転生した彼が最後まで口を閉ざし続け、思考でも触れなかった悲劇の詳細部分になります。ストーリーの本筋はギャグですし、主人公本人もだれにも話す気がなかった話なので、知らないままでもいい一方、彼が本当は何に打ちのめされたかが明らかになる内容となります。
僅かなギャグもないシリアスということをご了承ください。
その羊皮紙を暖炉の火にくべた
これから記すのは、私の人生の最大の後悔と過ちの話である。
あの協力者が戦いの中で命を落とした今、真実を知る者は私しかいない。誰かに語り共有することができるものではなく、正しい選択は今なお分からない出来事を、自身で整理をつけるためだけに書き出すのだ。
リリーとジェームズが死んだ頃よりどれくらい前であったであろうか。暗く、寒い夜ばかりが記憶に残っているせいで正確な時期は定かではない。妻は死喰い人として闇祓いに捕らえられ、ディメンターのキスの刑に処せられることが決まった。
妻は好き好んで人を殺したり、傷つけたりするような者ではない。強い野心と向上心を持っていたがその一線を越える人間ではないと知っていた。たとえ捕らえられても投獄であろうと、本人がそれを受け入れるのであればという薄っぺらい考えで彼女の選択を私は止めなかった。あの時代、すでに死喰い人に目をつけられていた自分達にとっては、彼女がそこに属することもまた、生き抜くための方法であるなどと私は自分を納得させていたところまである。
本当に、馬鹿で、浅はかで、現状を直視しない楽観的な愚か者だった。
不死鳥の騎士団にも死喰い人にも魔法省に入り込んでいた者達がいた。騎士団からは旧友を通して処刑の知らせが伝えられ、死喰い人もスリザリン寮の出身者同士という体で接触してきた。──これは旧友を含む騎士団の者たちに言い難いことであるが──妻の最期に会うためならばと私は死喰い人に彼らの仲間になり、自らの店が扱う薬を、その腕も差し出すとまで言ってのけたのだ。そしてそれは、私がのちに死喰い人になった本当の理由でもあった。こんなことを友人たちに言えたものか。
だが、それだけのことをした甲斐はあった。ある協力者の手により私の願いは叶ったのだ。
私が人を頼り妻の処刑の場にいたことは、当時、魔法法執行部に関わる人間は知ることとなる。その中には当然、騎士団の団員や死喰い人達も含まれるので私が思っているよりも多くの人々がこの話を聞いているのではないのであろうか。
私は自らの手で彼女を殺した。
邪魔が入るのを恐れて口を堅く閉ざし、泣く資格も自分にはないのだとそれを止めた。表情を殺して涙も流さず、何度も繰り返し死の呪文を放つ姿が見つかり、闇祓いに取り押さえられた。その姿は狂人と呼ばれ、後々魔法省の人間たちからは一切の信頼を得られなくなってしまうほどであった。シリウスについての私の証言が全く役に立たなかったのはこの出来事もあるのではないだろうか。
協力者は私が投獄されることを望まなかった。自分の凶行について何一つ語らなかった私の代わりに、「ディメンターによって魂を奪われた伴侶を殺した」と説明していただろうか。「魂を失った姿を見て気が動転してしまったのだろう」とそれらしいことを言っていたのを私は意識の端で把握していた。尋問室でしばらく過ごした私は長い時間口を閉ざしてていたが、ただ一言、「魂を奪われた彼女がただアズカバンで死を待たなければならないということが耐えられなかった」と行動ではなく、考えだけを告げた。
しかし、はっきり言ってそれが最良であるかは私にとっても分からない。魂の無い姿であったとしてもまだ生きているのなら一秒でも生きながらえてこの世に存在して欲しいとも思っていた。それでも私は、あの時、彼女を──彼女が処刑され、魂を奪われないうちに殺さなければならなかった。彼女だけではなく、その中に宿る我が子の魂までもディメンターに奪われることだけは避けなければならなかったのだ。
