かなりのご都合主義になっているのですが、書いてる人間のINTが低いので、勘弁して下さい。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
眠っている少女と、預かりの少女たちの分のミルクを温めていたら、小さな音を立てて扉が開く。振り替えれば、望月が顔だけだして此方の様子を伺っていた。
「伊達君、眠っている子たちの着替えの手伝いは終わったけれど、何かすることある?」
「なら、マグカップを人数分用意してもらえるか? そろそろいい温度になりそうなんだ」
「うん」
返事と共に部屋に入ってくると、戸棚からマグカップを取り出して机の上に置いてくれる。
今日の預かりは白妙ちゃんとオルトレマーレ君に今井さんの買い物についてきた澪標ちゃんだ。オルトレマーレ君は海を克服し、一緒に海外に出掛けられるようにはなったが、船はまだ駄目らしい。まぁ、一度枯れかけているからな、そんなに簡単に全部平気とはならんだろう。
温かいミルクを注げば、トレーも用意していてくれた望月が、白妙ちゃんたちの分を載せて持っていってくれたので、俺は眠っている少女たちを担当する。チラリと横目で窺えば、白妙ちゃんたちは素直に受け取っていた。ちゃんと、目の前にいるのが望月だと解っているらしい。ただ、何で大人になっているかまでは理解していないそうだ。望月も「私たちは普通、大きくならないから」と言っていたから、観用少女の中の常識には当てはまらないのだろう。
マグカップを回収して洗っていると、望月も戻ってきたので声をかける。
「どうする、ここで飲むか?」
「時間あるし、そうするね」
「解った、終わったら用意するからちょっと待っていてくれ」
「それなら、後は私がやっておくよ」
「そうか。じゃあ頼むな」
場所を変わって俺はもう一度ミルクを温めると、タブレットで見ていた映画で流れた歌を楽しそうに歌っていた。何か、育ってからまた新たな一面が見えてきたな。
「お待たせ」
「ありがとう」
大きめのマグカップに、なみなみとミルクを注いで渡してやれば、一気に飲み干して、ひかえめな微笑を浮かべる。この一連の動作は、少女時代から変わっていない。
成長した望月だが、大人になったからといって『人間』になったわけではなく、観用少女は観用少女のままだ。なので食事の主役は変わらずミルク、人の食事も出来ない事もないが、あまり食べすぎると気分が悪くなるらしい。
望月が育って海に出かけた日、店長に自慢もとい報告に行ったら、店長も馴染みの職人さんに訊いてみてくれたようで、次の日に仕事に行ったら色々と教えてくれた。
ざっくり言えば、望月の状態は『変質した観用少女』だそうだ。食事は観用少女のままだが、大人になった分少女よりも丈夫になったので、多少なら人の物を食べても平気になったし、服なんかもそんなに高い物じゃなくてもよくなったそうだ。とはいえ、こんなに綺麗な顔した望月に特売のダサTを着せる気はさらさらないが。
「今日はこれでお仕事終わり?」
「あぁ。けど、池田さんが白妙ちゃんの服買いに行きたいから、望月と一緒についてきてくれないかって頼まれてる。いいよな?」
「ミルクは飲んだから私はいいよ」
「ついでだし、衣類で欲しい物あるか?」
「それなら……帽子が欲しいなぁ。今外でる時に被ってるの、海に行く時に買ってもらったのだし」
「言われてみればそうだな、解った」
連れて歩いても、観用少女時代のような好奇や不躾な視線は向けられなくなったものの、美少女っぷりは変わらない(ある意味増したかもしれない)ので、人目を引くのは変わっていない。綺麗すぎて躊躇するのか、声をかけられることはないが、向けられる強い視線は正直面白くないので、海に行く途中にストローハットを買って被せたのだ。ジロジロ見られるのは、望月もいい気分がしなかったようで、以来出かける時は深目に帽子を被っている。
そこまでやれば、態々顔を覗き込もうとするような奴はいないし、この店も気軽に入れるような金額の店じゃないので「美人の名物店員」を見にやってくるようなのもいない。平和なもんだ。
そういえば、海に行った日に今の望月の写真を蒲生たちに送ったら、全員判を押したみたいに「一生推せる」と返してきたんだよな。どうやらミルクに関しては、アイツらに任せておけば困ることはないようだ。
「今日もいい買い物ができましたよ。ありがとうございます、店長さん」
「こちらこそ、いつも贔屓にしていただき感謝しております、今井様」
商談室の扉が開き、店長たちが戻ってくると、ぬいぐるみを抱えてぼんやりしていた澪標ちゃんが、微笑みながら今井さんの元へと歩いていく。今井さんもそれに気がつくと、しゃがみこんで来店した時には持っていなかった小袋を渡してあげている。またお高い物を買われたんだなぁ、とやりとりを眺めていれば、今度は二人してこっちにやってきた。
「やぁ、望月ちゃん久しぶり。話には聞いていたけれど、本当に綺麗になったね」
「今井さん、ありがとう」
「あぁ、そうだ伊達君。買い取らせてもらった『天国の涙』なんだけれど、早速三つも売れてね。顔見知りの宝石商なんだけれど、買い取った額の三倍程度の金額を提示してみたら即決してもらえたんだ。いい取引だったよ、望月ちゃんはもう泣かないと思うけれど、また『天国の涙』が手に入ったら声をかけてもらえると嬉しいよ」
