転生したらタムラだった……って、誰それ?   作:南野 雪花

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第3話 宇宙に塩水

 やばいやばい。

 ついにホワイトベースが墜ちてしまった。

 

 衝撃に備えろってブライトの放送が入った直後、ア・バオア・クーに胴体着陸である。

 エンジンに被弾し艦の推力を維持できなくなったのだ。

 

 ア・バオア・クーが持ってる微弱な重力に引かれて真っ逆さまに墜落してもおかしくなかったけど、ミライが絶倫の操船技能を発揮して、なんとか()から着地することができた。

 

「タムラさん! 生きてる!?」

 

 散乱する食器の大軍からなんとか這い出したところで声がかかる。

 

「なんとかな。お前さんも元気そうでなによりだ。ジョブ・ジョン」

「若いからね!」

「どうせ俺はオッサンですよ」

 

 格好いいことを言っても、おなかが出てくるんですよ。

 助け起こしてもらいながら、しょーもないことを考える。

 

 元いた世界のふるーい流行歌だ。

 

 私がおばさんになってもなんて歌ってたその歌手は、何十年経ってもいっこうにおばさんになる気配がなかったけどね。

 人魚の肉でも食ったんかいってレベルで。

 

「このままア・バオア・クーの表面に張り付いてても仕方がないから、なんとか右エンジンだけで飛び立てないかミライさんたちが……」

 

 と、ジョブ・ジョンが説明したとき、ずぅんと腹に響く衝撃が伝わってくる。

 続いて警報と、白兵戦へ移行する旨を報せる艦内放送だ。

 

「右エンジンもやられちゃったみたいだね」

 

 肩をすくめるジョブジョン。

 これでホワイトベースは完全に航行能力を失った。

 もはや、でかい建物と変わらない。

 

「つーか白兵戦なんかしないで、とっとと脱出した方がよくないか? こんな場所にとどまっていたって、戦況が良くなる可能性なんて低いだろう」

 

 いまの俺はただのコックで、前世は普通のサラリーマン。軍事にはまったく明るくないけど、敵の要塞の中にいて良いことなんかなんにもないってことくらいは判るよ。

 

「そーだねー、円周率が割りきれる可能性よりは高いと思うけど」

「そらどんな可能性だって、ゼロよりは高いだろうさ」

 

 この期に及んでまだ軽口を叩くジョブ・ジョンの胸を小突き、俺は厨房を後にする。

 

「どこへ?」

「脱出するにしたって、内火艇(ランチ)が必要だろ。発進準備だけでもしておこうかと思ってな」

「ナイスアイデア。ボクもいくよ」

 

 連れだって廊下を飛ぶ。

 途中、ガンタンクが大破するのが窓から見えた。

 

「うげ。ハヤトのやつ無事なんだろうな」

「大丈夫。脱出したっぽい。でもガンタンクがやられたってことは……」

 

 ジョブ・ジョンが言い終わるより早く、ガンキャノン大破の情報が放送で流れる。

 

「ほらね?」

「判ってたみたいな口ぶりじゃないな」

 

「拠点防衛に最も適したガンタンクがやられたら、負担は一気にガンキャノンにのしかかるじゃん。けど一機で二機分の働きなんかできるわけがない。あっという間にアウトさ」

 

「すごいなジョブ・ジョン。まるで本物の軍人みたいな分析だ」

「なんと、じつは本物の軍人だったんだよ。いままで隠してたけど」

 

「あ、最終回だから正体をバラしちゃうパティーン?」

「そうそう!」

 

 母艦が沈むぞって頃合いになってもまだジョークが飛び交うのは、ジョブ・ジョンがバカだからか俺がアホだからか。

 両方だな。きっと。

 

 

 

 

 格納庫に人影はなかった。

 

「悪い方の予想が当たっちまったな」

「ま、うちの人たちって逃げるより戦う方を選んじゃうからね」

 

 いままでガンダムがおびただしい戦果をあげてきたし、なんとかなってるって思っちゃってるんだよな。

 アムロさえ戻ればって。

 

