また君と、今度はずっと 〜If you can Cross to tomorrow〜 作:Simca Ⅴ
最後の方にアンケートありますのでよろしくお願いします。(古いアンケートは一つ除いて削除しました。話数のズレにどうして対応してないの……泣)
※2024年9月17日追記……クロススキッパーが来年以降の目標を口にする場面に大幅な修正を加えました。思えばクロススキッパーは(皐月賞を除くと)自身のレース人生にあまり目標を持たずに進んできたようなウマ娘です。なので、修正前のバージョンだと個人的にも「うーん……?」と思っていたところ、急にネオユニヴァースが降ってきましたのでこのようになりました……。
アイビスサマーダッシュでクロススキッパーが勝利する……より、約2ヶ月前。
『さぁ、今年も日本ダービーの季節がやってまいりました! クラシック三冠の一角を勝ち取るべく、18人のウマ娘たちが集いました!』
『皐月賞ウマ娘が不在となったダービーですが、たったそれだけで盛り上がりに欠けるわけではありません、ご覧ください、東京レース場の観客席とその歓声を。来場者数は去年を上回る13万人超。集まったメンバーも、誰がダービーウマ娘に輝いてもおかしくない実力者揃い。数多の重賞・修羅場を潜り抜けて、今日、ダービーの栄冠を掴むためにやってきた18人を紹介しましょう』
『1枠1番、サクラプレジデント。
『───2枠3番ゼンノロブロイ、今日は
『前走の青葉賞で重賞を初制覇。1番人気に負けず劣らない完璧な仕上がりに見えます』
『これまで青葉賞と日本ダービーを連続で勝利した経験のあるウマ娘は居ません。アイルランドの英雄の名を冠した彼女の目標はまさに、そのジンクスを打ち破る、勝利を目指したい、とゼンノロブロイ本人は出走前に意気込みを語っていました───』
『───今日の1番人気を紹介しましょう、7枠13番ネオユニヴァース! ゼンノロブロイと同じくチーム[キタルファ]からの参戦。チーフトレーナーからのオーダーは「お互い、徹底的にやれ」とのこと!』
『チームメイトとはいえ、ダービーの栄冠を掴めるのはたった1人! 激しく火花が散る予感がします……!』
日本ダービーの出走を控え、パドックに姿を現したウマ娘たち。
出走者本人の熱い思いや、彼女たちのトレーナーが提供したメッセージなどを交えて紹介する実況者。
……そんな実況を他所に。
地下バ道で、ネオユニヴァースとゼンノロブロイの2人の肩を軽く叩くウマ娘たちが。
「はい?……あっ」
「スキッパー……マヤノ……」
「やっほー」
「ネオユニちゃん、ロブロイさん、ここでなら確実に会えるってキタルファのトレーナーさんから聞いたんだ」
「マヤノもスキッパーちゃんも2人のことを応援したくて、思わず学園を飛び出してきちゃった」
府中にある東京レース場と中央トレセン学園は、ウマ娘の脚でなら10分掛からないような場所にある。
制服姿のマヤノトップガンとクロススキッパー。
一方でこの直後にレースが控えているネオユニヴァースとゼンノロブロイは勝負服姿であり、彼女たちの対比はより出走するウマ娘たちの勝負服姿を映えて見せていた。
「おや? クロススキッパーじゃないか」
「一体どこ行ったのかと思ったら」
そんな時、スキッパーは背後から声を掛けられ、マヤノと共に振り返ると、
「プレジデントさんに、プレンティさん、それにチャンプさん?」
勝負服姿で現れたのは、皐月賞でも競った3人のウマ娘。
サクラプレジデント、ザッツザプレンティ、そしてエイシンチャンプ。
「……私が言うのもアレだけど、何だか変な気分」
「え?」
「奇遇だなシャチョー。あたしもだよ」
「皐月賞をぶち抜かれたリベンジを
「……あれ? そういえばチキリテイオーさんは?」
「あぁ……あの子は出走要件が足りなくて……」
「……それよりも、スキッパーの次走がアイビスサマーダッシュって本当?」
「あ、はい」
「かぁー……マジか……じゃぁ菊花賞には出てこないのか……」
「は、はい……その……ごめんなさい……」
