忘れ去られたもう一柱の神   作:酒蒸

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数ヶ月ほっつき歩いてました(((殴


第142話 業⑦

その後、入ると俺達の記憶を読み精神へ直接攻撃を仕掛けてくる秘境に対抗するため、白羽の矢が立ったのは勿論俺だった。メンタル面や達観具合からすれば当然の措置だろう。それに、自分の生命力を消費すれば最悪秘境を吹き飛ばせるので、何とかする、という理由もある。まぁ要するに言い方は悪いが生贄だ。

 

ただ、俺にはもう一つ別の思惑もあった。この空間は割と同じところを移動している節があるため、こちらが意図しない行動を取ればループを脱することができるかもしれない、ということだ。

 

例えば仙人の作る洞天は、高度で複雑な術を基にして作られている。この場所がそれと似たような空間であれば外部からの圧力に屈しないのも頷けるし、何より幻術などにも説明がつく。だが、そう単純なものではなく、かつここにわざわざ洞天を作る仙人に思い当たる節もないという点や、建築様式が古いものであることを考えると、洞天を再現しようとした空間なのではないか、と考えた。

 

故に、人間の作ったものなら、必ず記憶を読み取る装置がある。それを壊せば芋づる式に他も破壊、或いは動作不良を起こすのではないか、と考えたわけだ。まぁ少なくとも記憶を読み取られる不快感はなくなるだろう。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

話し合いは既に終わっているため、心配そうに俺を見る旅人や何かを考えこむような仕草の夜蘭や煙緋、何も考えていなさそうな一斗達に一言だけ告げて門内へと足を踏み入れた。直後に閉まるドアを一瞥して、すぐに視線を正面に戻す。

 

先程とは違い中へ入っても、否、中へ入る前から中は暗闇だった。まぁ、予想できていたことだ、と俺は気にせず暗闇の中きょろきょろと辺りを見回しながら歩みを進める。

 

今頃、記憶を読み取っているナニカは膨大な俺の記憶を読み取っていることだろう。数千年、数万年にも及ぶ記憶だ。それらを読み取り、かつ最も俺にダメージを与えられる光景を見せるために頑張っていることだろう。

 

少しして、バチィッと音がしたが他に変化はない。いや、遠くに白い一室が見えた。一本の木と白い部屋、そしてベッド。横には見慣れない支柱とそれに掛けられている液体の入った透明な袋がある。それはベッドの中にまで続く線によって何かに注がれているらしかった。

 

───嫌な世界だ。

 

ベッドがもぞもぞと蠢く。俺の記憶を読み取り切れずショートしたこの空間は歪なモノを呼び覚ましてしまったようだ。

 

───『新世代オープンワールドRPG』か…この世界なら、今よりはマシに生きられそうかな。

 

頭に直接響く歪んだ声に不快感が募るが、ベッドの近くまで辿り着いた俺はベッドを見る。

 

───スマホじゃちょっと重いなぁ…操作しづらいし…でも楽しいからいいかな。

 

小さい板状の物を手に持ち、醜く肥大化した皮膚と肉を小さく揺らしながら笑うソレは、生物とは形容し難い見た目だが、人ではあるようだった。そして、板状の物の一方の面には、見覚えのあるものが映っていた。

 

「…テイワット大陸か」

 

俺の存在はなく、現状とも全く違う。しかし、テイワットであることだけはハッキリとわかる。

 

───いや、わかるはずだ。キミはオレだから。キミが忘れてもオレは忘れない。魂に刻まれた、オレ達が背負い忘れてはならない業だよ。守護に囚われている理由。

 

「『守護』に囚われているのは俺自身の意思でしかない。そこに魂など関係がないだろうが」

 

俺は思わず吐き捨てた。まるで俺の全てが定まっているかのような言い草はやめてほしいものだ。

 

───オレは死にたくなかったし、死んでほしくなかったんだ。『ゲーム』の世界だとしても、終わってほしくなかった。自身が物語を紡げず、道半ばで終わる運命だとわかっていても認めたくないし認められなかった。自分の愛したモノが一切の痕跡を残さず消え去り、忘れ去られることが。だからオレはキミを生み出してしまったんだ。

 

怨念だとでもいうのか、はたまた処理能力に限界が来たからか、この空間は歪であり生み出されるものも歪だった。何より、ここは真実を映していることが、魂で感じ取れてしまう。つまり、意図せず秘境側の思い通りになっているわけだ。

 

俺は舌打ちすると、醜悪な肉の塊に向けて言い放つ。

 

