考えてもどうにかなるとは限らない。
どうせ無理なら、笑って成り行きに任せるだけ。
なるようにしか、ならないから。
まあ多分、上手くいくので大丈夫。

1 / 1
アオい毎日と共に

 告白されるのが、こんなにも大変だとは想像もしていなかった。する側が悩むだけ、受ける側は苦労なんか無いと思っていたのに。

 雛に告白されて、俺は正直どうしていいか分からなくなっている。雛は大事な友達で、好きか嫌いかで言えば勿論好きだ。でも雛が言った「好き」は、恋愛としての好きらしい。つまり俺が千夏先輩に向けているのと同じ感情を、雛は俺に抱いてくれているのだ。

 先輩が好きだから、と拒絶するべきなんだろう。でも「大喜が千夏先輩を好きなのは知ってる」「返事はしなくて良い」と言われて、ここから強くNOを言うのもおかしな話だ。でもこのままズルズルと行くのも、また違う気がする。

 雛は、良いやつだから。俺よりずっとスゴくて、でもたまに……いや結構……俺よりバカで。そして、何事にも直向きで。そんな雛の負担にはなりたくない、俺なんかに構ってないでもっと上を目指して欲しい。

 まあ、それはそれとして、だ。

 俺としては近いうち千夏先輩に告白する気でいたけど、こうなると躊躇ってしまう。

 だって告白してしまえば、千夏先輩をこういう風に悩ませる事になるから。

 人を好きになるって、難しいんだな。

 

 ベッドに横たわって耳を澄ませても、隣室からは何も聞こえてこない。当然だ、誰もいないんだから。

 一ヶ月の同居解消は寂しいけど、これは良い機会かもしれない。今のうちに、気持ちを整理してしまおう。

 あの日、期せずして千夏先輩と一夜を過ごした時。俺は花火大会のことを謝罪し、先輩も「近付くのは良くない」という線引きを撤回してくれた。きっと先輩的には、蟠りも無くなってフラットな状態に戻った感じだろう。でも俺は――。

「言うべき、だったよな……」

 雛に告白された件には何も言えなかった、それが今尚心残りだ。わざわざあの空気を壊すのもキツいだろうけど、だからって大好きな人に隠し事をしているのは辛い。

 もしあそこで打ち明けていたら、先輩はどう返してくれたかな。前に俺が雛を好きだって勘違いした事があったけど、あんな感じか。「蝶野さんに悪いし、私はやっぱり近づかない方がいいよね」とか言ってくるかも。いや、それは辛すぎる。でも先輩は気遣いと気配りの人で、同じ整体院にかかってる縁で雛とも仲が良いみたいなんだよな。そうなると優しい先輩は、後輩の為に取り計らおうとするだろう。……多分。

 あれ、じゃあ言わなくて正解だったのか。俺が苦しむ程度で済むなら、それで構わないかもしれないし。

 まあ過去を振り返っても仕方ない、か。

 問題は、これからの事だ。

「雛は俺が好き、でも俺は先輩が、……好き」

 俺はこの先、結論を出さなければならない。好きになってくれた雛の気持ちに応えるか、それを無視して先輩を好きで居続けるか。言ってしまえば、それだけの事。

 雛だって、いつまでもこんな歪な関係を維持してくれるとは思えない。いずれは「特別な一人」を選ばなければならない、それは確かなんだ。

 先輩に告白してフラれたら雛へ、なんてゲスなことは出来ない。俺はしっかりと、決めるべきだ。

 でも、……でも。

 どうしたら良いんだろう。

 

 延々と同じような事を考えながら、それでも朝は来てしまう。先輩がいない朝が。

 いやまあ、学校へ行けば逢えるんだけど。逢えはするけど、けれど。長話が出来る環境じゃないし、それにどのツラ下げて話せば良いんだか。結局結論は出ないまま、今日も俺は中途半端だ。