ザッツザプレンティと、エイシンチャンプから問い詰めるような勢いで次走の是非を問われたスキッパーは、思わず謝ってしまった。
そんな彼女に、サクラプレジデントは言った。
「……別に、謝ることはないんじゃない?」
「プレジデントさん……?」
「皐月賞を見た後だと流石に……ね」
「「ぐっ……」」
プレンティとチャンプはやや不躾に、同じクラシック三冠レースを舞台に再戦出来ないことへの失望を顔に出してしまったが、皐月賞でネオユニヴァース、そしてクロススキッパーとゴール寸前まで競り合ったサクラプレジデントが、そんな2人を嗜めるかのように睨みを効かせた。
「……トレーナーさん
クロススキッパーは、何とも言えない表情で、悔しさを滲ませながら、スプリント路線・マイル路線への進路変更の理由を口にした。
「ということは有馬も?」
「はい……やめとけ、って……」
「そう……か……」
ロブロイとネオユニヴァースも含めて、スキッパーが今年の有馬に出走しないことを残念がった。
「……お陰で、目標が飛んじゃったなぁ、ははは……はぁ……」
スキッパーはそう力無く笑うのみだった。
「皐月賞……そこまでして勝ちたかった……の?」
ネオユニヴァースにか細い声でそう問われた時、スキッパーも頷いた。
「あぁ……だから逃げを封印して、差しで奇襲を掛けてきたわけか……」
「あの戦術にはやられたよ……まさか本当に逃げ以外も出来るなんて」
「い、いえ、あれは本当に一回でも通用すればいいかな、って思いついた猫騙しみたいなもので……全然付け焼き刃でしたから……」
エイシンチャンプもザッツザプレンティも、サクラプレジデントですら、あれには虚を突かれた。
ただし、あれは自身のハンデを補って最後まで足を残すための「悪足掻き」みたいなものだった、とクロススキッパー自身も思っており、「ただの付け焼き刃」と言う。
そんなクロススキッパーに、ゼンノロブロイがこう問い掛けてきた。
「それならスキッパーさんの、シニア期1年目の目標は?」
「!」
「つまり、来年の……?」
ゼンノロブロイが言っていた事に、ネオユニヴァースもハッとする。一方でスキッパーは「今を考えるだけでも一杯一杯」といった様子だったが、
「……ローマ賞」
「え……?」
ネオユニヴァースが口にしたのは、
「ローマ賞って……イタリアG1の?」
「うん……ネオユニヴァースの目標は、そこだから。トレーナーと一緒に、ローマ賞を取りに行きたい。だから……」
それはつまり、
「……次に僕がネオユニちゃんと本気でやり合うなら、その舞台をローマ賞で、ってことだよね?」
そのクロススキッパーの問いに、ネオユニヴァースは、
「
首を縦に振り、そう肯定した。
そこでクロススキッパーの頭を過ぎったのは、暗く辛い記憶。
……しかし、
「……それなら、KGⅥ&QEにも挑戦してみようかな」
「「「「「!?」」」」」
その場にいる全員(ネオユニヴァースを除く)が、そんなクロススキッパーが口にした目標レースに目を丸くしたり、驚いたりする。
「あ、いや……挑むとしてもローマ賞の後ですよ? 流石に来年いきなりは怖いから……」
「はぁ〜……脅かさないでよ」
「……え?」
「え、じゃないだろ」
「そうそう。皐月賞みたいなことにまたなって欲しく無いもん」
「うんうん」
ホッとしたように、安堵のため息を吐いたのはサクラプレジデント。
その反応に「え?」とか言ったスキッパーにさらにツッコミを入れたのはエイシンチャンプ。
マヤノトップガンも心配そうな顔で「スキッパーがゴール後にまた倒れるような姿は見たくない」と言い、そして、ザッツザプレンティも深く頷いて同意した。
そんな談笑している彼女たちに、
「失礼します。出走する選手の方々ですか?」
彼女らに、やたらとガタイのいいURA職員が問いかけてきた。
「……はい、そうです」
「ご歓談中のところ大変申し訳ありませんが、もう
「「「「「!」」」」」
その「時間です」という言葉を耳にした出走者の5人は、ウマ耳をピンッとさせた。
「……すみません。すぐに行きますね」
「もうこんな時間か……」
「スキッパー」