「だとしても俺のすべきことは変わらない。俺の愛するこの世界を、愛する者達を護らなければならない。そこに何者の意思も存在しない」

 

だが、その言葉を聞いた肉の塊は、口角と思しき部位をぐにゃあ、と曲げ嗤った。よく見れば皮膚の奥に形容し難い色の液体が蠢いているのが見える。人に成れない、悍ましい肉体だ。

 

「ゥ…へァ゛…は、はぁ゛はぁ゛はァ゛」

 

まるで考えていることが手に取るようにわかる、とばかりにひずんで声とも言い難い音で嗤った。

 

───オレは自分が嫌いだから、勿論キミのことも大嫌いさ。だからこそ悍ましくて、恐ろしくて、気持ちが悪い。オレにない永遠の命と強大な力、そして幸せな人生があるんだから。だけど、そんなキミを縛り付けて弄ぶのは本当に楽しいよ。素敵な娯楽をありがとうね。

 

ゲラゲラと嗤う眼前の化け物をどうしてやろうかと考える。むしろ、こいつは人間でありながら気持ちが悪いほどに達観している。いや、脳の安全装置とでも呼ぶべきものがぶっ壊れているのだろう。人を嘲り、縛り付け、弄ぶことを娯楽と言い、心の底から敬意を表しながらも見下す。仮にもこれが自分を生み出した存在だとすれば吐き気がする。

 

自分の娯楽が全てで、他人のことを考える気がないし、そもそも思考から抜け落ちている。

 

───キミは背負わなくちゃいけないんだ。オレがいくら抵抗しても叶わなかった力に屈しないくらいの力を手に入れるという業を。大切なモノを護らなければならないという業を。それがキミの存在理由、存在意義だ。それ以上でもそれ以下でもないんだ。どうせそれ以外できやしないんだから、ね?

 

俺は大きく息を吐いた。こいつを見ていると、存在を感じていると無性に腹が立つ。今すぐにでも殺したいほどに強烈な殺意を覚えてしまう。

 

だが、俺は理性でそれを抑え込むと、肉塊へ向けて冷たく言い放つ。

 

「俺はお前に興味はない。俺の過去にも興味はないし、それに縛られるつもりもない。それに例えお前によって囚われているとしても、脱すればいいだけだろうが」

 

そして刀を取り出して抜き放つと、そのまま肉塊を両断した。黄緑に近い色の液体が堰を切ったように破裂した皮膚の間から溢れ出し、暗闇の中にシミを作っていく。よく見ればいくつか内臓も転がっているが、どれも不定形でとてもどれがどの部位かは不明だった。どこまでも悍ましくて歪な生物であり、人間とすら言えないナニカは思考も停止したのか、俺へと語りかけては来なくなった。

 

言いようのない不快感と強烈な眩暈を引きずりつつ、空間を後にした。

 

 

 

空間から出てきた俺はすぐに意識を失ったらしく、目が覚めると魈が傍に控えていた。旅人達も近くにおり、気休め程度の休息をしていたようだ。

 

「───なるほどな」

 

俺が意識を失った後、煙緋は俺がいない間に考えたことを夜蘭と旅人にだけ共有し、実際に試したところ魈と合流することができたようだ。

 

曰く、旅人達が最初に魈と合流した秘境内で、俺の話が上がったタイミングとほぼ重なるようにして俺の声が聞こえ始めたところに目を付け、その場にいない俺の声が聞こえたことから時間と空間が錯綜していると仮定して、二人で魈の声を聴こうと耳を澄ませたらしい。

 

そうして事はうまく運び、魈に情報と現状を共有し合流、俺が意識を取り戻して今に至る、というところか。要するに空間そのものを一つの生き物として捉え、かつそいつの習性を逆手に取って空間に歪を作って…ということだろう…ヤヤコシイネ。

 

「大体理解した。一先ず魈も合流できたのであれば何も言うことはないだろう。あとは脱出するだけだからな。とはいっても、それが一番の問題なわけだが」

 

俺の言葉にその場の全員が黙り込む。この地は数多の戦いのあった場所であり、数々の逸話や呪いが残されていると言われている。魈の言っていた無名の夜叉なんかもその逸話の一つであるとされている。そして終焉の爆心地でもあるここは、数々の魔獣が溢れ出てきた場所でもある。

 

俺と魈にとっては、この上なく因縁のある土地、というわけだ。脱出する前にこの空間を何とかしたいし、魈の目的も果たさねばならないだろう。

 