 じっさい俺もその口だけど、だからといって脱出の準備をしないってのはまずい。

 ていうか、こういうのはブライトが率先してやらないといけないんだけどな。最後の一兵になっても戦うぞ、じゃなくてさ。

 

 冷静沈着なようにみえて彼もまだ若いから、頭に血が上っちゃってるんだろう。

 

「とにかく発進準備を始めよう」

「どんなに手分けしてやっても、二人じゃ二隻しか動かせないじゃん」

 

 両手を広げるジョブジョン。

 気持ちは判る。

 

 俺たちよりもはやく格納庫に来てるような気の利いたやつがいて、もう何隻か内火艇が発進準備に張ってるんじゃないかって期待していたんだ。

 けど、ジョブ・ジョンが言ったとおりみんなの戦意が高いんだろうね。

 

 それと、負けるのに慣れてないってのもあるかも。

 いままでずっと勝ち続けきたから。

 

「逃げるタイミングが判らないとか、常勝も善し悪しだな」

「ボクは負けるのには慣れっこだけどね。候補生なのにパイロットの座はぜーんぶ民間人にとられちゃったし」

 

 悪意のない口調で言ってジョブ・ジョンは笑った。

 悔しい、とは思ってるんだろうな。きっと。

 

「お前さんはまだ良いさ。俺なんか人生の負け組だぜ」

 

 軽く肩を叩き、俺は二号艇へと飛ぶ。

 慰めめいたことは口にしなかった。そんなもの、ジョブ・ジョンのプライドを傷つけるだけだから。

 

 エネルギー残量を確認し、ノーマルスーツの予備や非常食を整え、各種計器をチェックして、あとは発進させるだけの状態にもっていく。

 ジョブ・ジョンは慣れたものだろうが、俺なんて素人に毛が生えた程度だからね。もたもたと手間取ったさ。

 

 けど準備は整った。いつでもいける。

 

 と、そのとき、頭の中に声が流れこんできた。

 いや、声っていうのかな? 思念?

 

 脱出しないと全滅するって。

 

「さすがアムロちゃん。判ってらっしゃる。もう準備は整ってるぜ」

『むしろタムラさんがさすがですよ』

 

「けど二隻しか用意できなかった。中に乗り切れない乗組員たちをしがみつかせての発進になる」

『それは……』

 

 つまり追い打ちをかけられたらおしまいってことた。

 七面鳥撃ちになっちゃうものだもの。

 

「このさい、ホワイトベースを自爆させて追撃を封じるとかどーよ」

 

 自爆装置なんてロマン兵器はさすがに積んでないだろうから、武器庫のミサイルを艦内で発射しちまうとかそんな感じかな。

 誘爆がおこって艦ごとドカンだ。

 

「よし。あとはオッサンに任せておきな。アムロちゃんも早く脱出しろよ」

『ちょ! なに考えてんですか!?』

 

 思念で怒られる。

 ニュータイプ、おもしれーな。

 

 

 

 

 

「さあて、適当に発射ボタンを押せばいいのかな?」

 

 銃撃をこそこそとかいくぐり、武器の管制室に身体を滑り込ませた俺は、よく判らない機械類を前にちょっと困っていた。

 使い方が判らねえ。

 

「もうちょっと計画性ってやつを持ちましょうよ。タムラさん」

「うぉうっ!?」

 

 背後からかかった声に驚いて振り返れば、ジョブ・ジョンが両手を広げて立っていた。

 

「なんでここに……」

「アムロのテレパシーみたいなやつだよ。オヤジさんを死なせたら、コアファイターの尾翼にくくりつけて地球を三周してやるって、頭の中でがんがんわめくんだもん。うるさいのなんのって」

 

 エキセントリックな刑罰だなぁ。

 それはいいとして。

 

「オヤジ?」

「あ」

「あじゃねーよ。お前ら、隠れて俺のことをオヤジなんて呼んでやがったな」

 

