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サヨ編(その1)は自分で書き始めた癖に難産で滅茶苦茶時間が掛かってしまいましたが、これにて終わりです。次回からは原作沿いに戻るので更新頻度が上がると思われますので、良ければ今後もよろしくお願い致します。
ヨル・フォージャーは殺し屋である。
しかし、それ以前に弟のユーリ・ブライア、妹のサヨ・ブライア、義娘のアーニャ・フォージャーを愛し、夫のロイド・フォージャーを信頼する妻であった。
そんな彼女は、東国の売国クソ野郎共を時折片付ける傍らで、実妹のサヨが他人に言えない仕事をしている事を何となく知っていたのである。
(サヨ
ヨルはサヨがヨルの仕事を詮索しないでくれている事をとても感謝しており、ヨルも彼女の仕事は極力詮索しないようにしていた。
とは言え、それもサヨが、ヨルの上司である店長曰く"よい人たち"の元で仕事をしている故。仮に"わるい人たち"であった場合、仕事先を皆殺しにしてでも連れ戻す所存である。
『ね……姉さん……き、ききっ……気をつけてね……? フヒヒっ……』
昔のサヨは今とはまるで性格が違った。
相変わらず伊達眼鏡は掛けていたが、ヨルよりも髪は長く伸ばされ、片目は前髪で隠れており、若干猫背気味で、引っ込み思案で愛想笑いばかりしているが笑みが下手で、小さな子供と家族想いの少女であったのだ。
そんな幼き日のサヨが、教会の炊き出しのボランティアからいつもより早く帰って来たかと思えば、玄関先でシスター服に付いていた十字架を引き千切り、その金属の十字架を刺し損ねた画鋲のようにへし曲げて投げ捨ててた日の事をヨルは忘れない。
理由は全くわからないが、そんな塞ぎ込むサヨにすかさずヨルは姉らしく激励した。サヨが再び立ち直ってくれるように誠心誠意全力で応援したのだ。
そして、それを受けて光のない瞳で空笑をしつつ、再び出掛けてから家に帰って来たサヨは今のような明るい性格に変わっており、髪型もヨルの真似をするようになった。背中を押した彼女が立ち直った事はヨルの小さな誇りである。
尤も、それと共に家から大型のパイプレンチが一本消えていた事にヨルが気づく事は無かったが。
(お姉ちゃんはまたサヨの背中を押してあげます……!)
ヨルの中では昔のサヨも今のサヨも変わらない。
故に気弱で後一歩が踏み出せない性格の妹の背中を押してあげる事が、姉として出来る最善の事だとヨルは思ってはばからないのだ。
「サヨちゃん――!」
「ネェェェエェぇさァああぁァアァァン!!!!」
そして、このようになった。
◇◆◇◆◇◆
「やーん、大迫力ねー」
黄昏はこれまで自身の後ろに隠れるように立ち、カラカラと笑う男――フランク・ロンメルを半眼で見つめ、何とも言えない表情になった。
そもそもこの郊外の廃工場で壮絶な姉妹喧嘩が行われている理由の八割はフランクのせいである。
というのもこの場所でサヨとアーニャと黄昏らが合流し、彼女にヒルを引き合わせたのだが、その結果、動揺しつつも即座に黒幕がフランクであると当たりをつけたサヨが、殺意しかない表情と気迫で彼に飛び掛かり、それを守ったヨルが交戦して今に至るのだ。
「いや、部下に殺されかけてますけど……」
「
そんな事を言っている彼らの数m隣りを数百kgはあろうかという赤茶けた重機が宙を舞い、壁に当たって崩壊する。かと思えば二人の拳や蹴りが交錯した衝撃で、近くの電灯や窓ガラスが弾ける。
時折、軽く原木やコンクリートを破砕する一撃が互いにヒットしているが、それを全く意に介さず未だに廃工場の壁や天井の鉄骨までも駆け回りながら戦闘が繰り広げられていた。
「………………あの二人も東国の実験で生まれた人間兵器とかなんですか……?」
「いや、普通に出生記録あるし、天然モノよ……たぶん。あんまり深く調べていないけれど」
今まで飄々とした態度で存在感に溢れていたフランクが、多少小首を傾げ、指で頬を掻きながらそんな事を呟いている。
それはそれでどうなんだと思う黄昏であったが、戦闘能力がほぼ完全に拮抗し、互いの肉体が頑強過ぎるため、いつまでコレが続くのかという事に意識が向く。
するとそれを察したのか、フランクが姉妹を眺めつつニンマリと笑みを強めた。
「じゃあ、ロイドちゃん。ちょっと動かないでね?」
「は――?」
何が"じゃあ"なのかと考えるが、そう言われたのでやや身を強張らせた――直後、黄昏は視界の急速な切り替わりと浮遊感を覚え、コンマ数秒遅れて自身がフランクに投げ飛ばされたという事に気づく。
「ちち――!?」
「
(背後に居たとは言え、俺が投げられるまで気づかないレベルとは恐ろしく動作に無駄と躊躇がないな……。しかも確実に手慣れてやがる。やはり戦闘に関しては一流以上の殺し屋か。……ん? いや、ヒル・ヴィットマン、俺は君の父親ではないのだが?)