「…アガレス様、我が戦っていた相手は浮舎でした」

 

突如、魈の口から紡がれた言葉に目を見開かずにはいられなかった。だが、すぐに幻影の一種だと思い直して落ち着く。

 

「お前の記憶に最も鮮烈に刻まれていたのだろうな、彼らの狂いゆく姿が」

 

だとすれば、この空間に留まればかなりの速度で摩耗することになる。俺や魈、何より夜蘭達人間はあまりの摩耗速度に耐えられないかもしれない。

 

脱出方法を早めに考えねばならなくなった俺だったが、ふと先程の話を思い出して魈に問いかける。

 

「魈、お前は旅人達と合流する時、空間を突き破ったと言っていたな。それは継ぎ目を破壊して傷を作った、という認識で合ってるか?」

 

そしてその言葉に同意した魈を尻目に、一つだけ浮かんだ方法を共有することにした。

 

「つまり、俺が錯綜した空間と空間の継ぎ目に傷をつけて、そこから脱出することになりそうだな」

 

恐らくは脱出口を望んだところでこの空間は出してくれない。脱出に直接関係ないものであれば恐らく望めば出てくるだろう。だから直接関係ないが、役立つものを出せたりするといいのだが…。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

思案に耽っていると、夜蘭に声をかけられた。少しだけ怒りの見える顔つきである。

 

「その方法、貴方がずっと力を使って道を切り開かなければいけないはずよ。まさか全力を出し切るつもりじゃないわよね?」

 

おっとバレたか、とばかりにおどけて見せるが、当然認められるはずもなく、夜蘭どころか煙緋や旅人達にもそんな方法は認められないと言われてしまった。魈は自分が代わりに、と言おうとしていたが、言う前に俺が止めた。

 

「現状これしか方法はないだろう。ここに長居すればお前達に危害が及ぶ。であれば手早く脱出した方がずっと安全だ。それに、別に俺は死ぬわけじゃないしな。数年は出てこれなくなるかもしれないが…仕方ないだろう」

 

少し笑みながらそう言う俺に対しあーでもないこーでもないと理屈を並べて否定する夜蘭はどうやら誰にも欠けてほしくないようだ。いや、どちらかと言うと、巻き込んでしまったことに責任を感じているからこそ、かもしれないな。色々と複雑な感情が入り混じっているようだ。

 

どう収拾をつけたものか、と頭を捻っていると、それまで話を聞いていただけの一斗が、

 

「あーっ!!!もう、お前ら喧嘩すんじゃねぇ!!要するに超強い一撃で空間をぶっ壊しゃいいんだろ!!ここは───」

 

と言いながら壁に向かって岩元素を乗せた拳を大きく振りかぶった次の瞬間、轟音と共に空間の裂け目がそこにできていた。

 

「───へっ…俺様に、任せとけ、ってん…だ…がくっ」

 

そしてすぐに倒れこむ一斗を忍がすかさず受け止めていた。それを呆然と見つめていた俺達だったが、すぐに我に返り空間を維持しようと全力を尽くす。八方塞がりの状況だったが、一斗のお陰で少しだけ進めそうだ。

 

「…親分は、仲間割れが嫌いなんだ。だから、こうして仲裁してくれたんだろう。二週間程度過ごした仲でも、親分は皆を仲間だと思っているんだ」

 

忍は一斗を支えながらそう伝えてくる。俺は一斗を見つつ、一言礼を告げた。

 

「だけどな、俺にとってはまだ全然、4日くらいしか一緒に過ごしてないぞ」

 

「…そこはどうでも良くないかアガレスさん、アンタ意外とボケなのか?」

 

渾身のギャグは、残念ながら通用しなかったようだ。




アガレス=化け物…間違ってはない

かつ、言及してたように化け物のことを滅茶苦茶嫌ってますよね。化け物さんの言う通り、自分が嫌い(アガレスは化け物が、化け物は自分のことが)で仕方ない+護りたいものを護れない(アガレスは世界そのものや愛する者、化け物は自分や自分の世界の全てだったゲーム、要するにサ終)+周囲に生かされている(アガレスは以前終焉を止められず神のエネルギーで過去に戻る、化け物は病院で)ってところで共通点が多い悲しみ

・おまけ

アガレス「この野郎数ヶ月もどこ行ってたんだ」

忙しかったです主にゲームとバイトと勉強が

アガレス「一番最初にゲームが来てる時点でお察しじゃねぇかおい」

ってことで、またちょこちょこやりますので、お願いしまする<(_ _)>
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