でもまあ、見えない方が良い。
そういうのは大体、良くないものだから。
でも向こうから来られると、どうしたものか。
占いなんか信じないけど、でも悪い結果を見るとさすがに凹む。信じないけど。
そもそもオカルト全般が好きじゃない、私は暇なわけではないから。部活に勉強に、毎日がとても忙しい。ワケわかんないものに、一々関わりたくはない。ミサンガはあくまで「誓い」を形にするためで、オカルトではない。霊だのなんだのは見えないし見ない、聞かないし聞こえない。
あんなの全部、ウソっぱちなんだから。
だからそう、別に気にしない気にしない。
大喜くんは意外と気にしいで、ジンクスとかを結構信じるたちだ。根が単純なんだろう、そういう私も頭の程度は同じようなもんだけど。まあそんな感じだから心霊番組なんかは嫌いみたいで、リビングのテレビがそういうのだったりすると早々に自室へ引っ込んでしまう。由紀子さんは逆に好きだから、大喜くんの感性はお父さん似なんだろうか。
私としては、画面の向こうで起きてることなんか気にならないけど。
今目の前でおかしな事が起きているならともかく、……ともかく。
だから必要以上に怖がるわけでもなく、由紀子さんのお付き合いで一緒に鑑賞中。古い言葉で言うとカウチポテトってやつだろうか、まあ由紀子さんはビール片手だけど。
「こういう番組ってさ、定期的に流行りが巡ってくるのねー。私が千夏ちゃんくらいの頃も流行ったわ、まだYouTubeから引っ張って来たやつは無かったけど」
「あちこちの局で、同じ動画使い回してますよね」
出所が分かってる心霊動画なんか完璧に創作だし、怖いとは思わない。スゴいなーとは思うけどさ、CG技術とか。
一見して分からないようなのは、気付いた時ちょっと驚くけど。
……そう、それっぽいのに紛れてるのは結構嫌だ。
何処かで観た気がする動画が流れること、数十分。そろそろ飽きてきたかもしれない時間帯。
『@@、5@%8$@:8』
一瞬なにかおかしな声――音、が聞こえた気がした。いやでもこれは、ただの空耳だ。テレビの演出かもしれないけど、
『:3、$8$935347。@:@5@、$9:983:9-859/6@:@69:3。』
――画面のなかでは、グループ抜けてからあんまり見かけなくなった元アイドルと地味なお笑い芸人がVTRの感想を語り合っている。由紀子さんはウトウトと居眠り中。聞こえてくるのは、そういうのだけ。……だけ。
他になにも、聞こえるものか。
ねばつくような視線なんか、感じない。
『:33、:33、:33¥3』
ふとスマホに目を落とすと、結構良い時間になっている。番組もいつのまにか終わりそう、そりゃ由紀子さんが寝ちゃうわけだ。
なら、そろそろ良いか。義理は果たした、ということで。
「あ、あー……。お風呂入ってこようかなー……。私が済ませないと、大喜くん入れないしなー……」
『85534@%%6@8』
スヤスヤ寝ている由紀子さんは、もちろん返事なんかしない。そうだ、それが当然だ。
さぁ、早くいこう。早く、早く、早く――!