「また後でな」
5人はマヤノとスキッパーに手を振りつつ、そう告げて各々、地下バ道を後にしてターフへと駆けていった。
「……僕らも観客席に行きましょうか」
「そうだね」
『さぁ、各ウマ娘ゲートに収まりまして体勢完了』
ガチャンッ、という音と共にゲートが開き、
『今、日本ダービーのスタート! 各ウマ娘たち好スタート、一斉にターフへ駆けていきます! 内枠のサクラプレジデントも好スタートを切りました。さぁ、先行争いですが』
桜色の勝負服を纏ったサクラプレジデント。1枠1番を得た長所を活かして内ラチのベストポジションを確保するが、黒と赤に金色を織り交ぜた勝負服を着たウマ娘に先を行かれた。そのすぐ後ろに、緑を基調とした勝負服を纏ったウマ娘───ゼンノロブロイが続く。
『ここでエースインザレースが先頭に立ちました。その後ろからはゼンノロブロイも早め早めに追随、外からは10番のコスモインペリアル、サクラプレジデントは内のほうで抑え目に4番……いえ、5、6番手の位置。差し脚が自慢のウマ娘ですが、今回は先行による早め早めのレースを進めています。さぁ、今日の1番人気ウマ娘、ネオユニヴァースはバ群の内側を通って、中団よりやや後方という位置取り。第2コーナーを曲がり、先頭はエースインザレース。大逃げは打たずに2番手ゼンノロブロイから2バ身の位置を先行。そのすぐ後方にマイネルソロモン、サクラプレジデントという展開で向正面に入っていきます』
エースインザレースといえば、ダートG2の兵庫ジュニアグランプリでクロススキッパーと先頭を争ったウマ娘だ。
そういえば、小倉ジュニアステークスで競い、皐月賞では一方的に挑戦状を叩きつけてきたチキリテイオーとも仲が良かったのだが。
サクラプレジデントは皐月賞で走る直前に、チキリテイオーに尋ねた。
「何故、クロススキッパーに執着するのか?」と。
するとチキリテイオーはこう答えた。
「私の親友を負かした、しかもあたしの庭で。だから絶対にあいつには勝つ……!」と。
遥か先頭を行くエースインザレースの姿を見て、サクラプレジデントの頭の中ではチキリテイオーが言っていたことと、逃げを打ち、内ラチのコースを一切譲らないエースインザレースの覚悟がようやく繋がった。
これは、リベンジなのだと。
例え、
……いけない。
何をやっているんだろうか……そんなこと考えてる暇などないはずだ。私だってダービーを勝ちたいんだ。
『13番ネオユニヴァースはサクラプレジデントから3バ身半ほどの位置に見えました。順位を振り返っていきます。依然先頭は7番エースインザレース、2番手にゼンノロブロイ。3番手にコスモインペリアル、内にサクラプレジデントが4番手に上がってきた。マイネルソロモン追走ですが、その外側をザッツザプレンティが突いて上がっていきます』
サクラプレジデントは自分のすぐ外側から赤と緑の勝負服を着たウマ娘が抜いて行こうとするも、さらにその外から蜂のような色合いの黄色と黒の勝負服を着たウマ娘が自分たちを抜き去っていくのが見えた。さらに、自分のすぐ後ろには赤と黒の勝負服を着たウマ娘が迫ってきていた。
『そのすぐ後ろ、内側からはエイシンチャンプが行こうとしています。その外からは6番のスズノマーチ、9番タカラシャーディーが続きます。さらにはスズカドリーム、外外からはさらにマーブルチーフ上がろうとしています。その間に挟まりました8番のラントゥザフリーズ。そして13番のネオユニヴァースはここにいます。ネオユニヴァースはここ。サイレントディールと並んで行ってる。インコースから追走中なのは4番のチャクラ。そして外目を突きまして11番のリンカーンが続く。ネオユニヴァース、徐々に前へと詰めて行ってる』
その実況が流れた時、正面中央モニターに映し出されたレースの中継映像では先頭集団が第3と第4コーナーの間にある大欅を超えていく姿が堂々と見えていた。
一方、サクラプレジデントは一瞬後ろを振り返るが、
「!」
ネオユニヴァースはかなり後ろの方で、バ群に埋もれているように見えた。
(もらった……!)