黄昏はとても見覚えのある驚き顔で叫ぶヒルの言葉に首を傾げつつ、とりあえず受け身を取ろうと空中で身を翻そうと行動する。
「みぎっ!」
「左ですッ!」
(左右――?)
その最中に黄昏はアーニャとヒルの言葉で左右に意識を向け――。
「シャァアァアァァァ――!!」
――彼の右からヨルが迫り、更に左からサヨが迫り、両者とも魔王が裸足で逃げ出すような形相で、引絞った大弓のように肢体を振りかぶっていた。
「シィイィィィ――!!」
黄昏は酷く高速化した現実味のない時間感覚の中でふと思う。
(これ、ヤバいのでは……?)
自身がボンドマンで出て来たようなつり天井で侵入者を押し潰す仕掛けに潰される光景、あるいは40tトラック同士が正面衝突する間に挟まれる幻視、はたまた青い龍と白い虎に左右から噛み殺される景色が浮かぶ。
既に二人の衝突に丁度差し込まれるように投げ飛ばされ、宙を舞っている黄昏に出来るのは、上手く受け身を取るぐらいである。
アーニャの入学式の時に酔った勢いでヨルティミシア(うろ覚え)と化したヨルとの数秒の攻防ですら死の危険を感じた黄昏であるが、現在はそれを遥かに超える事態であろう。
咄嗟に手足を固め、身体をやや丸めて防御姿勢を取るが、爆弾でも投げ込まれたかのような廃工場内の惨事を見るとそれはあまりにも心許ないと言える。
そして、その次の瞬間に姉妹は黄昏の両脇に接近し、それぞれが撓る肢体を放つ穿つ――。
ヨルとサヨは双子の姉妹だとしてもあまりにも異様なほどにその身体が似通っている。それ故に身体能力は完全に同じであり、習った殺しの技術こそ違えどもその戦闘技量もまた拮抗していた。
ただし、二人には決定的に異なる本質の違いがあり、それは大切な時に、姉は形振り構わず一歩踏み込め、妹は臆して一歩身を引く。ただ、それだけの違いであった。
しかし、その差は余りにも致命的であろう。
故にサヨは――絶対にヨルには勝てない。
「兄さ――」
サヨが黄昏を呼ぶか細い声と共に彼の腕が引かれ、勢い良く他方に引っ張られ、体ごと投げられると共にその場から視界が急速に遠のく。
この土壇場で、即座に彼女は勝負を捨て、兄を助けることを選んだのだ。
「――――!」
「――ぎっ!?」
そして、それと同時に全く躊躇なくヨルから貫手が穿たれ、距離を取り始めた黄昏の腕を掠め、彼の薄皮を裂き多少の出血を伴い、更にその先にあったサヨの喉笛に突き刺さった。
更にサヨが大きく怯んだ事で、ヨルは貫手による豪雨のようなラッシュを放ち、サヨの全身を余すことなく突き穿ち、身体を上方へと浮き上がらせる。
そして、その場で全身を縦に大きく回転させ、遠心力を付けた脚でもってさながらギロチンのようなムーンサルトキックがサヨの首に直撃した。
「サヨ……!?」
トドメの一撃により、サヨの身体はさながらストライクの時に弾け飛ぶボーリングのピンのように地面を何度もバウンドし――その途中で身体を捻りながら両足と片手で獣のように地面を踏み締め、更にそこから数m後方に後退する事で勢いを殺し切る。
(えぇ……)
あまりにも化け物染みているサヨの機動性と耐久に困惑する黄昏。
「――あぇ? ロイドさん!? 楔は打ちましたが、一応、まだ私達の近くにいたら危ないですよ!」
「あっ、はい」
しかし、どれだけ考えても彼の頭が状況を飲み込む事を拒否していたが、何故かヨルに窘められたため、疑問を放棄することにした。
