超常黎明以降。多くのスポーツが衰退し。

それに取って代わるように『ヒーローによるヴィラン退治』が取り沙汰されるようになった。

だが!! スポーツの芽は潰えていない!!

今もなお、スポーツで人々を沸かせる者達が、世界には存在しているのである!!





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ということでスポーツがヒーローに取って代わられて衰退した世界で、個性を使用したスポーツがどのようにして考案され、どうやって法律をかいくぐっているのか、という話です。
主人公はこの後雄英の普通科に行ってヒーロー科をボコボコにしてヒーロー科に勧誘されたりされなかったり。ヴィラン連合に接触されるけど『こいつただのスポーツ馬鹿だ』ってなって強くてめんどくさいの日本から出て行けされたりするかもしれません。

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個性を使ったスポーツが流行らないのは何故なのか

 個性伝来以降、多くのスポーツがすたれた。

 

 それも当然といえば当然。

 

 例え個性の使用自体を禁止することでスポーツの体を保とうとしても『異形型』という存在によって『スポーツの平等性』という根底が覆され。

 

 その華やかさやかっこよさによって人々に憧れと夢と希望を与えていた役回りは虚飾のヒーローによって奪われた。

 

「だが!! スポーツとは日々進化し続けるものなのである!!」

「うるせーぞロキ! 準備出来たら黙ってろや!!」

 

 俺はロキ。もちろん偽名である。

 

 そして俺の頭を勢いよく叩いたこっちはおでん。オーディンだかオーデンだかどこかの神話の神らしいがそんなことは知らん! こいつなんておでんで十分だ!

 

「……はあ」

 

 いつになく荒れているロキにため息をついているこいつはソー。苦労人だ。俺は断じて荒れてなどいないし迷惑もかけてない。

 

 そんな話をしているうちに、アナウンスとともに目の前のゲートが開いていく。

 

『さあ選手の紹介だ!! レイクキャッスルから出撃するは北欧の神々!! アースガルズ!!』

 

 アナウンスの声と同時にゲートの外へと歩み出た俺たちは、大歓声をあげている観客席へと手を振る。こんなでも俺たちはプロアスリート。それもトップクラスとは言わないものの、派手さと顔の良さ(流石に自分で言うのはどうかと思うが、本当にそう言われているのだから仕方ない)でかなり人気のある方だ。

 

 続けて対戦相手のチームが9チーム紹介され、カウントダウンが始まる。

 

 あのカウントダウンが終わると同時にゲームがスタート。俺たちは拠点であるここを飛び出し、直径2キロのこのエリアを駆け抜けて敵と戦うことになる。

 

 血が騒ぎ、脳が踊る。戦いのときが来たのだと肌が粟立つ。

 

 それらを全て上がりそうになる口角に込めて、スタート(そのとき)を待つ。

 

 そうして。

 

 今日もまた、俺たちの遊び(たたかい)が始まるのだ。

 

 

 いったい何をやっているかって? 

 

 個性ありの陣取り合戦。《アビリティ・ウォー》。

 

 サイっ高のスポーツだ。

 

 

******

 

 

 時は超常全盛期。

 

 超常黎明以降あまたのスポーツが衰退し、ヒーローという存在に取って代わられた。人々はプロスポーツリーグを見るのをやめてヒーローの戦闘を見ては歓声を上げ。コロシアムに詰めかける代わりに街中で行われるヴィラン退治(ショー)へと足を向ける。

 

 まあそれも仕方ないと言えば仕方ない。個性を使わない人間同士のスポーツよりも、個性を使ったヴィラン退治の方が派手なのだから。

 

 では何故。

 

 『個性の利用を前提としたスポーツが考案されなかったのか』。

 

 身障者へ向けられる視線が増えたことによって、身障者用にカスタマイズされたスポーツが数多く考案され、例え障害を抱えていてもスポーツができるようになった。

 

 テニスという1つの種目を元にして、スカッシュやパデルなど新たなスポーツが生み出されたという歴史もある。

 

 そう。本来スポーツとは、その時々の時世やニーズに合わせて新しく生まれていくようなものなのだ。

 

 それが生まれなかったのは。

 

 ひとえに、それが都合が悪かったからである。

 

 誰にとってか? 

