アルフェナッツ級防空巡洋艦は現実でのタイコンデロガ級イージスミサイル巡洋艦のポジションをイメージしていまして…
時空管理局の特務六課が、各地で頻発するエクリプス関連の事件と第一次次元世界探査艦隊の捜索を進める中、地球連邦の探査艦隊は、土星のような輪を持つ新たな緑の惑星「E-281」の探査を開始していた。
過去の反省から「もう未知の生物やウイルスは持ち込まない」と、バルクホルンの進言のもと慎重な探査を行っていた艦隊上層部。
しかし、その厳重な警戒をすり抜け、同族からの迫害を逃れてきた朱雀のような姿の幻獣の少女が探査艇にしがみつき、ラボラトリー・アクエリアスへの密航を果たしてしまう。
格納庫で彼女を発見した星奈と愛里寿は慌てて自室に匿い、事情を知ったリンネは彼女を「鳳仙(ほうせん)」と名付け、彼女を守るために自らの使い魔(パートナー)として契約を結んだ。
しかし、腹ペコだった鳳仙のために食堂で大量の食料をコソコソと調達する三人の不審な行動が、通りかかったティアナの目を誤魔化せるはずもなかった。
あっさりと尾行され隠蔽工作が露見した結果、ティアナからの無慈悲な報告を受けた藤堂艦長とギンガ副長は、またしても増えた「拾い物」の存在と未だ事態を知らないバルクホルンへの言い訳を考え、深く頭を抱えるのだった……
ラボラトリー・アクエリアス 艦橋
『全く!! 『未知の生物やウイルスは絶対に持ち込まない』という我々の取り決めを、艦隊司令官自らがこうもあっさりと覆すとはどういうことですか!?』
通信モニター越しに響き渡る厳格な声‥‥画面の向こうで眉を吊り上げているのは、艦隊随伴艦であるグラーフ・ツェッペリンに乗艦する士官、ゲルトルート・バルクホルン大尉だった。
「いや、その……結果的に密航を許してしまったのはこちらの落ち度だが、相手は迫害から逃れてきた子供で……」
『情状酌量の余地があるのは理解しています! 私が言っているのは、発見から報告までのプロセスと、事後の隠蔽工作についてです!』
「うぐっ……」
第一探査艦隊のトップである藤堂艦長が、冷や汗を流しながら一介の士官の説教に身を縮こまらせている。
その隣で、副長のギンガ・ナカジマも「あはは……」と愛想笑いを浮かべて平謝りするしかなかった。
艦隊の最高責任者が、部下の士官にくどくどとお小言を言われ続ける光景は、何ともシュールで違和感しかなかったが、今回ばかりは完全にこちらに非があるため反論の余地がない。
そんな上層部の胃の痛くなるようなやり取りの一方で、事の発端となった「拾い物」――朱雀のような姿の幻獣の少女・鳳仙は、ラボラトリー・アクエリアスの医務室にいた。
「はい、終了。血液検査もスキャンもオールグリーン。未知の細菌や危険なウイルスは一切検出されませんでした。とっても健康ですよ」
軍医の言葉に、鳳仙の主(マスター)となったリンネはほっと胸を撫で下ろした。
だがその直後、付き添いで来ていた星奈の使い魔・星彩が、鳳仙に顔を近づけて鼻をクンクンと鳴らした。
「ねぇ、あんた……なんか臭うわよ。土と汗が混ざったみたいな、野生動物の臭い(濡れた犬みたいな臭い)がするわ」
言われてみれば、これまで厳しい野生環境で迫害から逃げ回る生活をしていたのだ。
毎日お風呂に入るような習慣などあるはずもなく、獣特有の体臭が染み付いているのは無理もないことだった。
「では、歓迎会も兼ねて、みんなでお風呂に行きましょうか?」
星奈がポンと手を打つと、鳳仙は不思議そうに小首を傾げた。
「お‥ふろ……?」
「そう! あったかいお湯に入って、体を綺麗にしてサッパリするところよ」
星奈の言葉に星彩が「お風呂は最高よ!」と胸を張り、愛里寿の使い魔である子熊の姿をしたヴォイテクも水浴びを連想したのか嬉しそうに「グルル!」と喉を鳴らした。
星彩はこの艦に密航し、星奈と契約してからはすっかり人間と変わらない生活に順応しており、入浴文化の素晴らしさも熟知している。
(なんだか、とても楽しいところみたい……!)