猪股家のお風呂は鹿野家のより広くて快適だけど、でもやっぱり「オトコノコの気配」がしてちょっと落ち着かない。自意識過剰かな、とも思うけど。
「ふぅ……あー……あぁ」
ぱちゃりとお湯を掻き分けつつ、湯船に浮かんでみる。顔ギリギリまで湯に浸かり天井を見上げて思うのは、どうでもいい事ばかり。リラックスの時間だからそれが普通だ、居候だからってそんなに気を張っていられない。
しかし、まったく。私はきっと、ガサツな癖に神経質なんだな。
ありもしないものなんか、無視すれば良いのに。ありもしないんだから。
「んー……ふむ」
猪股家の人々は、基本根アカでお人好し。よく言えば真っ直ぐ、悪く言えば単純。だからこそ、一々気付かない。家の中にある、小さな違和感になんて。
ほんの僅かな齟齬なんて、無視してしまえば良いのに。私はどうも、敏感すぎるようだ。
思えば小さい頃から、見なくて良いものばかり見てきた。こっちが気付くと
――別にこの家が嫌な訳じゃない、むしろ住みやすいくらいだ。ただ住人たちが揃いも揃って気づきもしないからか、
まあ頻度はそこまででもないし、出てくるのは台所やリビングだけ。私の借りている部屋とかお風呂とか、……御手洗いとかに現れた事はない。その辺は紳士的なんだろうか、一応プライバシーには配慮してくれているっぽい。……そもそもの時点で、出てこないで欲しいんだけど。
しかしああいうのに全く影響されない辺りが、大喜くんの良さなんだろうな。いつも真っ直ぐ、脇目も降らず突き進む。羨ましいな、若いって。いやまあワタクシだって若いんですけどね、ハイ。
お風呂から上がって、大喜くんに声をかけて寝る。それが日々のルーティンになって久しい。
思えば同居初日に「部屋に上がるついでで良いから、風呂入れって大喜に言っておいて」と由紀子さんに言われて以来、殆ど毎日だな。通り道だし、大した手間でもないけど。
でもなんとなく、そのルーティンを崩してみようと思ったりもする。
大喜くんは、オトコノコなんだし。お部屋で一人で、…………そういう…………事をしているかもしれないんだけど。でもなあ、大喜くんって恥ずかしがる顔も可愛いからなあ……。
ちょっとした茶目っ気、それだけを胸にドアノブへと手を伸ばそうとした。
その、瞬間。
『&@'369。69$7:@82@』
一瞬早く黒い
『'@&@-@6@82@、'@5@$9::&9:8:@%@8』
言っている言葉は分からない、理解したくもない。だから反応するな、私の身体。
気付かれる。気付いている事を、気付かれる。
ごくごく自然を装って手をノブから離し、ドア本体へと向け直してノックを三回。
「大喜くん、お風呂開いたよー」
動揺を隠しながらそう告げて、そのまま返事を待たずに部屋へ。なにも起きない、起きていない。いつものルーティンを確実にこなすだけ。
――そう、それだけで良い。そう思いながら部屋に入って、ドアを閉めたそのまま。私は膝から崩れ落ちていた。
なんとか這いずるようにベッドへ潜り込み、フルガード状態で心の底から息を吐く。
怖い。ホント怖い、何あれ。
いや私が余計なこと考えたせいかもしれないけど、だからってあんなのは出てこないで欲しい。
「……ふぅ」
いつかは慣れるだろうか、でも慣れる頃にはもう出ていかないといけないんだろうな。私はこの家にずっと住む訳じゃないんだし。
ほんの僅かな期間いるだけの居候をからかって、どうするんだろうか。まったく、さ。
壁越しに大喜くんの気配を感じながら、私は目を閉じる。
私を追い出そう、という意思は感じない。よそで見かける連中よりかは、よっぽど穏やかだ。でもこの先私が、このまま住み着いたら。猪股千夏になったら、この人たちはどうするんだろう。いっそ歓迎してくれたりするかな。
思えば急に出てきたり話しかけてきたりするけど悪意はなさそうだし、単に「新しい家族」を値踏みしているのかもしれない。
長い付き合いになってみたら、意外と良い人たちだったりしてね。……「人」ではないか。
まあ、良いや。考えてどうなるものじゃない、これからも見えないふりを続けるだけだ。
見なくて良いモノは見ない、そんな暇は無いから。
明日も頑張れ私、御疲れさんお休みなさい。
……明日は余計なものを見ませんように……。
『88$969:3』
『569559&@$3、+@%@57&@$3&9』
『969'3:8$853-9%882@』
『'@&@-@6@82@69』
ちなみに、一応法則性はあります。
大した事言ってませんけどね。