とはいえ、流石のサヨも大ダメージぐらいにはなったらしく、彼女の額から細く血を流しながら肩で荒く息をしており、さながら手負いの肉食獣のような様子ではあろう。
「姉さ……ん……ッ!」
しかし、それでも未だサヨは動き、片腕を振りかぶりながら全身をバネにしてヨルへと跳躍する。
構えた姿勢のままそれを静観するヨルは、サヨが眼前に迫った刹那、腰を落としながら瞬間移動と見紛う程の踏み込みで彼女の懐に潜り込むと、渾身のボディブローを叩き込む。
「――――!?」
それがトドメになった。
四肢を投げ出し、ゆっくりと崩れ落ちるサヨをヨルは肩で受け止め、姉に抱えられて徐々に目蓋を閉じるサヨは薄っすらと笑みを浮かべるとポツリと呟く。
「姉さん……。さっきのは……あなたが旦那さんを庇うところじゃ……ないの……?」
「はへ……? はっ――! そうだったかも知れません!? はわわ……申し訳ありませんロイドさん⁉」
まるで"その発想はありませんでした!"と言わんばかりに純粋に驚いている様子のヨル。
何ならば黄昏がサヨに救出されてなければ、ヨルは彼ごと行っていたのではないかと一瞬考えた黄昏であったが、流石にそこまでの事はしないだろうと考えるのを止めた。
「は、はは……」
ちなみに何故かアーニャがヨルを見る目がやや冷たげで引き攣った表情をしているように見えるが、特に関係はないことのため意識を姉妹に戻す。
さっきの言葉だけ言い残してサヨは項垂れるように気絶していた。それを見届けたヨルは黄昏の方へと振り向くと嬉々とした表情を浮かべ、握り拳を作る。
「えっと……勝ちましたよロイドさんっ!」
(そういう話だったっけか……)
黄昏の疑問は錆色の天井へと溶け、勝鬨を上げるヨルをなんとも言えない表情で眺めるばかりであった。
◇◆◇◆◇◆
(首いてぇ……)
サヨ・ブライアは主に首筋を中心とした激しい痛みと全身の筋肉痛のような症状で目を覚ました。
最悪な目覚めに顔を顰めて窓から注ぐ朝日を眺めつつベッドから身体を起こし、寝惚けた感覚によって身体を起こしたまま暫く放心する。
何気なく眺めればこの一室は紛れもなく自宅であることも理解出来、窓から差し込む明るい月明かりからまだ夜だということがわかるだろう。
簡素なパイプベッドと無機質なカーテン、床に物ひとつ置かれておらず傷もない新居のようなフローリング、備え付けのクローゼット、申し訳程度にあるベッド脇の床頭台には伊達眼鏡と望遠カメラとポケットに入るサイズの小型カメラが置かれ、僅かに開いている引き出しにはアルバムが詰まっている。他にめぼしい物と言えば、オルガンやギター等の楽器が隅に置かれている程度のものか。
そして、何よりもそれ以外のモノが一切ない事が何より目を引き、壁紙すら貼られていないコンクリート壁が物語るであろう。一人暮らしとは言え、女性の寝室としては余りにも無機質であり、まるで独房のようにさえ思えるかも知れない。
ここは独り身のサヨが寝に帰るだけの家と化しており、玄関からすぐにキッチンがあり、三点式ユニットバスとこの一室だけがある1Kの古いアパートは、彼女の普段の性格からは考えられないほど殺風景であり、酷く乖離して思える事だろう。
更に起きて部屋にいるサヨの表情はフォージャー家にいる時とは別人のように表情がなく、真顔でつまらなそうにも思え、氷を思わせる印象すら抱く。
(………………夢?)