二匹(?)のウキウキとした様子を見て、鳳仙の心にも「お風呂」に対する大きな期待が膨らんでいった。
だが、その期待は入浴開始からわずか数分で無惨に打ち砕かれることとなる。
「ひゃあっ!? は、羽が……落ちた!?」
洗い場でシャワーを浴びて体を洗っていると、抜けかけていた古い羽が数枚ハラリと落ちた。
それだけで鳳仙はパニックを起こしかけたが、本当の悲劇は湯船で起きた。
「いいお湯だねー。さぁ、鳳仙ちゃんもおいで」
リンネに促され、鳳仙が恐る恐る大浴場の広い湯船に足を踏み入れ、背中の翼を広げたままお湯に浸かった瞬間――。
「ぷか……」
鮮やかな朱色の羽根が、水面に大きく広がって浮き上がってしまった。
「あ、あれ……?」
慌てて翼を畳もうとするが、たっぷりとお湯を吸い込んだ羽根は石のように重くなっていた。
「……お、重いっ! 羽が、体にまとわりつく……っ!」
「わわっ、ちょっと鳳仙、暴れないでよ!」
ほぼ同じ大きさの星彩が慌ててアシスタントに入ろうとするが、パニックになった鳳仙の翼がバシャバシャとお湯を跳ね上げ、大浴場は一瞬にして嵐の中心となった。
「あぁーっ! 鳳仙ちゃん、暴れるとお湯飲んじゃうよ!」
「星彩、そっちの羽を押さえて! ヴォイテク、タオルを持ってきて!」
リンネ、星奈、愛里寿の三人と、星彩、鳳仙の幻獣たちが入り乱れる、まさに乱闘さながらのてんやわんやの大騒動。
「……何やっているのよ、あの子たち」
ちょうど一日の疲れを癒やしに入浴にやってきた副長のギンガは、湯船で繰り広げられるカオスな光景に唖然と立ち尽くした。
ふと見ると、湯船の対角線上の一番遠い隅っこで、ティアナが一人静かに肩までお湯に浸かっていた。
「ティアナ……止めてあげなかったの?」
「……アレに関わるとお湯を掛けられるだけですから、私はもう諦めて傍観者を貫くことにしました」
疲れ切った表情で悟りを開いているティアナに、ギンガは苦笑するしかなかった。
結局、羽が浮いてしまう鳳仙のために、ヴォイテクがいつも使っているのと同じ『幻獣専用の浅い桶』が用意され、そこに星彩と共に浸かることでようやく騒動は収束した。
「ふぅ~……やっと落ち着いたね」
一同が湯船でゆっくりとお湯を楽しめるようになった頃、星奈がふと思い出したようにティアナの方へ身を乗り出した。
「ねぇ、ティアナさん。機動六課にいた、キャロさんって人のことをもっと詳しく教えてくれませんか?」
その言葉に、愛里寿とリンネも真剣な顔で頷いた。
彼女たち三人は同じく幻獣を使い魔とする魔導師だ。
機動六課の優秀な竜召喚士であったキャロ・ル・ルシエの戦い方は、今後の参考になるはずだった。
また、ギンガにとっても機動六課は特別な場所だ。
本来なら自分も出向する予定だったが、次元漂流に巻き込まれたため叶わなかった。
妹のスバルがどんな仲間たちと過ごしていたのか、興味は尽きなかった。
「キャロの事? そうね……」
ティアナは懐かしむように目を細め、自分の知る限りのキャロの情報を語り始めた。
中でも三人が最も食いついたのは、機動六課に所属して最初に起きた事件(ファースト・アラート)の際、キャロが自身の使い魔である『フリード』を真の竜の姿へと覚醒させたエピソードだった。
「すごい……小さなトカゲみたいだったフリードが、そんな巨大な竜に……!」
「私たちの星彩やヴォイテク、それに鳳仙も……いつかそんな風に大きな姿に覚醒できるのかな?」
今は小さい星彩たちが今後自分たちの力によっては巨大な姿になるかもしれない。