「へぇ……三倍……へぇ……」
『天国の涙』が、観用少女本体よりも高額になる理由が、少し解った気がする。貴重、というだけじゃないんだな、きっと。
いいなとは思うものの、だったら俺が買取金額の三倍で捌けるかと言えば答えはノーなので、深く追及するのは止めておく。特別な事をせずに大金が手に入ったという事実だけを喜んでおけばいいんだ、それ以上求めてはいけない。
「それにしても、二人とも以前以上に仲睦まじい。式をする時は澪標共々、必ず呼んで下さいね」
「いやぁ……出来ればいいんですけど……ね」
苦笑いしながら今井さんの言葉を受け止める。俺と対等になりたいという思いだけで、枯れる危険を冒してまで成長してくれた望月の為、何よりも責任とりたい自分自身の為に、籍をいれたいんだが、さっきも言った通り望月は観用少女だから、身分証明できるようなものがないのだ。
蒲生たちからは「指輪を交換して、ちょっと高めのレストランかなんかで、二次会擬きのパーティーで充分じゃないか? 俺たちも参加して祝福するぞ」と言われているんだが。
なんというか……人じゃないからこそ、公共からの証拠というか証が欲しいというか。無い物ねだりをしている自覚はあるんだが、こればっかりはどうもな。
と、そんな事をぼんやりと考えていたら、オルトレマーレ君が手をソワソワし出す。帰ってきたんだな、とドアを見れば勢いよく扉が開き、オルトレマーレ君お待ちかねの村上さんが、池田さんと一緒に入ってきた。
「たっだいまー、オルトレマーレ♡ 四日間良い子にしてた?」
村上さんが笑顔で両手を差し出すと、飛び込むように抱きつくオルトレマーレ君。帰ってくると何時もこれだ、最初は感動の再開だなって見ていたんだが、最近はもうペットホテルに迎えにきたご主人とワンちゃんにしか見えなくなってきた。
「すまない伊達君、買い物に付き合って貰うことになって」
「構いませんよ、俺も望月に買ってやりたいものがあるんで」
「白妙を連れていくと、視線が結構痛くてな。望月ちゃんがついてくれていれば、そんなに気にならないし。本当は楓にきてもらう予定だったんだが……どうにも都合が合わなくて」
頭を下げてくる池田さん。因みに楓さんというのは、最近できた彼女だそうだ。なんと、以前行ったオランピアのパーティーで知り合ったのだとか。俺が望月と展望室で景色を眺めている時に、いい感じになっていたんだろう。白妙ちゃんも、きちんと懐いてくれているようなので、その内に同棲したりするんじゃなかろうか、いいことだ。
「あっ、そうだ伊達君」
「はい?」
ぎゅうぎゅうとオルトレマーレ君を抱き締めていた村上さんが、突然話しかけてきた。何かいいことがあったのか、何時も以上に満面の笑みだが……俺何かしたか?
「会社で付き合いのある弁護士に、伊達君と望月ちゃんの事を話したのよ。そしたら彼、望月ちゃんの気持ちに凄い感動したって言っててね」
「はぁ」
「今度、店に来て望月ちゃんに会ってみたいって五月蝿いんだけど……いい?」
「別に構いませんよ。この店は見学だけもOKですし、俺もそこまで望月を気に入ってもらえるのは嬉しいですし。望月も問題ないよな」
「うん」
「ありがとうー、連絡すれば直ぐに都合つけてくると思うから。ああ、それとね」
ここでまた、村上さんがニッコリと笑う。
「彼ね、望月ちゃんを養子にしたいとも言ってたの。どうする?」
「……え?」
「感動したって言ったでしょ? 現実は変えられなくても、書面上は人にしてあげたいんだって。そうすればほら、色々と便利じゃない」
「いや、凄く助かる申し出なんですが……ど、どうやって?」
「さぁ? 私の要求をちょっと無茶な方法でクリアしてくれる事もあるからちょっとグレーなやり方みたいだけれどね」
成る程、これも聞かない方がいいわけか。まぁ、いいや。
「なる早できてもらえると、俺が嬉しいです」
「任せといて」
「どうしたの? 伊達君」
「……近い内に『伊達望月』になれるぞ」
一瞬キョトンとした表情を作るが、直ぐに意味を理解したらしく、あの時海で見せてくれた極上の笑みを浮かべる。
「本当? 嬉しい」
……俺の敗因は、店長たちの前で言ってしまった事だろう。
「結婚おめでとう伊達君! 丁度『天国の涙』が二つ残っているから、それを使って指輪を作ったらいいんじゃないかな。価格は、買取の時と同額で構わないよ」
「え?」
「いいですね、今井様。ならば私は、知り合いの職人から腕のいい彫金師を紹介して指輪を作りますよ。何時ものように、ローンも受け付けておりますので」
「ええ!?」
「伊達君、ありがとう」
「ヴッ!」
その後、売らずに残しておいた『天国の涙』の存在を思いだしたものの、何だかんだでフルカスタムした自動車程のローンを組む事になった。今年中に返済終わると思っていたのに……。
更に数週間後、無事に養子になった望月が「結婚式のお金を貯めたい」と何故か耳掻き店で働きだそうとするのを止めるのに骨を折ることになる。
完結させた褒美として、感想や評価をいただけると大喜びします。
「伊達望月になりました、どうぞよろしくお願いします」