一人歩く帰り道。
思うのは、果たして。
考えながらも、道は続く。
そんな狭間の、一説を。

1 / 1
コミックス一巻と二巻の間、になりますかね。


アオのハコ#7.5 夕闇の路を

 気にしてないかもしれない、か。大喜くんには――、そう見えるんだ。

 先に帰っててくださいと言われた帰り道、私は何度も何度もあのやり取りを反芻していた。

 男子と一緒に帰るのを見られたら恥ずかしいとか、そういう事を考えないような子に見えているんだな私は。

 やれやれ、だ。全く以て、やれやれだ。

 良いんだけどさ、別に。

 ……ま、照れ隠しかもしれないしな。

 私があれこれ気にかけても仕方がないか。

 

 大喜くんと針生君の試合を観ていて、分かったことがある。大喜くんは、決して弱くない。本人は「まだまだ遅い」「これじゃインターハイなんて」と何処かネガティブだけど、そこさえ振り切れば多分もっと上へ行ける。そもそも大喜くんは本当に負けず嫌いだし、諦めも悪い。だからマイナスの意識を切って、ひたすら食い下がれば勝ち筋も見えてくる筈だ。精一杯足掻いて勝機を掴む、泥臭いけど堅実な戦い方があっている筈。

 まあ、それが上手く出来るかどうかなんだろうけど。私には出来ないスタイルだから、アドバイスするのも難しいし。私は技術を総動員して逃げ切る人間だから、完全に逆なんだ。

 結局は、身体を動かす以外に悩みを振り切る術はない。ひたすら一人で練習して更に練習して、頭をカラッポにしないと反応が鈍くなるばかりだ。考えてから動いていたら、絶対に間に合わない。

 私は大喜くんが悩みを振り切る切っ掛けは作れても、解決まではしてあげられない。

 頑張ってもらうしかないんだ、うん。

 

 にしても、だ。わざわざ言う気はないけど、大喜くんは私をガサツな子だと思っているんだな。

 私だって、色々と思うところはあるんだけど。

 そりゃまあ女子力なるものとは無縁な、ワンパクでたくましい子ではあるけれど。それでも私、女子ですので。

 大喜くんと二人で行動しないのは同居バレを防ぎたいのもあるけど、単純に照れ臭いのもある。男子と一緒、はなんとなく恥ずかしい。それに壁一枚隔てた向こうに一個下の男子がいる状況で寝るとか、最初はちょっとだけ怖かった。まあまさか私みたいなの相手に、あれこれ宜しくない事を考える男子なんかいないだろうけどさ。それでもやっぱり、男子というのは分からない生物だし。

 この歪な生活に不安がないか、と言えば嘘になる。でも大喜くんだから、そこまで悩む気はしていない。いつも朝練で見掛ける子で、真っ直ぐな良い子。安心できる、良い後輩。それが大喜くんだ。

「……ん?」

 はて。私は思った以上に、大喜くんを高く評価していないだろうか。まだ同居から数週間、名前を知ってからさえ数ヶ月。まだまだ短い付き合いだ。知らないことは山ほどあって、きっとその大半は知らないまますぎていくんだろう。私たちはその程度の関係だと言うのに、大喜くんの存在が私のなかで大きくなっている。

 これは、まるで――。

 

「ふー……む?」

 なんだろうな、あまり良くない予感がする。これ以上深堀りすると、厄介な事になりそうだ。

 そういう事を考えるのは得意じゃない、そもそもの時点で性に合わない。私の人生は、もっとシンプルな筈なのに。

 お母さんから託された夢の為、脇目も振らず駆け抜けてきた。そう、今までは。

 どうも最近は余計なことを考えてしまう、心も身体も少しずつ澱んでいく。これが大人になるという事なら、私は子供のままでいい。ただ真っ直ぐに、倒れるまで。何も考えず動き続けたい。

 とりあえず、この気持ちは仕舞っておこう。

 これからはインターハイ目指して尽力するべき時期だ、余計なことはあとでいい。

 いずれ身体が空いたなら、改めて考えよう。

 その時までは、当たり障り無く。良い同居人でいられると良いけど。

 とりあえずまあ、早く帰るとしよう。遅くなると由紀子さんが心配する。

 ――帰る、というのも不思議な話だけどね。彼処は()()()じゃないから。

 でもいつか、もしかしたら。何処かで歯車がおかしな噛み合い方をした結果、猪股家が私の「家」になるかもしれない。

 まあ、無いだろうけどさ。

 もしそうなったらそうなったで、悪くないかもな。

 そんなことを考えながら、もう陽も落ちかけた道を一人歩く。

 明日も良い日になる、きっと。多分。…どうだろ。

 漠然と思いながら行く道は、淡く光り続いて見えた。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。