〽️愚痴も言うまい悋気もすまい、人の好く人持つ苦労
…なんて昔は言ったものです。
恋路の裏側、どうぞ一席。
「猪股くんって、意外と頼りになるね」
「意外とすぐ行動してくれるし」
「相談もしやすいし、助かるわ」
クラスの女子たちがそんな風に言っているのを、大喜はきっと知りもしないんだろう。まあ、意外意外言い過ぎな気もするけど。
確かに大喜は、バカだけど頼れるんだ。バカだから考えない分行動が早いし、気を遣う必要もないバカだ。
良い奴なんだよ、そりゃ。
だって、だって。この私が――好きになった人なんだから。
切っ掛けはもう、覚えていない。よく話すようになったのは中一の夏だから、多分その後のはずだけど。あの頃分かっていたのは、ぼんやりと心のなかにモヤモヤが立ち込めていく、曖昧な感覚だけだ。
それがハッキリと形になったのは、あの保健室への道。
大喜と千夏先輩が同居していると知って、そして確かな絆を感じて。二人の邪魔になりたくない、
でも、でも。そのせいでどうしていいか分からなくなってしまった私に、大喜は手をさしのべてくれた。
そして「今は
――正直、気付きたくなかった。友達でいられなくなるなんて、耐えられない。
それでも気持ちは止まらない。好きになってしまった、その想いが私を変えてしまう。
絶対に実らない、と分かっていても。
大喜は千夏先輩しか見ていない、私を女子だとさえ思っていない。今まではそれで良かったんだ、「友達」だったから。変に意識したくない、バカみたいに騒げる気軽な関係でいたい。私に必要なのは、それなんだ。
そう、今までは。
大喜と千夏先輩の関係を側で見ていて、だんだん私は焦りだした。
インターハイを逃した大喜を救ったのは私じゃない、千夏先輩。距離を置くと言って尚、大喜を支え続けていたんだと想い知らされた。
焦りに焦って、そして打ったのがまた良くない手。
「好き」
千夏先輩がいない隙を突いて、しかも不意討ち。大喜がバカで不器用だと分かっている癖に、言ってしまったんだ。貴方が好きです、なんて。
返事はいらないから、私が大喜を好きだって覚えてて欲しい。そんな卑怯な事を、堂々と。
大喜がどんなに先輩を好きでも、これで動けない。大喜はバカで、そして優しいから。
それに結果を出したくないというのも、本心だ。
ハッキリとフラれてしまえば、もう友達でさえいられない。それは他人よりも遠い存在になる、ということ。私を支えてくれる大事な親友を失うなんて、嫌だ。蝶野公彦の娘として栄明のエースとして、私はずっと重圧に耐えている。今ここで大喜を失えば、私はそこで圧壊してしまう。
それに上手く行ったとしても、それはそれで色々と不安になる。友達から、恋人になるということ。つまりキスをしたり、それ以上の事をしたりする関係になる。そんなのは――怖い。
いつかは経験することなんだろうけど、するなら大喜しか考えられないけど、でも怖い。大喜を
だからそう、今はまだここで踏みとどまる。大喜を好きでいたい、でも向こうから来てほしくはない。そういう意味では、千夏先輩がいてくれて良かった。大喜は千夏先輩が好きだから、私にそういう感情は向けない。そう確信できる。
それに千夏先輩も栄明トップエースの一人、大喜みたいなバカを好きになったりはしないと思う。なったとしても、私が大喜を好きだと知っている筈だから勝手に動いたりしないだろう。あの人も優しい、好い人だもん。
私は大喜が好きで、大喜は先輩が好きで。先輩は――……まだわかんないけど、でもこの三角はグルグル回って進んでいける。歪なまま、ゆっくりと。
私はそれが、楽しくてたまらない。
……ああ、ズルいな。私って、ズルい。
自分のためだけに、あの二人を振り回して。まるでゲームの駒みたいに扱って、都合の良い状態を維持しようとしている。
流し見している恋愛ドラマのワンシーンが、なんだかチクチクと刺さってしまう。まるで、今の私だ。
思わせ振りにあれこれやって、でも決断はさせない。イエスもノーも言わせず、誤魔化して。心地良い距離感を楽しんでいる。
まったく、なんだろうな。
こんなに嫌な女ぶりを発揮してるのに、なんだか――悪くない。
傍から観たら、私たちもこのドラマみたいなんだろうか。
まあ、良いや。
とりあえず明日、また考えよう。私たちの関係について。
いつかこの日々を振り返った時、笑顔でいられるように。