姉と本気で戦ったという余りにも現実味のない微かな記憶が頭を過るが、それは夢だったのだろうと考え、首の痛みは寝違えで筋肉痛は日頃の疲れであると結論付ける。
そして、何気なく今まで自身を包んでいた白いブランケットをひっくり返し――。
「すぅ……すぅ……」
寝息を立てて眠る小さな頃の自身と瓜二つの少女の姿に目を奪われた。
「あっ……」
それによって夢だと考えていたやり取りは全て事実であった事を悟る。
アーニャと遊園地に行っている内に、サヨにとっての店長であるフランク・ロンメルが中心にけし掛け、理由はどうあれそれに姉と義兄が乗っかったのであろう。
つまりフランクが悪い。だからサヨは廃工場で躊躇なく彼に襲い掛かったのである。結果は姉に打ちのめされた訳だが。
(授業参観とかまでは姉さんなら気付かないだろうし、兄さんもスパイ的には表立って触れてこないと思っていたのだけれどなぁ……)
幾らヨルが普段からのほほんとしているとは言えど、流石にアーニャと同じクラスにいる自分と同じ顔をした少女がいれば怪しむであろう。
なのでそれまでにお誂え向きな言い訳を作っておこうとしていたのだが、余りにも気づかれるのも行動も早過ぎたため、このようになってしまったのだ。
ちなみにヒルがアーニャと同じクラスになったのは完全な偶然であり、イーデン校に入れたのはせめて教育は最高峰の機会だけでも与えたいと言うただの親心であった。
(この娘は私が居なければ決して生まれなかった……)
だから自身の子。それがサヨがヒルに執着すると同時に突き放しているひとつの要因である。
「…………姉さん」
「はい」
するとサヨは虚空にポツリと呟き、それに答えると共に何処からともなく姉のヨル・フォージャーが闇から出でるように姿を現す。
いったい、この殺風景な部屋の何処に大の大人一人が潜んで居たのか疑問であるが、少なくともサヨは起きて眠気を振り払った段階でその存在に気付いたらしい。
「私は悪人よ」
「いいえ、サヨちゃんは良い子です」
「私は人に言えないようなことを沢山してきたわ」
「それは私もきっと同じです」
サヨとヨルは互いに互いがしていることを知らず、知ろうとすることもなく、にも関わらず信頼から肯定している。
「この子には……私と同じようになって欲しくはないわ」
「私もアーニャさんにはちゃんと生きて欲しいです」
子供に自分のような人生を歩んで欲しくはない。そのためには何よりも自身が彼女に最大限関わらない。実親は居ないが、良い環境に生まれ、戦争の爪痕も知らずに平凡に育ち、それなりに納得できる家庭を持ち、良ければ老衰で死ぬ。
そんな何てことない一生を何より親として望み、そのためには最も必要のないモノを切り捨てる。それがサヨの母親として出した答えである。そして、それは家庭を持つヨルもまた変わらなかった。
「私は……母親にはなれないわ」
「それなら私もなれていません。けれど私はアーニャさんの母親です」
「…………私は」
詰るところサヨは、ヒルを他でもない自分自身が真っ当に育てられる自信がなく、そのようにしか愛を示せない不器用で奥手で頑固な女であった――ということを他でもないヨルが証明するのだ。
「私は……姉さんにはなれないわ」
姉のように生まれついて心が強くはない。
自分自身が矮小な存在なのを誰より理解しており、だからこそ強くなろうと志した。
いっそ、姉になりたいと願った――だが、結局姉のようにはなれず、自身と瓜二つで存在する筈の無かったヒルを見た時に後悔したのだ。
「…………子供は必ず親の身勝手でしか生まれては来ないわ。欲、野望、愛、征服感、一時の感情に身を任せた親の自分勝手で授かるの。子供は……生まれながらに勝手と理不尽を背負わされるものよ……」
何よりこのような者が実の娘の親となるという事に、他ならぬサヨ・ブライア自身が耐えられない。彼女は嘘つきの悪人でも自分に嘘は吐けなかった。
「だから私が出来たのは自分勝手を少しでもマシに出来る後始末だけ……。だから……だから……あのままでよかったのに――」
「じゃあ、背負っていきましょう。ふたりで。お姉ちゃんがサヨちゃんをお守りします」
するとヨルはサヨを背中からそっと抱き締め、それにビクリとサヨの肩が跳ねるが、俯いた表情で動かずにじっとしている。
「もちろん、ロイドさんもアーニャさんもヒルさんもみんなお守りします。私はお姉ちゃんなんですからっ!」
「…………姉さんには勝てないなぁ……」
「んぅ……みゅ……?」
「――――!?」
姉妹でのやり取りの最中、ヒルが目を覚まし、それに反応したサヨが飛び退かんばかりに身を強張らせるが、背後から抱き締めているヨルがガッチリと押さえていた。
その間にヒルは目を擦って辺りを眺めると、サヨとヨルの方に視線が向き、表情を明るくさせる。
