれれば使えそうだし、死なせるのは勿体無い。かと言って傷だらけで生きていられるのも許せそうにない。
ならば、だ。
「ねぇ出久くん……君のその指、まだ個性が
「へっ!?そ、それは……その………!!」
「今日学校終わったらさ、ちょっと面貸してよ。その個性との付き合い方……僕なら少しは教えてあげられると思うから。」
幸い僕は増強型の個性の
とはいえ元がいじめられっ子気質なのか、それとも僕の事が怖いのか。出久くんは萎縮したような様子でコクコクと無言で首を縦に振っていた。いや……きっと、出久くん的にも僕は無視できないんだろう。そういう風になる言い回しを選んだからね。これで僕が目を付けられるような事にならなければいいんだけど……そこは、後で出久くんを口封じするなり何なり手を回せばいいか。
さて。これで出久くんに付けるべき話は付けたし、次の測定に行くとするか。後は上体起こしと長座体前屈、あとは持久走だったか。……上体起こしは誰かに足抑えて貰わないとだね。けど僕まだ話せる子少ないし、出久くんはおてて痛くてそれどころじゃないだろうし、何なら天哉くんと知らない女の子の三人で測定始めてた。そうなると消去法で……
「……勝己くん。お手伝いしてぇ。」
「てめぇどのツラ下げて来てんだコラ………!!」
「あっ……さっき投げたの怒ってる?それはごめんねぇ。でもほら……ああでもして止めてないと、勝己くん除籍されそうだったしぃ………」
近寄ったら問答無用で胸ぐら掴まれたから、そう慌てて弁明しておく。あの先生だし問題行動起こしたら何らかの罰はあるだろうし、あの時の勝己くん割とマジで出久くんのこと爆破しそうだったからね。現に僕の言葉に痛い所でも突かれたのか、勝己くんは手の力を弛めて目を逸らしてしまった。因みに僕も思いっきり問題行動起こしてるから心配っちゃ心配ではある。これ終わったら
「………で。てめぇデクとなに話してたんだ。」
「んん?……っとねぇ、僕に顔真っ赤にしてて可愛かったから『僕男の子だよ』って分からせてたのぉ。女の子に耐性ない男の子って良いよねぇ。勝己くんは僕にリアクション薄いけどエ●チとかした事あるの────」
「俺投げ飛ばしてまで話したことがそれかてめぇは!??ならもうさっさと横になれ測定とっとと終わらせろクソが!!」
嘘は言ってないけど勝己くんが知りたかったのは多分そこじゃない。それは分かってたけど、出久くんの個性が貰い物だって事は口外しない方がいいかなって思ったから。そうぼかしたら顔を真っ赤にした勝己くんにマットに押し倒された。あぁそうそういうリアクションが見たかったのって言いかけたら爆風で強めに威嚇された。ごめんって。
因みに測定結果は上体起こしは個性無しでも意外と勝己くんに近い成績だった。お腹や腰周りだけは鍛えられてるんだよね。いやーなんで鍛えられてるんだろうねー。見当もつかないねー。あと長座体前屈に至っては個性無しで勝己くんに勝てた。僕が身体柔らかいのもそうなんだけど、勝己くんって身体は硬いんだね。プルプルしてて可愛かったよ。
で、最後の持久走も個性を日常的に移動に使っている僕には独壇場もいい所なわけで。落下を応用した飛行能力は落下時間=距離が長ければ長いほど加速するという性質もあり、本来の僕ではあり得ない一位という順位に収まった。何しろ本質はただ自由落下しながら姿勢制御を行うようなものだから、体力は一切消費しないし常に最大速度で翔け抜けられる。マ●オカートで常時キラーを焚き続けるようなものだと言えば、どれ程速いか想像つく人はつくんじゃないか。
ちなみに一番キラー欲しかったであろう
「よしお疲れさん。んじゃ総合成績発表するぞ。」
なんて不安に駆られている僕と出久くんを他所に消太先生が総合成績の順位を開示する。僕はどうせ最下位は無いからと一番下の名前を見たら、そこには予想通りに出久くんの名前があった。おいおいおい。死んだわあの子。いやまぁ個性手にしたばっかなのにこの種目数は無茶振りだし仕方ないけどさ?
えっ、これマジで
………まぁ、よく考えたらこの雄英から消えてくれればひぃちゃんの視界に出久くんが写ることも無いか。そういう意味ではむしろ除籍された方が有難くはあるんだけど。僕の目の届かない所に消えるのは色々面倒ではあるんだよ。ダメだったものはもうしょうがないけど。……除籍される前に連絡先くらいは交換できないかな。
「ちなみに除籍は嘘な。」
「ほあ。」
「君たちの個性の最大限を引き出す合理的虚偽。」
なんて出久くんの骨の拾い方を考えてた矢先。消太先生のその一言で出久くんが作画崩壊した。僕もすごい間抜けな声が出た。いや確かに冗談であって欲しいとは思ったけども。教員としてありなのそれ???いや、雄英は校風も先生も自由なんだったね。忘れてた。
……そうだとしても心臓に悪すぎる嘘だよ。出久くん作画崩壊するのもしょうがないよ。横で勝己くんは出久くんが除籍されないってなってあからさまに機嫌悪くなってるけど。なんでそんな嫌いなんだろうね。勝己くんに比べたら今の出久くんなんてカスみたいなものだろうに。聞くだけ地雷だろうからそっとしておくけどさ。
何にしろお陰で、どうにか初日は乗り切ったし僕が探していた子も無事に除籍を免れた。……しかし探し物がまさか僕と同じクラスに迷い込んでいたとはねぇ。一体どうしたものか。怪我して出久くんが
むしろひぃちゃんの事考えると除籍されてどっか行く前に差し出すのが正解なんだけど、万一の保険に目の届く所に残しておきたいのも確かなんだよな。あと普通に根が良い子っぽいから仲良くしたい。僕は何故か友達が少ないからねぇ……
「あのっ、飛虎くん!!」
「んぅ……なぁに、出久くん。」
「ごめん……この後僕、保健室行くんだけど………どうしようか?この後………」
なんて僕が珍しく頭を使って悩んでいた時だった。出久くんが僕の元に駆け寄って来たから、僕は彼の頭の上に手を乗せて捕まえる。真面目な子なんだね。普通あんな風に呼び出されたら保健室を口実にばっくれるのに。まぁそれ程、僕を出久くんも放っておけないって事なんだろうけど。出久くんも『僕が個性のこと知ってる』って疑ってるはずだからね。
「………いいよ。君に都合の着く時間と場所で。僕は個性でどこでも行けるからねぇ。保健室行く前にL●NEだけ交換しよぉ。」
「うん……分かった。じゃあ、後で連絡するね。」
「りょおかい。んじゃ更衣室行こっかぁ。」
えらく真面目な表情で頷く出久くんを引き連れ、僕はひとまず更衣室へと向かう。……僕だけだと答えにも困るし、一度ひぃちゃんにでも相談してみようかな。『平和の象徴の継承者』を見つけたんだけど、って。
トガちゃんは彼氏に浮気された場合…
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問答無用で刺し殺す。殺さなくても刺す。
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浮気相手を刺しに行く。ついでに血も奪う。