そう思ったサクラプレジデントは最後の力を振り絞ってラストスパートに入っていく……のだが。
『さぁ、第3から第4コーナーに向かいます、先頭はエースインザレース。しかし、後続のウマ娘たちも追い縋る、ゼンノロブロイ、ザッツザプレンティが徐々に距離を詰めていく。エースインザレース、内ラチコースを維持したまま最終直線へと入るが、他のウマ娘たちも外から仕掛けに行く! 内からエイシンチャンプも追走していく!』
「行け!!」
「そこだ!!」
ダービーに出走しているウマ娘たちが最終直線に入ると、観客席もヒートアップする。
ここでサクラプレジデントは目の前に見えた光景に動揺した。
それと同時に、自分自身が視野狭窄に陥っていた事実にようやく気付く。
何故なら、最終直線に入った途端にバ群が解けて、
『最終直線でバ群が広がる! 内からはエースインザレース、追走するエイシンチャンプ! 外側からはゼンノロブロイとザッツザプレンティ! サクラプレジデントはそのすぐ後ろ、すぐ後ろだが、バ群の真ん中から
「……っ、ちくしょー!!!」
ネオユニヴァースを行かせまい、ダービーウマ娘にしてなるものか、ダービーウマ娘になるのはこの私だ……! サクラプレジデントは自分自身にそう言い聞かせるように脚を限界まで回すが、流れる金色の髪のウマ娘には全く追いつけない、どころかどんどんと離されていく錯覚を覚えた。
『残り200を切った、ネオユニヴァース先頭、ネオユニヴァース先頭! ゼンノロブロイ追い縋って粘っている、ザッツザプレンティ、外からザッツザプレンティ3番手! しかし先頭はネオユニヴァース、ネオユニヴァースです、ネオユニヴァース先頭で今ゴールイン!!』
「わあぁぁぁーっ!!」
『やりましたネオユニヴァース、皐月賞での惜敗を乗り越えて今年のダービーウマ娘の栄冠を手にした! 2着ゼンノロブロイ、3着ザッツザプレンティもよく頑張った、今、観客席から溢れんばかりの拍手が響きます!』
ゴール板を駆け抜けたネオユニヴァースは観客席に手を振りながらウイニングランをする。
そんな時、ネオユニヴァースと、観客席にいたクロススキッパーの目が合った。
すると、
「イェーイ」
観客席からの歓声と、コースまでの距離によってかき消されてしまうような声ながらネオユニヴァースはそう呟きつつ、手を振るのをやめて、今度はガッツポーズをした。
そのガッツポーズは明らかに、クロススキッパーに対して向けられたものだった。
……それを側から見たサクラプレジデントとエースインザレースたちは、もはや自分たちがネオユニヴァースの意識の外に追いやられてしまったことを痛感した。