それでも手探りで、分かりあいたい。
それが相手を追い込むとしても。
すれ違う裏側に、それはある。
咄嗟に言ってしまったのは、何故だろう。
蝶野さんが「同居している千夏先輩には話しておいた方がいいかな」、なんて言ってきたからか。私の、というか鹿野家のプライベートな事なのに、あれこれと喋ってしまった。まあ、それは構わない。どうせ殆ど聞いていなかったようだ、彼女が反応したのは「一時的に同居をお休みしている」という所だけなんだから。そしてそここそが、一番の問題だ。
言う必要はあっただろうか、いや無い。いくら大喜くんに告白した、と言われたからって私からそんな事を言う理由はない。単に取り乱してしまったんだろうか。
私は知っていた、盗み聞きみたいな形ではあるけれど。そして――少しだけホッとしたのを覚えている。
告白はした、でもそれだけ。付き合ってはいない、少なくとも大喜くんはそう思っている。だから私は今まで通り、大喜くんを頼っても良いんだ。もちろん節度は必要だけど。私には頼る相手が必要だ、
とは言えあそこで「知ってたよ」なんて言えない、だから場を取り繕う為に言わなくても良いことを言った。それだけ、だ。
「でも、なあ……」
何故蝶野さんは、私にあんな事を言ったのか。私が大喜くんの側にいないと知って、あんなにも嬉しそうな顔をしたのか。
理由は思い付く、あまり考えたくないけど。
蝶野さんは私を、……敵視していると言うこと。先に告白したんだからこれ以上大喜に近付かないで、という鞘当てか。そして私と大喜くんの間に距離があると知って、こう思ったのだろう。「今なら邪魔されずに済む」と。
嫌だな、そういうの。私にとっては蝶野さんも、大事な友達なのに。所詮その程度にしか見てくれないのか、好きな男子にちょっかいをかける嫌なヤツだと。
ああ、寂しい。私はもっと、仲良くしたいのに。二人が付き合うなら付き合うで構わない、大喜くんへの頼り方が少し変わるだけだ。蝶野さんが嫉妬しない範囲で、友達として仲良くする。私が針生くんと友達だからって花恋は文句を言ったりしない、そういう関係で良いのに。
面倒臭いな、こういうのは。
「ちーなーつー、針生のやつまーた準備サボって部活行ったー」
箒を振り回して八つ当たりしている渚の顔に、コピー用紙の束をポスンと一閃。まったくこの女は、すぐ全身で感情を表すんだから。
しかし今時期はどこの部も文化祭優先の筈、私たち女バスも土曜午前練で日曜は全休だし。夏休み前は土日終日練習だったから、あれに比べたらかなり軽くなったものだ。文化祭の準備くらい出来そうなのに。
「土曜に試合あるから、なんて言ってさー。どうせ練習試合じゃんよー、公式戦ならまだしもさー」
試合。……そうなのか、学校だよりには載ってなかった気がするけど。
大喜くん、出るかな。まあ出るか、三年生はもう殆ど引退した筈だから。これからの世代に経験積ませないと、部のレベルが上がらないし。
時間が合えば、観に行けるかも。でも、なあ。これは多分蝶野さんも来るだろう、鉢合わせしたら気まずいな。
――いや、気まずく思う必要はないか。蝶野さんが勝手に邪推しているんだし、誤解を解く良い機会かもしれない。
私は平和主義で、心の広い女の筈だ。そうやって渡ってきたんだから。
とりあえず、土曜日だな。忘れないようにしておこう。
私は大喜くんを頼りたいし、蝶野さんとも仲良くしたい。それは両立できる、きっと。
だって今までだって、そう出来てきたんだから。
蝶野さんだって、分かってくれる。誰だって、喧嘩するより仲良くする方が好きなんだから。
大喜くんも、……大喜くんは……どうだろう。蝶野さんに告白されても、保留している感じなようだけど。大喜くんが
もしもそれが、私なら――。
「いや、それは……」
無いだろうけど、でも。何かの弾みで、そうなってしまったなら。
その時は、どうしようかな。
さすがにそうなると、蝶野さんと仲良くし続けるのは難しいか。私はともかく、大喜くんが大変だろう。
「――あ"」
そうか、蝶野さんもそんな事を考えていたのかも。返事次第では仲良くするどころではないから、敢えて鞘当て染みた事をしたとか。
うーん、やっぱり大変だな。こういうのは。
向いてないんだよ、こんな繊細なの。
ああ全く、やれやれだ。
こういう事を涼しい顔してこなせるのがオトナだというなら、そんなのにはなりたくないな。
まあ良いや、明日考えよう。大喜くんの事も蝶野さんの事も、後回し。
今日はもう寝よう、それが一番だ。
明日も朝練で大喜くんに会うし、そこから考えれば良い。
何もかも先送りにして、私は仮住まいのベッドに横たわった。
今ごろ大喜くんは寝てか覚めてか、思い出してか忘れてか。
明日はきっと、今日より上手くいく。だから――おやすみなさい。