折れて曲がって、それでも芯は変わらない。
もがく果てに見えるのは光か、はたまた。
その裏側に、何が見える。
――少しずつ、自分が研ぎ澄まされていく。
一度転倒して仕切り直せたせいか、絡み付いていた悪寒は消えていた。目の前に集中し、雑音を削ぎ落とす。
そのお陰かガチガチに力んでいた身体は適度に脱力し、次第に練習通りのフォームが出せるようになっていく。そう言えばこの前兵藤さんに、「余裕無くなると、力む癖有るよね」って言われたな。そこを直せばもう少し点とれたかも、とも。勝てるかもとは言わない辺り、あの人の目は確かだな。
遊佐くんは、本当に強い。追い縋る事さえ簡単じゃない、気を抜けばこのまま2セット目も容易く取られてしまうだろう。
なのにどうしてだろう、悪い予感がしない。ラリーの果てに体力は削られ、足の痛みも残っている。公式戦でもなんでもない練習試合なんか逃げ出したっていい、それでも。それでも俺は、立ち向かう。
バドが好きだから、そして。逃げ出す姿なんか、見られたくないから。
こんなにも真剣に打ち込むようになって、一年も経っていない。きっと遊佐くんはジュニア時代からずっと積み上げてきている、努力の量でも質でも敵うわけがない。そんなの、痛いくらい分かっている。
全力で取り組みだして俺は知った、周囲の人たちのスゴさを。俺がただ楽しいからと続けている横で、必死にもがいている人たちがいることを。勝ち目なんか無い、俺なんか足元にも及ばない。だけど俺は、そこに挑んでいくんだ。
憧れている人がいるから、少しでもあの人に近付きたいから。
千夏先輩が、好きだから。
俺は知っている、千夏先輩がどれほどの覚悟で戦っているか。あの人は家族と離れ、たった一人で赤の他人に囲まれて生きる道を選んだ。夢を果たすため、自分が自分であり続けるために。
千夏先輩が進んでいく先は、順風満帆なんかじゃない。でも嵐の中へと駆け出すその足は、決して止まらない。幾つもの願いを背負い、焔のように熱く咲き誇る。例え敗北しても絶望に沈んでも尚、歯を喰い縛って立ち上がる。この世の何もかも、あの人の道を阻むことなんか出来やしない。
目が潰れそうな程、眩く気高い。あんな風になりたい、あの人を支えられるくらい強くなりたい。
確かに俺は弱くて、情けなくて、あんなに輝いてる人の側にいる資格なんか無いかもしれない。
「んぐ……っ」
改めて込み上げてきた自分の弱さを、噛み潰して飲み下す。だからどうした、と。
今が
千夏先輩が、見ている筈なんだ。負けるにしても、無様に負けてられるかよ。
格好くらい、つけないとな。俺だって男の子なんだから、さ。
遊佐くんの顔からは余裕が薄れ、表情も軋み出している。
俺も俺でボロボロになっているけど、それでもラケットを振るう。卑屈で内罰的な、もう一人の俺が投げ掛ける言葉を打ち砕くように。
俺なんかが千夏先輩を好きになって良いのか。
――良いに決まってる。好きになるのに、資格なんかいるか。
俺なんかが千夏先輩に憧れて良いのか。
――何が悪いんだよ、俺は千夏先輩に逢って変わったんだ。
俺なんかが千夏先輩を励ませる立場か、何様のつもりだ。
――知ったことか、そんなもん。大好きな人の力になりたいと思うのが、悪いことだとでも言うのか。
行く手を遮るものは全部叩き潰して、俺はひたすら突き進むだけだ。バカを舐めんな、死ぬまで止まらないのがバカなんだぞ。
今動かなくなるようなら、こんな身体はいらない。
まだまだ、俺は負けていない。
なら、行ける。
心は折れていない、いくらでも突き進んでやる。
もっと強く、もっと熱く。もっともっと、激しく。
胸に燃える思いを、そのまま乗せて俺は。
「いけっ大喜っ!」
――全力で、ラケットを振り下ろしていた――。