そんな期待に目を輝かせる子供たちを前に、星彩は「アタシは今のスマートなサイズが気に入っているんだけど」と呟き、鳳仙は温かいお湯に溶けるようにうっとりとしていた。
――しかし、お風呂の時間は「出た後」も大変だった。
「ひゃあああっ!? 風! 熱い風が来るぅっ!」
「鳳仙ちゃん、動かないで! 乾かすのに時間がかかるんだから!」
脱衣所では再び悲鳴が響き渡っていた。
ヴォイテクは愛里寿に時間をかけてドライヤーとブラッシングをされても、気持ちよさそうにうとうとしているだけなのだが、鳳仙はドライヤーの人工的な風と熱がどうにも苦手らしい。
星彩とリンネが二人がかりで押さえつけ、ようやく全身の羽を乾かし終える頃には、リンネ、星彩、鳳仙本人もヘトヘトになっていた。
この日の壮絶な体験は、鳳仙の心に深いトラウマを刻み込むことになった。
後日‥‥
「ほら鳳仙ちゃん、そろそろお風呂入りましょうね」
「いや!」
脱衣所の前で、リンネの腕の中で鳳仙は全力で首を振った。
「どうして? 一緒に入ろうよ」
「羽が濡れるから。いや!」
「大丈夫よ。羽は濡れても千切れたりしないから」
リンネが優しく諭すが、鳳仙は頑なだった。
「乾かすのが嫌なの! 濡れた翼のお手入れ、すっごく面倒くさいんだから!」
「うーん……でも、入らないとまた臭くなっちゃうよ?」
「むーっ! まだ前のが乾いてない!」
実際にはとっくにフカフカに乾いているはずの翼をパタパタと振り回しながら、鳳仙は無意味であるが必死の抵抗を試みる。
「お風呂=濡れた翼の手入れがものすごく面倒」という強固な方程式が成立してしまった鳳仙の「お風呂嫌い」を克服する道のりは、どうやらまだまだ前途多難なようであった。
数日後、ここで視点を特務六課側に移そう。
ルヴェラ自然保護区にてフッケバインの捜索をしていたシグナムとアギトがエクリプスウイルスに感染していたトーマ・アヴェニールととある事情で同行している少女のリリィ・シュトロゼック、そして成り行きかつ面白そうだからと同行していたアイシス・イーグレッドの前に姿を現し、エクリプスウイルスの感染が進行したことで苦しんでいるトーマを放っておいて、感染させろと言い放ったフッケバイン構成員の一人『サイファー』と呼ばれる女性と交戦が起きた。
対エクリプスウイルス感染者専用の武装に関しては第3管理世界『ヴァイセン』にあるカレドウルフ(CW)社にて未だ開発中であり、捜査中であったシグナムとアギトはユニゾンを行って対応に当たった。
しかし、トーマがEC感染者として半ば覚醒してしまい、シグナムは対応に迫られ、アギトとのユニゾンを解除してアギトに子供らの救助を指示。
自身はサイファーとの戦闘を継続したが、EC感染者の特徴によって反撃を受け、サイファーの剣術により、意識不明の重体となり、アギトも砲撃を食らって同じく意識不明の重体となってしまった。
トーマとリリィ、アイシスは同じくフッケバインの女性構成員である『アルナージ』が拘束&眠らせてしまって、フッケバインの母艦につれて行ってしまったのだ。
ここで、EC感染者の特徴について説明しておこう。
EC感染者は『魔導殺し』の異名を持ち、ディバイダーを保有していた場合は魔力エネルギーの結合を分断…、要は魔力で形成した攻撃はすべて、無効化してしまう。
おまけに、感染者の肉体は多用な『病化』…変異を起こし、肉体の強度への病化は顕著であるため、文字通り『『感染者』の肉体を兵器へと変貌させる』のだ。
これによって、ユニゾンリアクトを行ったシグナムの剣技はサイファーの左腕を切断することすらかなわずに反撃を受けて撃墜されてしまったのだった。