 とんでもねーガキどもだ。

 絶対にあとでオシオキしてやる。

 

「死ぬ気だったでしょ? タムラさん」

「誰かが残って細工しないといけないなら、年長者がやるべきだろうからな」

「そういう英雄的な行動って」

「似合わないっていうんだろ。判ってるよ」

「…………」

 

 無言のまま、とんと俺を突き飛ばして操作盤(コンソール)の前に立ったジョブ・ジョンがすごい勢いで手を動かしている。

 

「安全装置を全部切って時間で発射するようにセットした。ほんとはリモートで操作したかったけど、そこまでの細工をする時間はないからね」

「お、おう」

「いくよ! しっかり掴まって!」

 

 俺の腕をむんずと掴み、ジョブ・ジョンはすごい勢いで管制室を飛び出した。

 さすが予備パイロットだけあって、低重力下での身体捌きが見事である。

 

 ていうかさっきって俺のスピードに合わせていてくれただけかぁ。

 泣けるなぁ。

 

「暴発は三十分後! そんだけあればみんな避難できるでしょ!」

「なにを根拠に!」

「アムロが導いてくれてるからさ!」

 

 むちゃくちゃだ。

 でも、俺は一グラムも疑わなかった。

 他の乗組員たちも同じだろう。

 

 そして内火艇に戻ると、もうほとんど集まっていた。

 

「タムラさん! ジョブ・ジョン! 遅い! 遅いよ!!」

 

 カイが怒鳴ってるし。

 

 つーか本当は俺たちが一番乗りだったんだからな?

 そこんとこヨロシク。

 

 内火艇が発進したギリギリのタイミングでセイラが戻り、というか、飛び立った内火艇にしがみついてきたってのが正しいかな? ともあれ、脱出した直後のことだ。

 

 ホワイトベースが炎に包まれる。

 おそらく俺たちを追い打とうとしていたジオン兵たちも一緒にね。

 

 計算通りである。

 

 にやりと笑みを交わした俺とジョブ・ジョンだけど、まだアムロが戻っていないという話が二号艇から聞こえてきた。

 

 まじか……。

 あのバカ……。

 

 俺たちを脱出させたのに自分は間に合わないとか、ありえねえだろ。

 艇内が葬式みたいな沈黙に支配される。

 

 と、そのときだ。

 二号艇の方でカツ、レツ、キッカの三人が騒ぎだす。

 

 ちょい右とか、そのまままっすぐとか。

 みんながいぶかしむ中、ア・バオア・クーで小爆発が起き、そこからなんとコアファイターが飛び出した。

 もちろん操縦しているのはアムロだろう。

 

「もったいつけやがって。さっさと脱出しろってんだよ」

「無理しちゃって。ヘルメットの中、そんなに涙漂わせてさ」

 

 ぼそりと呟いた俺に、操縦席のジョブ・ジョンが笑みをむけた。

 

 うっせ。

 お前さんだって泣いてるじゃねえか。

 

 クリアじゃない視界の中、コアファイターを乗り捨てて飛んだアムロが二号艇の連中に抱き留められている。

 

 よし。

 これで全員揃った。

 今夜の飯は、腕によりをかけないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり

 




最後までお読みくださりありがとうございました。
この話は、Twitterに流れていたタイトルが面白そうだったので、ちょっと書いてみようということになり生まれました。
タムラとジョブ・ジョンという凸凹コンビの漫才を交えつつ、ガンダム本編のスキマ話的に楽しんでいただけたら幸いです。
塩湖に行ったは良いけど、どうやって製塩したんだよ、とか。
父ちゃんのアレな姿をみたアムロ、立ち直り速すぎないか、とか。
脱出の時のランチ、どうやってあの短時間で用意できたんだよ、とか。
べつに知らなくてもまったく問題のない、どーでもいい部分に、タムラとジョブが暗躍していたんだと、ちょっとにやっとしてもらえたら嬉しいです。

それでは、またいつか
文の間でお会いしましょう。
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