 

 そんなもの決まっている。

 

 個性の暴力によって『支配したい』ヴィランと。個性の暴力によって『治安を維持したい』ヒーローだ。なぜなら奴らにとって、個性スポーツによって一般人が実力をつけるのは面白くなかったから。

 

 超常黎明期に勢力を二分したこの2つの勢力によって個性スポーツの出現は抑制され、その後はヒーローとヴィランの戦いが人々の闘争本能という避けがたい欲求を満たしてきた。

 

 だが。

 

 それで。

 

 『上に立つ奴らの思惑に踊らされてやる』者ばかりではないのだ。

 

 大半の国で、個性の私的な利用や趣味への利用は大部分規制されている。それを人に向けるなんてもっての他だ。

 

 つまり、個性を利用したスポーツなんて生まれようが無い。

 

 そこに風穴を開けたのは『ヴィオ&テック社』。アメリカの、ヒーロー向けのサポートアイテムやコスチュームを開発していた会社である。

 

 超常黎明と同時に産声を上げた中小企業は、個性社会の発展と同時に世界最大規模の企業へと成長を遂げ。彼らはあろうことか『国を作った』のである。

 

 そう、国だ。

 

 といってもアメリカや日本に対抗できるようなだいそれたものではない。せいぜいが市民の住む居住区と観光客のリゾートエリア。そしてこの国の産業の目玉となるスポーツエリアがある程度の小さな島国だ。その市民だって、言ってみればテック社の従業員。スポーツエリアと飲食業を回すための

 

 だが。

 

 独立した国になったことで、その国はアメリカや日本、中国やヨーロッパといった『個性の利用を制限する』国家の枠組みから抜け出したのである。

 

 つまりこの国では。個性をスポーツに使うことが犯罪ではないのだ。むしろスポーツに関しては国を上げて奨励されている。一方で街中で人を傷つけたり建造物を壊したりするのは厳しく禁じられているので、個性による犯罪というのもほとんどない。特にアスリートの側なんて厳しい審査をくぐり抜けているのでまともな人間ばかりなのだ。たまに馬鹿をやる観客がいるが、アスリートもいるので速攻で取り押さえられている。

 

「そうやって出来たのが、このグリードアイランドってことだ。わかった?」

「うーん、むずかしくてわかんない!!」

「ま、ここなら個性を使ったスポーツが楽しめるってことよ。かっこよかっただろ?」

「うん! お兄ちゃんかっこよかった!」

 

 久方ぶりにグリードアイランドへと戻ってきて、よく組むチームメイトと試合を2つほどこなし。今はひと休憩と夜の屋台街へと足を伸ばしていた。ちなみにこの国では、深夜は流石に無いもののナイターゲームは普通に行われているので今もいろんなスポーツが行われており、それに観客が歓声を上げているだろう。

 

 そんな中で野外のテーブルについてピザとコーラを食らっているところに、迷子なのかなんなのか、この少女が物欲しそうなめでピザを眺めてきたので食事の席へ招待したのである。

 

「お兄ちゃんがしてたスポーツ、なんていうの?」

「あれは《アビリティ・ウォー》だな。最初に俺たちが立ってた円形のスペース、わかるか?」

「うん!」

「あそこに味方が誰もいない状態で相手が入ると、そこがだんだん相手の陣地になるんだ」

「取られちゃうの?」

「そうだ。その代わり俺たちも、他のチームの陣地を取りに行く。そうやって最後に一番陣地を多く持っているチームか、他の奴らを戦闘不能にしたチームの勝ち、っていうスポーツだ。まあちょっと色々難しいんだけどな」

 