それから数時間後になのはとヴィータが応援の局員たちを引き連れて到着したが、意識不明の重体であるシグナムとアギトを救急搬送する以外に出来ることが無く、報告を受けたはやても事態の重大さを改めて認識し、CW社に開発を急がせていた対EC感染者装備の内、完成している物の実戦投入を決断した。
シグナムとサイファーとの戦闘からさらに数日後‥‥
フッケバインの拠点である飛翔戦艇『フッケバイン』の船内では、トーマやリリィ、アイシスがそれぞれのフッケバインの構成員から説明を受けていた。
トーマはフォルテスとドゥビルという男性構成員からEC感染者についての説明を受けていた。
リリィはサイファーから、アイシスはアルナージから受けていた。
要は、フッケバインはトーマとリリィをスカウトしたいと言うスタンスなのだ。
また、トーマの仇でもあるトーマの故郷の村を破壊したのは自分たちフッケンバインではないと説明。
確かにその場にいたことは認めたが、生存者であるトーマが生きている時点で自分たちの犯行ではないとも明言したのだ。
彼らは『依頼や報酬があるとき、武器を向けられた時、僕たちの目的の障害になるとき、感染者である僕たちが生きる為に必要な時、こういった場合は遠慮なく殲滅させてもらっています』と言うのはフォルテスという男性の言葉だ。
サイファー曰く、エクリプス感染者はリアクターと呼ばれる物を体内に取り込んでディバイダーと自身の能力を最大限に発揮する。
また、リアクターは基本的には無機物だが、リリィを含めた『シュトロゼック』シリーズは生命体の形状を取ると言う。
実際、リリィはシュトロゼックシリーズでは四番目の個体であるのだ。
フォルテスはEC感染者は基本的に殺人を犯さずにはいられないことや、感染が最終段階まで進行すれば、ウイルスと体組織の自己対滅…要は自己再生能力が暴走して肉塊に代わってしまうと言われたトーマは茫然とするしかなかった。
まぁ、高高度を飛翔中の『フッケバイン』からの逃亡は無駄だと言ってフォルテスとドゥビルは退室していった。
その直後、特務六課の艦艇である『アースラⅡ』がようやく『フッケバイン』に追いついたのだった。
特務六課 次元航行艦『アースラⅡ』 艦橋
「あれがフッケバインの移動拠点飛空艇『フッケバイン』。あれもエクリプスウェポンの一種や。これまでの次元航行艦の常識から言えばありえへんレベルの機動力と双転移能力、おまけに艦載魔導武装の一切合切が通用しないっちゅうバカげた装甲。狂鳥(フッケバイン)が無敵を誇っていた理由の一つでもある。でも、いつまでも勝手にはさせられへん!」
「ルキノ!操舵手として絶対に逃がしたらあかんで!!」
「了解!!」
アースラⅡの艦橋では、特務六課の長であり、アースラⅡの艦長でもある八神はやてが指揮を執っていた。
これまで、フッケバインの痕跡を辿りに辿り、ようやく追いついたのだ。
ここで逃がすわけにはいかない。
アースラⅡ 甲板上
『射程に入り次第、機関部へ砲撃を開始!主砲担当の二名!準備はええか!?』
「了解!『ストライクカノン』及び『ウォーハンマー』スタンバイOKです!」
なのはは大型のリニアカノンのような砲を、ヴィータはデバイスに似た大型のハンマーを用意していた。
飛空艇『フッケバイン』
『フッケバイン乗務員、警戒通報。管理局次元航行艦『アースラⅡ』が接近、先ほどから長射程の魔導砲『アウグスト』による砲撃を敢行するも、本船に被害なし。投降の勧告を繰り返しています』
「えっほ、えっほ!あ、フォルテスとビル兄!」
「おや、アル。管理局さんがまた無駄なことをし始めましたよ?」
アルナージはフォルテスとドゥビルにフッケバインの廊下で会話していた所に幼女が走って来た。