もしかすれば──魂の無い体で生きながらえれば子だけは助かるかもしれないと考えはした。たとえ緩やかな死がまっていたとしても、最期まで、一日でも長く、生きて欲しいとも願った。同時に空の体となった母体の中で一人アズカバンに閉じ込められ、ディメンターの巣窟に投げ込まれるなどあって欲しくはなかった。
様々な考えが浮かんだ。その中には都合のいい期待のこもる楽観的なものもあったが、最悪の想定がそれを許さなかった。十分に考える時間もなく、最短であり、最良の結果を出すものは、自分にとって最も凶悪な所業しか残されていなかった。
杖の一振り目で妻は死んだ。子は、いつ死んだかは分からなかった。本当に自分が殺すことが出来たのかも今となっては分からない。分からなかったからこそ何度も繰り返した。人々が言うように私はあの時、狂ってなどいなかった。ただ、その子が魂を奪われることが無いように、死んだ母の中で凍えるように死んでいくことが無いようにと確実にこの手で終わらせようとしただけだ。
何よりも恐ろしいのは私自身の心であろう。やるべきことを明確にし、それを適切に実行に移し、狂気に囚われることもなかったこの石のように固く冷たい心臓だ。あれ以来、私は強くディメンターを憎み、敵愾心を抱くようになっている。たとえ妻子を自らの手で殺す原因になったとしても、奴らに直接奪われたわけではない。ただ彼らを恨むことで客観的に見られるはずの自らの不幸と精神の有様の帳尻をつけようとしていたのではないか。この世で最も大切なものを同時に失ったというのに、魂が引き裂かれ、心臓を取り出したいほどの痛みなど、私は感じることもなかった。感じることもできなかった。
ただ、あの日以来、私は元々乏しかった表情を完全に失った。あの時、自分に課した決まりが完全に張り付いてしまったのだ。私は妻子を殺したときの顔で一生を過ごすことになった。事情を知る周囲は私のこれを私の身に起きた不幸であると憐れむが、私にとっては自分が多少なりとも”人”らしい傷を受けたのだと安堵さえ覚えるものであった。
最後に、なぜこのことが”後悔”と”過ち”であるか本当の理由を書かねばなるまい。そうしなければ整理をつけることは不可能であろう。
それは、多くの法律において”妊婦は死刑対象外”となる世界的な認識であった。そして、当時の私はそのことを知らなかったということである。
もし、あの時、妻が身ごもっているということを私が申告すれば妻は助かったのだろうか。ディメンターのキスは死に至る刑のために避けられた可能性はある。しかし、たとえ魂を奪われる刑が免除されるとしても投獄までは免れないであろう。その環境の中で子が流れずに育つというのは楽観的ではないだろうか。もしくは、国によっては見られるように出産後に母親への刑が執行されたのかもしれない。──死に至る場所に我が子を放り込むか、子だけを救い、妻を見捨てるか。それらに自分がどんな判断をするかを知りたくないがゆえにこの魔法界おいてのその決まりを調べることはやめた。
私に子がいたことはリリーしか知らないが、彼女には皆に秘密にするように伝えていた。ポッター夫妻は危険の中にあるからと私は自分の妻の死を二人に教えないように頼んでいたので、この二つの真実を知る者はこの世に私しかいない。
もし、妻は私と出会わなければこのような最期を迎えることはなかったのだろうか。私が何も変えなければ彼女は死喰い人にならなかったのかもしれない。一方で、どちらであったとしても死喰い人になり、命を落とすか魂を奪われることになっていたのかもしれないとも考えられる。
ただ一つ、確かなことは──
我が子だけは、あの子だけは──私の行動で、私がこの世界で新たに生み出し、殺した存在であることは確かなのだ。
人生の共有者を自らの手で失った私は…誰にも語ることはなく、懺悔することもなく。確かに存在した我が子の記憶とともに連れていくつもりである。