 アビリティ・ウォーは、この国で行われているスポーツの中でも、個性社会に合わせて新しく考案された全く新しいスポーツである。

 

 基礎となったのはこれまでのスポーツではなく、どちらかと言えばFPSなどの戦闘ゲーム。いわゆるドミネーションなどと言われるルールを人間がやるように発展させたスポーツだ。

 

 他にもバトルロワイヤルであったりシンプルなチームデスマッチ(デスではなくダウンではあるが)は常駐のスポーツとして頻繁に行われているし、数十人規模どうしによるまさに戦争とも言えるスポーツもそれほど頻度は高く無いが相当の人気をもって行われている。

 

 特に年に2度開催されるオールスターゲームなどは凄まじい盛り上がりようだ。各スポーツのトップクラスが勢ぞろいするのである。日本などでは国がこのグリードアイランドの存在を広めることそのものを禁止しているのでほとんどの者が知らないが、ヨーロッパなどではそのオールスターだけは放送が行われたり、時にはプロのヒーローがやってきてはボコボコにされて帰っていったりもする。

 

 他にも中世の戦争を再現した攻城戦や屋外ではなく屋内で行われる制圧戦。半ばエキシビジョンマッチと化しているが、かつてのヒーロー映画を再現するシチュエーションマッチなども行われていたり。

 

 このように戦いに偏ったスポーツが多いかと思えば、バスケットやサッカー、野球など他の場所ではすでに失われたスポーツもリメイクされて行われている。特にバスケのようなスピード感のあるスポーツは個性の使用とマッチしているようで大人気競技の1つとなっていたりもする。他にも飛べる個性も飛べない個性もある程度差になりにくいように調整したレースも行われていたりする。

 

「見てて楽しいし、自分もやってみたいだろ?」

「うん! 私もヒューンって行ってドカーンてしたい!」

 

 とても大雑把な感想だが、少女の頬が興奮で紅潮しているところを見ると本当に楽しかったんだろうなと思えて、スポーツをやっていて良かったなんて思えてくる。

 

 スポーツは、本当に良いものなのだ。見ていても楽しいし。やっていて、体を限界まで酷使している瞬間のあのひりつくような感覚。楽しくてたまらない。

 

 そして競う相手。

 

 相手もまた、勝つために全力を尽くし、常に成長を続けている。そんな相手とやりあえるのだ。楽しくて仕方が無い。

 

 今回の滞在期間は夏休み期間の一ヶ月ほどのみだ。これでも日本で学生をやっているのだから仕方ない。まあ日本の食事はめちゃくちゃ上手くてこのグリードアイランドにも取り入れられているし、あそこのパスポートさえあれば各国に入りたい放題なので生まれた国籍は重宝している。じいちゃんばあちゃんも優しいし。

 

 でも日本の個性に対する無駄な抑圧は正直言って嫌いである。試合前に苛ついていたのも、出国前日にクラスメイトと会ったときにそういう雑談をされたからだ。スポーツよりヒーローの方が何倍も面白い、なんて。

 

 失礼、愚痴はここまでにしよう。

 

 明日はこっちでトップクラスのチームで活躍している親父と会えるので楽しみである。お袋は時差ボケで今日は寝てしまったが、どうせまた会えばイチャイチャし始めるのだろう。

 

 一ヶ月が終わって日本に帰ればまたスポーツから離れた時間を過ごすことになるが、一応個性の使えるトレーニングルームを報酬で作ったのである程度は暴れられる。

 

 それにこの国のスポーツも年中通して同じことをやっているわけではなく、夏場は7月から9月までの3ヶ月。冬場はロシアの地方都市に場所を移して12月から2月までの3ヶ月がレギュラーシーズンとなる。ロシアはアメリカや日本と違っていち早くこの国を受入れ、なんなら自国のヒーローや軍人を派遣してきたり、あるいは優秀な選手を引き抜いていったりするという、ある種同盟国のような状態になっている。おかげで夏場は常夏の島国で、冬場は雪山や雪原でのスポーツを楽しめるのだからWINWINと言えるだろう。