「おっ?ステラ!操舵手さまも出動か?」
この幼女こそ飛空艇『フッケバイン』の操舵手であり、飛空艇『フッケバイン』という巨大なEC兵器の保有者でもある。
普段は飛行や計算にその能力のほとんどを使用しており、喋れないがリアクトすれば喋れる少女でもあるのだ。
「えっ?『客人の分の食事も作っていたのに、警戒態勢だから操舵に回らないといけない?』」
「あはは…それはご苦労様です。さっさとお役人にはかえってもらいましょう。」
「だな!ん?『いつもみたいに軽くやっつけてさっさと帰ってもらう』?だな、さっさと上手い飯を食いたいしなぁ~」
アルナージとフォルテスはステラにそう話した。
その直後、なのはが持っていた兵器『ストライクカノン』が火を噴いた。
『フッケバイン』の中和フィールドを貫通し、船体にダメージを与えたのだ。
フォルテスは久々の質量兵器に意外だと驚き、ドゥビルは管理局にしては珍しいと感心していた。
また、即座にヴィータも『ウォーハンマー』で『フッケバイン』の船体上部を攻撃して大穴を開け、そこにフェイト、スバル、エリオが突入を開始した。
それを聞いたアルナージは興奮し、ドゥビルが迎撃に当たると言った直後に自分も行くと言ったが、フォルテスに『アルのディバイダーで好き勝手に撃たれたら『フッケバイン』の船内が無茶苦茶になるからやめてください!』と止められた。
また、歩いてきたサイファーが自分ともう一人の男性構成員である『ヴェイロン』、そしてドゥビルの三人で対処可能だと言ったので、アルナージは不満げであったが、フォルテスが何とかなだめた。
サイファー、ヴェイロン、ドゥビルの三人が特務六課制圧部隊であるフェイト、エリオ、スバルと交戦を開始した頃、ステラも『フッケバイン』とのリアクトを開始し、船体の修復と速度の加速を開始した。
ところが、この事態が思わぬ方向に動いた。
サイファー、ヴェイロン、ドゥビルの三人とフェイト、エリオ、スバルの戦闘時の悪意や傷つけようとする意志がエクリプスウイルスに侵されていたトーマの精神に過剰な負荷をかけており、トーマは精神の限界に近く、直後にトーマとリンクしていた銀十字という魔導書(はやての夜天の書のような感じの物)が転移してきて、トーマの力の補助を開始。
トーマの『怖い戦いもみんな、全部消えてなくなればいい!!』
という意思の直後に異変が起こった。
<Divide Zero 《Eclipse》>
アースラⅡ 艦橋
「なっ!?い、一体。何が起こったんや!?管制!状況の報告を!!管制!!操舵室、ルキノ!通信室!誰か応答せいや!!」
はやては息も絶え絶えな状態で各所に通信を飛ばした。
しかし、ほとんどの局員たちが意識不明、もしくは心停止状態に陥っていたのだ。
幸い、過半の局員は服のAEDが自動で作動し、何とか息を吹き返したが、一部の局員は心停止したままであり、シャマルが医務室の局員たちと総出で心肺蘇生に取り掛かっていた。
ルキノからの報告で、『フッケバイン』もエンジンが停止し、機体運動に乱れが生じて降下を始めているとの報告が来たが、『アースラⅡ』も機関部の駆道炉が出力12%まで減衰したと判明。
また、甲板上で砲撃支援の為にバッテリーの交換を行っていたなのはも砲撃支援が困難に、『フッケバイン』上空で支援の為に待機していたヴィータも飛行継続が不能となってしまい、着艦を余儀なくされた。
(魔力と命が根こそぎ奪われたような感覚やった…。これがエルトリア共和国からあくまでも未確認の情報として報告してきていた資料にあった『ゼロエフェクト』かいな?)
