その真意は覆い隠される。
そこに至れるのは、果たして。
裏側にある思いは、誰ぞ知るや。
「このチーム、好きだもん」
そう言って笑う千夏を見て感じるのは、一抹の不安と寂しさ。ああ、そうか。もう私たちは、千夏の本心に触れられなくなったんだ。
私たちは知っていた筈だ、千夏がどういう人間か。自分を犠牲にする事を躊躇わない、そしてそのせいで周囲が哀しむ事に気付けない。直向きで真っ直ぐで、危うい。だから頼りすぎてはいけない、一緒に隣に立って支えてあげなければ、いずれ千夏は
それなのに私たちは、力が足りなかった。千夏に託すしか無い、そう思ってしまった。それが千夏を追い込むと分かっていても、そうするしかなかった。
だから千夏は全てを背負い、そして――潰された。それでも弱音を吐かず立ち上がり、敗北の責任さえ一人で抱え込んだ。そんな覚悟は、するべきではないのに。
勝利も敗北も、チームのものだ。点差を付ける処か追い縋るのに精一杯だった私たちのせいで、千夏のシュートに賭けるしか無くなったんだ。千夏一人が何を背負う必要があるのか。
吉谷先輩が引退しての副キャプテン就任は、他の三年生への手前があってのものだ。一応まだ引退していない先輩方がいるから、それを飛び越えてキャプテンとなると軋轢が生じかねない。まあウインターカップまではこの肩書きのままだろうけど、事実上の部長就任だ。千夏は栄明女子バスケ部の、私たちのリーダーになる。本人が望まなくとも、周囲が望む以上千夏は決して投げ出したりはしない。
もう千夏にとって私たちは、守るべき対象になったんだ。だから弱音を吐かない、不満を言わない、規範的なリーダーとして接するだろう。他人よりも遠く見える、そんな存在であろうとする。
一回戦を終えてプレッシャーで丸くなっていたのは、最後の足掻きだったのかもしれない。今後はもう、ああはなれないとわかっていたんだ。もう二度とこのメンバーで試合はできない、楽しい時間はもう戻らない。だからもう、振り切る。そう思ったからこそ、珍しくワガママな顔を見せてくれたんだ。最後だから。
きっと千夏はこの先、余所行きの笑顔を崩さない。不安も何もかも胸のうちに隠して、私たちを導こうとする。
そうなってほしくない、弱音も愚痴なんて吐きたいだけ吐けば良い。失敗も良いじゃないか、ちゃんと次へ繋がっていくから。感情的で、よわよわで、
だって、私たちの前でさえ仮面を被ってしまったら。千夏は一体、いつ素顔になれるというんだろう。
千夏には気を許せる間柄の人間がいない、……と思う。元々親とも上手く付き合えない、不器用な子だ。母親から引き継いだ夢を自分の夢と言うことにして、それに疑問を挟んだりしない。母親の為に自分を曲げる、そんな
居候先だって言う親戚とやらの家でも、遠慮と配慮ばかりなんだろう。千夏は私が色々聞いても、一切不満を口にしないから。皆親切だし大丈夫、と笑うその顔はどこか、作り物に見えた。親戚とはいえ他人の家で、何もかも上手く行くはずがない。学校で愚痴をこぼすくらい、誰も咎めたりしないのに。
それこそ、彼氏でも出来れば変わるんだろうか。でもあの子を御せるようなの、いるかな。
あの気遣い魔人が本音をさらけ出せる相手って、どんな奴だろう。何も考えず一緒に笑いあえる、そんな素敵な男子がどこかにいてくれると良いんだけどな。まあ千夏の心を受け止められるなら、女子でも良いか。
夏の終わりは、すぐそこに迫っている。
これから私たちがどうなっていくか、まだなにも分からないけど。
でも私は、願わずにはいられない。千夏の行く道が、幸福なものでありますように。目覚めの時に、そこに笑顔がありますように。
私の大切な友達に、幸多かれ。