 

 その後少女を探し回っていたという母親らしき女性に感謝の言葉を言われながら少女とお別れをし、帰途に着く。

 

 うん。今日も英気を養えた。

 

 正直スポーツは、疲れる。そりゃあいくら楽しくても疲れるものは疲れる。

 

 だが。

 

 退屈な日々と比べれば遥かに良いし、大好きだ。その疲れすらが愛おしく感じる。

 

 

 明日から、また試合三昧だ。出来ることなら、チームランクを1つでも上のリーグに押し上げたい。そして高校を卒業する頃には、親父のチームに挑んでみたいものだ。




主人公 選手名:ロキ 
個性:トリックorトリック
中学3年生。現役アスリートの父と、いいとこのご令嬢の母を両親に持つ。父親からはスポーツの楽しさと戦う技術を。母からは礼儀作法や料理、ピアノやヴァイオリンなんかを教えられて育ったハイスペックマン。
中学生ながらグリードアイランドのリーグで活躍している。主にアビリティ・ウォーと、ルーム・サプレスという室内で行われる戦いを好んで出場している。将来の夢は親父をブッ倒すこと。
ヒーローのことは別に積極的に嫌いではないが積極的に好きでもない。別にコンビニ店員好きでも嫌いでも無いじゃん? という感じ。
個性との相性からいろんな道具の使い方と、相手の目を欺くための心理学を学んでいる最中。また母親が学習面に関してはスパルタなので勉強はアメリカで大学まで飛び級できるぐらいにはやっている。日本にも飛び級の制度ができてほしい。留学はアメリカに誰も知り合いがいないので特に検討していない。



グリードアイランド
ヴィオ&テック社が買い上げた無人島複数を改造して国からの独立を認めさせた国家。人工浮島なんかも結構ある。産業はスポーツと観光。国家とは言いつつも住民のほとんどは島で行われるスポーツを運営したりそのためのアイテムの販売、施設を修繕、整備をしたりする『グリードアイランド』という施設を動かすための従業員。他にも普段は他国に国籍を持っているスポーツ選手のサブハウスだったり国籍を移してきている選手のマイハウスだったりお金持ちの別荘だったりが数多くある。一般人を受け入れるためのホテルや宿なども多数存在。夏場はスポーツシーズン。それ以外のシーズンは選手との交流会だったりグリードアイランドとの交流を持っている国家のヒーローの卵のインターン先や各国ヒーローの訓練先だったり普通にリゾート施設だったりとして施設を有効活用している。またアマチュアリーグを運営して『個性スポーツをしてみたい』という人たちに体験させたり大怪我をしないように指導をしたりもしている。ちょっとした怪我は勲章だ。誇れ。
冬場のスポーツはロシアでのものが主だが、寒いとこ嫌だという連中もいるので冬場も島でのリーグは開催。普段は組まないメンバーが組んでいたりといつもとは違う盛り上がりをみせる。

 年に2回、それぞれアイランドとロシアでオールスターゲームを開催。ルールはシンプルな大規模戦。各チームに王様を設定し、王様の首(王冠)を取れば勝ち。戦闘系スポーツのメンバーだけでなく、バスケなど球技系やレース系からも戦えるメンバーを選抜(だいたいトップ選手は普通に戦える)しているので、みんなが喜ぶお祭りになっている。
 
 ロシアとは特に仲良し。共にアメリカから睨まれている身として色々協力している。またそのほかにも、世界の貧困地域に学校を作るなどの慈善活動を、選手の発掘という建前のもとしている。従業員をそういう国から引っ張ってきたりするので、雇用を生み出したりそうした人間の国への仕送りでその国の経済を活性化させたりと割と世界的にもなくてはならない役目を担うようになってきている。この島のお陰でヴィオ&テック社は世界でもぶっちぎりの大企業になった。


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