また、『フッケバイン』艦内もある意味悲惨な状況であった。操舵手のステラも失神しており、フォルテスが何とか起こして操舵を再開。
フェイトは心停止していたが、バルディッシュが自己判断でAEDシステムを起動。
エリオも息も絶え絶えになっており、サイファーは意識はあったが倒れており、ドゥビルも戦闘不能。ヴェイロンはこれがボスである女首領のカレンが探していた『ゼロ因子の保持者』がトーマであり、この事態を発生させたと見抜いていたが、彼自身も壁に寄りかかっている有様で、即座の戦闘復帰は不可能だった。
スバルは何とかリリィを助けていたが、直後にトーマがやってきて、リリィをスバルに任せて自身は身を投げると言って艦の外に身を投げてしまった。
この報告を受けたはやてはこの時、『フッケバイン』の操舵手であるステラから艦の外に局員と民間人を五分後に放出するからさっさとどっかに行けと言う通告を聞いていたが、普通にこれまでの前科をペラペラしゃべるわ、『ちゃんと管理外世界でやっているんだから、わざわざ面倒な手続きを踏んで追いかけてくる必要なんてないでしょ!!』と言ったもんだからフォルテスが何とかなだめていた。
※普通にバレていない事件であったので、情報を漏らしすぎだとたしなめていた。
実はこの時、とんでもない事態が発生していたとも知らずに‥‥
現場から数キロ先の空域
ラボラトリー・アクエリアス 艦橋
「じょ、状況報告!!」
「次元転移が何故か中断されました!艦隊全艦が揃っていますが、一部の艦ではシステムに異常が発生!!」
『こちら『ちはや』!次元救難艇のエンジンに異常発生!即時運用不能!!』
『『SS伊400』です!次元潜航システムに不調が発生!現在修理を開始!』
『こちら『おうみ』!次元波動エンジンに不調が発生!飛行には支障はありませんが、戦闘は不能!!』
『こちら『マーズ』!艦内のアンドロイド数体が機能停止!現在確認中!!』
「艦長!BBB-14『草薙(くさなぎ)』の自己判断システムにも障害発生!!オンライン操艦に切り替えます!!」
この時、トーマが放った分断(ディバイド)は威力がすさまじく、なんと近くで次元航行中だった第一次次元世界探査艦隊全艦の次元転移を強制停止させて、この星の空域に強制転移させてしまったのだ。
おまけに各艦艇の主要システムにも不具合が発生。ラボラトリー・アクエリアス艦内ではその対応に追われていた。
しかし、この時、艦隊で最前列に位置していた晴風、沖風、天津風、時津風、そしてこの四隻を束ねていたアルフェナッツ級防空巡洋艦『アルフェラッツ』と『パスカルメイジ』の二隻がとんでもないニアミスを発生させることとなった。
アルフェナッツ級防空巡洋艦『パスカルメイジ』
「み、美咲艦長!前方より不明物体急接近!」
「何ですって!?」
パスカルメイジの艦長である美咲七波はレーダー員からの報告に耳を疑い、そして慌てた。
なんせ、原因不明の事態の連発である。
「航海長!!転舵!!通信長!後続にも打電を!!」
「雲海出ます!」
なんと、次元世界探査艦隊は『フッケバイン』の眼前に転移してしまったのだ。
ドガアアン!!
「うわぁああ!?」
「くっ!?損害報告!!」
「不明船と接触!損害は軽微です!!」
そしてこの直後、トーマの身柄を確保しようと動いていたなのはやアイシス、アルナージ、ドゥビルを探知した銀十字はトーマを管制し、敵性存在の排除を実行。
多量のエネルギー弾を発射した。
そしてその弾幕は当然、『フッケバイン』と接触事故を起こしていたパスカルメイジや後続の晴風、沖風、天津風、時津風、アルフェナッツにも襲い掛かっていた。
パスカルメイジ CIC
ジリリリリリリリリリリリリリリリリ!
パスカルメイジのCICでは副長のターニャ・L・コジマの指揮の下、初の実戦への対応に追われていた。
艦内にはけたたましい警報が鳴り響く。
「遠距離空間レーダー目標探知!本艦隊に接近する飛翔体を確認!方位は本艦から見て三時及び六時方向!数、百以上!!対空戦闘用意!副長、総員対空戦闘配置つけます!!艦対空ミサイルCSM-2(コスモスタンダード-2)迎撃はじめ!」
「目標群、さらにまっすぐ近づく!!」
「発射用意!撃ってえ!!」
バッシュアン!バッシュアン!!