「眠そうな顔してないで、早く行きなさい。今日も朝練あるんでしょ?」

 呆れ顔の母さんを見ていて、ふと睡眠不足の頭が閃きを見出だした。

 そうだ、選択肢としては母さんに相談するというのもあるか。マザコンみたいで格好悪いけど、でも人生の先輩でもあるし。ぼかして言えば、そこまで馬鹿にもされないよな。

 ……とは思ってみたけれど。

「あー……いや……うん」

 曖昧な生返事だけが口から出ていくばかり。

 いや馬鹿にはされないとしても、これすっげえ恥ずかしいわ。相談に乗って貰えたとして、自分の体験談とか話されたら困る。親のそういう話なんか聞きたくもない、いっそ気持ち悪いとさえ思ってしまいかねない。

 寝不足でモノを考えるもんじゃない、ただでさえ俺はバカなんだから。

 とっとと行こう、俺は考えるのに向いてない。そう思って立ち上がった、その時。

「一応言うけどね、私はあんたと千夏ちゃんが()()()()なっても別に咎めやしないわよ。当人同士勝手に、って向こうとも話してるし。でもま、高校生なんだから節度は持ちなさいね」

「え"。あ、……の」

 突然飛んできた言葉のボディブローに、思わず鑪を踏んでしまう。

 それは、それは。つまり、――どういう事なんだ。そして何故こんなタイミングで、そんな事を。俺の思考って駄々漏れしてんのか、どうなってるんだ。

 それに向こう、って鹿野家の事だろうか。親同士が認めてる、って事は――。

 いや、いやいや。いやいやいやいや。おかしい、それはおかしい。

 でも考えてみれば、千夏先輩のお母さん達は()()()()()()()()()()に一人娘を預けている。いくら友達の家だからって、無用心過ぎやしないか。万が一があったら、取り返しがつかないのに。娘がどうなろうと知ったこっちゃない、なんて無責任な親がいるわけない。いたとしても、千夏先輩をあんなに真っ直ぐ育てた家族がそうであるわけない。

 でももし、もしも。向こうの家族がそういう前提でモノを考えているとしたら。友達の家へお嫁にいかせようとか考えていたら、千夏先輩もそれを受け入れているとしたら。節度を弁えないといけないから線を引いたりしただけで、実はそういう気持ちだったんだとしたら。

 仮定ばかりが頭を巡り、考えはまったく纏まらない。

 

「どうすりゃいいんだよ、俺は……」

「知るかボケ」

 つれない匡のメガネに指紋をベタベタと付けながら、俺は渡り廊下で空を見上げている。

 いろんな事が、メチャクチャだ。俺の人生って、こんなにメチャクチャだっただろうか。

 朝練ですれ違う千夏先輩が好きで、雛はバカを言い合える親友で。バタバタと駆け回りながらも、バドやったり勉強したり極々単純な日々を送っていたはずなのに。

 大好きな千夏先輩が同居人になり、そうかと思えば雛に告白されて。俺をとりまく環境は、目まぐるしく変わりつつある。

 こんな忙しいマンガ(コミカル)な感じになったのは、どうしてなんだろう。

 まあ、――良いか。考えるのは、どうも苦手だから。

 とりあえず、告白でもしてみるか。動いたらまた、何かが変わるかもしれない。雛との事も、先輩との事も。

「どうにかなるよな、……っと」

 不機嫌な匡の顔から引っ剥がして放り投げたメガネは、青い空目掛けて吸い込まれていく。

 これから何が起ころうと、俺はきっと大丈夫。バカは強いんだ、単純で頑丈で突き進むだけのシンプルな構造だから。

 さて、……行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、俺のアイデンティティーに何をする!!」

「いや、なんかそんな感じだったから。つい」

「メガネ一本いくらすると思ってんだバカ野郎、いいから探してこい!」

「えー……俺これから先輩に告りにいくのにー……」




特に何も起きていない、日常回です。
扇町さんが好きなヤツですな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。