「ヒルさんこっちにおいでください」
「うん……!」
「あっ……」
するとサヨの身体をぽんぽんと叩くヨルに促されるまま、ヒルはサヨに抱き着く。これでサヨは前後から姉と娘にサンドされる事になった。
「お母さん――!」
「ンん゛――」
ヒルに抱き着かれたサヨはぷるりと震えたが、直ぐにヒルの屈託のない笑みを眺めて申し訳無さげに視線を下げる。
「ずっと遠ざけてきたのに……あなたは私をお母さんと呼んでくれるの……?」
「はいっ! ずっとずっと……夢見ていましたから、そしたら私のお母さんは――」
心の底からの安心した様子で、花が咲くような笑顔を浮かべたヒルは、強くサヨに抱き着くと彼女の顔を見上げながら口を開く。
「優しくて強くてカッコいい! 素敵なお母さんでした!」
「ああ……あぁ……!」
その言葉を皮切りにサヨの両目から止めどなく涙が溢れ、ぎゅっとヒルを抱き締め返す。そして、震えながら強く抱き寄せつつ言葉を紡いだ。
「自己紹介から始めましょうか……。私はサヨ・ブライア。こっちは私の姉で……あなたのおばさんのヨル・フォージャーよ。その……あなたのお名前は――?」
飾り気のない窓から降り注ぐ木漏れ日のような月明かりに照らされ、家族の夜は更けていくのであった。
◆◇◆◇◆◇
サヨがヨルによってノックアウトされてから数分後まで時は遡る。
そこには廃工場の外で、サヨの改造車と黄昏が用意していた車が並んでおり、サヨの車の後部座席には気絶したサヨが寝かされ、助手席にはヨルが座り、その膝の上にヒルが座っていた。
「じゃあ、ロイドちゃんとアーニャちゃんはここまでね。ヨルちゃんは免許持ってないし、サヨちゃんは気絶してるからアタシがサヨカーでサヨちゃんちに
「がっ、頑張りますっ……!」
「あの……本当に大丈夫なのでしょうか?」
「んー? サヨちゃんなら家までは起きないと思うわよ? ねー、ヨルちゃん」
「あっ、はい。大丈夫ですロイドさん! サヨちゃんは3時間ほど起きないように叩きましたので!」
「……そうですか」
(いや、そうじゃないんだが……)
起きた瞬間に再び争いにならないのか、あんな終わり方でサヨが納得するのか、そもそも殴り合う必要はあったのか等など様々な疑問や不安感に押し潰されそうであるが、件のヨルはとてもやる気に溢れているので何も言えなくなる黄昏であった。
「まあ、大丈夫よ。こういうのは家族に言われるのが一番堪えるからねぇ。…………実際、アタシがどんなに言ってもダメだったし」
どこか遠くを眺めつつポツリと小さく呟かれたフランクのその言葉には妙な人間味があり、人を憂うような姿がマフィアのボスなどではなくひとりの人間に見え、黄昏は目を丸くする。
そうしているうちにフランクは何故か、黄昏の隣にいるアーニャのところまで来ると、相変わらずな笑みを浮かべながらしゃがみ込んで視線を合わせた。
「君がアーニャちゃんね?」
「お、おう……?」
黄昏のズボンを掴みつつやや引いた様子のアーニャは、何故か目を細めながらフランクを見ようとしているように見えた。それは見辛い物を見ようとするような動作に見え、黄昏は首を傾げる。
「ウフフ、可愛い子ね。それより……今の家族は好き?」
「……? アーニャ、ちち、はは、だいすきっ!」
「そっか、そっか……それなら良かった。パパとママを大切にね?」
「あたぼうよ」
アーニャの返事に何処で覚えた言葉だと内心ツッコミつつ、そんななんて事のない子供への社交辞令のやり取りを眺める黄昏。
その間、ふとアーニャのストロベリーブロンドの髪とエメラルドのような瞳が、フランクの乾きかけの血のような髪と透き通った翡翠色の瞳とどこか重なって見え、妙な一致に肩を竦めた。
やがて黄昏の方に首を向けたフランクは少し考える素振りをし、それから何か思い付いたのか、ニンマリと猫のような笑みを浮かべる。
「そー、そー、折角だから今回の報酬として――」
フランクからの報酬というありがた迷惑な言葉に黄昏は内心で身構え、彼が片手をサヨの車の後部座席に向ける動作の一部始終を眺めた。
そこには当然、気絶しているサヨしか居ないため、黄昏は首を傾げる。
「サヨちゃんをロイドちゃんの部下としてなら
「えぇ……」
(普通にいらない……)
日頃のサヨのデカい悪ガキのような言動や行動を思い出し、疫病神を押し付けられた気分の黄昏であった。
「ちち、おめでと。めでたい」
「なにがだよ?」
尚、黄昏がオペレーション〈玉藻〉を考え得る限り最高最善の形で完遂していた事に気が付くのは、まだまだ先のお話である。
勝った! オペレーション〈玉藻〉完!
褒美としてサヨを使う権利をやろう(VPの裏ダンジョン加入NPC並みのぶち壊れユニット)