CICの指示の下、CSM-2が二発、パスカルメイジの甲板のVLSから発射された。
「バースアウェイ!!さらに近づく目標多数!!CSM-2迎撃を継続!!各艦の主砲、パルスレーザー砲塔迎撃準備!!」
「トラックナンバー1から89までインターセプト!それ以降さらに接近!!迎撃の手を緩めるな!ラボラトリー・アクエリアスとマーズだけは絶対にやらせるな!」
「『時津風』より急報!『時津風』のVLSのハッチが一部に稼働不良発生!時津風、主砲発砲開始!」
「『天津風』よりCSM-2の三割消耗!CESM(コスモシースパロー)による迎撃続行とのこと!」
『だ、駄目!対応しきれない!!総員!対ショック姿勢!!』
時津風艦長の榊原つむぎが悲鳴のような指示を出した直後。
直後、時津風に多数のエネルギー弾が直撃した。
「『時津風』、被弾!」
『こちら時津風!多数被弾するも貫通弾なし!航行及び戦闘続行に支障なし!!』
「『天津風』!そちらで時津風の支援は可能か!?」
『こ、こちら天津風!わ、悪いけどこっちもそんな余裕はっ!?』
ドッガアン!?
「天津風にも直撃多数!現時点での被害集計は時津風、天津風ともに被弾!されども航行及び戦闘続行に支障なし!」
「目標群β!さらに本艦に向けてまっすぐ突っ込んで来る!!」
「砲で対処します!主砲及び艦尾副砲群発砲用意!!主砲、副砲発砲!」
「了解!発砲!」
ターニャの指示を受けたCIC要員の内の一人が主砲と副砲の砲撃用のピストル型トリガーの引き金を必死に引いた。
「限界速力で射撃!砲身が焼き付いても構いません!全力で射撃しなさい!!」
「主砲及び副砲群、ショックカノン発砲開始!」
「目標三十、パルスレーザー射程圏内へ接近!」
「パルス!」(パルスレーザーのこと)
「全パルスレーザー砲塔迎撃開始!!目標撃破確認!さらに五十がグラーフ・ツェッペリン級装甲戦闘空母『グラーフ・ツェッペリン』に向かう!」
「CSM-2規定数を消費!CESMに切り替えます!」「CESM三発、攻撃始め!発射用意!撃ぇ!!」「バースアウェイ!!」
突如として空域に放り出された第一次次元世界探査艦隊と彼らを突然襲った暴走するエネルギー弾の雨。
「こちら『グラーフ・ツェッペリン』! 本艦への攻撃網を確認、これより対空弾幕を展開する! 迎撃システム、全門開けぇっ!!」
グラーフ・ツェッペリン艦長の坂本美緒の悲痛かつ勇ましい叫びが響き渡り、重装甲を誇る戦闘空母からも無数の火線が放たれた。
何の前触れもなく次元転移を強制停止させられたばかりか、未知の空域への強制転移、システム異常の連発、さらには所属不明の巨大な飛空艇との接触事故と、怒涛のように押し寄せる致死の弾幕。
「鳳仙の密航騒動」や「お風呂のトラブル」で頭を抱えていた平和な時間は遥か彼方へと吹き飛び、艦隊の誰もが生き残るための緊急戦闘を余儀なくされていた。
一方のアースラⅡや特務六課の面々も、想定外の事態(ディバイドゼロによる機能不全)に陥る中、突如として上空に出現した巨大な未知の艦隊群の姿に唖然とするしかなかった。
次元の狭間で引き起こされた一人の少年の暴走は、特務六課、フッケバイン、そして地球連邦の第一次元世界探査艦隊をも巻き込み、誰も予測不可能な「最悪の事態」へとその規模を急速に拡大させていくのだった……。
次回 対空戦闘、始め!!