想いは複雑で。
人間は、難しい。
それでもまあ、なんとかなるもの。
悩む時間の裏側を、一席。

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読んだばかりですが、とりあえず。
大喜くんの寝顔が可愛かったです。


アオのハコ#47 SideB

「不味いかなぁ……」

 雨で冷えきった身体をほぐしながら、お湯の中で小さく呟く。誰にも聞こえてほしくない、そんな事を。

 私は何故今、海辺の民宿でお風呂に入っているのだろうか。

 急な豪雨で起きた土砂崩れは復旧に朝までかかるらしい、その間陸路は全線不通。つまりは――帰れない、と言うこと。何処かで一晩過ごさなければならない、と大勢が考えたんだろう。近くの宿泊施設は何処も満員御礼、空いていたのは駅前の民宿だけ。それも、一部屋だけだった。

 民宿という名目だけど旅館に近く、足下を見てそこそこの値段にはなっていたが、この状況で野宿するわけにもいかなくて。だから私は、……いや()()()はここに宿を取ることとなったのだ。

 大喜くんと、二人でお泊まり。これは、不味い事になったかもしれない。とは言え危険な状況から逃れるためなのだから、刑法37条における緊急避難が成立する。動けるようになるまでここに留まるのも、正当化される……筈だ。私は法律関係苦手だから、よく分からないけど。

 でも、だ。今の私たちの関係としては、不味すぎる。大喜くんには蝶野さんがいる、二人は付き合っている――多分。きっと。その状態で家族でない異性と一夜を過ごさせてしまうのは、良くないにも程がある。それに私は只の居候でいるべきだ、大喜くんに影響を与えてはいけない。だからこそ、線を引いたんだ。猪股家の面々の為に、私の為に。

 それなのに、こんな。

 お湯に沈みながら、どうするべきかを考える。

 大喜くんはお風呂上がったら家に電話する、と言っていた。まさか二人きりとは言わないだろう、「みんなと遊びに行って帰れなくなった、明日帰るから」とか言うんだろうな。……あの時みたいに「みんなと」って。

 大喜くんが何故嘘を吐いたか、それは蝶野さんと二人きりになる事を私に知られたくなかったから……なのかな? 順番がおかしい気もするけど。

 まあ、それはもう良いかな。問題はそのあとだ。

 普段のように壁で遮られた状態じゃない、同じ部屋に二人きりで過ごす。そして、寝る。……一緒に、寝る。それはものスゴく、

「不味いよなぁ……」

 もう一度同じように口のなかで呟いても、良い手は思い浮かばない。

 大喜くんは、だって……オトコノコなんだから。うっかりすると、蝶野さんに顔向けできなくなりかねない。

 せめて気を逸らせるように、ロビーにあったボードゲームでも借りていこうかな。

 ……いやしかし、さすがに自惚れすぎかもしれないな。大喜くんはそういう子じゃない、さっきも再確認したじゃないか。私のワガママを聞いてくれて、誕生日も祝ってくれて。ミサンガの約束もそうだし、良い子なんだよな。蝶野さんが好きになるのも、分かる気がする。

 それに良く良く考えてみればよっぽど特殊な趣味でもない限り、私みたいにワンパクでたくましい女子相手に()()()()気持ちになんかならないだろう。伊達や酔狂で色気ゼロの人生じゃないんだから。

 まあ、あれこれ悩んでも仕方がない。

 堂々巡りの思考を頭の奥に仕舞い込み、私は立ち上がる。どうにかなるさ、と思いながら。

 

 部屋に戻ると、ちょうど電話を終えたらしい大喜くんが迎えてくれた。

 まだ湯上がりの熱が残っているのか、顔が赤い。……まさか私を見て赤くなったりはするまい、さっきから自惚れすぎだ私。まあ、そういう事はあんまり考えたくない。好きじゃないんだ、そういうの。私の世界はもっとシンプルで、フワフワしていて、バスケ以外の事はどれも散漫な気配でしかない。そうやって今まで生きてきたんだから。

 最近の私は、どうも考えすぎる。使う頭も無いくせに、やたらと御託を並べたがっていけない。

 とりあえず、余計な事は考えないようにしよう。

 せっかくの誕生日だし朝まで遊ぼうか、とボードゲームを並べて提案すると、大喜くんは目を輝かせてくれた。ああ、可愛いったら無いな。一個下の男子とは思えない、いや今日から二個下か。

 まずはこれ、とトランプを切りながらふと思う。

 ――もし。すべてが誤解だったなら。大喜くんは嘘なんか吐いてなくて、蝶野さんはただの「友達」で。もしそうだったなら、私はどうするんだろう。

 それでも私には立場がある、と逃げるだろうか。それとも……それとも?

 まあ、良いか。考えるのは苦手だから。

 きっと最後は上手くいく、そういう風に出来ているんだ。

 17歳最初の夜が、そうして過ぎていく。 

 気掛かりはあれど、楽しい一夜として。

 幸せだな、なんとなく。


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